始まりは機械
(…ぼくのパパとママ…)
機械が選び出したんだよね、とシロエは、両親を思い浮かべようと試みる。
Eー1077の個室は、夜が更けてゆく時間。
マザー・イライザが現れないよう、ベッドの端に腰を下ろして、懐かしい面影を追う。
(……駄目だ……)
やっぱり顔がぼやけてしまう、と悔しくなって拳をベッドに叩き付けた。
コールされる度に、両親の顔立ちを忘れてゆくのは分かっている。
(呼ばれないよう、気を付けていれば…)
忘れ去るのは防げそうでも、憎い機械に逆らわずにはいられない。
とはいえ、シロエのために両親を与えたのも、機械だった。
『マザー・イライザ』ではなかっただけで、何処に置かれているのだろうか。
(…地球にいるという、グランド・マザーは、養父母選びにまでは…)
多分、関わってはいないと思う。
成人検査を行うユニバーサル・コントロールか、その上に位置する機械辺りか。
養父母を選ぶのが先か、子供を選び出すのが先になるのか、それもシロエは知らない。
SD体制の時代は、人の進路は区分けされていて、他のコースの詳細は掴みにくい。
(一般人コースに進んだ人が、ステーションを出る時に合わせて…)
赤ん坊を選んで与えているのか、一定期間を経過してから与えるのか。
(…分からないよね…)
一般人向けのステーションだったら、常識だろうけど、とシロエは深い溜息を零す。
両親を慕い続ける割には、シロエは余りにも「家族」というものが分かってはいない。
(ぼくのパパとママ、ああいう人たちだったけけど…)
機械の采配が何処まで作用するのか、それさえも謎に包まれている。
エネルゲイアで過ごした子供時代の記憶は、おぼろげだけに、友人の両親も不明瞭だった。
そんな中でも「覚えている」ことが、一つだけある。
(どの子も、育ての親に似ていて、違和感が無かったんだ…)
今の時代には有り得ない話だけども、「実子なんです」と言われても、信じられたろう。
シロエの両親の場合も、シロエに「何処か似ている」顔立ちだったと記憶している。
機械が「養父母」を選ぶ基準の一つは、そういったことに違いない。
実子でも通りそうな「親」が選ばれるのなら、他の要素は何なのだろう。
(赤ん坊の性格は、決まってはいなくて、育つ過程で決まるんだから…)
相性で決めはしないだろうし、と考えた所で、思考が別の方向を向いた。
「シロエ」の性格を「作り上げた」のが、両親だったら、違っていたなら、どうだったか。
『ピーターパン』の本を与える代わりに、現実に根差した本を渡すような親とか。
(…ぼくのパパとママは、本が好きだったから…)
色々と与えてくれたけれども、違うタイプの親だって存在している。
休日になったら、子供をスポーツなどに連れ出すタイプは多かったと思う。
サッカーの観戦だとか、公園に出掛けてジョギングだとか。
(…ぼくは、どっちも未経験かも…)
成人検査で忘れ去っていなければね、と自信は無くても、その手の親ではなかった。
研究者の父と、お菓子作りが得意だった母は、揃って、スポーツ好きだとは言えない。
(…性格を作り出すのが、養父母だったら…)
ぼくのパパとママが、違う人だった場合は、ぼくも別人だったわけだ、と恐ろしい。
今頃は機械の言いなりになって、「マザー牧場の羊」そのものの「シロエ」だろうか。
機械に逆らって生きることなど「考えもしない」、模範生かもしれない。
(…頭脳の出来は、育ちとは違うから…)
此処にいる「シロエ」が、そうなったように、Eー1077に来ている優秀な生徒。
憎い「キース」とも、上手くやってゆける。
いずれ何処かで「メンバーズ」同士、再会出来る時が来たなら、似合いのエリート。
(…そんな人生、ぼくは御免で…)
進みたくないよ、と嘆かなくても、実際、その道を歩んではいない。
けれど万一、機械が「選び出した両親」が、別の二人で、シロエを育て上げた時は…。
(…そっちの道を真っ直ぐ進んで、振り返ったりもせずに…)
歩いて行く結果になっていたんだ、と背筋が冷たく凍えてしまいそう。
今、此処に「シロエ」が生きているのは、あくまで「偶然」。
機械が選び出した「両親」と、「シロエ」という子供が結び付いた時だけの「奇跡」。
なんてことだ、と情けないけれど、「シロエ」は機械に「作り出された」。
故郷にいる「両親」を与えられたからこそ、「シロエ」という人格が生まれ出てきた。
(…それって、酷いよ…)
憎い機械に選び出された「出会い」の結果が「自分」だなんて、悲しくて虚しい。
自分の意志で生きていたって、その「意志」は、誰が育ててくれたお蔭で生まれたのか。
(…あんまり過ぎるし、考え過ぎだと思いたいけれど…)
真実は多分、そうなんだよね、とシロエの頬を涙が伝い落ちてゆく。
「機械」抜きでは、「シロエ」は「生まれない」から。
懐かしい両親を選んで「与えれてくれた」モノも機械で、全ては機械の手のひらの上。
何処まで逃げて、無事に逃げおおせたつもりだろうが、「シロエ」は機械が作った。
その人生が終わる瞬間、頭をよぎる「想い」も、その発端は「機械」。
機械が選んだ「両親」が育てて、「シロエ」という「人格」を作り上げたのだから…。
始まりは機械・了
※シロエを育てた養父母が、別の人だったら、と考えた所から生まれたお話です。
原作にはなかった「ピーターパンの本」の影響、大きそうだと思うの、作者だけかも。
機械が選び出したんだよね、とシロエは、両親を思い浮かべようと試みる。
Eー1077の個室は、夜が更けてゆく時間。
マザー・イライザが現れないよう、ベッドの端に腰を下ろして、懐かしい面影を追う。
(……駄目だ……)
やっぱり顔がぼやけてしまう、と悔しくなって拳をベッドに叩き付けた。
コールされる度に、両親の顔立ちを忘れてゆくのは分かっている。
(呼ばれないよう、気を付けていれば…)
忘れ去るのは防げそうでも、憎い機械に逆らわずにはいられない。
とはいえ、シロエのために両親を与えたのも、機械だった。
『マザー・イライザ』ではなかっただけで、何処に置かれているのだろうか。
(…地球にいるという、グランド・マザーは、養父母選びにまでは…)
多分、関わってはいないと思う。
成人検査を行うユニバーサル・コントロールか、その上に位置する機械辺りか。
養父母を選ぶのが先か、子供を選び出すのが先になるのか、それもシロエは知らない。
SD体制の時代は、人の進路は区分けされていて、他のコースの詳細は掴みにくい。
(一般人コースに進んだ人が、ステーションを出る時に合わせて…)
赤ん坊を選んで与えているのか、一定期間を経過してから与えるのか。
(…分からないよね…)
一般人向けのステーションだったら、常識だろうけど、とシロエは深い溜息を零す。
両親を慕い続ける割には、シロエは余りにも「家族」というものが分かってはいない。
(ぼくのパパとママ、ああいう人たちだったけけど…)
機械の采配が何処まで作用するのか、それさえも謎に包まれている。
エネルゲイアで過ごした子供時代の記憶は、おぼろげだけに、友人の両親も不明瞭だった。
そんな中でも「覚えている」ことが、一つだけある。
(どの子も、育ての親に似ていて、違和感が無かったんだ…)
今の時代には有り得ない話だけども、「実子なんです」と言われても、信じられたろう。
シロエの両親の場合も、シロエに「何処か似ている」顔立ちだったと記憶している。
機械が「養父母」を選ぶ基準の一つは、そういったことに違いない。
実子でも通りそうな「親」が選ばれるのなら、他の要素は何なのだろう。
(赤ん坊の性格は、決まってはいなくて、育つ過程で決まるんだから…)
相性で決めはしないだろうし、と考えた所で、思考が別の方向を向いた。
「シロエ」の性格を「作り上げた」のが、両親だったら、違っていたなら、どうだったか。
『ピーターパン』の本を与える代わりに、現実に根差した本を渡すような親とか。
(…ぼくのパパとママは、本が好きだったから…)
色々と与えてくれたけれども、違うタイプの親だって存在している。
休日になったら、子供をスポーツなどに連れ出すタイプは多かったと思う。
サッカーの観戦だとか、公園に出掛けてジョギングだとか。
(…ぼくは、どっちも未経験かも…)
成人検査で忘れ去っていなければね、と自信は無くても、その手の親ではなかった。
研究者の父と、お菓子作りが得意だった母は、揃って、スポーツ好きだとは言えない。
(…性格を作り出すのが、養父母だったら…)
ぼくのパパとママが、違う人だった場合は、ぼくも別人だったわけだ、と恐ろしい。
今頃は機械の言いなりになって、「マザー牧場の羊」そのものの「シロエ」だろうか。
機械に逆らって生きることなど「考えもしない」、模範生かもしれない。
(…頭脳の出来は、育ちとは違うから…)
此処にいる「シロエ」が、そうなったように、Eー1077に来ている優秀な生徒。
憎い「キース」とも、上手くやってゆける。
いずれ何処かで「メンバーズ」同士、再会出来る時が来たなら、似合いのエリート。
(…そんな人生、ぼくは御免で…)
進みたくないよ、と嘆かなくても、実際、その道を歩んではいない。
けれど万一、機械が「選び出した両親」が、別の二人で、シロエを育て上げた時は…。
(…そっちの道を真っ直ぐ進んで、振り返ったりもせずに…)
歩いて行く結果になっていたんだ、と背筋が冷たく凍えてしまいそう。
今、此処に「シロエ」が生きているのは、あくまで「偶然」。
機械が選び出した「両親」と、「シロエ」という子供が結び付いた時だけの「奇跡」。
なんてことだ、と情けないけれど、「シロエ」は機械に「作り出された」。
故郷にいる「両親」を与えられたからこそ、「シロエ」という人格が生まれ出てきた。
(…それって、酷いよ…)
憎い機械に選び出された「出会い」の結果が「自分」だなんて、悲しくて虚しい。
自分の意志で生きていたって、その「意志」は、誰が育ててくれたお蔭で生まれたのか。
(…あんまり過ぎるし、考え過ぎだと思いたいけれど…)
真実は多分、そうなんだよね、とシロエの頬を涙が伝い落ちてゆく。
「機械」抜きでは、「シロエ」は「生まれない」から。
懐かしい両親を選んで「与えれてくれた」モノも機械で、全ては機械の手のひらの上。
何処まで逃げて、無事に逃げおおせたつもりだろうが、「シロエ」は機械が作った。
その人生が終わる瞬間、頭をよぎる「想い」も、その発端は「機械」。
機械が選んだ「両親」が育てて、「シロエ」という「人格」を作り上げたのだから…。
始まりは機械・了
※シロエを育てた養父母が、別の人だったら、と考えた所から生まれたお話です。
原作にはなかった「ピーターパンの本」の影響、大きそうだと思うの、作者だけかも。
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