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(地球を……見たかった)
 そう、今も。あの青い星を。
 辿り着けないままに、命尽きようとしている今も。
 あの青なのだ、とブルーの心を占めるもの。
 キースに撃たれて右の瞳を失くしたけれども、それでも「違う」と思う青。
 視界を覆い尽くす光は、この青は地球の青ではないと。
(…沈むがいい)
 忌まわしい青を帯びたメギドは、地獄の劫火は、自分と共に燃え尽きるがいい。
 暗い宇宙に沈むがいい。
 こんなモノなど、誰も欲しいと思わないから。
 死と破壊しかもたらさないもの、滅びの炎を吐くものなどは。
(同じ青でも…)
 どうして、これほどまでに違う青なのか。
 焦がれ続けた地球の青とは、まるで違った魔性の青。
 滅びるがいい、と心から思う。
 この青は自分が連れて逝くから、船は地球へと旅立つがいい。
 長く暮らした、あの白い船。
 楽園という名のミュウの箱舟、シャングリラはどうか、青い地球まで…。


 不思議なくらいに凪いでいる心、そうして伸びてゆく時間。
 じきに全てが終わるのに。
 この命の灯は消えるというのに、まだ紡がれてゆく想い。
(ジョミー…)
 皆を頼む、と叫んだ思念は、ジョミーの許に届いたろうか。
 フィシスに託した記憶装置も、ジョミーの手へと渡るだろうか。
(…フィシスなら、きっと…)
 きっと分かってくれると思う。
 あれを残して行った理由を、彼女はあれをどうすべきかを。
 青い地球を抱いた神秘の女神。
 無から作られた者と知りながら、ミュウだと偽り、手に入れたフィシス。
(皆を騙して…)
 フィシスにも嘘をついたけれども、そうまでしても欲しかった地球。
 彼女だけが持つ青い地球が欲しくて、それを見たくて犯した罪。
(…本物の地球を見られないのは…)
 そのせいだろうか、「地球が欲しい」と欲張ったから。
 白い箱舟の皆を騙して、地球を抱くフィシスを欺いてまで。


 青い地球まで辿り着けないのが、罪の報いと言うのなら。
 罪ゆえに此処で終わると言うなら、この身で罪を償った後。
 メギドと共に滅びた後には、どうか地球まで飛ばせて欲しい。
 魂だけでも、青い地球まで。
 肉眼では地球を見られなくても、この魂に焼き付けるから。
 青く美しい星の姿を、母なる地球を。
(…地球へ…)
 どうか地球へ、と宇宙(そら)へ舞い上がる想い。
 神にも慈悲があると言うなら、あの青い星へ。
 魂は何処へ飛び去ろうとも、何億年という旅をしようと、旅の終わりが地球ならばいい。
 あの青い星を、一目だけでも見られればいい…。


 それがブルーの最期の願い。
 暗い宇宙を彷徨おうとも、青い地球へと。
 幾千億の塵と化した後でも、ひとひらでいい、地球に辿り着ければ、と。
 この魂を乗せた欠片が巡り巡って、あの青い星に着けたなら…。
 どうか、と願い、その身は滅びたけれど。
 魂は宇宙(そら)へ飛び去ったけれど、その旅の終わり。
(…地球か…?)
 そうなのか、と再び目覚めた意識。
 ずいぶんと長く旅をしたような、星の瞬きほどだったような、定かではない流れた時。
(……ああ、地球は……)
 あの直ぐ側に在ったのか、と見上げたメギド。
 すっかり風化しているけれども、地球の大地に突き刺さったそれ。
(意外と頑丈だったのだな…)
 爆発したかと思ったのに、と青い空を仰ぐブルーは知らない。
 あれから気の遠くなるほどの時が流れ去ったことも、そのメギドは別のものだとも。
 ただ、分かることは「地球」ということ。
 今の自分は花になったこと、風に揺られる淡い桃色の花に。
 そう、人の身ではないのだけれども、満ちてゆくのは幸せな想い。
 願いは叶えられたから。
 青い地球に咲く花になれたから、地球をこの目で見られたから…。

 

         青い星まで・了

※「7月28日はブルー生存ネタの日なんだぜ!」と、2011年から戦っていた管理人。
 ハレブル転生ネタを始めた2014年から、記念作品はサボっていたんですけど…。
 2016年7月28日の記念作品、ハレブルじゃないから此処に置かせて下さいです。





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(…人間ですらもなかったとはな…)
 いや、人間だと言うべきなのか、とキースが強く握った拳。
 自分の他にはマツカしかいない小型艇。
 これで出て来た基地に戻るまで、「私の部屋には近付くな」と命じてある、忠実なマツカ。
 でないと、いったい何を仕出かすか分からないから。
 冷静なように見えていたって、心に渦巻く嫌悪感。
 …そう、嫌悪。
 その言い回しが相応しいだろう、今の自分の感情には。
 しかも、マツカに向けたものならまだしも、この嫌悪感が向かう先には自分自身。
 さっき見て来たサンプルと同じ、まるで変わらない姿の自分。
(…違うのは年齢くらいなものだ)
 私との違いは其処だけだな、と思うよりない標本たち。
 マザー・イライザが残したサンプル、それをE-1077ごと処分した。
 自分を生み出したフロア001、シロエが「ゆりかご」と呼んでいた場所を。


 この船室に閉じこもっていても、背を這ってゆく気味悪さ。
 此処にいる自分も、サンプルと何処も違わない。
 たまたま選び出された一体、そうなのだろうと思わざるを得ないのが自分。
(…何が最高傑作だ…)
 私の努力でそうなったのではないのだからな、と反吐が出そうなマザー・イライザの言葉。
 自分というモノが作られた時に、巡り合わせが良かっただけ。
 たまたま出来が良かっただけ。
 処分されずに、サンプルに回されることもないまま、こうして成長したというだけ。
 …無から生まれた人形が。
 人間と呼んでいいのかどうかも、自分では自信が持てないモノが。
(…シロエは人形だと言っていたが…)
 実際の所はどうなのだろうか、自分はヒトか、それとも作られた人形なのか。
 まさか、此処までとは思わなかった。
 人間ですらもなかったとは。
 自分を生み出す元になる「ヒト」が、世界の何処にもいなかったとは。


 遠い昔に、シロエに「お人形さんだ」と罵倒された後。
 自分なりに答えを探そうとした。
 マザー・イライザに向かって尋ねて、得られないままで終わった答え。
 ならばと目指した、シロエから聞いたフロア001という場所。
 けれども辿り着けないまま。
 いつも何らかの邪魔が入って、行けないままに離れてしまった、あのE-1077。
 卒業したら、もういられないから。
 用も無いのに、戻ってゆくことは不可能だから。
 まして廃校になった後には尚更、けれど何処かでホッとしてもいた。
(…成長する人形など、有り得ないからな…)
 どんなに精巧なアンドロイドでも、知能以外は成長しない。
 E-1077にいた間ならば、マザー・イライザが細工出来たかもしれないけれど…。
(…離れた後には、もう不可能だ)
 少しずつ年齢を重ねる身体を、新しいものに取り替えるのは。
 「キース・アニアン」と呼ばれる人間、それに相応しく外見を作り替えるのは。


 だから「人間だ」と弾き出した答え。
 シロエの言葉にあった「人形」、それは何かの例えなのだと。
 「マザー・イライザが作った人形」、シロエは確かにそう言った。
 自分の中の「何処か」は作られたものだろうけれど、恐らくはほんの一部分。
 基本的には人形ではなくヒトなのだ、と思った、自分自身という存在。
(…遺伝子レベルで操作したとか…)
 あるいは何らかの手段を用いて、高度な知識を大量に流し込んだとか。
 そんな所だ、と考えていた。
 どう転がっても「ヒト」は「ヒト」だと、アンドロイドでは有り得ないと。
 E-1077を離れた後にも、きちんと重ねてゆく年齢。
(怪我で血が出る程度なら…)
 アンドロイドに細工も可能だけれども、年を重ねる人形は無理。
 計画的に器を取り替えなければ、機械仕掛けの頭脳を移してやらなければ。
 そう思ったから、「ヒトだ」と安心した自分。
 どんな生まれでも、人間だと。
 遺伝子を組み換えた存在だろうが、脳に直接、データをインプットされていようが。


(…そっちだったら…)
 まだマシだった、と思える自分の正体と生まれ。
 遺伝子を好きに弄ってあろうが、頭蓋骨に怪しい傷があろうが。
 ヒトはヒトだし、ベースになった「ヒト」は何処かにいるのだから。
 もしくは過去に「居た」のだから。
 けれど、何処にも「居なかった」それ。
 自分は機械が無から作った人間、元になったヒトなどいはしない。
 三十億もの塩基対を合成し、DNAという鎖を紡ぐ。
 たったそれだけ、「ヒト」は何処にも介在しない。
 ゆえに神の手も働いてはいない、「ヒト」が関わらないのだから。
 神の領域にまでも踏み込んだ機械、それが自分を作っただけ。
 生命の神秘も、神に祝福された命も、自分の中には、その欠片すらも…。
(…まるで入ってはいないのだ…)
 こうして「頭脳」は「考える」のに。
 今も「心」は「乱される」のに、それさえも神の手の中には無い。
 あえて言うなら機械の手の中、機械が自分の「造物主」だから。
 自分を作った「神」がいるなら、その神はマザー・イライザだから。


 不完全とさえ言えない生命。
 この世に生まれる価値も無いモノ、これを本物の神が見たなら。
 自らの手が働かなかったものなら、神はこちらを「見もしない」だろう。
 神が差し伸べる救いの手さえも、自分のためには伸びては来ない。
 救う価値すら無いモノだから。
 「存在してはならない生命」、それこそがまさに自分のこと。
 神は自分を作っていないし、元になった「ヒト」さえいなかったから。
 機械が冒した禁忌の産物、それが自分という生命。
(…こんな醜い化け物などに比べたら…)
 ミュウどもの方が遥かにマシだ、と認めざるを得ない自分の「価値」。
 神にどちらかを選ばせたならば、間違いなくミュウが選ばれるから。
 ミュウが選ばれ、神の導く道をゆくなら、自分を待つのは地獄だから。
(…そして、本当に地獄なのだな)
 私の道は、と唇に浮かんだ自嘲の笑み。
 ミュウと人類、分がありそうなのはミュウの方だと分かっている。
 なのに自分は人類の指導者、そうなるように作り出されたから。
 明らかにミュウに劣る種族を、人類を率いてゆく者だから。
 どう進んだとて、茨の道。
 最後は地獄に落ちるしかない、自分を作った機械もろとも。
 ミュウたちが神に選ばれた時に。
 彼らが勝者となった途端に。


(…マザー・イライザは一足先に…)
 地獄に落ちて行ったのだがな、と処分したE-1077を思う。
 惑星の大気圏に落下し、燃え尽きていったステーション。
 マザー・イライザの悲鳴は地獄に消えたけれども、いつか自分も落ちるのだろう。
 「存在してはならない生命」、そんなモノには神は救いを寄越さないから。
 血を吐くような祈りを捧げてみたって、神は応えもしないのだろう。
 「ヒトではない」者の祈りには。
 神が作らなかったモノには、きっと視線も投げたりはしない。
 その生命に、いくら「心」があろうとも。
 今は神など要らないけれども、いつか「欲しい」と願ったとしても。
(……ミュウどもにも劣る生命体か……)
 そもそも生きているのかどうか、と自虐的にしかならない考え。
 この呼吸は本当に生の証かと、心臓の鼓動はどうなのかと。
 血管の中を流れる血さえも、全て機械が作ったもの。
 これでも自分は「生命」なのかと、「人間」だと言っていいのかと。
(…しかし、私は…)
 生きるようにと作り出されて、これからも生きてゆかねばならない。
 行く手に地獄が待っていようと、神の目には全く映らない生であろうとも。


 だから生きる、と思うけれども、生き抜く覚悟はあるのだけれど。
 そうは思っても、まだ暫くは…。
(……出られないな……)
 マツカの前に、と鍵を掛けた部屋でついた溜息。
 生命としての存在意義なら、マツカの方が上だから。
 ミュウであろうが、化け物だろうが、マツカは「ヒト」に違いないから。
 もう一度、自分が優位に立つまで、「上だ」と確信出来る時まで、此処からは出ない。
 一歩たりとも出てはならない、完璧なままでいたければ。
 誰もが敬意を抱くエリート、キース・アニアンの姿を保ちたければ。
 自分に自信を持てるまで。
 真に優れた存在なのだと、自分をも騙しおおせるまでは…。

 

         作られた生命・了

※キースが自分の正体を知って、何も思わない筈がないよな、という捏造。
 いくらキースがエリートだろうが、いや、エリートだけに考え込みそうな気がします…。






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(…ぼくは若いと思うんだけど…)
 一応、若い筈なんだけど、とジョミーの自信は揺らいでいた。
 気付けば「祖父」になっていたから。
 今の時代は死語な「グランパ」、そういう名前で呼ばれる自分。
 それは素敵に若い者から。
 トイレトレーニングの真っ最中のような子供から。
(…グランパって…)
 グランパって何だよ、と叫びたいけれど、とうに叫んでしまった後。
 その名前を聞いた瞬間に。
 最初の自然出産児のトォニィ、彼に「グランパ!」と懐かれた時に。
(…ぼくのことだと思わなくって…)
 グランパは何処か、と見回した次第。
 肩に乗っているナキネズミかと、レインに渾名がついたのか、と。
 けれど、真っ直ぐ見ていたトォニィ。
 「グランパ!」と見上げてくる瞳。
 何かが変だ、とトォニィの側にいたカリナに訊いた。「グランパって?」と。
 そういう言葉は初耳だけれど、グランパとは何のことだろうか、と。


 質問しつつも、ちょっぴり生まれていた期待。
 自分が知らない言い方なだけで、「グランパ」は「イケメン」の意味だとか、と。
 カリナやユウイは若い世代で、シャングリラで育った子供たち。
 彼らの間だけで通じるスラング、そういったものもあるかもよ、と。
(癪だけど、ぼくより若いから…)
 スラングだって充分、有り得る。
 今の「グランパ」もそれの一つで、イケてる人には「グランパ!」かも、と。
 胸を膨らませて待っていたのに、「それは…」と言い淀んでしまったカリナ。
 やはりスラングに違いない。
 自分たちだけの間の言葉がバレてしまった、とカリナは焦っているのだろう。
 そう思ったから、「どういう意味?」と笑顔で尋ねた。
 「ぼくのことなら気にしないで」と、「ぼくは怒ったりしないから」と。
 若い世代だけの言葉があっても、細かいことは気にしない。
 ゼルたちのような頑固な年寄り、何かと言ったら「若い者たちは…」と嘆く連中。
 あんな風には出来ていないし、頭の出来も柔らかいから。


 そう、怒る気はまるで無かった。
 「グランパ」の意味が何であっても、若い世代の発想だから。
 赤いナスカを開拓するには、柔軟な頭も要るのだから。
 それでワクテカ、「どういう意味かな?」と待っていた答え。
 「グランパ」の意味は「イケメン」だろうかと、あるいは「お兄ちゃん」かも、と。
 胸がワクワク期待MAX、カリナの顔を見詰めていたら…。
「……おじいちゃん、です…」
「え?」
 おじいちゃんって、とキョトンと見開いた瞳。
 それは「年寄り」のことだろうかと、昔話やお伽話に「昔々…」と出て来るヤツ。
 「ある所に、おじいさんと、おばあさんが…」と始まる、お約束。
 グランパはソレで、もしや自分が「おじいちゃん」かと。
 嘘だよね、と指差した自分の顔。
 「おじいちゃん?」と。
 そしたら、「ごめんなさい!」と、ガバッと頭を下げたのがカリナ。
 「ソルジャー、本当にごめんなさい」と。
 もうトォニィは覚えてしまって、グランパで定着しちゃったんです、と。


 よりにもよって、「おじいちゃん」。
 「グランパ」の意味はイケメンどころか、「ジジイ」と宣告されたのも同じ。
 だから愕然としつつ叫んだ、「グランパって何だよ!」と。
 怒らないとは言ったけれども、それとこれとは別次元。
 どうして自分が「グランパ」なのか、「おじいちゃん」と呼ばれることになるのか。
 其処の所を確認しないと、どうにも納得出来ない「グランパ」。
 自分はまだまだ若い筈だし、「おじいちゃん」な年ではないのだから。
 これがソルジャー・ブルーだったら、「おじいちゃん」でもいいのだけれど。
 見かけはともかく中身が年寄り、誰が聞いても「おじいちゃん」だから。
(…絶対、何かの間違いだって…)
 トォニィが覚え間違っただけ、と考えたのに。
 そうだと自分に言い聞かせたのに、カリナの答えはこうだった。
「…訊かれたんです、トォニィに…。パパとママのパパは誰なの、って…」
「パパ?」
「はい。トォニィのパパはユウイで、ママは私になりますから…」
 その私たちのパパとママは、と質問されたものですから、と謝ったカリナ。
 つい出来心で、「ソルジャーなのよ」と教えました、と。


 カリナが言うには、トォニィにとっては「いるのが当然」のパパとママ。
 まだ幼くて、世の中の仕組みを知らないから。
 もちろん出産も知りはしないし、管理出産などは理解の範疇外。
 それで無邪気にカリナに質問、「ママたちのパパとママは誰なの?」と。
(…スルーしといてくれればいいのに…)
 心の底からそう思うジョミー。
 なにも真面目に答えなくてもと、あんな小さな子供に、と。
 けれど、とっくに手遅れな今。
 カリナは真剣に考えた末に、トォニィに教えてしまったから。
 「私たちの生みの親って、ソルジャーよね?」と。
 「命を作ろう」と決めた自然出産、それに賛成してくれたから。
 とはいえ、「おじいちゃん」は流石にどうかと、一応、思いはしたらしい。
 そう思ったならやめてくれればいいのに、つい出来心。
 魔が差したとでも言うのだろか、教えたくなった「おじいちゃん」。
 今の世の中、「おじいちゃん」はとうに死語だから。
 何処を探しても「祖父」はいなくて、いたら「オンリーワン」だから。


(…オンリーワンでも…)
 キツイんだけど、と抱え込みたくなる頭。
 この年でもう「孫」がいるのかと、自分はトォニィの「祖父」なのか、と。
(グランパって言い方まで、探して来て貰っちゃって…)
 その気遣いが余計にキツイ、と泣きたいキモチ。
 「おじいちゃん」ではあんまりだろう、とカリナが教えた言葉が「グランパ」。
 ヒルマンに頼んで、データベースで探して貰って。
 「おじいちゃん」よりはソフトに、と。
 ちょっとお洒落に「グランパ」の方がいいだろう、と。
 お蔭でトォニィが覚えた「グランパ」、「次に会ったら呼ばなくちゃ」と。
 「ぼくのおじいちゃんはソルジャーだけれど、ぼくのグランパなんだもの」と。
 そして炸裂した「グランパ」呼び。
 無垢な笑顔で、明るい声で。
 「グランパ!」と。
 ソルジャーはぼくの「おじいちゃん」だと、だから「グランパ」と呼ぶんだよ、と。


 怒らない、と言ってしまったから、どうにもならない「グランパ」呼び。
 今の御時世、確かに「祖父」など何処にもいないし、もう文字通りにオンリーワン。
 カリナが「おじいちゃんよ」と教えた気持ちも、分からないではないけれど…。
(…この年で孫で、おまけに宇宙の何処を探しても…)
 おじいちゃんは他にいないんだ、とドッと百ほど老け込んだ気分。
 いやいや、二百か三百だろうか、それとも四百くらいだろうか。
(……ブルーでも、おじいちゃんじゃないのに……)
 ぼくがグランパ、と尽きない「グランパ」なジョミーの嘆き。
 いくらなんでも惨すぎるから。
 本物のジジイのブルーがいるのに、若い自分がオンリーワン。
 宇宙にたった一人の「グランパ」、「おじいちゃん」になってしまったから。
 SD体制の時代が始まって以来、初めての「おじいちゃん」だから…。

 

        最初のグランパ・了

※アニテラではスルーされてたのが、「グランパ」呼びの理由。「原作を読め」と。
 「初めての孫」がトォニィだったら、ジョミーが初の「おじいちゃん」になるよね…。






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(…こんな死に方は御免蒙りたいね)
 とんでもないや、とシロエが眺めた教科書。
 宇宙空間に浮かぶE-1077ならではの教育内容、船外活動。
 真空の宇宙空間で行う様々な演習、それに訓練。
 チームメイトのミスでも充分、起こり得る事故死。
 自分のミスのせいではなくて。
 一緒にチームを組んだ人間、そいつのミスで。
(足を引っ張られるくらいなら…)
 マシだけどね、と思う無能な同級生たち。
 「リーダーは俺だ」と威張る者やら、その取り巻きやら。
 彼らの中の誰かが犯してしまったミス。それで失われる自分の命。
 とても堪ったものではないから、これからも好きにやらせて貰おう。
 あんな輩のミスで殺されては堪らないから。
 そうなるよりかは、まだ自分で…。
(首でも括った方がマシだよ)
 でなければ、毒を呷るとか。
 保安部隊の銃を奪って、それで頭を撃ち抜くだとか。
 そういう死ならば、自分のせい。
 自分の意志で選ぶ死だから、どう死んだってかまわない。
 チームメイトに殺されるよりは、その方がずっとマシというもの。
 この部屋の中で、首を括ってぶら下がっても。
 床に血反吐を吐いて死んでも、脳漿を派手に撒き散らしても。


 遥かにマシだ、と考えた自殺。
 チームメイトのミスで死ぬより、よほどマシだし、納得して死ねる。
 自分で選んだ運命なのだし、どう死のうとも。
 死体と化してしまった自分を、他の者たちが眺めようとも。
 まるで何かのイベントのように、騒ぎ、楽しむ野次馬たちが来てもかまわない。
 チームメイトのミスなどのせいで、同じ結果になるよりは。
 「シロエが死んだ」と騒ぎになって、死体を囲まれるよりは。
 ずっとマシだ、と心で繰り返したら、ふと掠めた思い。
 「死ぬ」ということ。
 今まで思いもしなかったけれど、そういう道もあったのか、と。
 人間は生きてゆくだけではなくて、死んでゆくことも、その宿命。
 いつか、何処からか「死」は訪れるし、選び取りさえ出来るものが「死」。
 選ぼうとは思わないけれど。
 何が何でも生き抜かなければ、地球には辿り着けないけれど。
(…死んでしまったら、国家主席にもなれないから…)
 もう取り戻せない、失った記憶。
 だから死ねない、いつか機械に命じるまでは。
 「ぼくの記憶を、ぼくに返せ」と。
 そして「止まれ」と、グランド・マザーを停止させるまでは。


 自殺なんかはするもんか、と握った拳。
 死んでたまるかと、「チームメイトに殺されるよりはマシなだけ」と。
 自ら選ぶ「死」というものは。
 他の誰かに殺されるよりは、自分の意志で死にたいだけ。
 同じ「死」でも、遥かに価値があるから。
 自分で選んだ道がそれなら、押し付けられるよりも心地良いから。
 死体になることは変わらなくても。
 其処で命が尽きることには、何の違いも無かったとしても。
(…誰かの間抜けな、ミスで殺されるよりかはね…)
 それくらいならば自分で死ぬよ、と思ったけれど。
 ずっとマシだと考えたけれど、こうして「生きている」自分。
 成人検査で子供時代の記憶を奪われ、その復讐のためにだけ。
 いつか記憶を取り戻そうと、がむしゃらに努力し続けるけれど。
 トップエリートに昇り詰めようと、メンバーズに、それに国家主席に、と思うけれども…。
(……それよりも前に……)
 今よりも前に「死んで」いたなら、どうだったろう?
 機械に記憶を奪われる前に。
 E-1077に連れて来られるよりも前に、エネルゲイアにいた頃に。


 そういう道もあったんだ、と今頃、思い知らされたこと。
 養父母が大切に育てていたって、死んでしまう子供はゼロではない。
 病死とか、事故死。
 そちらの道を進んでいたなら、自分は此処にはいないのだけれど。
 セキ・レイ・シロエはとうの昔に、死んでしまっている筈だけれど…。
(…そうなっていたら…)
 失くさなかった、と気付いた子供時代の記憶。
 目覚めの日よりも前に死んだら、両親も故郷も、しっかりと胸に抱えたまま。
 何一つ欠けてしまいはしないで、そのまま空へ飛べたのだろう。
(…子供は、死んだら…)
 天使になると何処かで聞いた。
 それが何処かは覚えていないし、誰に聞いたのかも覚えていない。
 父だったのか、それとも母か。あるいは何かの本で読んだか。
(ぼくが子供のままで死んだら…)
 両親は嘆き悲しむけれども、自分は幸せだったろう。
 ネバーランドへ旅立つ代わりに、背中に白い翼を貰って。
 「見て、飛べるよ!」と、はしゃぎ回って。
 ピーターパンにだって会いに行けると、きっと無邪気に喜んだだろう。
 両親の側を飛び回って。
 「ぼくはこんなに幸せなんだし、泣かないで」と。
 ネバーランドまで飛んで行けるよと、「ぼくは天使になれたんだよ」と。


 考えたことも無かったこと。
 幸せだった子供時代に、そのままで時を止めること。
 心臓の鼓動が止まってしまえば、「セキ・レイ・シロエ」は子供でいられた。
 大好きな両親を覚えたままで。
 故郷の風も光も空気も、何一つ忘れてしまいはせずに。
 大切な思い出を全て抱えて、舞い上がれた空。
 真っ白な天使の翼を広げて、永遠へと。
 子供が子供でいられる国へと、ネバーランドのそのまた向こうの天国へと。
 天使だったら、この上もなく自由だったろう。
 何処へ飛ぶのも、何処へゆくのも。
 きっと地球へも飛んでゆけたろう、天使の翼だったなら。
 白い翼を貰っていたなら、今頃は自由だった筈。
 大好きな両親の側を飛ぶのも、故郷の空を飛び回るのも。
 雲の隙間から地上を覗いて、「オモチャみたい」と町や車を眺めるのも。
(…天使の梯子…)
 そう呼ぶのだと聞いた、雲間から地上に射す光。
 天使が其処を通る梯子だと、天国と地上を行き来するためにあるのだと。
 あれを昇って雲の上へ行って、滑り台みたいに滑って下へ。
 両親に会いたくなった時には、天使の梯子で下りてゆく。
 ネバーランドに行きたくなったら、天使の梯子を昇って空へ。
 真っ白な天使の翼で羽ばたき、ピーターパンと一緒に飛んでゆく国。
 遊び疲れて眠る時には、フカフカだろう雲のベッドに転がって。


(……死んじゃってたら……)
 両親を好きなままでいられた。
 もちろん今も大好きだけれど、もう覚えてはいない顔。
 思い出せないから、何処で出会っても分からない。
 けれど、天使になっていたなら、両親の顔はぼやけなかった。
 故郷も家も覚えていられた、忘れたりせずに。
 幸せな子供のままでいられた、背中に白い翼の子供。
 「パパ、ママ!」と側を飛び回って。
 「シロエがいない」と嘆き悲しむ両親、大好きな二人に呼び掛けられた。
 自分の声は届かなくても。
 両親は泣いたままだとしたって、きっと自分は今より幸せ。
 何一つ失くさなかったから。
 命と身体は失くしたけれども、記憶は持っていられたから。
(……こんな所で、誰かのミスで……)
 命を落としてしまうよりかは、幸せすぎる自分の最期。
 ピーターパンの本で憧れた永遠の子供、自分はそれになれるのだから。
 真っ白な天使の翼を広げて、いつまでも子供なのだから。
 どうしてそちらへ行けなかったろう、この道へ来てしまったろう。
 もしも自分で選べたのなら、あそこで時を止めたのに。
 両親に手を握って貰って、「さよなら」と告げて。
 涙を流すだろう両親、誰よりも好きな人たちに「パパ、ママ、大好き」と。
 最後にそれを言えたら良かった、そして天使になれば良かった。
 自分で選んで良かったのなら、選び取ることが出来たなら。
(…でも、ぼくは…)
 成人検査がどんなものかも知らなかったし、きっと選ばない選択肢。
 素敵な未来があると信じて、機械に騙されたのだから。
 成人検査に全てを奪われ、此処にポツンと一人きりだから。


 けれど、と頬に零れた涙。
 自分が天使になっていたなら、本当に幸せだった筈。
 両親も故郷も何も失くさず、もう永遠に子供のまま。
(……神様は、どうして……)
 ぼくを死なせてくれなかったの、と思うけれども、もう戻れない。
 自分は天使になり損ねたまま、今も此処に生きているのだから。
 天使になり損なった子供は、こうして生きてゆくしかない。
 事故で命を落とさないように、誰かの間抜けなミスで殺されないように。
 今となっては、生きて世界のトップに立つしか道は無いから。
 失くした子供時代の記憶は、そうしないと戻って来ないのだから…。

 

          なり損ねた天使・了

※目覚めの日までに死んでいた場合、両親の記憶はそのままだよね、と思ったわけで。
 その発想に至るまでのシロエは、強気な今のシロエという。天使になりたいのもシロエ。






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(この若造が…!)
 よくも調子に乗りやがって、とソルジャー・ブルーが睨んだキース。
 こうしてメギドまで来たのだけれども、よりにもよって拳銃などで撃たれるとは、と。
 最初から死は覚悟していても、想定外とも言える展開。
(…メギドもろとも散るというのと、こいつの獲物になるのとでは…)
 雲泥の差というヤツで、と歯軋りしたって、とうに手遅れ。弾を一発食らった時点で。
 なにしろ元が虚弱な肉体、おまけに尽きかけていた寿命。
 メギドでも散々使った体力、其処へダメージを受けてしまったら、不可能なのが反撃なるもの。もう少しばかり元気だったら、キースの頭を吹っ飛ばせるのに。心臓だって止められるのに。
(……だが、しかし……)
 ただで殺されてたまるものか、とシールドを張りつつフル回転させている頭脳。
 なんとかして一矢報いてやると、野蛮な男に天誅なのだ、と。
 そうしたら…。
「反撃してみせろ! 亀のように蹲っているだけでは、メギドは止められんぞ!」
 撃ちながら挑発したのがキースで、その瞬間に閃いたこと。「それだ!」とピンと頭の中に。
 このブルー様を「亀」呼ばわりとは、なんとも無礼な男だけれど…。
(なるほど、亀か…)
 ちょっと捻れば楽しいことに、と唇に浮かべた不敵な笑み。
 キースは気付いていないけれども、「テメエ、一生、後悔しやがれ」と。
 ソルジャー・ブルーを舐めるんじゃねえと、命と引き換えに呪ってやろう、と。


 そんなこととも知らないキースが、ぶっ放した銃。
 「これで終わりだ!」と格好をつけて。
 その弾で右目を砕かれたけれど、思い切り礼はしてやった。サイオンを床に叩き付けて。
(ジョミー…。みんなを頼む!)
 後は任せた、と果たした復讐。キースはキッチリ呪ったからして、後は野となれ山となれ。
 自分の命は此処で終わるし、どうなろうと知ったことではない。
 キースが一生、ドえらい呪いにやられたままでも、何処かで呪いが解けるにしても。
(呪いを解くには…)
 ミュウを認めるしか方法は無い、と会心の出来の最後の呪い。
(亀の呪いというヤツが…)
 あったからな、と無駄に多かったブルーの知識。「亀の足は昔からのろい」という駄洒落。
 そいつを何処で仕入れて来たやら、もう覚えてはいなかったけれど。
 どうせ死ぬから、後はどうでもいいのだけれど。
(一生、後悔するがいい…!)
 これがソルジャー・ブルーの呪いだ、と高笑いしながらブルーは逝った。
 目的通りにメギドを沈めて、キースにガッツリ呪いをかけて。
 そのキースはと言えば、部下のマツカの瞬間移動で辛うじて逃げ延びていたのだけれど…。


「マツカ!」
 エンデュミオンの通路にくずおれたマツカ、医務室に運ぶべきだろう、と判断したキース。
 とはいえ今は急ぐからして、通りすがりの者を呼び止めた。
「おい、貴様!」
「はっ、何でしょうか!?」
 緊張した顔のヒラに向かって、「こいつを医務室へ運んでおけ」と命じたつもりが…。
「こいつを医務室へ運んでケロ!」
「…ケロ?」
 ポカンとしたのが目の前のヒラ。「運んでケロ」とは空耳だろうか?
「さっさとするケロ!」
「はっ!」
 なんだか変な言葉だよな、と思いながらもヒラは仕事を引き受けた。「ケロって、なんだ?」と頭がグルグルしながらも。
 一方、キースはまるで気付いていなかった。自分が「ケロケロ」言っていることに。
 聞く人が聞いたら「カエル語ですか?」と訊き返しそうな言葉であることに。


 …そう、カエル語。
 それがソルジャー・ブルーの呪いで、一時期、シャングリラで流行った言葉。
 カエルは幸運のシンボルだとかで、大増殖したカエル好き。いわゆるカエラー。
 その連中が使っていたのが、カエル語だった。何かと言ったら「ケロケロ」とカエル。
 キースが「亀」と言った瞬間、ブルーが思い出したのがソレ。
 そして思った、「こいつをカエルにしてやろう」と。
 ミュウと人類が和解するまでは、ケロケロ喋っているがいい、と。
 拳銃をバンバンぶっ放していたキースの心は、いい感じに隙が出来ていたから。
 勝ったつもりで威張り返って、心理防壁に生じた綻び。
 物理的には反撃不可能、けれども心の方は別物。
 だから「これで終わりだ!」とMAXになった綻び、其処へ向かってブチ込んだ呪い。暗示とも言えるかもしれない。
 「貴様は今日からカエルなのだ」と、「カエル語で喋り続けるがいい」と。
 呪いはジョミーに解いて貰えと、和解出来たら解ける筈だ、と。


 ソルジャー・ブルーの怖すぎる呪い、呪われているとも思わないキース。
 ゆえにマツカをヒラに任せて、向かったブリッジ。この後の指揮を執らねば、と。
「アニアン少佐! よく御無事で!」
 出迎えたのが補佐官のセルジュ、早速下した残党狩りの命令。
「グレイブの艦隊は、残存ミュウの掃討に当たらせケロ」
 一人も生かすなケロ、とやったものだから、一瞬にして凍った空気。「何なんだ?」と。
 けれども、やっぱり気付かないキース。
 自分がカエル語になっていることに。ケロケロ喋っていることに。
(自らの命を犠牲にしてメギドを止めたのか…。ソルジャー・ブルー…!)
 敵ながら天晴れ、と思うキースの脳内言語はカエル語に非ず。
 其処が呪いの怖い所で、自覚ナッシングに出来ていた。
 周りの輩が「カエル語なのか?」と目を剥いたって、キース自身には分からない。音声データを突き付けられて、「カエル語ですよ?」と指摘されない限りは。
 でないと、自分の鉄の意志でもって直すから。
 意地でもカエル語を話すものかと、根性で修正可能だから。


 かくしてキースはカエル語の男になってしまった。
 自分で自分の動画などを見て、「ゲッ!」となっても、自覚ナッシングだけに直せない。決してカエル語を喋るものか、と思っていたって、頭の中身と噛み合わないから。
 「マツカ、コーヒーを頼むケロ」くらいは可愛らしいもの。ほんの御愛嬌、毎度の台詞。
 いつでもケロケロ、どんな時でも。
 暗殺騒ぎに遭ったノアの宙港、其処で格好をつけた時にも。
 「諸君、私は健在だケロ!」と。
 カエル語になった時期が時期だけに、囁かれるのがソルジャー・ブルーの呪い。
 もう間違いなくソレだ、と誰もが考えるけれど、呪いは全く解けなかった。
 これで解ける筈、と皆が思った方法でも。「カエルにはコレだ」と挑んだヤツでも。
 曰く、「カエルの王子様」。
 お姫様のキスでカエルが王子に戻るからして、きっとこれなら、とキースにキスした面々。
 我こそはと思う部下はもとより、出世目当ての下っ端まで。
 マツカやセルジュやパスカルはもちろん、軍の施設で働く者も端から揃って。
 それでも直らないのがカエル語、キースはケロケロ喋り続けて…。


「いいだろう。グランド・マザーに会わせてやるケロ」
 ジョミーと地球で会った時にも、安定のカエル語な喋り。グランド・マザーの所へ降下してゆくエレベーターでも、変わらずに。
 「サムが死んだケロ」と。
 グランド・マザーの前でジョミーとチャンチャンバラバラ、それでもカエル語な男。
 「ミュウが生き残るためには、人類を殲滅するしかないケロ!」と。
 スウェナに託したメッセージの方でも、やっぱりケロケロ。
 「諸君。今日は一個人、キース・アニアンとして話をしたいケロ」と。
 ジョミーがグランド・マザーの触手に掴み上げられ、首をギリギリ締められたって同じこと。
 「何故、ミュウの力を使わないケロ!」と怒鳴る有様、それがカエルになる呪い。
 けれど、ソルジャー・ブルーの呪いが解ける条件、それは整いつつあるものだから…。
「命令を実行せよ、キース・アニアン。命令を」
 グランド・マザーがそう命じた時、キースがバッと向けた銃。
「うるさい! もう私の心に触れるな!」
 発砲したキースの言葉は、もうカエル語ではなくなっていた。
 「私は自分のしたいようにする」と。「したいようにするケロ」ではなくて。


 かくして、キースは最後の最後にカエルの呪いから解き放たれた。
 だから…。
「セルジュ、聞こえるか」
 地の底からセルジュに送った通信、それは「聞こえるケロ?」ではなかった。
 まさか、と驚いたのがセルジュで、キースの言葉は普通に続いた。
 「ミュウと共に地球を守れ」と、「よく今日まで、私について来てくれた」と。
「アニアン閣下!」
 例の呪いが解けたんだ、と目を瞠ったセルジュ。
 それでは、キースにかかったカエルな呪いを解いたのは…。
(…ジョミー・マーキス・シン…!)
 あいつのキスが閣下の呪いを解いたんだ、と握り締めた拳、俯いた顔。「なんてことだ」と。
 この騒ぎの中、アニアン閣下はミュウの長と、と。
 死にそうな声をしていたけれども、ミュウの長とデキてしまってキスもしたんだ、と。
(……我々では解けなかった呪いを、ミュウの長が……!)
 悔しいけれども、それが現実。
 キースの真実の愛の相手は、ミュウの長のジョミー・マーキス・シン。


 そういうことか、と唇を噛んで、セルジュは皆に命令した。
 「総員、直ちにワルキューレで出撃! 攻撃目標、軌道上のメギドシステム!」と。
 他の者たちが何と言おうと、これがカエルから立派な国家主席に戻ったキースの意志だから。
 ミュウの長とデキてしまった人でも、今までついて来た人だから。
 こうしてセルジュたちは地球を守って、間違った伝説が後に残った。
 「カエルになっていた国家主席は、ミュウの長のキスで元に戻ったそうだ」と。
 二人の間に真実の愛が生まれたらしいと、ミュウと人類が手を取り合う時代が来たのだと。
 ソルジャー・ブルーがかけた呪いは、解けたから。
 国家主席とミュウの長とは、最後に恋に落ちたのだから…。

 

         カエルの王子様・了

※なんだってこんな話が出来たか、自分でも謎。「亀の呪い」と思っただけなのに。
 とはいえ、「ケロケロ喋る」キースも悪くないかと…。ナスカから後はずっとカエル語。






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