(……全て、プログラムだったと言うのなら…)
もしかしたら、とキースの脳裏を掠めた思い。
首都惑星ノアに与えられた個室、其処で一人きりで過ごす夜更けに。
側近のマツカはとうに下がらせ、冷めたコーヒーだけが残っているのだけれど。
それを傾け、「ゆりかご」のことを考えていたら、ふと気付いたこと。
フロア001、E-1077に在った、シークレットゾーン。
シロエに「行け」と言われていたのに、在学中には「辿り着けなかった」。
恐らくは、「来ていなかった」時期。
「キース」が其処に立ち入るためには、一定の期間が要ったのだろう。
何故なら、全ては「プログラムされたもの」だったから。
フロア001で見た、強化ガラスで出来た水槽。
その「ゆりかご」で育った「キース」の人生、水槽から出ても「育てられた」。
マザー・イライザの計算通りに、ありとあらゆる事象や「人」まで「用意されて」。
(…三十億もの塩基対を…)
無から合成して、繋いで、紡ぎ上げられたDNAという名の鎖。
そうして「作り上げた」キースを、「十四歳まで」水槽の中で「育てた」機械。
養父母や教師に「邪魔をされずに」、完璧な人間に成長するように。
その水槽から出した後にも、機械は同じに「教育した」。
入学して間もない頃に起こった、宇宙船の事故。
スウェナ・ダールトンも「巻き込まれた」それは、マザー・イライザが起こしたもの。
管制システムを乗っ取った上で、軍艦を許可なく発進させて。
民間人が乗っている船にぶつけて、乗員たちを「キースに救わせる」ために。
(私が救助に失敗したなら、誰一人として助からなくて…)
スウェナを乗せた船は、E-1077の区画ごと、パージされていただろう。
初期型の船に搭載されたエンジンは、セーフティーシステムが脆い。
事故を起こせば、反物質が漏れ出すことになるから。
区画ごと船をパージしないと、対消滅でE-1077までが「消える」結末。
そうならないよう、マザー・イライザは、乗員ごと船を「宇宙に」捨てたのだろう。
キースとサムが「乗員を全員救助した」後、空の船をパージしたのと同じに。
あの船に乗っていた、候補生たち。
彼らの命さえも「キースを育てる」ための材料、機械は何も迷いはしない。
そんな「事故」まで起こすほどだし、「キースを取り巻く友人」たちをも「選び出した」。
ミュウの長、ジョミー・マーキス・シンと「接触のあった人物」を二人。
アタラクシアで育った、サム・ヒューストンと、スウェナ・ダールトンを。
彼らと「キース」が「出会う」ようにと、E-1077の候補生にして。
(…それに、シロエだ……)
ミュウ因子を持った人間だから、と「選び出された」下級生。
マザー・システムに反抗的だったシロエも、「キースのために」と選ばれた者。
彼との出会いも、成績争いも、最後にシロエを「処分させた」ことも、全てプログラムの内。
(……シロエは、そのためだけに連れて来られて……)
暗い宇宙に散ったのだけれど、その「シロエのこと」が引っ掛かった。
キースが何処で作られたのか、「ゆりかご」の在り処を探り当てたのもシロエ。
そのこともやはり、マザー・イライザの計算で、「プログラム」だったのだろう。
シロエは答えを得たのだけれども、キースが「答え」に辿り着くには、早すぎた「時」。
E-1077を卒業するまでに、何度挑んでも、フロア001には「行けない」まま。
邪魔が入ったり、通路が封鎖されていたりもして。
(…そして、ようやく「時」が来たわけで…)
廃校になったE-1077で「知ることになった」、自分の生まれ。
シロエが「ゆりかご」と呼んでいた場所、水槽の中で「作られた」キース。
マザー・イライザの理想の子として、「地球の子」として。
他のサンプルとは違う「最高傑作」、そう位置付けられ、未来の指導者として。
(……私を作り上げるまでには……)
水槽の中で、大量の知識を流し込んでいたに違いない。
本来だったら、育英都市で「学ぶべきこと」や、他にも色々。
どんな人間よりも「優れた頭脳」を持った人間、それが「完璧に」仕上がるように。
他の誰にも負けない成績、まさしく「機械の申し子」として。
マザー・イライザが誇る子として、誰よりも「優れた」者になるよう。
そうやって「作り出された」キース。
E-1077始まって以来の秀才、そう称えられて当たり前。
機械が「完璧に」教育したなら、誰も「キース」に及びはしない。
どれほど優れた人間だろうと、「マザー・イライザの申し子」に勝てるわけもない。
(…しかし、シロエは……)
私に勝った、と今でも思い出せること。
自作のバイクに乗ったシロエが、得意そうに告げに来ていた「あの日」。
バイクの後ろに、ツインテールの少女を乗せて。
(…亜空間理論と、位相力学の成績は…)
「抜かせて頂きました」と、シロエは「事もなげに」言った。
それが最初で、シロエは「幾つ」塗り替えたことか。
E-1077始まって以来の秀才、キース・アニアンが取った成績を。
同じ講義や実習などで、シロエが「試験」を受ける度に。
(……機械が作った、私を抜くなど……)
どう考えても、「並みの人間」には不可能なこと。
いずれメンバーズに選抜される者であっても、「抜き去る」ことは困難だろう。
ただの一教科だけのことでも。
講義だろうが、実習だろうが、一つでも「抜く」のは難しい筈。
よほどツイていたか、「まぐれ」で抜ければ、きっと上等。
(なのに、シロエは…)
幾つもの科目で、「キース」を抜いた。
シロエが「同じ試験」を受ければ、当然のように、キースが立てた「記録」を抜き去って。
それをシロエが「やっていた」なら、シロエの頭脳は「恐るべきもの」。
「機械に作られた」わけでもないのに、「教育されてもいなかった」のに、優秀だった頭脳。
いったい、シロエの「実力」は、どのくらいあったのか。
「ミュウ因子」を持っていなかったならば、彼は「何処まで」行けたのか。
機械が作った「キース」に処分されることなく、教育を受け続けていったなら。
「キースの成績」を端から塗り替え、E-1077をトップで卒業して行ったなら。
(……国家騎士団総司令……)
今のキースが就いている地位、それはシロエのものだったろうか。
キースよりも「優れた頭脳」を持つなら、そうなっていても不思議ではない。
マザー・イライザが推したところで、「セキ・レイ・シロエ」の方が優れていたならば…。
(…グランド・マザーが選び出すのは、シロエの方になっただろうな…)
たとえシロエが、「システムに反抗的」であろうと。
SD体制を平気で批判し、辛辣な皮肉を吐いているのが常であろうと。
シロエの素行がどうであっても、「優秀であれば」、キースよりも「上」。
マザー・イライザが作った「理想の子」などは、きっとシロエの敵ではなかった。
同じ任務を任せたならば、シロエの方が優れた成果を上げるのだから。
メンバーズとしての戦いだろうが、後進を育て上げる立場の教官だろうが。
(…シロエは機械などに頼ることなく、育てられもせずに…)
「キース」以上の成績を取って、E-1077で「暮らしていた」。
彼の頭脳がどれほどだったか、今となっては、もう分からない。
グランド・マザーに問うたところで、きっと答えを得られはしない。
けれど、一つだけ確かなこと。
シロエが「キース」の成績を幾つも「抜き去った」ことは、事実で真実。
多分、シロエは「遥かに優秀」だったのだろう。
機械が作った「理想の子」よりも、「無から作られた指導者」よりも。
(……そのシロエが、ミュウ因子を持っていたのなら……)
ミュウというのは、人類よりも「優れた」人種になるのだろうか?
SD体制から生まれる異分子、不純物だと言われていても。
ミュウは「サイオンを持つ」ばかりではなくて、人類よりも優秀な種族なのかもしれない。
(……まさかな……)
「キースをも抜いた」シロエの頭脳は、例外だったと思いたい。
たまたま「シロエが持っていた」だけで、「ミュウ因子」とは、まるで無縁なのだと。
そうでなければ、人類はきっと「おしまい」だから。
ミュウが人類よりも優れているなら、彼らの存在は「進化の必然」。
いずれ人類はミュウに敗れて、ミュウの時代になるのが「宇宙の摂理」だから…。
優秀さの意味・了
※シロエが「抜いた」キースの成績。よく考えたら、「凄すぎる頭脳」の持ち主なわけで…。
「機械の申し子」に勝てたシロエは、ミュウ因子の保持者。ミュウの方が頭脳優秀なのかも。
(……E-1077……)
教育のための最高学府、とシロエが挙げてみる「此処」の謳い文句。
未来を担うエリートたちを育てる所、と「其処」の個室で。
好成績で卒業したなら、開けるという「メンバーズ」への道。
それに選ばれれば、「頂点に立つ」のも夢ではない。
今は空席の「国家主席」の地位にまで「昇り詰める」ことさえ。
そうすることが、今の目標。
いつかメンバーズに、それを足掛かりに続ける昇進。国家主席になるために。
歪んだ「機械の時代」を終わらせ、「子供が子供でいられる世界」を作るためにだけ。
(その時は、きっと…)
奪われた「過去」も取り戻す。
成人検査で消されてしまった、両親や、懐かしい故郷の記憶。
それを機械に「返せ」と命じて、記憶が戻れば「機械を止める」。
もう二度と、動き出さないように。…「人間」を統治できないように。
けれど、その日は、まだずっと先で、そうなるまでには、歩むしかない茨の道。
機械に従う「ふりをする」ことも、必要な時が来るだろう。
此処で「逆らい続ける」ことは出来ても、この先は、きっと無理なのだろう。
マザー・イライザならばともかく、地球に在るというグランド・マザー。
SD体制の要の機械に、「逆らう」ことは得策ではない。
(……ぼくも、いずれは……)
マザー牧場の子羊なんだ、と唇に浮かべる自嘲の笑み。
自分では「違う」と分かっていたって、周りの者は気付きはしない。
上官も、それに同僚たちも。
「自分たちと同じに」敬礼している「シロエ」を見ては、「正しい」と思うことだろう。
SD体制に、グランド・マザーに、とても忠実な「メンバーズ」。
あれでこそ出世も出来るものだと、「我々も、あのように在らねば」と。
なんとも皮肉で、忌まわしくなる「シロエ」の未来。
誰よりも「機械」を嫌っているのに、「従うふり」をするなんて。
いつの日か「機械に」牙を剥くまで、大人しい「羊」として過ごすなんて。
(……でも、そうするしか……)
ぼくには道が無いんだから、と考える度に、「今は、まだマシ」なのだと思う。
マザー・イライザに逆らい続けて、何かと言えば「コールされる」日々。
コールの度に、「何かを失くして」しまおうとも。
「心が軽くなった」と感じる代わりに、「思い出せない過去」が増えても。
そう、此処でならば、「相手」はマザー・イライザだけ。
今も憎んでいる、成人検査の時の機械と、どちらが「上」かは分からないけれど。
(……テラズ・ナンバー・ファイブ……)
アレの方が「マザー・イライザ」よりも上か、あるいは下に位置しているのか。
まだ「其処までは」習っていないし、想像の域を出ないけれども…。
(…きっと、あの機械は、グランド・マザーの……)
直属なのに違いない。
マザー・イライザは、「エリートを育成するための」此処を統治するだけ。
けれども、テラズ・ナンバー・ファイブは違う。
成人検査を受けた「子供」を振り分け、あちこちの教育ステーションに送り出す。
E-1077の他にも、幾つも存在するステーション。
「一般市民」を育てるものやら、「養父母」を育成する場所やら。
つまり「子供の未来」を決めては、「送り出す」のがテラズ・ナンバー・ファイブ。
どういう子供が「何の仕事に向いている」のか、その適性を見極めて。
SD体制の時代においては、「進路は機械が決める」もの。
「メンバーズになれる、優秀な子供」を、「一般人向け」のコースに送りはしない。
その逆も、また「有り得ない」こと。
ましてミスなど許されないから、テラズ・ナンバー・ファイブの権限は、きっと…。
(……マザー・イライザよりも、遥かに上で……)
グランド・マザーから、「直接」指示も受けるのだろう。…「こうするように」と。
マザー・イライザの役目は、「育てること」だけ。
E-1077に「送られて来た子」を、未来のエリートにするべく、「立派に」。
その段階に至る前には、テラズ・ナンバー・ファイブが「振り分ける」。
「この子は、此処だ」と、行くべき教育ステーションを決めて。
有無を言わさず記憶を「処理して」、其処へと向かう宇宙船に「乗せて」。
(…ぼくも、そうやって……)
E-1077に「運ばれて来た」。
成人検査が「いつ終わった」のかも、定かではない「記憶」を抱えて。
大切なピーターパンの本だけを手にして、漆黒の宇宙を此処まで旅して。
(……いい成績を取っていたなら、ネバーランドよりも……)
もっと素敵な「地球」に行けると、大好きだった父が教えてくれた。
今は顔さえぼやけてしまって、思い出せない「優しかった」父が。
「シロエなら、行けるかもしれないぞ」と、両腕で、高く抱き上げて。
そうして、母が笑っていた。
「親馬鹿なんだから」と、それは可笑しそうに。
その母の顔も「思い出せなくて」、何もかも機械に奪い去られた。
けれども、今も「忘れてはいない」。
父から「地球」を教えられた日を、「地球に行きたいな」と夢を抱いた日を。
ネバーランドよりも素敵な場所なら、いつか「この目で」見てみたい。
いい成績を取り続けたならば、きっと地球への道が開ける。
(…そう思ったから、頑張って……)
それまで以上に、重ねた努力。
単に「頭がいい」だけの子では、「行けなくなる」かもしれないから。
他の子たちとは違う能力、それを身につけなければ、と。
(エネルゲイアは、技術関係のエキスパートを育てる育英都市で……)
とても「エリート」には繋がらない、と子供心にも分かっていた。
エネルゲイアでは「頭が良くても」、宇宙全体では「通用しない」ことだってある。
ならば、他の子たちより「抜きん出る」ことが、きっと大切だろうから。
そう気付いてから、磨き続けた「自分の能力」。
同じ機械を相手にするなら、皆よりも高い技術を、と。
コンピューター相手の作業だったら、才能を問われる「ハッキング」など。
何か機械を作るのだったら、「より精密で」高度なものを。
(ずっと頑張って、頑張り続けて…)
地球に行く日を夢見ていたのに、気付けば「此処に」連れて来られていた。
両親も、故郷の記憶も「消されて」、ピーターパンの本だけを持って。
(……何もかも、全部、機械が決めて……)
シロエは「選び出された」けれど、「努力次第で」地球にも行けるのだけれど。
それと引き換えに「失くした」過去。
顔さえぼやけてしまった両親、もう鮮やかには思い出せない「故郷」の風や光などや。
このステーションに来ていなかったら、「何かが」違ったかもしれない。
機械が処理する「過去の記憶」が、今とは違う内容になって。
(…技術者だったら、今と大して変わりはなくても…)
一般市民に選ばれていたら、どうなったのか。
「シロエの能力」が「とても低くて」、養父母向けの教育ステーションへと送られていたら。
(…養父母は、子供を育てるんだし…)
子供が「どういう風に」育つか、それを教わることだろう。
自分の所に「届けられて来た」赤ん坊を育て、十四歳になるまで「面倒を見る」のだから。
(……子供を育ててゆくんだったら……)
子供時代の記憶が「まるで」無ければ、話にならないかもしれない。
教育ステーションで教えるよりかは、「幾らかは」記憶を消さずに残すのかもしれない。
その方が、きっと便利だろう。
彼らを「教える」教官たちだって、そのステーションを統べるコンピューターだって。
「何も覚えていない」よりかは、「基礎になる記憶」。
赤ん坊はともかく、幼い子供には、こう接するのが「望ましい」とか。
もう少し育った子供だったら、「このように叱るべき」だとか。
その可能性は、大いに有り得る。…全てを消すより、「目的別に消してゆく」方が。
(……だったら、ぼくは……)
道を間違えたんだろうか、と冷えてゆく背筋。
もしも「シロエ」が、どうしようもなく「成績の悪い子供」だったら、と。
養父母にしか「なれない」能力、それしか「持っていなかった」なら。
技術者の道を歩みはしたって、単なる「子供の父親」としての、職業が技術者だったなら。
(…ぼくは、何もかも忘れる代わりに……)
もっと覚えていたのだろうか、両親と過ごした子供時代を?
懐かしいエネルゲイアにしたって、いつか養父母として「妻」と一緒に赴いた時に…。
(子供の頃は、此処で遊んだとか、あっちに行ったら何があるとか…)
ごくごく自然に思い出せるよう、記憶は「残っていた」かもしれない。
エネルゲイアの出身ではない「妻」を、あちこち案内してやれるように。
託された子供が育ち始めたら、「パパも昔は…」と、色々なことを話せるように。
(……そうだったなら……)
ぼくは自分の首を「自分で」締めただろうか、と恐ろしくなる。
いつか「機械を止める力」を、「グランド・マザーに従い続けて」得るよりも…。
(…何の能力も持たないシロエで…)
ただの「養父」になっていたなら、全てが違っていたかもしれない。
もう、その道は「歩めない」けれど。
E-1077に来てしまった今は、何もかも、とうに「手遅れ」だけれど。
「シロエ」は道を間違えたのか、と零れ落ちる涙。
努力した結果が「これ」だとしなら、あまりにも惨い結末だから。
機械に従う道をゆくより、両親の顔を、故郷を、「シロエ」は覚えていたかったから…。
間違えた道・了
※原作に比べて「ゆるい」アニテラのSD体制。スウェナがジョミーの両親を覚えているとか。
だったら、記憶の処理が「目的別」でも変じゃないよね、と。…ホントに有り得る。
(…初の軍人出身の元老か……)
厄介な、とキースがついた溜息。
側近のマツカを下がらせた後の夜更けに、一人きりの部屋で。
国家騎士団総司令から、元老に転身したけれど。
元老たちが集うパルテノン、其処からの要請だと聞いていたのだけれど。
(……実際の所は、グランド・マザーか……)
どうやら、そういうことらしい。
グランド・マザー直々の推薦、逆らえなかった頭の固い元老たち。
人類の聖地、地球に据えられたグランド・マザーに、逆らえる者などいはしないから。
国家騎士団の赤を基調にした制服から、元老の白い制服へ。
それに着替えて、初の「仕事」に赴いた時。
「歓迎されていない」と、直ぐに分かった。
誰一人として、挨拶さえもしない有様。見下したような顔をして。
そうなる理由は分かっている。
「キース・アニアン」はメンバーズ・エリート、いわゆる「軍人」。
けれど元老たちは「文官」、歩んで来たコースからして違う。
彼らの中には一人もいない、E-1077の出身者。
マザー・イライザが統べていた、あのステーション。
とうの昔に廃校になって、この手で「それ」を処分して来た。
マザー・イライザが止める悲鳴を聞きもしないで、惑星上へと落下させて。
(…エリートを育成する、最高学府だと聞いていたがな…)
E-1077に在籍していた頃は、誰もがそう言っていた。
あのステーションの卒業生から、「選ばれる」メンバーズ・エリートたち。
彼らが「世界」を動かすのだと、宇宙の頂点であるかのように。
キース自身も、そう聞かされて信じていた。
「自分の生まれ」は知らなかったけれど、いつかエリートとして世に出るのだと。
ところが、まるで違った「世の中」。
メンバーズ・エリートと呼ばれる者は、「ただの軍人」に過ぎなかった。
実際に宇宙を統治するのは、パルテノンに集う元老たち。
軍人ではなくて、根っからの「文官」、いわゆる「政治家」。
銃器くらいは扱えるけれど、戦闘機や戦艦の「動かし方」など知らない者たち。
(…Mが何かも、ろくに知らない連中ばかりで…)
今の時代には「役立たない」者。
Mと呼ばれるミュウとの戦い、それは日増しに激しくなってゆくばかり。
だからこそ自分が「選ばれたのだ」と、パルテノンへと赴いたけれど…。
(…軍人は、これだから困るのだと…)
蔑みの視線が向けられる日々。
どのような意見を唱えようとも、ミュウとの戦いに備えるべきだと説こうとも。
(……どうして私を、あそこで作った……?)
何故、と「マザー」に問いたくなる。
マザー・イライザではなく、グランド・マザーに。
どうして「E-1077」で作ったのかと、他の場所では駄目だったのかと。
元老たちが教育を受けた、やはり「最高学府」のステーション。
E-1077とは、場所も、カリキュラムも違うもの。
最初から其処で「キース」を育てていたなら、回り道などしていない。
今頃はとうに、それなりの地位を「パルテノンで」占めていただろう。
「若き元老」には違いなくても、相手にされないことなどは無くて。
嘲りの声も浴びることなく、意見を述べれば、誰もが耳を傾けもして。
(…同じように、私を作るのであれば…)
そちらで作れば良かったものを、と思わないでもない。
何処で作ろうとも、「キース」は「キース」。
三十億もの塩基対を合成した上、それを繋いでDNAという鎖を紡ぐ。
何処でやろうと手順は同じで、出来上がる「モノ」も同じな筈。
後は教育次第なのだし、「回り道」などさせずとも、と。
なのに、どうして「こうなった」のか。
わざわざE-1077で「作って」、「軍人」に育てた「キース・アニアン」。
今頃になって「パルテノン入り」をさせるほどなら、軍人の道を歩ませずとも…。
(元老のためのステーションの方で作っておけば…)
幾らでも手間が省けただろう。
政治家の道を歩んでいたなら、いずれ開ける「元老」への道。
そちらを歩んで「パルテノン入り」を果たしていたなら、誰も「キース」を嘲りはしない。
「軍人上がりは」などと言われはしないで、豊富にあっただろう人脈。
その方が遥かに役立つだろうに、「キース・アニアン」という「人形」も。
(…しかし、マザーが選んだからには…)
E-1077に「鍵」がある筈。
其処でしか「キース」を「作れなかった」理由というもの。
技術的には、何処であろうと可能だろうに。
現に「キース」と対になっていた「ミュウの女」は、E-1077では「作られていない」。
アルテメシアで「作られた」もので、だからこそ「M」に攫われた。
「ミュウとして」処分が決まっていたのを、ソルジャー・ブルーが奪い去って。
もちろん国家機密だけれども、「今のキース」なら「分かる」情報。
あの実験は「アルテメシアで始まった」と。
ミュウが奪ってしまったからと、場所を宇宙に移した実験。
ならば、何処でも良さそうなもの。
E-1077を選ばなくても、「もう一つの」最高学府でも。
同じに「キース」を作るのだったら、「政治家のキース」を作れば良かった。
そうしておいたら、パルテノンでの地位は安泰。
異例の出世を続けた挙句に、とうの昔に…。
(……国家主席にもなっていたのだろうに……)
グランド・マザーは、いずれ「そうする」つもりでいるのだろうけれど。
「人類の指導者」として、マザー・イライザが作った「理想の子」、「キース」。
それを人類の頂点に押し上げ、ミュウとの戦いに勝ちを収めるべく。
既に決まっている、「キース」の道。
「初の軍人出身の元老」の次は、「国家主席」の地位に収まる。
そうなることが分かっているなら、何故、「回り道」をさせたのか。
E-1077で「作って」、「軍人の道」を歩ませたのか。
(…グランド・マザーに、計算違いは有り得ない…)
この道は最初から「敷かれた」もの。
自分は其処を「歩まされる」だけで、自分の意志では選べない道。
「回り道」に見えて、「回り道」ではないのだろう。
E-1077から「始まった」のは。
「キース・アニアン」を作り上げた場所、「ゆりかご」が「あそこ」だったのは。
(…そうすることで、何の益がある…?)
政治家ではなく、軍人として育てることに。
メンバーズ・エリートの道を歩ませることに。
(…私が歩いて来た道には…)
数え切れないほどの屍、「冷徹無比な破壊兵器」として「殺した」者たち。
反乱軍もいれば、暴動を起こした者たちも。
けれど、最初に「キース・アニアン」の手を血に染めたのは…。
(…セキ・レイ・シロエ…)
E-1077に「送り込まれた」、ミュウの少年。
きっと自覚も無かっただろう、「Mのキャリア」と呼ばれるシロエ。
彼が「キースと」出会わなければ、何も起こりはしなかった筈。
ミュウのマツカが生き延びたように、成人検査を「無事に」パスして…。
(自分でも何処か変だと気付いて…)
マツカよりも上手く隠し通して、今も何処かで生きていたろう。
一般市民になっていたのか、あるいはシロエの父と同じに「研究者の道」を歩んでいたか。
それをシロエが「歩み損ねた」のは、「キース」のせい。
「指導者としての資質」を開花させるために、シロエは「贄にされた」から。
「キース・アニアン」に「シロエを殺させること」が、機械の計算だったのだから。
もしも「キース」が、E-1077に「いなかった」なら。
軍人ではなくて、政治家のためのステーションで「作り上げられた」なら…。
(…シロエは、私に殺されはせずに…)
生き延びたろうし、何もかも全て「キースのせい」。
シロエが「あそこで」殺されたのは。
「キース・アニアン」を育てるために選ばれ、E-1077に「送られた」のは。
キースを「政治家」として作っていたなら、けしてシロエは「死んではいない」。
銃器を扱うのが精一杯の、「根っからの政治家」だったのならば。
(…いったい、何のために…)
グランド・マザーは、この回り道を用意したのだ、と思うけれども「分からない」。
きっと直接、問い掛けてみても、答えは返らないのだろう。
どうして、「この道」だったのか。
この道に何の益があるのか、どんな計算が働いたのか。
(…最初から、政治家にしておいた方が…)
早かったろうと思うのだがな、と零すけれども、鍵になるのは「M」なのだろうか。
E-1077が、どういう理由で「M」に繋がるかは謎だけれども。
(きっと、一生…)
分かるまいな、と「自分がゆくべき道」の先を思う。
その先にも「M」が立ち塞がるから、いずれ「M」との決戦になるのだろうから。
E-1077の謎は解けなくても。
どうして「キース」を其処で作ったか、「回り道」の理由は、永遠に謎のままだとしても…。
回り道の謎・了
※キースの疑問は、そのまま「管理人の疑問」だったりします。だって、変だと思うから。
原作だと「政治家」もメンバーズだけど、アニテラは違ってましたよね。なんで、ああなの?
(……この花って……)
なんて名前だっけ、とシロエが眺めた花。
E-1077の中庭、其処の花壇に咲いているもの。
白い花やら、青い花やら、今が盛りと咲いているけれど…。
(えっと…?)
この白い花が…、と頭に一つ浮かべば、他の花たちの名前も出て来た。
「ぼくは知ってる」と、「エネルゲイアでも、よく見た花だ」と。
そう気付いたら、懐かしい。
側のベンチに腰を下ろして、花たちの姿に暫し見惚れる。
まるで故郷に帰ったよう。
花の姿は、何処で見たって変わらない。
宇宙に浮かんだステーションだろうが、故郷のエネルゲイアだろうが。
(……懐かしいな……)
此処でこうして座っていたなら、心だけが故郷へ飛んでゆくよう。
幼かった頃に見ていた花壇へ、遠く離れた雲海の星、アルテメシアへと。
故郷でもきっと、この花が咲いているだろう。
もしかしたら、母が「この瞬間に」眺めているかもしれない。
家から外へ出掛けたついでに、何処かの花壇の側で足を止めて。
あるいは父も見ているだろうか、父が勤める研究所にも、中庭などがあるのなら。
(…パパやママだって…)
見ているのかも、と思うと余計に懐かしくなる。
「ぼくの故郷にも咲いてた花だ」と、「今だって、きっと咲いてるんだよ」と。
この中庭には、他の候補生たちも来るけれど…。
(花なんて、誰も見ていなくて…)
ベンチに座っての会話に夢中か、賑やかに笑いさざめいているか。
此処から「故郷」に思いを馳せる生徒は、いないのだろう。
誰もが「過去を捨てて来た」から。
成人検査で捨ててしまって、それを後悔することさえも無いのだから。
けれど、自分は「忘れはしない」。
機械がいくら消し去ろうとも、こうして「消えない」記憶だってある。
故郷で目にした花の名前を、自分は忘れていなかった。
「なんて名前だっけ?」と眺めていたら、次々と頭に浮かんだ名前。
白い花の名も、青い花の名も、他の花のも。
「エネルゲイアでも見ていた花だ」と、「忘れ去ってはいなかった」記憶。
両親の顔さえおぼろになっても、花の名前は忘れなかった。
つまりは機械が「消さなかった」もの。
故郷で同じ学校に通った者たち、彼らの顔や名前を「忘れていない」ことと同じに。
(…花の名前なんかを、覚えていたって…)
さほど役には立たないだろうに、記憶は消されていなかった。
E-1077に入ったからには、いずれはメンバーズになるのだろうに。
軍人などには「花の名前」は要らないだろうに。
(学校で一緒だった奴らは…)
いずれ何処かで出会った時に、「友」として再会できるようにと、「残された」記憶。
彼らの顔も、名前も少しも忘れてはいない。
そんなものより、「両親」を覚えていたかったのに。
自分を育ててくれた養父母、彼らを「忘れたくなかった」のに。
(…でも、パパとママは……)
機械からすれば「不要な」記憶で、「大人になるなら」要らないもの。
覚えていたって戻れない故郷、「覚えているだけ無駄」ということ。
だったら、「花」はどうなのだろう?
E-1077で暮らす候補生たちが、ろくに見てさえいない花たち。
彼らにはただの「中庭の彩り」、無ければ「殺風景」だというだけ。
どんな花でも気にはしないし、木だって、きっと同じこと。
「中庭にあればいい」だけのことで、故郷のことなど考えはしない。
それが「正しい生き方」だったら、花の名だって、多分、「要らない」。
何であろうと花は花だし、「花だ」と分かれば充分だろうに。
なのに「忘れていなかった」花。
どの花の名も思い出したから、懐かしく見ていたのだけれど。
故郷に帰ったような気さえもしたのだけれども、何故、「花」なのか。
花の名前を覚えているより、両親を覚えていたかったのに。
「パパの顔だ」と、「ママの顔だ」と、鮮やかに思い出したいのに。
(…どうして、こんな花なんか…)
ぼくは覚えているんだろう、と逆の方へと向く思考。
「これが機械のやり口なんだ」と、負の方向へ。
故郷を懐かしむ気持ちの代わりに、「こんな花たちの名前なんか」と。
だから、乱暴に立ち上がったベンチ。
足早に後にした中庭。
「あんな花なんか、見ていたくない」と、自分の世界に逃れるために。
ただ一人きりでいられる世界へ、誰も入っては来ない個室へ。
逃げ込むように其処に入って、閉ざした扉。
ベッドに腰掛け、広げたピーターパンの本。
これだけが唯一の「故郷との絆」、両親がくれた宝物。
成人検査の日にも家から「持って出掛けて」、このステーションまで共に来られた。
この本に纏わる全ての記憶は、憎い機械にだって「消せない」。
(絶対に、忘れてやるもんか…)
ぼくの本だ、と本のページを覗き込む。
その向こうには、幼い頃から憧れていたネバーランドが広がるから。
ピーターパンと飛んでゆこうと思った、夢の世界が。
(…パパとママを忘れさせられても……)
ぼくは忘れていないんだから、と見詰めるページ。
これを「見ていた」自分の姿も忘れてはいない。
故郷の家で椅子に座って、ある時は床に寝そべって。
ピーターパンの本を何度も読んでは、「いつか行くんだ」と夢見た世界。
夜空を駆けてネバーランドへ、ネバーランドよりも素敵な地球へ。
(…何もかも、忘れていないんだから…)
ぼくは覚えているんだから、と宝物の本を抱き締めてみる。
「此処にあるよね」と、「いつまでも、ぼくと一緒なんだ」と。
くだらない花の名前などより、この本の方がずっと大切。
両親がくれた「大好きな本」で、ステーションにまで持って来たほど。
この本のことを、自分は忘れはしない。
忌まわしいテラズ・ナンバー・ファイブも、この記憶を消せはしなかった。
「ぼくの勝ちだ」と、嬉しくなる。
消し去る記憶と、残す記憶と、それを機械が振り分けた時も…。
(…ぼくが、この本を持っていたから…)
記憶を消さずに、残すしか無かったのだろう。
厄介なことにならないように。
「この本は、何?」と、「セキ・レイ・シロエ」が「悩まない」ように。
お蔭で「消されずに」残った記憶。
花たちの名前も、きっと「その手の」記憶。
軍人は花に縁が無くても、いつか悩むかもしれないから。
「この花の名前は何だった?」と、花壇の側に立ち尽くして。
(…忘れてしまった、と其処で気付かれたなら…)
機械には都合が悪いだろう。
「いいように記憶を書き換える」のだと、皆に知られてしまったら。
それで「残った」のが「花の名前」で、「シロエの場合」は「本の記憶」も残った。
とても大切な本だったのだと、今も忘れはしないままで。
こうして本を抱き締める日やら、ページをめくってみる日やら。
(…ぼくは、機械に…)
勝てたのだろう、と誇らしい。
ピーターパンの本に纏わる記憶を、機械は「消せなかった」から。
それを「持っていた」セキ・レイ・シロエに、「勝ちを譲る」しか無かったから。
機械が勝手に奪い去る記憶、その中に「本」を入れられないで。
花の名前を「忘れていない」のと全く同じに、「忘れないままで」いられた本。
幼かった日に両親がくれた、大切な宝物の本。
これからも、けして忘れはしない。
何処までもピーターパンの本と一緒で、「両親の記憶」とも一緒。
この本を「ぼくに」くれた記憶は、絶対に消えはしないんだから、と思ったけれど。
「忘れないんだ」と考えたけれど、ピーターパンの本を貰った、その日。
(…いつだったっけ?)
確か誕生日のプレゼント、と思い出そうとして、其処で途切れていた記憶。
本当に「誕生日」だったのか。
誕生日だったら何歳だったか、それが自然に浮かんでは来ない。
バースデーケーキも、その上にきっと灯っていただろう蝋燭の数も。
(……それは、要らない記憶だから……)
消されたんだ、と溢れた涙。
「機械は、それも消してしまった」と、「ぼくは覚えていやしない」と。
大切な本を「いつ貰った」のか、「いつから持っていた」ものなのか。
花の名前は思い出せたけれど、ピーターパンの本に纏わる記憶は「思い出せない」。
それを貰った、とても大切な日の欠片でさえも。
(…ぼくは、やっぱり……)
機械に負けてしまったんだ、と唇を噛んで復讐を誓う。
花の名前を思い出すより、他のことを思い出したいのに。
「思い出したいこと」が沢山あるのに、機械が「消してしまった」から。
(……いつか、機械を止めてやる……)
マザー・システムなんか壊してやる、と抱き締めるピーターパンの本。
この本を持って、ただ一人きりで機械と戦い、いつの日か、勝ちを収めるのみ。
でないと、記憶は戻らないから。
機械の時代が終わらない限り、「大切な記憶」を取り戻すことは出来ないのだから…。
失われた記憶・了
※シロエが持ってる、ピーターパンの本。あれって、いつから持ってるんだ、と思っただけ。
両親の顔も覚えていないんだったら、貰った日のことも忘れていそうなんですけど…。
(……サム……)
相変わらず、今も「子供」なのだな、とキースが零す溜息。
マツカを下がらせ、夜更けの部屋に一人きりで。
昼間はサムの見舞いに出掛けた。
マツカとスタージョン中尉だけを連れて、久しぶりに。
(…国家騎士団総司令様か…)
この厄介な肩書きさえ無かったら、と思わないでもない。
昔馴染みの友の見舞いに行くだけのことに、どれほど制約が増えたろう。
任務やデスクワークはともかく、「キース・アニアン」の身を守るための「それ」。
「見舞いに行こう」と思い立っても、その日の内には、けして行けない。
サムが入院している病院、其処までに通ってゆく道順。
(…それをパスカルたちが調べて…)
狙撃手や爆弾、そういったものが入れないよう、念には念を入れてのチェック。
更には当日、「いきなりルートを変更する」。
もちろん「用心」のためのルートで、そちらも「とうに調査済み」。
万一、狙撃手や爆弾などが「本来のルート」に潜んでいても…。
(まさか道順を変えるとは、思わないからな…)
一向に来ない「キース・アニアン」、それを狙って待ち伏せるだけ無駄。
其処までしないと、「見舞いにさえも行けない」のが「自分」。
国家騎士団総司令の命を狙う輩は、何処にでもいるものだから。
ノアばかりでなく、他の惑星や基地に出向いても。
(…ただの上級大佐なら…)
もう少し楽に動けたものを、と思ってはみても、詮無いこと。
この先はもっと、「動きにくく」なってゆくのだろう。
ミュウとの戦いが続いているのに、「愚かしい人類」が後を絶たないから。
「キース・アニアン」を失ったならば何が起こるか、気付いてもいない者たちが。
彼らの力で、「侵略者」を防げはしないのに。
ミュウの版図は今も拡大し続けるだけで、「防ぐ手立て」は見付からないのに。
もちろん、「手をこまねいて」見ているだけではない。
打てる手は打つし、サイオンに対抗して動ける兵士も「開発中」。
(APDスーツか…)
アンチ・サイオン・デバイススーツ。
それを着たなら、「ただの兵士」でも、「対サイオンの訓練を受けた」者と同じに動ける。
全軍きってのゴロツキだろうが、「ろくに使えない」兵士だろうが。
頼みの綱は、もはや「その程度」。
後は「戦略次第」というのが、「ミュウとの戦い」。
けれど、「分かっていない」者たち。
「キース・アニアン」が「力をつけてゆく」のを嫌って、暗殺を試みる輩。
そうして「キース」を殺したならば、自分の首を絞めるのに。
ミュウがノアまで攻めて来た時、彼らは「殺される」だろうに。
降伏を伝えた者たちにさえも、容赦しないのが「ジョミー・マーキス・シン」。
武装していない救命艇をも、端から爆破してゆくほどに。
そんな「ジョミー」が現れたならば、「愚かな人類ども」は殺されて終わり。
そうとも思わず、彼らは今も「画策している」ことだろう。
「邪魔なキース」をどうやって消すか、ノアで、あるいは他の惑星や基地などで。
(…厄介なことだ…)
あの連中のせいで、サムの見舞いにも出掛けられない、と腹立たしい。
以前だったら、気軽に出掛けられたのに。
ジルベスターに向かった頃なら、それこそ自分一人ででも。
部下の一人も連れさえしないで、自分で車を運転して。
「元気だったか?」と、サムの所へ。
「赤のおじちゃん!」としか呼んで貰えなくても。
サムの心は子供に戻って、「キース」を覚えていなくても。
それでもサムは「ただ一人の友」。
サムに会うだけで、「昔に戻れた」気がするのに。
そのサムにさえも、今の自分は「思い立っても」会いに行けないのか、と。
サムの病院を見舞う時には、いつも何処かで期待している。
「昔のサム」に会えはしないかと、「キース!」と呼んで貰えないかと。
けれども、今日も自分は「赤のおじちゃん」。
昔馴染みの「サム」は戻って来なかった。
笑顔は昔と変わらなくても、サムは「子供」で、「キース」を知らない。
(…難しいとは、承知なのだが…)
病院の医師も、そう告げたから。
サムの心は壊れてしまって、「元通りに戻す」方法は無い。
恐らく、「サムを壊した」ミュウにも、それは出来ないだろう、とも。
(…サムは、すっかり壊れてしまって…)
どうして、そんなことが出来る、と「ミュウ」という生き物が、ただ憎い。
ミュウの長の「ジョミー・マーキス・シン」も。
サムとは幼馴染だったと聞くのに、彼はそのサムを「壊してしまった」。
降伏して来た救命艇さえ、爆破するのと「まるで同じに」。
(……サム……)
ジルベスターにさえ行かなかったら、と何度、思ったことだろう。
サムと、チーフパイロットとが乗っていた船。
その船が「他所を」飛んでいたなら、サムは壊れなかったのに、と。
ジルベスター・セブンに近付かなければ、サムは「壊されはしなかった」。
ミュウと出会わず、他の所を飛んでいたなら。
「ジョミー・マーキス・シン」が「いない」航路を、選んで飛んでいたならば。
(…どうして、あそこを飛んだのだ…)
よりにもよって、何故、と思って、不意に背筋がゾクリと冷えた。
「サム・ヒューストン」が乗っていた船。
それが向かった、「ジョミー・マーキス・シン」が「いる」ジルベスター・セブン。
ただ「通り過ぎる」だけにしたって、あまりに「出来過ぎて」いないかと。
偶然にしては、揃いすぎている幾つものピース。
サムとジョミーと、それに「キース」と。
(……私は、マザー・イライザが……)
無から作り上げた生命体。
三十億もの塩基対を合成して繋ぎ、DNAという鎖を紡いで。
E-1077でサムやスウェナと過ごした頃には、「知らなかった」真実。
シロエが「それ」を知った後にも、それに「近付けずに」卒業して行ったステーション。
けれども、今は「知っている」。
自分が何かも、何のために「作り出された」生命なのかも。
それを知った日、マザー・イライザは何と言っていたろう…?
(…サムも、シロエも…)
彼らとの出会いも、シロエの船を「撃ち落とした」ことも、全て「計画」。
マザー・イライザの計算通りに、全ては進められたという。
「キース・アニアン」を、「理想の子」として育てるために。
何もかもが全て「決められた」ことで、自分は「プログラム通りに」生きただけ。
自分では、何も知らないままで。
「生まれ」のことさえ、少しも「変だ」と思いはしないで。
(…マザー・イライザが、それをやったなら……)
サムを、シロエを「糧」に「キース」を育てたならば。
E-1077ごと処分されたような、マザー・イライザでも「出来た」のならば…。
(……グランド・マザー……)
人類の聖地、地球の地の底にある巨大コンピューター。
今の宇宙を統べている「それ」、マザー・システムの頂点に立つ機械。
グランド・マザーには、きっと容易いことだろう。
「サムを乗せた船」を、「ジルベスター・セブンに向かわせる」ことは。
其処で「ジョミー・マーキス・シン」に出会わせ、「壊させる」ように仕向けることも。
(…そうしておけば……)
「キース・アニアン」は、「必ず」任務を受けるだろう。
昔馴染みの友の仇を取りに、ジルベスター・セブンに向かう「任務」を。
他の者たちには、けして「譲りもせずに」。
まさか、と凍り付く心。
「私のせいか」と、「そのせいで、サムは壊されたのか」と。
サムを乗せた船が、あの忌まわしい星へ向かったのは、「キース・アニアン」のせいなのかと。
(…グランド・マザーなら、充分、出来る…)
そのように「航路設定しておく」ことも、「航路設定させる」ことも。
サムが乗った船を直接操り、「ジルベスター・セブンに向かう」航路を組み込むことも。
(…ジルベスター・セブンには、ジョミー・マーキス・シンがいて…)
彼とサムとが出会った時には、どうなるのかも「グランド・マザー」だったなら…。
(…何もかも、計算ずくだったのか……?)
最初から仕組まれたことだったろうか、サムが「壊れてしまった」ことは。
「キース・アニアン」をミュウの拠点に向かわせ、彼らを「殲滅させる」ために。
ジョミー・マーキス・シンを、ミュウどもを「根こそぎ滅ぼす」ために。
(…そして、私は……)
グランド・マザーの計算通りに、メギドを持ち出しただろうか?
ジルベスター・セブンごと「ミュウを」滅ぼし、焼き尽くすために。
(……まさか、其処まで……)
計算されたことだったのか、と恐ろしいけれど、きっと「答え」は聞けないだろう。
この戦いが済むまでは。
宇宙からミュウを滅ぼし尽くして、グランド・マザーの称賛を得られるまでは。
(…もっとも、それで…)
褒められ、真実を告げられるよりは、「知らない」方がマシだけれども。
もしも「自分が」、サムを巻き込んだ「事故」の引き金になっていたのなら。
ただ一人きりの「友」が壊れた、原因が「自分」だったなら…。
出来過ぎた偶然・了
※原作だと「偶然」だったサムの事故。アニテラだと、絡んでいるのがグランド・マザー。
それならキースも気付いたかも、と思ったんですけど…。キースには酷な真実だよね、と。
