罪深い命
(もしも、私がいなかったなら…)
サムは幸せだっただろうか、とキースは夜更けに、ふと考えた。
昼間にサムの見舞いに行ったけれども、サムは普段の通りだった。
キースに「赤のおじちゃん!」と呼び掛け、両親の話をしてくれた。
子供時代にサムを育てた養父母は、今もサムと一緒にいるらしい。
(…サムは、私と出会ったばかりに…)
人生どころか、心まで狂う羽目に陥り、治る見込みは全く無い。
「キース」に会わずに生きていたなら、今頃はどうしていただろう。
(そもそも、ジョミー・マーキス・シンが元凶なのだが…)
あいつの友人だったせいで、と思いはしても、大元は「キース」自身だと言える。
マザー・イライザが「キース」を作らなかったら、サムは「選ばれていない」。
(…私を育てるための人材などは、必要無いのだし…)
ジョミー・マーキス・シンが存在しようが、サムの人生に影響は出ない。
(Eー1077にも、来ていたかどうか…)
来ないかもな、とキースは深い溜息を零す。
サムがエリート候補生に向いていたとは思えない。
(宇宙船の事故が起こった時に、私を助けてくれたことは事実でも…)
他の面では劣等生で、卒業後の進路も一般人と変わりはしなかった。
Eー1077の卒業生なら、同じパイロットにしても、違う航路に配属されていたろう。
エリートならではの腕を買われて、磁気嵐が酷いなどの難所が多い所へ。
(…しかし…)
サムは普通の航路に行かされたんだ、とキースにも分かる。
相応しい腕を持っていないなら、一般人のコースに放り込まれて終わる。
キースが知る限り、Eー1077の卒業生で「一般人」になった者は二人だけ。
その二人とはサムとスウェナで、どちらも「キース」の友人だった。
(…マザー・イライザが選び出したか、指示を出したか…)
どちらなのかは謎だけれども、「キース」のために選び出された。
(ミュウの長になった者と、幼馴染だったというだけで…)
二人とも「選ばれる」ことになったとはいえ、それは「キース」が存在していたせい。
(…私が最初から作られていないとか、未完成だったとか…)
そういった時は、サムもスウェナも「本来、行くべきだったコース」に行ったのだろう。
(恐らく、Eー1077ではなくて…)
サムなら、普通のパイロットなどを育てるステーションだったかもしれない。
(パイロットよりも、もっと平凡な…)
職種のステーションに送られ、卒業した後は「養父」だったろうか。
(あいつなら、向いていただろうな…)
昼の間は仕事に出掛けて、それ以外の時間は「子供との暮らし」に充てる生活。
サムが病院で語ってくれる世界を、サムが「自分の子供」と築いてゆく。
成人検査で別れる日までを、慈しんで育てて。
(スウェナも、Eー1077に来ないのならば…)
一般人向けのステーションで教育を受けて、似合いの「誰か」と出会っただろう。
離婚したと聞く男にしたって、一般コースで出会っていたなら、今も一緒に暮らしていそう。
(…離婚した後、子供は他所にやったらしいが…)
その子を手放して養母を辞めるなど、考え付きもしないに違いない。
(サムもスウェナも、私のせいで…)
人生を台無しにされてしまったわけだ、とキースは唇をギュっと噛みそうになる。
シロエも「キースのために選ばれた」ばかりに、宇宙に散った。
「キース」が存在していなかったなら、彼も普通に生きられたと思う。
(ミュウの因子を持っていようが、マツカのように…)
機械の監視を潜り抜けた例があるわけなのだし、「シロエ」ならば可能だったろう。
(頭がいい分、自分は普通ではないらしい、と気付くだろうし…)
マツカ以上に上手くやれそう。
優秀だから、と選び出されて、Eー1077に来ていたとしても、その後が変わる。
(他人とは違う部分を隠して、爪も牙も見事に隠し通して…)
表面上は「大人しい候補生」として、保身に努める。
「キース」を刺激するための素材でないなら、挑戦的に生きる必要は無い。
(こだわっていた、子供時代の記憶にしても…)
機械がシロエに要求していた「消去」のレベルは、低かった可能性が高い。
本当に「忘れてしまった」ような者では、後々、人生に支障が出て来るだろうから。
サムとスウェナと、それからシロエ。
この三人を考えるほどに、「キース・アニアン」の罪は大きい。
(私さえ、存在していなければ…)
彼らは普通に生きられたのだ、と思えて来るから、自分自身を呪いたくなる。
他の誰かを犠牲にしてまで育った命に、どれほどの価値があると言うのか。
しかも「機械が無から作った生命体」など、果たして「命」と呼んでいいのか、それも怪しい。
(…機械が神の領域を侵して、私を作り出したのだしな…)
無価値な上に、罪深い存在が「私」なのか、と悔しくなっても、どうすることも出来ない。
いつか、罪を償える日が来るとしたなら、その時は多分…。
(…世界はミュウのものになっているのだろうな…)
今は危険な異分子なのだが、と夜の窓の外を見るキースは、まだ本当のことを知らない。
ミュウが「進化の必然」であるという事実も、システムが「ミュウを排除出来ない」ことも。
だからこそ「罪」を噛み締めるけれど、キースの考えは間違っていない。
機械が作った生命体でも、キースには心が宿っている。
「自らの罪」を意識して生きていける以上は、罪は機械が背負うべきもの。
真実が明らかになった時には、キースが背負わされた「重すぎる罪」は、消え去るだろう。
今はまだ、その日は見えもしないけれども、人類とミュウの先の未来で…。
罪深い命・了
※キースのせいで人生が狂った人間、アニテラだと三人もいるんですよね。
原作の場合、スウェナはキースと直接の関わりはありません。犠牲者が一名プラス。
サムは幸せだっただろうか、とキースは夜更けに、ふと考えた。
昼間にサムの見舞いに行ったけれども、サムは普段の通りだった。
キースに「赤のおじちゃん!」と呼び掛け、両親の話をしてくれた。
子供時代にサムを育てた養父母は、今もサムと一緒にいるらしい。
(…サムは、私と出会ったばかりに…)
人生どころか、心まで狂う羽目に陥り、治る見込みは全く無い。
「キース」に会わずに生きていたなら、今頃はどうしていただろう。
(そもそも、ジョミー・マーキス・シンが元凶なのだが…)
あいつの友人だったせいで、と思いはしても、大元は「キース」自身だと言える。
マザー・イライザが「キース」を作らなかったら、サムは「選ばれていない」。
(…私を育てるための人材などは、必要無いのだし…)
ジョミー・マーキス・シンが存在しようが、サムの人生に影響は出ない。
(Eー1077にも、来ていたかどうか…)
来ないかもな、とキースは深い溜息を零す。
サムがエリート候補生に向いていたとは思えない。
(宇宙船の事故が起こった時に、私を助けてくれたことは事実でも…)
他の面では劣等生で、卒業後の進路も一般人と変わりはしなかった。
Eー1077の卒業生なら、同じパイロットにしても、違う航路に配属されていたろう。
エリートならではの腕を買われて、磁気嵐が酷いなどの難所が多い所へ。
(…しかし…)
サムは普通の航路に行かされたんだ、とキースにも分かる。
相応しい腕を持っていないなら、一般人のコースに放り込まれて終わる。
キースが知る限り、Eー1077の卒業生で「一般人」になった者は二人だけ。
その二人とはサムとスウェナで、どちらも「キース」の友人だった。
(…マザー・イライザが選び出したか、指示を出したか…)
どちらなのかは謎だけれども、「キース」のために選び出された。
(ミュウの長になった者と、幼馴染だったというだけで…)
二人とも「選ばれる」ことになったとはいえ、それは「キース」が存在していたせい。
(…私が最初から作られていないとか、未完成だったとか…)
そういった時は、サムもスウェナも「本来、行くべきだったコース」に行ったのだろう。
(恐らく、Eー1077ではなくて…)
サムなら、普通のパイロットなどを育てるステーションだったかもしれない。
(パイロットよりも、もっと平凡な…)
職種のステーションに送られ、卒業した後は「養父」だったろうか。
(あいつなら、向いていただろうな…)
昼の間は仕事に出掛けて、それ以外の時間は「子供との暮らし」に充てる生活。
サムが病院で語ってくれる世界を、サムが「自分の子供」と築いてゆく。
成人検査で別れる日までを、慈しんで育てて。
(スウェナも、Eー1077に来ないのならば…)
一般人向けのステーションで教育を受けて、似合いの「誰か」と出会っただろう。
離婚したと聞く男にしたって、一般コースで出会っていたなら、今も一緒に暮らしていそう。
(…離婚した後、子供は他所にやったらしいが…)
その子を手放して養母を辞めるなど、考え付きもしないに違いない。
(サムもスウェナも、私のせいで…)
人生を台無しにされてしまったわけだ、とキースは唇をギュっと噛みそうになる。
シロエも「キースのために選ばれた」ばかりに、宇宙に散った。
「キース」が存在していなかったなら、彼も普通に生きられたと思う。
(ミュウの因子を持っていようが、マツカのように…)
機械の監視を潜り抜けた例があるわけなのだし、「シロエ」ならば可能だったろう。
(頭がいい分、自分は普通ではないらしい、と気付くだろうし…)
マツカ以上に上手くやれそう。
優秀だから、と選び出されて、Eー1077に来ていたとしても、その後が変わる。
(他人とは違う部分を隠して、爪も牙も見事に隠し通して…)
表面上は「大人しい候補生」として、保身に努める。
「キース」を刺激するための素材でないなら、挑戦的に生きる必要は無い。
(こだわっていた、子供時代の記憶にしても…)
機械がシロエに要求していた「消去」のレベルは、低かった可能性が高い。
本当に「忘れてしまった」ような者では、後々、人生に支障が出て来るだろうから。
サムとスウェナと、それからシロエ。
この三人を考えるほどに、「キース・アニアン」の罪は大きい。
(私さえ、存在していなければ…)
彼らは普通に生きられたのだ、と思えて来るから、自分自身を呪いたくなる。
他の誰かを犠牲にしてまで育った命に、どれほどの価値があると言うのか。
しかも「機械が無から作った生命体」など、果たして「命」と呼んでいいのか、それも怪しい。
(…機械が神の領域を侵して、私を作り出したのだしな…)
無価値な上に、罪深い存在が「私」なのか、と悔しくなっても、どうすることも出来ない。
いつか、罪を償える日が来るとしたなら、その時は多分…。
(…世界はミュウのものになっているのだろうな…)
今は危険な異分子なのだが、と夜の窓の外を見るキースは、まだ本当のことを知らない。
ミュウが「進化の必然」であるという事実も、システムが「ミュウを排除出来ない」ことも。
だからこそ「罪」を噛み締めるけれど、キースの考えは間違っていない。
機械が作った生命体でも、キースには心が宿っている。
「自らの罪」を意識して生きていける以上は、罪は機械が背負うべきもの。
真実が明らかになった時には、キースが背負わされた「重すぎる罪」は、消え去るだろう。
今はまだ、その日は見えもしないけれども、人類とミュウの先の未来で…。
罪深い命・了
※キースのせいで人生が狂った人間、アニテラだと三人もいるんですよね。
原作の場合、スウェナはキースと直接の関わりはありません。犠牲者が一名プラス。
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