「出て来い! ぼくの呼び掛けに応えろ、ソルジャー・ブルー!!」
そう叫んで闇雲に走りまくったジョミー。
何処かにいる筈の諸悪の根源、奴を倒すといった勢いで。それは乱暴な足音を立てて。
出て来やがれと、喧嘩上等だと突っ走っていたら…。
『ジョミー…』
いきなり来たのが「頭の中に声」、迷惑極まりないミュウの特徴。思念波とかいうヤツ。
しかし来たのは違いないわけで…。
(キターーー!!!)
来やがったぞ、と立ち止まったら、続きが届いた。
『今、初めて自分の意志で、ぼくの心を読んでいる。…分かるか?』
そう言われても、こっちが困る。そもそも心を読めはしないし、ミュウでもないから。
「…何処にいる!?」
訊いているのに沈黙した相手、綺麗サッパリ無視された。売った喧嘩を華麗にスルーで、何処にいるかも喋らないのがソルジャー・ブルー。
(…あの野郎…!)
真面目に上等、とガンガン走った、「多分、こっち」と思った方へ。
何故だかそういう気分がするから、野生の勘が告げているから。「こっちですよ」と。
(馬鹿にしやがって…!)
あのタコが、と走ってゆくジョミーはまるで知らない、きちんと心を読んでいることを。喧嘩の相手と目した相手の、「あのタコが」というソルジャー・ブルーの。
せっせと勘で走って行ったら、突然、踏み付けた「変な」マンホールの蓋みたいなブツ。
(え?)
なんだ、と思う暇もなくせり上がったソレ、あれよあれよという内に…。
(何処なんだ?)
真っ暗なトコに出たんだけれど、と見回した部屋は深海のよう。暗すぎる中に青い光がぼんやり灯って、妙なスロープが伸びていて…。
(…あいつなのか!?)
ソルジャー・ブルーか、とガン見したのがスロープの先に置かれたベッド。
その上に誰か寝ているからして、恐らくソルジャー・ブルーだろう。さっきフィシスと名乗った女性が言っていたから。「ソルジャーは、とてもお疲れなのです」と。
(あいつが勝手に疲れたわけで…!)
頼んでもいないのに、妨害してくれた成人検査。「助けた」も何も、余計なお世話。
もしも邪魔されなかったならば、「不適格者」にはなっていないから。今頃は成人検査を無事にパスして、大人の仲間入りだったから。
(よくも人生、メチャクチャにしてくれやがって…!)
この礼はキッチリしてやらないと、とスロープをズンズン歩いていった。「一発、殴る」と。
疲れていようが、寝込んでいようが、「このジョミー様を、舐めるんじゃねえ!」と。
そうしたら…。
(へ?)
なんて奴だ、と見開いた瞳。
ソルジャー・ブルーは、なんとブーツを履いたままでベッドに寝ていたから。それも半端な長さではない立派なブーツで。
(靴のままでベッド…)
それは無いだろ、と呆れた行儀。アタラクシアの家で、何度叱られたか分からないから。
懐かしい家で優しい母から、「靴を履いたままで、ベッドに寝ないで頂戴!」と。
ブーツではなくて、スニーカーだったのに。…目の前のタコより、よっぽど可愛かったのに。
(それも、いい年こいた大人が…)
ブーツなんか履いて寝てんじゃねえよ、と一方的に燃やした闘志。やっぱり殴る、と。
けれども、ソルジャー・ブルーと来たら、「よっこいしょ」といった調子で起き上がって来て、悪びれもしないものだから。
「…あなたが…」
殴り飛ばす前に確認しよう、と睨み付けたタコ、いやソルジャー・ブルー。
ブーツで寝るようなタコの方では、まるで気にしていないらしくて、ベッドから下りると平然とこっちに近付いて来た。キモチ年寄りっぽい足取りで。
「…こうして会うのは初めてだね。…ジョミー」
言い種からして、もう本当に「悪い」とも思っていないタコと分かるから、怒鳴ってやった。
「どうして、ぼくなんだ!」
…どうして、あんな夢を見せたりしたんだ、ぼくはミュウじゃない!!
ブチかます、と取ったファイティングポーズ、握り締めた左手の拳。
なにしろミュウは弱いそうだし、利き手はマズイだろうから。後々の自分の立場を思えば、利き手は封じて、左で殴るのが吉だから。
「どついたるねん」とばかりにグーで構えて、にっくきタコにガンを飛ばしたけれど。
どのタイミングで一発かますか、闘志満々だったのだけれど。
(…え?)
こいつ、いったい…、と「ブーツでベッド」以上に呆れた、目の前のタコの態度なるもの。
本当に真面目に信じられない、これが初対面の相手に向かってやることか、と。
(……すっげえ態度……)
ぼくのママでも怒るから、とポカンと眺めたヘッドフォン。…タコが頭に装着している、とても立派でデカイ代物。さぞや音質がいいのであろう、と容易に想像出来るブツ。
(…誰かと喋る時には、外せよ!)
何を聴いてるのか知らないけれど、とブーツを履いて寝ていた以上にムカつく光景。
いくら船では一番偉いのがソルジャーとはいえ、どう考えても舐められている。ヘッドフォンを頭にくっつけたままで、「初めてだね」も何もない。
こうしている間も、ソルジャー・ブルーは、目の前のタコは…。
(…何かガンガン聴いているんだ…)
こっちの喋りは適当に聞いて、お気に入りの曲か何かに夢中。そうでないなら、ヘッドフォンを外す筈だから。…そのままで客には会わないから。
ブーツのままで寝ていたことも大概だけれど、ヘッドフォン。もう本当に最悪すぎるのがタコ、これが長だと言うから泣ける。ミュウどもの態度が悪い理由も分かってしまった。
(…トップがこれじゃあ…)
誰の態度も右へ倣えで、礼儀も何も無いだろう。喧嘩を売って来たミュウの少年、あれも恐らく目の前のタコの日頃の言動、その薫陶を受けて育った結果。
これは仕方ない、と嫌すぎるけれど理解した。こんな長なら、ああなるよ、と。
だからMAXな怒りをぶつけた、諸悪の根源なタコ野郎に。ソルジャー・ブルーに。
「成人検査だって、あんたが邪魔しなければ、ちゃんと通過していたかもしれない!」
そうしたら…。ぼくは、こんな所に来たくはなかった…!
殴る気力も失せていたから、仰いだ天井。なんてこった、と。
この期に及んでも、ヘッドフォンを外そうともしないのがタコ、何を言っても無駄すぎる相手。
馬の耳に念仏だとか、馬耳東風だとか、それを文字通りに体現するタコ。
「聞く耳なんかは持っていない」と、今も音楽鑑賞中。でなければ落語か野球中継、お笑い番組かもしれない。…そういうコンテンツがSD体制の時代にあるかどうかは、ともかくとして。
まるで全く聞かないのがタコ、右から左へスルーどころか、「聞きませんよ」なヘッドフォン。
どんなに怒りをぶつけてみたって、タコの脳内ではBGM以下の扱いだから。
次の瞬間にもプッと吹き出し、もうケタケタと笑い出すかもしれないから。…聴いているのが、今をときめく最高の漫才とかだったなら。
どうせ聞いてはいないんだろう、と諦めの境地で見詰めたタコ。あのゴージャスなヘッドフォンから流れているのは、イケてるロックか、はたまたヘビメタ、あるいはまさかのクラシック、と。
無駄に美しすぎる顔だし、キャラ的に似合うBGMならクラシック。
そうは言っても酷すぎる態度、どちらかと言えばパンクとかだよ、とか思っていたら…。
ゆっくりと赤い瞳を瞬かせたタコ、そして静かに口を開いた。
「では…、どうしたい?」
「えっ?」
あまりにも意外すぎる展開、一応は聞いていたらしいタコ。
そういうことなら、とダメ元で大声で喚いてやった。今だってタコが聴き続けている、ロックのビートに負けないように。
「ぼくをアタラクシアに…、家に帰せ!」
でないと殴る、と再び握った左の拳。此処まで態度の悪いタコなら、殴ってしまえ、と。
そこで流れた沈黙の時間、タコが聴いているのは、やはりお笑いだっただろうか。丁度いい所に差し掛かったわけで、聴き逃せない山場なのだろうか、と睨んでいたら…。
「…分かった」
「あ?」
マジで、と見据えたタコの表情、ちゃんと話を聞いていたのか。
…時々、妙に間が開くけれど。
今もやっぱり「だんまり」だけれど。BGMだか、お笑いだかに気を取られていると、この間が語っているのだけれど。…それは雄弁に。
(……この野郎……)
こっちは人生かかってんだよ、と許せない沈黙がちょっと流れて、またタコのターン。
「…行くがいい。…リオ」
ジョミーを送ってやってくれ、というタコの呼び掛け。「はい」と奥から現れたリオ。
『行きましょう、ジョミー』
どうやら本当に帰れるらしくて、其処は非常にラッキーだけれど。
飛び跳ねたいくらいに嬉しいけれども、タコはそれでもいいのだろうか?
(えっと…?)
ぼくを無理やり連れて来たくせに、と歩きながら後ろを振り返ってみたら…。
(…ヘッドフォン…)
そっちの方に夢中なわけね、と知りたくもない現状を把握。
忌々しいタコは、ソルジャー・ブルーは、キッパリ横顔だったから。
こちらに顔を向けさえしないで、ヘッドフォンごと自分の世界にドップリ浸っている最中。
(…はいはい、ぼくよりロックか、お笑い…)
もう知るもんか、と船にオサラバすることにした。
(……ぼくは…ミュウなんかじゃない……)
ブーツを履いたままでベッドに寝ていて、客と話す時もヘッドフォン。
礼儀作法などあったモンじゃない、という最低なタコが統べているのがミュウだから。
どんなに顔がイケていたって、肝心の中身がコケまくっているタコがソルジャーなのだから。
そのタコは今もヘッドフォンを着けて、ベッドサイドで絶賛音楽鑑賞中。
ヘビメタかパンクか、音楽でなければ落語か漫才、そういった感じ。間違えたって、格調の高いクラシックの線は有り得ない。…教養講座の類だって。
勝手にしやがれ、と背を向けておいたソルジャー・ブルー。腹立たしいタコ。
(…どうして……こんなことに…)
礼儀もクソも無いようなタコに、ロックオンされて拉致られたなんて、と泣きたい気持ち。
なんとか家には帰れそうな具合になってきたけれど、最悪すぎるミュウの船。
よりにもよってタコがソルジャー、と仏頂面で歩くジョミーは、夢にも思っていなかった。
ヘッドフォンだと思い込んだブツが、本当は補聴器だったとは。
記憶装置まで兼ねているヤツで、後に自分が受け継ぐことになるモノだとは。
そしてジョミーに「行くがいい」と告げたソルジャー・ブルーも、まるで分かっていなかった。
補聴器が激しく誤解されたことも、「人の話を聞かない奴だ」と思われたことも。
礼儀知らずなタコ野郎だと、ジョミーが怒っていることも。
事の起こりは、ほんの些細な勘違い。
けれども誤解は解けなかったから、ジョミーはサックリ帰って行った。
ほんの一言、説明したなら、きっと無かったろう悲劇。
「これは補聴器なんだけれどね」と、ソルジャー・ブルーが頭を指差していたら。
ブーツでベッドの件はともかく、補聴器だけでも、ヘッドフォンとは違うと言っておいたなら。
…きっと世の中、こんなモノ。
誤解の種など落ちまくりだから、ピーナツ入りの「柿の種」にも負けないレベルなのだから…。
誤解された長・了
※アニテラで全くは説明されずに、突っ走っていたのがブルーの補聴器。かなり後まで。
補聴器なんだと気付かなかったの、視聴者だけではなかったかもよ、という話…。
(化け物の力も使いようだ)
マツカは役に立つだろうな、とキースの唇に浮かんだ笑み。
丁度いいモノが手に入ったと。
ミュウの調査に出掛けるためには、お誂え向きと言ってもいい。
(可哀相だ、と助けてしまったが…)
サムが、シロエが重なったから。
怯え、震えるマツカの上に。
「そうなれなかった」と叫んだ顔に、その声に。
単なる気まぐれ、一匹くらいは生かしておいてもいいだろうと。
ミュウを相手に戦うのならば、きっとマツカは役立つから。
その辺の兵士などよりも。
対サイオンの訓練を知らない者よりは、よほど。
だからマツカを連れてゆこうという心づもり。
グレイブが何を言って来ようが、あれを連れて、と。
あと一時間もすれば出発、ジルベスター行きの船にマツカも乗せる。
誰にも文句を言わせはしないし、マツカの力を役立てるために。
そういうつもりでいるのだけれども…。
(……違うな……)
本当の理由は別にあるのだ、と自分でも分かる。
マザー・システムの目から逃れて、生きていたミュウ。
劣等生だったと泣いていたマツカ。
彼の向こうに、どうしても見えるミュウの少年。
何処もマツカに似ていないのに。
むしろ逆だと言っていいほど、気性が激しかったのに。
(…シロエ…)
自分が処分した少年。
E-1077の卒業間際に、マザー・イライザの命令で。
「撃ちなさい」という冷たい声で。
シロエが乗った船を撃ち落とした、自分の手で。
追われていたのを匿ったほどに、話したいとも思ったシロエを。
あの時は何も知らなかったけれど、メンバーズになってから聞かされたこと。
シロエはMのキャリアだったと、ミュウだったのだと。
(偶然、成人検査をパスしただけ…)
マツカと同じ。
そうそういない筈の人間、シロエは例外の筈だった。
二人目、三人目のシロエに出会うことなど、けして無いだろうと思っていた。
けれど、出会ってしまったマツカ。
シロエと同じに、成人検査をパスしたミュウ。
見た目も中身も違うけれども、其処だけは同じ。
それからマザー・システムが施す教育、それに順応出来ない所も。
(…二人目のシロエ…)
まるで違うのに、似ているマツカ。
何処が似ているかと問われたならば、境遇だけしか似ていないのに。
シロエが辺りを焼く劫火ならば、マツカは消えそうな風の前の灯。
劇薬のような毒を振りまく者がシロエなら、マツカは湖に落ちた一滴の薬。
それほどに違う、二つの存在。
なのに重なる、不思議なほどに。
マツカの怯えた表情の上に、シロエの皮肉な表情が。
ただ泣いていたマツカの涙に、勝ち誇ったシロエの笑い声が。
だから助けた、と本当は分かっている真実。
マツカを殺さず、生かした理由。
それはシロエの身代わりなのだと。
遠い日に自分が殺したシロエ。
マザー・イライザに逆らえないまま、命を奪ってしまったシロエ。
あの時、自分が強かったならば、シロエの船を見逃がせた筈。
何処へなりと行けと、機首を返して。
船のエネルギーが尽きる所まで、思いのままに飛んでゆくがいいと。
(…放っておいても、シロエの船は…)
何処へも行けはしなかった。
練習艇に積まれた燃料、それだけで地球は目指せないから。
何処の星へも、辿り着くことは不可能だから。
エネルギーが尽きた時点で、断たれてしまう酸素の供給。
シロエの命は其処で潰えて、けして何処にも辿り着けない。
永遠に宇宙を漂い続ける船と一緒に、シロエもまた。
(…なのに、私は…)
その選択肢を選べなかった。
あまりにも真面目すぎたから。
マザー・イライザに、システムに疑問を抱いていたのに、漠然としたものだったから。
今ならば分かる、今ならば出来る。
シロエの船を見送ることも。
何処までも飛べと、撃墜しないで機首を返すことも。
かつて自分が出来なかったこと。
思い付きさえしなかったことが、今なら出来る。
シロエと同じに成人検査をパスして来たミュウ、それを生かしておくことが。
マザー・システムの監視を振り切り、手元に隠しておくことが。
(私の側が何処よりも安全なんだ…)
まさかミュウなど、生かすようには見えないから。
冷徹無比な破壊兵器と、皆が言うような存在だから。
(…私にも情があるなどと…)
誰も思うまいな、と苦い笑みが浮かぶ。
「らしくないな」と、「キース、お前は何をしたい?」と。
答えなら、とうに持っている。
とうに出ている、「マツカを生かし続ける」こと。
それが自分のやりたいこと。
シロエのようにはさせないことが。
上手く生かして、自分の役に立てて、マツカの評価も上げてゆくこと。
マザー・システムが、けしてマツカを疑わぬよう。
誰一人として、彼がミュウだと気付かないよう。
(……私なら出来る)
マザー・システムを、軍を欺くことも。
一生、マツカを匿い続けて、人類の世界に置いてやることも。
もう決まっている自分の道。
今日から自分はマザーを裏切る、ミュウを側に置いて。
処分させずに、素知らぬふりで。
(…ミュウの調査に行くのだがな…)
それとこれとは別の話だ、と自分の中に引いた一本の線。
自分の側に入ったミュウは殺さない。
誰にも殺させたりはしないし、命ある限り匿い続ける。
それがマザー・イライザへの自分の復讐、マザー・システムに対する反抗。
このくらいしか出来ないから。
今の自分に出来そうなことは、まだそれだけしか無いのだから。
(…しかし、この線の向こうのミュウは…)
敵だ、と断じる心もある。
人類とミュウは相容れないから、ミュウは危険な生き物だから。
追い詰めて狩り出し、処分すべきモノ。
それもまた、自分の行くべき道。
…今の所は。
天が、歴史がミュウを選ぶまでは、ミュウに与する日が来るまでは。
ミュウの前に自分が膝を折る日が、首を垂れて跪く時が訪れるまでは。
けれど、自分はもう決めた。
マザー・システムへの裏切りを。
遠い日に「撃ちなさい」と命じたマザー・イライザ、あの機械への復讐を。
弱いマツカを生かしておくこと、それが自分の一生の使命。
システムにマツカを殺されたならば、また同じことの繰り返しだから。
二人目のシロエを失くしてしまって、深い後悔に苛まれるだけ。
だから負けない、この戦いには負けられない。
(…マツカが最後のミュウになろうが…)
生かすのだから、と誓う相手は自分の心。
マザー・システムに忠誠を誓った、同じ心に違う誓いを。
(私が生きている限り…)
マツカは誰にも殺させない、と固めた決意。
二人目のシロエは、もう沢山だと。
それをこの目で見るくらいならば、ミュウをいくらでも殺してみせる。
心の中に引いた一本の線の、向こう側にいるミュウならば。
端から殺して焼き払ってみせる、それも自分の行く道だから。
たとえ、矛盾していようとも。
マツカを生かし続ける隣で、何万のミュウが死のうとも。
線の向こうと、こちらの側と。
恨み言なら、線を越えてから言うがいい。
こちら側へと渡り、踏み越えて。
それから責める言葉を浴びせて怒り狂うがいい、そう出来るミュウがいるのなら。
この線を越えるミュウがいるなら。
こちら側へと踏み越えたならば、そう、そのミュウは殺さない。
自分自身に誓ったから。
二人目のシロエは見たくないから。
(…本当に越えて来たならな…)
そのミュウもまた、生かしておく。
マザー・システムを裏切り、騙し、欺いて。
「実に役立つ、いい部下です」と涼しい顔をし、軍の者もまた欺いてやる。
そうすると、もう決めたから。
遠い昔に出来なかったこと、それが出来るだけの強さを自分は持っているから…。
生かしたいミュウ・了
※キースがマツカを見逃がした理由。どうしてマツカを生かしておくのか、ちょっと捏造。
本当はもっと単純でしょうけど、せっかくシロエがミュウなんだから、と。…ダメ?
「ママもブルーも…優しい人だった」
ジョミーまで殺させはしない!
そう言ってキースを攻撃したのがトォニィ、瞳がキラリと光ったけれど。
容赦なくサイオンでキースの首を絞め上げながら、「苦しいか?」などと凄んでいるけれど。
「お前は、簡単には死なせない」と決め台詞よろしくやっているのだけれども、ちょっと考えて頂きたい。
いや、トォニィが考えるわけではなくて。
もちろんキースの方でもなくって、考えるのはそう、其処の「あなた」で…。
トォニィのママはカリナだからして、「優しい」はデフォ。
SD体制始まって以来の自然出産児、トォニィを産んだくらいなのだし、優しくて当然。それに看護師だってやっていたから、「優しい人」で間違いはない。
たまに「このクソガキャー!」とキレることが仮にあったとしたって、基本は優しいのが母親。
我が子に向かって「クソガキ」だろうが、「ボケ!」だろうが。
子供を小脇にガバッと抱えて、お仕置きにお尻パンパンだろうが。
母親はそういうものだから。
我が子可愛さで叱るものだし、時には手だって上げたりもする。
言うことを聞かないクソガキだったら、「このクソガキャー!」と。
そのクソガキがオンオン泣こうが、躾とばかりにお尻パンパン、それが母親。
思い切り叱って叱り倒したら、「いい子ね」と涙を拭いたりして。「もうしないのよ?」と頭を撫でてやったりもして、ギュッと愛情たっぷりのハグ。
ゆえに、カリナは優しいだろう。
トォニィがキースに言った通りに、「優しい人」で合っている。
幼かった日のトォニィがお尻を叩かれていても、「このクソガキャー!」とやられていても。
その件については、誰も入れられないツッコミ。
母親というのは優しいものだし、トォニィもそう感じて大きくなっただろうから。
ところが此処に問題が一つ、カリナとセットで挙がったブルー。
「ママもブルーも」とトォニィは言って、「優しい人」だと言い切ったわけで。
つまりは、ブルーもカリナとどっこい、そのくらいにトォニィにとっては「優しかった人」。
わざわざ仇を取りに行くくらい、「殺させはしない」と叫んだジョミーと並ぶくらいに、大切な人で「優しい人」。
それがトォニィにとってのブルーで、注意すべきは其処だったりする。
どうしてブルーが、カリナと肩を並べるくらいに「優しい人」になっているのか。
グランパなジョミーに負けない勢い、それほど大事に思われているか。
よく考えたら、誰もが気付く。
「いったい、何処でトォニィは、ブルーに可愛がって貰いましたっけ?」と。
誰もが突っ込む、「ブルーは優しい人かもですけど、トォニィに優しくしてましたっけ?」と。
もちろん、接点だったら幾つか。
キースの脱走騒ぎの時には、身体を張ってトォニィをキャッチしたのがブルー。
お次はナスカがメギドの炎に襲われた時で、最初にシールドしたのがブルー。そのシールドを強化したのがトォニィたちで、共に戦った戦友ではある。
最後は「この子たちを連れて行くのか?」と、「ぼくが時間を作る」と、ブルーが単身、メギドに向かって飛び去った時。
その三つだけで、他には全く無いのがブルーとの接点なるもの。
たったの三つで、それ以上でも以下でもないのが、トォニィにとってのブルーの筈で。
三つだけしか無かった接点、どう転がったら「優しい人」が出来上がるのか。
母親のカリナと並ぶくらいに、グランパなジョミーと同等に扱われるような人物に。
どう考えても、「無いでしょ?」なのに。
ブルーはトォニィを育てていないし、ジョミーよろしく懐かれてもいない。
本当だったら、此処でトォニィが言うべき台詞は…。
「ママは優しい人だった」なわけで、ブルーの名前は出て来ない筈。
「優しい人」という括りでは。
なんとしてでも、名前を出そうと言うのだったら、「強い人」とか、そういった感じ。
ミュウの未来を守って散ったし、その言い方なら、多分、変ではないだろう。
それとも「大いなる愛」でミュウを守って散ったからして、「優しい人」で押し通すか。
もうゴリゴリと押し通すならば、それでなんとか通りはする。
ミュウを守った優しい人だと、さながら聖母のような人だ、と。
聖母だったら、実の母親ともガチで勝負が出来るから。
ガチンコ勝負で負けはしないし、場合によっては母親に勝つ。
けれど、本当にそれでいいのか、その論法で正解なのか。
「ママもブルーも…優しい人だった」というトォニィの言葉、それを正しく読み解くには。
カリナとガチでやっても負けない、「優しい人」というブルー。
トォニィの大切なグランパのジョミー、彼ともタイマンを張れるほど大切に思われるブルー。
「ミュウの未来を守った」聖母だったら、カリナと並んで立てるのか。
トォニィを産んだ実の母親、「このクソガキャー!」とお尻パンパン、そんなカリナとブルーが同等の地位に就けるのか。
「優しい人だった」と仇を討ちにゆくほど。
ジョミーを同じに殺させはしないと、キースの首をジワジワと締めにかかるほど。
(…ブルーは優しい人だったんだ…!)
なのに優しいブルーもママも、とキースの首を締めているトォニィ。
こいつが殺してしまったんだと、ママも、ブルーも、と。
未だに「ブルー」を連呼なわけで、ママと並んでブルーの名前。
まるで接点は無い筈なのに。
せいぜい三回、それだけしか会っていないのに…、と考えた「あなた」は間違っている。
大切なことをサラッと忘れて、ケロリと忘れてしまったオチ。
あれから八年以上経ったし、それも仕方がないけれど。
毎日の萌えにリアルの生活、色々なことがあるのだからして、忘れても仕方ないけれど。
DVDをお持ちだったら、最終話を観て頂きたい。
それの終盤、お絵描きをするトォニィを。
ソルジャーを継いだらしいトォニィ、彼が回想しているシーン。
まだ幼かった頃のトォニィ、呼び掛ける「優しい母親」のカリナ。
「トォニィ、トォニィ…」
「ん?」
トォニィは其処で振り返るわけで、「何やってるの?」とカリナの声。
「まあ…。上手に描けたわね」
「パパ、ママ、ぼく…」と、順に絵を指してゆくトォニィ。
「グランパ!」
そう得意そうに差し出した絵には、ジョミーが大きく描かれていて…。
ジョミーの左側、後ろに「有り得ない」人物。
どう見ても「笑顔」で寝ているのがブルー、恐らくは青の間のベッド。そこ以外には、ブルーのベッドは無いのだから。
でもって、ブルーは「笑顔」で寝ていて、トォニィにとっては…。
(本当に優しかったんだ…!)
ママもブルーも、と絶賛キースの首締め中のトォニィ、本当に優しかったのがブルー。
まだ幼かったトォニィを連れて、ジョミーが青の間に出掛けた時に。
「ブルー、この子が分かりますか?」と。
昏々と眠り続けるブルーに、「母親のお腹から生まれた子供ですよ」と。
そうやってジョミーが抱いていたトォニィ、ようやく「おむつ」が外れたばかり。
「こんなに大きくなったんですよ」と、ジョミーはトォニィを差し出したわけで。
「見えますか?」と両腕で抱いて近付けたブルーの胸元、悲劇は其処で起こってしまった。
なんと言っても、子供だから。
先日「おむつ」が取れたばかりの、本物の幼児だったから。
ジョバーッとやってしまった「お漏らし」、それもブルーの胸元で。
慌てたジョミーが引き戻す前に、もうジョバジョバと。
ブルーの顔にもかかる勢い、上掛けだって、華々しく濡れてしまったわけで…。
(あの時、ブルーは…!)
ママと同じに優しく許してくれたんだ、とトォニィは忘れていなかった。
幼かった日の大失態を、その時に感じたブルーの思念を。
ほんの微かなものだったけれど、「泣かないで」と。
「子供なんだし、仕方ないよ」と、「ぼくは怒っていないから」と。
ジョミーはオロオロしていたけれども、ブルーの思念に気付いてさえもいなかったけれど…。
(ぼくは確かに聞いたんだ…!)
深い眠りの底にいたブルー、その人が紡いだ優しい声を。
まるで母親のカリナさながら、それは優しく心に届いた思念波を。
ブルーの思念は「いい子だね」と微笑んでいた。
「このクソガキャー!」と怒鳴る代わりに、「泣かないで」と。
それを確かに耳にしたから、感じたのだから、忘れない。
「ブルーは優しい人だった」と。
顔にかかるほど激しい「お漏らし」、上掛けどころか、ブルーの服まで濡れたのに。
あの後、係が着替えさせるのを、泣きじゃくりながら見ていたのに。
(…あんなに優しかったブルーを…)
こいつが殺した、とギリギリと締めるキースの首。
ママもブルーも優しかったと、大切な人たちを殺した男、と。
ジョミーまで同じ目に遭わせはしないと、その前にぼくが殺してやる、と。
カリナもブルーも、誰よりも優しかったから。
幼かった自分が「お漏らし」したって、二人とも怒りはしなかったから…。
優しかった人・了
※いや、トォニィに「優しい人だった」と、言われるようなブルーでしたっけ、と。
こっちの方が自然だよな、と浮かんで来たのが「お漏らし」事件。青の間に行ったならね!
「捕まるな、ジョミー!」
記憶を手放すな、とジョミーの前に降って現れたイケメン。まるで見覚えがないものだから…。
「君は?」
そう尋ねたら「ブルー」と返った答え。「ソルジャー・ブルー」と。
一方、記憶を消そうとしていた、テラズ・ナンバー・ファイブというヤツ。そっちは怒り心頭な様子、「消えなさい」と喚いているけれど。
「お前は邪魔です、消えなさい!」
「離れるなよ!」
そう叫ぶなり攻撃を始めたのがブルー、ジョミーにはついていけない速度で。なんかスゲエ、と見ている間に…。
「あぁぁぁぁーっ!!!」
その声を最後にズッコケていったテラズ・ナンバー・ファイブ、姿が消えたと思ったら。
「…やりすぎた…。脱出するぞ、ジョミー!」
「え?」
なんだって、と訊き返したら…。
「想定外だ。ウッカリ気合を入れ過ぎたらしい。それじゃ!」
後はよろしく、とブルーも消滅、気付けば前に迫っていた壁。もうぶつかるという勢いで。よく考えたら、アンダーグラウンド・コースターに乗っていたわけだから、たまらない。
「うわぁぁぁーーーっ!!!」
さっき誰かも似たような声を上げていたよね、と思う間もなく突っ込んでいって…。
「う、うう…」
アレが成人検査なのか、と取り戻した意識。壊れてしまったコースターの乗り物。
どうにもヤバイ気配だからして、行くアテもなくトボトボと。あのブルーは夢の人だった、と。何度も夢で見ていた人間、けれども何が「やりすぎ」で「想定外」なのか。
よく分からない、と歩いている間に、ナキネズミを見付けてケースを触ろうとしたら…。
パリンと割れてしまったのがケースのガラスで、中から飛び出したナキネズミ。
(宇宙の珍獣…)
まあ、儲けたと思っておくか、と抱き締めていると、「ジョミー・マーキス・シン」という声。
振り返ったら物騒な男どもの集団、「君を不適格者として処分する」と。
いきなり処分と言われても困る、銃をこっちに向けられても。
「不適格者って…。処分って、なんだよ!!!」
殺す気かよ、と叫んだ所で、男たちの方の動きが変わった。「それは本当か!?」と、なんだか慌てている感じ。銃を向けたままで、あちこち連絡を取りまくった末に…。
「…すみませんでした。失礼しました」
そう詫びるなり銃は仕舞われ、妙に低姿勢な男たち。「上からの命令でしたんで」と。
「え? ええ…?」
どうなってるんだ、とキョロキョロしていたら、現れたのが一人の青年。
『お待たせしました、ジョミー。…リオと言います』
はじめまして、と挨拶された。ついでにリオは、物騒すぎた武装集団を一瞥すると、「行け」とばかりに顎をしゃくった。「さっさと消えろ」と、「仕事して来い」と。
「…仕事? それに君、言葉が…?」
喋れないのか、と訊いたら「はい」という返事。なんでもリオはミュウだとか。
『これは思念波です。…そして、この星は我々ミュウが制圧しました』
「制圧!?」
『はい。…お恥ずかしい話ですが…。ソルジャーが、ちょっとやり過ぎまして…』
久しぶり過ぎて力加減を間違えたそうです、と説明された。テラズ・ナンバー・ファイブを脅すつもりが、思い切り破壊したらしい。木っ端微塵に。
「破壊したぁ!?」
『そうなんです。…なので、このアルテメシアは今日からミュウの勢力下に…』
というわけですから、今日からよろしく、と小型艇で出掛けてゆくことになった。ミュウたちは計算を間違えたらしい。ソルジャー・ブルーの後継者として自分を迎え入れるつもりが…。
(…現役の間に倒しちゃったわけね…)
ソルジャー・ブルーがテラズ・ナンバー・ファイブとやらを、と零れた溜息。
こんな調子で大丈夫だろうか、自分の未来。ウッカリと敵を片付けるような、強烈すぎる人物の後継者などで。
ガクブルしながら連れて行かれた船、シャングリラ。さながら巨大な白い鯨で、大勢のミュウが乗っている母船。
よく分からない、と着いた格納庫では、横断幕が待っていた。「シャングリラにようこそ」と。
偉そうな面子が並んでいる上、進み出たのがガタイのいいオッサン。
「ようこそ、ジョミー・マーキス・シン。…私はこのシャングリラの船長、ハーレイ」
我々は、ソルジャー・ブルーが選んだ新しい仲間を、心から歓迎する。
そんな具合で、本当に歓迎されてしまった船。「凄いミュウなんだって!?」と。まるで自覚が無いというのに、「凄い」ということになっていた。
(…この星は、ミュウが制圧したって言ってたし…)
逆らったらマジでヤバイよね、と粛々として従った。ウッカリ者らしいソルジャー・ブルーに、後継者なのだと皆に紹介されても。サイオンとやらの猛特訓に駆り出されても。
そうこうする内に、なんとか身についた「凄い」という前評判だったサイオン。
これで立派に後継者だって出来たから、とソルジャー・ブルーが言い出したのが…。
「地球へ向かうですって!?」
本気ですか、と焦ったけれども、ソルジャー・ブルーも、船の仲間もマジだった。知らない間に出来ていたのが協力者。地球の座標を引き出す過程で、世話になったのが縁とやらで。
「…はじめまして、セキです。こちらは息子のシロエ、皆さんと同じミュウだとか…」
私は前はサイオニック研究所におりまして…、と出て来たオッサン、ミスター・セキ。やたらと恰幅のいい人だけれど、頭の方も切れるらしくて。
彼が言うには、地球に向かう前に落とすべき拠点がE-1077というヤツ。教育ステーションだけれども、並みの場所ではないらしい。エリート育成用だからして、落とせばお得。
「なるほどね…。若くて優秀な人材が山ほど手に入るのか」
それは是非とも頂かなくては、とブルーは乗り気で、ミスター・セキの一家も仲間に加えて船は宇宙へ飛び立った。目指すは地球。
母なる地球へと向かう前にと、まずはE-1077。
あっさりサックリ陥落したわけで、人材ゲットに入って行ったら、ミスター・セキと幼い息子がサクサク調べたメモリーバンク。
「隠し部屋があると?」
そんなものが…、と首を捻ったブルー。なんでまた、と。
けれども隠し部屋と聞いたら、お宝の匂いがプンプンするもの。「行ってきたまえ」と言われてしまって、シロエをお供に出掛けた先がフロア001だった。
「……これは……」
シャングリラの女神、フィシスそっくりの女性の標本がズラリズラズラ。それとセットで男性がズラリ、その中の一つは生きているようで。
「えっと…。これ、あと少しで此処から出せるみたいだよ」
三日ほどかな、とシロエがデータを眺めて言うから、急いで取って返した船。とにかくブルーの指示を仰ごうと。
そうしたら…。
(…フィシスって、実はミュウじゃなくって…)
機械が無から創ったんだ、と知ってしまった凄すぎる秘密。自分もシロエも、「黙っていろ」と緘口令を敷かれてしまった。ブルー直々に、「これは極秘だ」と。
その上、ブルーが「行ってくる」と出掛けたフロア001。
何をするのかと訝しんでいたら、三日後に「待たせた」とブルーが連れて来たのが、謎の少年。何処かで見たような顔だけれど、とガン見していると…。
「よろしく。…キース・アニアンだ」
君より数ヶ月くらい年下だと思う、と自己紹介をやった少年。はて、と眺めて…。
「あーーーっ!!!」
フロア001で見たアレじゃないか、と気が付いた。長かった黒髪をバッサリ切っていたから、印象が違って見えただけ。要はフィシスとセットだった彼で…。
「ジョミー、キースもミュウなんだ。…そういうことにしておいてくれ」
ちゃんとサイオンを持っているから、とブルーの解説。確かにキースはミュウだった。シロエと同じに思念波も使うし、文句なしにミュウ。
(…だけど、アレって…)
最初はミュウとは違ったんじゃあ…、と思うけれども、ブルーが正義。そういう船だし、疑問を持つだけ無駄というもの。この際、ミュウでいいだろう。
(…何か秘訣があるんだよね?)
ただの人間をミュウにする方法、と考えながらも受け入れた現実。機械が無から創ったらしい、未来の超絶エリート候補。それがキースで、ミュウは物凄い人材をゲットしたわけで…。
「…キースは実に使えるねえ…」
力技は君で、頭脳はキースで安心だね、と御満悦なのがソルジャー・ブルー。
おまけにミスター・セキとシロエもいるから、地球を目指して、行け行けゴーゴー。
「次はあそこだ」「その次はアレだ」と落としまくった人類の拠点、首都惑星ノアも戦わずして落ちる有様。無条件降伏と言うかもしれない。
幾多の船を従えて宇宙を行くシャングリラは、とっくに無敵艦隊だから。
「シャングリラが来る」と耳にしただけで、人類軍も国家騎士団も逃げてゆくから。
そんなこんなで辿り着いた地球、残念なことに青い星ではなかったオチで。
「…いったい何の冗談なんだい?」
こんなモノのために戦い続けて来ただなんて、とソルジャー・ブルーに言われても…。
「えっとですね…。ぼくもキースも、こんなモノのために…」
「…戦い続けて来たのだと思うが、違うだろうか?」
それも巻き込まれてしまったわけで、とキースが見事に纏めてくれた。流石はエリート、それも機械が無から創った「ド」のつく秀才、いや天才。
シロエもコクコク頷いているし、巻き込まれたのは誰もが同じ。
そうは言っても、せっかく此処まで来たのだし…。
「…グランド・マザーは始末しますか?」
やっときますか、とブルーに訊いたら、「やっておきたまえ」と鷹揚な返事。「地球は青い」と今日まで騙して来たのだからして、相応の報いを与えて来い、と。
キースが言うには、宇宙に広がるマザー・ネットワークの破壊も必要。そっちはシロエと二人で片を付けておくから、もう遠慮なくやって来い、ということだから…。
「ぼくの人生、よくもメチャクチャにしやがってーーーっ!!!」
気が付いたらミュウでソルジャー候補で、未だに候補のままなんだよーっ! と私怨を抱えて、殴り込みをかけた地球の地の底。
怒りのパワーは半端ないから、もう一撃でブチ壊したのがグランド・マザー。
(…あれ?)
もっと時間をかけてネチネチいたぶってやるつもりが…、と呆然となってしまった瓦礫の山。
グランド・マザーは壊れてしまって、もうこれ以上は壊せないから。ウンともスンとも言わないガラクタ、ただのスクラップになっていたから。
(…ついウッカリ…)
勢いだけでやってしまった、とタラリ冷汗、その瞬間に気が付いた。前に誰かが同じことをと、ぼくと同じについウッカリ、と。
(……ソルジャー・ブルー……)
あの人がテラズ・ナンバー・ファイブを相手についウッカリ、と気付いたオチ。
それでは自分も同じだったかと、「ついウッカリ」はミュウのお家芸だったのか、と。
(……ついウッカリで……)
ラスボスを倒すのがミュウの伝統、知らない間に自分も染まっていたらしい。ミュウたちの船で暮らす間に、「ついウッカリ」なソルジャー・ブルーの後継者として頑張る内に。
(…なんか、色々、情けなさすぎ…)
あんまりだよーーーっ!!! と怒鳴ったはずみに、爆発したのがサイオンで…。
「……本当にすみませんでした……」
地球には当分、誰も近付けそうにないです、と謝る羽目に陥った。
何も棲めない死の星だった地球は、今や火の星だったから。もうバキバキとあちこち地割れで、火山も噴火しまくりだから。
「…仕方ないだろう。もう、ぼくたちに出来ることは何も無い」
百八十度回頭、とブルーが命じて、シャングリラは地球を後にした。手の付けようもない状態になったけれども、運が良ければ…。
「落ち込むな、ジョミー。ぼくとシロエの計算では…」
いずれは昔のような青い地球に戻る可能性もゼロじゃない、と慰めてくれたのがキース。それに望みをかけることしか出来ないだろう。…今となっては。
(…ぼくが一番、酷かったわけ…?)
ついウッカリが、と泣けるけれども、「ついウッカリ」は、お家芸だから。
ブルーが「君には話しておこうかな」と思念でコッソリ、それを聞いたら、フィシスがミュウに変化したのも「ついウッカリ」だったらしいから。
(…フィシスの地球が見たい、と思って通い続けて、ガン見で…)
ついウッカリと「この子が欲しい」と考えたらミュウになっていた次第。
同じ手を使ってキースもミュウにしたというわけで、「ついウッカリ」は最強だった。
(…それで地球までブッ壊したわけね…)
ついウッカリと、このぼくが…、と嘆くしかない破壊力。まさかの地球をウッカリ破壊。
けれども地球には行って来たから、このまま行くしかないだろう。
宇宙はすっかりミュウのものだし、グランド・マザーもマザー・システムも、とっくの昔に…。
(ついウッカリと壊しましたよ…!)
ミュウの伝統でお家芸ですから、と開き直りのソルジャー候補。
そう、あまりにも早く地球に行ったから、未だにソルジャー候補のまま。ソルジャー・ブルーも健在なままで、シャングリラは今日も旅してゆく。
地球を後にして、ジョミーを乗せて。キースもシロエも、みんな纏めて乗っけたままで。
「ついウッカリ」なミュウの母船だから。
ついついウッカリ地球まで壊した、そんなジョミーが乗る船だから…。
勢いで地球へ・了
※テラズ・ナンバー・ファイブ戦のブルーは元気すぎたよな、と思い返していたアニテラ。
「1話の感想はそれに尽きる」と。…そしたらこういうネタになったオチ、勢いで地球へ。
(嫌…。嫌だ…!)
来るな、と叫んでも消えてくれない忌まわしい機械。
子供時代の記憶を消してしまった、テラズ・ナンバー・ファイブの姿。
苦しみ続けるシロエは知らない、自分が何処にいるのかを。
これは夢ではないことを。
フロア001、進入禁止セクションに足を踏み入れた報い。
囚われた末にサイオン・チェックの最中だとは。
本当に記憶の中を探られ、掻き回されているのだとは。
(…助けて!)
何度目に叫んだ時だったろうか、不意に姿を見せた少年。
金色の髪に赤いマントの、幼かった頃に出会った少年。
(ピーターパン!!)
きっと彼なら助けてくれる、と思った途端に軽くなった身体。
まるで翼が生えたかのように。
ピーターパンと一緒に空へ舞い上がって、何処までも飛んでゆけるかのように。
(…今の…)
飛べた、と見回した瞳に映った、自分のカメラ。
それを手にして何処へ行ったのか、少しも思い出せないけれど。
(ぼくのカメラ…!)
取り戻さなきゃ、と思ったら宙を飛んで来たカメラ。
腕の中にストンと収まるように。
それを抱き締め、ホッとついた息。
(良かった…)
カメラにはケーブルが繋がれたままで、誰かが見ようとしている中身。
大切なものが入っているのに。
けして中身を見せるわけにはいかないのに。
(このケーブル…)
ケーブルを抜いて捨てるのがいいか、中身を抜いてカメラを捨てるか。
一瞬迷って、選んだ中身。
それさえあったら、もうカメラには用は無いから。
中のチップが大切だから。
そして抜き出したカメラのチップ。
もう要らない、と放り出したカメラ、それは床へと落ちたから。
(落ちちゃ駄目だ…!)
せっかく空を飛べたのに、とトンと蹴った宙。
飛ぼうと、ぼくの部屋まで、と。
此処にいたなら、また捕まってしまうから。
ピーターパンが飛ばせてくれた空から、床に引き戻されるから。
引き戻されたら、待っているのは恐ろしい機械。
テラズ・ナンバー・ファイブの手先で、頭を、記憶を掻き回す悪魔。
だから逃れた、空へ、部屋へと。
きっと飛べると、ピーターパンが来てくれたから、と。
(ぼくの部屋まで…!)
飛べる筈だよ、と宙を蹴って飛んで、ストンと床に着いた足。
其処は自分の部屋だった。
明かりは灯っていなかったけれど。
薄暗い闇に覆われたままで、空気も冷えていたけれど。
(…ピーターパン…?)
来てくれたよね、と思うのに、誰もいない部屋。
自分一人が立っているだけ、制服さえも失くしてしまって。
手の中にはチップ、カメラに仕込んでいた筈のもの。
(…どうして此処に?)
それにカメラは、と俄かに覚えた激しい恐怖。
自分の身に何が起こっていたかを、思い出したから。
捕まったのだと、フロア001で、と。
(それじゃ、どうして…?)
自分は此処にいるのだろう?
どうやって逃れて来られたのだろう、あの悪魔たちが潜む部屋から。
頭を、記憶を掻き回す機械、其処に囚われていた筈なのに。
自分の力で出られるわけなど、無い筈なのに。
カメラのチップにしても、そう。
どうやってそれを取り戻せたのか、何故、手の中に持っているのか。
(…覚えていない…?)
何も。
(…誰がぼくを…?)
分かるわけがない。
けれど、確かに逃げ出した自分。此処は自分の部屋なのだから。
考えても思い出せないこと。
何処だったのかも謎の監獄から、気付けば此処に戻っていた。
奪われた筈の、カメラのチップを取り戻して。
悪魔のような機械の牢獄、其処から自由の身になって。
(……ぼくは、どうして……)
何も覚えていないけれども、一つだけ、今も確かなこと。
きっと悪魔は諦めていない、自分を捕えて苦しめることを。
カメラのチップを取り上げることも。
(…隠さなきゃ…)
自分が見付けた、キースの秘密。
それを収めた大切なチップ、これを誰にも捜せない場所へ。
何処へ、と考えなくても分かる。
いつも自分と一緒だった本、ピーターパンの本がいい。
あの本はいつも一緒だから。
どんな時でも、きっとこれからも、けして自分は離さないから。
(ピーターパン…)
もう顔さえも思い出せない、両親がくれた大切な本。
この本を失くす時があるなら、離れる時が来るのなら…。
それは自分が死んだ時だけ、そうだと心に決めている本。
此処に隠せば、離れない。
きっと誰にも見付からないから、この中に隠しておくのがいい。
(…ごめんなさい…)
ぼくを許して、と剥がしたピーターパンの本の見返し。
「セキ・レイ・シロエ」と、自分の名前が書いてある箇所。
其処を剥がして、隠したチップ。
元通りにそっと貼って戻して、見返しの下に。
(これで大丈夫…)
もう見付からない、と安堵したけれど。
チップは本に隠せたけれども、此処にいたなら、来るだろう悪魔。
(隠れなきゃ…)
逃げ切らなくちゃ、と潜り込んだ床下。
前に其処から下へと潜って、ステーションの奥まで入ったから。
通風孔を伝って行ったら、きっと何処かへ出る筈だから。
逃げてみせる、と入って隠れて、やり過ごした保安部隊の捜索。
けれど分からない、自分が此処まで逃げられた理由。
あの悪魔から。
地獄のような牢獄から。
カメラのチップも無事に取り戻して、部屋まで戻って来られた理由。
(…ぼくは、どうやって…?)
分からないけれど、まるで見当もつかないけれど。
きっとこうだ、と立てた推論。
あの部屋で何か騒ぎが起こって、それに乗じて逃げ出せた。
けれども熱にうかされていたか、でなければ混乱していたか。
この部屋に戻るまでの記憶を失くして、今、此処にいるに違いない。
だから追われているのだと。
保安部隊が捜していると、姿を隠した逃亡犯の自分を、と。
(逃げなくちゃ…)
そしてキースにこのチップを、と抱えた本。
大切なピーターパンの本。
あいつにチップを突き付けてやると、これを見ればキースも終わりだと。
澄ましたエリートの顔は崩れて、きっとパニックになるだろうと。
そうするまでは捕まらない、と上げた通風孔の蓋。
此処を抜けてと、なんとしてでもキースに会ってこれを見せねばと。
そのために自分はこんな目に遭って、今も追われているのだから。
地獄の責め苦を受けたのだから。
(キース・アニアン…)
見付けてやる、と進むシロエは、まるで知らない。
自分が何をしたのかを。
どうやって悪魔の手から逃れて、自分の部屋まで飛んだのかを。
カメラのチップを取り戻せたのも、空を飛べたのも、全部自分のサイオンなのに。
夢で出会ったピーターパンから、その切っ掛けを貰ったのに。
ピーターパンはミュウの長だから。
サイオンを使った思念波通信、シロエはそれに晒されたから。
呼応するように目覚めたサイオン、その力で空へ飛び立った。
瞬間移動で機械の壁をすり抜け、カメラからチップを抜き取って。
宙を蹴って飛んで、自分の部屋へ。
そうして移動したというのに、自分では覚えていなかった力。
覚えていたなら、変わったろうに。
サイオンを自由に扱えたのなら、その後の運命も変わったろうに。
けれど、シロエは気付かないまま。
目覚めた力を使いこなせたら、呼べていただろうピーターパン。
直ぐ其処に来ていた白い鯨を、シャングリラという名のミュウの箱舟を。
かつて自分が乗り損ねた船、それに乗ることも出来ただろうに。
(…キース・アニアン…)
あいつ、とシロエは追い続ける。
通風孔の中を這って進んで、キースが来そうな場所へ出ようと。
ピーターパンの本を抱えて、チップを仕込んだ本を手にして。
もしもキースを忘れたならば、彼の代わりに、ピーターパンを思い出したなら…。
(…ぼくは必ず…)
キースの奴を、と憎む代わりに、子供の心を捕まえたなら。
ネバーランドに行きたかった夢を、ピーターパンを追っていたならば。
きっと全ては変わるのに。
ピーターパンは、白い鯨は、直ぐ近くまで来て飛んでいるのに。
今、呼んだならば、それは必ず、シロエを救いに来てくれるのに。
気付かないから、ただひたすらに進んでゆく。
ピーターパンの本と一緒に、破滅へと。
もう一度空へ飛び立つ代わりに、二度と戻れない道へ向かって…。
目覚めたサイオン・了
※シロエがサイオン・チェックから逃げたルートは謎だよな、と前から思っていたわけで。
どう考えてもサイオンを使った脱出マジック、けれど本人には自覚ゼロ。自覚してればね…。
