(…なんだ?)
此処は何処だ、と見回したキース。
昨夜も遅くまでしていた仕事。国家騎士団の総司令ともなれば、半端ではない仕事量。
けれど…。
(寝ている間に何が起こった?)
私の部屋ではないようだが…、と途惑っていたら聞こえた声。
「キース先輩!」
捜しましたよ、と駆けて来たシロエ。「次の講義は大丈夫ですか?」と。
「…講義?」
何のことだ、と問い返したら。
「嫌ですねえ…。また忘れたんですか、今日はテストがあるんですけど」
教授が予告していましたよ、とシロエは見上げて来た。
ついでに広げて見せてくれたテキスト。「ほらね」と、「範囲は此処から此処までですよ」と。
(…テストだと…?)
それにシロエがいるのは何故だ、と改めて確認した周りの状況。
(E-1077ではないようだが…)
どちらかと言えば、その後に入ったメンバーズ向けの軍人養成学校。其処に似ている。窓の外は宇宙と違うようだし、何処かの惑星上らしいから。
(だが、テストなら…)
自分は学生なのだろうか、と思う間もなく、叩かれた肩。背後から「よう!」と。
「キース、今日のもヤバそうだよなあ…」
コケたら留年が待っているぜ、とサムが笑顔で立っていた。「リーチだよな?」と可笑しそうな口調で、ノートを手にして。
「リーチ…?」
「そうじゃねえかよ、お前、本気で崖っぷちだぜ」
詰んだって自分で言っていただろ、というサムの言葉で気が付いた。「そうだった」と、今更、自分の危機に。
すっかり忘れていたのだけれども、素敵にヤバイ自分の成績。テストの度に赤点三昧、平均点は遥か彼方で、どの科目だって…。
(…順位は下から数えた方が早くて…)
最下位も馴染みの場所だったよな、と思い出した自分の現状なるもの。中でも特にヤバイ科目が亜空間理論、次の時間にある講義。
(…アレを落としたら…)
進級出来ないんだった、と青ざめた、シロエに言われたテスト。…それにサムからも。
(毎回、毎回、赤点だから…)
そういう輩を救ってやろう、と教授が企画したのがテスト。定期試験では逃げ切れないド阿呆、もはや救いが無さそうな馬鹿に救済策を、と。
(…仏と名高い教授なんだが…)
そう、「仏」。優しい教授を指す隠語。
亜空間理論の教授は仏で、次の講義で行うテストで、そこそこの点を取れたなら…。
(成績を底上げしてくれて…)
落第しないよう救ってやる、と宣言していた。前回の講義が終わった後に。
(それに賭けた、と思っていたのに…)
どうやらド忘れしたのが自分で、ノート纏めをするどころか…。
(テキストも読んでいなかったんだが…!)
もうおしまいだ、と抱えた頭。これで進級もパアになったと、もう確実に留年組だ、と。
処刑台に向かうような気持ちで入った教室。亜空間理論の講義とテストがある場所だけれど。
「あっ、サム!」
こっち、こっち、とサムに手を振る金髪の少年。ああ見えて頭がいいジョミー。
(…どうせ、あいつも余裕なんだ…)
ぼくと違って、とサムと別れて座った席。手遅れとはいえ、少しは勉強、と広げたテキスト。
ところが相手は「超」がつく苦手、まるで頭に入って来ない。
(……ヤバすぎる……)
一文字も覚えられないんだが、と焦っていたら、「ヤバイんだって?」と横から覗き込まれた。例の金髪、相当に頭がいいジョミーに。
「サムに聞いたよ、今回、キースが超ヤバイって」
これを落としたら後が無いって、マジなわけ、と訊かれるままに頷いた。
「…お前みたいに頭が良くはないからな…」
今もサッパリ分からないんだ、とテキストを前にお手上げのポーズ。「何も分からん」と。
何処から見たって謎の暗号、そんな風にしか見えないんだ、とも。
そうしたら…。
「本気でヤバかったんですか…」
サム先輩に聞いた通りでしたね、と出て来たシロエ。「そうじゃないかと思いましたが」と。
テストも忘れているくらいだから、かなりヤバイとは思ったらしい。けれども、詰んだとまでは知らなかったそうで、助っ人を連れて来たと言うから…。
「助っ人だと?」
「はい。ブルー先輩に頼るべきですよ」
こういう時こそ頼って下さい、とシロエがズズイと押し出した人物。
(…こいつ、いったい、どういうコネを…!)
ブルー先輩は超絶エリートの筈なんだが、と失った声。こんなヒヨッ子のテストなんかに、手を貸してくれるわけがない、と。
なにしろ本当にエリートだから。ずっと首席を突っ走っている、伝説のような人だから。
嘘だろう、とポカンと見たのに、ブルー先輩は「失礼だな」とも言いはしなかった。
そうする代わりに「見せて」と一言、亜空間理論のテキストをパラパラと端まで繰って…。
「…山は此処だね、このページの此処。これさえ頭に叩き込んでおけば…」
今回のテストは大丈夫だよ、という太鼓判。
ただでも仏と噂の教授で、点の付け方は甘い筈。肝心のことさえ書いておいたら、きっと点数を貰える筈だ、と。
「…この三行でいけるのか?」
「そう。丸覚えすればパーフェクトだね。…他の所は白紙で出してもオッケーだよ」
心配だったら確認したまえ、とブルー先輩が呼び寄せたジョミー。それからサム。
シロエにも「山だ」という箇所を見せて、「どう思う?」という質問。
「すっげ…。この三行かよ、確かにそうだぜ」
肝だよな、とサムが頷き、ジョミーも「うーん…」と感嘆の声。
「此処なんだ…。ぼくでも思い付かなかったな、コレだけ書けばいいなんて…」
「ぼくもです。ブルー先輩にお願いした甲斐がありましたよ」
これでキース先輩も安心ですね、とシロエも保証してくれた。山は三行、それだけ覚えて挑めば点は貰えるだろう、と。
(有難い…!)
たった三行、そのくらいなら覚えられるだろう。だから深々と頭を下げた。
「ブルー先輩、感謝します! これで進級出来そうです!」
「それは良かった。でも、覚えるのは君だからね。机に書いたら直ぐにバレるよ?」
頑張ってそれを覚えたまえ、と手を振って去ったブルー先輩。「健闘を祈る」と。
(…山は教えて貰ったから…)
ブルー先輩が言うんだったら間違いない、と嬉しいけれど。ジョミーもサムもシロエも、三行でいけると保証をしてくれたけれど…。
(……この三行が……)
覚えられたら、今、最下位を走っていない、と悲しい気持ちがこみ上げてくる。ダテに赤点ではないのだから。どの科目でも赤点三昧、最下位をひた走る駄目な頭の持ち主だから。
(…サッパリ分からん…)
亜空間理論の肝な三行、それが肝だけに難しい。たった三行の暗記だけでも。
単語レベルで怪しい勢い、「何だった?」と前に戻っては、何度も読み返してばかり。サッパリ進んでくれはしないし、一行目から二行目にも行けない。
(マジでヤバイぞ…)
この三行も覚えられなかったら、と焦る間に講義の時間が来てしまった。
仏な教授は「予告した通り、今日はテストだ」とテキストやノートを片付けさせて、前から順に配られて来た裏返しのプリント。
(…どうなるんだ…)
少しでも何か書ければいいが、と「始めっ!」の合図で表返したのに。
(うわー…)
何も分からん、と思ったはずみにブッ飛んだ記憶。なけなしの一行さえも忘れた。ブルー先輩に教わった山の、三行の内の一行を。
(……もう駄目だ……)
人生終わった、と何も書けずに、ただ呆然と座っていたら…。
トン、トン、と軽くつつかれた肘。遠慮がちに。
(…???)
誰だ、と隣を眺めた瞳に映ったプリント。答えがビッシリ書いてあるもの。
「…どうぞ」
早く写して、と囁く声。「今の間に」と。
(マツカ…!)
そういえばいた、と気付いたマツカという名のエリート。あまりにも控えめで引っ込み思案で、友達もいない有様だけれど…。
(頭はべらぼうにいいんだった…!)
シロエたちにも負けてはいない、と蘇る記憶。いつも黙って座っているのに、教授たちの覚えがめでたいマツカ。とても成績がいいものだから。
(…いずれは第二のブルー先輩だという噂まで…)
そのマツカが「写して」と寄越したプリント。きっと答えはパーフェクトだから…。
(有難い…!)
感謝、と頭を下げて写しにかかった。丸ごと写したらヤバイと分かるし、チラ見しながらミスを混ぜ込んで。空白で放置の部分も作って。
(…これでなんとか…)
赤点は免れるだろう。ブルー先輩に教わった三行の中にあった単語も、バッチリ含んだ解答欄。
(あの三行は本当に山だったんだな…)
理解出来る頭があったなら、と思うけれども、無いのが現実。
こうしてマツカに助けて貰って、辛うじて進級出来る程度の頭しかなくて…。
(だが、助かった…!)
落第せずに済むんだな、と心で快哉を叫んだ所で目が覚めた。…自分のベッドで。
首都惑星ノア、其処にある国家騎士団総司令のプライベートな部屋で。
(…夢だったのか…?)
しかし…、と振り返った夢。
サムがいて、それにシロエもいた。ステーション時代に戻ったような気分だった夢。
(…私の成績はドン底だったが…)
皆が助けてくれようとした。心配してくれたサムに、ブルー先輩を連れて来たシロエ。マツカは答えを見せてくれたし、ジョミーも気にしてくれていたのだし…。
(……ブルー先輩というのが腹立たしいが……)
なんであいつがエリートなんだ、と不愉快だけれど、ブルー先輩は親切だった。成績不良で赤点三昧の劣等生でも、ちゃんと教えてくれた山。この三行で大丈夫だ、と。
(健闘を祈るとも言っていたな…)
あれが本当のミュウの姿か、と思えてくる夢。
出会いが全く違っていたなら、友になることもあるかもしれん、と。
(…ソルジャー・ブルーか…)
ブルー先輩でも悪くないな、と浮かんだ笑み。
たまには、こういう夢の世界に住んでみるのもいいだろう。
ドン底の成績で赤点だろうと、夢の中では学生気分だったから。
人類もミュウも無かった世界で、ああいう世界で生きてゆけたら、きっと楽しいだろうから…。
助けられたテスト・了
※キースの成績がドン底だったら面白いよね、と思った途端に浮かんだマツカのシーン。
「どうぞ」と答えを見せてくれる箇所。制服のデザインは決めていません、お好み次第。
(…ミュウどもの版図は拡大してゆく一方か…)
もう止めようがないのだろうな、とキースが零した深い溜息。
誰もいない部屋、とうに夜は更けて部下も訪れはしない筈。
マツカも先に下がらせた。「コーヒーくらい、私でも淹れられる」と。
言った言葉に嘘は無い。
(…インスタントのコーヒーならな)
マツカが淹れるようなコーヒー、あの味はとても淹れられない。
けれど一人でいたかった。
何故だか酷く疲れた気分で、今日はマツカの気遣いさえも…。
(余計なことを、と思うんだ…)
自分でもかなり酷いと思った、自分自身の感情のこと。
普段だったら、苛立ちを覚えることはあっても、それを全く見せずにいられる。
誰にも本音を知られることなく、心の中だけでする舌打ちも。
それが出来ない、どうしたわけか。
日に日に勢力を増してゆくミュウ、今日も一つの惑星が落ちた。
そのせいだろうか、苛立つのは。
妙に疲れを覚えるのは。
(…マツカも、所詮はミュウだからな)
ミュウだから顔を見たくないなら、この感情も理解出来る、と思ったけれど。
それで部屋から追い払ったのだ、と暫くは納得していたけれど…。
不意に心を掠めた言葉。
「友達だろ?」と。
遠い遠い昔、サムが何度も口にしていた。
あのステーションで、今はもう無いE-1077のあちこちで。
(……友達か……)
それか、と思い至ったこと。
明らかにミュウに敗れるのだろう、人類という古すぎる種族。
その日はそれほど遠くないのに、自分は此処から逃げ出せはしない。
軍人だから、というのは表向きのこと。
逃れられない本当の理由、それは自分の中にある。
血にも、髪の毛の一筋にさえも、刻み込まれた恐ろしい呪い。
(…マザー・イライザ……)
E-1077のメイン・コンピューター。
あれが自分を作ったから。
完全な無から作り出された生命、それが自分で、作られた理由そのものが…。
(…もう完全に時代遅れだ…)
どう考えても分の無い人類、それを統べるよう作られた命。
だから自分は逃げ出せない。
軍の全員がミュウに寝返ろうとも、誰一人としてついてくる者はいなくとも。
いつか、その日が来るのだろう。
ミュウを忌み嫌う筈の人類さえもが、ミュウたちの肩を持つ時が。
自分たちまでミュウになったような顔で、彼らに味方する時が。
そうなった時も、きっと一人だけ…。
(…ついてくるんだ…)
あのマツカなら、と尋ねなくても分かること。
宇宙の全てがミュウの側へと転がったとしても、ミュウのマツカは残るのだろう。
ただ一人きりで、自分の側に。
もう負け戦で、自分もろとも滅ぼされると分かっていても。
最後まで残った頑固な人類、そう勘違いされて消される時が来ようとも。
(…自分の命も顧みないで…)
行動を共にしてくれる人間、それが友達。
遠い日にサムが教えてくれた。
サム自身はそうは言わなかったけれど、そういうものだと教えられた。
マザー・イライザが仕組んだらしい、E-1077での新入生時代に起こった事故。
スウェナを乗せて入港して来た、宇宙船が見舞われた衝突事故。
上級生たちさえ行かなかった現場、其処へ救助に向かった自分。
サムは迷わずついて来てくれた。
「船外活動は得意だから」と、「しっかり食って、しっかり動く」と、こともなげに。
そうしてサムに救われた命。
命綱さえつけることなく、サムは助けに来てくれた。
一つ間違えたら、サムの命も宇宙の藻屑だったのに。
制御を失った自分の巻き添え、回転しながら宇宙の彼方へ飛ばされたかもしれないのに。
(…それを平気でやってのけるのが、友達なんだ…)
サムは実際それをやったし、きっとシロエもそうだったろう。
死ぬと承知で真っ直ぐに飛んで、宇宙に散ってしまったシロエ。
自分があの船を落としたけれども、ああいう風にならなかったなら。
マザー・イライザが選んだ捨て駒、それがシロエでなかったら。
(…マツカのように、上手い具合に…)
成人検査をパスして来ていたミュウだったのなら、シロエもきっと生き延びた筈。
マザー・システムを嫌いながらも、エリートとして。
きっとメンバーズの道を歩んで、何度も喧嘩を繰り返しても…。
(…私に何かあった時には…)
手を差し伸べてくれたのだろう。
憎まれ口を叩きながらも、「仕方ないですね」と恩着せがましく。
「高くつきますよ?」と恩を売ったりもして。
本当は命を懸けていたって、それさえもきっと…。
(サムと同じに笑い飛ばして…)
なんでもないのだ、という顔をしていただろう。
そう、シロエだって、生きていれば、きっと。
サムとシロエと、いる筈だった二人の友。
もしも自分の運が良ければ、マザー・イライザが作った命でなかったら。
けれど、自分が殺したシロエ。
あの時は他に道などは無くて、マザー・イライザに従わざるを得なかったから。
今から思えば、助ける道はあったのに。
シロエの船を見逃がしていれば、シロエはミュウの母船に救われて生きていたのだろうに。
(…サムなら、きっと見逃したんだ…)
そうだ、と確信できるサム。
そのサムもまた失った。
サムは生きてはいるのだけれども、もう覚えてはいてくれない。
病院まで会いに出掛けて行っても、サムにとっては「赤のおじちゃん」。
かつてのように話せはしないし、友ではあっても、今の自分と同じ場所には…。
(立っていないし、サムの世界に、友達のキースはいないんだ…)
今のサムはもう、命懸けでは来てくれない。
自分が危機に陥っていても、サムには理解出来ないから。
そしてシロエは死んでしまって、懸ける命すら持ってはいない。
(……もう、友達は……)
本当の意味でそう呼べる者は、誰も自分の側にはいない。
だから苛立つ、マツカを見ると。
最後まで自分の側にいるだろう、気弱なミュウのことを思うと。
(…マツカは、命を捨てるだろうに…)
命懸けで自分を救おうとさえ、きっとマツカはするのだろうに。
それなのに、マツカを「友」と呼べない。
マツカとの出会いが不幸だったせいか、それともマツカが弱すぎるのか。
ジルベスターまで、たった一人で自分を救いに来たマツカ。
あの時、マツカは命を懸けたし、メギドでもまた救われた。
(…いったい、何処が違うのだ…)
自分のために命を懸けてくれたサムや、きっと懸けるだろうシロエ。
彼らとマツカの何処が違うのか、どうして「友」になれないのか。
(……今更だ……)
散々マツカを道具のように扱い続けて、今更、友になりたいだなどと。
彼ならば友になれるだろうにと、なのに何故だと考えるなど。
(…友が欲しいなど…)
言えた義理か、と自分自身を叱咤する。
そのように動きはしなかったのだし、これが当然の結果だろうと。
(……私には似合いなのだがな……)
時代遅れの人類の指導者、そのように作られた命。
孤独に生きて死んでゆくのが似合いなのだし、それだけの覚悟は出来ている。
ただ、一つだけ悔いがあるならば…。
(…友達を作り損ねたな…)
それもまた私らしいのだがな、と浮かべるしかない自嘲の笑み。
サムの時にも、サムの方から友達になってくれたから。
自分は何もしなかったから。
(そして、シロエは…)
この手で殺してしまったのだし、友を作れるわけがない。
命を懸けてくれるだろうマツカ、彼と二人で最期を迎える日が来ようとも、自分には。
マツカと自分と二人だけしか、もう戦場にはいなくても。
(きっと最期まで…)
一人なのだ、と見える気がする自分の最期。
友を作るには、自分は向いていないから。
友になり得ただろうシロエも、自分が殺してしまったから。
たとえマツカが隣にいてくれようとも、最期まで孤独だろう命。
友を作るには向かない自分は、そのマツカさえも「友」と呼べないだろうから…。
作れない友・了
※マツカがもっと押しの強い人間だったなら。…キースと対等にやり合えたなら。
きっと友達になれたんだろう、という気がします。立場は部下でも、マブダチにね。
(こんな格好だけ、させられてもさ…)
悪目立ちしちゃうだけなんだから、と今日もジョミーは愚痴っていた。心の中で。
ソルジャー候補に据えられて以来、派手にド目立ちする衣装とマントが必須の日々。
なのに、伴わない中身。衣装に見合った働きが全く出来ないからして、陰口だって叩かれる。
(馬子にも衣裳、って…)
船の誰もが思っているから、いたたまれない上に情けない。「格好だけだ」と自覚は充分、陰でコソコソ言われなくても。…思念でヒソヒソやられなくても。
(サイオンの訓練を頑張ったって…)
悲しいかな、自分はソルジャー候補。
好成績を叩き出しても「出来て当然」、そういう目線。訓練担当の係はもとより、お目付け役の長老たちだって。
(少しも褒めてくれないし…)
逆に「やれば出来る」と言われる始末。もっと頑張れと、更なる高みを目指して努力、と。
何かと言えば、「ソルジャー・ブルーなら、これくらいは…」という評価。まだまだサイオンは伸びる筈だし、タイプ・ブルーの実力を発揮していないとも。
「褒めて伸ばす」という言葉が無いらしい船。
シャングリラはなんとも厳しすぎる船で、ソルジャー候補に甘くなかった。子供たちなら、甘いお菓子も優しい言葉も貰えるのに。
(…下手に十四歳だから…)
成人検査も受けちゃったのが敗因だよね、と分かってはいる。もっと幼い頃に来たなら、少しはマシになっていたろう風当たり。
けれど身体は縮みはしないし、きっとこのままスパルタ教育。
(…それでソルジャーになったって…)
ブルーみたいに身体を張って戦う日々で、と悲しい気分。
目立つ衣装も機能優先、物凄い防御力を誇る代物。ちょっとやそっとで破れはしなくて、耐火性だって抜群と来た。
(どうせだったら、見た目重視で…)
現場に出る時は、カッコイイ服に着替えられたらいいのにね、と零れる溜息。
アタラクシアの家にいた頃、ニュースなどで見たメンバーズ。国家騎士団の軍服とかに憧れた。いつかああいうのを着てみたいよね、と。
そう思ったのに、これが現実。時代錯誤でド派手なマント。
お伽話の王子様か、と自虐的な見方をしてしまうほど。この服を着て舞踏会かと、船中の女性とワルツを踊れと言うつもりか、と。
(何処から見たって、そっち系だよ…)
王子様なんてワルツだけだ、と思ったけれど。お姫様とハッピーエンドなんだ、とお伽話の王子たちを順に数えたけれど。
(えーっと…?)
シンデレラも白雪姫もそうだし、「眠れる森の美女」もそう。人魚姫も、と「王子様」の出番の少なさを嘆きまくっていたのだけども…。
ちょっと待って、と気付いたこと。
お伽話の王子様なら、お妃選びに舞踏会。ハッピーエンドな結婚式の添え物、主役はお姫様かもしれない。もしかしなくても、多分、そう。
けれど、視点を王子の方に絞ったら…。
(…カッコ良くない?)
ドラゴン退治や冒険の旅。本来、王子はそういうポジション。
剣を握って戦いまくって、颯爽とマントを靡かせるもの。
(…そっちだったら…)
この格好でもカッコいいかも、考えた。剣を振るって戦うのならば、絵になりそうだ、と。
ソルジャーとしての戦いだったら、まるで出番が無さそうな剣。
けれども、剣の達人となれば、皆の評価も変わるだろう。「出来て当然」ではないのだから。
サイオンに加えて剣も出来れば、プラスアルファの能力だから。
(うん、剣だよ…!)
それでカッコ良く戦ってやる、と固めた決意。一人きりでも剣士の道だ、と。
(きっと、ぼくしか戦えないしね?)
尊敬の視線を浴び放題、と思い立った足で走って行った。青の間まで。
「ブルー! お願いがあるんですけど!」
長老たちに意見して貰えませんか、と切り出したブルーの枕元。ベッドに横たわったままの青の間の主、ブルーは眠っていなかったから。
「ジョミー…? 君はいったい…」
何を彼らに頼みたいんだい、と瞬いた瞳。「君では頼みにくいのかい?」と。
「え、ええ…。その…。ちょっと…」
普通の頼み事じゃないですから、と打ち明けた剣の修行の話。
このシャングリラで唯一の剣士、その道で名を上げたいと。
王子みたいな衣装を着るなら、それに相応しくカッコ良く、と。
そうしたら…。
「…いいだろう。君の覚悟は良く分かった」
「え?」
覚悟って、と言い終わらない内に、「頑張りたまえ」と握られた右手。「嬉しいよ」とも。
「君にはソルジャーを継いで貰えれば、それで充分だと思ったけれど…」
剣の道まで継いでくれるとは、とブルーが浮かべた歓喜の表情。
「ぼくの代で終わりだと思っていたよ」と、「是非、シャングリラ一の剣士に」とも。
「ま、待って下さい…!」
あなたって剣士だったんですか、とビビッたけれども、「そうだとも」と頷いたブルー。
曰く、「若い頃には船で一番の剣士だった」と、「誰もぼくには勝てなかった」。
「君に其処まで要求するのは悪いと思って…。でも、君が望んでくれるなら…」
ぼくの剣を君にプレゼントしよう、と起き上がったブルー。「この下に…」と。
青の間に置かれたデカすぎるベッド、それの下から引っ張り出された革張りの箱。中から本当に剣が出て来た、まさしく王者といった風情の。
「…ブ、ブルー…?」
これって、と腰が引けているのに、「ほら」と譲られてしまった剣。「持ってごらん」と。
剣は素晴らしく重かった。
オモチャの剣とは違うらしくて、刃の部分を潰してあるというだけ。研ぎさえしたなら、本物の剣になるという。ドラゴンだって倒せるような。…伝説の勇者に相応しいような。
なんだって船にそんなものが、と驚いたけれど、答えは娯楽。
シャングリラの中でしか生きられないミュウ、体力作りと憂さ晴らしを兼ねて始めた遊び。
どうせやるなら本格的に、と本物志向の剣を作って。
旅の剣士やら女剣士やら、皆が好みの役どころで。
「修行するなら、ハーレイに頼んであげるから」
ぼくの次に強いのがハーレイだから、とブルーは笑顔で思念を飛ばした。「直ぐに来るよ」と。
間もなく来たのがキャプテン・ハーレイ、「分かりました」と引き受けた指導。
「私だけでは、ジョミーもつまらないでしょう。…ブラウたちにも声を掛けます」
彼らも達人ですからね、と聞かされたジョミーが悟ったドツボ。
サイオンの訓練の日々に加えて、これからは剣の修行まで、と。
(…なんで、こういうことになるわけ…?)
ぼくはカッコ良くキメたいと思っただけなのに、と叫びたくても、もはや手遅れ。
ブルー愛用の剣を譲られたし、ハーレイも喜んでいるようだから。「良かったですね」と。
シャングリラ一の剣士の跡継ぎ、それが生まれるとは素晴らしいです、と。
かくしてジョミーが背負う羽目になった、想定外だった剣の練習。
けれども、始めてみたら意外に…。
(面白いかも…?)
サイオンよりかは性に合うよね、とハーレイやゼルやブラウを相手にチャンチャンバラバラ。
その内に噂を聞いた若手も加わったけれど、ジョミーは筋が良かったらしい。
(これなら勝てる…!)
もうこの船の誰にでも、と向かう所に敵は無かった。
ただし…。
(…もしもブルーが現役だったら…)
まだ勝てない、とブルーの剣を知る誰もが言うから、懸命に磨き続けた腕。
ブルーが眠ってしまっても。
赤いナスカが燃えてしまって、ブルーがいなくなった後にも。
(負けられない…!)
人類なんかに負けてたまるか、と氷のような瞳で戦う地球までの道も、憂さ晴らしの友は自分の剣。ブルーに貰った剣を握って、ただひたすらに振るい続けた。
「かかって来い!」とハーレイを、リオを相手にして。
時には一度に何十人だって、切って切り結んで、倒しまくって。
そうやって戦い続けた剣士。シャングリラ一の剣士のジョミー。
けれども、まさかプロとは思わないのが人類だから。…機械の申し子、キースにだって、分かるわけなど無かったから。
地球の地の底で、いきなり剣を向けられたジョミーが取った反応、それは…。
「貰ったーーーっ!!!」
一瞬で見切ったキースの剣。サッと引くなり握ったのが剣、キィン! と響いた金属音。
キースの剣は一撃で弾き飛ばされ、思い切り宙を舞うことになった。
勝負は瞬時についてしまって、「私の負けだ」と認めたキース。
黙っていないのがグランド・マザーで、裏切ったキースを粛正するべく、山ほどの剣を降らせたけれど。文字通り剣の雨だったけれど、相手はジョミー。
「させるかぁーーーっ!!!」
端から叩いて弾き返して、その勢いで高めたサイオン。もう頭から突っ込んで行って、デッカイ目ごとグランド・マザーを貫いた。「この機械め!」と。
瓦礫と化したグランド・マザーの最後の攻撃、飛んで来た剣も…。
「フン!」
こんなのでぼくが倒せるか、と素手でピシャリと叩き落とした。殺気に気付けば簡単なこと。
(…まったく…)
世の中、何が役に立つやら、とマントの埃を払ってキースに差し出した右手。
「帰ろうか」と。
「あ、ああ…。しかし、お前は…」
いったい何処でこんな技を、とキースが呆然と座り込んだままで尋ねるから。
「ぼくたちの船だ。…あそこには大勢、師匠がいたから」
そして最強の剣士はブルーらしい、と浮かべた笑み。
ジョミーに他意は無かったけれども、キースの腰は見事に抜けた。
何故なら、ブルーと戦ったことがあったから。…メギドで拳銃で撃ちまくったから。
(…あの時、あそこに剣があったら…)
私は切り殺されていたのか、というキースの認識、それは間違ってはいない。
グランド・マザーをも倒した剣士ジョミーは、今もブルーに勝てないから。
三百年以上もシャングリラ一の剣士だったブルー、彼が現役なら、どう戦っても敗北だから…。
最強の剣士・了
※アニテラの最終話、なんだって剣で戦う必要があったのか、未だに分からないのが管理人。
単なるビジュアルだけなんじゃあ、と思ったトコからこういうネタに。…剣士ジョミー。
(マザー・イライザ…)
それが何さ、とシロエが顰めた顔。
ステーションE-1077、其処で与えられた自分の部屋で。
SD体制の時代の教育の要、エリートを育成するための最高学府。
(…こんな所になんか…)
来たくなかった、いつまでも故郷にいたかった。
十四歳の誕生日を迎えた子供は、大人の世界へ旅立つとは知っていたけれど。
目覚めの日とはそういうものだと、学校で何度も習ったけれど。
(……誰も教えてくれなかった……)
その日に受ける成人検査が何なのか。
受ければ何が起こるというのか、自分はどうなってしまうのか。
(…荷物は持って行けないって…)
そういう規則は知っていたものの、「邪魔になるから」だと思っていた。
成人検査は健康チェックのような検査で、それには荷物が邪魔なのだろう、と。
(だから、注意されたら置けばいい、って…)
そう考えて、大切な本を持って出掛けた。
両親がくれた宝物。
幼い頃から大事にしてきた、ピーターパンの本を鞄に入れて。
(…だけど、ぼくには…)
これしか残らなかったんだ、と机の上の本を見詰める。
ピーターパンの本は自分と一緒に来たのだけれども、他のものは全部置いて来た。
大好きな両親も、懐かしい故郷も、何もかも。
子供時代の記憶と一緒に失くした全て。
憎い機械に、テラズ・ナンバー・ファイブに消された、「捨てなさい」と。
「忘れなさい」と命じた機械。
そうして全て失くしてしまった、ピーターパンの本以外は。
E-1077に連れて来られて、既に何日も経ったのだけれど。
同じ船で此処に着いた者たちや、同じ日に到着した者たち。
共にガイダンスを受けた同級生たち、彼らは此処に馴染んでゆくのに…。
(…こんな薄気味悪い場所…)
嫌だ、としか思えないステーション。
頼りなく宇宙に浮いていることより、足の下に地面が無いことよりも…。
(…みんな、平気で…)
誰も振り返りはしない過去。
自分と同じに、過去を失くした筈なのに。
子供時代の記憶は薄れて、もう漠然としたイメージくらいしか無い筈なのに。
なのに平気な同級生たち、それが気味悪くてたまらない。
おまけに此処は、機械が治めているという。
(マザー・イライザ…)
そういう名前で呼ばれる機械。多分、巨大なコンピューター。
恐らくはきっと、あの憎らしいテラズ・ナンバー・ファイブと同じ。
(気味悪い顔で…)
顔の左右が歪んだような、醜く恐ろしい姿。
見た者を石に変えると言われる、メデューサのように忌まわしい顔。
(髪の毛が全部、蛇になっていても…)
驚かないよ、と思うほど。
どうせ会ったら、そういう姿だろうから。
テラズ・ナンバー・ファイブなどより、ずっと醜いだろうから。
そんな姿だ、としか思えない機械。
出来れば会わずにいたい機械が、マザー・イライザ。
もう機械などと話したいとは思わないから。
テラズ・ナンバー・ファイブで懲りたし、二度と関わりたくもないから。
(…会うもんか…)
絶対に会ってやるもんか、と心で繰り返していたら、けたたましく部屋に鳴り響いた音。
此処では嵌めているのが規則の、手首の輪から。
(マザー・イライザ…!)
この音がコールサインなのだと教わった。
コールされたら、行かねばならない。…マザー・イライザが待つ場所へ。
呼ばれる理由は実に様々、叱られるのだと聞いている。
けれど自分は今の所は無失点だし、呼ばれる理由は何も無い筈。
(……なんで……)
どうして、と手首を睨んでみたって、コールサインは止まらない。
マザー・イライザに会いに行かない限りは、この音はけして消えないという。
引き摺ってでも連れてゆかれる、自分の足で行かないのなら。
「マザー・イライザがお呼びだ」と、音を聞きつけた職員たちに捕まって。
あるいはプロフェッサーに言われて、渋々出掛けてゆくしかない。
(…そのくらいなら…)
行ってやるさ、と蹴り付けた机。
醜い機械と御対面だと、呼び付けた理由を正してやると。
何もしていないのに何故呼んだのかと、憎まれ口の限りを叩いて。
立ち上がったら、鳴り止んだコール。
まるで心を読んでいるよう。
(……気味が悪いったら……)
それとも監視カメラだろうか、如何にも機械がやりそうなこと。
気付かれないよう、機械の瞳で全てを監視し続ける。
(…部屋に帰ったら…)
そいつを見付けて壊してやるさ、と鼻で嗤った。
機械が監視すると言うなら、こちらもそれに対処するまで。
この部屋の中を端から探して、監視カメラを見付けて微塵に打ち砕くか…。
(…偽の映像でも流せるようにしてやろうかな?)
そういう勝負なら負けないよ、と唇に浮かべた勝ち誇った笑み。
相手は所詮、機械だから。
どんなに優れたコンピューターでも、人間には劣る筈だから。
(勝たせて貰うよ)
このぼくが、と固めた決意。
自分は機械に負けはしないし、言いなりにだって、なったりはしない。
監視するなら、そうされないよう手を打てばいいだけのこと。
カメラが無ければ、機械の目など無いのと同じなのだから。
けしてこの部屋を覗けはしないし、先回りだって出来ないから。
(帰って来たら…)
最初にやることは、監視カメラの発見と破壊。
それで防げる機械の盗み見、マザー・イライザの視線は消える筈だから。
ぼくは負けない、と部屋を出てから進んだ通路。
マザー・イライザはこの先にいる、と教わった場所へ真っ直ぐに。
(…出て来い、機械…!)
お前なんかに負けるもんか、と扉の奥へと踏み込んだ途端に、止まった息。
もう文字通りに止まった呼吸。
息をすることさえも忘れてしまって、懐かしさに胸が高鳴った。
目の前に故郷の母がいたから。
二度と会えないと思っていた母、顔さえもぼやけてしまった母が。
「ママ…!!」
どうしてママが此処にいるの、と叫んで駆け寄ったのだけど。
母に抱き付こうとしたのだけれども、すり抜けてしまった自分の腕。
「……ママ……?」
ママの身体が透き通ってる、と見開いた瞳。
いったい母はどうしたのだろう、それとも立体映像だろうか…?
「ママ……?」
急にこみ上げて来た不安。
故郷の母に何か起きたか、父に何かがあったのか。
それで知らせが来たのだろうか、立体映像で自分宛にと。
(……ママ……?)
何があったの、と尋ねたいのに声が喉から出て来ない。
あまりの不安に押し潰されて、すっかり声が嗄れてしまって。
マザー・イライザのコールの理由はこれだったのかと、恐ろしくて。
故郷で何が起こったのかと、母はいったい、何を知らせに来たのかと。
ただ怯えながら待っていた言葉。
母の映像が告げに来た何か、きっと良くない何かの兆し。
それは間違ってはいなかったけれど、不安は当たっていたのだけども…。
「…ようこそ。セキ・レイ・シロエ」
あなたの心が不安定なのでコールしました、と微笑んだ母。
「…ママ……?」
コールって何、と驚いて見詰めた母の顔。
母の言葉とも思えないから、こんな言い回しを母はしなかった筈だから。
(ぼくのこと、ママは「あなた」だなんて…)
呼ばなかった、と途惑う間に、母は優しい笑顔で続けた。
「コールサインで来たのでしょう? …セキ・レイ・シロエ」
私の名前は、マザー・イライザ。
このステーション、E-1077のメイン・コンピューターです。
あなたが来るのを待っていました、と母は澱みなく話し続ける。
「お母さんの姿に似ているでしょう?」と、笑みを湛えて。
「見る者が親しみを覚える姿で現れることも、私の大切な役目なのです」と。
(……嘘だ……!)
お前なんかはママじゃない、と叫びたいのに、動かない舌。
身体ごと全部凍ってしまって、床に縫い止められたよう。
(…ママ、助けて…!)
パパ、と心で悲鳴を上げても、母の手が頬に触れて来る。…マザー・イライザの手が。
「いらっしゃい、シロエ」
あなたの心を私に見せて、と微笑む機械に逆らえない。
こうする間に、意識が薄れて消えてゆくから。
マザー・イライザが触れた頬から、身体中の力が抜けてゆくから。
目覚めた時には、やはり同じに目の前に母。
「大丈夫ですか?」と、「ずいぶん深く眠っていました」と。
気分はどうです、と慈愛に満ちた笑みを浮かべる母を激しく怒鳴り付けた。
「お前なんか」と、「ぼくは機械は大嫌いだ!」と。
「……まあ、シロエ……」
あなたは混乱していますね、と機械は叱り付けさえしない。
母ならば、きっと叱るのに。
「ママに向かって怒鳴るだなんて」と、「パパが帰ったら言わなくちゃ」と。
(…まだ、そのくらいのことは覚えているよ…!)
こんな機械には騙されない、と駆け出したけれど。
後をも見ないで逃げ出したけれど、シロエは気付いていなかった。
幾つかの記憶を消されたこと。
一部を書き換えられたこと。
(…何なんだ、あのマザー・イライザって…!)
機械のくせに、と走り込んだ部屋で机に叩き付けた拳。
母を真似るなど許しはしないと、反吐が出そうなコンピューターだと。
そうして怒り続けるけれども、戦いを決意するのだけれど。
『……全て、私のプログラム通り……』
あなたはそのままでいいのです、と部屋を視ているマザー・イライザ。
シロエの中から、監視カメラを破壊する決意を消したから。
それを消されたことさえ知らずに、シロエは孤独な戦いの道へと踏み出したから…。
母を真似る機械・了
※シロエには「ママ」に見える筈なのが、マザー・イライザ。母に似た姿で現れる機械。
最初の出会いはどうだっただろう、と考えていたら、こういうことに。シロエ、可哀相。
「なんじゃとぉ!?」
お前は阿呆か、と炸裂したゼルの怒鳴り声。シャングリラ中に響き渡りそうな勢いで。
「まったくだよ。どの面下げて、ノコノコ戻って来たんだい?」
もう馬鹿としか思えないね、とブラウも容赦しなかった。
「…で、でも…。ブルーがそうしろって…」
だから戻って来たんだけど、とジリジリと後ずさりするジョミー。そう、格納庫で。
メギドの炎に襲われたナスカ、それをブルーと防いだけれど。ナスカで生まれた七人の子たちも協力してくれたけれど、其処から後。
ブルーが「この子たちを連れて船に戻りたまえ」と言うから、このシャングリラに戻って来た。なにしろブルーの言葉なのだし、それは素直に。「ごもっともです」と、子供たちを連れて。
いったい何処が悪いと言うのか、自分はブルーの言う通りにしただけなのに。
(…どうして吊るし上げられるわけ?)
子供たちは一人残らず連れて戻った筈なのに、と途惑っていたら。
「まだ分からんのか、阿呆めが!」
はい、そうですかと聞くような馬鹿が何処におるんじゃ、と怒りMAXのゼル。シュンシュンと沸騰する薬缶さながら、頭から湯気が立ちそうなほど。
「だけど、ブルーの命令で…!」
「それがいかんと言っておるのに、まだ言うか!!」
こんな阿呆に言うだけ無駄じゃ、と蹴り出されてしまった宇宙空間。
格納庫の向こうは宇宙だからして、思いっ切りの勢いで。ちゃっかりシールドを張り巡らした、ゼルとブラウにはオサラバで。
そして届いた二人の思念波、「反省しやがれ!」と。
「テメエの不始末はこっちでキッチリ片付けるから、ナスカの方を頑張って来い」と。
曰く、「生き残った連中は全員回収して来い」と、「それも出来ない馬鹿は要らん」と。
宇宙に放り出されたジョミーは、ナスカにダイブして行ったけれど。
いくらソルジャーでも、長老たちに逆らう根性は無くて、大慌てで降りて行ったけれども…。
「えらいことをしてくれおったわ…。あのド阿呆が!」
「ブルーは昔から、言い出したら聞かないタイプだけどねえ…」
今回ばかりは従えないね、とブラウも頭を振っている。「早いトコ、回収しに行かないと」と。
そんな二人が戻ったブリッジ、報告を受けたキャプテンの顎もガクンと落ちた。
「なんだって!? ソルジャー・ブルーがいらっしゃらない!?」
「そうなんじゃ。ジョミーの阿呆が、ノコノコと船に戻って来おったわ」
格納庫から蹴り出したがのう、とゼルが指差すナスカの方向。「今はあそこじゃ」と。
「それで、ソルジャー・ブルーの方は…?」
いったい何処へ行かれたのです、とエラも案じるブルーの行方。言われてみれば、ナスカ上空にあったサイオン反応、それが一つだけ消えていたから。…かなり早くに。
「よりにもよってメギドなんだよ、厄介な…」
一人でアレを止めるつもりさ、とブラウはお手上げのポーズ。「無茶すぎるってね」と。
「で、では、ソルジャー・ブルーは、お一人で…」
なんということだ、とハーレイが天井を仰いだけれども、「それじゃ」とゼルが上げた声。
「急いで回収しに行かんと…。ジョミーは納得したかもしれんが、ワシらはのう…」
「無理ってもんだよ、打つ手はまだまだあるんだからさ」
アンタも分かっているんだろう、とハーレイにズズイと迫るのがブラウ。
「このシャングリラを舐めるんじゃないよ」と、「ミュウにはミュウのやり方がある」と。
それから間もなく、急発進した一機のギブリ。
いわゆるミュウのシャトルだけれども、普通のとはかなり違っていた。
「今こそ、キャプテン・ゼルの出番じゃ!」
改造しまくった甲斐があったわ、と操縦席に座るのはゼル。隣の席にはブラウだって。
やたらとメカに強いのがゼル、趣味とばかりに改造を重ねていたギブリ。暇さえあったら、弄りまくって。最初に載せたのがワープドライブ、ついにはステルス・デバイスまでも。
早い話が、これで飛んだらアッと言う間にジルベスター・エイト、メギドがある場所。
ステルス・デバイス搭載なのだし、人類軍の船には捕捉されない仕組み。
かてて加えて、秘密兵器な人材が一人乗っていた。…ブラウの他に。
「いいかい、トォニィ? ワープアウトしたら後は頼むよ」
「分かってる! ブルーを助ければいいんだね?」
任せといて、と張り切るトォニィ。
子供たちの中では最年長だけに、まだ充分にあった体力。目指す宙域に到着したなら、ブルーの行方を探すのが役目。まずは発見、それから回収。…瞬間移動で。
「さてと…。後はトォニィに任せとくとして…」
ランデブーポイントをどうするかねえ、とブラウが検討している座標。
恐らくメギドの第二波が来るし、それよりも前にナスカを離れないとヤバイのがシャングリラ。
よって何処かで合流するのがベストな方法、あちらもこちらもワープしてから。
「適当でええじゃろ、そう簡単に事故は起こらんわい」
そのために辺境星域に決めて来たんじゃ、と応じたゼル。「アバウトにワープで充分じゃ」と。
合流地点にと選んだ宙域、其処に出てから連絡を取れば落ち合えるわ、と。
間違ってはいないゼルの方針、ワープするなら避けるべきなのが衝突事故。
けれど宇宙は広いわけだし、シャングリラが如何に巨大な船でも、ギブリ程度の小型艇とは…。
(そうそう衝突しないんじゃ…!)
とにかくトンズラ、そちらが肝心。ソルジャー・ブルーを回収したなら、即、ワープ。
そうこうする間に到着したのがジルベスター・エイト、人類軍の船とメギドが見えたから…。
「頼むぞ、トォニィ!」
お前が頼りじゃ、と言い終わらない内に、トォニィの姿は消えていた。
一方、メギドの制御室では…。
「これで終わりだ…!」
ソルジャー・ブルーを銃で撃ちまくったキース、彼が格好をつけた瞬間。
撃った弾はブルーのシールドを突き抜け、赤く煌めく右の瞳を微塵に砕く筈だったけれど…。
「キース…!」
此処は危険です、と駆けて来たマツカ。キースを抱えて瞬間移動で逃げたその時、入れ替わりに飛び込んで来たのがトォニィ。
「ブルー!」
危ない、と叫んだ「できる」トォニィ、弾をしっかり止めていた。
ブルーの方では気付きもしないで、バーストさせたサイオンを床に叩き付けるという有様。
助けが来るとは思っていないし、最初から死ぬつもりだから。…そういう予定だったから…。
(ジョミー…!)
みんなを頼む、と遺言よろしく最期の言葉を紡いだ所へ、かかった「待った」。
いきなり意識がブラックアウトで、本人的には「死んだ」と自覚したのだけれど…。
「連れて来たーっ!」
血だらけだから仮死状態にして来たよ、とトォニィが抱えて来たブルー。
もっともトォニィは子供なのだし、「抱える」という表現は相当に無理がある感じ。
「おお、よくやった! …しかし、ボロボロじゃのう…」
ノルディがかなり手こずりそうじゃ、と嘆きながらもゼルは大満足で、ブラウも笑顔。
「いいじゃないか、無茶をやらかしたって自覚して貰わないとね」
あたしたちの苦労が無駄になっちまう、と打ち込んでゆく座標、ギブリはそのままワープした。丁度その頃、ナスカの方でも…。
「キャプテン、ワープ!!」
やっと全員回収できた、と戻ったジョミーの一声、シャングリラの方もワープして消えて…。
メギドはと言えば、ブルーの破壊活動のせいで下がってしまった照射率。
その上、なんとか撃った先には、もうシャングリラの影さえも無くて、ミュウの被害は第一波で死んだ運の悪い者だけ。シェルターに残った頑固な面々、それもジョミーが回収したから。
そんなこんなで終わった惨劇、じきに合流することになった、ゼルのギブリとシャングリラ。
「どうじゃ、ワシらが本気を出したら、こうなるんじゃ!」
ソルジャー・ブルーは生きておるわい、とゼルは大威張りで、トォニィも浴びている称賛。
「まだ小さいのに、よく頑張った」と、「流石は俺たちのナスカの子だ」と。
一方、立つ瀬が無いのがジョミーで、まるで初めてシャングリラに来た頃のよう。
「あいつのせいで、ソルジャー・ブルーは…」とヒソヒソ陰口、「見捨てて船に戻ったらしい」などと針の筵な船の中。
(…ブルー、なんとか言って下さい…!)
早く意識を取り戻して、皆に「違う」と言ってやって下さい、とジョミーは泣きの涙だけれど。
ブルーの意識が戻りさえしたら、みんなも分かってくれる筈だ、と思う毎日だけれど。
「…ブルーの方も、ガツンと叱ってやらないとねえ…」
単独行動で迷惑かけてくれたんだから、というブラウの意見に長老たちは賛成だった。
キャプテンも全く反対しないし、どうやらブルーは「みっちりと」叱られるらしい。
先の指導者の立場も忘れて、好き放題をやらかしたから。
今や「阿呆」と評判のジョミー、彼にも負けていない「阿呆」で、大迷惑な老人だから…。
老人とメギド・了
※「7月28日はブルー生存ネタの日なんだぜ!」と、2011年から戦っていた管理人。
ハレブル転生ネタを始めた2014年からサボッてましたが、久しぶりに。
2016年7月28日記念作品、何故だか「その2」。ネタ系で書くとは思わなかったよ…。
