忍者ブログ

(…おや?)
 どうなったんだ、とソルジャー・ブルーが見開いた瞳。
 ちゃんと両目で見えているから驚いた。右目はキースに撃たれて砕けてしまった筈で…。
(回復力が凄かったとか…?)
 自分の力に全く気付いていなかったとか、と覚えた感動。ジョミーの「生きて」という強い願いで生き延びたのだと、頭から信じていたのだけれど…。
(実は、実力…)
 それに半端ない回復力、と見回した身体。撃たれた痛みはまるっと消えたし、メギドの爆発に巻き込まれた割に無傷なのだし、これまた凄い。
(シールドを張ったつもりは無かったんだが…)
 生存本能というヤツなのか、と納得した。
 撃たれた傷を全部治せるほどだし、死んでたまるかと身体が勝手に頑張ったのに違いない。全く意識しなくても。「みんなを頼む」とジョミーに叫んで、意識がブラックアウトでも。
(…しかし、困った…)
 こんな所で生き残っても、と本気で困る。周りは漆黒の宇宙空間、ついでにメギドの残骸らしきモノだらけ。人類軍の船もとうにいないし、この状態では…。
(シャングリラが何処に行ったのかも…)
 思いっ切り謎で、知る方法も無い有様。
 せめて人類の船がいたなら、ちょっと入り込んでデータを失敬できるのに。シャングリラは多分ワープした筈、そのタイミングが分かりさえすれば…。
(手掛かりくらいにはなる筈で…)
 人類が見たって行き先不明のワープだけれども、同じミュウなら勘で何とか。
 あの辺りかも、と当たりをつけて追い掛けることも出来なくはない。ダテに長年、ソルジャーをやっていないから。ワープの指示を出したハーレイ、彼の発想なら大体分かる。
(…人類軍は何処に行ったんだ?)
 何処かに一隻、出遅れたのがウロウロしていないかと目を凝らしていたら…。


「自分を信じることから道は開ける」
 ポンと頭に浮かんだ言葉で、そう言えば昔、ジョミーに言った。アルテメシアから命からがら逃げ出した後で、酷く落ち込んでいた時に。
 シロエという名のミュウの少年を救い損ねた、とベッドの側で暗くなっていたから…。
(事の善し悪しは、全てが終わってみなければ…)
 分からないさ、と励ましてやったのが自分。
 つまりは今とて同じ状況、あるいはもっと凄いかも。死んだ筈なのに生きていた上、無傷だという素晴らしさ。自分の実力は思った以上で、それを信じれば今だって…。
(道は開けるというわけで…)
 とにかく前へ進むことだ、と考えた。
 全てが終わった筈だというのに、こうしてキッチリ生きているから。おまけに死んだと思う前よりも、遥かに健康な状態で。
(とはいえ、どっちが前なんだか…)
 こんな宇宙では上も下も、と途方に暮れてしまいそうな感じ。ナスカの方へ行けばいいのか、この星系を離れる方か。
 悩んでいたって答えは出ないし、「頑張れ、自分」と思うしかない。
 きっと闇雲に飛んでいたって、何処かで会う筈の人類の船。軍の船なら大いにラッキー、それのデータからキースの艦隊を追えばいい。そしてシャングリラのデータをゲット。
(運が良ければ、まだ追い掛けている真っ最中かもしれないし…)
 それに賭けた、と決めた方針。人類軍の船がいそうな方向だったら、ナスカとは逆。


(自分を信じることから道は開ける…)
 事の善し悪しは、全てが終わってみなければ分からないさ、と繰り返しながらジルベスター星系の外を目指していたら。
(えっ…?)
 いきなりグイと引っ張られた。凄い速さで飛んでいるのに、知ったことかと言わんばかりに。
 第一宇宙速度なんかはとっくに突破しているのだから、こんな所で引っ張られたら…。
(空間が…!)
 歪んでしまって亜空間ジャンプになってしまう、と逃げる間もなく引き摺り込まれた。どう考えてもそういう空間、ワープの時にはお約束だった緑の亜空間に。
(巻き込まれたか…!?)
 気付かない間に、ワープインしようとしていた人類の船か何かに。側を通過中の自分もセットで亜空間送りで、ナスカどころか、それはとんでもなく…。
(違う所に飛ばされるのか…!?)
 なんてことだ、と慌てたけれども、既に手遅れ。こうなったら腹を括るしかない。ワープアウトした先で、巻き込んだ船のデータにアクセス。
(現在位置を特定してから、キースの船がいそうな場所を…)
 探してみるしかないだろう。それに、考えようによってはラッキー。人類の船を探し出す手間が省けたのだから。
(ナスカから離れてしまった分だけ、回り道かもしれないが…)
 事の善し悪しは、全てが終わってみないと分からないもの。結果オーライということもある。
 自分に巻き添えを食らわせた船が、キースの艦隊に所属していた船だったとか。そこまで上手く運ばなくても、民間船ではなくて軍の船だとか。


 事の善し悪しは、全てが終わってみなければ分からないのだし、と流れに任せることにした。
 ワープアウトしたらチャンス到来、其処で人類の船に潜り込む。瞬間移動で入り込んだら、まずバレないから、目指すはブリッジ。
(…乗組員の意識を奪って、それからデータを…)
 頂戴しよう、と作戦計画、ワープアウトの瞬間が勝負。乗組員たちがホッと一息ついている所、其処が狙い目だろうから。きっと油断をしているから。
(よし…!)
 そろそろだ、と構えて待った。経験からして、ワープアウトが近い。これを抜けたら…。
(一気に勝負だ…!)
 キースのような生え抜きの軍人、それが相手でも頂くデータ。貰ってやる、と身構えたのに。
 これでもソルジャーと呼ばれた男、と自分に気合を入れたのに。
(…シャングリラ…!?)
 なんでまた、と仰天する羽目に陥った。
 人類の船に飛び込むつもりが、其処は青の間だったから。嫌というほど見慣れた景色で、間違えようもなかったから。
(それでは、ぼくを巻き込んだ船は…)
 身内だったか、と呆れた自分の馬鹿さ加減。
 いくらシャングリラがステルス・デバイスで姿を消していたって、まるで気付かなかったとは。
 ミュウの仲間を乗せている船、それが直ぐ側にいたというのに、知らずに通過しかけたとは。
(短距離ワープで逃げていたのか…)
 きっとそうだったのだろう。いきなり長距離ワープをするより、まずは短距離。其処で隠れて、人類軍の艦隊をやり過ごす。ほとぼりが冷めたら、改めてワープ。


 如何にもハーレイらしい手だな、と浮かべた笑み。ワープしたって、運が悪いと追われるから。長距離ワープで追跡されたら、咄嗟に取れない回避行動。
 その点、短距離ワープだったら小回りが利く。追って来ている、と気付いた時点で打つ手は幾らでもあるわけだから…。
(それで、何処までワープしたんだ?)
 ジルベスター星系からは相当離れたことだろう。かなりに運が良かった自分。本当に道が開けてしまった。何もしなくても戻れた青の間、皆に生還を告げに行かなければ、と考えたのに。
(…フィシス?)
 どうしてフィシスが此処にいるんだ、と目を丸くして、「今、戻った」と言おうとしたら。
「ソルジャー・シン…」
 そう呼ばれたから絶句した。フィシスは視力を持たないけれども、その分、サイオンの瞳で見るのに優れている筈。自分とジョミーを見間違うなど有り得ない、と愕然として…。
(…何故、フィシスが…)
 ぼくとジョミーを間違えるんだ、と思った所で気が付いた。自分の両手が触れている物、それは頭に着けた補聴器。フィシスに託した記憶装置を兼ねていた物で、それが頭にあるのなら…。
(…この身体は…)
 ジョミーなのか、と視線を下にやったら、ジョミーの衣装。自分のではなくて。
 そして、よくよく意識を研ぎ澄ましてみれば、ジョミーは只今、滂沱の涙。どうやらフィシスが渡した補聴器、その中に残った記憶を辿っていたらしく…。
(…自分を信じることから道は開ける…)
 その言葉をジョミーが再び聞いた瞬間、其処で空間が繋がったらしい。同じ言葉を思い返して、自分が飛んでいたものだから。…シャングリラからは遠く離れた所で。


(ぼくは、ワープをしたんじゃなくて…)
 巻き込まれたということでもなくて、ジョミーの意識に引っ張られただけ。とうに死んでいて、魂だけになっていたのを。
 本当だったら天国か何処か、そういう世界に行くべき所を、何か勘違いをしていた内に。
(…ジョミーの中に入ってしまったのか…)
 思念体と呼ぶには、ちょっと頼りない状態で。きっとジョミーにも、存在自体を分かって貰えそうにもない状況で。
(…とはいえ、これも考えようで…)
 ジョミーにまるで自覚が無くても、自分の方からアプローチするのが不可能でも…。
(…このままジョミーの中にいたなら、地球に行けるし…)
 人生、捨てたものではないな、と開き直ってみることにした。
 ジョミーの身体は健康だったし、居心地はとても良さそうだから。死にかけだった自分の身体に比べたらずっと、軽くてピンピンしているから。
(死んだ自覚がゼロというのが良かったんだな…)
 生きているのだと勘違いしたから、死後の世界に行かずに済んだ。その上、ジョミーが補聴器を着けて再生してくれた言葉、それを励みに宇宙を飛んでいたのがラッキー。
 上手い具合にジョミーとシンクロしたから、キッチリ戻れたシャングリラ。
 いくら自分は死んでいるにせよ、これは人生丸儲け。頑張らなくても地球に行けるし、楽隠居の日々でいいのだろう。ジョミーは自分が入り込んだことに、全く気付いていないのだから。
(これでは、アドバイスのしようもないし…)
 ジョミーの中にいるというだけ、たったそれだけ。ヤドカリと言うか、間借り人と言うか…。


 そんな所だ、と自分の立場を把握したのがソルジャー・ブルー。
 これから先はジョミーの身体に住ませて貰って、憧れの地球を目指す旅。ジョミーは自覚ゼロなわけだし、悠々自適の日々の始まり。
(事の善し悪しは、全てが終わってみなければ…)
 分からないさ、とは言い得て妙だ、と感動しまくり、儲けた命。死んだ自覚が無かったお蔭で、どうやら地球まで行けそうだから。
(ぼくにも運が向いて来た…)
 人生ツイてる、とスキップしそうなブルーの人生、本当は終わっているのだけれど。
 運が向くも何も無いのだけれども、終わり良ければ全てよし。
 たとえジョミーの身体でも。自分の身体は消えてしまって、ヤドカリな間借り人生でも。


 こうしてブルーが入り込んだから、青の間を出たジョミーがフィシスを従え、皆を鼓舞しに足を踏み入れた天体の間では…。
「俯くな、仲間たち!」
 そうブチ上げたジョミーの顔には、見事なまでにブルーの顔立ちが重なっていた。
 なにしろミュウは精神の生き物、微妙な違いを嗅ぎ分けたから。
 今まで見ていたジョミーと違うと、ソルジャー・ブルーだとピンと来たから。
「ソルジャー・ブルー?」
「…ソルジャー・ブルー…?」
 さざ波のように広がってゆく声、けれど「グラン・パ!」と叫んだトォニィ。
 途端に「間違えたかな」と思い直すのがミュウの仲間たちで、一瞬の内に消えた幻影。ブルーの代わりにジョミーがいるだけ、「アルテメシアへ向かう」と始まった未来に向けての大演説。
(…地球へ向かうか…)
 行ってくれるか、とブルーは充分、満足だった。
 自分の存在に一度は気付いてくれた仲間たち、彼らに綺麗にスルーされても。
 ジョミーの中には自分がいるのだと、もう気付いては貰えなくても。


(事の善し悪しは…)
 全てが終わってみなければ分からないさ、と拾った人生、後は地球まで楽隠居。
 自分を信じて道が開けて、ちゃんとシャングリラに戻れたから。
 ヤドカリな間借り人生にしても、人生、生きてなんぼだから。
 とっくに死んでいるけれど。
 それでもやっぱり生きているから、憧れの地球まで行けそうだから…。

 

        拾った人生・了

※原作だったら、ジョミーの中にいるブルー。きっと同じだと思ったのがアニテラなのに…。
 そんな描写は皆無だったオチ、だったらジョミーに重なったアレは何だったんだ、と。





拍手[0回]

PR

「ただいま、シロエ」
「パパ!」
 開いた扉の向こうに、父。
 駆け寄って行けば、父は高々と抱き上げてくれた。
 まるで重さなど無いかのように、シロエの身体を高く、高く。
 クルクルと回ってくれる父。
 もう嬉しくてたまらないから、歓声を上げて回り続けた。
 父と一緒に、クルリクルリと何回も。
「さあさあ、パパもシロエも、御飯にしましょ」
 母が呼んでくれて、下り立った床。
「わあ!」
 美味しそう、と眺めたテーブルの上。
 母の得意な料理が並んで、今日は御馳走。
(ふふっ、御褒美…)
 きっと、この間のテストの点数。
 誰も満点を取れなかったのに、自分は満点だったから。
 学校の先生も褒めてくれたし、父も母も喜んでくれたから。
 いただきます、とパクリと頬張った。
 とても美味しくて、頬っぺたが落っこちてしまいそう。
(すごく幸せ…)
 こんな日はきっと、夜になったら…。
(ピーターパンが来てくれるかも!)
 いい子でベッドに入ったら。
 「おやすみなさい」と、ベッドに入って目を閉じていたら。
 そのまま寝ないで待っていたら、きっと…。


 だから寝ないで待つんだもん、と頑張ったのに。
 知らない間に眠ってしまって、素敵な夜は過ぎてしまって…。
(もう朝なの!?)
 嘘、と目覚めたベッドの上。
 目覚まし時計を止めようとしたら、伸ばした自分の手に驚いた。
(えっ…?)
 ぼくの手、と凍ってしまった瞳。
 夢の中の自分の手とは違って、もっと大きくなっているから。
 子供と言うより、大人に近い手。
 どうしてなの、と見詰めたけれども、鳴り続けている目覚ましの音。
 冷たい音で、規則正しく。
 急き立てるように、けたたましく。
(…マザー・イライザ…)
 途端に引き戻された現実、此処は自分の家ではなかった。
 E-1077、エネルゲイアから遠く離れた教育ステーション。
 其処で目覚めた、十四歳の自分。
 幼かった日は消えてしまって、今の自分は…。
(パパ、ママ…)
 何処、と見回しても、いる筈がない父と母。
 自分の家ではないのだから。
 故郷からは遠く離れてしまって、帰る道も、もう…。
(覚えていないよ…)
 帰れないよ、と零れた涙。
 目覚ましだけは止めたけれども、もう戻れない夢の中。
 せっかく父に会えたのに。
 懐かしい母が作る御馳走、それを美味しく食べられたのに。


(ぼくって馬鹿だ…)
 どうして眠ってしまったのだろう、あの夢の中で。
 もしも眠らずに起きていたなら、飛べていたかもしれないのに。
 夜の間に、ピーターパンが来てくれて。
 一緒に空へと舞い上がれていて、今頃はきっと、ネバーランドへ。
 あのまま空を飛んで行ったら、きっと此処にはいないのだろう。
 子供が子供でいられる世界へ、ネバーランドへ、高く高く空を飛んで出掛けて。
(…こんな所から…)
 逃れて、焦がれ続けた空へ。
 ネバーランドへ旅立って行って、二度と戻らずに済んだのだろうに。
(…パパとママだって…)
 離れずに済んでいたのだろう。
 ネバーランドに飛んで行っても、会いたくなったら、きっと帰れる。
 心でそれを願ったならば。
 「パパとママに会いに帰りたいよ」と、ピーターパンに言ったなら。
 子供の味方は、子供を泣かせはしないから。
 ピーターパンなら、夢を叶えてくれるから。
(…パパ、ママ…)
 ぼくはどうして寝てしまったの、と叫びたい気分。
 どうして起こしてくれなかったのと、ピーターパンを待っていたのにと。
(…寝る前に、ちゃんと頼んでおいたら…)
 父が揺すってくれただろう。
 「今夜は起きて待つんだろう?」と。
 母だって、きっと起こしてくれた。
 「眠っちゃ駄目よ」と、「起きたまま待っているんでしょう?」と。


 パパとママに頼み損なっちゃった、と呪った夢。
 きちんと頼んで眠っていたなら、今頃はきっと別の世界にいただろうから。
 E-1077は丸ごと消えてしまって、ネバーランドを飛び回って。
(…ネバーランドに行きたいよ、ママ…)
 パパ、と呟いて、気付いたこと。
 夢の世界で確かに会った。
 顔もぼやけてしまった両親、夢ではハッキリ見えていた顔。
 何処も霞んでいなかった。
 家も、テーブルも、母が作った御馳走も。
 料理を口にした時の美味しさだって、何もかも全部、みんな本物。
 夢の世界で見ていた全ては、きっと本当にあったもの。
(…ぼくが忘れてしまっただけで…)
 成人検査で奪われただけで、あれは全部、自分が見ていたもの。
 両親の顔も、父が入って来た扉だって。
(…どんな扉だっけ…?)
 パパはどうやって入って来たっけ、と考えても思い出せない扉。
 父の顔だって覚えていなくて、母の顔だって記憶に無くて。
(……ママの御馳走……)
 並んでいた料理も思い出せない、大好物だった筈なのに。
 とても美味しくて、顔が綻んだ筈なのに。
(…夢の中でしか、見られないの…?)
 目覚めた途端に消えてしまう夢、その中でしか。
 夢を見ている間だけしか、きっと見付からない真実。
 自分は何処で暮らしていたのか、両親はどんな顔だったのか。
 どういう日々を過ごしていたのか、楽しかったことは何だったのか。
(……そんなの、酷い……)
 本当のことは、夢の中にしか無いなんて。
 目覚めた途端に消える泡沫、パチンと壊れるシャボン玉だなんて。


 あんまりだよ、と思うけれども、これが現実。
 自分の記憶は機械に消されて、目覚めたら忘れる夢の中のこと。
 嫌な夢なら、起きた後にも心の中に残っているのに。
 「捨てなさい」と迫る、テラズ・ナンバー・ファイブなら。
 「忘れなさい」と記憶を消してしまった、忌まわしい機械の夢の時なら。
 そっちの方こそ忘れたいのに、忘れないままで目が覚める。
 何度も自分の悲鳴で飛び起き、その度に怖くて泣き続ける夢。
 「パパ、ママ…」と肩を震わせて。
 失くしてしまった記憶を取り戻したくて、両親のいた家に帰りたくて。
 両親だったら、きっと守ってくれるから。
 「怖いよ」と自分が怯えていたなら、「大丈夫」と抱き締めてくれる筈だから。
 それなのに、思い出せない両親。
 家があった場所も、家の扉も、テーブルだって。
 何もかも自分は忘れてしまって、夢で出会っても、また忘れた。
 目覚ましの音が鳴った途端に、本当のことを。
 自分が子供でいられた時代を、子供の視点で見ていたことを。
 それこそが、きっと真実なのに。
 今も何処かに、本当のことはある筈なのに。
(……パパもママも、家も……)
 エネルゲイアに今もそのままで、自分だけが此処に放り出された。
 ピーターパンの本だけを持って、独りぼっちになってしまって。
 本当のことを全部忘れて、夢に見たって、掴み取れずに。


(……もう一度……)
 眠り直したなら、夢の世界に戻れるだろうか。
 講義に出ないで眠り続けたら、もう一度あの夢に入れるだろうか。
(もしも、戻れたら…)
 今度こそ寝ないで、夢の中で待とう。
 両親に頼んで起こして貰って、ピーターパンがやって来るまで。
 夜の空を飛んでネバーランドへ、ネバーランドよりも素敵な地球へ。
(…飛んで行かなきゃ…)
 もう一度だけ、と切った目覚まし。
 チャンスは掴み取りたいから。
 テラズ・ナンバー・ファイブの夢が来たって、かまわない。
 少しでも希望が残っているなら、それに賭けたいと思うから。
 機械の言いなりになって講義に出るより、今日は機械を無視したいから。
(今日の講義くらい、出なくても…)
 遅れは直ぐに取り戻せるから、夢の世界へ戻ってゆこう。
 夢の世界が本物だから。
 子供が子供でいられた時代は、確かにあった筈なのだから。
(パパとママに会って、御馳走を食べて…)
 夜は寝ないでネバーランドへ、と目を閉じて戻った上掛けの中。
 運が良ければ、きっと真実が見えるから。
 怖い夢が来たってかまわないから、夢の世界へ飛び立とう。
 父と母がいた時代へと。
 本当のことがあった世界へ、機械がすっかり消してしまった子供時代へ。
 その世界への扉が開いたら、真っ直ぐに飛んでゆこうと思う。
 夜は寝ないでピーターパンを待って、ネバーランドへ、ネバーランドよりも素敵な地球へ。
 夢の世界は本物だから。
 真実はきっと其処にあるから、夢に隠れている筈だから…。

 

        戻りたい夢・了

※成人検査で消された記憶は、何処かに残っている筈で…。何かのはずみに出て来る筈。
 だったら夢でも出て来るかもね、と書いてみたけど、シロエ、可哀相…。夢、見られたかな?





拍手[0回]

「よく、御無事で…!」
 その上、この度の敵本拠地発見。
 やはり少佐にかかれば、ただの事故調査では終わりませんね。
 流石です、と勢い込んでキースに挨拶したセルジュ・スタージョン上級中尉。
 グランド・マザー直々の選抜でキースの補佐官を拝命したのだけれども…。
「貴様は?」
 誰だ、と言わんばかりに返したキース。せっかく張り切って駆け寄ったのに。
(…こういう教官だったんだ…)
 想定内だ、と自分に気合で、自己紹介をすることにした。
「少佐の補佐官を拝命しました、セルジュ・スタージョン上級中尉であります」
 マザー直々の選抜により、少佐のお迎えと…。
 ミュウ殲滅を命じられました、とハキハキと言って、「よし!」と自分に及第点。そしたら後ろから来たのがパスカル、なんだかんだで腐れ縁な男。
「以後、スローターハウス作戦の指揮権は少佐に。御無沙汰しております、教官」
「ヴォグ少尉か。マザーには選りすぐりを、と上申したが…」
 見た顔も多いな、と見回すキースは、パスカルの名前を覚えていた。顔とセットで。
(どうして、あいつが…!)
 こっちは忘れ去られていたんだよ、と叫びたいのに、いけしゃあしゃあと続けるパスカル。
「皆、アニアン教官の教え子です。当然の結果かと」
 残りの者も、打てば響くツワモノばかりです、と補佐官をスルーで続いてゆく喋り。
「期待しよう。メギドはどうか」
 キースはこちらを向きもしないで、パスカルの方に訊いているから…。


(あの野郎…!)
 補佐官はパスカルじゃなくてこっちなんだ、と強引に割って入ってやった。
「作戦ポイントでの合流に向け、三光年先で調整中です」
 運用の際、有効射程を考慮して…、と顔を向けたキースに説明しようとしているのに。不要、とキースが上げた右手に遮られてしまった言葉の続き。
「最短の時間で、最大の効果を上げろ。以上だ」
 こう言われたら仕方ないから、総員、敬礼。
 キースはその場を歩き去りながら、振り返りもせずにこう言った。
 「マツカ、着替えを調達して来い」と。
 補佐官の自分を見事にスルーで、宇宙海軍から転属して来たばかりの青年に。有能そうな者ならともかく、どう見ても弱そうなヘタレ野郎に。
 「は、はいっ…!」と答えて走ってゆくヘタレ、果たして用事が果たせるやら…。
(…どいつも、こいつも…)
 なんだってこうも続くんだか、と顰めた眉。パスカルの次はヘタレ野郎か、と。
 けれども、此処は任務が大切。
 いくらキースにスルーされまくりでも、補佐官は自分なのだから。
「各自、持ち場へ戻り、第一種戦闘配置!」
 解散! とやって、解散させたパスカルその他の部下の面々。
 誰もがキリッと自分に敬礼、つまりは自分がキースの次に偉い立場の筈なのに…。


 なんだってこうなるんだか、と部屋に戻った後も収まらない苛立ち。
(ヘタレ野郎が道に迷うかと思ったら…)
 初めて来た筈の船の中でも、ヘタレは道に迷わなかった。ヘタレにはヘタレのスキルというのがあるらしい。なまじヘタレに出来ているから、最初から無いのがプライドなるもの。
(誰にでも道を訊けるよな…!)
 警備兵どころか、清掃係のオッサンでもな、と叩きたい愚痴。
 誰に訊いたか確かめる気も起きないけれども、ヘタレは立派に任務を果たした。それが証拠に、さっき報告があったから。「アニアン少佐は…」とキースの現状について。
 グランド・マザーとの通信用の部屋に行ったなら、着替えは済んだ筈だから。
(…あんなヘタレを使わなくても…!)
 ちょっと一声掛けてくれれば、着替えは自分が調達したのに。「行け」と誰かを顎で使って。
 なのにアッサリ持って行かれた、補佐官な筈の自分の仕事。
 ヘタレなマツカも不快だけれども、もっと頭に来るのがパスカル。
(…ぼくの顔は忘れていたくせに…!)
 パスカルは忘れていなかったんだな、とギリギリと噛みたくなる奥歯。
 しかも「ヴォグ少尉」と階級までスラスラ出て来たからには、キースは何処かで見たのだろう。軍が発行している冊子か何かで、パスカルの顔を。
(そして、覚えて…)
 ぼくを無視してパスカルとばかり喋っていたし、と思い出すだにムカつく光景。
 まるで昔と変わっていないと、嫌な予感はしていたんだと。
 そう、この作戦に選抜されての顔合わせがあった段階で。揃ってこの船に乗った時点で。


 ずっと昔からこうだったよな、と蘇ってくるキースの教官時代。
 「見た顔も多いな」と言われた面子は、全員、同期の者ばかりだった。パスカルも込みで。
 因縁とも呼べる腐れ縁な面子、顔合わせで思わず仰け反ったほど。「こいつらかよ!」と。
 「よりにもよって、この面子かよ」と、「この連中を纏めて行けってか?」と。
 補佐官なのだと聞いた時には、最高の気分だったのに。
 アニアン少佐の下で力を発揮できると、ミュウ殲滅が上手くいったら昇進だって、と。
 ところがどっこい、エンデュミオンに乗り込む前に集まってみたら…。
(…あいつらが揃っていやがったんだ…)
 その瞬間から嫌な予感がヒシヒシ、案の定、パスカルに持って行かれた喋り。
 かてて加えて、自分の顔も名前もキースにスッパリ忘れ去られて、「貴様は?」と訊かれていたというオチ。
 パスカルの方は「ヴォグ少尉か」と即レスな上に、階級まで把握されていたのに。
(…本当に昔から、何も変わっちゃいないんだ…!)
 いつもババばかり引かされていて、と予感的中で覚える頭痛。
 この作戦でもきっと自分がババだと、貧乏クジを引きまくりだと。
 キースが教官だった頃から、そうだったから。
 今の面子が全員教え子だった頃から、あの頃から自分がババだったから。


(アニアン少佐…)
 あの人も昔からああいう人で…、と溜息しか出ない教官時代。
 自分たちがヒヨコでペーペーだった頃、キースは腕こそ立ったけれども、教官の中では孤立していたし、好んで群がる生徒も少なめ。
 さっき自分に「貴様は?」とやったほどなのだから、対人スキルが低めな男。頭はいいのに、同僚や生徒の顔はスルーで、まるで覚える気も無かったから。
(…普通は誰も入らないよな、アニアン・ゼミ…)
 メンバーズ・エリートが自ら仕切るのがゼミなるもの。
 顔を売っておいて損は無いから、人気のゼミには人が集まる。人当たりのいい教官のゼミとか、出世街道まっしぐらな教官が教えるゼミだとか。
 けれど、サッパリ人気が無いのがキースのゼミ。年によっては誰もいないとか、二人もいたなら上等だとか。
(その二人だって、途中でトンズラ…)
 他のゼミへと逃亡すると噂が高かったアニアン・ゼミ。他のゼミの方が人気だから。どうしても肌の合わない教官、そういう場合は途中で移籍出来るから。


(ぼくたちの年は、どういうわけだか…)
 今から思えば、多分、不幸な事故というヤツ。
 ゼミを選ぶための参考資料に書かれていたゼミの紹介文。それが他所のと入れ替わるというミスが起こって、集まった生徒。「此処にしよう」と。
 「ゼミの生徒との交流がメイン、親睦旅行やコンパも多数開催」と書いてあったから。
 自分もコロリと騙されたクチで、よく確かめもしないで入った。先輩たちの口コミを聞いたら、きっと入りはしなかったゼミ。もちろんパスカルや他の面子も。
 その年のアニアン・ゼミは豊作、お蔭で事は上手く運んだ。入ってみたら教官はアレで、旅行やコンパを開催したがるような人では全くなかったけれど…。
(なまじ人数が多かったから…)
 教官にその気が無いのだったら、自分たちの力で行け行けゴーゴー。
 コンパも旅行もやってなんぼだと、教官だって一緒に連れて行ったらオッケーだよな、と。
(親睦旅行も、コンパも、全部…)
 幹事をやらされていたのが自分。「細かいことによく気が付くから」と祭り上げられて、毎回、毎回、旅行の手配に会場の手配。
(でもって、美味しい所だけを…)
 持って行きやがったのがパスカルなんだ、と今でも忘れられない恨み。
 コンパや旅行の予定が立ったら、パスカルがいそいそ出掛けて行った。キースの所へ。
 「アニアン教官も如何ですか?」と、「今回も楽しくなりそうですよ」と。
 元が喋りの上手い男で、言葉巧みに誘うものだから…。


(アニアン教官だって、その気になるんだ…!)
 コンパも旅行も、まるでキャラではない筈なのに。
 どちらかと言えば苦手なタイプで、参加したって楽しめる筈もなさそうなのに…。
(パスカルの座持ちが上手すぎるから…)
 キースもそれなりに飲んでいたのがコンパで、旅行も途中で「帰る」と言いはしなかった。その旅行だのコンパだのでも、自分は幹事だったから…。
(アニアン教官と喋っている暇は殆ど無くて…)
 幹事の役目に追われる始末で、パスカルにすっかり持って行かれた美味しい所。
 それが今日まで尾を引いたとしか思えない。
 キースは会うなり「貴様は?」と言ってくれたわけだし、パスカルの方には「ヴォグ少尉か」と一拍さえも置かずに即レス、あまつさえ今の階級つきで。


(パスカルの野郎…!)
 この作戦でも美味しい所を持って行くんじゃないだろうな、と嫌な予感しかして来ない。
 作戦の肝になる筈のメギド、それの操作はパスカルの担当だったから。
(…ぼくはあくまで補佐官で…)
 ああしろ、こうしろと指示を出すだけ、実務担当はパスカルになる。メギドが首尾よくミュウを焼き払えば、褒められるのはパスカルの手腕。
(…最悪だ…)
 しかもキースはパスカルの顔を覚えていたし、と泣きたいキモチ。
 かてて加えて、他の災難まで降って来た。宇宙海軍から国家騎士団に転属して来たヘタレ青年。
 あれが新たな災いの種になりそうで…。
(…アニアン教官が直々に…)
 転属させたと聞いているから、もう間違いなくアニアン教官のお気に入り。ヘタレなスキルしか持っていないのに、きっとヨイショが上手いのだろう。…パスカルのように。
(…パスカルに、さっきのヘタレ野郎に…)
 今日は厄日か、と言いたい気分だけれども、この先、ずっと厄日な毎日。
 スローターハウス作戦はまだ始まったばかりで、厄日な面子でやって行くしか無いわけだから。
 どう転がっても、面子が変わりはしないから。


(……ツイていないぞ……)
 最悪なことにならなきゃいいが、と思うけれども、逃げられないのが補佐官な立場。
 たとえ今度もババを引きまくりで、美味しい所をパスカルに持って行かれても。
 マツカとかいうヘタレ野郎に、まるっと美味しい思いをされても。
(……昔から、こういう役回りで……)
 コンパも旅行もこうだったんだ、とスタージョン中尉の嘆きは尽きない。
 どうして人生こうなるんだと、今の面子が揃った時点で死亡フラグが立っていたよな、と。
 アニアン教官のゼミ時代からの腐れ縁。
 それが自分の運の尽きだと、其処へマツカまで来やがるなんて、と…。

 

         補佐官の厄日・了

※いや、ツッコミどころが満載だよな、と思うのがコレの冒頭のシーンのアニテラ。
 なんでセルジュの名前は覚えていなくてパスカルなんだ、と。ネタで書くならこうなるオチ。





拍手[0回]

「この色がいいと思うけれどね?」
 ジョミーには、とブルーが示したデザイン画。
 今はソルジャー候補のジョミーが着る服、それのマントの色が今日の話題で。
「確かに目立つ色ではあるのう…」
 何処におっても目を引きそうじゃ、とゼルも頷く真っ赤なマント。これでいいじゃろ、と。
「あたしも赤に賛成だよ。やっぱり目立つのが一番じゃないか」
 地味な色だとイマイチだし…、とブラウが眺めるハーレイの背中。其処には地味な緑のマント。こういう色より、派手に真っ赤に、と。
「私も赤だと思います。赤は王者の色ですから」
 紫と並ぶ高貴な色です、とエラも乗り気の真紅のマント。目立って、おまけに王者の色だと。
「王者の色ねえ…」
 赤もそういう色だったとは、とブルーが漏らした大きな溜息。何故なら、ブルーの紫のマント。それも同じに押し付けられた色だったから。
 ずっと昔に、高貴な色だと。ソルジャーに相応しい色は紫、皇帝の色、と。
「…その件はもう、水に流して欲しいのだがね…」
 時効が成立している筈だ、と逃げの姿勢が見えるヒルマン。彼は、いわゆる戦犯だった。皇帝の紫を推した戦犯、ブルーに着せた張本人。
 かなり長いこと、ヒルマンはブルーに恨まれていた。
 「皇帝の色の紫だなんて、仰々しいマントにしなくても」と。
 キャプテンのマントみたいに地味なのでいいと、よくも紫をプッシュしたな、と。


 紫のマントで悪目立ちをした嫌な思い出。それがブルーの心の傷で、いわゆるトラウマ。
 なにしろ、着せたヒルマンと来たら、当時に宣伝しまくったから。
 じっと黙っていたならともかく、「紫は皇帝の色だ」と喋りまくって、偉い色だと持ち上げた。紫はソルジャーに相応しいのだと、ブルーこそシャングリラの帝王なのだ、と。
(あれのお蔭で…)
 雲の上の人にされてしまった、と今でも悲しい紫のマント。同じマントでも地味な色なら、他の色なら人生違っていたのかも、と。
(もっと、みんなとフレンドリーに…)
 ワイワイやりたかったのがブルーの本音で、只今、会議中の青の間。この部屋だって楽しく使いたかった。これだけの広さがあるのだから。仲間を集めてドンチャン騒ぎも出来そうだから。
(なのに、宝の持ち腐れで…)
 お偉方な長老の四人とキャプテン、その程度しか自由に出入りしない部屋。
 雲の上の人にされたお蔭で、紫のマントを背負ったせいで。
(ジョミーには、ぼくのような思いを…)
 して欲しくない、と考えてしまう。
 ソルジャーの肩書きを継いだ時点で、充分、雲の上だけど。
 雲の上の人にされた自分の後継者ならば、そういうコースで当然だけれど。
(…そうなるのだから、せめてマントは…)
 普通の色にしてやりたい。自分の二の舞にならないように、王者の色は避けるのが吉。
 赤がいいな、と思った考え、それは彼方へブン投げて。
 ジョミーが祭り上げられないよう、もっと普通の色を選んで。


 そう思ったから、しげしげ眺めたデザイン画。赤いマントは却下だ、と。
(…赤が駄目だと…)
 ハーレイのマントと被るけれども、緑とか。こっちの青もけっこういいな、と見ていたら…。
「ソルジャー。…赤に決まったじゃろうが」
 わしらは赤と言っておるぞ、とゼルが揚げ足を取りにかかった。ハーレイも赤に賛成だし、と。
「はい。特に異存はございませんが…。赤のマントでよろしいのでは?」
 それにソルジャーが赤だと仰いましたが、とハーレイに突かれた痛い所。言い出しっぺは確かに自分で、他の誰でもなかったから。「この色がいい」と最初に言った記憶は鮮明だから。
「……赤ということになるのかい?」
 そしてジョミーも、雲の上の人にされてしまうというわけかい、と見詰めた遠い昔の戦犯。
 紫のマントを背負わせてくれて、皇帝の色だの、シャングリラの帝王だのと言ったヒルマン。
「…しかし、ソルジャー…。その件は、もう…」
 とうに時効で、とヒルマンは逃走する気だけれども、ジョミーの今後が目に見えるよう。
 赤いマントを纏った時には、またもヒルマンが旗振り役をするのだろう。今回はエラが加担する可能性も大、「王者の色です」とヒルマンよりも先に言ったのだから。
 きっとジョミーも、自分と同じコースを辿るに違いない。
 赤いマントは王者の色で、シャングリラで一番偉いのだ、と妙な設定がついて来て。
 皇帝の紫にも負けていないと、赤のマントはシャングリラの王者の証だと。
(…それではジョミーが…)
 可哀相すぎる、と経験者だからこそ分かる、マントの色の大切さ。
 それが人生を左右するのだと、ジョミーの今後の運命だってマントで決まる、と。
 だから…。


「…赤だけは駄目だ。どうしても赤を推したいのなら…」
 然るべき理由を考えたまえ、とジロリと睨み回した、四人の長老たちの顔。キャプテンの顔も。
 王者の色よりマシな理由を考えて来いと、皆に親しまれる理由がいいと。
 それが無いなら、赤い色は却下。
 さっきの言葉は撤回すると、青か緑のマントを選ぶと。
「…ソルジャー、それは御命令ですか?」
 そういうことなら従わざるを得ませんが、とハーレイが訊くから、「そうだ」と答えた。
 赤にしたいなら他に理由をと、王者の色なら赤は駄目だ、と。
 今でも微妙な立ち位置のジョミー、勝手に船から出て行った上に、えらい騒ぎを起こしたから。船の仲間たちは忘れていなくて、まだ陰口も消えないから。
(…皆に親しまれるソルジャーになって欲しいのに…)
 王者の色のマントを着せたら、更に開いてしまう距離。仲間たちとの間がグンと。
 赤いマントは意地でも避けるか、他に理由を見付けるか。
 「雲の上の人だ」と崇められる代わりに、誰もが気軽に名前を呼んでくれるソルジャー。
 マントの色には、邪魔されないで。
 むしろ歓迎される赤色、それを纏ったソルジャーになってくれれば、と。


 こうして青の間から叩き出された長老たち。キャプテンも含めて、一人残らず。
 ゼルやブラウは「駄目だと言うなら仕方ないねえ…」と投げてしまって、ハーレイも同じ。赤が駄目なら別に青でもいいじゃないか、という程度。青でも緑でも、何でもオッケー。
 けれど、違ったのがエラとヒルマン。
「…赤で決まりだと思いましたのに…」
「まったくだよ。…まだ根に持っていたとはねえ…」
 何年経ったと思うんだね、とヒルマンがぼやく紫のマント。
 そうは言っても、それを纏って雲の上の人になったのがブルー、彼の意向には逆らえない。赤いマントを選びたいなら、理由を捻り出すしかない。
 ちなみに皇帝の色の紫、それは染料が高かったから。遠い昔は小さな貝から採れる染料、それを大量に使って染めていたから、べらぼうな値段で、皇帝くらいしか買えなかったオチ。
 王者の赤もそれと同じで、貝を使った紫の染め方が失われた後、カイガラムシなる小さな虫から採った染料で染めていた。やっぱり同じにべらぼうな値段、ゆえに王者の色は赤色。
「由緒正しい赤ですのに…」
「私だって、あれを諦めたくはないのだが…」
 何かいい手は無いだろうか、とエラとヒルマンは踏ん張った。何かある筈、と。
 そして…。


「ソルジャー、先日のジョミーのマントの件ですが…」
 如何でしょうか、とエラが披露した赤についての話。青の間に長老とキャプテンを集めて。
 曰く、今年は申年とやらで、その年の赤は非常に縁起がいいらしい。それも赤い服が。
「なるほど、今年は赤色がいい、と…」
 それは全く知らなかった、とブルーは先を促した。申年というのは初耳だけれど、遠い昔には、こだわる人たちも多かったらしい。申年を含む十二の干支に。
「申年に赤い服を誂えると、無病息災なのだそうです。それに…」
 その赤い服を誂えた人が、赤い下着を着ていた場合。周りの人にも幸運が及んで、それは幸せな最高の年になるのだとか。しかも、申年から赤い下着を着け始めると…。
 無病息災も、周りの人への幸運のお裾分けパワーも一生モノに、と言い切ったエラ。
 実際、デッチ上げではなかった。
 遠い昔の申年の話、赤い下着が売れた時代の言い伝え。それが何処かで曲がってしまって、この時代にはこうなっていた。シャングリラが誇る、データベースの情報では。
「赤い服を誂えて、赤い下着か…。すると最高の年になる上に、今、始めると…」
 幸運が持続するのだね、と確認したブルーは、とうに赤へと傾いていた。
 王者の色なら却下だけれども、幸運の色なら大歓迎。
 それにジョミーも、皆に好かれることだろう。申年に誂えた赤いマントとセットで、赤い下着を着け始めたなら。
(ジョミーが赤いパンツを履いたら…)
 これから先も履き続けたなら、一生の間、周りに幸運のお裾分け。
 申年に初めて身に着け始めた、赤いマントと赤いパンツのパワーとやらで。


「いいだろう。そういう赤なら、ジョミーの立場もきっと良くなるだろうから」
 マントの色は赤にしよう、とブルーが出したゴーサイン。
 赤いマントが出来上がったら、ちゃんと宣伝するように、と付け加えることも忘れなかった。
 申年に誂えた赤いマントは縁起がいいと、赤いパンツで周りの運気も一気にアップ、と。
 それを皆にも伝えて欲しいと、王者の赤より、申年の赤いマントと赤いパンツ、と。
(これでジョミーも、皆に親しまれるソルジャーに…)
 なる筈だから、というブルーの読みは見事に当たった。
 ソルジャー候補ながらも赤いマントで赤いパンツになったジョミーは、縁起の良さで人気上昇。
 誰もが幸運のお裾分けをと狙っているから、仲良くしておいて損は無いから。
(…ぼくの二の舞にならなくて良かった…)
 本当に、とホッと息をつくブルーは、まるで知らない。
 赤いパンツを履く羽目になったジョミーの、「なんで、ぼくが」という嘆きの声を。
 「一生、赤いパンツなんて」と、涙目になっていることを。
 これから一生、ジョミーのパンツは赤で決まりで、泣けど叫べど赤一択。
 幸運の赤いパンツだから。
 申年に誂えた赤いマントとセットものだから、赤いパンツは運気上昇の縁起物だから…。

 

       幸運の赤いマント・了

※今年は申年だったっけな、と考えていたら降って来たネタ。赤いマントだよね、と。
 一生、赤いパンツを履くらしいジョミー。気の毒すぎる運命かも…。ブルー、酷すぎ。





拍手[0回]

「取材なら、軍の広報を通してくれ」
 無関心にそう言い捨てたキース。
 久しぶりに見たスウェナだけれども、特に関心は無かったから。
 「この花、覚えてる?」と訊かれた花にも。
 「E-1077の中庭にも咲いていたわ」と言われた所で、もう昔のこと。
 サムでさえも何処かに行ってしまった。
 姿は昔と同じにサムでも、「キース」を覚えていたサムは。友達だったサムは。
 だからスウェナと話すことは無い。
 まして彼女が知りたい内容、ジルベスター星系の事故調査となれば任務だから。
 Mと関係があるかもしれない、国家機密を明かせはしない。
 無駄な話をするつもりも無い、つまらない思い出話など。
 けれど…。


「ピーターパン」
 スウェナがいきなり口にした言葉、それがキースの足を縫い止めた。
 遠い昔にシロエが語った、その本の中身そのままに。
 シロエが乗った練習艇を追っていた時、通信回線を通して聞こえて来た声。
 ピーターパンの本に書かれていること、それをシロエは語り続けていた。
 「影がくっつかないよ」と泣いたピーター、「私が影を縫ってあげる」という言葉。
 まるで時の彼方から戻ったかのように、影の代わりに足を縫われた。
 「ピーターパン」と聞いた途端に。
 縫い止められて立ったままの背中、振り返れないでいたらスウェナは続けた。
「あなた宛のメッセージが発見されたわ」
 …そう、セキ・レイ・シロエのものよ。サムの事故には、私の追っている…。
 白い宇宙鯨が関わっている、とスウェナが前へと回り込んだけれど、どうでも良かった。
 そんな話は。
 問題はシロエ、彼の名前とメッセージ。
 スウェナは「今度会えたら、そのメッセージを渡せるんだけど」と見詰めて来たから。
「戻ったら連絡しよう」
 迷うことなく、そう応えた。
 シロエが残したメッセージならば、どうしても見ておきたいから。
 そう思ったから、「その時は二人だけの同窓会でもしましょ」と言ったスウェナを見送った。


(…変わったのは君の方だ。…スウェナ)
 渡された花を手に持ったままで、心の中で呟いたけれど。
 強くなったと思ったけれども、それもどうでもかまわないこと。
 手の中の花も、今では何の意味も持たない。
 同じ花でも、この白い花は病院の花。
 違う所で咲いた花。
 花を頼りにE-1077に戻れはしないし、サムの心も昔に戻りはしないだろうから。
 見上げれば、病室から手を振るサム。
 「キース」だとは分かってくれないのに。
 サムは笑顔を向けるけれども、それは「関心を持ってくれた人間」だから。
(…何もかもが…)
 変わってしまったんだ、と地面に投げ捨てた花。
 持っていたって、何の役にも立たないから。
 車の運転の邪魔になるだけ、それだけの存在に過ぎないから。


 そうして走り出して間もなく、気付いたこと。
(…シロエ…!)
 その瞬間に踏んだブレーキ、後ろの車が憤るように鳴らしたクラクション。
 メンバーズ・エリートらしくもないミス、慌てて路肩に車を寄せた。
 こんな所で事故を起こすなど、軍に迷惑をかけるだけ。
 けれども今は運転出来ない、そう思ったから停めようと決めた。
 激しく脈を打つ心臓。
 E-1077に、それからシロエ。
(…誰も覚えていない筈なんだ…)
 あのステーションに、セキ・レイ・シロエがいたことを。
 ステーションの運営に関わる者ならともかく、生徒だった者は。
 シロエと同じ時期に其処に居た者、彼らの記憶は消されたから。
(…マザー・イライザ…)
 記憶を消させたマザー・イライザ、皆がシロエを忘れてしまった。
 サムも、シロエの同級生たちも。


 誰もが忘れてしまったシロエ。
 彼の船を撃った自分以外は、一人残らず。
 マザー・イライザの計算の下に奪われた記憶、それは戻りはしないだろう。
 サムのようにでもならない限り。
 今は子供に戻ったサム。
 あんな具合に、シロエのいた時代に心だけが戻れば、有り得るけれど。
(だが、それは…)
 精神状態が普通ではないということ。
 年相応の話はまるで出来ない、ただの子供になるということ。
 候補生時代を「子供」と呼ぶかどうかは、ともかくとして。
(……スウェナ……)
 けれど、スウェナは覚えていた。
 E-1077の中庭に咲いていた花を。
 ステーションにいたセキ・レイ・シロエを、あの頃のままに。
 そしてそのまま成長を遂げて、自分の前に戻って来た。
 「ピーターパン」と。
 シロエが残したメッセージを持って、普通に会話が出来る者として。


(……システムの誤算……)
 それに違いない、マザー・イライザの手から離れたスウェナ。
 ステーションから出て行った時は、結婚という道を選んでいたから、記憶はそのまま。
 何も処理されずに旅立って行った、セキ・レイ・シロエを覚えたままで。
(本当だったら…)
 スウェナは子供の母親になって、それきり消えていただろう。
 シロエの記憶を持っていたって、単なる知り合い程度のこと。
 「昔、そういう人間がいた」と思い出しても、その時限りで消えてゆくもの。
 その後のシロエを追いはしなくて、無関心に記憶の淵に沈むもの。
(しかし、スウェナは…)
 ジャーナリストの道を選んで、離婚してまで今の世界を追っている。
 宇宙鯨を、モビー・ディックを。
 Mの母船がそれの正体だと、スウェナが知っているわけがない。
 ミュウの存在も、Mとは何を指すのかも。
 なのに、核心に迫りつつある、ジャーナリストの勘だけで。
 其処に何かが隠されていると、モビー・ディックが鍵なのだと。


 スウェナが此処まで辿り着いたなら、そしてシロエを覚えているなら。
 メッセージまで持っていると言うなら…。
(…神がシロエに…)
 味方したのか、忘れ去られてしまわぬように。
 どんな形かは分からないけれど、彼のメッセージが届くようにと。
 本当だったら、それは残りはしないのに。
 ステーションの中で処理されているか、何処かに廃棄されて終わりか。
(それが残ったのも…)
 残ってスウェナの手に渡ったのも、神の采配なのだろう。
 スウェナがモビー・ディックを追っていたから、全ての糸が繋がった。
 たった一人だけ、シロエを覚えていた人間。
 それがスウェナで、彼女は何故だか、モビー・ディックを追い始めたから。
 離婚してまで、ジャーナリストになったから。


(……こんなことが……)
 この世にあるのか、と心臓は今も激しく脈打ったまま。
 マザー・システムにもミスはあるのかと、その手を逃れる者もいるのかと。
 シロエは逃れ損なったのに。
 逃げ切れないまま、宇宙に散って行ったのに。
(……シロエ……)
 彼は自分に何を残したと言うのだろう。
 「ピーターパン」とスウェナが口にした言葉、それで思い出すのは古びた本だけ。
 シロエが大切に抱いていた本、子供時代からの持ち物だった本。
(あの時、保安部隊がシロエを…)
 ベッドに乗せて運び去った時、ピーターパンの本を持たせてやった。
 シロエの大事な本なのだからと、側に置いてやって。
(まさか、あの本が…)
 戻って来るとは思えないけれど、他には心当たりが無いから。
(……そうなのか?)
 あれが手元に来るのだろうか、次にスウェナに会ったなら。
 ジルベスターから戻ったなら。


 「ピーターパン」の本、シロエが大切に持っていた本。
 練習艇で宇宙へ逃げ出した時も、中身を語り続けていた本。
 「影がくっつかないよ」と、「縫うって何さ?」と。
 それがあるなら、もう間違いなくマザー・イライザの、マザー・システムのミス。
 シロエはシステムに消されたけれども、あの本は消えずに何処かに残った。
 きっとそうだという気がするから、まだ暫くは…。
(……動けないな……)
 メンバーズ・エリートが、自動車事故など起こせないから。
 運転ミスは出来ないから。
 揺り起こされてしまった感情、それが落ち着いて凪いでくれるまでは、このまま路肩に。
 早くなった鼓動が鎮まるまでは、車を走らせることは出来ない。
 E-1077に、シロエがいた日に、引き戻されてしまったから。
 シロエの船を撃ち落とした日に、あの瞬間へと、心だけが飛んでしまったから。
(…今、走ったなら…)
 前をゆく船が見えるのだろう。
 あの日、シロエが乗っていた船が。暗い宇宙を飛んでゆく船が。
 それを見たなら、また踏むのだろう急ブレーキ。
 今も後悔しているから。
 シロエを乗せた船を見たなら、今の自分は追えはしないで、止まる方をきっと選ぶのだから…。

 

         彼方からの記憶・了

※スウェナが「シロエを覚えている唯一の生徒」なんですよねえ、皮肉なことに。
 いくらマザー・システムでも、そこまでは計算していなかったと思うんですけど…?





拍手[0回]

Copyright ©  -- 気まぐれシャングリラ --  All Rights Reserved

Design by CriCri / Material by 妙の宴 / powered by NINJA TOOLS / 忍者ブログ / [PR]