(…どうして私は、人類なのだろうな?)
実に不合理な話なのだが、とキースが漏らした自嘲の溜息。
首都惑星ノアの、国家騎士団総司令に与えられた個室で、たった一人で。
とうに夜更けで、側近のマツカも下がらせた後。
彼が淹れていったコーヒーだけが、まだカップの中で湯気を立てている。
「コーヒーを淹れるだけしか、能のない野郎だ」と、他の部下から揶揄されるマツカ。
その部下たちは、自分が教官をしていた頃から、目をかけていた優秀な者たちだけれど…。
(誰一人として、マツカの真価を知る者はいない)
今や右腕となったスタージョン中尉も、頭の切れるパスカルでさえも。
彼ら以外の者が見たって、マツカは「ただの側近」なだけ。
ひ弱で、武器もろくに扱えず、「キースの身の回りの世話」をしているだけの。
(…だが、実際は…)
今日もマツカに救われた命。
国家騎士団総司令を狙った暗殺計画、それをマツカは未然に防いだ。
「そちらのルートは、通らない方が」と、遠回しな言い方で告げて来て。
ミュウならではの能力でもって、暗殺者の所在か、殺意に気付いて。
(…私は、マツカの進言を受けて…)
何食わぬ顔で、スタージョン中尉に命令した。
「ルートを変える」と、「それから、元のルートの方を調べろ」と。
急いで駆け出して行った部下たち。
彼らはルートの近辺を調べ、暗殺者どもを逮捕したけれど…。
(…全ては、私の危機管理能力が優れているからだ、と…)
思い込んでいて、疑いもしない。
まさか、その裏にマツカがいるとは。
「コーヒーを淹れるしか、能のない野郎」が、卓越した能力を持っているとは。
(……そして、マツカは……)
忌むべきミュウというヤツなのだ、と再び零れ落ちる溜息。
「どうして私は人類なのだ」と、「ミュウにすることも、出来ただろうに」と。
マツカの能力を見せられる度、そういう思いが掠めてゆく。
「この能力が、私にあれば」と、「私ならば、もっと使いこなせる」と。
実際、マツカのミュウとしての力は、優れたものだと言えるだろう。
ジルベスター・セブンの頃から、何度も命を助けられたし、力も目にした。
(…瞬間移動まで、出来るのだからな)
実験体として飼われるミュウたち、彼らの場合は、そこまで出来ない。
いわゆる、タイプ・グリーンでは。
伝説と言われたタイプ・ブルー・オリジン、ソルジャー・ブルーの場合でさえも…。
(……アルタミラでは、確認されていない力だ)
つまりはタイプ・ブルーであっても、急には使えないのだろう。
サイオン能力を磨かない限り、発動出来ないものだと言える。
それをマツカは、いとも容易く…。
(…メギドで、やってのけたのだからな)
しかも、自分一人を移動させるのではなく、「キース」までをも伴って。
後にマツカに確かめたけれど、やはり、あの時が初めてだという。
「出来るとは思っていませんでした」と、「どうやったのかも、分かりません」と。
(…タイプ・グリーンには、出来ないとされているのだが…)
ソルジャー・ブルーも、研究施設では、一度も使っていないのだが、と思う能力。
けれどマツカは、確かに「使った」。
その能力を、もしも「自分」が持っていたなら…。
(…「どうやったのかも、分かりません」などとは、言っていないで…)
死に物狂いで、再現に努めることだろう。
「あの時、私は、どうやったのか」と。
再現するのに必要であれば、この命さえも、危険に晒してかまわない。
絶体絶命な危機的状況、それで力が発動するというのなら。
その可能性があるのだったら、迷いなく、そうすることだろう。
部下たちと宇宙に出掛けて行って、「私を生身で、宇宙空間に放り出せ」と命じるとか。
あるいは、ノアの海の底深く、其処で「私を海に投棄しろ」とか。
そうなったならば、瞬間移動をしない限りは、死ぬのだから。
もっとも、一瞬の内にシールド、それで生き延びる可能性もあるのだけれど。
(…シールドを張ってしまったら…)
やり直しだな、と苦笑する。
それでは話にならないのだから、もっと過酷な条件を自分に課さなければ。
瞬間移動という特殊な能力、それを自在に操るために。
伝説のタイプ・ブルー・オリジン、彼とも互角に戦えるほどに。
(……そう、私なら、それが出来るのだ)
もしも私がミュウだったなら、とマツカが淹れたコーヒーのカップを見詰める。
「キース・アニアン」がミュウであったら、何故、まずいのか。
要はバレなければいいだけなのだ、と思えてならない。
現にマツカがミュウな事実は、グランド・マザーも「把握していない」。
それとも、黙認しているのだろうか、「マツカ」は役に立つミュウだから。
彼を抹殺してしまうよりは、「キース」を補佐させた方が得だ、と計算したか。
そうだとしたなら、「キース・アニアン」がミュウであっても、問題は無いと思えてくる。
ミュウだと、誰にもバレなければ。
処分されるべき異分子なのだと、誰も気付きはしなかったならば。
(…そうなっていたら…)
ミュウどもは、とうに殲滅された後だな、と浮かべた酷薄な笑み。
グランド・マザーの命令とあらば、同族だろうと容赦はしない。
一瞬さえも迷いはしないし、彼らを全て滅ぼすだろう。
全ては偉大なるグランド・マザーの命令のままに。
(……ジルベスター・セブンに降下するのも、私がミュウなら……)
造作ないことで、ミュウどもの妨害に阻まれはしない。
船を落とされることさえもなくて、易々と着陸していただろう。
「人類の犬」を始末しに来た、ジョミー・マーキス・シンの力を、物ともせずに。
その場で彼と対峙したって、同じミュウなら敗れはしない。
たとえジョミーが、タイプ・ブルーであろうとも。
自分はタイプ・ブルーではなくて、タイプ・グリーンであったとしても。
(…マツカでさえも、あれだけやれるのだしな)
私だったら、負けはしない、と自信はある。
恐らく互角に戦える筈で、銃やナイフを扱える分だけ、有利だろう、と。
「キース・アニアン」がミュウだったならば、今の状況は変わっていた筈。
人類はミュウを全て消し去り、脅威でさえもなくなったろう。
どうすればミュウを処分できるか、そのための指示を、ミュウの「キース」が下すのだから。
ミュウのことなら、同じミュウには、手に取るように分かると思う。
成人検査を、どのように改革するべきか。
社会に紛れ込んでいるミュウ、彼らを端から炙り出すには、どういう策が効果的かも。
(…そもそも、モビー・ディックが無ければ…)
大したことは出来はしない、と経験からして分かっている。
タイプ・ブルーが何人いようと、機会を捉えて個々に抹殺すれば済むこと。
メギドで、自分がそうしたように。
あの時、メギドは失ったけども、ミュウの方ではソルジャー・ブルーを失った。
それを思えば、やってやれないことではない。
まして「キース」がミュウだったならば、ジョミー・マーキス・シンにしたって…。
(…ジルベスター・セブンで、最初に出会った時に…)
ナイフで始末をつけたろうから、流れは其処から変わり始める。
モビー・ディックで「キース」を殺そうと試みた子供、彼にしてみても…。
(攻撃される前に、返り討ちだな)
最初から捕えられもしないが、と顎に当てる手。
ジョミー・マーキス・シンを倒していたなら、次の目標はモビー・ディック。
自ら乗り込み、内部から破壊することは容易い。
同じミュウなら、「キース」の方が遥かに強いだろうから。
警備の兵が何人いようが、捕まらなければ、船の中を自由に走り回れる。
メイン・エンジンを暴走させれば、ひとたまりもないことだろう。
モビー・ディックは微塵に砕けて、ソルジャー・ブルーも、あの子供も…。
(巻き添えになって死んでいたかもしれないな)
でなくても、瀕死の重傷だろう、と想像はつく。
息の根を止めることは簡単、それで「キース」の任務は終わる。
残るは、新しく生まれて来るミュウと…。
(人類に紛れ込んでいるミュウの処分だけ…)
それだけなのに、と解せない「今」。
どうして「キース」は、人類なのか、と。
(……同じように、無から作り出すなら……)
ミュウにも作れた筈なのだがな、と生じる疑問。
「バレなかったら、ミュウにしておいてもいい筈だが」と。
その方が、きっと役に立つのに。
同族殺しを躊躇うようなら、そんな人間は「キース」ではない。
無から作った「キース」がミュウなら、この宇宙から…。
(…ミュウは残らず消えた筈だが、何故、私を…)
人類として作ったのだ、と疑問は消えない。
「何か理由があるのだろうか」と。
「人類でなければ、存在してはならないのか」とも。
いつか直接、聞いてみようか、と思いさえする。
「どうして私は、ミュウであってはならないのですか」と。
「ミュウだった方が、ミュウを滅ぼすには、遥かに有利な筈なのですが」と…。
不合理な生まれ・了
※キースがミュウとして作られていたら、ミュウは殲滅されていた筈。マツカ以上の脅威。
けれど、SD体制そのものが、ミュウの存在を認めない世界。そういうシステム。
(……地球……)
この星に運命を変えられたよね、とシロエが零した小さな溜息。
E-1077の夜の個室で、一人きりで机に向かっていて。
明日の講義で使う資料を読んでいる時に。
其処に書かれた「地球」という文字。
人類の聖地とされている星、SD体制を統べるグランド・マザーがいるという星。
(…ずっと昔に、人間が無茶なことをしたから…)
青く輝く母なる星には、人が住めなくなってしまった。
大気は汚染され、海からは魚影が消えていって。
地下には分解不可能な毒素、人類が窒息させてしまった地球。
(その地球を、青く蘇らせるために…)
今も努力が続けられていて、進められている清浄化。
六百年も経っているから、かなり進んでいることだろう。
きっと宇宙から眺めた時には、元通りに青く見えるくらいに。
一度滅びてしまった星とは、誰にも信じられないほどに。
(……うん、きっと、そう……)
ネバーランドよりも素敵な場所が地球なんだから、と一人、頷く。
幼かった日に、大好きな父が教えてくれた。
「ネバーランドよりも、素敵な場所さ」と。
そうして、父は笑顔で言った。
「シロエなら、行けるかもしれないな」とも。
(…そう聞いたから…)
地球に行こうと、懸命に努力を重ねた日々。
成績優秀な子供でなければ、地球に行く道は開けないから。
大人社会への入口になる、十四歳の誕生日。
その日に受ける成人検査で、選ばれなければ、チャンスは来ない。
地球に行くべき子供だけしか、そのための教育を受けられないから。
他のコースに振り分けられたら、チャンスは二度と来ないのだから。
ネバーランドよりも、素敵な地球。
いったい、どんな所だろうかと、幼い頃から夢を見て来た。
遠い昔にネバーランドを記した作家を、その懐に育んだ地球。
人類が最初に生まれた星で、地球と並ぶほどの環境を持つ惑星は…。
(未だに一つも見付かってなくて…)
首都惑星のノアでさえもが、地球には及ばないという。
SD体制が始まる前から、テラフォーミングをされて来たのに。
「最も地球に近い星だ」と、首都惑星に定められたのに。
(…ノアは、充分、青いんだけど…)
綺麗な星に見えるんだけどな、と画面にノアの画像を呼び出す。
この目で見たことは無いのだけれども、子供の頃から、何度も見て来たノアという星。
教科書や、ニュースや、新聞などといった媒体。
其処に出て来るノアの姿は、一見、地球かと見まがうほど。
ノアの周りをぐるりと取り巻く、白く輝く輪さえ無ければ。
それだけが地球との違いなのでは、と思うくらいに。
(…だけど、この星も、地球に比べたら…)
敵わないって言うんだから、と地球の画像と並べてみた。
「あんまり変わらないけどね?」と。
「どっちも青いし、白い輪があるか、無いかの違いに見えるけど…」と。
そうは思っても、今の自分が見られるデータは、限られたもの。
学生用にフィルタリングされ、制限されたものしか無い。
だから「本物の地球」の姿は…。
(……見られるわけがないんだよね……)
今のぼくでは、と零れる溜息。
メンバーズ・エリートに選ばれたって、それだけでは、まだ無理だろう。
もっと努力を重ね続けて、相応しく昇進してゆかないと。
「地球に降り立つ資格がある」と、グランド・マザーが認めない限り。
その日が来るまで、得られるデータは「本当の地球」を捉えてはいない。
人類が還るべき心の故郷、聖地とまでされる真の姿は。
誰もが焦がれ、還りたい故郷、青く輝く水の星は。
(…絶対、こんな画像なんかより…)
本物の地球は、遥かに美しいのだろう。
この目で見たなら、たちまち魅了されるくらいに。
一度、その星に降り立ったならば、二度と離れたくないほどに。
(……だからこそ、フィルタリングされてて……)
きっと大人の社会に行っても、一般人には「本物の地球」は見られないのに違いない。
宇宙から眺めることはもちろん、画像でさえも。
何故なら、それを目にしてしまえば、誰でも「行きたくなる」だろうから。
たとえ、どんなに望んだとしても、一般人には、そのための許可は下りないのに。
宇宙を旅するパイロットでさえ、地球があるというソル太陽系には…。
(…立ち寄ることさえ出来ないんだよね?)
E-1077で受けた講義で、そう教えられた。
航路設定を間違えた船が、ソル太陽系に接近したなら、警告される。
「直ちに、此処を立ち去るように」と。
「そのまま進めば、撃墜する」と、最大級の脅し文句で。
(…きっと、近くの軍事基地から…)
警備艇が飛び立ち、近付いた船が遠くに去るまで、追跡もすることだろう。
本当に「間違えて接近した」のか、「わざと」なのかを確かめに。
許可無く地球を目指していたなら、それは重罪だとされる。
たとえ「見たい」と望んだだけでも、厳しい裁きを受けるという。
今の地球には、選ばれた者しか行けないから。
母なる地球を再び滅ぼすことが無いよう、そうする恐れが無い者だけが降り立てる星。
(…愚かな人間が、地球に行ったら…)
歴史は、再び繰り返すから。
欲望のままに地球を貪り、生命力を削っていって。
せっかく長い長い時をかけ、青い星を蘇らせたのに。
ヒトの生き方を改革してまで、元に戻した「母なる星」。
それを再び滅ぼすことなど、けして許されはしないから。
重ねた努力を無にすることなど、絶対にしてはならないのだから。
(…そう、生き方を変えてまで…)
地球を蘇らせたんだから、と誇らしい気持ちを抱いたけれど。
「ぼくは、地球まで行くんだから」と、選ばれる筈の未来を思い描いたけれど…。
(……ヒトの生き方を変えた、って……)
SD体制のことなんだよね、とハタと気付いた。
今の自分が、憎むシステム。
機械が統治している歪んだ体制、大人の社会と子供の社会を分けている世界。
そのシステムが作られた理由、それは「母なる地球を蘇らせる」ため。
人類が滅ぼしてしまった地球は、「そのままでは」取り戻すことが出来ないから。
従来通りの生き方をすれば、人間は地球を滅ぼすだけ。
途方もない時間をかけてやっても、美しい地球は「戻って来ない」。
人類が、「地球を滅ぼした」から。
愚かしいヒトは、どんなにしたって、同じ道しか歩まないから。
(…だから、人間を変えるしか…)
方法は無い、と遠い昔に、人間たちは決断した。
「今の生き方を変えよう」と。
自分たちが今、変えなかったら、「地球を元には戻せない」から。
(…それで、SD体制を敷いて…)
グランド・マザーと、マザー・システム、機械に「ヒトの統治」を委ねた。
機械に全てを任せさえすれば、全てが計算通りに運ぶ。
ヒトと違って、機械は「決して間違えはしない」。
組まれたプログラムの通りに動いて、ヒトを管理し、支配してゆける。
「地球を蘇らせる」という目的、それを果たすために。
そうして地球が蘇ったなら、二度と再び、滅びることがないように。
けれども、ヒトにそれをさせたら、美しい地球が蘇っても…。
(…また、同じことをしてしまうだけ…)
蘇った地球を好きに貪り、生命力を失わせて。
大気を汚して、海を汚して。
地下には毒素が溜まっていって、またしても地球は滅びてしまう。
ヒトは過ちを犯すものだし、やり直させても、同じだから。
(……ヒトが作った……)
SD体制も、マザー・システムも、とゾクリと背筋に走った悪寒。
憎くてたまらない機械の世界は、元は人間が作ったモノ。
滅びゆく地球を、青く蘇らせるために。
人類の聖地、母なる星を、二度と失うことが無いよう。
(…そうやって、地球を取り戻しても…)
肝心のヒトは、誰もが行けるわけではない「地球」。
どんなに「見たい」と恋焦がれても、適性と能力が無い人間には、許可は下りない。
地球には降りずに、宇宙船から眺めることさえ、生涯、出来ずに死んでゆくだけ。
画像で見るのを許される地球も、こうして見ている画像のように…。
(…フィルタリングされてて、本物よりも、ずっと…)
質の劣ったものでしかなくて、「ノアと変わらない」星にしか見えない。
本物の地球は、もっと美しい筈なのに。
ネバーランドよりも素敵な場所で、選ばれた者しか行けないのに。
(……そんな星のために……)
このシステムが生まれたのか、と恐ろしくなる。
地球に行きたいとは思うけれども、それも「機械が仕掛けた」ろうか。
誰もが、少しも疑いもせずに、「地球のために」生きてゆくように。
地球を蘇らせるためにだけ生きて、そのために死んでゆくように。
(…もしも、そのまま、滅びさせていたら…)
SD体制は作られないで、ヒトは自由に生きたのだろうか。
地球を忘れて、広い宇宙で。
大人の社会と子供の社会に分かれはしないで、成人検査も行われないで。
(……そうなっていたら……)
ヒトも滅びてしまっていたかもしれないけれども、今よりはいい、という気もする。
SD体制が無かったならば、この苦しみは無かったから。
機械に支配される屈辱、それを味わうことも無かった。
(…それなのに…)
どうして、ぼくは地球が見たいの、と胸が引き裂かれて血を流すよう。
このシステムの元凶が地球であっても、焦がれる気持ちは消せないから。
地球が滅びてしまえばいいとは、絶対に思えないのだから…。
運命の星・了
※シロエが行きたいと願っている地球。けれど、その地球のために作られたのがSD体制。
地球が滅びてしまっていたなら、SD体制も無かったのに、と思った所から生まれたお話。
(…ソルジャー・ブルー…)
奴こそ真の強敵だった、とキースが脳裏に描いた顔。
首都惑星ノアの、国家騎士団総司令に与えられた広い個室で。
とうに夜更けで、側近のマツカも下がらせた後。
マツカが淹れていったコーヒー、それを片手に。
ミュウたちの先代の長、伝説のタイプ・ブルー・オリジン。
モビー・ディックで対峙するまで、生きているとは思わなかった。
(なにしろ、奴はアルタミラで…)
最初に発見されたというミュウ、いくら長寿でも三百年も生きてはいまい、と。
ところが、彼は生きていた。
若い姿を留めたままで、それも現役の戦士として。
文字通りに「ソルジャー」、敵と戦うために存在している男。
(…まさか、先回りをされるとはな)
この私が、と今でも苦笑せざるを得ない。
武装していたミュウの兵士は、話にもならなかったのに。
丸腰の「キース」に苦も無く倒され、足止めも出来なかったのに。
(此処まで来れば、もう安全だと…)
ミュウの女から盗んだ情報、それの通りに走って、着いた格納庫。
其処に「ソルジャー・ブルー」がいた。
涼しい顔で、さも「待っていた」と言わんばかりに。
(…しかも、あの女がいなければ…)
私は捕虜に逆戻りだった、と痛いくらいに分かっている。
あの時、「彼」が何かしたのは、明白だから。
ミュウの女が庇わなければ、意識を失くしていたのだろうか。
(恐らく、殺しはしなかったろうが…)
またも囚われ、壊れた部屋とは別の所に監禁されたことだろう。
ソルジャー・ブルーのサイオンならば、「キース」の情報を引き出せるから。
ほんの一瞬だったとはいえ、易々と心に入り込まれて、読まれてしまったくらいだから。
けれど、ジルベスター・セブンに於いては、天はキースに味方した。
モビー・ディックからは脱出できたし、そこから後も。
無事にマツカの船に拾われ、メギドを持ち出して引き返した。
今度こそ、ミュウを殲滅するために。
星ごと、忌々しいモビー・ディックごと、地獄の劫火で焼き払うために。
(…だが、またしても…)
ソルジャー・ブルーに、してやられた。
生身で宇宙空間を翔けて、たった一人で現れた「彼」に。
メギドを沈められてしまって、モビー・ディックは逃げおおせた。
(……お蔭で、私は……)
もうじき、国家騎士団を離れ、パルテノンに入ることになる。
軍人ではなく、政治家として立つために。
初の軍人出身の元老、そう謳われて。
(…グランド・マザーの計算通りではあるのだがな…)
元老入りは、と「自分のこと」だから承知している。
遅かれ早かれ、そういう日がやって来たのだろう、と。
なにしろ「キース」は、そのために生まれて来た者だから。
(生まれて来たと言うよりは…)
実は「作られた」者なのだがな、と、それも重々、承知の上。
機械が無から作った生命、それこそが「キース・アニアン」なのだ、と。
人類を導くために作られた優秀な存在、だからこそ、いずれ頂点に立つ。
二百年間も空位のままの、国家主席の座に就いて。
パルテノンの元老どもとは違って、「正しい決断」を下すことが出来る人材として。
(…その時が、かなり早くなったとは言える)
メギドを沈められたせいで、と苦々しい思いで傾けるカップ。
モビー・ディックが逃げ延びなければ、パルテノン入りは、もっと先だったろう。
(今ほど敵を作りはしないで…)
誰もが順当だと思うコースで、無理なく出世したのだと思う。
ミュウを排除するのが使命とはいえ、それほど急がなくてもいいから。
彼らが真の脅威になるのが、まだまだ先のことだったなら。
(奴がメギドを沈めなかったら…)
モビー・ディックは、宇宙の藻屑と消えていた筈。
タイプ・ブルーが九人いようが、第二波までは防げはしない。
彼らだけが命を長らえていても、再びミュウの仲間を集めて、地球を目指すには…。
(長い年月がかかったろうさ)
人類も馬鹿ではないからな、と笑いの形に歪める唇。
ミュウが脅威だと分かったからには、実験体でも、そうそう生かしてなどはおかない。
もちろん、彼らに奪われるような、宇宙船も置いてはおかない。
そうなったならば、彼らは一からやり直しな上、その道のりも茨の道。
地球を目指して船出するまでに、いったい何年かかったことか。
(…その筈なのに、ソルジャー・ブルーが…)
たった一人で、それを阻んだ。
何発もの弾を撃ち込まれてもなお、倒れもせずに。
右の瞳を砕かれた後も、残った瞳で「キース」を鋭く見据えて。
(…最初から、私を道連れにする気で…)
チャンスを窺っていたのだろう。
ソルジャー・ブルーは「戦士」だから。
撃たれたことで「キース」を油断させておき、間合いを詰めてくるのを待った。
確実に、「キース」を殺すために。
命を捨ててのサイオン・バースト、それに巻き込み、消し去るために。
(実際、危なかったのだ…)
もしもマツカが来なかったならば、間違いなく「そうなっていた」。
「キース」の命はそこで終わって、それきりになっていただろう。
人類の指導者への道は歩まず、死んでしまって。
そして人類は、逃げ延びたミュウに敗北する。
なにせ、指導者がいないのだから。
パルテノン入りが近い「キース」は、何処にも存在していないから。
そうなっていたら、グランド・マザーは、どうしたろうか。
「キース」の代わりは、いはしないのに。
完成したのは「キース」一人で、あの実験は既に終了したというのに。
そこまで考えて、ハタと気付いた。
「マザーの誤算だったのだ」と。
あの時、キースが生き延びたことが、マザーの誤算。
誰もそうとは気付いていなくて、マザーも恐らく、気付いてはいない。
「誤算」のお蔭で、「今」があることに。
人類は指導者を失うことなく、ミュウとの戦いに臨めることに。
(……あの時、私は……)
自分がどういう生まれなのかを、知らないままで生きていた。
シロエは「真実」を知ったけれども、それを告げずに死んだから。
ピーターパンの本に隠してあった、フロア001を写したチップも、あの時はまだ…。
(スウェナが既に持ってはいたが、私の手には…)
渡ってはおらず、だから、分からなかった真実。
マザー・イライザが無から作った、人工の生命体だったこと。
知らないからには、もちろん自分の使命も知らない。
(ただの優秀なメンバーズ…)
自分ではそうだと思っていたし、周りの者もそうだった。
現に「キース」が、ジルベスター・セブンで消息不明になった時にも…。
(…マツカが捜しに出なかったならば、他には誰も…)
捜索しないで、放置されていたことだろう。
それではモビー・ディックから逃れたとしても、無事に基地まで帰れはしない。
それが一度目の命拾いで、二度目は、メギドで命を拾った。
ソルジャー・ブルーが起こしたサイオン・バースト、それに巻き込まれる寸前に。
「キース!」と飛び込んで来た、マツカに辛くも救い出されて。
(……マツカが助けに来なかったなら……)
自分の命は、あそこで終わっていたのだろう。
ソルジャー・ブルーの狙い通りに、巻き添えにされて。
自分の使命も知らないままで、メンバーズとして殉職して。
(…殉職なのだし、二階級特進は出来ただろうが…)
「キース・アニアン上級大佐」が指揮を執ることは、二度と無い。
死んでしまえば、おしまいだから。
国家騎士団総司令の座にも、昇り詰めることは出来ないままで。
(……なんということだ……)
ただの偶然ではないか、とゾクリと背中が冷たくなる。
「キース・アニアン」が生きていること、それは偶然の産物なのだ、と。
もしもマツカがいなかったならば、二度も命を拾ってはいない。
一度目の方は、あるいはグランド・マザーの指示で、誰か来たかもしれないけれど…。
(その「誰か」が、私を無事に基地まで…)
連れ帰れたかは、疑問が残る。
とはいえ、可能性はゼロではないから、そちらはいい。
けれど、メギドで拾った命は、マツカでなければ「拾えなかった」。
ミュウでなければ、瞬間移動で逃れることなど出来ないから。
部下の誰かが来ていたとしても、共に巻き添えにされただけ。
ソルジャー・ブルーの狙い通りに。
(…私をジルベスター・セブンに派遣したのは…)
グランド・マザーの意向だけれども、明らかに誤算だったと言える。
「自分の正体」を知らないキースは、その責任も知らないから。
「決して、死んではならない者だ」と、自覚してなどいなかったから。
ただのメンバーズだと思っていたから、あの時、「狩り」に出る気になった。
「極上の獲物を、この手で狩るのだ」と、無謀とも言える闘志に燃えて。
ソルジャー・ブルーの真の狙いが、「キースの命」だとは、思いもせずに。
(…そして、グランド・マザーの方でも…)
どう考えても、計算してはいなかった。
「ソルジャー・ブルー」が現れることを。
「伝説のタイプ・ブルー・オリジン」、彼が恐るべき戦士なことを。
(単に戦って、ミュウどもに勝ちを収めて来い、と…)
送り出したのがグランド・マザーで、計算通りに運んでいたなら、キースは「いない」。
こうして「偶然」が重なった結果、此処に「キース」が生きているなら。
グランド・マザーが描いたシナリオ、それは無残に崩れた筈。
機械は、認めないけれど。
そうとも思っていないけれども、此処に「キース」が生きているのは、マザーの「誤算」。
偶然、拾った命だから。
機械が計算していたようには、事は運ばなかったのだから…。
マザーの誤算・了
※原作だとキースを作った後にも、作られている人工の生命体。十年に一人ずつのペースで。
けれどアニテラではキースで最後で、正体も教えなかったという。それって危なすぎ…。
(パパ、ママ…。待っていてね)
ぼくは必ず帰るからね、とシロエが語り掛ける本。
E-1077の夜の個室で、ただ一人きりで、ベッドに腰掛けて。
(…こんな風に飛んでは行けないけれど…)
いつか必ず帰るんだから、とピーターパンの本の表紙を見詰める。
其処に描かれた、夜空を駆けてゆくピーターパンと、子供たちの姿。
彼らのように空を飛んでは行けないけれども、必ず故郷に帰ってやる、と。
軽やかに夜空を駆ける代わりに、宇宙船に乗って。
叶うことなら、メンバーズ・エリートの任務の途中で、立ち寄れたなら、と。
(その頃だと、まだ、ぼくの記憶は…)
取り戻せてはいないものだから、両親の面影は、ぼやけて、あちこち欠けたまま。
それでも家には帰れるだろう、と今夜は前向きに考えてみる。
(メンバーズ・エリートになったなら…)
かなりの量の国家機密を、自分の権限で引き出せる筈。
そうなれば「セキ・レイ・シロエ」の出生記録も…。
(今よりも、ずっと詳しいのを…)
見られるだろうし、育った家を特定することも可能だろう。
両親が住んでいる家が分かれば、訪ねてゆける。
「パパ、ママ、ただいま!」と、任務の途中に時間を取って。
運が良ければ、休暇も取れるのかもしれない。
アルテメシアの近くで無事に任務を終えたら、任地に戻るまでの間に。
(…そしたら、ぼくの家を訪ねて…)
扉を開けてくれた母に、笑顔で「ただいま!」と言える。
母の顔をこの目で見た瞬間に、記憶の中のぼやけた顔は「本物」に変わることだろう。
それまでに経った月日の分だけ、母は齢を重ねていても。
「シロエなのか?」と出て来た父も、同じように老けてしまっていても。
(……パパとママの顔も、直ぐに思い出せるよ)
こんな顔だった、と曖昧な記憶が確かなものに置き換わって。
自分が育った懐かしい家も、一瞬の内に「本物」になって。
早く「その日」が来るといいな、と思うけれども、こればかりは運に任せるしかない。
それに機械も「シロエの執着」を知っているから、アルテメシアの近くには…。
(…絶対、行かせてくれないかもね…)
有り得る話だ、と顔を顰める。
ウッカリ行かせて里心がついたら、更に反抗しかねないから。
(……そこまで馬鹿じゃないんだけどな、ぼくは)
パパとママに会えたら、大人しく任務に戻るんだから、と思い描く未来。
機械に隙を与えはしないし、ちゃんと任務はこなしてゆく。
いつの日か、国家主席の座に昇り詰めて、機械に「止まれ」と言うまでは。
奪われた記憶を全て取り戻して、システムを破壊するまでは。
(それまでは、機械の理想通りに…)
トップエリートの道を走ってやるさ、と決意は、とうに固めている。
両親の所に、行きたい気持ちはあるけれど。
もしもチャンスに出くわしたならば、それが任務の途中であっても、寄り道をして。
両親の顔はぼやけたままでも、会えば「本物」に変わるから。
「シロエ!」と迎えてくれるだろう声、それも「本物」なのだから。
(…ほんのちょっぴり…)
寄り道くらいは許して欲しい、と夢を見るのは自由だろう。
機械がそれを許すかどうかは、本当に運次第でも。
「反抗的なセキ・レイ・シロエ」に、そういう機会は、来ないとしても。
(…でも、いつか…)
必ず、帰ってやるんだから、と思う気持ちは、出世しようとも変わらない。
どんなに地位が上がってゆこうと、宝物だって変わらない。
(……パパとママに貰った、この本……)
ステーションまで持って来られた、ただ一つだけの宝物。
ピーターパンの本を抱えて、トップエリートの道を進んでゆく。
この本さえあれば、いつでも故郷に飛べるから。
心だけは懐かしい故郷に帰って、両親を思い出せるから。
たとえぼやけた記憶だろうと、今夜のように。
「パパ、ママ」と心で二人に呼び掛け、両親が其処にいるかのように。
(……帰りたいよ……)
今すぐにだって帰りたい、と思う故郷の両親の家。
エネルゲイアは、今の時間だと、何時くらいになるのだろうか。
両親はもう眠っているのか、それとも起きている時間なのか。
(…調べれば、直ぐに分かるんだけれど…)
あえて調べはしていない。
それをしたなら、辛くなるから。
両親の時間に「自分がいない」ことを知らされ、苦しくなるだけ。
自分が育った懐かしい家に、シロエは「帰れない」のだから。
「ただいま!」と扉を開けるのは無理で、両親も迎えてくれないから。
(…パパとママが、何をしてたって…)
二人の側に「シロエ」はいない。
母が料理を作っていたって、父が読書をしていたって。
そんな光景は見たくないから、日頃から考えないようにしている。
エネルゲイアでは今は昼なのか、それとも夜なのか、一度も調べようともせずに。
(パパとママだって、ぼくのことなんか知らないし…)
今はいったい何をしているか、想像もつかないことだろう。
E-1077に行ったことさえ、あるいは知らないかもしれない。
機械が、それを知らさなかったら。
成人検査を優秀な成績でパスした事実を、教えなかったら。
(……もしかして、御褒美、あるのかな?)
育てていた子が優秀だったら、特別に何か貰えるだとか。
あるいは長い休暇を貰えて、旅行の費用もユニバーサルが出すだとか。
(…そうなのかも…)
養父母は職業なんだから、とエネルゲイアを思い浮かべる。
雲海の星、アルテメシアに在った育英都市の一つが、エネルゲイア。
アタラクシアという育英都市も、同じ星の上に存在する。
どちらも、養父母が子供を育てて、社会へ送り出すための星。
もちろん親にも職業があって、養父母自体が「職業」とは意識されないけれど。
母親は家で家事をするから、専門職とも言えるけれども。
そうだったっけ、と思い返した「養父母」のこと。
自分にとっては大切な父と、大切な母。
けれど、彼らの目からしたなら、どうだったろう。
「セキ・レイ・シロエ」という子供は。
両親の年齢からして、一人目だったとは思えない子の存在は。
(……パパは、地球のこと……)
ネバーランドよりも素敵な所だ、と幼かった自分に教えてくれた。
「シロエだったら、地球に行けるかもしれないな」と。
だから地球にも行ってみたくて、懸命に勉強したのだけれど…。
(…もしかして、あれは…)
「シロエ」という子を、奮い立たせるためだったろうか。
地球に行けるようなエリートになろう、と頑張って勉強するように。
優秀な成績で成人検査をパスして、E-1077のような最高学府に行かせるために。
(ぼくが、E-1077に行けば…)
両親の養父母としての評価が上がって、大きな恩恵に与れるのかもしれない。
父の職業とは無関係な所で、社会に貢献した夫婦として。
(だとしたら……)
両親にとって「シロエ」という子は、単なるペットのようなもの。
注いでくれた愛情にしても、ペットへのそれと…。
(…人間の子供な分だけ、深いとしたって…)
実の所は、それほど変わらなかっただろうか。
ペットを育てて、品評会で賞を取る話は珍しくない。
毛並みなどの見た目や、よく躾けられているのかどうかで、評価は変わる。
そういった場所で賞を取るために、育てる方も努力する。
せっせと世話して、愛を注いで、躾もして。
(……それと、おんなじ?)
もしかしたら、同じだったのだろうか、養父母という職業も。
優秀な子供を育て上げるために、世話して、愛を注いだろうか。
「セキ・レイ・シロエ」の両親も。
今も会いたくてたまらない父も、それから母も。
(…もしも、そうなら…)
両親の方では、とうに忘れているかもしれない。
「シロエ」という子が、家にいたことを。
どんな風に「ただいま!」と帰って来たのか、家では何をしていたのかも。
(……機械が記憶を消さなくっても……)
まるで意識していないというなら、それは「忘れた」のと同じこと。
両親が「シロエ」を思い出しもせずに、日々を過ごしているのなら。
「シロエは、どうしているのだろう?」と、考えさえもしないのならば。
(……そんなの、嫌だ……)
酷すぎるよ、と思うけれども、そうでないとは言い切れない。
「養父母」は、あくまで「職業」だから。
機械が選んで与えた仕事で、そのための養成コースもある。
そう、E-1077が、メンバーズ・エリートを育てるためにあるように。
選ばれる者は少数とはいえ、教育内容は「そのためのもの」。
それと同じに、養父母になる者を育てる教育ステーションだって、存在している。
両親も其処で教育を受けて、「セキ・レイ・シロエ」の養父母になった。
「シロエ」の前にも、きっと子供を育てたのだろう。
その子の話は、ただの一度も、誰からも聞いてはいないけれども。
(家には、その子の写真も無くて…)
いた気配さえも無かったのだし、「シロエ」の場合も同じだろうか。
「優秀な子を育て上げた」御褒美に、両親が何か貰ったとしても。
それを二人で喜びはしても、「シロエ」は、どうでもいいのだろうか。
成人検査で手許を離れて、とうに巣立って行った子は。
「もう戻らない」のが基本の子供のことなど、もう思い出すことさえも無くて。
(…嫌だよ、そんなの…!)
それなら、ぼくはどうすればいいの、と足元が崩れ落ちてゆくよう。
いつか両親の家に帰っても、ただ、驚かれるだけなんて。
「シロエ!」と手放しで喜ぶ代わりに、「帰って来たのか?」と言われるなんて。
そう考えると、恐ろしいから、ピーターパンの本を抱き締める。
「違うと言って」と。
いくら養父母が職業だとしても、「パパもママも、ぼくを忘れないよね?」と…。
家に帰っても・了
※シロエが会いたくて堪らない両親。いつか必ず故郷に帰ろう、と思っているのですけれど…。
両親の方も、そうだとは限らないのです。養父母の立場は、機械が与えた職業だから。
E-1077で出来た友達。
(…しかし、私は…)
今では、「そうではない」のだと思う。
(……過去には、戻れないのだが……)