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叶わない未来
(ソルジャー・ブルー…)
 今の状況を作り出したのは、奴だな、とキースは心の中で、一人、呟く。
 首都惑星ノアの自室で、とうに夜更けになっていた。
(…私の居場所も、あいつのせいで…)
 こんな所になっているんだ、とキースが見回す部屋は、軍人向けの場所ではない。
 最高機関「パルテノン」に属する「元老」だけが与えられる、特別な空間。
(これでも、簡素なものを、と頼んだ結果で…)
 そうでなければ「豪邸」に住む羽目になっているぞ、と嘆きたくなる。
 元老の地位は必要だけれど、余計な「家」など望んではいない。
(…思っていたより、かなり早くにパルテノン入りだが…)
 なんとも水の合わない場所だ、と思わざるを得ない。
 「初の軍人出身の元老」と騒がれるだけあって、軍人の世界とは大きく異なる。
(…いずれいつかは、来る筈の場所で…)
 グランド・マザーも「そのつもり」で、「キース・アニアン」を無から作り出した。
 SD体制を正しく導いてゆけるよう、マザー・イライザとの共同作業。
(…そして私は、計画通りに此処へ来たとはいえ…)
 計算違いはあったろうな、とキースは、コーヒーのカップを指で弾いた。
 このコーヒーを淹れた「マツカ」は、人類ではない。
 キースの側近として知られる彼は、ジルベスター・セブン以来の部下だけれども…。
(正体は、ミュウで…)
 もしも「マツカ」がいなかったなら、「キース」は生きて此処にはいない。
 ソルジャー・ブルーがメギドを破壊した時、道連れにされて死んでしまって全ておしまい。
(…そうならなかったのは、人類にとっては幸運だろうが…)
 あの「メギド」から、全て変わった、と今日までの道を振り返ってみる。
 メギドが正常に作動していれば、キースは、未だに「軍人」だろう。
 ミュウ殲滅の褒美で、何階級か特進を遂げて、最高位の国家騎士団総司令かもしれない。
 しかし、現実は違った。
 キースは「国家騎士団総司令」の任を務める途中で、パルテノン入りをしている。


 恐らく、これも「計算違い」の一つだろう。
 ジルベスター・セブンが崩壊した後、ミュウは急速に戦力を増した。
 アルテメシア陥落を手始めに、あちこちの星でマザー・システムを滅ぼしつつある。
(…あの時、ソルジャー・ブルーが、来ていなければ…)
 ジルベスター・セブンは「メギドの第二波」で燃えて、ミュウの母船も消えていた。
(タイプ・ブルーが何人いようが、そうなった筈だ…)
 第二波を防ぐ余力は無かっただろうな、と思う根拠は「タイプ・ブルー」たちにある。
 「メギドを防いだ」と、人類軍を驚かせたタイプ・ブルーは、大部分が幼い子供だった。
 幼児や乳児が急成長して、防いだと聞く。
(…元が幼い子供では…)
 体力的な限外があるし、第一波を止めるのが精一杯だったろう。
 第二波攻撃を加えられていれば、ミュウを殲滅出来ていたのに、そうはならなかった。
(…ソルジャー・ブルー…)
 自らの命を犠牲にしてまで、今の状況を作り出した男、と憎いけれども、その逆でもある。
(……どうして、其処まで出来たのだ……)
 死んでしまえば終わりではないか、と思う一方、羨ましいと思う自分が存在する。
(…セキ・レイ・シロエ…)
 彼の最期も少し似ていた、と今だから感じる。
 シロエも「命を懸けて守りたかった」ものがあったから、あの道を選んだ。
(ソルジャー・ブルーのように、誰かを守るものではなかったが…)
 自分の信念を貫き通して、「心」を守った。
 機械が支配している世界を嫌って、自らの願う場所を目指して飛び去って行った。
 命と引き換えの旅立ちだったけれども、彼に後悔は無かっただろう。


(……ミュウというのは……)
 そういう人種になるのだろうか、と考えてしまう。
 側近に据えた「マツカ」も、何処か「彼ら」に似ている所があった。
 人類のキースに仕えているのは、マツカにとっては「命懸け」でもある。
 正体が知れれば、彼の命は「その場で」消されて、逃げる暇さえ与えられはしない。
 なのに、マツカは逃げもしないで、側近の務めを続けている。
(…私が命の恩人だから、と…)
 ミュウの側へは行かないままで、危うい場所で生きているのも、ミュウだからかもしれない。
 多分、マツカが「命を懸けて守りたいもの」は、「キース」なのだろう。
 だからキースに仕え続けて、ミュウならではの力で「キース」を守り続ける。
(…ミュウがそういう人種だとすれば、人類の方は…)
 どうなのだろうか、と改めて考えてみるまでもない。
 パルテノン入りを果たすより前、何度も足を引っ張られた。
 「キース」が目障りな者たちに殺されかけたのは、数え切れないほどの回数。
(上層部が、その有様ではな…)
 一般市民の世界も、容易に想像出来る。
 「自らの命を犠牲にしてまで」、何かを守ろうとする者は、皆無なのに違いない。
(…情けない話だ…)
 養父母でさえも、自分の子供を「殺させる」のだしな、と頭に浮かぶ「ミュウの処分」。
 ミュウの兆候を見せた子供は、ユニバーサルに通報されて、殺されるのが常識。
 殺されなくても、研究対象として「捕獲」されるだけ。
(…親が自分の保身のために、いち早く…)
 赤ん坊でも届け出るのだ、と恐ろしくもある。
 ミュウの兆しを見せる前の子は、「我が子」として愛おしまれていたのだろうに。


 なんと違いが大きいのか、と考えてゆけばゆくほど、ミュウが羨ましくなって来る。
 彼らの生き方は「理解出来ない」と思う自分と、「羨ましい」と感じる自分。
(…指導者が死んでしまえば、組織は終わってしまうのに…)
 ソルジャー・ブルーは、その道を選んだ、と不思議ではあっても、今の状況が全て。
 彼が命を捨てなかったら、今も人類の世界は安泰だったろう。
(…私のパルテノン入りにしても、もっと先の事で…)
 ミュウは処分されるだけの異物だった、と痛切に思い知らされる。
 「ソルジャー・ブルーが、命を犠牲に守ったもの」が、いったい何を生み出したのか。
 彼が作り出した現状が指しているのは、間違いなく「ミュウの勝利に終わる」結末。
 いずれ彼らがSD体制を倒し、ミュウの時代がやって来るのだろう。
(…ミュウの因子を、出生前に遡って、抹消しない限り…)
 その日は来る、と分かっているから、「ソルジャー・ブルー」は「偉大だった」。
 敵ながら天晴れ、と思わされるわけで、本当に、彼が羨ましい。
 同じ指導者への道を歩んではいても、キースに「そういう未来」は、ありそうにない。
(私が命を懸けて守りたいほど、この世界には…)
 素晴らしいものなど無いのだしな、と人類の世界が嘆かわしい。
 出世のために他人を消したり、保身のために我が子を殺させたりしている者たちばかり。
(たまには、マシな者もいるようだが…)
 そんな輩はミュウの味方だ、とスウェナ・ダールトンを頭に描く。
 彼女は今や「ミュウの協力者」で、ジョミー・マーキス・シンとも接触しているくらい。
 つまりは「ミュウか、ミュウと近しい者」だけが、ヒトらしく生きているのだろう。


(…私には、その生き方は無理で…)
 許されてさえもいないのだが、と思いながらも、羨ましい。
 「命を懸けて守りたい」ものなど、「キース」には無いし、見付かりそうにも思えない。
(…理想の人類として作られたのだしな…)
 仕方ない、と溜息が零れるばかりなのだけれども、もしかしたなら、一つだけ…。
(……マツカ……)
 いつかミュウたちが攻めて来たなら、マツカも戦闘に巻き込まれる。
 指導者として立つ「キース」に対する、総攻撃が始まることだろう。
(…その時、マツカが側にいたなら…)
 彼を庇って散るのもいい、と思わないでもない。
 マツカの命が助かったならば、ミュウたちは「マツカから」、人類の話を聞くことが出来る。
(ろくな世界ではないのだが、それでもだ…)
 キースの部下たちと暮らした日々を語ってくれれば、人類の評価が「少しだけ」でも…。
(…上がってくれると嬉しいのだが…)
 私が「人類」にしてやれる、最後のことだ、と叶いそうにない「未来」を思う。
 その日が来た時、そう出来れば、と…。



           叶わない未来・了


※キースには「命を懸けて守りたいもの」があるのか、考えていたら生まれたお話。
 SD体制の世界を守るしかないのですけど、命懸けで守るには情けない世界ですしね…。





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