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(…ぼくは若いと思うんだけど…)
 一応、若い筈なんだけど、とジョミーの自信は揺らいでいた。
 気付けば「祖父」になっていたから。
 今の時代は死語な「グランパ」、そういう名前で呼ばれる自分。
 それは素敵に若い者から。
 トイレトレーニングの真っ最中のような子供から。
(…グランパって…)
 グランパって何だよ、と叫びたいけれど、とうに叫んでしまった後。
 その名前を聞いた瞬間に。
 最初の自然出産児のトォニィ、彼に「グランパ!」と懐かれた時に。
(…ぼくのことだと思わなくって…)
 グランパは何処か、と見回した次第。
 肩に乗っているナキネズミかと、レインに渾名がついたのか、と。
 けれど、真っ直ぐ見ていたトォニィ。
 「グランパ!」と見上げてくる瞳。
 何かが変だ、とトォニィの側にいたカリナに訊いた。「グランパって?」と。
 そういう言葉は初耳だけれど、グランパとは何のことだろうか、と。


 質問しつつも、ちょっぴり生まれていた期待。
 自分が知らない言い方なだけで、「グランパ」は「イケメン」の意味だとか、と。
 カリナやユウイは若い世代で、シャングリラで育った子供たち。
 彼らの間だけで通じるスラング、そういったものもあるかもよ、と。
(癪だけど、ぼくより若いから…)
 スラングだって充分、有り得る。
 今の「グランパ」もそれの一つで、イケてる人には「グランパ!」かも、と。
 胸を膨らませて待っていたのに、「それは…」と言い淀んでしまったカリナ。
 やはりスラングに違いない。
 自分たちだけの間の言葉がバレてしまった、とカリナは焦っているのだろう。
 そう思ったから、「どういう意味?」と笑顔で尋ねた。
 「ぼくのことなら気にしないで」と、「ぼくは怒ったりしないから」と。
 若い世代だけの言葉があっても、細かいことは気にしない。
 ゼルたちのような頑固な年寄り、何かと言ったら「若い者たちは…」と嘆く連中。
 あんな風には出来ていないし、頭の出来も柔らかいから。


 そう、怒る気はまるで無かった。
 「グランパ」の意味が何であっても、若い世代の発想だから。
 赤いナスカを開拓するには、柔軟な頭も要るのだから。
 それでワクテカ、「どういう意味かな?」と待っていた答え。
 「グランパ」の意味は「イケメン」だろうかと、あるいは「お兄ちゃん」かも、と。
 胸がワクワク期待MAX、カリナの顔を見詰めていたら…。
「……おじいちゃん、です…」
「え?」
 おじいちゃんって、とキョトンと見開いた瞳。
 それは「年寄り」のことだろうかと、昔話やお伽話に「昔々…」と出て来るヤツ。
 「ある所に、おじいさんと、おばあさんが…」と始まる、お約束。
 グランパはソレで、もしや自分が「おじいちゃん」かと。
 嘘だよね、と指差した自分の顔。
 「おじいちゃん?」と。
 そしたら、「ごめんなさい!」と、ガバッと頭を下げたのがカリナ。
 「ソルジャー、本当にごめんなさい」と。
 もうトォニィは覚えてしまって、グランパで定着しちゃったんです、と。


 よりにもよって、「おじいちゃん」。
 「グランパ」の意味はイケメンどころか、「ジジイ」と宣告されたのも同じ。
 だから愕然としつつ叫んだ、「グランパって何だよ!」と。
 怒らないとは言ったけれども、それとこれとは別次元。
 どうして自分が「グランパ」なのか、「おじいちゃん」と呼ばれることになるのか。
 其処の所を確認しないと、どうにも納得出来ない「グランパ」。
 自分はまだまだ若い筈だし、「おじいちゃん」な年ではないのだから。
 これがソルジャー・ブルーだったら、「おじいちゃん」でもいいのだけれど。
 見かけはともかく中身が年寄り、誰が聞いても「おじいちゃん」だから。
(…絶対、何かの間違いだって…)
 トォニィが覚え間違っただけ、と考えたのに。
 そうだと自分に言い聞かせたのに、カリナの答えはこうだった。
「…訊かれたんです、トォニィに…。パパとママのパパは誰なの、って…」
「パパ?」
「はい。トォニィのパパはユウイで、ママは私になりますから…」
 その私たちのパパとママは、と質問されたものですから、と謝ったカリナ。
 つい出来心で、「ソルジャーなのよ」と教えました、と。


 カリナが言うには、トォニィにとっては「いるのが当然」のパパとママ。
 まだ幼くて、世の中の仕組みを知らないから。
 もちろん出産も知りはしないし、管理出産などは理解の範疇外。
 それで無邪気にカリナに質問、「ママたちのパパとママは誰なの?」と。
(…スルーしといてくれればいいのに…)
 心の底からそう思うジョミー。
 なにも真面目に答えなくてもと、あんな小さな子供に、と。
 けれど、とっくに手遅れな今。
 カリナは真剣に考えた末に、トォニィに教えてしまったから。
 「私たちの生みの親って、ソルジャーよね?」と。
 「命を作ろう」と決めた自然出産、それに賛成してくれたから。
 とはいえ、「おじいちゃん」は流石にどうかと、一応、思いはしたらしい。
 そう思ったならやめてくれればいいのに、つい出来心。
 魔が差したとでも言うのだろか、教えたくなった「おじいちゃん」。
 今の世の中、「おじいちゃん」はとうに死語だから。
 何処を探しても「祖父」はいなくて、いたら「オンリーワン」だから。


(…オンリーワンでも…)
 キツイんだけど、と抱え込みたくなる頭。
 この年でもう「孫」がいるのかと、自分はトォニィの「祖父」なのか、と。
(グランパって言い方まで、探して来て貰っちゃって…)
 その気遣いが余計にキツイ、と泣きたいキモチ。
 「おじいちゃん」ではあんまりだろう、とカリナが教えた言葉が「グランパ」。
 ヒルマンに頼んで、データベースで探して貰って。
 「おじいちゃん」よりはソフトに、と。
 ちょっとお洒落に「グランパ」の方がいいだろう、と。
 お蔭でトォニィが覚えた「グランパ」、「次に会ったら呼ばなくちゃ」と。
 「ぼくのおじいちゃんはソルジャーだけれど、ぼくのグランパなんだもの」と。
 そして炸裂した「グランパ」呼び。
 無垢な笑顔で、明るい声で。
 「グランパ!」と。
 ソルジャーはぼくの「おじいちゃん」だと、だから「グランパ」と呼ぶんだよ、と。


 怒らない、と言ってしまったから、どうにもならない「グランパ」呼び。
 今の御時世、確かに「祖父」など何処にもいないし、もう文字通りにオンリーワン。
 カリナが「おじいちゃんよ」と教えた気持ちも、分からないではないけれど…。
(…この年で孫で、おまけに宇宙の何処を探しても…)
 おじいちゃんは他にいないんだ、とドッと百ほど老け込んだ気分。
 いやいや、二百か三百だろうか、それとも四百くらいだろうか。
(……ブルーでも、おじいちゃんじゃないのに……)
 ぼくがグランパ、と尽きない「グランパ」なジョミーの嘆き。
 いくらなんでも惨すぎるから。
 本物のジジイのブルーがいるのに、若い自分がオンリーワン。
 宇宙にたった一人の「グランパ」、「おじいちゃん」になってしまったから。
 SD体制の時代が始まって以来、初めての「おじいちゃん」だから…。

 

        最初のグランパ・了

※アニテラではスルーされてたのが、「グランパ」呼びの理由。「原作を読め」と。
 「初めての孫」がトォニィだったら、ジョミーが初の「おじいちゃん」になるよね…。






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(…こんな死に方は御免蒙りたいね)
 とんでもないや、とシロエが眺めた教科書。
 宇宙空間に浮かぶE-1077ならではの教育内容、船外活動。
 真空の宇宙空間で行う様々な演習、それに訓練。
 チームメイトのミスでも充分、起こり得る事故死。
 自分のミスのせいではなくて。
 一緒にチームを組んだ人間、そいつのミスで。
(足を引っ張られるくらいなら…)
 マシだけどね、と思う無能な同級生たち。
 「リーダーは俺だ」と威張る者やら、その取り巻きやら。
 彼らの中の誰かが犯してしまったミス。それで失われる自分の命。
 とても堪ったものではないから、これからも好きにやらせて貰おう。
 あんな輩のミスで殺されては堪らないから。
 そうなるよりかは、まだ自分で…。
(首でも括った方がマシだよ)
 でなければ、毒を呷るとか。
 保安部隊の銃を奪って、それで頭を撃ち抜くだとか。
 そういう死ならば、自分のせい。
 自分の意志で選ぶ死だから、どう死んだってかまわない。
 チームメイトに殺されるよりは、その方がずっとマシというもの。
 この部屋の中で、首を括ってぶら下がっても。
 床に血反吐を吐いて死んでも、脳漿を派手に撒き散らしても。


 遥かにマシだ、と考えた自殺。
 チームメイトのミスで死ぬより、よほどマシだし、納得して死ねる。
 自分で選んだ運命なのだし、どう死のうとも。
 死体と化してしまった自分を、他の者たちが眺めようとも。
 まるで何かのイベントのように、騒ぎ、楽しむ野次馬たちが来てもかまわない。
 チームメイトのミスなどのせいで、同じ結果になるよりは。
 「シロエが死んだ」と騒ぎになって、死体を囲まれるよりは。
 ずっとマシだ、と心で繰り返したら、ふと掠めた思い。
 「死ぬ」ということ。
 今まで思いもしなかったけれど、そういう道もあったのか、と。
 人間は生きてゆくだけではなくて、死んでゆくことも、その宿命。
 いつか、何処からか「死」は訪れるし、選び取りさえ出来るものが「死」。
 選ぼうとは思わないけれど。
 何が何でも生き抜かなければ、地球には辿り着けないけれど。
(…死んでしまったら、国家主席にもなれないから…)
 もう取り戻せない、失った記憶。
 だから死ねない、いつか機械に命じるまでは。
 「ぼくの記憶を、ぼくに返せ」と。
 そして「止まれ」と、グランド・マザーを停止させるまでは。


 自殺なんかはするもんか、と握った拳。
 死んでたまるかと、「チームメイトに殺されるよりはマシなだけ」と。
 自ら選ぶ「死」というものは。
 他の誰かに殺されるよりは、自分の意志で死にたいだけ。
 同じ「死」でも、遥かに価値があるから。
 自分で選んだ道がそれなら、押し付けられるよりも心地良いから。
 死体になることは変わらなくても。
 其処で命が尽きることには、何の違いも無かったとしても。
(…誰かの間抜けな、ミスで殺されるよりかはね…)
 それくらいならば自分で死ぬよ、と思ったけれど。
 ずっとマシだと考えたけれど、こうして「生きている」自分。
 成人検査で子供時代の記憶を奪われ、その復讐のためにだけ。
 いつか記憶を取り戻そうと、がむしゃらに努力し続けるけれど。
 トップエリートに昇り詰めようと、メンバーズに、それに国家主席に、と思うけれども…。
(……それよりも前に……)
 今よりも前に「死んで」いたなら、どうだったろう?
 機械に記憶を奪われる前に。
 E-1077に連れて来られるよりも前に、エネルゲイアにいた頃に。


 そういう道もあったんだ、と今頃、思い知らされたこと。
 養父母が大切に育てていたって、死んでしまう子供はゼロではない。
 病死とか、事故死。
 そちらの道を進んでいたなら、自分は此処にはいないのだけれど。
 セキ・レイ・シロエはとうの昔に、死んでしまっている筈だけれど…。
(…そうなっていたら…)
 失くさなかった、と気付いた子供時代の記憶。
 目覚めの日よりも前に死んだら、両親も故郷も、しっかりと胸に抱えたまま。
 何一つ欠けてしまいはしないで、そのまま空へ飛べたのだろう。
(…子供は、死んだら…)
 天使になると何処かで聞いた。
 それが何処かは覚えていないし、誰に聞いたのかも覚えていない。
 父だったのか、それとも母か。あるいは何かの本で読んだか。
(ぼくが子供のままで死んだら…)
 両親は嘆き悲しむけれども、自分は幸せだったろう。
 ネバーランドへ旅立つ代わりに、背中に白い翼を貰って。
 「見て、飛べるよ!」と、はしゃぎ回って。
 ピーターパンにだって会いに行けると、きっと無邪気に喜んだだろう。
 両親の側を飛び回って。
 「ぼくはこんなに幸せなんだし、泣かないで」と。
 ネバーランドまで飛んで行けるよと、「ぼくは天使になれたんだよ」と。


 考えたことも無かったこと。
 幸せだった子供時代に、そのままで時を止めること。
 心臓の鼓動が止まってしまえば、「セキ・レイ・シロエ」は子供でいられた。
 大好きな両親を覚えたままで。
 故郷の風も光も空気も、何一つ忘れてしまいはせずに。
 大切な思い出を全て抱えて、舞い上がれた空。
 真っ白な天使の翼を広げて、永遠へと。
 子供が子供でいられる国へと、ネバーランドのそのまた向こうの天国へと。
 天使だったら、この上もなく自由だったろう。
 何処へ飛ぶのも、何処へゆくのも。
 きっと地球へも飛んでゆけたろう、天使の翼だったなら。
 白い翼を貰っていたなら、今頃は自由だった筈。
 大好きな両親の側を飛ぶのも、故郷の空を飛び回るのも。
 雲の隙間から地上を覗いて、「オモチャみたい」と町や車を眺めるのも。
(…天使の梯子…)
 そう呼ぶのだと聞いた、雲間から地上に射す光。
 天使が其処を通る梯子だと、天国と地上を行き来するためにあるのだと。
 あれを昇って雲の上へ行って、滑り台みたいに滑って下へ。
 両親に会いたくなった時には、天使の梯子で下りてゆく。
 ネバーランドに行きたくなったら、天使の梯子を昇って空へ。
 真っ白な天使の翼で羽ばたき、ピーターパンと一緒に飛んでゆく国。
 遊び疲れて眠る時には、フカフカだろう雲のベッドに転がって。


(……死んじゃってたら……)
 両親を好きなままでいられた。
 もちろん今も大好きだけれど、もう覚えてはいない顔。
 思い出せないから、何処で出会っても分からない。
 けれど、天使になっていたなら、両親の顔はぼやけなかった。
 故郷も家も覚えていられた、忘れたりせずに。
 幸せな子供のままでいられた、背中に白い翼の子供。
 「パパ、ママ!」と側を飛び回って。
 「シロエがいない」と嘆き悲しむ両親、大好きな二人に呼び掛けられた。
 自分の声は届かなくても。
 両親は泣いたままだとしたって、きっと自分は今より幸せ。
 何一つ失くさなかったから。
 命と身体は失くしたけれども、記憶は持っていられたから。
(……こんな所で、誰かのミスで……)
 命を落としてしまうよりかは、幸せすぎる自分の最期。
 ピーターパンの本で憧れた永遠の子供、自分はそれになれるのだから。
 真っ白な天使の翼を広げて、いつまでも子供なのだから。
 どうしてそちらへ行けなかったろう、この道へ来てしまったろう。
 もしも自分で選べたのなら、あそこで時を止めたのに。
 両親に手を握って貰って、「さよなら」と告げて。
 涙を流すだろう両親、誰よりも好きな人たちに「パパ、ママ、大好き」と。
 最後にそれを言えたら良かった、そして天使になれば良かった。
 自分で選んで良かったのなら、選び取ることが出来たなら。
(…でも、ぼくは…)
 成人検査がどんなものかも知らなかったし、きっと選ばない選択肢。
 素敵な未来があると信じて、機械に騙されたのだから。
 成人検査に全てを奪われ、此処にポツンと一人きりだから。


 けれど、と頬に零れた涙。
 自分が天使になっていたなら、本当に幸せだった筈。
 両親も故郷も何も失くさず、もう永遠に子供のまま。
(……神様は、どうして……)
 ぼくを死なせてくれなかったの、と思うけれども、もう戻れない。
 自分は天使になり損ねたまま、今も此処に生きているのだから。
 天使になり損なった子供は、こうして生きてゆくしかない。
 事故で命を落とさないように、誰かの間抜けなミスで殺されないように。
 今となっては、生きて世界のトップに立つしか道は無いから。
 失くした子供時代の記憶は、そうしないと戻って来ないのだから…。

 

          なり損ねた天使・了

※目覚めの日までに死んでいた場合、両親の記憶はそのままだよね、と思ったわけで。
 その発想に至るまでのシロエは、強気な今のシロエという。天使になりたいのもシロエ。






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(この若造が…!)
 よくも調子に乗りやがって、とソルジャー・ブルーが睨んだキース。
 こうしてメギドまで来たのだけれども、よりにもよって拳銃などで撃たれるとは、と。
 最初から死は覚悟していても、想定外とも言える展開。
(…メギドもろとも散るというのと、こいつの獲物になるのとでは…)
 雲泥の差というヤツで、と歯軋りしたって、とうに手遅れ。弾を一発食らった時点で。
 なにしろ元が虚弱な肉体、おまけに尽きかけていた寿命。
 メギドでも散々使った体力、其処へダメージを受けてしまったら、不可能なのが反撃なるもの。もう少しばかり元気だったら、キースの頭を吹っ飛ばせるのに。心臓だって止められるのに。
(……だが、しかし……)
 ただで殺されてたまるものか、とシールドを張りつつフル回転させている頭脳。
 なんとかして一矢報いてやると、野蛮な男に天誅なのだ、と。
 そうしたら…。
「反撃してみせろ! 亀のように蹲っているだけでは、メギドは止められんぞ!」
 撃ちながら挑発したのがキースで、その瞬間に閃いたこと。「それだ!」とピンと頭の中に。
 このブルー様を「亀」呼ばわりとは、なんとも無礼な男だけれど…。
(なるほど、亀か…)
 ちょっと捻れば楽しいことに、と唇に浮かべた不敵な笑み。
 キースは気付いていないけれども、「テメエ、一生、後悔しやがれ」と。
 ソルジャー・ブルーを舐めるんじゃねえと、命と引き換えに呪ってやろう、と。


 そんなこととも知らないキースが、ぶっ放した銃。
 「これで終わりだ!」と格好をつけて。
 その弾で右目を砕かれたけれど、思い切り礼はしてやった。サイオンを床に叩き付けて。
(ジョミー…。みんなを頼む!)
 後は任せた、と果たした復讐。キースはキッチリ呪ったからして、後は野となれ山となれ。
 自分の命は此処で終わるし、どうなろうと知ったことではない。
 キースが一生、ドえらい呪いにやられたままでも、何処かで呪いが解けるにしても。
(呪いを解くには…)
 ミュウを認めるしか方法は無い、と会心の出来の最後の呪い。
(亀の呪いというヤツが…)
 あったからな、と無駄に多かったブルーの知識。「亀の足は昔からのろい」という駄洒落。
 そいつを何処で仕入れて来たやら、もう覚えてはいなかったけれど。
 どうせ死ぬから、後はどうでもいいのだけれど。
(一生、後悔するがいい…!)
 これがソルジャー・ブルーの呪いだ、と高笑いしながらブルーは逝った。
 目的通りにメギドを沈めて、キースにガッツリ呪いをかけて。
 そのキースはと言えば、部下のマツカの瞬間移動で辛うじて逃げ延びていたのだけれど…。


「マツカ!」
 エンデュミオンの通路にくずおれたマツカ、医務室に運ぶべきだろう、と判断したキース。
 とはいえ今は急ぐからして、通りすがりの者を呼び止めた。
「おい、貴様!」
「はっ、何でしょうか!?」
 緊張した顔のヒラに向かって、「こいつを医務室へ運んでおけ」と命じたつもりが…。
「こいつを医務室へ運んでケロ!」
「…ケロ?」
 ポカンとしたのが目の前のヒラ。「運んでケロ」とは空耳だろうか?
「さっさとするケロ!」
「はっ!」
 なんだか変な言葉だよな、と思いながらもヒラは仕事を引き受けた。「ケロって、なんだ?」と頭がグルグルしながらも。
 一方、キースはまるで気付いていなかった。自分が「ケロケロ」言っていることに。
 聞く人が聞いたら「カエル語ですか?」と訊き返しそうな言葉であることに。


 …そう、カエル語。
 それがソルジャー・ブルーの呪いで、一時期、シャングリラで流行った言葉。
 カエルは幸運のシンボルだとかで、大増殖したカエル好き。いわゆるカエラー。
 その連中が使っていたのが、カエル語だった。何かと言ったら「ケロケロ」とカエル。
 キースが「亀」と言った瞬間、ブルーが思い出したのがソレ。
 そして思った、「こいつをカエルにしてやろう」と。
 ミュウと人類が和解するまでは、ケロケロ喋っているがいい、と。
 拳銃をバンバンぶっ放していたキースの心は、いい感じに隙が出来ていたから。
 勝ったつもりで威張り返って、心理防壁に生じた綻び。
 物理的には反撃不可能、けれども心の方は別物。
 だから「これで終わりだ!」とMAXになった綻び、其処へ向かってブチ込んだ呪い。暗示とも言えるかもしれない。
 「貴様は今日からカエルなのだ」と、「カエル語で喋り続けるがいい」と。
 呪いはジョミーに解いて貰えと、和解出来たら解ける筈だ、と。


 ソルジャー・ブルーの怖すぎる呪い、呪われているとも思わないキース。
 ゆえにマツカをヒラに任せて、向かったブリッジ。この後の指揮を執らねば、と。
「アニアン少佐! よく御無事で!」
 出迎えたのが補佐官のセルジュ、早速下した残党狩りの命令。
「グレイブの艦隊は、残存ミュウの掃討に当たらせケロ」
 一人も生かすなケロ、とやったものだから、一瞬にして凍った空気。「何なんだ?」と。
 けれども、やっぱり気付かないキース。
 自分がカエル語になっていることに。ケロケロ喋っていることに。
(自らの命を犠牲にしてメギドを止めたのか…。ソルジャー・ブルー…!)
 敵ながら天晴れ、と思うキースの脳内言語はカエル語に非ず。
 其処が呪いの怖い所で、自覚ナッシングに出来ていた。
 周りの輩が「カエル語なのか?」と目を剥いたって、キース自身には分からない。音声データを突き付けられて、「カエル語ですよ?」と指摘されない限りは。
 でないと、自分の鉄の意志でもって直すから。
 意地でもカエル語を話すものかと、根性で修正可能だから。


 かくしてキースはカエル語の男になってしまった。
 自分で自分の動画などを見て、「ゲッ!」となっても、自覚ナッシングだけに直せない。決してカエル語を喋るものか、と思っていたって、頭の中身と噛み合わないから。
 「マツカ、コーヒーを頼むケロ」くらいは可愛らしいもの。ほんの御愛嬌、毎度の台詞。
 いつでもケロケロ、どんな時でも。
 暗殺騒ぎに遭ったノアの宙港、其処で格好をつけた時にも。
 「諸君、私は健在だケロ!」と。
 カエル語になった時期が時期だけに、囁かれるのがソルジャー・ブルーの呪い。
 もう間違いなくソレだ、と誰もが考えるけれど、呪いは全く解けなかった。
 これで解ける筈、と皆が思った方法でも。「カエルにはコレだ」と挑んだヤツでも。
 曰く、「カエルの王子様」。
 お姫様のキスでカエルが王子に戻るからして、きっとこれなら、とキースにキスした面々。
 我こそはと思う部下はもとより、出世目当ての下っ端まで。
 マツカやセルジュやパスカルはもちろん、軍の施設で働く者も端から揃って。
 それでも直らないのがカエル語、キースはケロケロ喋り続けて…。


「いいだろう。グランド・マザーに会わせてやるケロ」
 ジョミーと地球で会った時にも、安定のカエル語な喋り。グランド・マザーの所へ降下してゆくエレベーターでも、変わらずに。
 「サムが死んだケロ」と。
 グランド・マザーの前でジョミーとチャンチャンバラバラ、それでもカエル語な男。
 「ミュウが生き残るためには、人類を殲滅するしかないケロ!」と。
 スウェナに託したメッセージの方でも、やっぱりケロケロ。
 「諸君。今日は一個人、キース・アニアンとして話をしたいケロ」と。
 ジョミーがグランド・マザーの触手に掴み上げられ、首をギリギリ締められたって同じこと。
 「何故、ミュウの力を使わないケロ!」と怒鳴る有様、それがカエルになる呪い。
 けれど、ソルジャー・ブルーの呪いが解ける条件、それは整いつつあるものだから…。
「命令を実行せよ、キース・アニアン。命令を」
 グランド・マザーがそう命じた時、キースがバッと向けた銃。
「うるさい! もう私の心に触れるな!」
 発砲したキースの言葉は、もうカエル語ではなくなっていた。
 「私は自分のしたいようにする」と。「したいようにするケロ」ではなくて。


 かくして、キースは最後の最後にカエルの呪いから解き放たれた。
 だから…。
「セルジュ、聞こえるか」
 地の底からセルジュに送った通信、それは「聞こえるケロ?」ではなかった。
 まさか、と驚いたのがセルジュで、キースの言葉は普通に続いた。
 「ミュウと共に地球を守れ」と、「よく今日まで、私について来てくれた」と。
「アニアン閣下!」
 例の呪いが解けたんだ、と目を瞠ったセルジュ。
 それでは、キースにかかったカエルな呪いを解いたのは…。
(…ジョミー・マーキス・シン…!)
 あいつのキスが閣下の呪いを解いたんだ、と握り締めた拳、俯いた顔。「なんてことだ」と。
 この騒ぎの中、アニアン閣下はミュウの長と、と。
 死にそうな声をしていたけれども、ミュウの長とデキてしまってキスもしたんだ、と。
(……我々では解けなかった呪いを、ミュウの長が……!)
 悔しいけれども、それが現実。
 キースの真実の愛の相手は、ミュウの長のジョミー・マーキス・シン。


 そういうことか、と唇を噛んで、セルジュは皆に命令した。
 「総員、直ちにワルキューレで出撃! 攻撃目標、軌道上のメギドシステム!」と。
 他の者たちが何と言おうと、これがカエルから立派な国家主席に戻ったキースの意志だから。
 ミュウの長とデキてしまった人でも、今までついて来た人だから。
 こうしてセルジュたちは地球を守って、間違った伝説が後に残った。
 「カエルになっていた国家主席は、ミュウの長のキスで元に戻ったそうだ」と。
 二人の間に真実の愛が生まれたらしいと、ミュウと人類が手を取り合う時代が来たのだと。
 ソルジャー・ブルーがかけた呪いは、解けたから。
 国家主席とミュウの長とは、最後に恋に落ちたのだから…。

 

         カエルの王子様・了

※なんだってこんな話が出来たか、自分でも謎。「亀の呪い」と思っただけなのに。
 とはいえ、「ケロケロ喋る」キースも悪くないかと…。ナスカから後はずっとカエル語。






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(冷徹無比な破壊兵器か…)
 よくも名付けた、とキースが翳らせた、冷たいアイスブルーの瞳。
 自分の姿はそう見えるのか、と。
 「コンピューターの申し子」の次は、「冷徹無比な破壊兵器」かと。
 どちらも心が無さそうなモノで、破壊兵器の方が「申し子」よりも更に上。
 「申し子」だったら人間だけれど、「破壊兵器」は機械だから。
 元より心を持っていないモノ、持っていなくて当然のもの。
 それが自分かと、ついに其処まで成り下がったかと。
(……グランド・マザーの御意志ならな……)
 仕方ないが、と思うけれども、何故だか酷く疲れた気がする。
 あの名が軍に、国家騎士団に広がってゆくだけで。
 陰でヒソヒソ囁き交わしているならまだしも、褒め言葉として言われるのが今。
 配属されたばかりの若い士官が最敬礼して。
 「少佐の部下に配属されるとは、光栄であります!」と。
 彼らの憧れ、キース・アニアン上級少佐。
 それが自分で、冷徹無比な破壊兵器と称賛されている有様。
 多分、そうではない筈なのに。
 今はそうかもしれないけれども、元は違っていた筈なのに。


 疲れた、と自分で淹れたコーヒー。
 自室に座って口にしながら、思い出すのは名前の理由。
 どうして今の異名があるのか、「冷徹無比な破壊兵器」と呼ばれる所以は何なのか。
(マザー直々の命令だったが…)
 陣頭指揮を執ることになった、ラスコーで起こった反乱の鎮圧。
 マザー・システムに不満を抱く兵士たち、彼らが起こしたクーデター。
 元々は小さな部隊の反乱、けれども増えた賛同者たち。
 手をこまねく間に、燎原の火のように広がり、星を丸ごと巻き込んだ。
 「独立しよう」と、「マザー・システムはもう要らない」と。
 相手は戦闘に慣れた者たち、地の利もあるから手も足も出ない。
(…だから私が駆り出されたんだ…)
 メンバーズならば、きっと鎮圧できるだろうと。
 どういう指揮を執るのも良しと、兵器も何を使っても良し、と。
(そこまでお膳立てをされたからには、働くさ)
 グランド・マザーの御意志のままに、と口に含んだコーヒーの苦味。
 それが戦場を思い出させる、「こうやった」と。
 あの作戦の指揮を執っていたのは、確かに自分だったのだと。


 綿密に立てておいた作戦。
 けれど、尻込みした兵士たち。
 相手も同じ兵士だから。
 通信回線を通して流れる、反乱軍からのメッセージ。
 「共に戦おう」と、「我々は同志を歓迎する」と。
 彼らは攻撃して来なかった。
 「君たちの心を信じて待つ」と。
 それこそが彼らの強さで、戦法。
 考える時間を与えられる内に、「彼らが正しい」と共に反旗を翻した者たち。
 彼らが集う場所がラスコー、幾つもの部隊が合流しては増える戦力。
 銃を向けては来ないのに。
 ミサイルの一つも放ちはしないで、戦わずに待っているだけなのに。
(ああいう奴らが厄介なんだ…)
 何処から見たって、彼らの方が正義だから。
 鎮圧しようと兵器を持ち出す方が悪魔で、邪悪だから。
(どいつもこいつも、役に立たなくて…)
 持ち場にいたって、照準を合わせることさえしない。
 「あそこにいるのは、仲間なのでは」と。
 何も攻撃して来ないのだし、きっと話せば分かるのだろうと。


 だから一人でやることに決めた。
 「どけ!」と兵士たちを退け、淡々と照準を合わせていって。
 反乱軍の拠点を一つ残らずロックオンして、発射ボタンを押したミサイル。
 多分、迎撃するだろうから、「攻撃が来たら撃て」と命じた。
 「奴らは敵だ」と、「我々を撃って来るのだからな」と。
 狙いは当たって、第一波で潰れなかった拠点は、部下の兵士たちが当たった掃討。
 彼らもようやく目が覚めたから。
 こちらへ向かって撃たれたミサイル、それを目にして。
 あちこちの基地から急発進した、戦闘機の群れで正気を取り戻して。
(…私は口火を切っただけのことだ)
 そう思うけれど、それが「誰にも出来なかったこと」。
 同じ仲間がいる筈の場所に、ミサイルを撃ち込んでやるということ。
 撃てば、仲間は死ぬのだから。
 自分と同じ仲間を殺してしまうのだから。


(ただ、それだけのことなのだがな…)
 しかし、誰も出来ずにいたのが現実。
 自分の他には、誰一人として。
 反乱部隊を鎮圧した後、ついた異名が「冷徹無比な破壊兵器」というものだった。
 血も涙も無いから出来たことだと、本当に破壊兵器だと。
 普通、人間には出来はしないと、恐ろしすぎるメンバーズだと。
(…私はマザーに従ったまでで…)
 それに、と心にわだかまる思い。
 マザー・システムに反旗を翻した者、ラスコーに集っていた兵士たち。
 彼らの中には、きっとシロエがいた筈だから。
 そういう名前ではなかったとしても。
 「セキ・レイ・シロエ」の名は持たなくても、シロエと同じ心の持ち主。
 マザー・システムには従えない者、機械の言いなりになって生きたくなかった者。
 大勢のシロエがいたのだろうと、自分だからこそ分かること。
 あの時、作戦に赴いた兵士、その中の誰が気付かなくても。
 誰一人として知らないままでも、自分には分かる。
 「もう一度、シロエを殺したのだ」と。
 シロエと同じに、強すぎる意志を持った者。
 それを何人殺したのかと、この手は何処まで血に染まるのかと。


 ラスコーの反乱、その首謀者が何人ものシロエだったなら。
 彼らの下には、大勢のサムもいたのだろう。
 優しい心を持っていた友、気のいいサム。
 彼ならばきっと、危険な任務も「いいぜ」と進んで引き受ける。
 それが仲間の役に立つなら、喜んで。
 真っ先に爆撃される場所でも、「俺なんかで役に立つんなら」と。
 何人のサムが、あのラスコーにいたことか。
 自分がミサイルを撃ち込んだ場所に。
 部下たちに「撃て」と命じた地点に、飛び立って来た戦闘機の操縦席に。
(…サムと、シロエと…)
 どちらも私が殺したんだ、と分かっている。
 もっとも、サムなら、今も元気にしているけれど。
 ずいぶんと長く会っていなくても、本物のサムは今も宇宙を飛んでいる。
 パイロットとして、今も何処かの宙域を。
 昔のままに気のいい笑顔で、仲間たちとも仲良くして。
(…あのサムが、これを聞いたなら…)
 いったい何と思うだろうか、ラスコーで自分がしてきたことを知ったなら。
 対外的には、反乱軍の鎮圧でしかないけれど。
 サムは事実を知りようもなくて、「流石はキース!」と言いそうだけれど。
 昔と同じにエリートだよなと、「やっぱり俺とは出来が違うぜ」と。


(…サムに、シロエに…)
 私が殺した相手はそうだ、と分かっているから覚える疲れ。
 本当にこれでいいのか、と。
 「冷徹無比な破壊兵器」の道を歩んでいていいのかと。
 それは間違いではないけれど。
 正しい道だと、グランド・マザーは自分を導いてゆくのだけれど。
(…いつか後悔せねばいいがな…)
 そんな日が来る筈もないのに、時折、胸を掠める思い。
 「誤りだった」と気付かされる日、その日は遠くないのでは、と。
 サムはともかく、シロエの声が聞こえて来る日。
 「前から言っていたでしょう?」と。
 なのに気付かなかったんですかと、「機械の申し子も、大したことはありませんね」と。
(……そうなりたくはないのだが……)
 分からないのが未来なんだ、と傾けたカップのコーヒーが苦い。
 いつもは舌に心地良いのに、今日は疲れているせいなのか。
 それともシロエの声が未来から、響いて来た気がするからなのか。
(ラスコーか…)
 冷徹無比な破壊兵器か、と唇に浮かべた自虐の笑み。
 それには心はありそうもないなと、兵器は心を持たないからな、と…。

 

         ラスコーの反乱・了

※「冷徹無比な破壊兵器」の異名を取ったらしい、ラスコーの反乱。その中身は謎。
 捏造したっていいんだよな、と書いたオチ。ラスコーもアルタミラも洞窟壁画だよね?






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「シャングリラもえだと?」
 なんだそれは、とキースは不愉快そうに眉を顰めた。
 日に日に拡大の一途を辿る、ミュウどもの版図。シャングリラと言ったらミュウの母船で、その名を聞くのも忌々しい。
 けれど、報告に来たスタージョン中尉は、「シャングリラもえ」だと告げたから…。
(燃えたのだったら歓迎だがな?)
 そう思うけれど、燃えて沈んだなら「殲滅しました」と言いそうなもの。
 だから、いったい何事なのか、と先を促したら…。
「萌えだそうです、シャングリラに」
「…萌え?」
 ますます分からん、と首を捻るしかない展開。
 スタージョン中尉もその辺りは予想していたらしくて、「ご覧下さい」と渡されたデータ。
 はて、と机の端末にセットし、動画だと分かるデータを再生してみたら…。
(なんだ、これは!?)
 もう思いっ切り見開かれた目。アイスブルーの眼球がポロリと落ちそうなほどに。


 画面の向こうに、キュートな美少女。ただし実在しない人間、アニメなキャラ。
 その美少女が、弾ける笑顔でこう言った。
「シャングリラ応援キャラクターの、シャングリラ萌(もえ)でーっす!」
 ご丁寧にも、「シャングリラ萌」とテロップつき。そういう名前のキャラらしい。
 シャングリラ萌と名乗った少女は、声もなかなか可愛らしくて。
「人類の皆さん、はじめまして! シャングリラは怖くないからねーっ!」
 みんなに愛される船なんです、と紹介してゆく、シャングリラ萌。
「この人が、長のソルジャー・シン。イケメンでしょ?」
 そしてこっちがキャプテン・ハーレイ、と続くメインの人物紹介。期待の星のトォニィだとか、ちょっと頑固なゼルおじいちゃん。
「こういう人たちが乗ってまぁーす! 次はあなたの星に行くかも!」
 皆さんに早く会いたいな、と笑顔全開のシャングリラ萌。
(…これはいったい、何事なのだ…!)
 キースの表情は冷静だけれど、顔の下はパニック状態だった。「シャングリラ萌…」と。
 其処へ新たな美少女登場、これまた愛想の良さそうな子で。
「萌ちゃん、案内ありがとう! はじめまして、ギブリ好美(このみ)でぇーっす!」
 ギブリはミュウのシャトルなの、と始まってしまったガイダンス。
 人類の船より機能が遥かに上なのだという、ミュウどもの技術力の宣伝。「よろしくね!」と。


「…何なのだ、これは!?」
 何処からこんなモノが出て来た、と凄すぎる画面を指差したキース。
 どう眺めてもミュウのプロモーションだし、「シャングリラ萌」と「ギブリ好美」なるブツ。
「…今、猛烈な人気だそうです。…シャングリラ萌が」
 ミュウが落とした星はもちろん、まだ人類の勢力下にある星系でも、とスタージョン中尉も困り顔。「大変なことになりました」と。
「ミュウのイメージ戦略なのか!?」
「そのようです。自由アルテメシア放送で、繰り返し流れているとかで…」
 この映像をダウンロードして、違法にアップする輩まで、という報告。
 シャングリラ萌とギブリ好美は、今や絶大な人気を誇るキャラクター。しかも、シャングリラがやって来たなら、手に入るのが応援グッズ。
「…応援グッズ?」
「はい。子供でも買えるステッカーから、値段高めのフィギュアまで…」
 各種取り揃えて来るのだそうです、とスタージョン中尉は直立不動。陥落直後の惑星だったら、期間限定コラボカフェまであるらしい。
「…コラボカフェだと!?」
「限定メニューが売りのようです。入店記念グッズも手に入るとかで…」
 もう物凄い人気ですよ、と聞かされてゾクリと冷えたのが背中。応援グッズも、コラボカフェの方も、どうやらミュウの資金源。
 「シャングリラ萌」と「ギブリ好美」で人気を勝ち取り、集金しながら地球を目指すミュウ。
 「よろしくね!」と微笑む美少女キャラを作って、人類のハートを鷲掴みで。


 なんということだ、と愕然としたキースだけれども、其処は腐っても機械の申し子。この作戦の穴に直ぐに気付いた。シャングリラ萌とギブリ好美が、如何に人気を誇っても…。
(所詮、男しか…)
 ついて行かない筈だからな、と弾き出した答え。
 美少女キャラでは、女性の心は掴めないもの。幼い子供だったらともかく、人類の行く末を左右するような年の女性は見向きもしない。
(…焦るな、キース…)
 こんな現象は一時的なものだ、と考え、スタージョン中尉にも「無視しておけ」と下した指示。
 萌えキャラごときで失う星なら、最初から期待しないから。
 シャングリラ萌とギブリ好美に貢ぐ輩も、人類の未来を背負わせるには…。
(クズすぎて、どうしようもないからな…)
 我々の世界に馬鹿は要らない、と冷たい笑いで切り捨てた。「ミュウにつく馬鹿は不要だ」と。
 なにしろ世界の半分は女性、まだ充分に巻き返せる。
 シャングリラ萌がやって来ようが、ギブリ好美が地球を目指そうが。


 それきり忘れた「シャングリラ萌」。ギブリ好美の方もセットで、サックリと。
 ところが一ヶ月も経たない間に、駆け込んで来たのがスタージョン中尉。
 「大変であります!」と慌てた様子で、データ入りのケースを引っ掴んで。
「…今度はなんだ?」
 またシャングリラ萌が出たのか、と嫌でも蘇って来た記憶。そういうキャラがいたのだった、と非常に不快な気分だけれども、スタージョン中尉は「違います」とデータを差し出した。
「どうぞ、ご自分の目でお確かめ下さい」
「………???」
 まあいいが、とセットしてみたら、データは動画。身構えつつも再生を始めた途端に…。
「やあ、人類のみんな! ぼくの名前はアルテメシア!」
 アル君と呼んでね、と爽やかなイケメンがニコッと笑った。またも実在しないキャラ。アニメの世界なイケメン青年、もちろん声もイケている。
「こっちが友達のソレイド君で…。ソレイド君、君の目標は?」
「やっぱり、地球(テラ)君に会うことかな!」
 早く遊びに行きたいよね、とソレイド君もイケメンだった。アルテメシアとは違うタイプの。
「だよねえ…。地球(テラ)君、スポーツ万能、頭も凄くいいんだけど…」
「まだ会えないしね、ぼくたちが地球に着かないと…」
 だから人類のみんなも応援してね、というメッセージ。
 「素敵な友達を沢山増やして、地球(テラ)君に会いに行かなくちゃ」と。
 超絶美形な地球(テラ)君の登場、その日を楽しみにしていてね、と。


「こ、これは…。まさか、こっちも大人気なのか…?」
 アルテメシアとソレイド君が、と画面を指したら、スタージョン中尉は頷いた。
「ペセトラ君とか、友達が色々いるんです。しかもこっちは、ゲームも出来ていますから…」
 ミュウどもが星や基地を落とす度に、キャラが一人増えます、という解説。
 新しいイケメンが登場する度、女性たちが熱狂する仕組み。超絶美形な地球(テラ)君は、今の時点ではシルエットだけで…。
「モビー・ディックが地球に着いたら、地球(テラ)君が公開されるそうです」
「で、では…。この連中に萌えな女性たちは…」
 我々がミュウに敗北するのを待っているのか、と言葉にせずとも自明の理。
 「シャングリラ萌」を掲げて快進撃を続けるミュウたち。彼らが地球に着きさえしたなら、凄い美形がゲームにお目見えするのだから。
 ついでに、アルテメシアやソレイド君にも、応援グッズやコラボカフェなどがセットもの。
 人類はせっせとミュウに貢いで、今や敗北を期待している。
 キッパリすっかり負けないことには、「シャングリラ萌」も「ギブリ好美」も来ないから。
 超絶美形な地球(テラ)君だって、未公開のままで放置だから。


(…なんということだ…!)
 いったい誰が仕掛けたのだ、と歯噛みしたってもう遅い。
 「シャングリラ萌」と「ギブリ好美」は男性のハートをガッツリ掴んで、アルテメシアが擬人化されたアル君たちには、女性が熱狂中だから。
(…男も女も、ミュウに貢いで…)
 シャングリラが来るのを待っているのか、と慌てたけれども、とうに手遅れ。
 それから間もなく、首都惑星ノアは戦わずして落ちてしまった。軍の内部にも広がりまくった、「シャングリラ萌」と「ギブリ好美」萌え。「早く来ないかな」と待たれたミュウたちの船。
(…何がコラボカフェだ…!)
 泣きたい気持ちのキースを放って、スタージョン中尉も駆け込んで行ったコラボカフェ。
 その始末だから、地球もサックリ、ミュウたちのもの。
 キースには何も出来ないままで。あっさりキッチリ、グランド・マザーを壊されて。
 死人の一人も出ないまんまで、のうのうと降りたシャングリラ。地球の空へと。
 SD体制は既に倒れて、マザー・システムも跡形も無い。
 けれど熱狂している人類、「やっと地球(テラ)君が公開された」と。
 シャングリラ萌もギブリ好美も、これからグッズが山ほど発売されるのだから、と…。

 

         シャングリラに萌え・了

※どう転がったら、こんな話になるのやら…。「シャングリラ萌」って、何なのかと!
 仕掛けたのはジョミーか、トォニィなのかも謎であります。案外、外部に丸投げだとか…?






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