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『箱の最後には……希望が残ったんだ』
 それがキースの心に届いた、ジョミーが紡いだ最期の思念。
 肉声は「キース」と呼び掛けて来たのが最後で、飛び去ってしまったジョミーの魂。
 ようやっと真の友が出来たと思ったのに。最後まで共に戦った仲間、本当の友を得られて心から満足したというのに。
 だからキースがついた溜息。「最後まで……私は一人か」と、悲劇のヒロイン気取りで。
 そう、ヒーローではなくてヒロイン、そんな感じで。一人残されて岩の下敷き、考えるだに気の毒な最期なのだから。誰も看取ってくれはしなくて、悲しむ人もいないのだから。
(マツカの方が恵まれていたな…)
 チラリと頭を掠めた思い。マツカも大概な最期だったけれど、自分が看取ってやったのだし…。
(セルジュもパスカルもあの場にいたぞ)
 それに比べて私はどうだ、と可哀想すぎる自分の最期を思いながら逝ったわけなのだけれど。
 とうとう岩が落ちて来たかと、多分、押し潰されたのだけれど…。


「…どの辺がどう気の毒なんだか…」
 悲劇のヒロインぶられても、と容赦なく頭を蹴り飛ばされた。ジョミーのブーツで。
 恐らく天国、もう見るからにそれっぽい雲の絨毯の上で、ゲシッと、「ていっ!」と。
「何をする!?」
 痛いじゃないか、と起き上がったら、其処で腕組みしていたジョミー。偉そうな態度でこちらを見下ろし、「自覚が無いのが酷すぎだから」と吐き捨てた。
「誰が言ったんだったっけ…。シロエだっけか、幸福なキースっていうヤツは」
 君は本当に幸福すぎだ、と睨み付けているジョミーの後ろから、シロエがヒョイと覗かせた顔。
「そうです、それで合ってます。幸福なキースは、ぼくの台詞ですよ」
 登録商標ではないんですけど、と謙遜しつつも、自慢の言葉ではあるらしい。遠い昔にシロエが罵倒してくれた、「幸福なキース」なるヤツが。
「…この期に及んで、それが何だと?」
 成人検査を通過したかどうか、そんなのは細かいことだろう、と言ったのに。
 死んで天国までやって来たのに、重箱の隅をつつくようなことをしなくても…、と考えたのに。
「甘いね、君は。…本当に甘くて、もう「幸福なキース」としか…」
 言えやしない、とジョミーは上から目線で続けた。思い切りハッピーエンドな最期だったのに、贅沢をぬかす奴なんて、と。
「あれがハッピーエンドだと!? 私のか!?」
 違うよな、とキースは噛み付いた。SD体制は崩壊したから、人類とミュウにとっては、きっとハッピーエンドだろう。ああいう悲惨な死に方でも。
 けれど自分にとってもそうかと言われたら…。
(全力で生きた者にも後悔は無いが、ハッピーエンドなら、もっとこう…)
 希望があってもいいと思うし、「箱の最後に残った」ような希望では困る。パンドラの箱など、死んだ後には何の役にも立たないから。希望は「生きてこそ」なのだから。


 そんなわけだから、「違う」と思ったハッピーエンド。人柱よろしく斃れた自分は、もう絶対にハッピーエンドを迎えてはいない。バッドエンドの方だろう、と自信満々だったのに…。
「まあ、そうだとも言えるだろう。君にはあれが全てなんだし、気の毒なのかもしれないが…」
 でも天国に来たら、こんなテキストが…、とジョミーが、シロエが持っている本。
 いったい何の本だろうか、と見詰めてみたら、『地球へ…』と書かれたタイトル。何処かで目にした覚えがあるな、と思うけれども、おぼろな記憶。死んだはずみに、ブッ飛んだかも。
(地球というのは、あの地球だろうが…)
 私が岩の下敷きになって死んだ場所だな、と理解はしても、結び付かない本との関係。あの本に何の意味があるのか謎だし、タイトルの記憶もナッシング。
 けれどジョミーが、シロエが繰っているページ。互いに頷き合いながら。
 「なんて幸せな男なんだ」と、「ええ、幸福なキースですよね」と。
(どういう意味だ…?)
 サッパリ分からん、とボーッとしていたら、「このタコがあ!」とジョミーに張り飛ばされた。
 「テメエの人生、ちゃんと自分で確かめやがれ」と、「この本がオリジナルだから!」と。
(…オリジナル……?)
 それは伝説のタイプ・ブルー・オリジンとは別物なのか、と思ったオリジナル。手渡された本をパラパラめくると、其処に見付けた「タイプ・ブルー・オリジン」。そう、伝説の。
(こんな所にソルジャー・ブルーが…?)
 私が知らない時代のだな、と伝記っぽい本を読んでゆく。文字オンリーではなくて、見るからに娯楽なコミックだけど。何処から見たって漫画だけれど。
 そうしたら…。
(…へ?)
 此処で終わりか、と仰天したソルジャー・ブルーの最期。
 驚いたことに、アルテメシア、いやアタラクシアという星でジョミーを後継者に据えた途端に、彼の命は終わったらしい。ご丁寧にガラスの柩に入って、花まで背負って。
(…いや、こう見えて、実は死んでいなくて…!)
 白雪姫の童話よろしく、ガラスの柩から復活だろう、と考えたのに甘かった。舞台は其処で暗転だから、もう本当に死んだっぽい。…ソルジャー・ブルーは、綺麗サッパリ。


 はて…、とページをめくってみたら、颯爽と登場した自分。サムもセットで。ついでにシロエも一緒に登場、何処か違った世界なE-1077。
(…これはどういう本なのだ?)
 私の人生が描かれている本なのか、と読み進めたら、またしても衝撃の展開。まだ少年のような自分が、フロア001にいた。シロエが「ゆりかごですよ」と言っていた場所に、その直後に。
(知るのが、やたらと早すぎないか!?)
 ジルベスターの後まで知らなかったが、と愕然とさせられた出生の秘密。
 自分の場合は、「マザー・イライザが無から作った生命」だなんて、中年に差し掛かるまで全く知らなかったから。
(…えらくまた、苦労性な私もいたものだ…)
 こんなに早く知ってどうする、と驚きながらも読んでゆく『地球へ…』。もうあちこちで何かが違うし、見て来たものとは別世界。天国に来るまでに生きた人生、それとも激しくズレまくり。
 そうやって辿り着いた終幕、なんとジョミーを撃ち殺したから驚いた。そう、自分が。
 自分の名誉のために言うなら、自分の意志ではないけれど。グランド・マザーに操られた末に、及んだ凶行。平たく言うなら心神喪失、多分、責任は問われない。そうは言っても…。
(これはあまりに…)
 強烈すぎる、とガクブルしながら読んでいったら、トドメの一撃。
 グランド・マザーの次に控えた、「コンピューター・地球(テラ)」という有難い機械。地球を滅びから救える機械を、せっせと止めている自分。「もう決めたんだ」と、せっせ、せっせと。
(いったい、此処の私は何を…!)
 それを止めたら地球は終わりで…、と思った通りに、ドえらい惨事に見舞われた地球。
 その一方で自分はといえば、「この世をば、どりゃお暇に線香の煙と共にハイ、さようなら」と言わんばかりに、この世にオサラバしてしまっていた。十返舎一九ではないけれど。
 自分が暴走して殺したジョミーに、「俺を殺せ」と格好をつけて、サックリと。
 かくして終わった自分の人生、やたらと苦労が多そうだけれど。
 最後の最後まで友はいなくて、「私は一人か」を極めた感じが、もうMAXに漂うけれど。


(これはいったい…)
 何なのだ、とガン見した『地球へ…』。運命を左右する「予言の書」というブツにも見えるし、あるいは冗談、いやいや悪魔の仕業なのかも…、とも思っていたら。
「分からないかな、オリジナルだと言ったけど?」
 ジョミーがフンと鼻を鳴らして、のたまった。「本来、君の人生はそういうヤツらしい」と。
 若い頃からドップリ苦悩で、死ぬまでひたすら苦労の連続。そう生きるのがキース・アニアン、「最後まで……私は一人か」などと寝言も言えずに、ドツボな人生。
 なのに全く違う生き方、「お気楽極楽、そういう感じで生きなかったか?」と、イヤンな指摘。
 自分の生まれを知りもしないで、ノホホンと生きた若かりし日々。それこそやりたい放題で。
 メギドは持ち出す、ソルジャー・ブルーもなぶり殺すで、人生エンジョイしたろうが、と。
 自分の生まれを知った後にも、まるで無かった反省の色。
 グランド・マザーと戦う時さえ、「私は自分のしたいようにする」と銃をぶっ放していた程度。やっぱり変わらず好き放題だし、苦労の「く」の字も無かったわけで…、と。
「い、いや、それは…。それは間違いないんだが…!」
 あれが私の精一杯の抵抗で…、と食い下がったけれど、弱すぎる立場。オリジナルの方と比べてみたなら、「何もしていない」も同然の自分。…情けないことに。
 銃をぶっ放したまでは良しとしたって、グランド・マザーに粛清されて剣でグッサリ。あえなくリタイヤ、後はジョミーに丸投げしたのが自分というヤツ。
(…ただ転がっていて、グダグダ喋っていただけだとか、なんとか言わないか…?)
 そうだったかも、と青ざめた顔。「頑張りがかなり、足りないのでは…?」と。
 苦労知らずでぬくぬく育って、最後はサックリ退場だから。
 あれこれ御託を並べていたって、剣で刺されて、まるで虫ピンで留められた虫。動きもしないで「くっちゃべっていた」と切り捨てられたら、「ハハーッ!」と土下座で詫びるしかない。
(…確かに、「幸福なキース」なのかもしれん…)
 この人生に比べたら…、とガクガクブルブル。オリジナルだという『地球へ…』を手にして。
 「私の人生は、本来こうか」と、「悲劇を気取って申し訳ない」と。


 ジョミーに、シロエに、詰られたって仕方ないのだな、とブルッていたら、ポンと叩かれた肩。
 「久しぶりだね」と、後ろから。
(誰だ!?)
 今度は誰がやって来たんだ、と振り返った所に、立っていたのがソルジャー・ブルー。
 ジョミーたちと同じに、『地球へ…』の本をキッチリ手にして、「その節はどうも」と。
「もう読んだんなら、分かってくれたと思うんだけどね? ぼくは本当なら…」
 間違っても君と出会う筈はなくて、狩りの獲物になるわけもなくて…、とソルジャー・ブルーが浮かべているのが、怖すぎる笑み。愛想が良すぎて、こみ上げる恐怖。
 そんな心を知ってか知らずか、伝説のミュウは極上の笑顔で続けてくれた。
 「君の人生に花を添えるためにだけ、ぼくは生かされていたようだけどね?」と。
 「お蔭で散々酷い目に遭って、ガラスの柩を貰うどころか、葬式も無しの人生だった」と。
 脇役だから仕方ないけれど、と言いつつ、実は据わっているのが彼の赤い瞳。そしてやっぱり、シロエの自慢の例の台詞をパクッてくれた。「君は幸福なキースだよ」と。
 「ぼくの人生を踏み台にして、華麗にステップアップだからね」と、「二階級特進で上級大佐になった気分は、さぞかし素敵だっただろう」とも。
「そ、そう言われても…。私に、そういう自覚は全く…!」
 無かったんだが、と言い終えない内に、ジョミーに、シロエに取り囲まれた。両脇から。
「往生際の悪い奴だな、君という奴は。要は、君が生きて来た人生は…」
 君にとってはハッピーなヤツで、最後もハッピーエンドなわけで、とジョミーが迫れば、横からズズイと出て来たシロエ。思いっ切りの訳知り顔で。
「その通りですよ。オリジナルの方なら、ぼくが死んでも意味はあったんですけどね…」
 こっちのコースだと無駄死にですよ、とキッツイ一言。実際そうだし、ヤバすぎる立場。自分の生まれを全く知らずに何年生きたか、お気楽すぎる時代が何年あったのか。
「…で、では、私が生きたあの人生は…」
「君がハッピーエンドを迎えるために、他のみんなが踊らされていたようだけれどね?」
 ぼくも含めて…、とソルジャー・ブルーは笑顔だけれども、生憎、その目がマジだった。囲みにかかったジョミーもシロエも、ジト目で見ている「幸福なキース」。
 ちょっと幸福すぎやしないかと、「その幸福は、皆にお裾分けするべきだ」と。


「畜生、どうしてこうなるんだ!?」
 死んだ後まで、何故こうなる、と悲鳴を上げても、後が無かった「幸福なキース」。
 「言いがかりだ」と必死に言い返そうにも、「オリジナルはこうだ」と、皆が掲げる錦の御旗。
 誰もが手にする『地球へ…』のコミック、この天国では聖書よろしくデフォ装備。
 それを読んだら、ナチュラルに理解できること。キースが生きた人生と世界、それらは残らず、全部キースのハッピーエンドのために書かれた物語。
 もう思いっ切りハッピーに生きて、やりたい放題、し放題。グランド・マザーに逆らう時さえ、貫いたのが自分流。挙句の果てにジョミーに丸投げ、気分は悲劇のヒロインな最期。
 そうとしか読めない恐怖のテキスト、皆が知っているオリジナル。『地球へ…』のコミック。
(うわー…)
 アレのせいで皆にたかられるんだ、と泣きそうなキモチの「幸福なキース」。
 何かと言ったら「今日はキースのおごりだから」と、ジョミーが、シロエが毟ってゆく。天国の酒場やレストランやら、そういった所で遊ぼうと。今日は居酒屋『緑の丘』を貸し切りだ、と。
 もちろんソルジャー・ブルーも毟るし、毟らないのはマツカくらいかと思ったら…。
(…いつの間にやら、ミュウの連中とマブダチになって…)
 楽しく飲み食いしていやがった、と「幸福なキース」の苦悩は尽きない。
 オリジナルと違って、「リアル人生」で全く苦労をしなかった分だけ、天国で苦悩。
 今日も今日とて、「キース!」とジョミーが駆けて来る。『緑の丘』で飲んで騒ごうと。
 その後ろにはソルジャー・ブルーの姿も見えるし、シロエやサムも。それにマツカも、グレイブまで混じっているものだから…。
(今度こそ破産しそうなんだが…!)
 もういい加減、後が無いんだ、と既にリーチなキースの財布。
 来る日も来る日も毟られまくって、神様に何度も頼みまくっている前借り。そろそろ「断る」と言われそうだし、そしたら破産するしかない。この天国では稼ぐ道など無いのだから。
 それでも彼らは逃がしてくれずに、遠慮なく飲み食いするのだろう。
 「お金が無いなら、お皿を洗えばいいじゃない」と、ジョミーあたりが厨房の奥に蹴り込んで。
 「ぼくたちは勝手に飲み食いするから、君は代金を身体で払ってくれたまえ」と、恐ろしすぎる伝説のタイプ・ブルーが、逃げ道を塞いでくれたりして。


(…きっと本当に、そういうコースだ…)
 もう泣きたい、と呻くしかない「幸福なキース」。いっそこの名を、商標登録しようかと。
 誰かがそれを口にする度、小金が入って来るようになれば、今よりはマシな暮らしが…、と。
 ウッカリ幸福に生きたばかりに、この始末。今日もたかられる、天国の居酒屋『緑の丘』。
 自分的には、悲劇のヒロインな最期だったのに。
 「最後まで……私は一人か」と呟いて死んだ時には、きっとキマッていた筈なのに。
 人生、本当に分からないから恐ろしい。
 あれでも究極のハッピーエンドで、それまでの人生もハッピー満載。
 周りの全てを巻き込みながらの「幸福なキース」、そう生きたのが自分らしいから。
 どんなに「違う」と叫んでみたって、誰もが『地球へ…』のコミックをドンと突き付けるから。
 今日も賑わう天国の居酒屋、その名も『地球の緑の丘』。
 もう最高のネーミングセンス、ワイワイと皆が入り浸る店。「いつかは本物に行こう」と。
 せっかくだから夢は大きく、天国よいトコ、青い地球だっていい所。
 いつか「幸福なキース」よりもずっと素敵なハッピーエンドを、本物の地球の緑の丘で、と…。

 

          天国の緑の丘・了

※アニテラ放映終了から9周年の記念に何か、と思ったのは確かですけれど…。
 気付けば気の毒すぎたのがキース、でも、そう読める原作の怖さ。誤解と曲解てんこ盛りで。
 すまない、キース、記念作品のネタに君を選んで。心からすまなく思って…い…る…?






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(自らの命を犠牲にして、メギドを止めたのか…)
 ソルジャー・ブルー、とキースの心を占めるもの。そう、今も。
 メギドを失い、グレイブの艦隊に残存ミュウの掃討をするよう命じたけれど。
 その時からの思いで、今も消えない。
 自室に引き上げ、こうしてシャワーを浴びている今も。
 グレイブが指揮する艦隊とは別に、こちらの船はジルベスター・エイトから離脱中。
 ミュウどもが「ナスカ」と呼んでいた星、ジルベスター・セブンも遠ざかりつつあるけれど。
 ジルベスター・セブンは砕けて、跡形も無いのだけれど。
(…ソルジャー・ブルー…)
 もういない、伝説のタイプ・ブルー。…タイプ・ブルー・オリジンと呼ばれた男。
 自分が彼を撃ち殺したと言っていいのか、それとも成し遂げられなかったか。
(これで終わりだ、と…)
 撃ち込んだ弾は、彼のシールドを突き抜けて右の瞳を砕いた。
 あれで終わりだと思っていたのに、倒れなかったソルジャー・ブルー。
 代わりに起こしたサイオン・バースト、噴き上げるように広がり始めた青い光の壁。
 危うく、それに…。
(巻き込まれていたら、今頃、私は…)
 生きて此処にはいなかったろう。
 サイオンの光に一瞬にして焼き尽くされたか、あるいは意識を失ったのか。
 もしも、あそこに倒れていたなら、自分の命は無かった筈。
 メギドの制御室は、そういう所だから。
 発射される時に其処にいたなら、命が危ういエネルギー区画。
 それが常識、だからマツカは「行っては駄目です」と止めにかかったし、後を密かに…。
(つけて来ていたから、私を救い出せたんだ…)
 サイオンの光に巻き込まれる直前、走り込んで来た忠実なマツカ。
 彼が自分を抱えて「飛んだ」。
 瞬間移動で、制御室からエンデュミオンの艦内まで。


 そうして辛くも救われた命。
 自分の命がどれほど危ういものであったか、嫌と言うほど思い知らされた。
 残党狩りを命じた後に、「部屋に戻る」と戻って来たら。
 酷く疲れを覚えていたから、気分転換に浴びようと思った熱いシャワー。
 バスルームの扉を開けた途端に、其処の鏡に映った自分。
(セルジュたちにも見られたな…)
 煤まみれになった、あの顔を。
 けれど彼らは、「ソルジャー・ブルーと死闘を繰り広げた結果」なのだと思っているだろう。
 戦いの最中に起こった爆発、その時に浴びた煤なのだと。
(…それならば良かったのだがな…)
 生き残ったことを誇れもするし、死の淵からの生還の証と言えるのだから。
 メギドを失ったほどの爆発、それを食らっても「生き延びる術」を持っていたのだと。
(…だが、実際は…)
 マツカが助けに来なかったならば、失われていた自分の命。
 本当に命の瀬戸際だったと、顔についた煤が示していた。
 間一髪で救われただけで、そうでなければ失くした命。
 サイオンの光に焼かれて死んだか、あるいはメギドの発射で命を落としたか。
 どちらにしたって、生き残れていたわけがない。
 いったい自分は何をしたのか、どれほど愚かだったのか。
 それを突き付けられたのが鏡、其処に映った煤まみれの顔。
 「これがお前だ」と、「お前がやったことの結果がこれだ」と。
 マツカがいなければ死んでいたのだと、「なんと無様な姿なのだ」と。
 煤まみれの顔が映っているのは、生きて此処にいる証拠だけれど。
 その命は何処から拾って来たのか、ちゃんと自分で守ったのか。
 答えは「否」で、一人だったら失くした命。
 瞬間移動など出来はしないし、きっとメギドの制御室で。
 ソルジャー・ブルーと共に倒れて、それきりになっていたのだろう。
 「アニアン少佐は戻らなかった」と報告されて。


 元より、命が惜しくはない。
 軍人なのだし、惜しいと思ったことさえも無い。
 ただ、その「命」の失くし方。…何処で失くすか、どう失くすのかで違う価値。
 命を捨てた甲斐があるなら、軍人冥利に尽きるのだけれど。
 何の成果も上げることなく死んでいったら、それは無駄死に、犬死にでしかない。
 いくら「名誉の戦死」でも。
 作戦中の死で、二階級特進になったとしても。
(…まさに無駄死にというヤツだ…)
 あそこで死んでいたのなら。
 ソルジャー・ブルーに巻き添えにされて、命を失くしていたのなら。
 自分が死んでも、何の役にも立たないから。
 この艦隊の指揮官の自分、それを失くしてきっと混乱したろう「その後」。
 セルジュが代理を務めるとはいえ、彼も詳しくは知らない作戦。
 「目的はミュウの殲滅」だという程度しか。
 如何にセルジュが副官だとしても、伝えられない軍事機密も多いのだから。
(それなのに何故、私は、あの時…)
 ソルジャー・ブルーが来たと知った時、制御室へと行ったのか。
 彼を狩ろうと考えたのか。
 「仕留めてやるのが、狩る者の狩られる者に対する礼儀だ」などと格好をつけて。
 伝説の獲物が飛び込んで来たから、それを仕留めに行ってくる、と。
(保安部隊では、太刀打ち出来ない相手だが…)
 ただの兵士では歯が立たないのがソルジャー・ブルー。
 自分は身をもって知っているから、ミュウどもの船で負け戦を味わわされたから…。
(今度は勝ちたかったのか?)
 ミュウの船ではなく、自分の船が戦場だから。
 より正確に表現するなら、自分の船とドッキングしているメギドを舞台に戦うのだから。
 「今度こそ勝つ」と思っただろうか、それが出掛けた理由だろうか?
 ソルジャー・ブルーの覚悟のほども知りたかったし、見届けたくもあったから。
 「お前は、どれほどの犠牲を払える?」と。


 そうして出掛けて行ったメギドで、またも無様な負け戦。
 傍目には「勝ち戦」だけれど。
 セルジュたちも、きっとグランド・マザーも、そうだと思うだろうけれど。
(しかし、自分を誤魔化すことは…)
 けして出来ない、勝ち戦だなどと思えはしない。
 マツカが自分を救いに来たこと、それを誰にも漏らさなくても、自分自身は誤魔化せない。
 あそこでマツカが来なかったならば、失くした命。
 それも犬死に、何の役にも立ちはしない死。
 艦隊が無駄に混乱するだけ、指揮官が死んでしまっただけ。
 「名誉の戦死」で、「ソルジャー・ブルーと死闘を繰り広げた末の最期」でも。
 ソルジャー・ブルーと共に散っても、皆が自分を褒め称えても…。
(…私の死などは、それだけのことで…)
 実際の所は、狩るべき獲物に返り討ちにされただけのこと。
 ソルジャー・ブルーに巻き添えにされて、命を失くしてしまっただけ。
 彼を狩ろうと考えたから。
 「今度こそ、私が勝ってみせる」と、自分の誇りにこだわったから。
 いくら伝説のタイプ・ブルーでも、「今度はそうそうやられはしない」と。
 二度も負け戦でたまるものかと、「来たことを後悔させてやる」と。
 相手はミュウで、宇宙から排除されるべきもの。
 撃ち殺してやれば自分の勝ちだし、反撃されても「今度は勝つ」。
 メギドが発射されてしまえば、彼が来た意味は無くなるから。
 ソルジャー・ブルーは「狩られるために」飛び込んで来ただけのことになるから。
 飛んで火にいる夏の虫だし、彼を殺せば自分の勝ち。
(…まさか、サイオンをバーストさせるなど…)
 まるで思いはしなかった。
 サイオン・バーストを起こしたミュウを待つものは、「死」のみ。
 命を捨てる覚悟が無ければ、サイオンを全て放出するのは不可能だから。
 そんなミュウなど、見たことがない。
 聞いたことすら一度も無かった、死への引き金を自ら引いたミュウの話は。


 きっと最初から、ソルジャー・ブルーは命を捨てる気だったのだろう。
 生きて戻ろうとは微塵も思わず、ただ一人きりでやって来た。
(たまたま、私に遭遇したから…)
 何発も弾を撃ち込まれた末の死だったけれども、そうでなくても死んだのだろう。
 メギドもろとも、命を捨てて。
 持てるサイオンを全て出し尽くして、メギドそのものを道連れにして。
(…そしてあいつの思い通りになったというわけだ…)
 メギドは沈んで、ミュウどもの船はワープして逃げた。
 ソルジャー・ブルーは仲間を救った、自らの命を犠牲にして。
 あの船に乗っていた仲間を守って、宇宙に散ったソルジャー・ブルー。
 彼が守ったのはミュウの仲間と、その未来。
 逃げ延びたならば、巻き返しのチャンスもあるだろうから。
 場合によっては、ミュウの勝利もまるで無いとは言い切れないから。
(…あいつは無駄死にしなかった…)
 無駄死にどころか、万が一、ミュウが勝利した時は、どれほどの価値があることか。
 ソルジャー・ブルーが捨てた命に、仲間のために払った犠牲に。
 それに引き換え、自分はといえば…。
(…マツカが助けに来なかったなら…)
 犬死にだった、と情けない気分。
 またしても自分は負けたのだろう、ソルジャー・ブルーという男に。
 もう永遠に前に立ってはくれない男に、逝ってしまって「二度と戦えはしない」相手に。
 それを思うと、もう見たくもない自分の顔。煤まみれになっていた時の顔。
(…煤と一緒に、何もかも洗い流せたら…)
 ソルジャー・ブルーに負けたことまで、洗い流してしまえたら、と浴び続ける水。
 熱いシャワーを浴びるつもりで来たというのに、水しか浴びる気になれない。
 犬死にしかけた愚かな自分を、ソルジャー・ブルーに負けた自分を、流し去りたい気分だから。
 水ごと全てを洗い流せたら、きっと元通りの自分が戻って来るだろうから…。

 

          永遠の敗北・了

※なんだってキースは「ギリギリまで粘って」撃ち続けたのか、未だに疑問な管理人。
 とりあえず今はこんなトコです、考え方としては。結果だけを見ればブルーの勝ちだ、と。







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「ぼくは自由だ。自由なんだ…!」
 いつまでも、何処までも、この空を自由に飛び続けるんだ…!
 それがシロエの最期の言葉。
 彼を乗せていた練習艇は、キースに撃ち落とされたから。
 木っ端微塵に砕け散った船、広がっていった衝撃波。それに爆発に伴う光も。

「…なんだ、今のは?」
 爆発したぞ、と広がる光を遠くで目撃した者が一人。…いや、もっと。
「何なんでしょうね、この宙域だと…」
 E-1077が近いんじゃあ、と答えた男。他にも数人、頷いている男たち。
「へえ…。エリート様の育成場所かよ、そりゃ面白い」
 何かあったに違いねえや、と男は「行け」と顎をしゃくった。さっきの光が見えた方へと。
「お、お頭…?」
「いいから行けと言っているんだ、船長の俺に逆らったら…」
 海賊の掟は分かってるよなあ、と凄む男は海賊だった。SD体制の社会からはみ出した男。他の者たちもそれは同じで、船の名前はジョリー・ロジャー。言葉通りに「海賊旗」。
「わ、分かりました…!」
 慌てて航路設定する者、データの収集を始める者。
 彼らを尻目に、「行け」と命じた船長は不敵に笑っていた。「いい日だよなあ?」と。
「さっきは宇宙鯨も見たしよ、今日はいい日になりそうだ」
 今の光も俺にはプンプン匂うんだよ、と肝が据わった船長だったのだけれど…。


 目指した宙域、其処に散らばっていた船の残骸。
 撃ち落とした方はとうに去って行ったのを確認したから、海賊船が来たとはバレない。
「気を付けて探せよ、絶対に何かありそうだからな」
 俺たちの役に立ちそうなモノが、というのが船長の勘。滅多に外れはしないものだから、自信に溢れてやって来た。いったい何が見付かるだろう、と。
 けれど…。
「お頭、あそこに…!」
 何か光が見えますぜ、と報告した部下の声は、直ぐに震え始めた。「ひ、人だ…!」と、まるで恐ろしいものでも見たかのように。
 それはそうだろう、光が見えるのは真空の宇宙。人がいる筈がないのだから。
「落ち着け、馬鹿。…ふうむ、人だな」
 だったらアレがお宝だろう、と船長の肝は据わりすぎていた。
 漆黒の宇宙に散らばる残骸、その中でぼんやり黄色く発光しているモノ。多分、少年。
 「回収しろ」と命令された部下たちは震え上がったけれども、逆らったら自分が放り出される。船から宇宙空間へと。宇宙服など着せては貰えず、身体一つで。
 そうなれば死ぬしかないのだから、と部下たちは淡い光を纏った少年を宇宙から拾って来た。
 「拾いました」と青ざめた顔で、「どうやら生きているようです」と。


 海賊船が回収したのは、もちろんシロエ。
 船が撃墜された瞬間、無意識に張っていたシールド。命よりも大切に思っていた本は、シールドごと他所に飛ばされた。爆発の時の衝撃で。
 シロエ自身も、意識して張ったシールドではなかったものだから…。
 爆発の後をキースが確認しに来た時には、微弱だった光。キースは気付かずに行ってしまって、それから強くなった発光現象。「此処にいる」と仲間に知らせるかのように。
 何故なら、仲間が来ていたから。…ミュウの母船が近付いてくれば、サイオンは共鳴し始める。
 それで強くなったサイオンの光、いわばSOSなのだけれど。
 残念なことに、シャングリラはまだ遠かった。先に来たのが海賊船。
 よってシロエは拾われてしまい、ジョリー・ロジャー号の獲物というわけで…。


 肝がやたらと据わった船長、彼はシロエの手当てが済んだら自分の部屋へ運ばせた。
 気絶しているだけらしい少年。衰弱が酷いようだけれども、じきに回復するだろう。少年だけに数日もすれば…、とベッドの上の獲物を眺める内に…。
「…此処は?」
 何処、と少年の瞼が開いた。光はとうに消えているから、ただの子供にしか見えない。瞳の色は菫色。夢見るようにぼやけた焦点。
「さてなあ? その前に答えて貰おうか。…坊主、名前は?」
「え…?」
 途端に冴えたシロエの意識。ダテにエリート候補生ではなかったから。
 正気が戻れば、自分が置かれた状況も分かる。E-1077ではないらしいことも、そういえば追われていたらしいことも。
(…キースの船が…)
 ぼくが乗った船を撃ち落とした、と気付いたら後は身構えるだけ。「新手なのか!?」と。
 どういうわけだか助かったものの、今度は別の所に収監されたのか、と。
「落ち着けよ、おい。…俺はお前の敵じゃねえ」
 お仲間といった所だろうさ、と笑った船長。「俺たちは、はみ出し者だからなあ」と。
 マザー・システムなんぞは糞くらえだと、メンバーズどもも御免蒙るね、と。


 そんなわけだから、シロエも直ぐに理解した。「本当に敵じゃないんだ」と。
 海賊船でも、自分を助けてくれたのだったら、文句を言えるわけがない。大切なピーターパンの本は失くしたけれども、命は拾ったのだから。
 その上、撃墜された時の衝撃、それで戻って来た記憶。子供時代をどう過ごしたか。
(…パパ、ママ…)
 ぼくは海賊になったみたい、と夜な夜な部屋で苦笑する。「お前は此処だ」と貰った部屋。
 昼の間は海賊見習い、エネルゲイアとE-1077で教わった技術はついて来たから…。
「シロエ、こいつはどうなっている?」
 他の奴らじゃ手に負えねえ、と船長に名指しで頼まれる仕事。ハッキングなどといった作業。
「はいっ!」
 直ぐにやります、と交代したら、それは素晴らしいスピードだけに…。
「見ろよ、お宝だっただろう? 俺の勘には間違いねえんだ」
「で、でも…。あいつ、光ってたんですよ?」
 それに宇宙で生きてました、と腰が引けていた部下たちだって、時間が経てば慣れてくる。妙な出会いをしたというだけ、シロエは全く無害なのだし、強いて言うなら…。
「いい加減に覚えて下さいってば! この手のシステムというヤツはですね…!」
 こうやって、こう、と海賊相手にも怒鳴り散らすという気の強さ。
 ついでに喧嘩も負けていないし、小さいくせに腕が立つ。元がエリート候補生だから。
 そうとなったら、海賊たちにも可愛がられる。マスコットよろしく、「シロエ、シロエ」と。


 海賊船に乗ってしまったセキ・レイ・シロエ。
 なまじミュウだから、拾われた時から全く成長しないまま。他の仲間が年を重ねてもチビ。
「お前、どうやらアレだよなあ…。やっぱ、ミュウだな」
 仲間の所に帰るんだったら送ってやるが、と船長は言ってくれたのだけれど。
 「もう充分に役に立ってくれたし、ミュウどもの勢力も広がったからな」と下船の許可も貰ったけれども、一宿一飯どころではない恩の数々。
(それに、ミュウって言葉も知らなかったくせに…)
 助けてくれたのが船長。あの頃は「M」と口にしていた。「お前の正体、Mじゃないか?」と。
 お尋ね者では済まないのがM、人類からすれば端から抹殺すべきもの。
 それでも船長は「お宝だから」と自分を拾って、立派な海賊に育ててくれて…。
(…まだまだ恩は返せてないよね?)
 もっと頑張って恩返しを、とシロエが励んだ海賊稼業。
 あちこちの星がミュウの手に落ちても、首都惑星ノアが陥落しても。
(キース先輩…)
 いつかゆっくり、あなたと話したいんですけれど、と思い出すのは国家主席になった人。
 彼の正体を知ったお蔭で、狂いまくりになった人生。
 けれども自分は死んでいないし、両親や故郷の記憶も戻って、海賊船を降りた時には…。
(パパとママに会いに行くんだから…)
 あの懐かしいエネルゲイアへ、子供時代を過ごした家へ。
 「ネバーランドに行って来たよ」と、珍しいお土産を山のように持って。


(本当にネバーランドに来ちゃった…)
 自分は今も子供のままだし、乗っているのは海賊船。
 船長の名前はごくごく普通で、「フック船長」ではないけれど…。
(パパとママには、ネバーランドで通じるよね?)
 ぼくのことは覚えている筈だから、と楽しみな、いつか故郷へ帰る日。
 そうする前には、国家主席になったキースに会いに行こうか、さっき演説を聞いたから。
 たまたま仲間が点けたモニター、其処で流れていたものだから。
(ミュウが進化の必然ね…)
 それも是非とも先輩と話したいですね、と思ったシロエの夢は叶わなかった。
 キースは地球で死んでしまって、それきりになってしまったから。
 ついでにミュウの長のソルジャー、そちらも地球で斃れてしまって代替わりで…。
(…今更、ミュウの船に行っても…)
 なんだか色々と遅すぎる気が、としか思えないから、まだ暫くは海賊船の乗組員でいい。
 船長は「海賊も、もう時代遅れになっちまったな」と言っているから、じきに引退するだろう。船の仲間も引退だろうし、その時は…。
(ぼくも引退して、家に帰って…)
 パパやママと一緒に暮らすんだ、とワクワクするのが土産物リスト。
 両親の好物を色々揃えて、養育している女の子には何を持ってゆこうか?
 「初めまして」と「君のお兄ちゃんだよ」と、差し出すリボンがかかった箱。
 ぬいぐるみがいいか、人形だろうか、それとも美味しいお菓子だろうか。
 女の子の好みは分からないや、と今日も頭を悩ませる。
 もうじき会えるだろう妹、その子に何をあげようかと。海賊だったことは内緒か、土産話に披露してみるか。「海賊船に乗っていたんだよ」と。全く年を取らないままで。
 それもいいよねと、「ネバーランドに行って来たんだから、話せば喜ばれるかもね」と…。

 

         拾われた少年・了

※正統派(?)シロエ生存ED。多分、一番無理がないのが、こういうルート。
 ピーターパンの本が爆発の中でも残るんだったら、シロエ本人も生存可能な筈なのよ、と。






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(全ての者が等しく地球の子ね…)
 そして仲間だと言われてもね、とシロエが浮かべた皮肉な笑み。
 E-1077に連れて来られて、もうどのくらい経ったろう?
 けれど未だに出来ない仲間。いない友達。
(欲しいとも思わないけどね?)
 ぼくの方から願い下げだよ、と思う「仲間を作る」こと。
 それに「友達」、どちらも要らない。
 手に入れたいとも思いはしないし、いつでも一人きりの自分。
 何処へ行っても、何をする時も。
 一人で暮らすよう定められた個室、それ以外の場所にいる時も。
(みんな、嫌いな奴ばかりだ…)
 初対面の時からそういう印象、だから誰とも繋がらない。
 チームを組むよう強制されたら、仕方ないから従うけれど。
 くだらないことで減点などはされたくないから、組んでおくチーム。
 けれども誰の指図も受けない、自分からだって指図はしない。
(どうせ、どいつも…)
 機械の言いなりになった人間、全ての者たちが等しく「地球の子」。
 生まれ故郷で育ててくれた両親よりも、マザー・イライザを選んだ者。
 それが「地球の子」、どうやら此処では。
 他の教育ステーションでも、基本は同じなのだろう。
 其処を治めるコンピューターを、親の代わりに慕う者たち。
 そういう人間が「地球の子」ならば、自分は「地球の子」でなくてもいい。
 どうせ地球には幻滅したから。
 地球に行くには、大切な過去を捨ててくるしか無いのだから。


 ネバーランドよりも素敵な場所だ、と父が教えてくれた「地球」。
 「シロエなら行けるかもしれないぞ」という父の言葉で、胸が躍った。
 きっと行こうと、いつか必ずと。
 そうすれば父も喜ぶだろうし、母も喜んでくれるだろうと。
(…なのに、地球って…)
 地球に行くための第一段階、エリートが行ける教育ステーションに入ること。
 自分の夢は叶ったけれども、あまりにも大きすぎた代償。
 夢の星の地球に行き着くためには、支払わねばならない「過去」という対価。
 子供時代を、育った故郷を、両親のことを忘れること。
 自分の過去を捨て去ること。
 それが地球への第一歩だった、何も知らずに憧れたけれど。
 其処へ行きたいと願ったけれども、支払わされてしまった対価。
(…パパ、ママ…)
 顔だって思い出せやしない、と唇をきつく噛みしめる。
 故郷の景色もぼやけてしまって、本物かどうか怪しいもの。
 その上、忘れてしまった住所。
 子供だった自分が住んでいた家、其処の住所が思い出せない。
 文字を初めて覚えた頃には、得意になって書いたのに。
 アルテメシアのエネルゲイアの、その先までもスラスラと。
 けれど今では書けない住所。
 手さえも覚えていてくれなかった、あんなに何度も書いていたのに。
 幼かった自分が繰り返し書いて、両親に見せては自慢したのに。


 過去を失くしたと気付かされた時、もう此処に来る船にいた。
 ピーターパンの本だけを持って、他の何人もの候補生たちと。
 此処に着いたら、行くように言われたガイダンス。
 その時に映し出された映像、この世界のシステムを解説するもの。
 養父母たちの姿も映っていたのに、「パパ」や「ママ」と口にする者もいたのに…。
(全ての者が等しく地球の子…)
 そう聞かされた途端、誰もが変わった。
 促されるままに手を取り合って、和やかに始まった自己紹介やら会話やら。
 誰一人として、もう両親を思い出そうとはしなかった。
 育ての親より仲間が大切、此処で友達を作ることが大切。
 アッと言う間に出来たグループ、そうでなければ二人組とか。
(でも、ぼくは…)
 入りそびれた「地球の子」たちの輪。
 何故だか「違う」と思ったから。
 自分は彼らと同じではないと、「地球の子」とやらにはなれそうもない、と。
 あの時、心が求めていたのは映像の中にいた養父母たち。
 彼らの姿は、何処もぼやけていなかったから。
 今はぼやけて思い出せない、自分を育てた両親の顔。
 父が、母の顔が、あの映像のように鮮やかに思い出せたなら、と願っただけ。
 どうして映像の養父母たちは「違う人」なのかと。
 彼らの代わりに「父」を、それに「母」の姿を、映して見せて欲しかった。
 そうしてくれたら、二度と忘れないのに。
 ほんの一瞬、映し出されただけにしたって、生涯、忘れはしないだろうに…。


 映像の中には「いなかった」両親、多分「映っていなかった」故郷。
 其処に焦がれて、焦がれ続けて、今も入れない「地球の子」たちの輪。
 入りたいとさえ思わないけれど、こちらから願い下げだけど。
(…あんな連中と一緒だったら…)
 きっと、こちらまで毒される。
 「朱に交われば赤くなる」という言葉通りに、自分自身も染まってしまう。
 機械の言いなりになって生きる姿に、過去の自分を捨ててしまった人間たちに染まってゆく。
 自分でもそうとは気付かない内に、じわじわと毒に侵されて。
 毒を少しずつ摂取したなら、毒が効かなくなるのと同じ。
 いつの間にやら「これは毒だ」と思わなくなって、気付かないままにすっかり「地球の子」。
 両親を、それに故郷を忘れて、マザー・イライザを母と慕って。
(…そんな風になるくらいなら…)
 独りぼっちで生きる人生、そちらの方がよっぽどマシ。
 友達が一人もいなくても。
 「仲間」と呼べる者もいなくても、チームメイトの中でさえ孤立していても。
 それが自分の生き方なのだし、寂しいと思うことはない。
 一人きりの日々に満足だけれど、ふとしたはずみに思うこと。
 自分は昔からそうだったのかと、故郷での自分はどうだったかと。
(エネルゲイアの学校だって…)
 此処と同じに、大勢の同級生たちがいた筈。
 彼らの中でも一人だったかと、自分は孤独だったのかと。
 友を作りはしなかったのかと、「友達」は誰もいなかったのかと。


(ぼくの友達…)
 両親さえも覚えていないし、友達の顔を覚えている筈もないけれど。
 きっとそうだと思うのだけれど、どうしたわけだか、次々と頭に浮かぶ顔。
 それに名前も、時には何処のクラスの子かも。
(…全ての者が等しく地球の子…)
 そのためだろうか、友達の記憶がまるで消されていないのは。
 何処かで彼らと出会った時には、もう一度手を取り合えるように。
 「また会えたな」と、「久しぶりだ」と。
 同じ故郷で育ったのだと、また友情を築けるように。
(…余計なお世話って言うんだよ…)
 こんな記憶がいったい何の役に立つんだ、と思うけれども、実際、役に立つらしい。
 此処での候補生の中にも、「幼馴染」と組んでいる者がいるようだから。
 「あいつと、あいつは同郷だってよ」などと噂も耳にするから。
 そういうケースを聞く度に覚える激しい苛立ち。
 「友達なんか」と、「そんなものが何の役に立つ?」と。
 けれど、此処ではそうなのだろう。
 大人の社会で生きてゆくには、「両親」よりも「友達」が大事。
 故郷には二度と戻れないから、両親と暮らせはしないから。
 もう手の届かない世界よりかは、これからも共に生きられる仲間。
 だから機械は「過去」を残した、両親の代わりに「友達」を。
 何もかも全て消しはしないで、「友達」だけは残しておいて。
 「友達」はいつか役に立つから。
 もう用済みの「両親」などより、遥かに意味があるものだから。


 それが機械の判断だけれど、だから故郷では「友達」を持っていたようだけれど…。
(こんな記憶なんか…)
 捨ててしまってかまわないから、両親を覚えていたかった。
 何を捨てるか選べるのならば、友達の方を捨てたと思う。
 同じ過去なら、要らないものは「友達」だから。
 それは無くても生きてゆけるから、現に自分はそうなのだから。
(地球の子なんかに、なれなくていいから…)
 なりたくもないから、要らない友達。
 どうせ友達を作らないなら、不要なのだろう「友達」の記憶。
 思い出すだけで腹が立つから、普段は記憶の海に沈める。
 瓶に詰め込んで、海の底深く沈めてしまって、知らないふり。
 けれども、たまに…。
(ぼくに友達はいたんだろうか、って…)
 考えるとこうして思い出すから、もう考えない方がいい。
 友達なんかは欲しくもないし、この先も、きっと作らないから。
 自分は一人で生きてゆくから、孤独に生きてゆきたいから。
(…ぼくには友達なんか、一人も…)
 いやしないんだ、と自分自身に言い聞かせる。
 ずっと昔からいはしなかったと、これから先もいないのだと。
 機械が「友達」を勧めるのならば、そんな「友」など要らないから。
 独りぼっちでかまわないから、忘れてしまいたい故郷の「友」。
 記憶の海の深淵の底に、瓶に詰めて沈めてしまいたい。
 二度と浮かんで来ないよう。
 二度と苛立たなくて済むよう、永遠に思い出せないように…。

 

        友達の記憶・了

※シロエが作らない「友達」。それに「仲間」も。欲しいと思うことも無いから。
 けれど故郷ではどうだったのか、と考えてみた話。友達の記憶は残るみたいですしね?






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(またまた勝手に決めちゃって…)
 酷いよね、とジョミーは地味に怒っていた。
 ミュウの船へと連れて来られて、なるしかなかったソルジャー候補。
 なにしろ、自分が悪いのだから仕方ない。
 ミュウたちを導く立場のソルジャー、それを半殺しの目に遭わせたから。…自分のせいで。
 家に帰ろうと船から飛び出し、好き勝手にした結果がソレ。
(…だから、仕方がないんだけれど…)
 今も臥せっているソルジャー・ブルー。
 最強のサイオンを誇るという彼、彼と自分の二人だけしかいないらしいのがタイプ・ブルー。
 他のミュウだと戦えないから、ソルジャー・ブルーの強烈な推しでソルジャー候補なのだけど。
 そういう立場になったのだけれど、如何せん、「候補」。
(…他に候補はいないくせにさ…)
 候補だから、と仕切りまくるのが長老たち。
 今日も今日とて、「おはようございます」と現れたリオ。
 親切な兄貴分だけれども、彼も長老には絶対服従。毎朝、部屋に届けに来るのが…。
(……スケジュール表……)
 今日はこうか、と溜息しか出ない。
 サイオン訓練の時間が山ほど、他の時間もミュウの歴史に帝王学にと、てんこ盛り。
 身体は一つだけしかないのに、ギュウギュウ詰めのスケジュール。
(それに、こっちの都合なんかは…)
 まるで聞いてもくれないんだから、と不満たらたら、怒りMAX。
 ほんの少しだけ、自分の意見を聞いてくれたら…。
(ちょっとくらいは…)
 ぼくだって前向きな気持ち、と思ったりもする。
 「休憩時間は此処で欲しい」とか、「ここの予定を入れ替えたい」とか。


 たった一言、「これでいいか」と確かめて欲しい自分の意見。
 一方的に決めて来ないで、柔軟に。
(疲れて動きたくない日だってあるから…)
 そういう時には訓練は無しで、ひたすら座学にしてくれたならば嬉しい気分。
 疲れた身体で下手に頑張るより、効率だって良さそうな感じ。
(だけど、意見は…)
 ただの一度も聞いてくれずに、リオがスケジュール表を持って来るだけ。
 来る日も来る日も、「おはようございます」と爽やかに。
 「よく眠れましたか?」と、「今日のスケジュールはこれになります」と。
 なんとも辛くて、自由が無いのがソルジャー候補。
 部屋に帰ればオフだけれども、そのオフでさえも自分の意見は通らない。
 「今日は早めに上がりたいのに」と思っていたって、スケジュール表が先に立つから。
 この時間まで、と決められた時間、それが来ないと部屋には帰れないから。
(…これって、真面目に辛いんだけど…!)
 たまにはぼくの意見も聞いてよ、とフツフツと腹が立ってくる。
 長老たちが何処でスケジュールを決めているかは、まるで知らないのだけれど…。
(直訴したなら…)
 いけるかもね、と思わないでもないスケジュール。
 多分、自分がオフの間に集まって決めているだろうから、乗り込んで。
 「ぼくの意見は、こうなんだけど!」と主張して。


 それもいいかも、と考えた直訴。
 思い立ったが吉日と言うし、もう早速に怒鳴り込みたい気分。
(…今日のスケジュールをこなしたら…)
 直訴しよう、と決意を固めた。
 とはいえ、長老たちは何処に集まっているのだろう…?
(会議室かな…?)
 そういう部屋もあったよね、と知っているから、その日のオフを迎えた後。
 「ここまでにしよう」とヒルマンが講義を終えて、立ち去ってから…。
(…確か、こっちで…)
 頃合いや良し、とノックしてみた会議室の扉。
 けれどもシンと音もしないし、人の気配さえ無さそうな感じ。
(ぼくが来たから、黙ったとか…?)
 だったら勝手に入らせて貰う、と勢いよく開け放ってみた扉。
 ところが其処には誰もいなくて、灯りも点いていなかった。薄暗い部屋があるばかり。
(…此処じゃなかったわけ?)
 それなら長老たちの部屋か、と端から突撃していった。
 まずはキャプテンの部屋から始めて、ゼル機関長で、ブラウ航海長。お次がヒルマン、それでも誰もいないからして、エラの部屋まで行ったのに…。
(…何処にもいない…?)
 謎だ、と傾げてしまった首。
 途中でブリッジも覗いたけれども、長老たちはいなかったから。…キャプテンだって。


 いったい何処に、と心当たりを探しまくっても、長老たちは見付からない。
 もう闇雲に駆け回る内に、バッタリとリオに出くわした。
『どうしました、ジョミー?』
 リオの思念はとても優しくて、その瞬間に閃いたこと。
 いつもスケジュール表を届けに来るのはリオだし、もしかしたら、と。
「あのさ、リオ…。長老たちって、何処にいるわけ?」
 ぼくのスケジュールを何処かで決めてる筈なんだけど、と尋ねたら「ええ」と頷いたリオ。
『この時間なら、そうですね。…いつもの所においでですよ』
「それって何処!?」
『M3号ですが…』
「ありがとう、リオ! それって、何処から行けるのかな?」
 M3号という部屋に覚えが無いから、訊いてみた。リオは答えてくれたけれども…。
『ジョミー、何をしに行くんです? あの部屋は…』
「どうせ立ち入り禁止区域とか言うんだろう? ソルジャー候補は!」
 だけど行くんだ、と駆け出した。
 「待って下さい!」と止めるリオの思念を振り切って。
 もうキッパリと無視して走って、広いシャングリラの中を走り続けて…。
(……M3号……)
 此処か、と眺めた普通の扉。「なんだ、居住区と変わらないじゃん」と。


 ソルジャー候補は入れないらしい、M3号という長老たちが集う部屋。
 けれど扉はごくごく普通で、どちらかと言えば…。
(凄く親しみやすい感じで…)
 憩いの空間でもある居住区に激似、恐るるに足らずといった雰囲気。
 きっと長老たちだけが使う、プライベートな部屋なのだろう。休憩室とか、そんな具合に。
(此処でお茶とか飲みながら…)
 ぼくのスケジュールを決めているんだ、と思ったら何だかムカついてくる。こちらは毎日、そのスケジュールに追われまくって、意見も聞いては貰えないのに。
(だけど、此処まで来たんだしね?)
 直訴あるのみ、とノックもしないでバアン! と扉を開け放ったら…。
「なんじゃ、いきなり」
 無礼なヤツじゃな、と振り返ったゼル。…思った通りに飲み物を手にしているけれど…。
(…どうなってるわけ!?)
 此処って、バスルームだったわけ、と丸くなった目。
 何故ならゼルは、長老の衣装を纏う代わりにバスローブ一丁だったから。
「えーっと…」
 失礼しました、と慌てて返した踵。リオが止めたのも、バスルームならば無理はない。お風呂でスケジュールを決められるのは空しいけれども…。
(ズカズカ入っていい場所じゃないし…)
 直訴どころじゃないよね、きっと、と部屋から出ようとした瞬間に…。
「ちょいとお待ちよ、何の用だい?」
 話くらいは聞こうじゃないか、とブラウ機関長が現れた。これまたバスローブ一丁で。
 「せっかく来たなら、アンタも楽しんで行くといいよ」と。


 こうして招き入れられた部屋。長老たちが集うM3号。
「パンツはワシのを貸してやるでな。…ちとキツイかもしれんがのう」
 男性用の更衣室はあっちじゃ、とゼルに渡された水泳パンツ。…そう、どう見ても水着。
「これって…?」
 どうして水泳パンツなんですか、と質問したら、「サウナだからじゃ!」と返したゼル。
「此処はそういう部屋なんじゃ。M3号と言ったら、サウナパーティーじゃ!」
「……サウナパーティー?」
 何ですか、それ、と見開いた瞳。
 サウナだったら知っているけれど、サウナパーティーとは何だろう?
「知らないのかね? 元々は地球の北欧にあった習慣なのだよ」
 ヒルマンが解説してくれた。
 仲良くなるならサウナが一番、いわゆる裸の付き合いなるもの。
 サウナの中でじっくりゆっくり、温まりつつ楽しく歓談。合間に外で軽い食事や飲み物なども。
「…此処って、そういう部屋なんですか?」
「うむ。アルタミラからの生き残り組の憩いの場だな」
 ソルジャー・ブルーもお好きなのだ、とキャプテン・ハーレイが浮かべた笑み。
 「今は臥せっておられるから無理だが、お元気な時には此処がお気に入りだ」と。
「…ふうん…?」
 あんな超絶美形でもサウナに入るのか、と驚いたジョミー。
 偉そうなソルジャーの制服を脱いで、水泳パンツで寛ぐサウナ。外へ出たってバスローブ一丁、その格好で食事に飲み物なのか、と。


 ミュウの長なソルジャー・ブルーはもとより、キャプテンや長老といった面々。
 他のミュウとは違うんです、と一目で分かる偉い連中、彼らが催すサウナパーティー。
(…凄く意外だけど…)
 思ったよりも話の分かる人たちかも、と弾んだ心。
 会議室に集まるわけではなくて、サウナだから。裸の付き合いでのんびり歓談、スケジュールも其処で決めるのだから。
(これなら、ぼくの意見も聞いて貰えそう…)
 きっと話せば分かってくれる、とウキウキ着替えた水泳パンツ。長老たちはサウナの中に戻って行ったし、いざ自分も、と足を踏み入れた途端…。
(…え?)
 何これ、と疑ったサウナの暑さ。有り得ないほどに暑かったから。
「ようこそ、ジョミー・マーキス・シン」
 此処へどうぞ、とエラが案内してくれた席に座ったけれども、噴き出す汗。サウナは、こんなに暑かったろうか…?
(クラクラする…)
 っていうか死にそう、と思った所へ聞こえた声。
「流石はソルジャー候補じゃのう…。M3号の伝統も引き継げそうじゃ」
「そうだな、我々くらいしか楽しめないのがM3号だし…」
 アルタミラで実験動物をやっていた間に鍛えられすぎて、と交わされている恐ろしい会話。
 曰く、サウナは200℃が基本。
 中でも「通」のソルジャー・ブルーが入った時には…。


(…石ストーブに水をぶっかけて、蒸気…)
 それでもうもうと上がるのが湯気、暑さ倍増。
 ソルジャー・ブルーはそれが好みで、付き合える面子はキャプテンと長老の四人だけ。
(有り得ないから…!)
 あの人、何処が弱かったわけ、という心の声を最後に暗転した視界。
 次に目覚めたら部屋のベッドで、リオが看病してくれていて…。
『ですから、お止めしたんです。…M3号はとても無理です、と』
「…それ、早く言って…」
 まだ身体中が煮えてるみたい、と息も絶え絶えに訴えたら。
『…手遅れです、ジョミー。…長老たちは期待しておられますから』
 これからは毎日、サウナパーティーで裸の付き合いだと仰っておられました、という話。
 おまけにソルジャー・ブルーも乗り気で、回復したら入りに来るそうだから…。
(…サウナパーティーの通で、石ストーブに水…)
 そんな人に付き合わされたら死ねる、と思ったけれども、既に手遅れ。
 M3号に入ってしまった後だし、サウナパーティーも知ってしまったから…。
(……ぼくの人生……)
 明日からサウナでアルタミラ体験、とガクガクブルブル、憩いの空間、M3号。
 実験動物だった時代に無駄に鍛えられた、長老たちやらソルジャー・ブルー。
 その連中と一緒にサウナで、気分は実験動物だから。
 歴史で習っただけの世界を、明日からサウナでガンガン体験させられるから…。

 

         憩いのサウナ・了

※地味に原作から引っ張ったらしい、「M3号」と「200℃」だというサウナの温度。
 いや、アルタミラの生き残り組ってタフそうだから…。こんな世界もアリなのかも、と!






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