(地球を……見たかった)
そう、今も。あの青い星を。
辿り着けないままに、命尽きようとしている今も。
あの青なのだ、とブルーの心を占めるもの。
キースに撃たれて右の瞳を失くしたけれども、それでも「違う」と思う青。
視界を覆い尽くす光は、この青は地球の青ではないと。
(…沈むがいい)
忌まわしい青を帯びたメギドは、地獄の劫火は、自分と共に燃え尽きるがいい。
暗い宇宙に沈むがいい。
こんなモノなど、誰も欲しいと思わないから。
死と破壊しかもたらさないもの、滅びの炎を吐くものなどは。
(同じ青でも…)
どうして、これほどまでに違う青なのか。
焦がれ続けた地球の青とは、まるで違った魔性の青。
滅びるがいい、と心から思う。
この青は自分が連れて逝くから、船は地球へと旅立つがいい。
長く暮らした、あの白い船。
楽園という名のミュウの箱舟、シャングリラはどうか、青い地球まで…。
不思議なくらいに凪いでいる心、そうして伸びてゆく時間。
じきに全てが終わるのに。
この命の灯は消えるというのに、まだ紡がれてゆく想い。
(ジョミー…)
皆を頼む、と叫んだ思念は、ジョミーの許に届いたろうか。
フィシスに託した記憶装置も、ジョミーの手へと渡るだろうか。
(…フィシスなら、きっと…)
きっと分かってくれると思う。
あれを残して行った理由を、彼女はあれをどうすべきかを。
青い地球を抱いた神秘の女神。
無から作られた者と知りながら、ミュウだと偽り、手に入れたフィシス。
(皆を騙して…)
フィシスにも嘘をついたけれども、そうまでしても欲しかった地球。
彼女だけが持つ青い地球が欲しくて、それを見たくて犯した罪。
(…本物の地球を見られないのは…)
そのせいだろうか、「地球が欲しい」と欲張ったから。
白い箱舟の皆を騙して、地球を抱くフィシスを欺いてまで。
青い地球まで辿り着けないのが、罪の報いと言うのなら。
罪ゆえに此処で終わると言うなら、この身で罪を償った後。
メギドと共に滅びた後には、どうか地球まで飛ばせて欲しい。
魂だけでも、青い地球まで。
肉眼では地球を見られなくても、この魂に焼き付けるから。
青く美しい星の姿を、母なる地球を。
(…地球へ…)
どうか地球へ、と宇宙(そら)へ舞い上がる想い。
神にも慈悲があると言うなら、あの青い星へ。
魂は何処へ飛び去ろうとも、何億年という旅をしようと、旅の終わりが地球ならばいい。
あの青い星を、一目だけでも見られればいい…。
それがブルーの最期の願い。
暗い宇宙を彷徨おうとも、青い地球へと。
幾千億の塵と化した後でも、ひとひらでいい、地球に辿り着ければ、と。
この魂を乗せた欠片が巡り巡って、あの青い星に着けたなら…。
どうか、と願い、その身は滅びたけれど。
魂は宇宙(そら)へ飛び去ったけれど、その旅の終わり。
(…地球か…?)
そうなのか、と再び目覚めた意識。
ずいぶんと長く旅をしたような、星の瞬きほどだったような、定かではない流れた時。
(……ああ、地球は……)
あの直ぐ側に在ったのか、と見上げたメギド。
すっかり風化しているけれども、地球の大地に突き刺さったそれ。
(意外と頑丈だったのだな…)
爆発したかと思ったのに、と青い空を仰ぐブルーは知らない。
あれから気の遠くなるほどの時が流れ去ったことも、そのメギドは別のものだとも。
ただ、分かることは「地球」ということ。
今の自分は花になったこと、風に揺られる淡い桃色の花に。
そう、人の身ではないのだけれども、満ちてゆくのは幸せな想い。
願いは叶えられたから。
青い地球に咲く花になれたから、地球をこの目で見られたから…。
青い星まで・了
※「7月28日はブルー生存ネタの日なんだぜ!」と、2011年から戦っていた管理人。
ハレブル転生ネタを始めた2014年から、記念作品はサボっていたんですけど…。
2016年7月28日の記念作品、ハレブルじゃないから此処に置かせて下さいです。