「一切の記憶を捨てなさい。あなたは全く新しい人間として…」
地球の上に生まれ落ちるのです、と告げられた声。ブルーの頭の中で。
それが誰かは分からないけれど、女性の声。「一切の記憶を捨てなさい」と。
(ぼくの記憶…)
今日まで生きて来た日々の、自分の記憶。
それを捨てろと、捨ててしまえと命じられるのが「成人検査」の正体。
誰も教えてはくれなかったけれど、健康診断の一種なのかと頭から信じていたけれど。
呼びに来た係は看護師だったし、検査に付き添う者も看護師。
成人検査に使う機械も、医療用のそれに見えたから。
(これが成人検査だなんて…!)
騙されたのだ、と悟った瞬間。
成人検査について教えてくれた学校の教師に、検査を受けに来た此処の職員たちに。
(忘れるなんて…。全部忘れて、違う人間になるなんて…!)
嫌だ、と悲鳴を上げた途端に弾けた何か。…そして本当に起こった爆発。
気付けば機械は砕け散っていて、宙に浮かんでいる幾つもの破片。
(…いったい何が…?)
事故でも起こったのだろうか、と呆然と眺めた金属片。
其処に映っている顔は…。
(…これが、ぼく…?)
嘘だ、と見開いてしまった瞳。
破片に映った自分も瞳を見開くけれども、その瞳の色。
(……ぼくの目じゃない……)
赤い、と見詰めた破片の中。
水色だった瞳は赤に変わって、金色の髪も今は銀色。
とても自分とは思えないのに、それは間違いなく自分自身で…。
(ぼくじゃない…!)
こんなのは、ぼくの姿じゃない、と愕然とした所でフッと覚めた目。
上の方には見慣れた天蓋、「青の間」と呼ばれる自分の部屋。
(……夢……)
夢だったのか、と何度か瞬きした瞳。
側に鏡は無いのだけれども、きっと瞳は赤いだろう。
今の自分が持っている色はそうだから。
赤い瞳に銀色の髪で、色素が抜けてしまったアルビノ。
もうこの姿で長く生きたし、とうに馴染んでいるけれど。
「変だ」と思いもしないけれども、久しぶりに見た遠い日の夢。
あれは本当に起こった出来事、全てが変わってしまった、あの日。
金色の髪と水色の瞳を失くした自分は、一切のものを失くしてしまった。
未来も、「人」として生きてゆく権利も。
成人検査用の機械を壊したサイオン、それが目覚めてしまったから。
「ミュウ」と呼ばれる異人種になって、もう人権は無かったから。
(…あの時から、ぼくは…)
もう人間じゃなくなったんだ、と痛烈に思い知らされる。
「殺さないで」と悲鳴を上げていた看護師。駆け付けて来た保安部隊の者たち。
彼らは自分に銃口を向けて、問答無用で撃ったから。
「ぼくは何もしない」と訴えたのに、聞く耳も持たなかったのだから。
(…無意識の内に、サイオンで弾を止めなかったら…)
きっと自分は死んでいたろう、機械の破片が浮いていた部屋で。
撃ち殺された後の身体は、切り刻んで調べられたのだろう。
「こいつに何が起こったのか」と、「どういう理由で変化したか」と。
そして研究室に並ぶサンプル、元は自分の一部だったもの。
赤い瞳や、脳などが入った幾つものケース。
自分の名前のラベルが貼られて、いつでも取り出して調べられるように。
嫌な夢だ、とベッドの上に起き上がる。
自分は辛くも生き延びたけれど、その後の地獄も無事に脱出できたのだけれど。
この瞬間にも、きっと何処かで同じ目に遭っているだろう仲間たち。
(…タイプ・ブルーは、今も確認されていないが…)
そういう情報は来ていないから、自分と同じに変化した者はいないと思う。
けれど「ミュウだ」と判断されたら、待っているものは「死」でしかない。
その場で撃たれて処分されるか、実験動物として扱われるか。
もとより生かすつもりは無いから、過酷な人体実験の末に迎えるだろう「死」。
死体は刻まれて保存されたり、ゴミ同然に廃棄されたり。
(…ぼくは何人も助けたけれど…)
処分されそうになったミュウの子供を、何人も助け出したのだけれど。
それが出来るのは、この星でだけ。
シャングリラと名付けたミュウの箱舟、白い鯨が雲海に潜むアルテメシアだけ。
他の星では、手も足も出せはしないから。
ミュウの子供が何処にいるのか、それさえ掴めはしないのだから。
(…ぼくたちが此処で助けた以上に…)
その何倍も、何十倍も。
あるいは何百倍かもしれない、何千倍でもおかしくはない。
膨大な数だろうミュウの子供たち、彼らが命を落としていても。
研究施設に送り込まれて、死に続く道を歩んでいても。
(ソルジャー・ブルーと名乗ったところで…)
ミュウの長だと宣言したって、変わることなど何一つない。
自分は何も変えられはしない、この星、アルテメシアでさえも。
発見されては処分されてゆくミュウの子供たち、彼らを救うことしか出来ない。
それも「間に合った」時にだけ。
運よく事前に発見したとか、救出が間に合ったとか。
そうでない時は、救い出せない子供たち。
最期の思念がこの胸を貫き、儚く消えてゆくというだけ。悲鳴だったり、泣き声だったり。
この船で何度、歯噛みしたことか。
「救えなかった」と、「どうして早く気付かなかった」と。
ソルジャーと言っても名前ばかりだと、「戦士」でさえありはしないのだと。
名前通りに戦士だったら、戦い、敵を倒せるだろうに。
ミュウを端から殺すシステム、それを打ち砕けるのだろうに。
けれど自分は「助けて逃げる」ことしか出来ない、殺されかかった子供たちを。
子供たちを殺せと命じる機械を壊すことさえ、今の自分には叶わない。
SD体制を敷いた地球のシステム、グランド・マザーが宇宙に広げたネットワークの…。
(この星の分だけの端末さえも…)
破壊できずに、見ているしかないテラズ・ナンバー・ファイブという機械。
ミュウの子供を発見しようと見張る機械を、成人検査を行う「それ」を。
戦士だったら、戦って壊すべきなのに。
端から機械を壊さない限り、ミュウの子供は殺されてゆくだけなのに。
(…ぼくの代で、いったい何処まで出来る…?)
何処まで変えることが出来るのか、この世界を。…この理不尽なシステムを。
ミュウというだけで殺す世界を、ミュウが生きられない今の時代を。
(…人類と手を取り合えたなら…)
分かり合うことが出来たなら、と思うけれども、夢のまた夢。
さっき自分が見た夢と同じ、人類はミュウを「殺す」だけ。
そうでなければただ恐れるだけ、「殺さないで」と。
ミュウの力を、サイオンを思念を忌み嫌うだけ。
自分一人では何も出来ない、「ソルジャー・ブルー」と名乗りはしても。
ミュウの長だと人類たちに認識されても、船の仲間たちに崇め、敬われても。
(ぼくには力も、それだけの時間も…)
どう考えてもありはしない、と思うのは自分の命の「終わり」。
それが来るまでに何が出来るか、一つでも変えてゆけるのかと。
ミュウの時代に続く扉を見付けられるか、扉の鍵を開けられるかと。
燃えるアルタミラを脱出してから、今日までに流れた長い歳月。
ミュウは長寿で、外見さえも若く留めておけるけれども。
(…それでも、不老不死じゃない…)
自分の寿命はどれほどあるのか、あとどのくらい生きられるのか。
ミュウの子供を助け出すのが精一杯の今を、無力な自分を変えられるのか。
(ぼくの命が燃え尽きる前に…)
神が一つだけ、願いを叶えてくれるなら。
人の力では成し得ないこと、奇跡を起こしてくれるのならば。
(…ぼくは、地球より…)
ミュウの未来を選ぶのだろう、と思うのは自分が「ソルジャー」だから。
皆を導いて此処まで来たから、きっと最期まで自分はソルジャーだろうから。
ミュウの長なら、そう名乗るのなら、捨てねばならない「自分のこと」。
それだけの覚悟は出来ているけれど、いつでも「自分」を捨てられるけれど。
(…ぼくの思いだけで選んでいいなら…)
青い地球を、と願う気がする。
死の床に就いて、神に願いを問われたら。
どんなことでも「一つだけ」夢を叶えてやろうと、神が耳元で囁いたなら。
(ぼくにしか聞こえない声ならば…)
青い地球まで連れて行って欲しい、この目で地球を最期に見たい。
そうは思っても、選べないとも、また思う。
さっきのような夢を見る度、自分の力の限界を思い知らされるから。
生きている間に何処までやれるか、まるで自信が無いのだから。
(ぼくはきっと、いつか…)
地球への夢を捨てる気がする、仲間たちのために。
ミュウが殺されずに生きてゆける世界、その礎となるために。
そうなれば地球は見られないけれど、自分の命が役に立つならそれでいい。
名前ばかりでも、ソルジャーだから。
ソルジャー・ブルーと名乗った以上は、死の瞬間まで「自分」を捨てねばならないから…。
長としての道・了
※「地球を見たかった」というブルーの呟き、あれが未だに忘れられない管理人。
長としての自分はどうあるべきか、ずっと考えていたんだろうな、と思っただけ。
いや、実は前PCがブルー様の祥月命日の翌日にクラッシュ、新PCは酷い不良品でね…。
「本体もOSも壊れてる」なんて思わないから、2週間もそいつと戦ってたオチ。
不良品だと分かって交換、「自分を取り戻したくて」リハビリにブルー。見逃して下さい。
(E-1077…)
此処での暮らしに何の意味が、とシロエの心に蟠る疑問。
何もかも全部、嘘ばかりだから。
機械は平気で嘘をつくから、それに従う人間だって。
(いい成績を取れる奴しか来ないって…)
そう教わったのが、このE-1077。
エリートを育てる最高学府と言われるけれども、果たして本当にそうなのか。
好成績を収めたならば、メンバーズへの道が開かれるのか。
(卒業生の中から、メンバーズは選ばれているけれど…)
本当に最高学府なのかどうか、疑わしい気にもなってくる。
もっと他にも優れた教育ステーションがあって、メンバーズが養成されているとか。
社会に出たなら、同じメンバーズでも、他のステーションの者に劣るとか。
(絶対に無いとは…)
言い切れないよね、と疑問は残るし、解けさえもしない。
この世界は嘘で出来ているから、偽りに満ちた世界だから。
身をもって思い知らされたこと。
機械は嘘をつくということ、機械に従う人間たちも。
(…パパとママだって…)
結果的には、自分に嘘をついていた。
自分が生まれて来た時から。
セキ・レイ・シロエという名を貰って、両親の子供になった時から。
(…ぼくは何人目の子供だったの?)
それさえも分からない自分。
両親は何も語らなかったし、自分の方でも疑わなかった。
育ての親だと知っていたって、「ぼくのパパだ」と。
自分を産んではいないと知った母でも、「ぼくのママ」。
生まれた時から一緒だったし、家の中には沢山の写真があったから。
赤ん坊の頃に撮った写真も、多分、初めて歩いた日に写したのだろう写真も。
(…きっと、そうだよね?)
記憶はぼやけてしまったけれども、そういう記念の日の写真。
バースデーケーキを前にした写真もあったろう。
両親は自分を愛してくれたし、写真が溢れていたのだから。
思い出せなくても、沢山の写真が家のあちこちにあったから。
両親に愛されて育った子供。
そうだと今も信じるけれども、両親は嘘をつき続けた。
「ただいま、シロエ」と抱き上げてくれた、大きな身体をしていた父も。
ブラウニーを作るのがとても得意な、お菓子作りが上手な母も。
(…ぼくはパパとママの、一人息子のシロエじゃなくて…)
きっとセキ・レイ・シロエの前にも、一人息子はあの家にいた。
一人息子でなかったとしたら、両親の大事な一人娘が。
そういう子供がきっといた筈、写真さえも残っていなかっただけで。
両親が一切何も語らず、隠し通していただけで。
(パパとママなら…)
そうだったのに決まっている、と思わざるを得ない悲しい現実。
成人検査で記憶を消されて、両親の顔もぼやけて分からないというのに…。
(……どうして……)
こんなことだけ、自分は覚えているのだろう。
他の子たちの親に比べたら、両親は年を取っていたと。
けして若くはなかったのだと、残酷にすぎる現実だけを。
あの姿ならば、「セキ・レイ・シロエ」は両親の「最初の子供」ではない。
自分の前にも誰かいた筈で、一人息子か、一人娘か。
あるいは両方いたというのか、「セキ・レイ・シロエ」は三人目の子で。
他にも「セキ」と名前がつく子を、両親は育てていた筈で…。
どうして、と机に叩き付けた拳。
あんなに優しかった両親、パパとママが嘘をつくなんて、と。
(…でも、本当に…)
嘘だったんだ、と分かる、懐かしい故郷での暮らし。
両親の愛がいくら本物でも、あそこでの暮らしは嘘だった。
成人検査の日を境にして、自分の世界から消える幻。
もう戻れなくて、帰れない日々。
故郷の土を踏めはしなくて、住所すらも思い出せない家には…。
(…どう頑張っても、帰れやしない…)
そうなることを知っていたのが、父と母。
両親も成人検査を受けたし、どんなものかは知っていた筈。
学校の教師たちならともかく、両親だったら…。
(…本当のことを…)
教えてくれても良かったのに、と零れる涙。
成人検査を受けた後には、どうなるのか。
目覚めの日を迎えてしまった子供は、どういう道を歩き出すのか。
機械が監視していたとしても、自分を愛してくれていたなら。
手放したくないと思ってくれていたなら、一言、伝えて欲しかった。
「全部忘れてしまうんだよ」と。
「今の間に、しっかり覚えておくのよ」と。
そうしてくれたら、頑張ったのに。
(……この本に……)
ピーターパンの本の文字の間に、色々なことを書き込んだのに。
自分の記憶が消された後にも、手掛かりになるだろう大切なことを。
家の住所も、両親の顔の特徴も。
(似顔絵だって…)
力の限りに頑張って描いたことだろう。
絵心はあまり無いのだけれども、それでも精一杯の力で。
「これがパパの顔」と、「ママの顔はこう」と。
挿絵のページに紛れ込ませて、両親の姿を描き残した筈。
後で見たなら、「こういう顔だ」と分かるよう。
機械が記憶を消してしまっても、両親を思い出せるよう。
(…でも、パパもママも…)
何も話してくれなかったから、こうなった。
セキ・レイ・シロエは故郷を忘れて、両親の顔も今ではおぼろ。
家に帰ろうにも分からない住所、「アルテメシアのエネルゲイア」としか。
機械に全てを消されてしまって、何も残りはしなかった。
(…この本しか…)
ピーターパンの本しか残らなかったんだ、と溢れて止まらない涙。
世界は嘘で作られていると、「パパとママも、ぼくに嘘をついてた」と。
ネバーランドよりも素敵な地球へと、其処へ行こうと頑張ったのに。
いい成績を取り続けたならば、きっと開ける筈の道。
(…シロエなら行けるさ、って…)
父が言ったから、頑張った。
母は笑っていたのだけれども、子供心に「頑張らなくちゃ」と思ったから。
両親の自慢の息子になろうと、そして素敵な地球に行こうと。
(…そうするつもりだったのに…)
世界は嘘で出来ていたから、こんな所に連れて来られた。
エリートを育てるらしい所へ、E-1077へ。
成人検査で記憶を消されて、故郷も、両親も全部失くして。
機械が支配している世界へ、マザー・イライザという名のコンピューターが治める場所へ。
(此処でいい成績を取ってれば…)
メンバーズになれて、地球へ行く道も開けるのだと聞くけれど。
マザー・イライザも、教官たちもそう言うけれども、世界は全て嘘ばかり。
両親でさえも嘘をついたし、どうして信じられるだろう?
マザー・イライザを、それに従う人間たちを。
地球にいるというグランド・マザーが、全てを統治している世界を。
(…此処でメンバーズになったって…)
本当にトップに立てるのかどうか、なんとも疑わしいけれど。
メンバーズになって更に昇進したなら、国家主席になれるというのも怪しいけれど。
(…だけど、それしか…)
今の自分に行く道は無くて、トップに立たねば変わらない世界。
嘘だらけの世界を変えるためには、自分がトップになるしかない。
国家主席の地位を手に入れ、グランド・マザーを止めること。
「ぼくの記憶を返せ」と命じて、失くした記憶を取り戻すこと。
そうしたいならば、此処が嘘で出来ている世界でも…。
(…少しでも可能性のある方へ…)
歩いて行くしかないんだよね、と分かってはいる。
何度も考えて出した答えで、きっと他には道が無いから。
進むべき道はただ一つだけで、其処を行くしかなさそうだから。
それでも、たまに悲しくなる。
「此処での暮らしに何の意味が」と。
こんな所に来たくなかったと、人生に意味などありはしないと。
世界は全て嘘だらけだから、何もかも嘘で出来ているから。
あの優しかった両親でさえも、赤ん坊の自分を迎えた時から、嘘をつき続けていたのだから…。
嘘で出来た世界・了
※シロエが陥る思考の迷路。「パパとママも嘘をついていた」と。優しい両親だったのに。
そういう嘘をつかせていたのも機械なんですよね、機械嫌いになるわけです。
(…ミュウどもの版図は拡大してゆく一方か…)
もう止めようがないのだろうな、とキースが零した深い溜息。
誰もいない部屋、とうに夜は更けて部下も訪れはしない筈。
マツカも先に下がらせた。「コーヒーくらい、私でも淹れられる」と。
言った言葉に嘘は無い。
(…インスタントのコーヒーならな)
マツカが淹れるようなコーヒー、あの味はとても淹れられない。
けれど一人でいたかった。
何故だか酷く疲れた気分で、今日はマツカの気遣いさえも…。
(余計なことを、と思うんだ…)
自分でもかなり酷いと思った、自分自身の感情のこと。
普段だったら、苛立ちを覚えることはあっても、それを全く見せずにいられる。
誰にも本音を知られることなく、心の中だけでする舌打ちも。
それが出来ない、どうしたわけか。
日に日に勢力を増してゆくミュウ、今日も一つの惑星が落ちた。
そのせいだろうか、苛立つのは。
妙に疲れを覚えるのは。
(…マツカも、所詮はミュウだからな)
ミュウだから顔を見たくないなら、この感情も理解出来る、と思ったけれど。
それで部屋から追い払ったのだ、と暫くは納得していたけれど…。
不意に心を掠めた言葉。
「友達だろ?」と。
遠い遠い昔、サムが何度も口にしていた。
あのステーションで、今はもう無いE-1077のあちこちで。
(……友達か……)
それか、と思い至ったこと。
明らかにミュウに敗れるのだろう、人類という古すぎる種族。
その日はそれほど遠くないのに、自分は此処から逃げ出せはしない。
軍人だから、というのは表向きのこと。
逃れられない本当の理由、それは自分の中にある。
血にも、髪の毛の一筋にさえも、刻み込まれた恐ろしい呪い。
(…マザー・イライザ……)
E-1077のメイン・コンピューター。
あれが自分を作ったから。
完全な無から作り出された生命、それが自分で、作られた理由そのものが…。
(…もう完全に時代遅れだ…)
どう考えても分の無い人類、それを統べるよう作られた命。
だから自分は逃げ出せない。
軍の全員がミュウに寝返ろうとも、誰一人としてついてくる者はいなくとも。
いつか、その日が来るのだろう。
ミュウを忌み嫌う筈の人類さえもが、ミュウたちの肩を持つ時が。
自分たちまでミュウになったような顔で、彼らに味方する時が。
そうなった時も、きっと一人だけ…。
(…ついてくるんだ…)
あのマツカなら、と尋ねなくても分かること。
宇宙の全てがミュウの側へと転がったとしても、ミュウのマツカは残るのだろう。
ただ一人きりで、自分の側に。
もう負け戦で、自分もろとも滅ぼされると分かっていても。
最後まで残った頑固な人類、そう勘違いされて消される時が来ようとも。
(…自分の命も顧みないで…)
行動を共にしてくれる人間、それが友達。
遠い日にサムが教えてくれた。
サム自身はそうは言わなかったけれど、そういうものだと教えられた。
マザー・イライザが仕組んだらしい、E-1077での新入生時代に起こった事故。
スウェナを乗せて入港して来た、宇宙船が見舞われた衝突事故。
上級生たちさえ行かなかった現場、其処へ救助に向かった自分。
サムは迷わずついて来てくれた。
「船外活動は得意だから」と、「しっかり食って、しっかり動く」と、こともなげに。
そうしてサムに救われた命。
命綱さえつけることなく、サムは助けに来てくれた。
一つ間違えたら、サムの命も宇宙の藻屑だったのに。
制御を失った自分の巻き添え、回転しながら宇宙の彼方へ飛ばされたかもしれないのに。
(…それを平気でやってのけるのが、友達なんだ…)
サムは実際それをやったし、きっとシロエもそうだったろう。
死ぬと承知で真っ直ぐに飛んで、宇宙に散ってしまったシロエ。
自分があの船を落としたけれども、ああいう風にならなかったなら。
マザー・イライザが選んだ捨て駒、それがシロエでなかったら。
(…マツカのように、上手い具合に…)
成人検査をパスして来ていたミュウだったのなら、シロエもきっと生き延びた筈。
マザー・システムを嫌いながらも、エリートとして。
きっとメンバーズの道を歩んで、何度も喧嘩を繰り返しても…。
(…私に何かあった時には…)
手を差し伸べてくれたのだろう。
憎まれ口を叩きながらも、「仕方ないですね」と恩着せがましく。
「高くつきますよ?」と恩を売ったりもして。
本当は命を懸けていたって、それさえもきっと…。
(サムと同じに笑い飛ばして…)
なんでもないのだ、という顔をしていただろう。
そう、シロエだって、生きていれば、きっと。
サムとシロエと、いる筈だった二人の友。
もしも自分の運が良ければ、マザー・イライザが作った命でなかったら。
けれど、自分が殺したシロエ。
あの時は他に道などは無くて、マザー・イライザに従わざるを得なかったから。
今から思えば、助ける道はあったのに。
シロエの船を見逃がしていれば、シロエはミュウの母船に救われて生きていたのだろうに。
(…サムなら、きっと見逃したんだ…)
そうだ、と確信できるサム。
そのサムもまた失った。
サムは生きてはいるのだけれども、もう覚えてはいてくれない。
病院まで会いに出掛けて行っても、サムにとっては「赤のおじちゃん」。
かつてのように話せはしないし、友ではあっても、今の自分と同じ場所には…。
(立っていないし、サムの世界に、友達のキースはいないんだ…)
今のサムはもう、命懸けでは来てくれない。
自分が危機に陥っていても、サムには理解出来ないから。
そしてシロエは死んでしまって、懸ける命すら持ってはいない。
(……もう、友達は……)
本当の意味でそう呼べる者は、誰も自分の側にはいない。
だから苛立つ、マツカを見ると。
最後まで自分の側にいるだろう、気弱なミュウのことを思うと。
(…マツカは、命を捨てるだろうに…)
命懸けで自分を救おうとさえ、きっとマツカはするのだろうに。
それなのに、マツカを「友」と呼べない。
マツカとの出会いが不幸だったせいか、それともマツカが弱すぎるのか。
ジルベスターまで、たった一人で自分を救いに来たマツカ。
あの時、マツカは命を懸けたし、メギドでもまた救われた。
(…いったい、何処が違うのだ…)
自分のために命を懸けてくれたサムや、きっと懸けるだろうシロエ。
彼らとマツカの何処が違うのか、どうして「友」になれないのか。
(……今更だ……)
散々マツカを道具のように扱い続けて、今更、友になりたいだなどと。
彼ならば友になれるだろうにと、なのに何故だと考えるなど。
(…友が欲しいなど…)
言えた義理か、と自分自身を叱咤する。
そのように動きはしなかったのだし、これが当然の結果だろうと。
(……私には似合いなのだがな……)
時代遅れの人類の指導者、そのように作られた命。
孤独に生きて死んでゆくのが似合いなのだし、それだけの覚悟は出来ている。
ただ、一つだけ悔いがあるならば…。
(…友達を作り損ねたな…)
それもまた私らしいのだがな、と浮かべるしかない自嘲の笑み。
サムの時にも、サムの方から友達になってくれたから。
自分は何もしなかったから。
(そして、シロエは…)
この手で殺してしまったのだし、友を作れるわけがない。
命を懸けてくれるだろうマツカ、彼と二人で最期を迎える日が来ようとも、自分には。
マツカと自分と二人だけしか、もう戦場にはいなくても。
(きっと最期まで…)
一人なのだ、と見える気がする自分の最期。
友を作るには、自分は向いていないから。
友になり得ただろうシロエも、自分が殺してしまったから。
たとえマツカが隣にいてくれようとも、最期まで孤独だろう命。
友を作るには向かない自分は、そのマツカさえも「友」と呼べないだろうから…。
作れない友・了
※マツカがもっと押しの強い人間だったなら。…キースと対等にやり合えたなら。
きっと友達になれたんだろう、という気がします。立場は部下でも、マブダチにね。
(マザー・イライザ…)
それが何さ、とシロエが顰めた顔。
ステーションE-1077、其処で与えられた自分の部屋で。
SD体制の時代の教育の要、エリートを育成するための最高学府。
(…こんな所になんか…)
来たくなかった、いつまでも故郷にいたかった。
十四歳の誕生日を迎えた子供は、大人の世界へ旅立つとは知っていたけれど。
目覚めの日とはそういうものだと、学校で何度も習ったけれど。
(……誰も教えてくれなかった……)
その日に受ける成人検査が何なのか。
受ければ何が起こるというのか、自分はどうなってしまうのか。
(…荷物は持って行けないって…)
そういう規則は知っていたものの、「邪魔になるから」だと思っていた。
成人検査は健康チェックのような検査で、それには荷物が邪魔なのだろう、と。
(だから、注意されたら置けばいい、って…)
そう考えて、大切な本を持って出掛けた。
両親がくれた宝物。
幼い頃から大事にしてきた、ピーターパンの本を鞄に入れて。
(…だけど、ぼくには…)
これしか残らなかったんだ、と机の上の本を見詰める。
ピーターパンの本は自分と一緒に来たのだけれども、他のものは全部置いて来た。
大好きな両親も、懐かしい故郷も、何もかも。
子供時代の記憶と一緒に失くした全て。
憎い機械に、テラズ・ナンバー・ファイブに消された、「捨てなさい」と。
「忘れなさい」と命じた機械。
そうして全て失くしてしまった、ピーターパンの本以外は。
E-1077に連れて来られて、既に何日も経ったのだけれど。
同じ船で此処に着いた者たちや、同じ日に到着した者たち。
共にガイダンスを受けた同級生たち、彼らは此処に馴染んでゆくのに…。
(…こんな薄気味悪い場所…)
嫌だ、としか思えないステーション。
頼りなく宇宙に浮いていることより、足の下に地面が無いことよりも…。
(…みんな、平気で…)
誰も振り返りはしない過去。
自分と同じに、過去を失くした筈なのに。
子供時代の記憶は薄れて、もう漠然としたイメージくらいしか無い筈なのに。
なのに平気な同級生たち、それが気味悪くてたまらない。
おまけに此処は、機械が治めているという。
(マザー・イライザ…)
そういう名前で呼ばれる機械。多分、巨大なコンピューター。
恐らくはきっと、あの憎らしいテラズ・ナンバー・ファイブと同じ。
(気味悪い顔で…)
顔の左右が歪んだような、醜く恐ろしい姿。
見た者を石に変えると言われる、メデューサのように忌まわしい顔。
(髪の毛が全部、蛇になっていても…)
驚かないよ、と思うほど。
どうせ会ったら、そういう姿だろうから。
テラズ・ナンバー・ファイブなどより、ずっと醜いだろうから。
そんな姿だ、としか思えない機械。
出来れば会わずにいたい機械が、マザー・イライザ。
もう機械などと話したいとは思わないから。
テラズ・ナンバー・ファイブで懲りたし、二度と関わりたくもないから。
(…会うもんか…)
絶対に会ってやるもんか、と心で繰り返していたら、けたたましく部屋に鳴り響いた音。
此処では嵌めているのが規則の、手首の輪から。
(マザー・イライザ…!)
この音がコールサインなのだと教わった。
コールされたら、行かねばならない。…マザー・イライザが待つ場所へ。
呼ばれる理由は実に様々、叱られるのだと聞いている。
けれど自分は今の所は無失点だし、呼ばれる理由は何も無い筈。
(……なんで……)
どうして、と手首を睨んでみたって、コールサインは止まらない。
マザー・イライザに会いに行かない限りは、この音はけして消えないという。
引き摺ってでも連れてゆかれる、自分の足で行かないのなら。
「マザー・イライザがお呼びだ」と、音を聞きつけた職員たちに捕まって。
あるいはプロフェッサーに言われて、渋々出掛けてゆくしかない。
(…そのくらいなら…)
行ってやるさ、と蹴り付けた机。
醜い機械と御対面だと、呼び付けた理由を正してやると。
何もしていないのに何故呼んだのかと、憎まれ口の限りを叩いて。
立ち上がったら、鳴り止んだコール。
まるで心を読んでいるよう。
(……気味が悪いったら……)
それとも監視カメラだろうか、如何にも機械がやりそうなこと。
気付かれないよう、機械の瞳で全てを監視し続ける。
(…部屋に帰ったら…)
そいつを見付けて壊してやるさ、と鼻で嗤った。
機械が監視すると言うなら、こちらもそれに対処するまで。
この部屋の中を端から探して、監視カメラを見付けて微塵に打ち砕くか…。
(…偽の映像でも流せるようにしてやろうかな?)
そういう勝負なら負けないよ、と唇に浮かべた勝ち誇った笑み。
相手は所詮、機械だから。
どんなに優れたコンピューターでも、人間には劣る筈だから。
(勝たせて貰うよ)
このぼくが、と固めた決意。
自分は機械に負けはしないし、言いなりにだって、なったりはしない。
監視するなら、そうされないよう手を打てばいいだけのこと。
カメラが無ければ、機械の目など無いのと同じなのだから。
けしてこの部屋を覗けはしないし、先回りだって出来ないから。
(帰って来たら…)
最初にやることは、監視カメラの発見と破壊。
それで防げる機械の盗み見、マザー・イライザの視線は消える筈だから。
ぼくは負けない、と部屋を出てから進んだ通路。
マザー・イライザはこの先にいる、と教わった場所へ真っ直ぐに。
(…出て来い、機械…!)
お前なんかに負けるもんか、と扉の奥へと踏み込んだ途端に、止まった息。
もう文字通りに止まった呼吸。
息をすることさえも忘れてしまって、懐かしさに胸が高鳴った。
目の前に故郷の母がいたから。
二度と会えないと思っていた母、顔さえもぼやけてしまった母が。
「ママ…!!」
どうしてママが此処にいるの、と叫んで駆け寄ったのだけど。
母に抱き付こうとしたのだけれども、すり抜けてしまった自分の腕。
「……ママ……?」
ママの身体が透き通ってる、と見開いた瞳。
いったい母はどうしたのだろう、それとも立体映像だろうか…?
「ママ……?」
急にこみ上げて来た不安。
故郷の母に何か起きたか、父に何かがあったのか。
それで知らせが来たのだろうか、立体映像で自分宛にと。
(……ママ……?)
何があったの、と尋ねたいのに声が喉から出て来ない。
あまりの不安に押し潰されて、すっかり声が嗄れてしまって。
マザー・イライザのコールの理由はこれだったのかと、恐ろしくて。
故郷で何が起こったのかと、母はいったい、何を知らせに来たのかと。
ただ怯えながら待っていた言葉。
母の映像が告げに来た何か、きっと良くない何かの兆し。
それは間違ってはいなかったけれど、不安は当たっていたのだけども…。
「…ようこそ。セキ・レイ・シロエ」
あなたの心が不安定なのでコールしました、と微笑んだ母。
「…ママ……?」
コールって何、と驚いて見詰めた母の顔。
母の言葉とも思えないから、こんな言い回しを母はしなかった筈だから。
(ぼくのこと、ママは「あなた」だなんて…)
呼ばなかった、と途惑う間に、母は優しい笑顔で続けた。
「コールサインで来たのでしょう? …セキ・レイ・シロエ」
私の名前は、マザー・イライザ。
このステーション、E-1077のメイン・コンピューターです。
あなたが来るのを待っていました、と母は澱みなく話し続ける。
「お母さんの姿に似ているでしょう?」と、笑みを湛えて。
「見る者が親しみを覚える姿で現れることも、私の大切な役目なのです」と。
(……嘘だ……!)
お前なんかはママじゃない、と叫びたいのに、動かない舌。
身体ごと全部凍ってしまって、床に縫い止められたよう。
(…ママ、助けて…!)
パパ、と心で悲鳴を上げても、母の手が頬に触れて来る。…マザー・イライザの手が。
「いらっしゃい、シロエ」
あなたの心を私に見せて、と微笑む機械に逆らえない。
こうする間に、意識が薄れて消えてゆくから。
マザー・イライザが触れた頬から、身体中の力が抜けてゆくから。
目覚めた時には、やはり同じに目の前に母。
「大丈夫ですか?」と、「ずいぶん深く眠っていました」と。
気分はどうです、と慈愛に満ちた笑みを浮かべる母を激しく怒鳴り付けた。
「お前なんか」と、「ぼくは機械は大嫌いだ!」と。
「……まあ、シロエ……」
あなたは混乱していますね、と機械は叱り付けさえしない。
母ならば、きっと叱るのに。
「ママに向かって怒鳴るだなんて」と、「パパが帰ったら言わなくちゃ」と。
(…まだ、そのくらいのことは覚えているよ…!)
こんな機械には騙されない、と駆け出したけれど。
後をも見ないで逃げ出したけれど、シロエは気付いていなかった。
幾つかの記憶を消されたこと。
一部を書き換えられたこと。
(…何なんだ、あのマザー・イライザって…!)
機械のくせに、と走り込んだ部屋で机に叩き付けた拳。
母を真似るなど許しはしないと、反吐が出そうなコンピューターだと。
そうして怒り続けるけれども、戦いを決意するのだけれど。
『……全て、私のプログラム通り……』
あなたはそのままでいいのです、と部屋を視ているマザー・イライザ。
シロエの中から、監視カメラを破壊する決意を消したから。
それを消されたことさえ知らずに、シロエは孤独な戦いの道へと踏み出したから…。
母を真似る機械・了
※シロエには「ママ」に見える筈なのが、マザー・イライザ。母に似た姿で現れる機械。
最初の出会いはどうだっただろう、と考えていたら、こういうことに。シロエ、可哀相。
(地球を……見たかった)
そう、今も。あの青い星を。
辿り着けないままに、命尽きようとしている今も。
あの青なのだ、とブルーの心を占めるもの。
キースに撃たれて右の瞳を失くしたけれども、それでも「違う」と思う青。
視界を覆い尽くす光は、この青は地球の青ではないと。
(…沈むがいい)
忌まわしい青を帯びたメギドは、地獄の劫火は、自分と共に燃え尽きるがいい。
暗い宇宙に沈むがいい。
こんなモノなど、誰も欲しいと思わないから。
死と破壊しかもたらさないもの、滅びの炎を吐くものなどは。
(同じ青でも…)
どうして、これほどまでに違う青なのか。
焦がれ続けた地球の青とは、まるで違った魔性の青。
滅びるがいい、と心から思う。
この青は自分が連れて逝くから、船は地球へと旅立つがいい。
長く暮らした、あの白い船。
楽園という名のミュウの箱舟、シャングリラはどうか、青い地球まで…。
不思議なくらいに凪いでいる心、そうして伸びてゆく時間。
じきに全てが終わるのに。
この命の灯は消えるというのに、まだ紡がれてゆく想い。
(ジョミー…)
皆を頼む、と叫んだ思念は、ジョミーの許に届いたろうか。
フィシスに託した記憶装置も、ジョミーの手へと渡るだろうか。
(…フィシスなら、きっと…)
きっと分かってくれると思う。
あれを残して行った理由を、彼女はあれをどうすべきかを。
青い地球を抱いた神秘の女神。
無から作られた者と知りながら、ミュウだと偽り、手に入れたフィシス。
(皆を騙して…)
フィシスにも嘘をついたけれども、そうまでしても欲しかった地球。
彼女だけが持つ青い地球が欲しくて、それを見たくて犯した罪。
(…本物の地球を見られないのは…)
そのせいだろうか、「地球が欲しい」と欲張ったから。
白い箱舟の皆を騙して、地球を抱くフィシスを欺いてまで。
青い地球まで辿り着けないのが、罪の報いと言うのなら。
罪ゆえに此処で終わると言うなら、この身で罪を償った後。
メギドと共に滅びた後には、どうか地球まで飛ばせて欲しい。
魂だけでも、青い地球まで。
肉眼では地球を見られなくても、この魂に焼き付けるから。
青く美しい星の姿を、母なる地球を。
(…地球へ…)
どうか地球へ、と宇宙(そら)へ舞い上がる想い。
神にも慈悲があると言うなら、あの青い星へ。
魂は何処へ飛び去ろうとも、何億年という旅をしようと、旅の終わりが地球ならばいい。
あの青い星を、一目だけでも見られればいい…。
それがブルーの最期の願い。
暗い宇宙を彷徨おうとも、青い地球へと。
幾千億の塵と化した後でも、ひとひらでいい、地球に辿り着ければ、と。
この魂を乗せた欠片が巡り巡って、あの青い星に着けたなら…。
どうか、と願い、その身は滅びたけれど。
魂は宇宙(そら)へ飛び去ったけれど、その旅の終わり。
(…地球か…?)
そうなのか、と再び目覚めた意識。
ずいぶんと長く旅をしたような、星の瞬きほどだったような、定かではない流れた時。
(……ああ、地球は……)
あの直ぐ側に在ったのか、と見上げたメギド。
すっかり風化しているけれども、地球の大地に突き刺さったそれ。
(意外と頑丈だったのだな…)
爆発したかと思ったのに、と青い空を仰ぐブルーは知らない。
あれから気の遠くなるほどの時が流れ去ったことも、そのメギドは別のものだとも。
ただ、分かることは「地球」ということ。
今の自分は花になったこと、風に揺られる淡い桃色の花に。
そう、人の身ではないのだけれども、満ちてゆくのは幸せな想い。
願いは叶えられたから。
青い地球に咲く花になれたから、地球をこの目で見られたから…。
青い星まで・了
※「7月28日はブルー生存ネタの日なんだぜ!」と、2011年から戦っていた管理人。
ハレブル転生ネタを始めた2014年から、記念作品はサボっていたんですけど…。
2016年7月28日の記念作品、ハレブルじゃないから此処に置かせて下さいです。
