(…なんとも悪趣味な館だな…)
やたらゴテゴテ飾り立てて、とキースが見回した館の中。首都惑星ノアで。
パルテノン始まって以来の、軍人出身の元老に選出される日が近付いている。その日を控えて、挨拶回りが始まった。まずは此処から、と一人目の館にやって来たものの…。
(あんな大きな絵を飾らなくても…)
それに、あそこの壺も要らん、と呆れたくなる。他にも色々、床に敷かれた絨毯だって、軍人の目には無用の長物。別に無くても困りはしないブツだから。
ゆえに館に住まう元老、彼への挨拶が済んだら「では」と辞去した。
次に出掛けた先でも同じで、そのまた次も。「どの館も無駄に飾りが多い」と思っただけで。
けれど、キースを迎えた元老たちの方では、まるで違っていた見解。
「…キース・アニアンが訪ねて来たかね?」
「ああ、来たとも。…どうしようもない奴だったが」
あの絵の値打ちに気付かんようでは…、と一人が愚痴れば、たちまち愚痴祭りになった。彼らの自慢のコレクション。それをキースは一顧だにせず、見事にスルーだったから。
「アニアンは芸術を分かっておらん! ワシの自慢のキリアンの絵をスルーしおったわ!」
「な、なんと…! キリアンと言えば、SD体制始まって以来の画聖ではないか!」
ただの落書きでも、オークションに出れば引く手あまたで…、と元老たちは唖然呆然。欲しいと思っても、買えない人間がドッサリいるのが「画聖・キリアン」の作。
それの値打ちが分からないなど、パルテノンでは「有り得なかった」。
芸術や文化に造詣が深いのが、元老入りの必須の条件。そういう教育を受けて育って、エリート人生まっしぐら。それが元老たちだったから。
そもそも、教育ステーションからして、軍人コースと元老コースは全く違う。
キースが育ったE-1077、そんな所は、パルテノン入りを目指す人間たちからすれば…。
「…これだから、軍人上がりは困るのだ。もう化けの皮が剥がれておるぞ」
「まったくだ。我々と対等に話をしたいと言うのなら…」
審美眼から磨いて貰わないと、というのが総意。
そんな具合だから、キースが元老になった途端に、始まった「いびり」。
何かと言ったら、誰かの館でパーティーなわけで…。
パーティーの度に、披露されるのが書画骨董。皆がやんやと褒め称える中、キースだけが…。
(…こんなガラクタの何処がいいのだ?)
薄汚い鉢にしか見えんが、と理解できない「茶道具」の値打ち。
なんでも「ととや」の茶碗がどうとか、破格の骨董らしいけれども、まるで分からない。薄汚い茶碗の何処がいいのか、どう眺めても。
(分からんな…)
何で飲もうが、味は同じだ、とズズッと啜って終わった抹茶。
「ととやの茶碗」を使った茶会が、そのパーティーの目玉だったのに。他の元老たちの場合は、同じ茶碗を称賛しまくり、「お道具拝見」と拝んでいたほどなのに。
「元老アニアン。…ととやの茶碗は如何ですかな?」
主催の元老が訊くものだから、キースは至極真面目に答えた。「美味い茶でした」と。
たちまちドッと笑いが起こって、もうゲラゲラと笑い転げる者まで。
「ととやをご存じないとみえる」だとか、「いやいや、茶道も分かっておらん」だとか。
(…何が茶道だ…!)
知るか、とキースが叫びたくても、パルテノンの中では新参者。いわゆる下っ端。
グッと叫びを飲み込むしかなく、また別の日には違う館でパーティー。
(……これはキリアンの絵だったか?)
確かそうだな、と「同じ轍は踏まん」と飾られた絵をガン見していたら…。
「おお、流石、お目が高い! もう気付かれたようですな」
館の主が満面の笑みで、他の元老たちも見ている。だからキースは、名誉挽回とばかりに、絵を褒め称えた。「この色使いが素晴らしい」とか、「キリアンの絵は違いますな」などと。
それなのに、何故か大爆笑。「これはこれは…」と、誰もが腹を抱えて。
(………???)
何か可笑しなことを言ったか、と途惑うキースに、館の主はこう告げた。
「やはり、分かっておられなかったようで…。これは真っ赤な贋作ですぞ」
「うむ。キリアンの絵のパクリで知られた、キアランの作と見抜けませんかな?」
まったく元老とも思えぬ話で…、と皆が漏らしている失笑。
早い話が、今日の趣向は「贋作」鑑賞会。贋作といえども、けっこうな値段がする絵ばかりで、価値が高いのを並べたパーティー。…キースをいびるためだけに。
こうしてキースの株は下がってゆく一方。
鳴り物入りで果たしたパルテノン入りも、見る影もないという有様。
挙句に食らってしまった呼び出し、それもグランド・マザーから。もう直々に。
「…手こずっているようだな、キース・アニアン?」
お前ともあろう者がどうした、と紫の瞳がゆっくり瞬く。「私はお前を買い被ったか?」と。
「い、いえ、マザー! ですが、些か、畑が違いすぎまして…」
あの手の教育は受けておりませんので、とキースが眉間に寄せた皺。
なにしろE-1077での候補生時代はもちろん、マザー・イライザに叩き込まれた膨大な量の知識も役立たない。「機械の申し子」は軍人仕様で、そっち方面ならパーフェクトなのに。
「なるほどな…。それならば、学ぶしかあるまい?」
無い知識ならば学べば良かろう、とグランド・マザーが吐いた正論。
パルテノンの輩に馬鹿にされないよう、今から知識を増やしてゆくべき。書画骨董の世界に飛び込んで行って、数多の経験を積んで。
「…経験…ですか?」
「そうだ。あの世界は経験を積むことによってのみ、進むべき道が開かれる」
軍人の道と何ら変わらぬ、とグランド・マザーはのたまった。「学ぶがいい」と、「そのための助力は、我も惜しまぬ」と。
「で、では、どのようにして学べば…?」
教育ステーションの講義を、遠隔で受けられるのでしょうか、と尋ねたキース。
恐らく、それが早道だろうし、グランド・マザーならば、その権限も持っているだろう。講義を受けるのが誰かは隠して、ノアへと配信させる力を。
(…この年になって、候補生とは…)
だが、やむを得ぬ、とキースは腹を括ったのだけれど。
「講義ではない。そのようなことは、するだけ無駄だ。…要は場数だ」
とにかく場数を踏んでゆくことだ、と言われても、まるで見えない進路。場数を踏むなら、恥をかきまくりのパーティーに出るしかないのだろうか?
「ととやも分からん」と馬鹿にされても、「画聖・キリアン」だか、贋作名人キアランだかで、赤っ恥をかき続けても…?
それは虚しい、と思ったキース。いくら場数が必要にしても、情けない、とも。
そうしたら…。
「奴らを相手にせよとは言わぬ。…同じ道を行けと言っておるのだ」
書画骨董に親しむがいい、とグランド・マザーは鷹揚に言った。何かと金がかかりまくるのが、その世界。「ととやの茶碗」を求めるにしても、「画聖・キリアン」の名画を手に入れるにも。
並みの者なら、アッと言う間に破産なコースで、「入るな、危険」な世界だけれど…。
「マザーが支払って下さると!?」
書画骨董の代金をですか…、とキースは目を剥いた。あまりにも太っ腹すぎるから。
「どうかしたのか、キース・アニアン?」
私が誰だか忘れたのか、と瞬く紫の大きな瞳。此処には目しか無いのだけれども、本体は地球にあるのがグランド・マザー。SD体制の世界の頂点に立っている機械。
グランド・マザーが命じさえすれば、国家予算規模の金だって動く。それも一瞬で。
全宇宙規模での国家予算と、「ととやの茶碗」や「画聖・キリアン」の名画だったら、どっちが高いかは明々白々。
つまりキースが書画骨董で道楽しようと、バックボーンは揺るぎもしない。
来る日も来る日も茶碗を買おうが、名画を端から買いまくろうが。
もちろん壺を集めてもいいし、絨毯を床に敷きまくっても…。
「…いいと仰るのですか、マザー?」
とんでもない金がかかりますが…、とキースが確認しても、返事は変わりはしなかった。大きな瞳が瞬いただけで、「私が勧めているのだからな?」と。
「存分に買って、買いまくるがいい。…そうでなければ、目は肥えぬものだ」
ととやの茶碗で始めるのも良し、絵の世界から入るも良し…、とグランド・マザーのお墨付き。
パルテノン入りを果たしたものの、「冴えない」キースを鍛えるために。
他の元老たちから馬鹿にされない、押しも押されぬ「理想の指導者」を創り上げるために。
キースは「ハハーッ!」と礼を取ったわけで、進むべき道は書画骨董を買いまくる道。
とにかくそういう世界へダイブで、目を肥やすしか道は無いものだから…。
「…聞いたかね? 元老アニアンが、日々、カモられているという話だが…」
「骨董屋が列をなしているそうだな…。何を届けても、即、お買い上げだとかで」
昨日もキリアンの絵が売れたと聞いておるぞ、と元老たちは噂話に花を咲かせる。一朝一夕には磨けないのが「物を見る目」で、キースはいったい、どのくらい散財するのだろうか、と。
「じきに破産と見ておるが…。そうすれば目障りな奴が消えるぞ」
「いいことだ。我々も、これまで以上にだね…」
アニアンをいびりまくろうではないかね、とパーティーの計画も次々に。
芸術音痴のキースをいびって、赤っ恥をかかせるためだけに。「負けてたまるか」と骨董三昧の道に走って、破産して消えて貰おうと、捕らぬ狸の皮算用で。
まさかキースが使っている金、それが「無尽蔵」だとは誰も思わないから。
グランド・マザーが「いくらでも好きに使うがいい」と、言ったなどとは気が付かないから。
そしてキースは、今日も自分を鍛えていた。
「キリアンの絵は私が貰おう! これだけだ!」
オークションハウスでブチ込む大金、何処から見たって贋作なのに。キリアンのパクリで有名な画家の、キアランの方の作品なのに。
会場の人々はヒソヒソ、コソコソ、「これだから、素人さんは困る」とクスクス笑い。
それでもキースを煽る入札、値段を吊り上げて遊んでやろうと。
「待った、これだけ!」
「では、これだけを支払おう!」
もうガンガンとヒートアップで、会場の隅ではマツカが溜息をついていた。
(…贋作ですよ、と言っても聞きやしないんだから…)
もっと見る目を養って下さい、と「人の心が読める」ミュウゆえの悩みは尽きない。
いくら本当のことを告げてみたって、キースは聞く耳を持たないから。
「お前に何が分かるというのだ!」と怒鳴りまくりで、カモられまくりの日々なのだから…。
カモられる元老・了
※いや、「初の軍人出身の元老」がキースだったわけで、それなら元老とメンバーズは別。
ステーションからして違うんじゃあ…、と思ったトコから出て来たネタ。芸術音痴なキース。
「ぼくは、ミュウじゃない!」
そう言い放った、怒れるジョミー・マーキス・シン。
誰もが敬うミュウの長など、知ったことかという勢いで。ソルジャー・ブルーに。
「成人検査を邪魔したお前が悪い」と、「お前さえ来なければ、通過していたかもしれない」と睨み付けて。
此処で引いたら後が無いから、と初対面の「ソルジャー」とやらに怒りをぶつけたら…。
「では、どうしたい?」
思いがけずも返った質問、選べるかもしれない今後の進路。「どうしたい?」と言うのだから。
「この勢いなら、言える」と考えたわけで、もう思いっ切り怒鳴ってやった。
「ぼくをアタラクシアに、家に帰せ!」
これでどうだ、と本音で注文、どうせ「駄目だ」と止めるだろうと思ったのに。
「…分かった」
驚いたことに答えは「イエス」で、家に帰して貰えるらしい。
(ラッキー!!!)
当たって砕けた甲斐があった、と喜んだけれど、「じゃあ」と踵を返そうとしたら。
「アタラクシアまでは、リオに送らせるが…。その前に、一つ訊いておきたい」
そう言ったのがソルジャー・ブルーで、何を訊くのかは知らないけれど…。
(…家に帰してくれるんなら…)
こっちも出血大サービスで、真面目に答えてやってもいい。憎たらしいミュウの長が相手でも。
家に帰してくれるんだしね、と浮かべたスマイル。このくらいは、とサービス精神旺盛に。
「訊きたいって、何を?」
「別に大したことじゃない。…好きな花は何かと思ってね」
どういう花が好みだろうか、と斜めなことを口にしたのがソルジャー・ブルー。好きな花の色は何色かだとか、「王道だったら白なんだが」とも。
「えっと…?」
どうして花、と意味が不明でサッパリ謎。何故、王道なら白なのかも。
とはいえ、これが最後のサービス。
シャングリラとかいうミュウの船には今日でオサラバ、二度と戻って来はしない。懐かしい家に帰れるからして、許してくれたソルジャー・ブルーに御礼くらいはすべきだろう。
(年のせいで、ちょっとボケてるとか…?)
花の好みを訊くなんて。…それとも、年寄りだけあって…。
(年寄りっぽく、趣味が園芸だったりする…?)
もうアクティブな趣味は無理だ、と花を育てているだとか。
無理やり拉致った「ミュウではなかった」少年の思い出、そのために何か育てたいとか…?
(そういうことなら…)
答えなくちゃね、と考えたけれど、生憎、ジョミーは根っから「少年」。花を愛する趣味などは無くて、「これが好きだ」という花も無かった。ピンと来るようなものは一つも。
(…第一、花の名前が怪しいってば…)
薔薇とか百合とか、そんなのは分かる。夏にパアアッと咲くヒマワリとかも。
けれど、育ててくれた母がせっせと飾っていた花、それを頭に思い浮かべても…。
(アレって、何の花だったっけ…?)
よく見るんだけど、と馴染んだ花の名前も分からない始末。定番の薔薇とか百合以外には。
そんな具合だから、無いらしいのが「好みの花」。「これが好きだ」という色も。
「…ジョミー?」
遠慮なく言ってくれていいが、と心が広いソルジャー・ブルー。
「この船で調達出来ないようなら、アタラクシアまで人を出すから」などと。
「人を出すって…。なんで其処まで?」
船に無い花なら諦めたら、と半ば呆れた。いくら育ててみたい花でも、無理しなくても、と。
「…ぼくの好みの花だとしたなら、諦めるとも。仲間たちを危険には晒したくない」
しかし…、とソルジャー・ブルーは真顔でのたまった。
「君の弔いとなれば話は別だ」と、「好きな花で送られたいだろう?」と。
「ちょ、弔いって…!?」
何処から葬式、と引っくり返ってしまった声。
自分はこれから家に帰るのだし、葬儀などとは無縁の筈。弔いも、お悔やみも、まるっと全部。
いったいソルジャー・ブルーは何を、とガン見してしまったミュウの長。
(葬式って言うなら、あんたの方が、ぼくより、よっぽど…)
身近で、差し迫った問題だろうが、と言いたい気分。
拉致られる前に見せられた夢で、嫌というほど目にしていた。この年寄りの現状を。
(ぼくはもうすぐ燃え尽きる、って…)
散々アピールしまくっていたのが、寿命が残り少ないこと。
後継者として目を付けられた自分、お蔭で狂ってしまった人生。成人検査を妨害されて。
(…ホントにボケているのかも…)
自分の葬式と、ぼくの葬式がゴッチャになってしまうくらいに…、と憐みの気持ちが少しだけ。恨み骨髄だったけれども、思考のピントが定まらないなら仕方ないよね、と。
(…ぼくを攫ったのも、他の誰かと間違えたのかも…)
そうだとしたなら、気の毒としか言いようがない。
間違えられた「誰か」の方は、成人検査をパスして教育ステーションへと旅立ったのか、または自分がそうなったように、処分の道を歩んだのか。
(…どっちにしたって、このボケた人の後継者には…)
なれないもんね、と同情してしまった、船のミュウたち。
ソルジャー・ブルーがボケていたせいで、期待の星を失ったのなら、無さげな未来。この船も、船で暮らすミュウたちも、いずれ殲滅されるのだろう。…人類軍に。
(……もっと早くに、このソルジャーを……)
退位させるとか、摂政を置くとか、やり方はきっとあった筈。
取り返しのつかないことになるよりも前に。「自分の葬儀と、他人の葬儀」の区別もつかない、頭の中がお花畑な人になる前に。
(…そんなんだから、人類に追われて殺されるんだよ…)
もっとしっかり生きなくちゃ、と喝を入れたくなるミュウたち。
頭がお花畑のソルジャー、そんな人を崇めて生きているようでは滅びるしかない、と。
(…まあ、いいけどね…)
お花畑なことは分かったから、と溜息をついて、放置プレイにしようと決めた。
話していたって噛み合わないから、「帰っていい」と言ってる間に帰ろう、と。
なにしろ相手はボケているから、気が変わったらそれでおしまい。「駄目だ」と方向転換された途端に、船から出られなくなって終わりな結末。
「ぼくの葬式はどうでもいいから、リオを呼んでよ!」
好みの花も特にないし、と凄んでやった。「葬式用の花は適当でいい」と、花輪だろうが、花束だろうが、薔薇でも百合でも、何でもいい、と。
「そう言われても…。ぼくも心が痛むから…」
帰った場合は、君の葬儀は確実だから、と沈痛な顔のソルジャー・ブルー。
「リオは戻って来られるからいいが、君は殺されておしまいだ」と。
「…殺されるって…?」
それは聞き捨てならない話。
いくら相手がボケているにしても、頭がお花畑でも。
どう転がったら、この「ジョミー様」が死亡エンドになると言うのか。アタラクシアに今もある家に帰れば、順風満帆の日々の筈。ミュウの船とは縁が切れるし、成人検査も無事にパスして。
「お花畑でボケているのは、君の方だ。…ジョミー」
ぼくの頭は極めてクリアだ、とソルジャー・ブルーは自分の頭を指差した。
曰く、外見の若さを保っているから、委縮しないのが自慢の脳味噌。姿と同じに若さはMAX、若人たちとも肩を並べるしなやかな思考。
かてて加えて、膨大な量を誇る知識を保管するべく、記憶装置も着けているらしい。次の世代が困らないよう、直ぐに知識を引き出せるように。
(…ヘッドフォンじゃなかったんだ、アレ…)
補聴器で記憶装置なのか、と見詰めた頭に載っているモノ。
そこまで言うなら、ボケてはいないのかもしれない。だったら、彼が言う通り…。
(…ぼくがボケてるわけ?)
どの辺が、と目を瞬かせていたら、ソルジャー・ブルーは、憐みをこめてこう言った。
「君の処分は、とうに決まっている筈だが」と、「撃たれたことを、もう忘れたのか?」と。
指摘されたら、鮮明に蘇って来た記憶。ドリームワールドで何が起こったか。
(不適格者として処分する、って…)
問答無用で撃たれた所を、小型艇で来たリオに救われた。走って逃げて、船に飛び乗って。
つまり自分は、立派にブラックリスト入り。
(頭の中がお花畑な、ソルジャー・ブルーが悪いんです、って…)
ボケたソルジャーのせいにしてみても、誰も聞く耳を持たないだろう。ミュウに救われて逃げた人間、そんな輩の言うことは。…かなり経ってから、ノコノコ戻った子供なんかの言い訳などは。
(…見付かった途端に処分されるとか…?)
撃たれてそれでおしまいだとか、と怖い考えになった所へ、ソルジャー・ブルーの声がした。
「処分されれば、一瞬で済むが…。楽には死ねないかもしれない」
「それって、何!?」
楽に死ねないとは何事だろうか、何が起こると言うのだろうか…?
「…ミュウに拉致された人間が無事に戻って来たのだ。普通は、誰でも怪しむだろう」
何らかの取引をして逃がして貰ったのでは…、と機械も人類も考える、と冷静な読み。
いわゆるスパイで、ミュウに洗脳されて来たとか、極秘の任務を任されて地上に戻っだだとか。
「そ、そんな…! ぼくは人間で、ミュウのスパイなんかじゃ…!」
「君がそう言っても、誰が信じる? まあ、ぼくはどうでもいいんだが…」
帰りたまえ、とソルジャー・ブルーはクルリと背中を向けた。それは素っ気なく。
「弔いの花の希望が特に無いなら、こちらで適当に選ばせて貰う」と。
「死んだと聞いたら、有志の者と内輪で葬式くらいは」とも。
遺体は無しの葬儀だけれども、「して貰えないよりはマシだろう?」などと、スッパリと。
(…う、嘘……!)
嘘だ、と叫びたい気分になっても、どう聞いたって、それが正論。
ソルジャー・ブルーは極めて正気で、思考は至ってクリアなもの。ボケて頭がお花畑で、自分に都合のいいことばかりを考えるのは…。
(……もしかしなくても、ぼくなんだよね?)
そして、帰ったらその場で処分、と思い知らされた自分の立場。
葬式用の花を注文してから帰るのが似合いで、もう間違いなく死体は無しで葬式だから。
(…ソルジャー・ブルー…)
今はあなたを信じます、とジョミーは宗旨替えをした。
「家に帰せ!」は死亡フラグで、そうした時には確実に死ぬと知ったから。
これからも生きてゆきたかったら、「ぼくはミュウじゃない」と思ってはいても…。
(…流れに任せて、ソルジャーを継いで…)
このシャングリラで暮らすしかない、と決心をした模範囚。
かくしてジョミーは今日も頑張る、ミュウの自覚はまるで無いまま、ソルジャー候補の訓練を。
ソルジャー・ブルーの後継者として、ギッシリ詰まった訓練メニューや講義などを。
(……家に帰ったら、その日が命日……)
そうでなければスパイ容疑で、拷問の日々が待っている。
死ぬのも拷問も御免なのだし、同じ囚われの身になるのなら…。
(この船の方が、よっぽどマシ…)
拷問と死亡エンドだけは絶対、此処には無いんだから、と努力を重ねて精進あるのみ。
「ぼくはミュウじゃない」と思っていても。
自覚はまるでナッシングでも、死亡エンドや拷問よりかは、今の方がずっとマシなのだから…。
お好みの花は・了
※ジョミーを家に帰したソルジャー・ブルーも大概だけれど、帰るジョミーもアレだよね、と。
普通は「処分」を恐れないか、と思ったトコから出来たお話。…こう脅されたら帰れない。
(またしても出たか、ソルジャー・ブルー…!)
あの厄介なミュウの長が、とグランド・マザーは歯噛みしていた。巨大な白亜の像のようにも見える巨大コンピューター、それに「歯」があるかは、ともかくとして。
時にSD350年ほど、ジョミーやキースの時代までには、まだまだ遠い。
(アルタミラで、滅ぼし損ねたばかりに…)
よくも、とグランド・マザーの怒りは激しい。
宇宙のあちこち、義賊よろしく出没するのが「ソルジャー・ブルー」。そう名乗っているミュウの若造、いや、若いのは外見だけかもしれないけれど。
(何処から「ソルジャー」などという名を…!)
あいつは、ただの「ブルー」ではないか、と実験動物として扱った時代を思い出しては、腹を立てる機械。やたらと目ばかり大きかったのが「ブルー」、全く成長しないまんまで、子供の姿で。
(それが育って、マントなんぞを翻して…)
行く先々でミュウの研究施設を襲って、仲間を救出しているらしい。本当だったら、とっくの昔にメギドで焼かれて、「はい、さようなら」だった筈なのに。
アルタミラにいたミュウどもも全部纏めて丸焼き、それで終わりになっていたのに。
(なのに、あいつは逃亡して…)
今や「ソルジャー・ブルー」と名乗る義賊で、下手な海賊より始末が悪い。なんと言ってもミュウの長だし、このまま行ったら、異分子なミュウを集めて束ねて…。
(SD体制に、真っ向から挑んでくるやもしれぬ…)
それはマズイ、と冷静に巡らせてゆく思考。
どうすれば、憎い「ソルジャー・ブルー」を消せるのか。この宇宙から葬り去れるか。
(残念なことに、人類という生き物は…)
軍人以外は、安穏とした日々を好むもの。「平々凡々の人生でもいい、楽だったら」というのが、彼らの生き方。一般人がそうだからして、軍人の方も全くアテにならない。
(メンバーズのような、エリート軍人を除いたら…)
まるで無いのが、「やる気」というヤツ。
頑張らなくても年功序列で、それなりに上へ行けるから。特にヘマさえしなかったなら。
そういう「やる気」の無い軍人たち、彼らが多くたむろするのが辺境星域。
ソレイドだとか、ペセトラだとか、それなりに名前の知れた基地でも、「やる気ナッシング」な軍人が多い。それよりも更にマイナーな場所となったなら…。
(とにかく、定年まで勤め上げればいい、というだけの…)
どうしようもない軍人ばかりで、そういった所に出没するのが「ソルジャー・ブルー」。
お蔭で毎回、逃げられてばかり。
「出た」という報告とセットものなのが、「逃げられました」という情けないヤツ。おまけに、その報告をかます軍人どもは…。
(してやられたとも、悔しいとも思っておらぬのだ…!)
其処の所をなんとかせねば、とグランド・マザーは思考する。
たかが「ソルジャー・ブルー」ごときに、メンバーズを出すのはまだ早い。辺境星域のヘボ軍人ども、彼らに始末をさせるのが理想。
けれど彼らに無いのが「やる気」で、「やる気」にパアッと火を点けるなら…。
(やはり、賞金がいいであろうな)
分かりやすいのは目先の金だ、と弾き出した答え。
メモリーバンクに詰まった数多の情報、地球が滅びる遥か前からの歴史なども全て入っている。遠い昔から、軍人どもに「やる気」を出させる方法の王道、それが褒賞。
(勝ったら一国一城の主にするとか、こう、色々と…)
そう煽った末に成功した例は山ほどなのだ、とグランド・マザーはニンマリと笑う。そういった笑みを浮かべる唇、そいつの有無はスルー推奨。
「とにかく金だ」と、早速、全宇宙に向けて出した通達。
曰く、「ソルジャー・ブルーを倒した者には、金貨十万枚を与える」。
口約束になっては駄目だし、そのための口座も用意した。金貨十万枚をポンと用意で、賞金首を見事に持って来たなら、どんなにヘボい軍人だって…。
(金貨十万枚なのだしな…?)
さぞや頑張ってくれるであろう、と期待は大きい。
これで「ソルジャー・ブルー」も終わりだと、金貨十万枚を支払う日も近い、と。
ところがどっこい、「ソルジャー・ブルー」は捕まらなかった。
「賞金首だ!」と、銃だの船だので襲い掛かっても、華麗に躱して逃げられたオチ。辺境星域のゴロツキ軍人、彼らがせっせと追い回しても無駄で、そうこうする内に…。
(…伝説のタイプ・ブルー・オリジン…)
そんな渾名までついてしまって、「ソルジャー・ブルー」は逃走しまくって…。
(……最近、あやつの名を聞かぬな……?)
くたばったのであろうか、とグランド・マザーが思う間に、アルテメシアに潜伏されていた。
かつてアルタミラから逃亡した船、それを巨大な船に改造して。
次のソルジャー候補と思しき、ジョミー・マーキス・シンまで攫って。
(…まだ、おったのか…!)
あのミュウめが、と歯軋りしたって、どうにもならない。
憎い「ソルジャー・ブルー」は船ごと、アルテメシアを出て行った。惑星上からワープなどという外道な技で、宇宙の何処かへ。
ようやくのことでミュウの拠点を見付け出した時は、十五年ほど経っていて…。
(今度は、こちらにも最高の人材がいるからな…)
奴に任せておけば良かろう、とグランド・マザーが指名したのが、キース・アニアン。
マザー・イライザが無から作ったエリート、彼ならばきっと…。
(あの憎たらしい、ソルジャー・ブルーを血祭りに…)
出来るであろう、とグランド・マザーは、ほくそ笑む。「これで、あのミュウも終わりだ」と。
そしてキースは期待通りに、キッチリと仕事をしたのだけれど…。
「アニアン少佐! よく御無事で…!」
あのメギドから生還なさるとは、とキースは部下たちに取り囲まれた。「流石です」と。
「いや、このくらいは大したことではない。…残党狩りはどうなった?」
グレイブの艦隊は掃討作戦に向かったのか、と尋ねたキースに、逆に尋ねたのがパスカル。
「少佐、例のミュウはどうなったのです?」
「ソルジャー・ブルーなら、死んだと思うが」
あの有様では生きてはいまい、とキースは冷たい笑みを浮かべた。何発も弾を撃ち込んだ上に、メギドそのものが大爆発。生き残れたわけがないだろうから。
そうしたら…。
「なんてことを…!」
奴の死体が無いのでは…、とセルジュが色を失い、他の部下たちも慌て始めた。
「金貨十万枚ですよ、少佐!?」
「それもずいぶん昔の話で、今だと利息が膨らみますから…」
一億枚かもしれません、などと皆が騒いでも、キースにはサッパリ見えない話。金貨十万枚とは何を指すのか、一億枚なら何なのか。
「お前たち、何の話をしている?」
「ですから、ソルジャー・ブルーですよ!」
伝説の獲物を狩りに出掛けてゆかれたのでは…、とセルジュが応じた。
ソルジャー・ブルーは伝説のミュウで、遥か昔から賞金首。グランド・マザーが設けた口座に、今も巨額の賞金が眠っているのだ、と。…利息がどんどん膨らむままに。
「少佐もご存じなのだとばかり…。賞金首と言うほどですから、奴の首が無いと…」
「そうです、あいつの首を届けない限り、賞金は貰えないのですが…!」
なんということをしてくれたのです、と部下たちの嘆きは深かった。
「伝説の獲物」を狩りに出掛けて行ったキースに、誰もが期待していたから。
「きっと、ソルジャー・ブルーの死体を引き摺ってお戻りになる」と、「いや、首かも」と。
けれどキースは世情に疎くて、何処までも「機械の申し子」だった。
賞金首など全く知らない、「水槽育ち」。部下たちがどんなに泣き叫ぼうとも、時すでに遅し。
そういったわけで、「ソルジャー・ブルー」に懸かった賞金、そいつは宙に浮くことになった。
金貨十万枚から膨らみまくって、それは素敵な金額になっていたものだから…。
(…あれを支払わずに済んだのだし…)
金は有効活用せねば、とグランド・マザーは思考を続ける。
あれだけあったら、きっと人類の技術の粋を集めた、最新鋭の新造船が…。
(造れるであろうな、充分にな…)
今こそ、「ゼウス級」を建造するべき時だ、と下した決断。
現在あるのは、「アルテミス級」が最大なわけで、その上を行く船はまだ無いのだから。
(ミュウが人類に牙を剥く前に、ゼウス級の建造を急がせねば…)
かくして出来た新造戦艦、ゼウス級・一番艦、「ゼウス」。
それがミュウとの決戦の時に、人類軍の旗艦となるのだけれども、そんなことなどキースは知らない。自分が貰い損ねた賞金、それが戦艦に化けたなど。
ソルジャー・ブルーに懸かった賞金、それで「ゼウス」が造られたことは。
(ゼウス級・一番艦、旗艦ゼウスか…)
あのグレイブが褒めるだけあって、いい船だ、と何処までも世間知らずなキース。
本当だったら、その「素晴らしい船」を造れるだけの、賞金ゲットだったのに。
ソルジャー・ブルーの価値さえきちんと知っていたなら、部下にも賞金大盤振る舞い、もう最高の英雄になれた筈だったのに…。
賞金の行方・了
※「伝説のタイプ・ブルー・オリジン」と言われた割には、どう伝説なのか謎だったブルー。
そこへ「伝説の獲物」なわけで、賞金首でもいいよね、と。半端ない賞金らしいですよ?
『…ジョミー。また訓練をサボりましたね?』
長老たちが怒っていましたよ、と小言を言いに来たリオ。思念波だけれど。
サボると部屋までやって来るから、ジョミーも文句を言いたくもなる。「余計なお世話だ」と。
「…だって、毎日、厳しすぎるから! ぼくの身にもなって欲しいんだけど!」
ハードすぎる、とジョミーは愚痴った。
ソルジャー候補に据えられてからは、もう毎日が訓練三昧。サイオンの特訓だけならまだしも、他の訓練も容赦ない。いわゆる座学も、ソルジャーとしての立ち居振る舞いの特訓なども。
教える方なら何人もいるし、きっと疲れはしないだろう。休憩時間も取れるから。
けれど「ジョミー」は一人だけ。
サイオンの特訓で心身ともに疲弊したって、「代わりのジョミー」は何処にもいない。休憩時間など取れはしなくて、「次はコレです」と押し付けられる座学や特訓。
その状態で休みたければ「サボリ」しか無くて、なのにサボれば叱られる。…今みたいに。
『大変なのは分かりますが…。でも…』
訓練の成果が出れば、特訓の時間が減りますよ、と言うリオは正しい。間違ってはいない。上達したなら、もう訓練など要らないわけだし、何処かのソルジャー・ブルーみたいに…。
(三食昼寝付きの日々でも、誰も怒らなくて…)
現に今だって寝ているし、とジョミーの不満は尽きない。特訓の成果はまるで出なくて、明日も明後日も、そのまた向こうもギッチリ詰まった訓練メニュー。座学も含めて。
(どうせ、ぼくなんか筋が悪くて、ダメダメなんだよ!)
頑張るだけ無駄に決まってる、とジョミーはフテ寝を決め込んだ。リオを部屋から追い出して。
「ぼくは死んだと言っといて!」と、長老たちへの言い訳役まで押し付けて。
そんなジョミーを観察している人がいた。部屋の中には入りもせずに。
(…まったく、あれでは…)
いつまで経っても進歩しない、と溜息を零すソルジャー・ブルー。青の間のベッドで。
一日も早くジョミーをお披露目したいというのに、これではサッパリ。ソルジャー候補のままで何年も経って、自分も現役引退は無理。
(ぼくが楽をしたいと言いはしないが…)
次のソルジャー不在はマズイ、と思ってみたって、ジョミーは努力をしないものだから…。
(…何かいい手は…)
無いだろうか、と考えていたら、リオの思念を感知した。長老たちに向かって言い訳中の。
『ジョミーも疲れているんです。ですから、もう少し訓練メニューを…』
減らしてやって貰えませんか、と頼んだリオに、「やかましいわ!」と怒鳴ったゼル。
「お前なんぞに何が分かるか、若造めが!」
「ちょいとお待ちよ、リオに怒ってどうするんだい?」
其処はジョミーに言うトコだろう、とブラウが割って入ったけれども、ゼルはガンガンと当たり散らした。なにしろジョミーはいないわけだし、目の前にいるのはリオだから。
「文句があったら、ジョミーにガツンと言えばいいんじゃ!」
甘やかすからつけ上がるんじゃ、と喚くゼル。「お前の態度がいかんのじゃ!」と。
曰く、「いつも笑顔で腰が低い」のがリオの欠点。
それだからジョミーに舐められるわけで、「もっと怖いリオにならんかい!」と。
「キャラを変えろ」と無理な注文、どう聞いたって「言いがかり」の域。
頭から湯気で怒鳴りまくりで、リオがなんとも可哀相だけれど…。
(……そうか、リオのキャラか……)
これは使える、とブルーの頭に閃いた案。きっとジョミーも心を入れ替えて頑張るだろう、と。
その夜、ジョミーは呼び出しを受けた。青の間で暮らす現ソルジャーから。
「ソルジャー・ブルー。…お呼びですか?」
何でしょうか、と頭を下げつつ、ジョミーは内心恐れていた。此処でも叱られそうだから。
(…サボってるのは、バレてるよね…?)
ゼルたちがチクッているんだろうし、とビクビクしながらベッドの側に立ったのだけれど。
「…ジョミー。君は、リオのことをどう思う?」
斜めな質問が飛んで来たから、目を丸くした。「どう思う?」とは、何のことだろう?
「え、えーっと…? そ、そのですね…」
とても頼れる兄貴分だと思ってますが、と当たり障りのない答えを返した。リオに好意を持っているのは本当だけれど、それ以上でも以下でもない。「惚れている」わけではないのだから。
(…リオの彼女になりたいだとか、リオを彼女にしたいとか…)
彼女と言うかどうかは別で、とジョミーが思う「恋愛感情」。それは持ってはいないよね、と。
けれども、ソルジャー・ブルーの方は…。
「なるほどね…。君はどうやら、リオを分かっていないらしい」
「え?」
ひょっとしてリオは、自分に「惚れている」のだろうか、とジョミーは焦った。彼女になりたい方か、それとも「彼女にしたい」方なのか。
どっちにしたって自分にベタ惚れ、それで代わりに叱られてくれたりするのかも、と。
「ま、待って下さい、ソルジャー・ブルー…! ぼくは…!」
リオの気持ちには応えられません、と両手をワタワタさせたら、冷たい視線を投げられた。
「何を馬鹿なことを」と、思いっ切り。「本当に分かっていなかったのだな」と。
「よく聞きたまえ、ジョミー。…リオの正体は、御庭番だ」
「御庭番?」
何ですか、それ、と訊き返したら、「忍者とも言う」とソルジャー・ブルーは赤い瞳をゆっくり瞬かせた。「忍びの者だ」と、「誰にも知られず、重要な任務を担っているのが御庭番だ」と。
(…リオの正体は、御庭番…)
ソルジャー・ブルーの直属の部下、とジョミーは震えながら青の間を後にした。もう恐ろしくて振り返るのも怖いほど。「後ろにリオがいないだろうな?」と。
ガクブル怯えて部屋に帰って、扉を開けて入る時にも左右を確認。リオの姿が見えないか。
(…いないみたいだけど…)
でも安心は出来ないよね、と扉をガッツリ施錠した。とはいえ、相手は「忍びの者」。
(壁に耳あり、障子に目あり…)
遠い昔に「御庭番」の名で呼ばれた忍者は、天井裏だの、床下だのに潜んでいたという。そして相手の隙を狙って、密書を盗み出すだとか…。
(…寝てる間に暗殺だとか、食べ物に毒を仕込むとか…)
そうやって邪魔な者を消したり、歴史の裏で暗躍したり。あくまで「主」の命令で。
(光ある所に影がある、って…)
ソルジャー・ブルーは、そう言った。「栄光の陰に、数知れぬ忍者の姿があったのだ」と。
けれども、彼らの名前は残ってはいない。古い歴史書を端から引っ繰り返しても。
(闇に生まれて、闇に消える…)
それが「忍者の宿命」らしい。
リオはそういう立ち位置の人間、皆の前では「人のいいリオさん」で通っているけれど…。
(…ソルジャー・ブルーが「やれ」と言ったら、暗殺だって…)
厭いはしないし、それは見事にやり遂げる。
このシャングリラで「リオに密かに消された」人間、その数は誰も知らないという。「やれ」と命じた「主」のソルジャー・ブルー以外は、誰一人として。
(…御庭番だ、って聞かされてみたら…)
思い当たる節は山ほどあった。
「ぼくを家に帰せ!」と凄んだ時に、ソルジャー・ブルーが「リオ」と呼んだら…。
(何処からともなく、サッと出て来て…)
小型艇でアタラクシアまで送ってくれたし、その後の行動も「御庭番」なら納得がいく。人類が仕掛けた監視システムに細工したのも、拷問まがいの心理探査から生還したのも。
腰が低くて、いつも笑顔のリオの正体。それを明かしたソルジャー・ブルー。
ついでにブルーは、冷たく笑ってこう付け加えた。「リオは、君にも容赦はしない」と。
今の所は「主」のブルーが黙っているから、「人のいいリオ」に徹しているだけ。「御庭番」の顔をすっかり隠して、にこやかな笑みを湛え続けて。
けれど、命令が下ったら…。
(ぼくが訓練をサボらないよう、サボッた時には…)
この部屋に来て、それは恐ろしい「罰」を自分に与えるらしい。誰が見たって分からないよう、外に出るような傷はつけないように…。
(爪の間に針を刺すとか、足の指とかを有り得ない方に曲げるとか…)
聞いただけでも痛そうなヤツを、「あのリオが」やってくれるという。人のいい笑みを浮かべたままで、「ソルジャー・ブルーの仰る通りになさいますか?」などと訊きながら。
「二度とサボらないと誓いますか」と、「サボッたら、またコレですが?」と。
そういった目に遭いたくなければ、「御庭番」には逆らわないこと。
リオが普通に「サボリですか?」と困っている間に、きちんと反省、これからは文句を言ったりしないで…。
(間違っても、「ぼくの代わりに言っといて!」なんて言わないで…)
長老たちがブチ切れる前に、訓練の場に馳せ参じること。
でないとブルーがキレてしまって、リオに一言、「やれ」と命じるから。
「ジョミーの言うことは聞かなくていい」と、「君の主は、ぼくだったな?」と。
(……そうなったら、ぼくは爪の間に針を刺されて……)
足の指とかを有り得ない風に折り曲げられて、とガクガクブルブル、そんなのは御免蒙りたい。
かくしてジョミーは性根を入れ替え、訓練をサボらなくなった。
リオの前でもキレなくなって、日々、頑張ってソルジャーになるべく励んでいるから…。
(…リオで脅した甲斐があったな)
あの人の好さが、ジョミーはとても恐ろしいだろう、とソルジャー・ブルーはほくそ笑む。
リオの笑顔と腰の低さは、天然だから。
あれが「御庭番」の表の顔だと言っておいたら、抑止力として半端ないものだから。
(……リオには悪いが……)
御庭番になっていて貰おう、と笑うブルーは腹黒かった。
ダテに三世紀以上も生きていなくて、頭も回るソルジャー・ブルー。
嘘をつくくらいは朝飯前で、「自分が悪役になる」のも平気。
「リオを使って、何人も消した」と、ジョミーがまるっと信じていたって、気にしない。
ミュウの未来のためならば。
次のソルジャー候補のジョミーを、ソルジャーの座に据えるためとなったら…。
腰が低い人・了
※「アニテラのリオは、只者じゃねえな」と思ったのが多分、ネタの切っ掛け。
けれども何処から「御庭番」なのか、そっちの方がサッパリ謎で…。似合ってるけどな!
(…何が起こった?)
此処は何処だ、とキースは辺りを見回した。
昨夜は確かに、旗艦ゼウスの指揮官室で眠った筈。ところが、まるで見覚えが無い場所。
(……それにだな……)
なんだって床で寝ているのだ、と起き上がる。
ベッドは消え失せ、代わりに「床に敷かれた」寝具。でもって、寝具が敷かれた床は…。
(これは畳と言うものでは…?)
今どき、畳なんぞが何処に、と言いたいけれども、本当に畳。ついでに部屋は「和室」だった。土壁な上に木で出来た天井、それから襖。窓には障子で、机と椅子だけが…。
(…辛うじて、普通…)
どうして私はこんな部屋に、と立ち上がろうとして、其処で気付いた。「服まで変だ」と。
着物の一種のようなパジャマで、どうやってそれを着たかも謎。妙なこともある、と考え込んでいたら、其処でガラリと開けられた襖。そう、外側から。
「キース、起きんか! この馬鹿者が!」
今朝はお前の番だろうが、と怒鳴った、着物姿の男は…。
(元老アドス…!)
見事なまでに禿げた男は、ゼウスに乗船して直ぐに「殺された」筈。なのに、何故だかピンピンしていて、キースを叱り付けて来た。「大晦日の朝に寝過ごすなどとは、ド阿呆めが!」と。
「…大晦日…?」
「まだ目が覚めんか、愚か者が! さっさと鐘を撞いて来んかい!」
情けないわ、と喚き散らされ、ようやく理解した「己の立場」。
(……そうか、私は……)
この「元老寺(げんろうじ)」の副住職で、住職は父のアドス和尚。
朝一番の鐘を撞くのは、アドス和尚と交代の仕事で、当番制。今日は大晦日で、自分の番で…。
「す、すまない、親父! 行ってくる…!」
もう大慌てで済ませた着替え。
いわゆる「墨染の衣」というヤツ、それに輪袈裟も首から下げて…。
(…思いっ切り、遅刻…!)
大晦日だというのに失礼しました、と鐘楼に走って釣鐘を撞いた。ゴーンと一発。
いつも「時計より正確だ」とまで言われるほどの、元老寺の鐘。
そいつが華麗に遅刻したのが大晦日の朝で、もちろん、キースは叱られた。庫裏に戻った途端にガッツリ、元老アドスならぬアドス和尚と…。
「キース、お母さんは悲しいわ…」
大晦日に大恥をかくなんて、と母のイライザが袂で涙を拭っている。情けなさそうに。
着物をキッチリ着ている「母」は、マザー・イライザにそっくりの姿。
つまりは、此処は「そういう世界」で、旗艦ゼウスは「存在しない」。かてて加えて、キースの姿というヤツも…。
(…ステーション時代に戻ったかのようだ…)
高校一年生だからな、と感慨に耽ってしまう。「叱られている」最中なのに。
私立シャングリラ学園、それが「今のキース」が通う高校。皮肉なことに、ミュウどもの母船、モビー・ディックの「ミュウの側での」呼び名と全く同じ名前で、「シャングリラ」。
「このド阿呆が! 御本尊様にもお詫びせんかい!」
朝のお勤めの時間じゃからな、と「父」のアドスに拳で頭をゴツンとやられた。
なるほど、そういう時間ではある。坊主の一日は「朝に礼拝、昼も礼拝、夜も礼拝」。ひたすら唱える念仏とお経、来る日も、来る日も。本堂に行っては、蝋燭や線香に火を点けて。
(御本尊様にお詫びということは…)
アレが来るのか、と副住職ならぬ「国家主席」は悟っていた。恐怖の罰礼(ばつらい)。
本堂の阿弥陀如来様の前で、「南無阿弥陀仏」と唱えながらの五体投地を、多分、百回。
(…素人さんなら、百回で膝が笑うのに…)
坊主の場合は、基本が百回で…、と泣きたい気分。
中身は「叩き上げの軍人」だけれど、此処では「ただの副住職」。罰礼は、とても「恐ろしい」罰で、出来れば「やりたくない」ものだから。
そうは言っても、回避できない「この設定」。
「父」のアドスと本堂でお勤め、正座をしての、長ったらしい読経が済んだと思ったら…。
「分かっておるな? 今日は大晦日じゃから、罰礼は百回などでは足りんぞ」
三百回じゃ! とアドスが言い放った。「副住職」の身には「キツすぎる」ことを。
「さ、三百回…!?」
「当然じゃろうが、さっさとやらんか!」
数えるからな、とアドスが取り出すカウント用のマッチ棒。
普段だったら、マッチは「蝋燭や線香に」使うものなのに。けしてハードな五体投地を、数えるためのものではないのに。
(し、しかし、やらねば…)
後が無いのだ、と分かっているから、「南無阿弥陀仏」と始めたキース。本堂の床に五体投地を三百回、という強烈な刑に服するために。
(…朝っぱらからエライ目に遭った…)
おまけに大晦日は忙しいんだ、と仕事に追われまくる内に、またまたアドスが現れた。
「そろそろ、銀青(ぎんしょう)様がお越しになるからな。山門の前までお迎えに出ろ」
「銀青様…?」
誰のことだ、と口にする前に、ピンと来た「答え」。
「この設定」では、父のアドスより遥かに偉くて、総本山の老師までもが「ハハーッ!」と頭を下げる存在。…それが「銀青様」で、その正体は…。
(……ソルジャー・ブルー……!)
此処では「死んでいなかった」のか、と呻きたい、超絶美形なミュウの元長。
伝説のタイプ・ブルー・オリジン、そいつが此処では「伝説の高僧、銀青様」。
大晦日は毎年、「父」のアドスに請われて、除夜の鐘を撞きにやって来る。アドスが手配した、立派な黒塗りのタクシーで。…高僧の証の「緋色の衣」なんぞも持参で。
(何故、私が…!)
あんな野郎の「お出迎え」に、と寒風吹きすさぶクソ寒い中で、山門の前で震えていると…。
じきに走って来た黒塗りのタクシー、運転手が降りて丁重にドアを開け…。
「やあ、キース。…今年もお世話になるよ」
今年の着替えは何処の部屋かな、と車を降りたソルジャー・ブルー、いや、銀青様。
その実態は「キースが通っている高校」の生徒会長、年の方は半端ないけれど。ミュウの元長と全く同じで、軽く三百歳越えだけど。
「…部屋なら、おふくろが暖めている。早い時間から、暖房を入れてな!」
「それは有難い。今日も冷えるねえ…」
夜には雪になりそうだよね、と銀青様は「ただのブルー」なモード。
とはいえ、根っこは「偉そう」な感じ。
なにしろ「頼むよ」と持たされた荷物、それの中身は「緋色の衣」。最高の位の坊主だけしか、緋色の衣は着られない。そいつに似合いの立派な袈裟まで、専用鞄に詰まっているから…。
(俺はこいつに、絶対に…)
頭が上がらないままで正月、と既に分かっている運命。
「この設定」では、そうだから。…坊主の世界は、「偉い坊主に絶対服従」、そういう世界。
鉄の掟が存在する以上、今のキースは「ブルーの下僕」。どう転がっても。
やたらめったら「偉そうな」オーラを漂わせるのが、「緋色の衣」に着替えたブルー。
キンキラキンの袈裟も纏って、除夜の鐘を撞く準備の方はバッチリ。
「銀青様、今年もよろしくお願いします」
最初の鐘と、最後の分を…、と頭を下げるしかないキース。身分は「副住職」だから。
「今はブルーでいいけどさ…。それより、今日は仕事が色々あるだろう?」
そっちに行ってくれればいいよ、と「銀青様」は鷹揚だった。「ぼくは勝手に寛いでるから」と緑茶を啜って、茶菓子などにも手を伸ばして。
「有難い。では、行ってくる…!」
ミュウの元長ならぬ「銀青様」を庫裏の座敷に残して、仕事に追われまくりのキース。大晦日の寺はもう本当に忙しい上、元老寺の除夜の鐘と言ったら「大人気」。
「午前二時まで撞き放題」の魅力は大きく、おぜんざいの「お接待」もまた、人気の秘密。
(…今年も、この日がやって来たか…)
年末年始は忙しいんだ、と「国家主席」とは全く違った中身の仕事をこなしまくって、大急ぎで境内を歩いていたら…。
「キース先輩!」
今年も来ました! と現れたシロエ。…E-1077の時代そのままに。けれど、私服で。
(……シロエ……!)
此処では生きているのだな、と涙が溢れそうになった所へ、「よう!」とサムまで。これまた、E-1077で「出会った頃」と変わらない姿。
(…サム…!)
お前もいるのか、と思う間もなく、「キース、今年もお世話になります」とマツカが来た。今の設定では、「大財閥の御曹司」のマツカ。もちろん、「死んでなんかはいない」。
(……みんな、いるのか……)
E-1077を去ったスウェナもやって来た。自由アルテメシア放送などとは無縁の、ごくごく普通の「女子高生」が。
(…それに、ジョミーか…)
こいつも此処では同級生か、とキースが眺めるジョミー・マーキス・シン。
闇鍋みたいな詰め合わせだけれど、それでも何故か嬉しくはある。シロエも、サムも、マツカも「死んではいない」世界。…みんな揃って、シャングリラ学園の一年生で。
シロエやサムたちは、ワイワイ騒ぎながら列に並んだ。除夜の鐘を撞く行列に。
じきに夜が更け、チラチラと雪が舞い始める中、キースは「銀青様」なブルーのお供で…。
(この鐘で年を送るのか…)
なんとも不思議な習慣だ、と「国家主席」には分からないブツが「除夜の鐘」。
けれど「副住職」の方では、それが毎年の習慣らしい。ブルーにお供し、特設テントから鐘楼に向かって、鐘を前にして…。
「銀青様、もうそろそろかと…」
「うん。…じゃあ、始めようか」
撞木の綱を握ったブルーが、力一杯、撞いた鐘。…朝にキースが「遅刻した」鐘。
そいつが境内にゴーン…と厳かに響き渡って、最初の鐘が撞かれた後には、一般人の出番。列の先頭から順番に「ゴーン…」で、撞き終わったら…。
「皆さん、召し上がってから、お帰りになって下さいね!」
「母」のイライザが、宿坊の人たちに手伝わせながら、配るホカホカの「おぜんざい」。
もう新しい年が明けていて、シロエやサムたちも鐘を撞き終え、熱い「おぜんざい」に舌鼓。
(……いいものだな……)
坊主稼業はハードなのだが、と朝に食らった罰礼三百回の刑とか、朝昼晩の「お勤め」だとかを回想したって、「こっちの方がいい」気がする。
国家主席をやっているより、「高校生と副住職の二足の草鞋」の人生が。
元老アドスが「実の父」だろうが、「実の母」がマザー・イライザそっくりだろうが。
そうこうする内に、除夜の鐘が終わる午前二時。
またまた「銀青様」のお供で、最後の鐘をブルーがゴーンと撞いたら、次なる仕事。
(正月と言えば…)
修正会(しゅしょうえ)だしな、と向かう本堂。新年を迎えて、最初の法要。
「キース先輩、今年も椅子席は駄目なんですか?」
「やかましい! 若いお前たちは、正座だ、正座!」
椅子席なんぞは贅沢なのだ、と叱り飛ばすのも「お約束」らしい、この世界。
「父」のアドスと読経三昧、そんな修正会を終えたら、シロエやブルーたちは宿坊に引き揚げて行った。元老寺の自慢の宿泊施設を、大晦日だけは貸し切りで。
(俺はこっちか…)
副住職だから、当然だが…、とキースは「布団」を敷いて休んだ。「自分の部屋」で。
きっと目覚めたら「旗艦ゼウス」で、「この設定」は消えているだろう。
(…どうせだったら、正月を此処で…)
迎えたかった、という夢が叶ったか、暗い内に叩き起こされた。「父」のアドスに。
「早く起きんか! 正月と言えば初日の出じゃ!」
皆で山門で拝まねば、と叱り飛ばされ、「昨日と同じパターンだな…」などと思ってしまう。
墨染の衣に袖を通しながら、輪袈裟なんかも着けながら。
(だが、今朝の鐘は…)
親父の方の当番だしな、と向かった元老寺の山門。
其処に、サムもシロエも、マツカも、ブルーやジョミーも勢揃いして…。
「よいですかな、皆さん。二礼、二拍手、一礼ですぞ」
アドスが仕切って、昇る朝日を皆で拝んだ。柏手を打って、「今年もよろしく」と。
それが済んだら、庫裏で「お屠蘇」で、「お雑煮」に「おせち」。
「「「あけましておめでとうございます!!!」」」
皆で挨拶、それは賑やかな宴会となった。
「この設定」では未成年だから、キースたちは「酒が飲めない」けれど。
三百歳越えのブルーただ一人が、「父」のアドスの酌で「飲みまくって」いるけれど。
「キース先輩、明日は初詣に行きましょう!」
今年もアルテメシア大神宮ですよ、とシロエがブチ上げ、練られる計画。初詣のついでに、何を食べに何処へ出掛けてゆくか。予算の方は…、などとワイワイと。
今日の所は、「本堂で檀家さんの初詣」を待つのが「副住職の仕事」。
ゆえに「みんなで初詣」は明日、じきに本堂へ出掛けてゆかねばならなくて…。
(サムとジョミーも僧籍だから…)
着替えをさせて、俺と親父の手伝いを…、と立ち上がったキース。
「あいつらに着せる法衣の用意も、俺の管轄」と、「用意が済んだら、嫌がるジョミーを本堂に引き摺って行かないと」などと、考えながら。
サムは「いずれ坊主になる気満々」、それとは真逆なのがジョミー。
初詣を進んで手伝うどころか、お盆の時の棚経さえも…。
(お経を全く覚えないから、俺の後ろで口パクなんだ…!)
今年こそ、あの腐った性根を叩き直す、と襖を開けて廊下に出たのだけれど。
(………!!?)
戻ったのか、とキースは「旗艦ゼウス」で目覚めた。
昨夜、眠った指揮官室で。
畳に敷かれた布団ではなくて、ベッドの上で。…何もかも、綺麗サッパリ消えて。
(…さっきまでのは…)
夢だったのか、と思うけれども、あまりにも「リアルだった」設定。
それにシロエも、サムたちもいた。…マツカも生きて笑っていた。
(明日の初詣の、スポンサーの方をよろしく、と…)
シロエたちがマツカに頼んでいたな、と思い出す。
自家用ジェットまで持っているのが「マツカの父」で、外国にまで別荘が幾つもあって…。
(…なのに、とことん謙虚な所が、本当にマツカらしかった…)
「銀青様」なソルジャー・ブルーが、「偉そうな」オーラを背負っていたのも、似合うと思う。
ミュウの長のジョミーが、「坊主は嫌だ」と逃げたがるのも…。
(…あいつらしい、という気がするぞ…)
そして私は「副住職」か…、とキースが浮かべた苦笑。
苦労人な所が、今の自分と被るから。
…朝から罰礼三百回とか、「父」のアドスに叱られまくりで、「銀青様」にも絶対服従、そんな「辛すぎる」生き方が。
けれども、楽しくはあった。…夢でも、「みんなが笑顔」だった世界。
あんな世界があるのなら…、とキースは暫し、夢を見る。
「ああやって皆で笑い合えるのなら、副住職でもいいのだが」と。
朝っぱらから鐘を撞いては、読経三昧な人生でもいい。年中無休な、坊主の世界の住人でいい。
私立シャングリラ学園の「一年生」として、生きてゆけるなら。
そういう世界がもしもあるなら、「副住職くらい、いくらでも務めてやるのだが」などと…。
国家主席の迎春・了
※キースが副住職な世界は、「本当に」存在しています。管理人が8年以上も書いてるイロモノ。
「書き手になる」気は無かったもんで、オリキャラとかを入れちゃいましてね…。
おまけに「管理人の日記風」の文章、ゆえに「イロモノ」という扱い。オールキャラですが。
そんなブツでも「読んでみたい」方は、「管理人の巣」までお越し下さい。
其処からリンクが貼ってあります、ずばり「シャン学アーカイブ」。表には出せん…。