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老人とメギド

「なんじゃとぉ!?」
 お前は阿呆か、と炸裂したゼルの怒鳴り声。シャングリラ中に響き渡りそうな勢いで。
「まったくだよ。どの面下げて、ノコノコ戻って来たんだい?」
 もう馬鹿としか思えないね、とブラウも容赦しなかった。
「…で、でも…。ブルーがそうしろって…」
 だから戻って来たんだけど、とジリジリと後ずさりするジョミー。そう、格納庫で。
 メギドの炎に襲われたナスカ、それをブルーと防いだけれど。ナスカで生まれた七人の子たちも協力してくれたけれど、其処から後。
 ブルーが「この子たちを連れて船に戻りたまえ」と言うから、このシャングリラに戻って来た。なにしろブルーの言葉なのだし、それは素直に。「ごもっともです」と、子供たちを連れて。
 いったい何処が悪いと言うのか、自分はブルーの言う通りにしただけなのに。
(…どうして吊るし上げられるわけ?)
 子供たちは一人残らず連れて戻った筈なのに、と途惑っていたら。
「まだ分からんのか、阿呆めが!」
 はい、そうですかと聞くような馬鹿が何処におるんじゃ、と怒りMAXのゼル。シュンシュンと沸騰する薬缶さながら、頭から湯気が立ちそうなほど。
「だけど、ブルーの命令で…!」
「それがいかんと言っておるのに、まだ言うか!!」
 こんな阿呆に言うだけ無駄じゃ、と蹴り出されてしまった宇宙空間。
 格納庫の向こうは宇宙だからして、思いっ切りの勢いで。ちゃっかりシールドを張り巡らした、ゼルとブラウにはオサラバで。
 そして届いた二人の思念波、「反省しやがれ!」と。
 「テメエの不始末はこっちでキッチリ片付けるから、ナスカの方を頑張って来い」と。
 曰く、「生き残った連中は全員回収して来い」と、「それも出来ない馬鹿は要らん」と。


 宇宙に放り出されたジョミーは、ナスカにダイブして行ったけれど。
 いくらソルジャーでも、長老たちに逆らう根性は無くて、大慌てで降りて行ったけれども…。
「えらいことをしてくれおったわ…。あのド阿呆が!」
「ブルーは昔から、言い出したら聞かないタイプだけどねえ…」
 今回ばかりは従えないね、とブラウも頭を振っている。「早いトコ、回収しに行かないと」と。
 そんな二人が戻ったブリッジ、報告を受けたキャプテンの顎もガクンと落ちた。
「なんだって!? ソルジャー・ブルーがいらっしゃらない!?」
「そうなんじゃ。ジョミーの阿呆が、ノコノコと船に戻って来おったわ」
 格納庫から蹴り出したがのう、とゼルが指差すナスカの方向。「今はあそこじゃ」と。
「それで、ソルジャー・ブルーの方は…?」
 いったい何処へ行かれたのです、とエラも案じるブルーの行方。言われてみれば、ナスカ上空にあったサイオン反応、それが一つだけ消えていたから。…かなり早くに。
「よりにもよってメギドなんだよ、厄介な…」
 一人でアレを止めるつもりさ、とブラウはお手上げのポーズ。「無茶すぎるってね」と。
「で、では、ソルジャー・ブルーは、お一人で…」
 なんということだ、とハーレイが天井を仰いだけれども、「それじゃ」とゼルが上げた声。
「急いで回収しに行かんと…。ジョミーは納得したかもしれんが、ワシらはのう…」
「無理ってもんだよ、打つ手はまだまだあるんだからさ」
 アンタも分かっているんだろう、とハーレイにズズイと迫るのがブラウ。
 「このシャングリラを舐めるんじゃないよ」と、「ミュウにはミュウのやり方がある」と。


 それから間もなく、急発進した一機のギブリ。
 いわゆるミュウのシャトルだけれども、普通のとはかなり違っていた。
「今こそ、キャプテン・ゼルの出番じゃ!」
 改造しまくった甲斐があったわ、と操縦席に座るのはゼル。隣の席にはブラウだって。
 やたらとメカに強いのがゼル、趣味とばかりに改造を重ねていたギブリ。暇さえあったら、弄りまくって。最初に載せたのがワープドライブ、ついにはステルス・デバイスまでも。
 早い話が、これで飛んだらアッと言う間にジルベスター・エイト、メギドがある場所。
 ステルス・デバイス搭載なのだし、人類軍の船には捕捉されない仕組み。
 かてて加えて、秘密兵器な人材が一人乗っていた。…ブラウの他に。
「いいかい、トォニィ? ワープアウトしたら後は頼むよ」
「分かってる! ブルーを助ければいいんだね?」
 任せといて、と張り切るトォニィ。
 子供たちの中では最年長だけに、まだ充分にあった体力。目指す宙域に到着したなら、ブルーの行方を探すのが役目。まずは発見、それから回収。…瞬間移動で。
「さてと…。後はトォニィに任せとくとして…」
 ランデブーポイントをどうするかねえ、とブラウが検討している座標。
 恐らくメギドの第二波が来るし、それよりも前にナスカを離れないとヤバイのがシャングリラ。
 よって何処かで合流するのがベストな方法、あちらもこちらもワープしてから。
「適当でええじゃろ、そう簡単に事故は起こらんわい」
 そのために辺境星域に決めて来たんじゃ、と応じたゼル。「アバウトにワープで充分じゃ」と。
 合流地点にと選んだ宙域、其処に出てから連絡を取れば落ち合えるわ、と。


 間違ってはいないゼルの方針、ワープするなら避けるべきなのが衝突事故。
 けれど宇宙は広いわけだし、シャングリラが如何に巨大な船でも、ギブリ程度の小型艇とは…。
(そうそう衝突しないんじゃ…!)
 とにかくトンズラ、そちらが肝心。ソルジャー・ブルーを回収したなら、即、ワープ。
 そうこうする間に到着したのがジルベスター・エイト、人類軍の船とメギドが見えたから…。
「頼むぞ、トォニィ!」
 お前が頼りじゃ、と言い終わらない内に、トォニィの姿は消えていた。
 一方、メギドの制御室では…。
「これで終わりだ…!」
 ソルジャー・ブルーを銃で撃ちまくったキース、彼が格好をつけた瞬間。
 撃った弾はブルーのシールドを突き抜け、赤く煌めく右の瞳を微塵に砕く筈だったけれど…。
「キース…!」
 此処は危険です、と駆けて来たマツカ。キースを抱えて瞬間移動で逃げたその時、入れ替わりに飛び込んで来たのがトォニィ。
「ブルー!」
 危ない、と叫んだ「できる」トォニィ、弾をしっかり止めていた。
 ブルーの方では気付きもしないで、バーストさせたサイオンを床に叩き付けるという有様。
 助けが来るとは思っていないし、最初から死ぬつもりだから。…そういう予定だったから…。
(ジョミー…!)
 みんなを頼む、と遺言よろしく最期の言葉を紡いだ所へ、かかった「待った」。
 いきなり意識がブラックアウトで、本人的には「死んだ」と自覚したのだけれど…。


「連れて来たーっ!」
 血だらけだから仮死状態にして来たよ、とトォニィが抱えて来たブルー。
 もっともトォニィは子供なのだし、「抱える」という表現は相当に無理がある感じ。
「おお、よくやった! …しかし、ボロボロじゃのう…」
 ノルディがかなり手こずりそうじゃ、と嘆きながらもゼルは大満足で、ブラウも笑顔。
「いいじゃないか、無茶をやらかしたって自覚して貰わないとね」
 あたしたちの苦労が無駄になっちまう、と打ち込んでゆく座標、ギブリはそのままワープした。丁度その頃、ナスカの方でも…。
「キャプテン、ワープ!!」
 やっと全員回収できた、と戻ったジョミーの一声、シャングリラの方もワープして消えて…。
 メギドはと言えば、ブルーの破壊活動のせいで下がってしまった照射率。
 その上、なんとか撃った先には、もうシャングリラの影さえも無くて、ミュウの被害は第一波で死んだ運の悪い者だけ。シェルターに残った頑固な面々、それもジョミーが回収したから。


 そんなこんなで終わった惨劇、じきに合流することになった、ゼルのギブリとシャングリラ。
「どうじゃ、ワシらが本気を出したら、こうなるんじゃ!」
 ソルジャー・ブルーは生きておるわい、とゼルは大威張りで、トォニィも浴びている称賛。
 「まだ小さいのに、よく頑張った」と、「流石は俺たちのナスカの子だ」と。
 一方、立つ瀬が無いのがジョミーで、まるで初めてシャングリラに来た頃のよう。
 「あいつのせいで、ソルジャー・ブルーは…」とヒソヒソ陰口、「見捨てて船に戻ったらしい」などと針の筵な船の中。
(…ブルー、なんとか言って下さい…!)
 早く意識を取り戻して、皆に「違う」と言ってやって下さい、とジョミーは泣きの涙だけれど。
 ブルーの意識が戻りさえしたら、みんなも分かってくれる筈だ、と思う毎日だけれど。
「…ブルーの方も、ガツンと叱ってやらないとねえ…」
 単独行動で迷惑かけてくれたんだから、というブラウの意見に長老たちは賛成だった。
 キャプテンも全く反対しないし、どうやらブルーは「みっちりと」叱られるらしい。
 先の指導者の立場も忘れて、好き放題をやらかしたから。
 今や「阿呆」と評判のジョミー、彼にも負けていない「阿呆」で、大迷惑な老人だから…。

 

         老人とメギド・了

※「7月28日はブルー生存ネタの日なんだぜ!」と、2011年から戦っていた管理人。
 ハレブル転生ネタを始めた2014年からサボッてましたが、久しぶりに。
 2016年7月28日記念作品、何故だか「その2」。ネタ系で書くとは思わなかったよ…。




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