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カテゴリー「地球へ…」の記事一覧

(自らの命を犠牲にして、メギドを止めたのか…)
 ソルジャー・ブルー、とキースの心を占めるもの。そう、今も。
 メギドを失い、グレイブの艦隊に残存ミュウの掃討をするよう命じたけれど。
 その時からの思いで、今も消えない。
 自室に引き上げ、こうしてシャワーを浴びている今も。
 グレイブが指揮する艦隊とは別に、こちらの船はジルベスター・エイトから離脱中。
 ミュウどもが「ナスカ」と呼んでいた星、ジルベスター・セブンも遠ざかりつつあるけれど。
 ジルベスター・セブンは砕けて、跡形も無いのだけれど。
(…ソルジャー・ブルー…)
 もういない、伝説のタイプ・ブルー。…タイプ・ブルー・オリジンと呼ばれた男。
 自分が彼を撃ち殺したと言っていいのか、それとも成し遂げられなかったか。
(これで終わりだ、と…)
 撃ち込んだ弾は、彼のシールドを突き抜けて右の瞳を砕いた。
 あれで終わりだと思っていたのに、倒れなかったソルジャー・ブルー。
 代わりに起こしたサイオン・バースト、噴き上げるように広がり始めた青い光の壁。
 危うく、それに…。
(巻き込まれていたら、今頃、私は…)
 生きて此処にはいなかったろう。
 サイオンの光に一瞬にして焼き尽くされたか、あるいは意識を失ったのか。
 もしも、あそこに倒れていたなら、自分の命は無かった筈。
 メギドの制御室は、そういう所だから。
 発射される時に其処にいたなら、命が危ういエネルギー区画。
 それが常識、だからマツカは「行っては駄目です」と止めにかかったし、後を密かに…。
(つけて来ていたから、私を救い出せたんだ…)
 サイオンの光に巻き込まれる直前、走り込んで来た忠実なマツカ。
 彼が自分を抱えて「飛んだ」。
 瞬間移動で、制御室からエンデュミオンの艦内まで。


 そうして辛くも救われた命。
 自分の命がどれほど危ういものであったか、嫌と言うほど思い知らされた。
 残党狩りを命じた後に、「部屋に戻る」と戻って来たら。
 酷く疲れを覚えていたから、気分転換に浴びようと思った熱いシャワー。
 バスルームの扉を開けた途端に、其処の鏡に映った自分。
(セルジュたちにも見られたな…)
 煤まみれになった、あの顔を。
 けれど彼らは、「ソルジャー・ブルーと死闘を繰り広げた結果」なのだと思っているだろう。
 戦いの最中に起こった爆発、その時に浴びた煤なのだと。
(…それならば良かったのだがな…)
 生き残ったことを誇れもするし、死の淵からの生還の証と言えるのだから。
 メギドを失ったほどの爆発、それを食らっても「生き延びる術」を持っていたのだと。
(…だが、実際は…)
 マツカが助けに来なかったならば、失われていた自分の命。
 本当に命の瀬戸際だったと、顔についた煤が示していた。
 間一髪で救われただけで、そうでなければ失くした命。
 サイオンの光に焼かれて死んだか、あるいはメギドの発射で命を落としたか。
 どちらにしたって、生き残れていたわけがない。
 いったい自分は何をしたのか、どれほど愚かだったのか。
 それを突き付けられたのが鏡、其処に映った煤まみれの顔。
 「これがお前だ」と、「お前がやったことの結果がこれだ」と。
 マツカがいなければ死んでいたのだと、「なんと無様な姿なのだ」と。
 煤まみれの顔が映っているのは、生きて此処にいる証拠だけれど。
 その命は何処から拾って来たのか、ちゃんと自分で守ったのか。
 答えは「否」で、一人だったら失くした命。
 瞬間移動など出来はしないし、きっとメギドの制御室で。
 ソルジャー・ブルーと共に倒れて、それきりになっていたのだろう。
 「アニアン少佐は戻らなかった」と報告されて。


 元より、命が惜しくはない。
 軍人なのだし、惜しいと思ったことさえも無い。
 ただ、その「命」の失くし方。…何処で失くすか、どう失くすのかで違う価値。
 命を捨てた甲斐があるなら、軍人冥利に尽きるのだけれど。
 何の成果も上げることなく死んでいったら、それは無駄死に、犬死にでしかない。
 いくら「名誉の戦死」でも。
 作戦中の死で、二階級特進になったとしても。
(…まさに無駄死にというヤツだ…)
 あそこで死んでいたのなら。
 ソルジャー・ブルーに巻き添えにされて、命を失くしていたのなら。
 自分が死んでも、何の役にも立たないから。
 この艦隊の指揮官の自分、それを失くしてきっと混乱したろう「その後」。
 セルジュが代理を務めるとはいえ、彼も詳しくは知らない作戦。
 「目的はミュウの殲滅」だという程度しか。
 如何にセルジュが副官だとしても、伝えられない軍事機密も多いのだから。
(それなのに何故、私は、あの時…)
 ソルジャー・ブルーが来たと知った時、制御室へと行ったのか。
 彼を狩ろうと考えたのか。
 「仕留めてやるのが、狩る者の狩られる者に対する礼儀だ」などと格好をつけて。
 伝説の獲物が飛び込んで来たから、それを仕留めに行ってくる、と。
(保安部隊では、太刀打ち出来ない相手だが…)
 ただの兵士では歯が立たないのがソルジャー・ブルー。
 自分は身をもって知っているから、ミュウどもの船で負け戦を味わわされたから…。
(今度は勝ちたかったのか?)
 ミュウの船ではなく、自分の船が戦場だから。
 より正確に表現するなら、自分の船とドッキングしているメギドを舞台に戦うのだから。
 「今度こそ勝つ」と思っただろうか、それが出掛けた理由だろうか?
 ソルジャー・ブルーの覚悟のほども知りたかったし、見届けたくもあったから。
 「お前は、どれほどの犠牲を払える?」と。


 そうして出掛けて行ったメギドで、またも無様な負け戦。
 傍目には「勝ち戦」だけれど。
 セルジュたちも、きっとグランド・マザーも、そうだと思うだろうけれど。
(しかし、自分を誤魔化すことは…)
 けして出来ない、勝ち戦だなどと思えはしない。
 マツカが自分を救いに来たこと、それを誰にも漏らさなくても、自分自身は誤魔化せない。
 あそこでマツカが来なかったならば、失くした命。
 それも犬死に、何の役にも立ちはしない死。
 艦隊が無駄に混乱するだけ、指揮官が死んでしまっただけ。
 「名誉の戦死」で、「ソルジャー・ブルーと死闘を繰り広げた末の最期」でも。
 ソルジャー・ブルーと共に散っても、皆が自分を褒め称えても…。
(…私の死などは、それだけのことで…)
 実際の所は、狩るべき獲物に返り討ちにされただけのこと。
 ソルジャー・ブルーに巻き添えにされて、命を失くしてしまっただけ。
 彼を狩ろうと考えたから。
 「今度こそ、私が勝ってみせる」と、自分の誇りにこだわったから。
 いくら伝説のタイプ・ブルーでも、「今度はそうそうやられはしない」と。
 二度も負け戦でたまるものかと、「来たことを後悔させてやる」と。
 相手はミュウで、宇宙から排除されるべきもの。
 撃ち殺してやれば自分の勝ちだし、反撃されても「今度は勝つ」。
 メギドが発射されてしまえば、彼が来た意味は無くなるから。
 ソルジャー・ブルーは「狩られるために」飛び込んで来ただけのことになるから。
 飛んで火にいる夏の虫だし、彼を殺せば自分の勝ち。
(…まさか、サイオンをバーストさせるなど…)
 まるで思いはしなかった。
 サイオン・バーストを起こしたミュウを待つものは、「死」のみ。
 命を捨てる覚悟が無ければ、サイオンを全て放出するのは不可能だから。
 そんなミュウなど、見たことがない。
 聞いたことすら一度も無かった、死への引き金を自ら引いたミュウの話は。


 きっと最初から、ソルジャー・ブルーは命を捨てる気だったのだろう。
 生きて戻ろうとは微塵も思わず、ただ一人きりでやって来た。
(たまたま、私に遭遇したから…)
 何発も弾を撃ち込まれた末の死だったけれども、そうでなくても死んだのだろう。
 メギドもろとも、命を捨てて。
 持てるサイオンを全て出し尽くして、メギドそのものを道連れにして。
(…そしてあいつの思い通りになったというわけだ…)
 メギドは沈んで、ミュウどもの船はワープして逃げた。
 ソルジャー・ブルーは仲間を救った、自らの命を犠牲にして。
 あの船に乗っていた仲間を守って、宇宙に散ったソルジャー・ブルー。
 彼が守ったのはミュウの仲間と、その未来。
 逃げ延びたならば、巻き返しのチャンスもあるだろうから。
 場合によっては、ミュウの勝利もまるで無いとは言い切れないから。
(…あいつは無駄死にしなかった…)
 無駄死にどころか、万が一、ミュウが勝利した時は、どれほどの価値があることか。
 ソルジャー・ブルーが捨てた命に、仲間のために払った犠牲に。
 それに引き換え、自分はといえば…。
(…マツカが助けに来なかったなら…)
 犬死にだった、と情けない気分。
 またしても自分は負けたのだろう、ソルジャー・ブルーという男に。
 もう永遠に前に立ってはくれない男に、逝ってしまって「二度と戦えはしない」相手に。
 それを思うと、もう見たくもない自分の顔。煤まみれになっていた時の顔。
(…煤と一緒に、何もかも洗い流せたら…)
 ソルジャー・ブルーに負けたことまで、洗い流してしまえたら、と浴び続ける水。
 熱いシャワーを浴びるつもりで来たというのに、水しか浴びる気になれない。
 犬死にしかけた愚かな自分を、ソルジャー・ブルーに負けた自分を、流し去りたい気分だから。
 水ごと全てを洗い流せたら、きっと元通りの自分が戻って来るだろうから…。

 

          永遠の敗北・了

※なんだってキースは「ギリギリまで粘って」撃ち続けたのか、未だに疑問な管理人。
 とりあえず今はこんなトコです、考え方としては。結果だけを見ればブルーの勝ちだ、と。







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(全ての者が等しく地球の子ね…)
 そして仲間だと言われてもね、とシロエが浮かべた皮肉な笑み。
 E-1077に連れて来られて、もうどのくらい経ったろう?
 けれど未だに出来ない仲間。いない友達。
(欲しいとも思わないけどね?)
 ぼくの方から願い下げだよ、と思う「仲間を作る」こと。
 それに「友達」、どちらも要らない。
 手に入れたいとも思いはしないし、いつでも一人きりの自分。
 何処へ行っても、何をする時も。
 一人で暮らすよう定められた個室、それ以外の場所にいる時も。
(みんな、嫌いな奴ばかりだ…)
 初対面の時からそういう印象、だから誰とも繋がらない。
 チームを組むよう強制されたら、仕方ないから従うけれど。
 くだらないことで減点などはされたくないから、組んでおくチーム。
 けれども誰の指図も受けない、自分からだって指図はしない。
(どうせ、どいつも…)
 機械の言いなりになった人間、全ての者たちが等しく「地球の子」。
 生まれ故郷で育ててくれた両親よりも、マザー・イライザを選んだ者。
 それが「地球の子」、どうやら此処では。
 他の教育ステーションでも、基本は同じなのだろう。
 其処を治めるコンピューターを、親の代わりに慕う者たち。
 そういう人間が「地球の子」ならば、自分は「地球の子」でなくてもいい。
 どうせ地球には幻滅したから。
 地球に行くには、大切な過去を捨ててくるしか無いのだから。


 ネバーランドよりも素敵な場所だ、と父が教えてくれた「地球」。
 「シロエなら行けるかもしれないぞ」という父の言葉で、胸が躍った。
 きっと行こうと、いつか必ずと。
 そうすれば父も喜ぶだろうし、母も喜んでくれるだろうと。
(…なのに、地球って…)
 地球に行くための第一段階、エリートが行ける教育ステーションに入ること。
 自分の夢は叶ったけれども、あまりにも大きすぎた代償。
 夢の星の地球に行き着くためには、支払わねばならない「過去」という対価。
 子供時代を、育った故郷を、両親のことを忘れること。
 自分の過去を捨て去ること。
 それが地球への第一歩だった、何も知らずに憧れたけれど。
 其処へ行きたいと願ったけれども、支払わされてしまった対価。
(…パパ、ママ…)
 顔だって思い出せやしない、と唇をきつく噛みしめる。
 故郷の景色もぼやけてしまって、本物かどうか怪しいもの。
 その上、忘れてしまった住所。
 子供だった自分が住んでいた家、其処の住所が思い出せない。
 文字を初めて覚えた頃には、得意になって書いたのに。
 アルテメシアのエネルゲイアの、その先までもスラスラと。
 けれど今では書けない住所。
 手さえも覚えていてくれなかった、あんなに何度も書いていたのに。
 幼かった自分が繰り返し書いて、両親に見せては自慢したのに。


 過去を失くしたと気付かされた時、もう此処に来る船にいた。
 ピーターパンの本だけを持って、他の何人もの候補生たちと。
 此処に着いたら、行くように言われたガイダンス。
 その時に映し出された映像、この世界のシステムを解説するもの。
 養父母たちの姿も映っていたのに、「パパ」や「ママ」と口にする者もいたのに…。
(全ての者が等しく地球の子…)
 そう聞かされた途端、誰もが変わった。
 促されるままに手を取り合って、和やかに始まった自己紹介やら会話やら。
 誰一人として、もう両親を思い出そうとはしなかった。
 育ての親より仲間が大切、此処で友達を作ることが大切。
 アッと言う間に出来たグループ、そうでなければ二人組とか。
(でも、ぼくは…)
 入りそびれた「地球の子」たちの輪。
 何故だか「違う」と思ったから。
 自分は彼らと同じではないと、「地球の子」とやらにはなれそうもない、と。
 あの時、心が求めていたのは映像の中にいた養父母たち。
 彼らの姿は、何処もぼやけていなかったから。
 今はぼやけて思い出せない、自分を育てた両親の顔。
 父が、母の顔が、あの映像のように鮮やかに思い出せたなら、と願っただけ。
 どうして映像の養父母たちは「違う人」なのかと。
 彼らの代わりに「父」を、それに「母」の姿を、映して見せて欲しかった。
 そうしてくれたら、二度と忘れないのに。
 ほんの一瞬、映し出されただけにしたって、生涯、忘れはしないだろうに…。


 映像の中には「いなかった」両親、多分「映っていなかった」故郷。
 其処に焦がれて、焦がれ続けて、今も入れない「地球の子」たちの輪。
 入りたいとさえ思わないけれど、こちらから願い下げだけど。
(…あんな連中と一緒だったら…)
 きっと、こちらまで毒される。
 「朱に交われば赤くなる」という言葉通りに、自分自身も染まってしまう。
 機械の言いなりになって生きる姿に、過去の自分を捨ててしまった人間たちに染まってゆく。
 自分でもそうとは気付かない内に、じわじわと毒に侵されて。
 毒を少しずつ摂取したなら、毒が効かなくなるのと同じ。
 いつの間にやら「これは毒だ」と思わなくなって、気付かないままにすっかり「地球の子」。
 両親を、それに故郷を忘れて、マザー・イライザを母と慕って。
(…そんな風になるくらいなら…)
 独りぼっちで生きる人生、そちらの方がよっぽどマシ。
 友達が一人もいなくても。
 「仲間」と呼べる者もいなくても、チームメイトの中でさえ孤立していても。
 それが自分の生き方なのだし、寂しいと思うことはない。
 一人きりの日々に満足だけれど、ふとしたはずみに思うこと。
 自分は昔からそうだったのかと、故郷での自分はどうだったかと。
(エネルゲイアの学校だって…)
 此処と同じに、大勢の同級生たちがいた筈。
 彼らの中でも一人だったかと、自分は孤独だったのかと。
 友を作りはしなかったのかと、「友達」は誰もいなかったのかと。


(ぼくの友達…)
 両親さえも覚えていないし、友達の顔を覚えている筈もないけれど。
 きっとそうだと思うのだけれど、どうしたわけだか、次々と頭に浮かぶ顔。
 それに名前も、時には何処のクラスの子かも。
(…全ての者が等しく地球の子…)
 そのためだろうか、友達の記憶がまるで消されていないのは。
 何処かで彼らと出会った時には、もう一度手を取り合えるように。
 「また会えたな」と、「久しぶりだ」と。
 同じ故郷で育ったのだと、また友情を築けるように。
(…余計なお世話って言うんだよ…)
 こんな記憶がいったい何の役に立つんだ、と思うけれども、実際、役に立つらしい。
 此処での候補生の中にも、「幼馴染」と組んでいる者がいるようだから。
 「あいつと、あいつは同郷だってよ」などと噂も耳にするから。
 そういうケースを聞く度に覚える激しい苛立ち。
 「友達なんか」と、「そんなものが何の役に立つ?」と。
 けれど、此処ではそうなのだろう。
 大人の社会で生きてゆくには、「両親」よりも「友達」が大事。
 故郷には二度と戻れないから、両親と暮らせはしないから。
 もう手の届かない世界よりかは、これからも共に生きられる仲間。
 だから機械は「過去」を残した、両親の代わりに「友達」を。
 何もかも全て消しはしないで、「友達」だけは残しておいて。
 「友達」はいつか役に立つから。
 もう用済みの「両親」などより、遥かに意味があるものだから。


 それが機械の判断だけれど、だから故郷では「友達」を持っていたようだけれど…。
(こんな記憶なんか…)
 捨ててしまってかまわないから、両親を覚えていたかった。
 何を捨てるか選べるのならば、友達の方を捨てたと思う。
 同じ過去なら、要らないものは「友達」だから。
 それは無くても生きてゆけるから、現に自分はそうなのだから。
(地球の子なんかに、なれなくていいから…)
 なりたくもないから、要らない友達。
 どうせ友達を作らないなら、不要なのだろう「友達」の記憶。
 思い出すだけで腹が立つから、普段は記憶の海に沈める。
 瓶に詰め込んで、海の底深く沈めてしまって、知らないふり。
 けれども、たまに…。
(ぼくに友達はいたんだろうか、って…)
 考えるとこうして思い出すから、もう考えない方がいい。
 友達なんかは欲しくもないし、この先も、きっと作らないから。
 自分は一人で生きてゆくから、孤独に生きてゆきたいから。
(…ぼくには友達なんか、一人も…)
 いやしないんだ、と自分自身に言い聞かせる。
 ずっと昔からいはしなかったと、これから先もいないのだと。
 機械が「友達」を勧めるのならば、そんな「友」など要らないから。
 独りぼっちでかまわないから、忘れてしまいたい故郷の「友」。
 記憶の海の深淵の底に、瓶に詰めて沈めてしまいたい。
 二度と浮かんで来ないよう。
 二度と苛立たなくて済むよう、永遠に思い出せないように…。

 

        友達の記憶・了

※シロエが作らない「友達」。それに「仲間」も。欲しいと思うことも無いから。
 けれど故郷ではどうだったのか、と考えてみた話。友達の記憶は残るみたいですしね?






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(二階級特進させて貰ったが…)
 メギドの件もお咎め無しなのだがな、とキースが歪めた唇。
 ジルベスター星系からノアに戻って来た夜、自分のためにある部屋で。
 事故調査に出掛けて、遭遇したミュウ。
 最初の一人は自覚すらも無しに、人類軍の中にいた。
 偶然パスした成人検査。
 自分が何者なのかも知らないままで、劣等生のふりをしていたマツカ。
 彼に殺されかかったけれども、スパイならばともかく、ただのミュウでは…。
(私を殺せるわけがない)
 無謀とも言えたマツカの攻撃。彼にとっては命が懸かっていたのだけれど。
 失敗した後には、震え、泣くことした出来なかったマツカ。
 彼の姿にサムが、シロエが重なって見えた。…どうしたわけだか。
 だから殺さず、ジルベスターまで連れて行ったら…。
(並みの人類より、役に立ったというのがな…)
 なんとも皮肉な話だけれども、ミュウのマツカに救われた。
 ただ一人きりでジルベスター・セブンまで、行方不明の自分を捜しにやって来た彼に。
 そればかりか、メギドでも救われた命。
 あの時マツカが、自分を追って来ていなければ…。
(ソルジャー・ブルーと心中させられていたぞ)
 まず間違いなく、巻き添えになっていただろう。捨て身でメギドを沈めたミュウの。
 ソルジャー・ブルーが破壊したメギド。
 本来だったら、あれほどの兵器を失った自分は降格処分か、左遷だろうに。
 それが当然だと思っているのに、咎められることは無くて特進。
 グランド・マザーは、どれほど自分を買っているのか。
(…有難く思うべきなのだろうが…)
 余計なことだ、と覚える苛立ち。
 この先もきっと、自分が歩いてゆくだろう道は…。


 グランド・マザーの手の中なのだ、と心の中で吐き捨てる。
 そうやって歩いてゆくのだろうと、それ以外に歩める道などは無いと。
(…マツカは連れて帰って来たが…)
 これからも側に置くのだがな、と決めている実に役立つマツカ。
 彼がミュウだとグランド・マザーに悟られたならば、ゲームは自分の負けになる。
 もしもマツカが処分されたら、あるいは連行されたなら。
(…そのくらいのゲームは許して欲しいものだな)
 他に自由は無いのだから、と零れる溜息。
 自分はグランド・マザーの手駒で、そのように動かされてゆくだけ。
 それに不満を覚えた所で、どうすることも出来ない自分。
 ならば行くしか無いのだろう。
 この道の先が何処であろうと、何が自分を待っていようと。
(…私はそういう訓練を受けた)
 だから従う、と考えはしても、最初から答えは決まっていても。
 どうにも落ち着かない心。
 メンバーズとして繰り返し訓練を受けたこの身でも、軍の規律を思い出しても。
(……ソルジャー・ブルー……)
 奴のせいだ、と分かってはいる。
 初めて自分を負かした男に、またしても負けを味わわされた。
 傍目には自分の勝ちだけれども、ソルジャー・ブルーは倒したけれど…。
(…自分の命を捨ててまで…)
 メギドを沈めて死んでいった男。
 きっと永遠に彼に勝てない、彼のように生きることは出来ない。
 指導者としての自分の立ち位置、それを捨ててまで戦い、そして散るなどは。
 自分の信念を貫き通して、命までさえ捨て去ることは。


 そういう教育は受けていない、と胸に湧き上がる悔しさと怒り。
 定められた道を進むことしか教えられずに生きて来た自分。
 E-1077でも、メンバーズになってからの日々でも。
 従うことが自分のやり方、生きる道だと無理やり納得させて来た心。
(…マツカを生かして…)
 機械の鼻をあかしてやった、と束の間、酔っていた勝利。
 ジルベスター・セブンから生還した後、功労者のマツカを国家騎士団に転属させて。
 マツカの正体が知れているなら、けして通りはしない許可。
(グランド・マザーでも、気付かないという所がな…)
 してやったり、と思っていたのに、それが自分の「自由」の限界。
 マツカが救いに駆け付けたメギド、あの時、命を拾ったばかりに…。
(…もう、この先は…)
 きっと前線には出てゆけない。
 ミュウが相手でも、二度と出来ない命のやり取り。
 それをしようと目論んでみても、他の者が派遣されるから。
 上級大佐になった自分は、指揮官としてしか生きてゆけない。
 前線に派遣するべき人材、それを選んでは配属するだけ。
 もしも自分が殺されるようなことがあるのなら…。
(…暗殺だけということか…)
 自分の昇進を妬む輩に毒を盛られるか、車や部屋ごと爆破されるか。
 そんな死に方しか出来はしなくて、生きてゆく甲斐もない命。
 指揮官だったら、いくらでも代わりはいるのだから。
 たとえ自分が斃れたとしても、次の誰かが任に就くだけ。
 まだ前線に立っていたなら、充分な働きが出来るだろうに。
 ミュウの母船を追って追い続けて、宇宙の藻屑にすることさえも。


 けれど出来ない、その生き方。
 グランド・マザーは指揮官の道を用意したから、其処を歩んでゆくしかない。
 だから苛立ち、心が騒ぐことになる。
 ソルジャー・ブルーを思い出したら、彼の死に様を思ったら。
(…伝説のタイプ・ブルー・オリジン…)
 どう考えても、ミュウの社会では頂点に立つ男だったろう、ソルジャー・ブルー。
 人類で言えば国家主席にも等しい存在、けして前線には出てゆかない筈。
 それが人類の社会なら。
 人類が定めた枠の中なら、グランド・マザーの采配ならば。
(しかし、あいつは…)
 それをものともしないで出て来た、自分の立場を考えないで。
 あるいは自ら捨てて来たのか、ミュウの連中にも「否」と言わせはせずに。
 ミュウどもがそれを許したのならば、羨ましいとも思う生き方。
 思いのままに生きていいなら、望む場所で死んでゆけるなら。
 あのような立ち位置に置かれていてさえ、己の心に忠実に生きて死ねるなら。
(…ミュウというのは、皆そうなのか?)
 マツカは弱いミュウだけれども、遠い昔に、ああいうミュウを知っていた。
 当時はミュウとは知りもしないで、E-1077を卒業してから知ったこと。
 セキ・レイ・シロエ。
 自分がこの手で殺した少年、シロエもまたミュウの一人だという。
 あのステーションにいた「Mのキャリア」は彼しかいない。
 軍の噂では、そのMは処分されているから。
 同時期に在籍していた候補生の一人が、Mのキャリアの船を撃墜したそうだから。
(…私とシロエ以外に、誰がいるんだ?)
 今は廃校になったE-1077、其処で起こったと流れる噂。
 Mのキャリアはシロエでしかなくて、その船を撃墜したのが自分。
 シロエは自分の意のままに生きて、意のままに死へと飛び立って行った。
 あの頼りない練習艇で。…武装してなどいなかった船で。


 セキ・レイ・シロエの鮮烈な生き様、それを彷彿とさせるミュウ。
 メギドに散ったソルジャー・ブルー。
 彼は自由に生きたというのに、死に場所を選び取ったのに。
 自分はといえば、もはや選べはしない死に場所。
(…暗殺されても、死に場所を選べはしないのだ…)
 自分の意志とはまるで関係無く、道半ばにして殺されるのが暗殺だから。
 この生き方を選ばされたなら、せめて全うしたいのに。
 志を遂げて散ってゆきたいのに、暗殺者どもは一顧だにしない。
 ある日、突然に訪れる終わり。
 それを望んではいないというのに、爆弾で、あるいは盛られた毒で。
(…あいつのようには、もう生きられない…)
 ソルジャー・ブルーが生きたようには、最期まで戦士であったようには。
 よくも名付けたものだと思う、「ソルジャー」というミュウの長の称号。
 言葉通りに、戦士として生きたソルジャー・ブルー。
 そうして宇宙に散ったけれども、まるでシロエのようだったけども。
(…私には、けして…)
 あの生き方は許されない、と分かっているから苛立つばかり。
 どうしてこういう道に来たかと、何故、この道を進むのかと。
 何ゆえに此処を歩いてゆくかと、逃れられる術を自分は知っている筈なのに、と。
(シロエのように生きたならばな…)
 機械の言いなりにならない人生、それを自分が選び取ったら訪れる終わり。
 シロエも、それにソルジャー・ブルーも、マザー・システムに逆らい続けて散ったから。
 其処を進めば彼らのように生きてゆける、と承知だけれども、選べないから苛立つしかない。
(…いつか終わりがやって来るまで…)
 死の方から自分を訪ねて来るまで、生きてゆくしかないのだろう。
 いくら死に場所を探し求めても、自分の意志では選べないから。
 そう生きる道を進むしかなくて、生きてゆく道はグランド・マザーの手の中だから…。

 

         出来ない生き方・了

※グランド・マザーの意志に従い続けるのがキース、けれど感情はあるわけで…。
 シロエやブルーの影響はきっとある筈なんだ、と思っているのが管理人。駄目っすか?






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(船だ…)
 初めて見た、とシロエが眺めた窓の向こう。
 E-1077の食堂、其処のガラス窓の向こうは宇宙。瞬かない星が輝く空間。
 此処に来てから、何度目の食事になるだろう。
 ただ黙々と食べていた時、その船たちが戻って来た。
 そう、「船たち」。
 何機もの同じ形をした船、このステーションに所属している練習艇。
 何年生かは知らないけれども、上級生たちが乗っているのだろう。
 自分の年ではまだ乗れない船、宇宙を飛んでゆける船。
 その瞬間に閃いたこと。
 あれに乗ったら、飛び出せる宇宙。
 このステーションから解き放たれて、ほんの束の間、飛んでゆける宇宙(そら)。
(…練習艇でも…)
 船の仕組みは同じ筈。
 遠い星へとワープしてゆく船、それらと何処も変わらない筈。
 違う部分があるとしたなら、恐らくは…。
(搭載している燃料くらい…)
 所詮は練習用の船だし、想定していないワープや恒星間の航行。
 其処を除けば、何もかも多分、同じだろう。
 この牢獄まで自分を乗せて来た船と。
 懐かしい故郷から自分を連れ去り、無理やり運んで来た宇宙船と。
 練習艇の存在は知っていたのだけれども、飛んでいる姿を見たのは初めて。
 格納庫さえも縁遠い場所で、其処へ出掛ける用も無いから。


 けれども、何の前触れも無しに、心の中に住み着いた船。
 E-1077に何隻もある練習艇。
(あれに乗るには…)
 どういう資格が要るのだろうか、自分の年では本当に乗れはしないのか。
 必要な単位を取得したなら、上級生たちの中に混じって飛んでゆくことが出来るだろうか…?
(部屋に帰ったら、調べなきゃ…)
 船に乗れたら、此処から逃れられるから。
 忌まわしい機械が支配する場所、マザー・イライザの手の中から。
(通信回線は繋がってたって…)
 物理的には、何の支配も受けない所が宇宙空間。
 マザー・イライザは、E-1077を離れることは出来ないから。
 万能の神を気取っていたって、その正体はコンピューター。
 メモリーバンクが置かれた此処から、外へと自由に出られはしない。
 出られたとしても、せいぜい幻影。
 母の姿を真似てくる姿、あれを見せるのが限界だろう。
(…気持ちいいよね…)
 マザー・イライザがいない宇宙へ飛び出せたなら。
 憎い機械の目から逃れて、鳥のように自由に飛んでゆけたら。
(間違えました、ってふりをして…)
 故郷の方へと舵を切ることも出来るだろう。
 エネルゲイアがある星へ。
 クリサリス星系のアルテメシアへ、懐かしい星が浮かぶ方へと。


 乗ってみたい、と思った船。
 マザー・イライザの目から逃れられるなら、束の間の自由が手に入るなら。
 逸る心で、返しに出掛けた食事のトレイ。
 走り出したいような気分で、戻った自分に与えられた部屋。
(…訓練飛行……)
 それはいつから許されるだろう、何年経てば飛べるのだろう?
 今はまだ、宇宙に出てゆけるだけ。
 船外活動と称した授業で、無重力での訓練を受けているというだけ。
 どうすれば宇宙を飛べるのだろう、とデータベースにアクセスしてみたけれど。
 自分でも飛べる術は無いかと、様々な手段を探すのだけれど。
(……どう転がっても……)
 今の年では下りない許可。
 トップエリートの成績を取っても、実年齢が邪魔をする。
 目覚めの日を過ぎて間も無い場合は、不安定とされるその感情。
 常に冷静さが要求される宇宙空間、其処での操縦には不向き。
 出来るのは船外活動くらいで、練習艇に乗れる資格は無い。
(パイロットは駄目でも、通信士くらい…)
 そう思うけれど、そちらも不可。
 万一の時には、パイロットに代わって飛べる技術が必要だから。
 このステーションでは成績不良の劣等生でも、他のステーションから見ればエリートばかり。
 通信士といえども、鮮やかに船を操れるもの。
 並みのパイロットよりも巧みに、初の操船でも経験を積んだ人間並みに。


 どうやら乗れはしない船。
 マザー・イライザの手から逃れたくても、束の間の自由が欲しくても。
「どうして…!」
 何故、駄目なんだ、と机に叩き付けた拳。
 途端に気が付く、「この感情が駄目なんだ」と。
 練習艇に乗れないだけで、いらつき、怒りを覚える自分。
 ついさっきまでは、「このステーションから自由になれる」と、とても気分が良かったのに。
 やっと方法を見付け出したと、それは機嫌が良かったのに。
(…目覚めの日を過ぎてから、間も無い場合は…)
 不安定だとされる感情、今の自分はまさにそれ。
 この時期を過ぎたとされる年までは、練習艇には乗り込めない。
 いい成績を収めても。
 最高の点数で必要な単位を取得したって、けして乗せては貰えない船。
 あれに乗れたら、自分は自由になれるのに。
 訓練飛行の間だけでも、ステーションから出られるのに。
(……マザー・イライザ……)
 あの機械め、と思うけれども、マザー・イライザが決めた規則ではないだろう。
 何処のステーションでも規則は同じで、自分の年では乗れない船。
 今、あの船に乗りたいのに。
 あれで宇宙へ出てゆきたいのに、自由に飛んでみたいのに。
 自由に見えても、それは決められたコースでも。
 「間違えました」とミスをしない限りは、故郷に機首を向けられなくても。
(このステーションから出られるだけで…)
 一歩、故郷に近付くのに。
 記憶もおぼろになった故郷に、両親が住んでいる星に。


 一度生まれた夢は消えなくて、どうしても消すことは出来なくて。
 けれど、自分の今の年では、シミュレーターさえも、まだ使わせては貰えない。
 それは必要ないものだから。
 どんなに腕を上げたとしたって、練習艇に乗れる年ではないのだから。
(畜生……!)
 直ぐ其処に自由が見えたのに。
 このステーションから逃れる方法、マザー・イライザから離れる術が見付かったのに。
 なのに開かれない扉。
 固く閉ざされ、まだ開いてはくれない扉。
(…そういうことなら…)
 気分だけでも飛んでやるさ、とデータベースを探してゆく。
 シミュレーターは使えなくても、似たようなものがある筈だから。
 自主練習のためとも言えるシステム、自分の部屋でも訓練を積んでゆけるもの。
(航路設定とかだったら…)
 きっと何かが見付かる筈、と探す間に出会ったもの。
(ふうん…?)
 それは一種のゲームだけれども、明らかに訓練用だと分かる。
 シミュレーターに向かうようになったら、自分の部屋からアクセスして重ねる仮想訓練。
(丁度いいってね)
 今の間に腕を上げれば、最初の訓練飛行では、きっと…。
(ぼくがリーダーになれる筈…)
 航路設定を間違えました、と故郷に舵を切ろうとも。
 教官に酷く叱られようとも、その選択が出来る権利が手に入る。
(…最初にするのは、航路設定…)
 だったらこう、と入れてゆく座標。
 いきなりワープになるのだけれども、故郷のクリサリス星系のもの。
 いつか飛ぼうと、自由になれたら最初に機首を向けようと。


 そうして何度も重ねた練習。
 自由自在に操れるようになった船。
 シミュレーターさえ使えないのに、まだ使わせては貰えないのに。
(ぼくは自由になってやる…!)
 練習艇に乗せて貰える時が来たら、と挑み続けて、その時はついにやって来た。
 マザー・イライザの手から逃れて飛んでゆく時が、自由な宇宙(そら)へ飛び立つ時が。
 ただ一人きりの船だけれども、目指す先は自由。
 チームメイトは誰もいなくて、代わりにピーターパンの本でも。
 行き先は座標も知らない地球でも、きっと其処まで飛んでゆける筈。
 ピーターパンの声が聞こえたから。
 船で宇宙に滑り出したら、いつの間にやら、両親も一緒に乗っていたから。
 だから行ける、と飛んでゆくシロエ。
 この日が来るのを待っていたから、やっと自由な宇宙(そら)へ飛び立てたのだから…。

 

         乗れない練習艇・了

※原作はともかく、アニテラのシロエは訓練飛行はしていないんじゃあ…、と思っただけ。
 逃亡する時も自分で操船してるというより、サイオンだったし…。そういう捏造。






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(…私の他にはいないだろうさ)
 宇宙広しといえども一人も、とキースが唇に浮かべた笑い。
 国家騎士団にも、宇宙海軍にも、誰一人として。
 けれど決めた、と迷いなど無い。
 サムの血で出来た、赤いピアスをつけること。
 グランド・マザーは「否」とは言わなかったから。
(軍規も一応、あるのだからな)
 任務を離れた時はともかく、それ以外では禁止されるのが装身具。
 勲章などは許可されていても、耳にピアスは許されない。
 だから尋ねた、グランド・マザーに宛てて。
 「友の血で作ったピアスをつけても、よろしいでしょうか」と丁寧に。
 拒否されたとしても、つけるつもりではいたけれど。
 任務は結果が全てなのだし、ピアスをつけても成果を上げればいいだけのこと。
 これまで通りに、これまで以上に、ただ淡々と。
(しかし、マザーは…)
 何の返事も寄越さなかったし、許可されたと見ていいだろう。
 同じ時に送ったジルベスター星系に関する質問、それへの答えは来たのだから。
(…つまり、つけてもいいらしいな?)
 これで何処でも、堂々と。
 「グランド・マザーの許可は得ている」と、「マザーに問い合わせてくれてもいい」と。
 もっとも、そんな度胸を持った者など、恐らくいないだろうけれど。
 マザーが許可を出したと聞いたら、誰もが黙るだろうけども。


 もうすぐ出来る予定のピアス。
 検査のためにとサムから採られた、血液の一部を加工して。
 サムは検査を酷く嫌うから、ピアス用にと採血させはしなかった。
 「既にあるものを加工しろ」とだけ、病院の方にも伝えることを忘れなかった。
 子供の心に戻ったサムには、採血用の針は怖いだけなのだから。
(私と一緒だった頃のサムなら、平気だったろうにな…)
 E-1077での、候補生時代。
 あの頃のサムなら、採血どころか大手術でさえも、きっと笑っていただろう。
 「大したことじゃねえよ」と、「ちょっと痛いかもしれねえけどな」と。
 強い心を持っていたサム、死ぬことさえも恐れなかった。
 入学して間もない頃の事故では、ただ一人だけで自分について来てくれたから。
 上級生たちさえも出ようとしないで、去ってしまった宇宙船の事故。
 救助に行こうと支度していたら、サムも隣で開けたロッカー。
 「船外活動は得意なんだ」と、「しっかり食って、しっかり動く。それだけさ」と。
 宇宙へ救助に出掛けてゆくこと、それだけでも危険だったのに。
 其処で制御を失った自分を、サムは迷わず助けてくれた。
 命綱すらつけもしないで、命懸けで。
 しかも命を懸けたことさえ、まるで自覚の無いままで。


 それほどまでに強かったサム。
 強くて、優しかったサム。
 サムほどに強く優しい男を、今も自分は知らないのに…。
(…あそこで何があったんだ…?)
 ジルベスターでMに出会った恐怖か、彼らがサムに何かをしたか。
 サムの心は壊れてしまって、チーフパイロットを殺したという。
 持っていたナイフで一撃の下に。
 死んだパイロットと血染めのナイフと、返り血を浴びたサムの顔。
 それが、漂流していた船を発見した者たちが中で目にしたもの。
(お蔭でサムは殺人犯で…)
 罪には問われないというだけ、心が子供に返ってしまって正常ではない状態だから。
 優しかったサムに、人を殺せはしないのに。
 どう考えても、それは事故でしか有り得ないのに。
 だから悔しい、サムの仇を討ちたいと思う。
 サムを壊したMを探し出して、根こそぎ宇宙から滅ぼすこと。
 そのためにジルベスターを目指すし、サムの血と共に在ろうと思う。
 友と呼べる者はサムだけだから。
 今もやっぱり、ただ一人きりの友だから。


 そうするために選んだピアス。
 サムの血で作ったピアスを身につけ、何処までもサムと共にゆく。
 赤い血のピアス、それが血だとは誰も気付きはしなくても。
 「男のくせにピアスなのか」と、冷たい瞳で見られたとしても。
 グランド・マザーが許したとはいえ、「ピアスをつけた男」には違いないのだから。
 傍目には女々しい男と見えるか、はたまた洒落者と思われるのか。
(…どうせ、誰にも…)
 自分の真意は分かりはしないし、伝えようとも思わない。
 話したいという気持ちすら無い、誰も知らないままでいい。
 サムの他には友はいないし、他に欲しいとも思わない。
 自分の周りに、そうしたい者はいないから。
 友と呼びたい者もなければ、友にしたい者も今日まで一人も見なかったから。
(…もしもシロエが生きていたなら…)
 上手く機械と折り合いをつけて、生き延びてくれていたならば。
 彼ならば友に成り得たと思う、憎まれ口を叩いても。
 「またですか?」と嫌そうな顔で、何かといえば喧嘩ばかりでも。
 けれどシロエは自分が殺して、とうに宇宙から消えた人間。
 だから友など見付からない。
 今までも、そしてこれから先も。


(…サムだけなんだ…)
 自分と共に在れるのは。
 共に在りたいと今も思う「友」は、命を懸けてもいい友は。
 サムの血のピアス、それがサムへの友情の証。
 ピアスにしようと決めた理由は二つある。
 一つは、「邪魔にならない」こと。
 耳は動かす部分ではないし、其処にピアスをつけていたって、動きを束縛されないから。
 たとえ肉弾戦になろうと、自分の邪魔にはならないピアス。
 せいぜい耳たぶが千切れる程度で、そのくらいの傷は掠り傷とも言わない。
(これがペンダントの類だと…)
 きっと何処かで邪魔になる。
 「邪魔だ」と感じる時が来る筈、サムの血を「邪魔」と思いたくはない。
 ほんの一瞬、反射的に感じただけだとしても。
 直ぐに「違う」と思い直しても、一度「邪魔だ」と考えたならば…。
(サムを邪魔だと言うのと同じ…)
 そうならないよう、ピアスを選んだ。
 鏡に映して眺めない限り、自分の目では見られなくても。
 ただ指で触れて「此処にいるな」と思うだけしか、サムを確かめる術が無くても。


 そしてもう一つ、そちらの方が遥かに大切。
 自分の身体に傷をつけねば、ピアスをつけることは出来ない。
 耳たぶに穴を開けること。
 ほんの僅かな赤い血と痛み、けれどもピアスをつけるためには欠かせないもの。
 サムがMたちに壊された痛み、それはどれほどのものだったか。
 想像さえもつかないものだし、きっとサムにしか分からない。
 サムを襲った痛みと苦しみ、心が壊れてしまうほどのそれ。
(…少しだけでも…)
 分かち合いたいと思うのが友、だからこそ開けるピアス用の穴。
 両方の耳に、サムの血と共に在るために。
 ピアスをつけないのならば必要ない傷、それを自分の身体に刻む。
 どんな拷問にも耐えられるように訓練を受けた、今の自分の身体には…。
(蚊が刺したほども痛まなくても…)
 まるで痛みを感じなくても、耳のその部分に風穴は開く。
 風穴と呼ぶにはささやかすぎて、針で刺した程度の大きさでも。
 向こう側さえ見えないくらいに、放っておいたら直ぐに塞がりそうなくらいに小さくても。
(それでも、傷は傷なのだからな)
 だからピアスだ、と触れてみる耳。
 今は傷一つ無い耳だけれど、じきに小さな穴が開く。
 サムの血のピアスをつけてやるために、何処までもサムとゆくために。
 ジルベスターへも、Mがいるだろう蛇や悪魔の巣窟へも。


(じきに行ってやるさ)
 サムを壊したMの拠点へ、友が流した血の報復に。
 殺人犯にされてしまったサムの代わりに、Mどもを全て血祭りに上げる。
 返り血を浴びたサムの写真は、血まみれの姿だったけれども…。
(…私の方は、耳に血のピアスだ)
 Mが気付くか、気付かないままか、気付いたならばどう出て来るか。
 ジルベスターではどうなるにしても、自分はサムと共にゆく。
 サムの血で出来たピアスが出来たら、両方の耳に開ける穴。
 それが自分の決意だから。
 何処までもサムと共にゆこうと、サムと在ろうと、そのために選んだサムの血のピアス。
(少しだけでも、「痛い」と思えればいいのだがな…)
 ピアス用の穴を開ける時。
 サムの痛みを、サムの苦痛を少しでも分かち合いたいから。
 傷から溢れるだろう血だって、ただの一滴ではない方がいい。
 その血の分だけ、サムの所へ近付けるから。
 ピアスが無ければ無いだろう傷、それが深くて酷く痛むほど、サムの心に近付けるから。
 耳たぶに穴を開ける時には、願わくば出来るだけ強い痛みを。
 開ける時に必ず流れ出す血も、出来るだけ多く。
 サムはそれより、遥かに多く苦しんだから。
 Mに心を壊されたサムは、この先もずっと、元に戻りはしないのだから…。

 

        選んだピアス・了

※どうしてサムの血のピアスだったんだ、と考えていたら、こうなったオチ。
 ピアスは実際、動くのに邪魔にならないわけで…。ドッグタグというのもありますけどね。






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