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「出て来い! ぼくの呼び掛けに応えろ、ソルジャー・ブルー!!」
 そう叫んで闇雲に走りまくったジョミー。
 何処かにいる筈の諸悪の根源、奴を倒すといった勢いで。それは乱暴な足音を立てて。
 出て来やがれと、喧嘩上等だと突っ走っていたら…。
『ジョミー…』
 いきなり来たのが「頭の中に声」、迷惑極まりないミュウの特徴。思念波とかいうヤツ。
 しかし来たのは違いないわけで…。
(キターーー!!!)
 来やがったぞ、と立ち止まったら、続きが届いた。
『今、初めて自分の意志で、ぼくの心を読んでいる。…分かるか?』
 そう言われても、こっちが困る。そもそも心を読めはしないし、ミュウでもないから。
「…何処にいる!?」
 訊いているのに沈黙した相手、綺麗サッパリ無視された。売った喧嘩を華麗にスルーで、何処にいるかも喋らないのがソルジャー・ブルー。
(…あの野郎…!)
 真面目に上等、とガンガン走った、「多分、こっち」と思った方へ。
 何故だかそういう気分がするから、野生の勘が告げているから。「こっちですよ」と。
(馬鹿にしやがって…!)
 あのタコが、と走ってゆくジョミーはまるで知らない、きちんと心を読んでいることを。喧嘩の相手と目した相手の、「あのタコが」というソルジャー・ブルーの。


 せっせと勘で走って行ったら、突然、踏み付けた「変な」マンホールの蓋みたいなブツ。
(え?)
 なんだ、と思う暇もなくせり上がったソレ、あれよあれよという内に…。
(何処なんだ?)
 真っ暗なトコに出たんだけれど、と見回した部屋は深海のよう。暗すぎる中に青い光がぼんやり灯って、妙なスロープが伸びていて…。
(…あいつなのか!?)
 ソルジャー・ブルーか、とガン見したのがスロープの先に置かれたベッド。
 その上に誰か寝ているからして、恐らくソルジャー・ブルーだろう。さっきフィシスと名乗った女性が言っていたから。「ソルジャーは、とてもお疲れなのです」と。
(あいつが勝手に疲れたわけで…!)
 頼んでもいないのに、妨害してくれた成人検査。「助けた」も何も、余計なお世話。
 もしも邪魔されなかったならば、「不適格者」にはなっていないから。今頃は成人検査を無事にパスして、大人の仲間入りだったから。
(よくも人生、メチャクチャにしてくれやがって…!)
 この礼はキッチリしてやらないと、とスロープをズンズン歩いていった。「一発、殴る」と。
 疲れていようが、寝込んでいようが、「このジョミー様を、舐めるんじゃねえ!」と。
 そうしたら…。


(へ?)
 なんて奴だ、と見開いた瞳。
 ソルジャー・ブルーは、なんとブーツを履いたままでベッドに寝ていたから。それも半端な長さではない立派なブーツで。
(靴のままでベッド…)
 それは無いだろ、と呆れた行儀。アタラクシアの家で、何度叱られたか分からないから。
 懐かしい家で優しい母から、「靴を履いたままで、ベッドに寝ないで頂戴!」と。
 ブーツではなくて、スニーカーだったのに。…目の前のタコより、よっぽど可愛かったのに。
(それも、いい年こいた大人が…)
 ブーツなんか履いて寝てんじゃねえよ、と一方的に燃やした闘志。やっぱり殴る、と。
 けれども、ソルジャー・ブルーと来たら、「よっこいしょ」といった調子で起き上がって来て、悪びれもしないものだから。
「…あなたが…」
 殴り飛ばす前に確認しよう、と睨み付けたタコ、いやソルジャー・ブルー。
 ブーツで寝るようなタコの方では、まるで気にしていないらしくて、ベッドから下りると平然とこっちに近付いて来た。キモチ年寄りっぽい足取りで。
「…こうして会うのは初めてだね。…ジョミー」
 言い種からして、もう本当に「悪い」とも思っていないタコと分かるから、怒鳴ってやった。
「どうして、ぼくなんだ!」
 …どうして、あんな夢を見せたりしたんだ、ぼくはミュウじゃない!!


 ブチかます、と取ったファイティングポーズ、握り締めた左手の拳。
 なにしろミュウは弱いそうだし、利き手はマズイだろうから。後々の自分の立場を思えば、利き手は封じて、左で殴るのが吉だから。
 「どついたるねん」とばかりにグーで構えて、にっくきタコにガンを飛ばしたけれど。
 どのタイミングで一発かますか、闘志満々だったのだけれど。
(…え?)
 こいつ、いったい…、と「ブーツでベッド」以上に呆れた、目の前のタコの態度なるもの。
 本当に真面目に信じられない、これが初対面の相手に向かってやることか、と。
(……すっげえ態度……)
 ぼくのママでも怒るから、とポカンと眺めたヘッドフォン。…タコが頭に装着している、とても立派でデカイ代物。さぞや音質がいいのであろう、と容易に想像出来るブツ。
(…誰かと喋る時には、外せよ!)
 何を聴いてるのか知らないけれど、とブーツを履いて寝ていた以上にムカつく光景。
 いくら船では一番偉いのがソルジャーとはいえ、どう考えても舐められている。ヘッドフォンを頭にくっつけたままで、「初めてだね」も何もない。
 こうしている間も、ソルジャー・ブルーは、目の前のタコは…。
(…何かガンガン聴いているんだ…)
 こっちの喋りは適当に聞いて、お気に入りの曲か何かに夢中。そうでないなら、ヘッドフォンを外す筈だから。…そのままで客には会わないから。


 ブーツのままで寝ていたことも大概だけれど、ヘッドフォン。もう本当に最悪すぎるのがタコ、これが長だと言うから泣ける。ミュウどもの態度が悪い理由も分かってしまった。
(…トップがこれじゃあ…)
 誰の態度も右へ倣えで、礼儀も何も無いだろう。喧嘩を売って来たミュウの少年、あれも恐らく目の前のタコの日頃の言動、その薫陶を受けて育った結果。
 これは仕方ない、と嫌すぎるけれど理解した。こんな長なら、ああなるよ、と。
 だからMAXな怒りをぶつけた、諸悪の根源なタコ野郎に。ソルジャー・ブルーに。
「成人検査だって、あんたが邪魔しなければ、ちゃんと通過していたかもしれない!」
 そうしたら…。ぼくは、こんな所に来たくはなかった…!
 殴る気力も失せていたから、仰いだ天井。なんてこった、と。
 この期に及んでも、ヘッドフォンを外そうともしないのがタコ、何を言っても無駄すぎる相手。
 馬の耳に念仏だとか、馬耳東風だとか、それを文字通りに体現するタコ。
 「聞く耳なんかは持っていない」と、今も音楽鑑賞中。でなければ落語か野球中継、お笑い番組かもしれない。…そういうコンテンツがSD体制の時代にあるかどうかは、ともかくとして。
 まるで全く聞かないのがタコ、右から左へスルーどころか、「聞きませんよ」なヘッドフォン。
 どんなに怒りをぶつけてみたって、タコの脳内ではBGM以下の扱いだから。
 次の瞬間にもプッと吹き出し、もうケタケタと笑い出すかもしれないから。…聴いているのが、今をときめく最高の漫才とかだったなら。


 どうせ聞いてはいないんだろう、と諦めの境地で見詰めたタコ。あのゴージャスなヘッドフォンから流れているのは、イケてるロックか、はたまたヘビメタ、あるいはまさかのクラシック、と。
 無駄に美しすぎる顔だし、キャラ的に似合うBGMならクラシック。
 そうは言っても酷すぎる態度、どちらかと言えばパンクとかだよ、とか思っていたら…。
 ゆっくりと赤い瞳を瞬かせたタコ、そして静かに口を開いた。
「では…、どうしたい?」
「えっ?」
 あまりにも意外すぎる展開、一応は聞いていたらしいタコ。
 そういうことなら、とダメ元で大声で喚いてやった。今だってタコが聴き続けている、ロックのビートに負けないように。
「ぼくをアタラクシアに…、家に帰せ!」
 でないと殴る、と再び握った左の拳。此処まで態度の悪いタコなら、殴ってしまえ、と。
 そこで流れた沈黙の時間、タコが聴いているのは、やはりお笑いだっただろうか。丁度いい所に差し掛かったわけで、聴き逃せない山場なのだろうか、と睨んでいたら…。


「…分かった」
「あ?」
 マジで、と見据えたタコの表情、ちゃんと話を聞いていたのか。
 …時々、妙に間が開くけれど。
 今もやっぱり「だんまり」だけれど。BGMだか、お笑いだかに気を取られていると、この間が語っているのだけれど。…それは雄弁に。
(……この野郎……)
 こっちは人生かかってんだよ、と許せない沈黙がちょっと流れて、またタコのターン。
「…行くがいい。…リオ」
 ジョミーを送ってやってくれ、というタコの呼び掛け。「はい」と奥から現れたリオ。
『行きましょう、ジョミー』
 どうやら本当に帰れるらしくて、其処は非常にラッキーだけれど。
 飛び跳ねたいくらいに嬉しいけれども、タコはそれでもいいのだろうか?
(えっと…?)
 ぼくを無理やり連れて来たくせに、と歩きながら後ろを振り返ってみたら…。


(…ヘッドフォン…)
 そっちの方に夢中なわけね、と知りたくもない現状を把握。
 忌々しいタコは、ソルジャー・ブルーは、キッパリ横顔だったから。
 こちらに顔を向けさえしないで、ヘッドフォンごと自分の世界にドップリ浸っている最中。
(…はいはい、ぼくよりロックか、お笑い…)
 もう知るもんか、と船にオサラバすることにした。
(……ぼくは…ミュウなんかじゃない……)
 ブーツを履いたままでベッドに寝ていて、客と話す時もヘッドフォン。
 礼儀作法などあったモンじゃない、という最低なタコが統べているのがミュウだから。
 どんなに顔がイケていたって、肝心の中身がコケまくっているタコがソルジャーなのだから。
 そのタコは今もヘッドフォンを着けて、ベッドサイドで絶賛音楽鑑賞中。
 ヘビメタかパンクか、音楽でなければ落語か漫才、そういった感じ。間違えたって、格調の高いクラシックの線は有り得ない。…教養講座の類だって。


 勝手にしやがれ、と背を向けておいたソルジャー・ブルー。腹立たしいタコ。
(…どうして……こんなことに…)
 礼儀もクソも無いようなタコに、ロックオンされて拉致られたなんて、と泣きたい気持ち。
 なんとか家には帰れそうな具合になってきたけれど、最悪すぎるミュウの船。
 よりにもよってタコがソルジャー、と仏頂面で歩くジョミーは、夢にも思っていなかった。
 ヘッドフォンだと思い込んだブツが、本当は補聴器だったとは。
 記憶装置まで兼ねているヤツで、後に自分が受け継ぐことになるモノだとは。


 そしてジョミーに「行くがいい」と告げたソルジャー・ブルーも、まるで分かっていなかった。
 補聴器が激しく誤解されたことも、「人の話を聞かない奴だ」と思われたことも。
 礼儀知らずなタコ野郎だと、ジョミーが怒っていることも。
 事の起こりは、ほんの些細な勘違い。
 けれども誤解は解けなかったから、ジョミーはサックリ帰って行った。
 ほんの一言、説明したなら、きっと無かったろう悲劇。
 「これは補聴器なんだけれどね」と、ソルジャー・ブルーが頭を指差していたら。
 ブーツでベッドの件はともかく、補聴器だけでも、ヘッドフォンとは違うと言っておいたなら。
 …きっと世の中、こんなモノ。
 誤解の種など落ちまくりだから、ピーナツ入りの「柿の種」にも負けないレベルなのだから…。

 

        誤解された長・了

※アニテラで全くは説明されずに、突っ走っていたのがブルーの補聴器。かなり後まで。
 補聴器なんだと気付かなかったの、視聴者だけではなかったかもよ、という話…。





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(化け物の力も使いようだ)
 マツカは役に立つだろうな、とキースの唇に浮かんだ笑み。
 丁度いいモノが手に入ったと。
 ミュウの調査に出掛けるためには、お誂え向きと言ってもいい。
(可哀相だ、と助けてしまったが…)
 サムが、シロエが重なったから。
 怯え、震えるマツカの上に。
 「そうなれなかった」と叫んだ顔に、その声に。
 単なる気まぐれ、一匹くらいは生かしておいてもいいだろうと。
 ミュウを相手に戦うのならば、きっとマツカは役立つから。
 その辺の兵士などよりも。
 対サイオンの訓練を知らない者よりは、よほど。
 だからマツカを連れてゆこうという心づもり。
 グレイブが何を言って来ようが、あれを連れて、と。


 あと一時間もすれば出発、ジルベスター行きの船にマツカも乗せる。
 誰にも文句を言わせはしないし、マツカの力を役立てるために。
 そういうつもりでいるのだけれども…。
(……違うな……)
 本当の理由は別にあるのだ、と自分でも分かる。
 マザー・システムの目から逃れて、生きていたミュウ。
 劣等生だったと泣いていたマツカ。
 彼の向こうに、どうしても見えるミュウの少年。
 何処もマツカに似ていないのに。
 むしろ逆だと言っていいほど、気性が激しかったのに。
(…シロエ…)
 自分が処分した少年。
 E-1077の卒業間際に、マザー・イライザの命令で。
 「撃ちなさい」という冷たい声で。
 シロエが乗った船を撃ち落とした、自分の手で。
 追われていたのを匿ったほどに、話したいとも思ったシロエを。
 あの時は何も知らなかったけれど、メンバーズになってから聞かされたこと。
 シロエはMのキャリアだったと、ミュウだったのだと。


(偶然、成人検査をパスしただけ…)
 マツカと同じ。
 そうそういない筈の人間、シロエは例外の筈だった。
 二人目、三人目のシロエに出会うことなど、けして無いだろうと思っていた。
 けれど、出会ってしまったマツカ。
 シロエと同じに、成人検査をパスしたミュウ。
 見た目も中身も違うけれども、其処だけは同じ。
 それからマザー・システムが施す教育、それに順応出来ない所も。
(…二人目のシロエ…)
 まるで違うのに、似ているマツカ。
 何処が似ているかと問われたならば、境遇だけしか似ていないのに。
 シロエが辺りを焼く劫火ならば、マツカは消えそうな風の前の灯。
 劇薬のような毒を振りまく者がシロエなら、マツカは湖に落ちた一滴の薬。
 それほどに違う、二つの存在。
 なのに重なる、不思議なほどに。
 マツカの怯えた表情の上に、シロエの皮肉な表情が。
 ただ泣いていたマツカの涙に、勝ち誇ったシロエの笑い声が。


 だから助けた、と本当は分かっている真実。
 マツカを殺さず、生かした理由。
 それはシロエの身代わりなのだと。
 遠い日に自分が殺したシロエ。
 マザー・イライザに逆らえないまま、命を奪ってしまったシロエ。
 あの時、自分が強かったならば、シロエの船を見逃がせた筈。
 何処へなりと行けと、機首を返して。
 船のエネルギーが尽きる所まで、思いのままに飛んでゆくがいいと。
(…放っておいても、シロエの船は…)
 何処へも行けはしなかった。
 練習艇に積まれた燃料、それだけで地球は目指せないから。
 何処の星へも、辿り着くことは不可能だから。
 エネルギーが尽きた時点で、断たれてしまう酸素の供給。
 シロエの命は其処で潰えて、けして何処にも辿り着けない。
 永遠に宇宙を漂い続ける船と一緒に、シロエもまた。
(…なのに、私は…)
 その選択肢を選べなかった。
 あまりにも真面目すぎたから。
 マザー・イライザに、システムに疑問を抱いていたのに、漠然としたものだったから。
 今ならば分かる、今ならば出来る。
 シロエの船を見送ることも。
 何処までも飛べと、撃墜しないで機首を返すことも。


 かつて自分が出来なかったこと。
 思い付きさえしなかったことが、今なら出来る。
 シロエと同じに成人検査をパスして来たミュウ、それを生かしておくことが。
 マザー・システムの監視を振り切り、手元に隠しておくことが。
(私の側が何処よりも安全なんだ…)
 まさかミュウなど、生かすようには見えないから。
 冷徹無比な破壊兵器と、皆が言うような存在だから。
(…私にも情があるなどと…)
 誰も思うまいな、と苦い笑みが浮かぶ。
 「らしくないな」と、「キース、お前は何をしたい?」と。
 答えなら、とうに持っている。
 とうに出ている、「マツカを生かし続ける」こと。
 それが自分のやりたいこと。
 シロエのようにはさせないことが。
 上手く生かして、自分の役に立てて、マツカの評価も上げてゆくこと。
 マザー・システムが、けしてマツカを疑わぬよう。
 誰一人として、彼がミュウだと気付かないよう。
(……私なら出来る)
 マザー・システムを、軍を欺くことも。
 一生、マツカを匿い続けて、人類の世界に置いてやることも。


 もう決まっている自分の道。
 今日から自分はマザーを裏切る、ミュウを側に置いて。
 処分させずに、素知らぬふりで。
(…ミュウの調査に行くのだがな…)
 それとこれとは別の話だ、と自分の中に引いた一本の線。
 自分の側に入ったミュウは殺さない。
 誰にも殺させたりはしないし、命ある限り匿い続ける。
 それがマザー・イライザへの自分の復讐、マザー・システムに対する反抗。
 このくらいしか出来ないから。
 今の自分に出来そうなことは、まだそれだけしか無いのだから。
(…しかし、この線の向こうのミュウは…)
 敵だ、と断じる心もある。
 人類とミュウは相容れないから、ミュウは危険な生き物だから。
 追い詰めて狩り出し、処分すべきモノ。
 それもまた、自分の行くべき道。
 …今の所は。
 天が、歴史がミュウを選ぶまでは、ミュウに与する日が来るまでは。
 ミュウの前に自分が膝を折る日が、首を垂れて跪く時が訪れるまでは。


 けれど、自分はもう決めた。
 マザー・システムへの裏切りを。
 遠い日に「撃ちなさい」と命じたマザー・イライザ、あの機械への復讐を。
 弱いマツカを生かしておくこと、それが自分の一生の使命。
 システムにマツカを殺されたならば、また同じことの繰り返しだから。
 二人目のシロエを失くしてしまって、深い後悔に苛まれるだけ。
 だから負けない、この戦いには負けられない。
(…マツカが最後のミュウになろうが…)
 生かすのだから、と誓う相手は自分の心。
 マザー・システムに忠誠を誓った、同じ心に違う誓いを。
(私が生きている限り…)
 マツカは誰にも殺させない、と固めた決意。
 二人目のシロエは、もう沢山だと。
 それをこの目で見るくらいならば、ミュウをいくらでも殺してみせる。
 心の中に引いた一本の線の、向こう側にいるミュウならば。
 端から殺して焼き払ってみせる、それも自分の行く道だから。
 たとえ、矛盾していようとも。
 マツカを生かし続ける隣で、何万のミュウが死のうとも。


 線の向こうと、こちらの側と。
 恨み言なら、線を越えてから言うがいい。
 こちら側へと渡り、踏み越えて。
 それから責める言葉を浴びせて怒り狂うがいい、そう出来るミュウがいるのなら。
 この線を越えるミュウがいるなら。
 こちら側へと踏み越えたならば、そう、そのミュウは殺さない。
 自分自身に誓ったから。
 二人目のシロエは見たくないから。
(…本当に越えて来たならな…)
 そのミュウもまた、生かしておく。
 マザー・システムを裏切り、騙し、欺いて。
 「実に役立つ、いい部下です」と涼しい顔をし、軍の者もまた欺いてやる。
 そうすると、もう決めたから。
 遠い昔に出来なかったこと、それが出来るだけの強さを自分は持っているから…。

 

        生かしたいミュウ・了

※キースがマツカを見逃がした理由。どうしてマツカを生かしておくのか、ちょっと捏造。
 本当はもっと単純でしょうけど、せっかくシロエがミュウなんだから、と。…ダメ?





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「ママもブルーも…優しい人だった」
 ジョミーまで殺させはしない!
 そう言ってキースを攻撃したのがトォニィ、瞳がキラリと光ったけれど。
 容赦なくサイオンでキースの首を絞め上げながら、「苦しいか?」などと凄んでいるけれど。
 「お前は、簡単には死なせない」と決め台詞よろしくやっているのだけれども、ちょっと考えて頂きたい。
 いや、トォニィが考えるわけではなくて。
 もちろんキースの方でもなくって、考えるのはそう、其処の「あなた」で…。


 トォニィのママはカリナだからして、「優しい」はデフォ。
 SD体制始まって以来の自然出産児、トォニィを産んだくらいなのだし、優しくて当然。それに看護師だってやっていたから、「優しい人」で間違いはない。
 たまに「このクソガキャー!」とキレることが仮にあったとしたって、基本は優しいのが母親。
 我が子に向かって「クソガキ」だろうが、「ボケ!」だろうが。
 子供を小脇にガバッと抱えて、お仕置きにお尻パンパンだろうが。
 母親はそういうものだから。
 我が子可愛さで叱るものだし、時には手だって上げたりもする。
 言うことを聞かないクソガキだったら、「このクソガキャー!」と。
 そのクソガキがオンオン泣こうが、躾とばかりにお尻パンパン、それが母親。
 思い切り叱って叱り倒したら、「いい子ね」と涙を拭いたりして。「もうしないのよ?」と頭を撫でてやったりもして、ギュッと愛情たっぷりのハグ。


 ゆえに、カリナは優しいだろう。
 トォニィがキースに言った通りに、「優しい人」で合っている。
 幼かった日のトォニィがお尻を叩かれていても、「このクソガキャー!」とやられていても。
 その件については、誰も入れられないツッコミ。
 母親というのは優しいものだし、トォニィもそう感じて大きくなっただろうから。
 ところが此処に問題が一つ、カリナとセットで挙がったブルー。
 「ママもブルーも」とトォニィは言って、「優しい人」だと言い切ったわけで。
 つまりは、ブルーもカリナとどっこい、そのくらいにトォニィにとっては「優しかった人」。
 わざわざ仇を取りに行くくらい、「殺させはしない」と叫んだジョミーと並ぶくらいに、大切な人で「優しい人」。
 それがトォニィにとってのブルーで、注意すべきは其処だったりする。
 どうしてブルーが、カリナと肩を並べるくらいに「優しい人」になっているのか。
 グランパなジョミーに負けない勢い、それほど大事に思われているか。


 よく考えたら、誰もが気付く。
 「いったい、何処でトォニィは、ブルーに可愛がって貰いましたっけ?」と。
 誰もが突っ込む、「ブルーは優しい人かもですけど、トォニィに優しくしてましたっけ?」と。
 もちろん、接点だったら幾つか。
 キースの脱走騒ぎの時には、身体を張ってトォニィをキャッチしたのがブルー。
 お次はナスカがメギドの炎に襲われた時で、最初にシールドしたのがブルー。そのシールドを強化したのがトォニィたちで、共に戦った戦友ではある。
 最後は「この子たちを連れて行くのか?」と、「ぼくが時間を作る」と、ブルーが単身、メギドに向かって飛び去った時。
 その三つだけで、他には全く無いのがブルーとの接点なるもの。
 たったの三つで、それ以上でも以下でもないのが、トォニィにとってのブルーの筈で。
 三つだけしか無かった接点、どう転がったら「優しい人」が出来上がるのか。
 母親のカリナと並ぶくらいに、グランパなジョミーと同等に扱われるような人物に。


 どう考えても、「無いでしょ?」なのに。
 ブルーはトォニィを育てていないし、ジョミーよろしく懐かれてもいない。
 本当だったら、此処でトォニィが言うべき台詞は…。
 「ママは優しい人だった」なわけで、ブルーの名前は出て来ない筈。
 「優しい人」という括りでは。
 なんとしてでも、名前を出そうと言うのだったら、「強い人」とか、そういった感じ。
 ミュウの未来を守って散ったし、その言い方なら、多分、変ではないだろう。
 それとも「大いなる愛」でミュウを守って散ったからして、「優しい人」で押し通すか。
 もうゴリゴリと押し通すならば、それでなんとか通りはする。
 ミュウを守った優しい人だと、さながら聖母のような人だ、と。
 聖母だったら、実の母親ともガチで勝負が出来るから。
 ガチンコ勝負で負けはしないし、場合によっては母親に勝つ。


 けれど、本当にそれでいいのか、その論法で正解なのか。
 「ママもブルーも…優しい人だった」というトォニィの言葉、それを正しく読み解くには。
 カリナとガチでやっても負けない、「優しい人」というブルー。
 トォニィの大切なグランパのジョミー、彼ともタイマンを張れるほど大切に思われるブルー。
 「ミュウの未来を守った」聖母だったら、カリナと並んで立てるのか。
 トォニィを産んだ実の母親、「このクソガキャー!」とお尻パンパン、そんなカリナとブルーが同等の地位に就けるのか。
 「優しい人だった」と仇を討ちにゆくほど。
 ジョミーを同じに殺させはしないと、キースの首をジワジワと締めにかかるほど。


(…ブルーは優しい人だったんだ…!)
 なのに優しいブルーもママも、とキースの首を締めているトォニィ。
 こいつが殺してしまったんだと、ママも、ブルーも、と。
 未だに「ブルー」を連呼なわけで、ママと並んでブルーの名前。
 まるで接点は無い筈なのに。
 せいぜい三回、それだけしか会っていないのに…、と考えた「あなた」は間違っている。
 大切なことをサラッと忘れて、ケロリと忘れてしまったオチ。
 あれから八年以上経ったし、それも仕方がないけれど。
 毎日の萌えにリアルの生活、色々なことがあるのだからして、忘れても仕方ないけれど。


 DVDをお持ちだったら、最終話を観て頂きたい。
 それの終盤、お絵描きをするトォニィを。
 ソルジャーを継いだらしいトォニィ、彼が回想しているシーン。
 まだ幼かった頃のトォニィ、呼び掛ける「優しい母親」のカリナ。
「トォニィ、トォニィ…」
「ん?」
 トォニィは其処で振り返るわけで、「何やってるの?」とカリナの声。
「まあ…。上手に描けたわね」
 「パパ、ママ、ぼく…」と、順に絵を指してゆくトォニィ。
「グランパ!」
 そう得意そうに差し出した絵には、ジョミーが大きく描かれていて…。
 ジョミーの左側、後ろに「有り得ない」人物。
 どう見ても「笑顔」で寝ているのがブルー、恐らくは青の間のベッド。そこ以外には、ブルーのベッドは無いのだから。
 でもって、ブルーは「笑顔」で寝ていて、トォニィにとっては…。


(本当に優しかったんだ…!)
 ママもブルーも、と絶賛キースの首締め中のトォニィ、本当に優しかったのがブルー。
 まだ幼かったトォニィを連れて、ジョミーが青の間に出掛けた時に。
 「ブルー、この子が分かりますか?」と。
 昏々と眠り続けるブルーに、「母親のお腹から生まれた子供ですよ」と。
 そうやってジョミーが抱いていたトォニィ、ようやく「おむつ」が外れたばかり。
 「こんなに大きくなったんですよ」と、ジョミーはトォニィを差し出したわけで。
 「見えますか?」と両腕で抱いて近付けたブルーの胸元、悲劇は其処で起こってしまった。
 なんと言っても、子供だから。
 先日「おむつ」が取れたばかりの、本物の幼児だったから。
 ジョバーッとやってしまった「お漏らし」、それもブルーの胸元で。
 慌てたジョミーが引き戻す前に、もうジョバジョバと。
 ブルーの顔にもかかる勢い、上掛けだって、華々しく濡れてしまったわけで…。


(あの時、ブルーは…!)
 ママと同じに優しく許してくれたんだ、とトォニィは忘れていなかった。
 幼かった日の大失態を、その時に感じたブルーの思念を。
 ほんの微かなものだったけれど、「泣かないで」と。
 「子供なんだし、仕方ないよ」と、「ぼくは怒っていないから」と。
 ジョミーはオロオロしていたけれども、ブルーの思念に気付いてさえもいなかったけれど…。
(ぼくは確かに聞いたんだ…!)
 深い眠りの底にいたブルー、その人が紡いだ優しい声を。
 まるで母親のカリナさながら、それは優しく心に届いた思念波を。
 ブルーの思念は「いい子だね」と微笑んでいた。
 「このクソガキャー!」と怒鳴る代わりに、「泣かないで」と。


 それを確かに耳にしたから、感じたのだから、忘れない。
 「ブルーは優しい人だった」と。
 顔にかかるほど激しい「お漏らし」、上掛けどころか、ブルーの服まで濡れたのに。
 あの後、係が着替えさせるのを、泣きじゃくりながら見ていたのに。
(…あんなに優しかったブルーを…)
 こいつが殺した、とギリギリと締めるキースの首。
 ママもブルーも優しかったと、大切な人たちを殺した男、と。
 ジョミーまで同じ目に遭わせはしないと、その前にぼくが殺してやる、と。
 カリナもブルーも、誰よりも優しかったから。
 幼かった自分が「お漏らし」したって、二人とも怒りはしなかったから…。

 

        優しかった人・了

※いや、トォニィに「優しい人だった」と、言われるようなブルーでしたっけ、と。
 こっちの方が自然だよな、と浮かんで来たのが「お漏らし」事件。青の間に行ったならね!



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「捕まるな、ジョミー!」
 記憶を手放すな、とジョミーの前に降って現れたイケメン。まるで見覚えがないものだから…。
「君は?」
 そう尋ねたら「ブルー」と返った答え。「ソルジャー・ブルー」と。
 一方、記憶を消そうとしていた、テラズ・ナンバー・ファイブというヤツ。そっちは怒り心頭な様子、「消えなさい」と喚いているけれど。
「お前は邪魔です、消えなさい!」
「離れるなよ!」
 そう叫ぶなり攻撃を始めたのがブルー、ジョミーにはついていけない速度で。なんかスゲエ、と見ている間に…。
「あぁぁぁぁーっ!!!」
 その声を最後にズッコケていったテラズ・ナンバー・ファイブ、姿が消えたと思ったら。
「…やりすぎた…。脱出するぞ、ジョミー!」
「え?」
 なんだって、と訊き返したら…。
「想定外だ。ウッカリ気合を入れ過ぎたらしい。それじゃ!」
 後はよろしく、とブルーも消滅、気付けば前に迫っていた壁。もうぶつかるという勢いで。よく考えたら、アンダーグラウンド・コースターに乗っていたわけだから、たまらない。
「うわぁぁぁーーーっ!!!」
 さっき誰かも似たような声を上げていたよね、と思う間もなく突っ込んでいって…。


「う、うう…」
 アレが成人検査なのか、と取り戻した意識。壊れてしまったコースターの乗り物。
 どうにもヤバイ気配だからして、行くアテもなくトボトボと。あのブルーは夢の人だった、と。何度も夢で見ていた人間、けれども何が「やりすぎ」で「想定外」なのか。
 よく分からない、と歩いている間に、ナキネズミを見付けてケースを触ろうとしたら…。
 パリンと割れてしまったのがケースのガラスで、中から飛び出したナキネズミ。
(宇宙の珍獣…)
 まあ、儲けたと思っておくか、と抱き締めていると、「ジョミー・マーキス・シン」という声。
 振り返ったら物騒な男どもの集団、「君を不適格者として処分する」と。
 いきなり処分と言われても困る、銃をこっちに向けられても。
「不適格者って…。処分って、なんだよ!!!」
 殺す気かよ、と叫んだ所で、男たちの方の動きが変わった。「それは本当か!?」と、なんだか慌てている感じ。銃を向けたままで、あちこち連絡を取りまくった末に…。
「…すみませんでした。失礼しました」
 そう詫びるなり銃は仕舞われ、妙に低姿勢な男たち。「上からの命令でしたんで」と。


「え? ええ…?」
 どうなってるんだ、とキョロキョロしていたら、現れたのが一人の青年。
『お待たせしました、ジョミー。…リオと言います』
 はじめまして、と挨拶された。ついでにリオは、物騒すぎた武装集団を一瞥すると、「行け」とばかりに顎をしゃくった。「さっさと消えろ」と、「仕事して来い」と。
「…仕事? それに君、言葉が…?」
 喋れないのか、と訊いたら「はい」という返事。なんでもリオはミュウだとか。
『これは思念波です。…そして、この星は我々ミュウが制圧しました』
「制圧!?」
『はい。…お恥ずかしい話ですが…。ソルジャーが、ちょっとやり過ぎまして…』
 久しぶり過ぎて力加減を間違えたそうです、と説明された。テラズ・ナンバー・ファイブを脅すつもりが、思い切り破壊したらしい。木っ端微塵に。
「破壊したぁ!?」
『そうなんです。…なので、このアルテメシアは今日からミュウの勢力下に…』
 というわけですから、今日からよろしく、と小型艇で出掛けてゆくことになった。ミュウたちは計算を間違えたらしい。ソルジャー・ブルーの後継者として自分を迎え入れるつもりが…。
(…現役の間に倒しちゃったわけね…)
 ソルジャー・ブルーがテラズ・ナンバー・ファイブとやらを、と零れた溜息。
 こんな調子で大丈夫だろうか、自分の未来。ウッカリと敵を片付けるような、強烈すぎる人物の後継者などで。


 ガクブルしながら連れて行かれた船、シャングリラ。さながら巨大な白い鯨で、大勢のミュウが乗っている母船。
 よく分からない、と着いた格納庫では、横断幕が待っていた。「シャングリラにようこそ」と。
 偉そうな面子が並んでいる上、進み出たのがガタイのいいオッサン。
「ようこそ、ジョミー・マーキス・シン。…私はこのシャングリラの船長、ハーレイ」
 我々は、ソルジャー・ブルーが選んだ新しい仲間を、心から歓迎する。
 そんな具合で、本当に歓迎されてしまった船。「凄いミュウなんだって!?」と。まるで自覚が無いというのに、「凄い」ということになっていた。
(…この星は、ミュウが制圧したって言ってたし…)
 逆らったらマジでヤバイよね、と粛々として従った。ウッカリ者らしいソルジャー・ブルーに、後継者なのだと皆に紹介されても。サイオンとやらの猛特訓に駆り出されても。
 そうこうする内に、なんとか身についた「凄い」という前評判だったサイオン。
 これで立派に後継者だって出来たから、とソルジャー・ブルーが言い出したのが…。


「地球へ向かうですって!?」
 本気ですか、と焦ったけれども、ソルジャー・ブルーも、船の仲間もマジだった。知らない間に出来ていたのが協力者。地球の座標を引き出す過程で、世話になったのが縁とやらで。
「…はじめまして、セキです。こちらは息子のシロエ、皆さんと同じミュウだとか…」
 私は前はサイオニック研究所におりまして…、と出て来たオッサン、ミスター・セキ。やたらと恰幅のいい人だけれど、頭の方も切れるらしくて。
 彼が言うには、地球に向かう前に落とすべき拠点がE-1077というヤツ。教育ステーションだけれども、並みの場所ではないらしい。エリート育成用だからして、落とせばお得。
「なるほどね…。若くて優秀な人材が山ほど手に入るのか」
 それは是非とも頂かなくては、とブルーは乗り気で、ミスター・セキの一家も仲間に加えて船は宇宙へ飛び立った。目指すは地球。


 母なる地球へと向かう前にと、まずはE-1077。
 あっさりサックリ陥落したわけで、人材ゲットに入って行ったら、ミスター・セキと幼い息子がサクサク調べたメモリーバンク。
「隠し部屋があると?」
 そんなものが…、と首を捻ったブルー。なんでまた、と。
 けれども隠し部屋と聞いたら、お宝の匂いがプンプンするもの。「行ってきたまえ」と言われてしまって、シロエをお供に出掛けた先がフロア001だった。
「……これは……」
 シャングリラの女神、フィシスそっくりの女性の標本がズラリズラズラ。それとセットで男性がズラリ、その中の一つは生きているようで。
「えっと…。これ、あと少しで此処から出せるみたいだよ」
 三日ほどかな、とシロエがデータを眺めて言うから、急いで取って返した船。とにかくブルーの指示を仰ごうと。
 そうしたら…。


(…フィシスって、実はミュウじゃなくって…)
 機械が無から創ったんだ、と知ってしまった凄すぎる秘密。自分もシロエも、「黙っていろ」と緘口令を敷かれてしまった。ブルー直々に、「これは極秘だ」と。
 その上、ブルーが「行ってくる」と出掛けたフロア001。
 何をするのかと訝しんでいたら、三日後に「待たせた」とブルーが連れて来たのが、謎の少年。何処かで見たような顔だけれど、とガン見していると…。
「よろしく。…キース・アニアンだ」
 君より数ヶ月くらい年下だと思う、と自己紹介をやった少年。はて、と眺めて…。
「あーーーっ!!!」
 フロア001で見たアレじゃないか、と気が付いた。長かった黒髪をバッサリ切っていたから、印象が違って見えただけ。要はフィシスとセットだった彼で…。
「ジョミー、キースもミュウなんだ。…そういうことにしておいてくれ」
 ちゃんとサイオンを持っているから、とブルーの解説。確かにキースはミュウだった。シロエと同じに思念波も使うし、文句なしにミュウ。


(…だけど、アレって…)
 最初はミュウとは違ったんじゃあ…、と思うけれども、ブルーが正義。そういう船だし、疑問を持つだけ無駄というもの。この際、ミュウでいいだろう。
(…何か秘訣があるんだよね?)
 ただの人間をミュウにする方法、と考えながらも受け入れた現実。機械が無から創ったらしい、未来の超絶エリート候補。それがキースで、ミュウは物凄い人材をゲットしたわけで…。
「…キースは実に使えるねえ…」
 力技は君で、頭脳はキースで安心だね、と御満悦なのがソルジャー・ブルー。
 おまけにミスター・セキとシロエもいるから、地球を目指して、行け行けゴーゴー。
 「次はあそこだ」「その次はアレだ」と落としまくった人類の拠点、首都惑星ノアも戦わずして落ちる有様。無条件降伏と言うかもしれない。
 幾多の船を従えて宇宙を行くシャングリラは、とっくに無敵艦隊だから。
 「シャングリラが来る」と耳にしただけで、人類軍も国家騎士団も逃げてゆくから。


 そんなこんなで辿り着いた地球、残念なことに青い星ではなかったオチで。
「…いったい何の冗談なんだい?」
 こんなモノのために戦い続けて来ただなんて、とソルジャー・ブルーに言われても…。
「えっとですね…。ぼくもキースも、こんなモノのために…」
「…戦い続けて来たのだと思うが、違うだろうか?」
 それも巻き込まれてしまったわけで、とキースが見事に纏めてくれた。流石はエリート、それも機械が無から創った「ド」のつく秀才、いや天才。
 シロエもコクコク頷いているし、巻き込まれたのは誰もが同じ。
 そうは言っても、せっかく此処まで来たのだし…。
「…グランド・マザーは始末しますか?」
 やっときますか、とブルーに訊いたら、「やっておきたまえ」と鷹揚な返事。「地球は青い」と今日まで騙して来たのだからして、相応の報いを与えて来い、と。
 キースが言うには、宇宙に広がるマザー・ネットワークの破壊も必要。そっちはシロエと二人で片を付けておくから、もう遠慮なくやって来い、ということだから…。


「ぼくの人生、よくもメチャクチャにしやがってーーーっ!!!」
 気が付いたらミュウでソルジャー候補で、未だに候補のままなんだよーっ! と私怨を抱えて、殴り込みをかけた地球の地の底。
 怒りのパワーは半端ないから、もう一撃でブチ壊したのがグランド・マザー。
(…あれ?)
 もっと時間をかけてネチネチいたぶってやるつもりが…、と呆然となってしまった瓦礫の山。
 グランド・マザーは壊れてしまって、もうこれ以上は壊せないから。ウンともスンとも言わないガラクタ、ただのスクラップになっていたから。
(…ついウッカリ…)
 勢いだけでやってしまった、とタラリ冷汗、その瞬間に気が付いた。前に誰かが同じことをと、ぼくと同じについウッカリ、と。
(……ソルジャー・ブルー……)
 あの人がテラズ・ナンバー・ファイブを相手についウッカリ、と気付いたオチ。
 それでは自分も同じだったかと、「ついウッカリ」はミュウのお家芸だったのか、と。


(……ついウッカリで……)
 ラスボスを倒すのがミュウの伝統、知らない間に自分も染まっていたらしい。ミュウたちの船で暮らす間に、「ついウッカリ」なソルジャー・ブルーの後継者として頑張る内に。
(…なんか、色々、情けなさすぎ…)
 あんまりだよーーーっ!!! と怒鳴ったはずみに、爆発したのがサイオンで…。
「……本当にすみませんでした……」
 地球には当分、誰も近付けそうにないです、と謝る羽目に陥った。
 何も棲めない死の星だった地球は、今や火の星だったから。もうバキバキとあちこち地割れで、火山も噴火しまくりだから。
「…仕方ないだろう。もう、ぼくたちに出来ることは何も無い」
 百八十度回頭、とブルーが命じて、シャングリラは地球を後にした。手の付けようもない状態になったけれども、運が良ければ…。
「落ち込むな、ジョミー。ぼくとシロエの計算では…」
 いずれは昔のような青い地球に戻る可能性もゼロじゃない、と慰めてくれたのがキース。それに望みをかけることしか出来ないだろう。…今となっては。


(…ぼくが一番、酷かったわけ…?)
 ついウッカリが、と泣けるけれども、「ついウッカリ」は、お家芸だから。
 ブルーが「君には話しておこうかな」と思念でコッソリ、それを聞いたら、フィシスがミュウに変化したのも「ついウッカリ」だったらしいから。
(…フィシスの地球が見たい、と思って通い続けて、ガン見で…)
 ついウッカリと「この子が欲しい」と考えたらミュウになっていた次第。
 同じ手を使ってキースもミュウにしたというわけで、「ついウッカリ」は最強だった。
(…それで地球までブッ壊したわけね…)
 ついウッカリと、このぼくが…、と嘆くしかない破壊力。まさかの地球をウッカリ破壊。
 けれども地球には行って来たから、このまま行くしかないだろう。
 宇宙はすっかりミュウのものだし、グランド・マザーもマザー・システムも、とっくの昔に…。
(ついウッカリと壊しましたよ…!)
 ミュウの伝統でお家芸ですから、と開き直りのソルジャー候補。
 そう、あまりにも早く地球に行ったから、未だにソルジャー候補のまま。ソルジャー・ブルーも健在なままで、シャングリラは今日も旅してゆく。
 地球を後にして、ジョミーを乗せて。キースもシロエも、みんな纏めて乗っけたままで。
 「ついウッカリ」なミュウの母船だから。
 ついついウッカリ地球まで壊した、そんなジョミーが乗る船だから…。

 

         勢いで地球へ・了

※テラズ・ナンバー・ファイブ戦のブルーは元気すぎたよな、と思い返していたアニテラ。
 「1話の感想はそれに尽きる」と。…そしたらこういうネタになったオチ、勢いで地球へ。





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(嫌…。嫌だ…!)
 来るな、と叫んでも消えてくれない忌まわしい機械。
 子供時代の記憶を消してしまった、テラズ・ナンバー・ファイブの姿。
 苦しみ続けるシロエは知らない、自分が何処にいるのかを。
 これは夢ではないことを。
 フロア001、進入禁止セクションに足を踏み入れた報い。
 囚われた末にサイオン・チェックの最中だとは。
 本当に記憶の中を探られ、掻き回されているのだとは。
(…助けて!)
 何度目に叫んだ時だったろうか、不意に姿を見せた少年。
 金色の髪に赤いマントの、幼かった頃に出会った少年。
(ピーターパン!!)
 きっと彼なら助けてくれる、と思った途端に軽くなった身体。
 まるで翼が生えたかのように。
 ピーターパンと一緒に空へ舞い上がって、何処までも飛んでゆけるかのように。


(…今の…)
 飛べた、と見回した瞳に映った、自分のカメラ。
 それを手にして何処へ行ったのか、少しも思い出せないけれど。
(ぼくのカメラ…!)
 取り戻さなきゃ、と思ったら宙を飛んで来たカメラ。
 腕の中にストンと収まるように。
 それを抱き締め、ホッとついた息。
(良かった…)
 カメラにはケーブルが繋がれたままで、誰かが見ようとしている中身。
 大切なものが入っているのに。
 けして中身を見せるわけにはいかないのに。
(このケーブル…)
 ケーブルを抜いて捨てるのがいいか、中身を抜いてカメラを捨てるか。
 一瞬迷って、選んだ中身。
 それさえあったら、もうカメラには用は無いから。
 中のチップが大切だから。


 そして抜き出したカメラのチップ。
 もう要らない、と放り出したカメラ、それは床へと落ちたから。
(落ちちゃ駄目だ…!)
 せっかく空を飛べたのに、とトンと蹴った宙。
 飛ぼうと、ぼくの部屋まで、と。
 此処にいたなら、また捕まってしまうから。
 ピーターパンが飛ばせてくれた空から、床に引き戻されるから。
 引き戻されたら、待っているのは恐ろしい機械。
 テラズ・ナンバー・ファイブの手先で、頭を、記憶を掻き回す悪魔。
 だから逃れた、空へ、部屋へと。
 きっと飛べると、ピーターパンが来てくれたから、と。
(ぼくの部屋まで…!)
 飛べる筈だよ、と宙を蹴って飛んで、ストンと床に着いた足。
 其処は自分の部屋だった。
 明かりは灯っていなかったけれど。
 薄暗い闇に覆われたままで、空気も冷えていたけれど。


(…ピーターパン…?)
 来てくれたよね、と思うのに、誰もいない部屋。
 自分一人が立っているだけ、制服さえも失くしてしまって。
 手の中にはチップ、カメラに仕込んでいた筈のもの。
(…どうして此処に?)
 それにカメラは、と俄かに覚えた激しい恐怖。
 自分の身に何が起こっていたかを、思い出したから。
 捕まったのだと、フロア001で、と。
(それじゃ、どうして…?)
 自分は此処にいるのだろう?
 どうやって逃れて来られたのだろう、あの悪魔たちが潜む部屋から。
 頭を、記憶を掻き回す機械、其処に囚われていた筈なのに。
 自分の力で出られるわけなど、無い筈なのに。
 カメラのチップにしても、そう。
 どうやってそれを取り戻せたのか、何故、手の中に持っているのか。
(…覚えていない…?)
 何も。
(…誰がぼくを…?)
 分かるわけがない。
 けれど、確かに逃げ出した自分。此処は自分の部屋なのだから。


 考えても思い出せないこと。
 何処だったのかも謎の監獄から、気付けば此処に戻っていた。
 奪われた筈の、カメラのチップを取り戻して。
 悪魔のような機械の牢獄、其処から自由の身になって。
(……ぼくは、どうして……)
 何も覚えていないけれども、一つだけ、今も確かなこと。
 きっと悪魔は諦めていない、自分を捕えて苦しめることを。
 カメラのチップを取り上げることも。
(…隠さなきゃ…)
 自分が見付けた、キースの秘密。
 それを収めた大切なチップ、これを誰にも捜せない場所へ。
 何処へ、と考えなくても分かる。
 いつも自分と一緒だった本、ピーターパンの本がいい。
 あの本はいつも一緒だから。
 どんな時でも、きっとこれからも、けして自分は離さないから。


(ピーターパン…)
 もう顔さえも思い出せない、両親がくれた大切な本。
 この本を失くす時があるなら、離れる時が来るのなら…。
 それは自分が死んだ時だけ、そうだと心に決めている本。
 此処に隠せば、離れない。
 きっと誰にも見付からないから、この中に隠しておくのがいい。
(…ごめんなさい…)
 ぼくを許して、と剥がしたピーターパンの本の見返し。
 「セキ・レイ・シロエ」と、自分の名前が書いてある箇所。
 其処を剥がして、隠したチップ。
 元通りにそっと貼って戻して、見返しの下に。
(これで大丈夫…)
 もう見付からない、と安堵したけれど。
 チップは本に隠せたけれども、此処にいたなら、来るだろう悪魔。
(隠れなきゃ…)
 逃げ切らなくちゃ、と潜り込んだ床下。
 前に其処から下へと潜って、ステーションの奥まで入ったから。
 通風孔を伝って行ったら、きっと何処かへ出る筈だから。


 逃げてみせる、と入って隠れて、やり過ごした保安部隊の捜索。
 けれど分からない、自分が此処まで逃げられた理由。
 あの悪魔から。
 地獄のような牢獄から。
 カメラのチップも無事に取り戻して、部屋まで戻って来られた理由。
(…ぼくは、どうやって…?)
 分からないけれど、まるで見当もつかないけれど。
 きっとこうだ、と立てた推論。
 あの部屋で何か騒ぎが起こって、それに乗じて逃げ出せた。
 けれども熱にうかされていたか、でなければ混乱していたか。
 この部屋に戻るまでの記憶を失くして、今、此処にいるに違いない。
 だから追われているのだと。
 保安部隊が捜していると、姿を隠した逃亡犯の自分を、と。
(逃げなくちゃ…)
 そしてキースにこのチップを、と抱えた本。
 大切なピーターパンの本。
 あいつにチップを突き付けてやると、これを見ればキースも終わりだと。
 澄ましたエリートの顔は崩れて、きっとパニックになるだろうと。


 そうするまでは捕まらない、と上げた通風孔の蓋。
 此処を抜けてと、なんとしてでもキースに会ってこれを見せねばと。
 そのために自分はこんな目に遭って、今も追われているのだから。
 地獄の責め苦を受けたのだから。
(キース・アニアン…)
 見付けてやる、と進むシロエは、まるで知らない。
 自分が何をしたのかを。
 どうやって悪魔の手から逃れて、自分の部屋まで飛んだのかを。
 カメラのチップを取り戻せたのも、空を飛べたのも、全部自分のサイオンなのに。
 夢で出会ったピーターパンから、その切っ掛けを貰ったのに。
 ピーターパンはミュウの長だから。
 サイオンを使った思念波通信、シロエはそれに晒されたから。


 呼応するように目覚めたサイオン、その力で空へ飛び立った。
 瞬間移動で機械の壁をすり抜け、カメラからチップを抜き取って。
 宙を蹴って飛んで、自分の部屋へ。
 そうして移動したというのに、自分では覚えていなかった力。
 覚えていたなら、変わったろうに。
 サイオンを自由に扱えたのなら、その後の運命も変わったろうに。
 けれど、シロエは気付かないまま。
 目覚めた力を使いこなせたら、呼べていただろうピーターパン。
 直ぐ其処に来ていた白い鯨を、シャングリラという名のミュウの箱舟を。
 かつて自分が乗り損ねた船、それに乗ることも出来ただろうに。


(…キース・アニアン…)
 あいつ、とシロエは追い続ける。
 通風孔の中を這って進んで、キースが来そうな場所へ出ようと。
 ピーターパンの本を抱えて、チップを仕込んだ本を手にして。
 もしもキースを忘れたならば、彼の代わりに、ピーターパンを思い出したなら…。
(…ぼくは必ず…)
 キースの奴を、と憎む代わりに、子供の心を捕まえたなら。
 ネバーランドに行きたかった夢を、ピーターパンを追っていたならば。
 きっと全ては変わるのに。
 ピーターパンは、白い鯨は、直ぐ近くまで来て飛んでいるのに。
 今、呼んだならば、それは必ず、シロエを救いに来てくれるのに。
 気付かないから、ただひたすらに進んでゆく。
 ピーターパンの本と一緒に、破滅へと。
 もう一度空へ飛び立つ代わりに、二度と戻れない道へ向かって…。

 

       目覚めたサイオン・了

※シロエがサイオン・チェックから逃げたルートは謎だよな、と前から思っていたわけで。
 どう考えてもサイオンを使った脱出マジック、けれど本人には自覚ゼロ。自覚してればね…。





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