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(ブラウニー…!)
 今日はツイてる、とシロエの顔に浮かんだ笑み。
 ステーションの食堂、ティータイムの趣味は無いのだけれど。
 暇がある日は欠かさないチェック、どういう菓子が出されているか。
 メニューにブラウニーがあればラッキー、これだけは食べていかなければ。
「ブラウニーと…。シナモンミルクも、マヌカ多めにね」
 注文したら、渡されたトレイ。
 それを手にして向かったテーブル、邪魔をされない隅っこがいい。
 丁度いい具合に壁際に空席、今日は本当にツイている。
 ストンと座って、早速頬張るブラウニー。
 チョコレート味の小ぶりなケーキを、手づかみで。
 これはそういう菓子だから。そうやって食べるケーキだから。
(ママのブラウニー…)
 とっても美味しかったんだよ、と顔が綻ぶ。
 此処のブラウニーはママのと同じ味だと、ママのケーキ、と。


 成人検査で消されてしまった沢山の記憶。
 ぼやけて霞んでしまった両親、けれどブラウニーの記憶は残った。
 母が得意なケーキだったと、いつも出来るのが楽しみだったと。
 そのブラウニーがメニューにあるのを発見した時、どれほど嬉しかっただろう。
 どんなに心が弾んだだろうか、初めて注文してみた時は。
(ママの方がきっと上手なんだよ、って…)
 そう思いつつも、心の何処かで願っていたのが母の味。
 ブラウニーが得意だった母は自慢だけれども、あれと同じ味のが食べられたら、と。
 料理上手な人がいたなら、同じ味かもしれないと。
(あんまり期待はしてなかったけど…)
 マザー・イライザが支配しているステーション。
 そんな所に母のような人がいるわけがないし、どうせ美味しくないのだろう。
 やたらパサパサしているだとか、チョコレートの味が濃すぎるだとか。
 そうだとばかり思っていたのに、食べてみたら同じだった味。
 奇跡のように此処で出会えてしまった、懐かしい母のブラウニー。
 あれ以来、ずっとチェックを欠かさない。
 ブラウニーをメニューに見付けた時には、それを頼んで至福の時。
 誰にも邪魔をされない席で。
 手づかみで食べる小ぶりなケーキを、頬を緩めて。


 今日も美味しい、と大満足だったブラウニー。
 顔さえおぼろになった両親、けれども舌は忘れなかった。
 母のブラウニーはこの味だったと、ステーションでも出会えた、と。
 少し汚れてしまった手を拭き、空になったトレイを返しに行ったのだけれど。
 途中で擦れ違った生徒のトレイに、ブラウニー。
 さっきまで自分が食べていたケーキ。
 そのせいだろうか、耳が捉えたその生徒の声。
 並んで歩く友人に向けて言った言葉で、なんということもない言葉。
「美味いんだよな、ここのブラウニー。母さんのと同じ味なんだ」
 えっ、と見開いてしまった瞳。
 呆然と見送った、トレイを持った生徒。
 彼の母もブラウニーが得意だったというのは、まだ分かるけれど。
(……同じ味……)
 まさか、と信じられない気持ち。
 どうして母のと同じ味のを、彼の母親が作るのだろう?
 そんなにありふれたケーキだったろうか、母の得意のブラウニーは?
(誰でも作れて…)
 同じ味になるとでも言うのだろうか、あの思い出のブラウニーは?
(ぼくだけの思い出の味なんだ、って…)
 思っていたのに、違うかもしれないブラウニー。
 それならばそれで、いいのだけれど。
 ブラウニーが得意だった母親の子供は、誰でも「この味!」と思うのならば。


 大切にしていたブラウニーの記憶。
 自分だけだと思った偶然、ステーションで出会った母の味。
 けれど、さっきの生徒もそうだと言ったから。
 他にもきっといるに違いない、あのブラウニーが大好きな生徒。
(ぼく一人だけじゃなかったんだ…)
 まるで特別な儀式のように味わっていたブラウニー。
 もう一つの思い出、マヌカ多めのシナモンミルクとセットにして。
 その思い出が揺らいだ気がして、ラッキーな気分も減ってしまった感じ。
 他にも同じ儀式をしている生徒が何人もいるだなんて、と。


 ガッカリしながら戻った部屋。
 机の前に座って溜息を一つ、台無しになったラッキーデー。
 せっかく母の思い出の味を食べたのに。
 ブラウニーに出会えた日だったのに。
(本当に美味しかったんだけどな…)
 ママのと同じ味のブラウニー、と頬杖をついて考えていたら、閃いたこと。
 料理にも、お菓子作りにも…。
(レシピ…!)
 それが同じなら、同じ味にもなるだろう。
 さっきの生徒の母のレシピと、自分の母のが偶然にも同じだっただけ。
 ついでに、ステーションのレシピも。
 きっとそうだ、と救われた気分。
 幸運にも同じレシピで作ったブラウニーに出会えた生徒が二人。
 自分と、さっき見掛けた生徒。
(ステーションのは…)
 レシピを調べられる筈、とアクセスしてみたデータベース。
 其処で見付けた、ブラウニーのレシピ。
(ママもこうやって…)
 作ったんだ、と懸命に記憶を掻き回すけれど。
 後姿しか思い出せなくて、その手元までは分からない。
 材料をどう混ぜていたのか、どうやって型に入れていたのか。


 でも、これなんだ、と眺めたレシピ。
 母の手元を思い浮かべながら、こんな感じ、と粉をふるって。
 卵を溶いて、チョコレートを湯煎にして溶かして。
(ママが作っていたブラウニー…)
 これを忘れずに覚えておきたい。
 いっそ書き抜いて持っておこうか、ピーターパンの本に挟んで。
 そしたら何処へ行くにも一緒で、いつか地球まで行った時にも同じ味のを食べられるだろう。
 自分で作る機会はなくても、誰かに頼んで。
 「この通りに作って」とレシピを渡して、母のと同じブラウニーを。
(それがいいよね…)
 書いておくのが一番だから、とメモする紙を取り出したけれど。
 はずみに指が滑ってしまって、どうスクロールしたのだか。
(……嘘……)
 ズラリと並んだブラウニーのレシピ、それこそ画面を埋め尽くすほどに。
 幾つも幾つも、得意とする人の数だけありそうなほどに。
 ついでに其処に書かれていたこと。
 ブラウニーの由来はハッキリしないと、アメリカ生まれだとも、イギリスだとも。
 だからレシピも、「これだ」と決まったものなどは無いと。


(それじゃ、ステーションのブラウニーのレシピは…)
 母のと偶然同じだったのか、それとも違うものなのか。
 ゾクリと背筋に走った悪寒。
 もしかしたら、違うのは自分の方かもしれない。
(マザー・イライザ…)
 それに、記憶を消してしまった成人検査。
 母の味だと思っていたのは、偽りの記憶だっただろうか。
 ステーションに馴染みやすいようにと、機械がわざと作った仕掛け。
 ブラウニーが得意な母の子供には、このステーションの味がそれだと思わせる。
 さっきの生徒も、それに自分も、まんまと罠にかかっただけ。
 本当は違う味のを食べていたのに、これがそうだと思い込まされて。
 母の味だと勘違いをして、それは幸せな気分になって。
(……まさか、ママの味……)
 違うのだろうか、あのブラウニーは母の味ではないのだろうか。
 またしても自分は騙されたろうか、成人検査に引き摺り込まれた時と同じに…?


 そんな、と涙が零れたけれど。
 本物の母のブラウニーを食べられたら分かることなのだけれど、それは叶わないことだから。
 いつか偉くなって、エネルゲイアに戻る日までは、どうすることも出来ないから。
(きっと、違うんだ…)
 あれは本当にママのなんだ、と唇を噛んで言い聞かせる。
 疑問を覚えた自分の心に、辛くても今は騙されておけ、と。
 母の味だと考えておけと、ブラウニーが得意だった母がいたのだから、と。
 もしも注文しなくなったら、それまで忘れそうだから。
 母の美味しいブラウニーまで、それを作ってくれた母まで。
 そうなれば機械の思う壺だから、今は我慢して騙されたふりを。
 可能性はとても低いけれども、本当なのかもしれないから。
 このステーションで食べるあのブラウニーは、母の味かもしれないから…。

 

       ブラウニーの味・了

※シロエが夢に現れたジョミーに、「美味しいんだよ」と自慢したママのブラウニー。
 幸せそうな顔で作る姿を見ていたっけね、と考えていたら…。ごめんね、シロエ。





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 ゼウス級一番艦、ゼウス。
 人類統合軍が誇る最新鋭の宇宙戦艦、ミュウ殲滅作戦に赴く連合艦隊の旗艦。
 軍人ならば誰もが指揮したいだろう船、その艦長に選ばれた男。
 彼の名はグレイブ・マードック。
 史上初めて国家騎士団からパルテノン入りした、元老キース・アニアンを乗せる艦長だけども。
「久しぶりだな、マードック大佐」
「ジルベスター以来です、閣下」
 キースが呼び掛けた言葉通りに、彼の階級は大佐だった。ジルベスターでも大佐だったのに。
 あれから長く経つというのに、一階級も上がっていないのがマードック大佐。キースの方は同じジルベスターで二階級特進、その後も順調に出世したのに。
 大佐の上には少将、中将と続いてゆくわけで、本来だったら…。


 旗艦ゼウスを指揮する者は、大佐などでは有り得なかった。軍というのはそういう世界。
 けれども、キースが抜擢したのがマードック大佐。
(万年大佐でも、腰抜けよりは役に立つからな)
 そう、誰が呼んだか「万年大佐」。人類統合軍の者なら「大佐」と聞けばピンと来るのが万年大佐で、マードック大佐。
 もっとも、彼とて出世を目指した時期だってあった。
 ジルベスターでは野望に燃えて、キースよりも先にミュウを殲滅しようとしていたくらい。
 ところがどっこい、彼の野望がズッコケたのがジルベスター。嘘ではなくて、本当の話。


 此処で勘違いをしてはいけない、「残党狩りをしなかったからだろう」と。
 キースが命じたミュウの残党狩り、応じなかったマードック大佐。
 曰く、「我々は電磁波障害で、その命令は受けられなかった」。
「私は軍人だ。戦争となれば敵と戦う。だが、これは戦争ではない。これは虐殺だ」
 キース・アニアン。…奴こそ化け物だ。
 そう言ったのが彼だけれども、キースや上層部が知るわけがない。まるっと信じた電磁波障害、ゆえにお咎め無しだった。
 昇進の話も出たというのに…。


「なんだと!?」
 それは本当なのか、と愕然としたのがマードック大佐。
 噂のジルベスター星系から帰還した後、キースと同じく上級大佐に昇進させるという話。上級とつけば次の昇進では恐らく少将、トントン拍子に出世できそうだけれど。
 顎が外れそうなほどに仰天したわけで、「とんでもない」と断った昇進。
 何故なら、条件付きだったから。
(…そんな規則があろうとは…)
 お気に入りの副官、ミシェル・パイパー少尉が問題。副官と言いつつ実は愛人、彼女を連れて行けないらしい。
 大佐までなら副官は異性でオッケーだけれど、それより上だと必ず同性。つまりは、昇進の話を受けたら最後…。
(ミシェルとお別れ…)
 有り得んだろう、と思わず叩いた机。潤いのない人生なんぞは御免蒙る。


 かくして蹴り飛ばしたのが昇進の話、彼の野望は其処で潰えた。頑張って出世すればするほど、薔薇色の人生が遠ざかるから。麗しの副官がいなくなるから。
(むくつけき野郎を侍らせてまで…)
 出世したいとは思わんね、とツイと眼鏡を押し上げておいた。
 軍人たるもの、美しき女性を侍らせてなんぼ、仕事の合間にイチャついてなんぼ。
 それが出来ない人生なんて、とマードック大佐が固めた決意。
 昇進なんぞは糞食らえだと、出世なんぞもしなくていいと。
(人生、大切なことは二つだけだ…)
 麗しい女性との恋愛、それから気に入りの酒。他のものは全て、消えてしまってかまわない。
 何故なら、全部醜いからだ、とフッと格好をつけて呟く。
 朴念仁には分かるまいなと、化け物のキース・アニアンにも、と。


 出世街道から外れた裏道、其処を行こうとマードック大佐は驀進し続け、相も変わらず女連れ。
 何処へ行くにも副官のミシェル、出世よりかは女を取った。
 誰が呼んだか「万年大佐」で、女を選んだと評判の男。
 けれども、軍人としての手腕は確かだったから。万年大佐でも、凄腕の軍人だったから。
(ついに私にも運が向いて来た…)
 旗艦ゼウスと来たものだ、とマードック大佐が湛える笑み。
 出世しなくても、転がり込んで来た人類統合軍の旗艦ゼウスの艦長の地位。
 この作戦が終わった後には、出世せずとも人生、順風満帆だから。
 女連れのままで人類統合軍のトップで、今をときめくマードック大佐になれるのだから…。

 

         マードック大佐の事情・了

※いや、どう考えても旗艦ゼウスの艦長が「大佐」は変だよな、と。それも万年大佐って。
 何か事情があるんだよ、と思った途端にピンと来た「女」。これっきゃないでしょ!





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「答えを聞こう。人類は我を必要や、否や」
 とてつもない高みから降って来た問い。グランド・マザーからキースへの。
 これはマズイ、と動いたジョミー。これにキースがどう答えるかで、ミュウの未来が決まってしまうから。
「キース、ぼくらは理解し合える!」
 そのことは君が一番分かっているだろう、と言ったのに。
 「…お前は人類の真の愚かさを知らない」などと言い出したキース。ますますもってヤバイ方へと行きそうな雰囲気、ミュウの未来を守らなければ。
「そんなことはない!」
 ぼくは人間に育てられた、とキースの説得にかかろうとした時。
(…???)
 なんだ、と思わず失った声。キースの方もポカンとしている、明後日の方を向いたまま。
「「「ハイ・ホー、ハイ・ホー…」」」
 景気よさげな歌が聞こえて来て、ツルハシを担いで行進して来る七人の小人。
 これで固まらない方がどうかしている、ソルジャーだろうが、国家主席だろうが。此処は地球の地の底深く、グランド・マザーが認めた者しか入れない筈の空間だから。
 なのに…。
「「「ハイ・ホー、ハイ・ホー、仕事が好き~」」」
 そう歌いながらやって来る小人たち。
 どうしたわけだか、グランド・マザーも沈黙中で、歌声だけが高く響き渡って。
 ハイ・ホー、ハイ・ホー、と直ぐ側まで来た小人たちが訊いた。「白雪姫?」と。


「「白雪姫?」」
 キースとジョミーの声がハモッたけれども、七人の小人が見上げるのはキース。国家主席をガン見したまま、七人の小人はもう一度尋ねた。「白雪姫?」と、キースに向かって。
「し、白雪姫…。私がか?」
「雪のように白い肌に、黒い髪だけど?」
「赤い頬と唇は、年のせいかイマイチだけど…」
 「白雪姫?」というのが質問、つまりキースは白雪姫か、という質問。白雪姫といえば七人の小人で、そのくらいのことはジョミーも知っているから。
 声も出ないらしいキースは放って、小人たちに向かって問い返した。
「もしもキースが白雪姫なら、どうなるんだ?」
「あんた、王子様?」
 斜めなことを訊かれたけれども、此処で負けたら駄目な気がした。だから…。
「ぼくが王子なら、いったいなんだと!?」
「あー、それだったら…」
 助けないとねえ、と答えた小人たち。白雪姫を悪いお妃から守らないとと、ハッピーエンドにしなければ、と。
「悪いお妃は何処にいるんだ!?」
「「「あそこ」」」
 七人の小人たちが指差したものは、グランド・マザーというヤツだった。よりにもよってアレが悪いお妃、キースが白雪姫ならば。ついでにジョミーが王子ならば。


 これはどういう展開なんだ、と流石のジョミーも詰まったけれど。
 七人の小人たちが言うには、「悪いお妃」が此処に来てから六百年近く。小人たちは来る日も来る日も白雪姫を探しているという。ハイ・ホー、ハイ・ホーとダイヤモンドを掘りながら。
(ダイヤモンド…? 売りに行く先も無さそうなのに…)
 もう本当に意味が不明だ、とジョミーは思ったけれども、あるいはチャンスかもしれない。小人たちは白雪姫を「悪いお妃」から守るそうだから。
 駄目で元々、当たって砕けろ。人生、出たトコ勝負だとばかり、七人の小人に訊いてみた。
「君たちは、悪いお妃を倒せるのか?」
「「「白雪姫を守るためなら!!」」」
 あっさりサックリ、倒すという返事。こんな小人がどうやって、と謎は山積み、そうは言っても渡りに船。この際、キースが白雪姫でもいいだろう。グランド・マザーを倒せるのなら。
 そう思ったから、キースを彼らに紹介した。「正真正銘、白雪姫だ」と。
「ぼくが保証する。雪のように白い肌に黒い髪だから、キースは白雪姫なんだ」
「待て、ジョミー!」
 私の立場はどうなるんだ、と空気が読めないキースが言うから、「シーッ!」と唇に人差し指。
「今は白雪姫でいいだろう! ぼくが王子ということで」
「そ、そうか…。そうだな、私が白雪姫…らしい」
 キースが「白雪姫」と名乗った途端に、躍り上がった小人たち。やっと白雪姫が来た、と。


「「「ハイ・ホー、ハイ・ホー、仕事が好きーっ!!」」」
 ツルハシを担いだ小人たちのパワーは凄かった。ハイ・ホー、ハイ・ホー、と歌いまくりながら行進してゆき、グランド・マザーをガッツンガッツン。
 六百年近くもダイヤモンドを掘り続けたツルハシ、それでガンガン叩きまくって、ハイ・ホー、ハイ・ホー。
「「「ハイ・ホー、ハイ・ホー」」」
 仕事が好きーっ! と歌う彼らは、まさに無敵の戦士そのもの。聳える巨大なグランド・マザーもなんのその。足元の方からガッツンガッツン、せっせ、せっせと壊してゆく。
「どうなっているんだ…」
 グランド・マザーを破壊出来る筈などがない、と白雪姫なキースが呟くけれども、これが現実。七人の小人に、グランド・マザーの攻撃は通用しなかった。
 ならば、とグランド・マザーが放った剣の攻撃、それも届きはしなかった。あまつさえ…。
「白雪姫と王子は守らないと!」
「ハッピーエンドな結末のために!」
 其処に立っていれば安全だから、と自称・王子と白雪姫にもシールドのサービスつきだった。至れり尽くせりの七人の小人、ハイ・ホー、ハイ・ホーと壊しまくって…。


 気付けば「悪いお妃」なグランド・マザーは、ただの瓦礫の山だった。何が何だか分からないけれど、どうやら全ては終わったらしい。
「グラン・パ!」
 トォニィが突然降って現れて、その光景に唖然としてから。
「グラン・パ、ぼくと一緒に帰ろう。こんな所、もういいだろう!」
「あ、ああ…。うん、帰ろうか」
 キースは一人で帰れるだろうし、とトォニィと一緒に行こうとしたら。
「「「王子様!!」」」
 行っちゃ駄目! と七人の小人に掴まれたマント、「白雪姫を置いて行っちゃ駄目」と。
「し、白雪姫って…?」
 もしかしなくても、と慌てたけれども、言い出しっぺは自分だったから。
(…キースとハッピーエンドになるわけ?)
 そんな殺生な、と青ざめたって、後悔先に立たず。覆水盆に返らずとも言って、ジョミーに退路は無さそうだった。ついでに白雪姫なキースも。
 というわけで…。


「「「ハイ・ホー、ハイ・ホー、仕事が好きーっ!」」」
 七人の小人たちの歌声が響く毎日、ガッツガッツとツルハシを振るう彼らの仕事が、ようやく理解出来て来た。彼らは地球を作り直そうと、毎日せっせと仕事中で…。
「ジョミー・マーキス・シン。…お前のせいだぞ」
 お蔭で私はこんな所で白雪姫だ、とキースがぼやくけれども、ジョミーも囚われの王子だから。お互い、此処から出られないから、おあいこと言うか、どっちもどっち。
 シャングリラはとっくに地球を離れて去って行ったし、キースの部下たちも去って行ったし…。
 その代わりと言っては何だけれども、いつの間にやら増えていた面子。
「キース先輩が白雪姫だったとは、ぼくも思いもしませんでしたよ」
 そんな情報、フロア001にも無かったですねえ…、と呆れるセキ・レイ・シロエ。彼の隣ではソルジャー・ブルーが頭を振り振り、「ジョミーが王子ねえ…」と。
「知らなかったよ、君が生まれた時から見ていた筈なんだけどね」
 何処の国の王子様だったんだい、と呆れ返っているミュウの元長。ぐるり見回せば、サムも来ているし、マツカもいるしで、どうやら此処は…。
((お伽の国…))
 ハッピーエンドの国だったのか、と悟るしかないジョミーとキース。
 きっとその内に、もっと面子が増えるのだろう。シャングリラで去ったトォニィだとか、キースの部下のセルジュたちとか。
 そしてその内、地球はすっかり青く蘇って、本当に本物のハッピーエンドが来るのだろう。


 ハイ・ホー、ハイ・ホー、と小人たちは今日も歌い続ける、ツルハシを担いでハイ・ホーと。
 白雪姫と王子のためにと、ハッピーエンドの結末を、と。
「なんでキースが白雪姫に…」
「やかましい! それで命を拾ったろうが!」
 お前が私を白雪姫にしたんだろうが、とジョミーとキースの腐れ縁。小人たちは白雪姫と王子様だと今も信じて疑わないから。違うと言ったら後が無いから、今も王子と白雪姫。
 いつか本物のハッピーエンドが来るまでは。
 ハイ・ホー、ハイ・ホー、と七人の小人がツルハシで掘って、青い地球が戻って来るまでは…。

 

          白雪姫と王子・了

※ラストは地の底だったよなあ、と思っただけ。気付けば頭に響いていた「ハイ・ホー」。
 丁度いい具合にキースが白雪姫な黒髪、王子もいるからと思ったオチ。馬鹿だ、自分。





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「キース・アニアン。今回の件はよくやりました」
 お蔭で被害は最小限に止まりました。これからの、あなたの活躍に期待します。
(マザー・イライザ…)
 まさか褒められるとは、と嬉しいけれど。
 少し複雑な気持ちもするな…、と思ったキース。自分の部屋で。
 新入生を乗せていた船の衝突事故。
 危うく区画ごとパージされる所だったのを、サムと二人で助けに行った。
 そうして見事にやり遂げたけれど、それを褒められたのだけれども。
(…サムは呼ばれなかったんだ…)
 サムには無かった、マザー・イライザのコール。
 二人で救助活動をしたのに、サムがいたから自分は帰って来られたのに。
(マザー・イライザは…)
 救助に向かった決断のみを買っているのだろうか。
 それならば分かる、サムがコールをされなかったこと。称賛を受けなかったこと。
 サムは自分を手伝ってくれただけだから。
 「船外活動は得意なんだ」と、「しっかり食って、しっかり動く」と。
 そう、サムは救助に向かおうと決めてはいない。決めた自分について来ただけ。
 同行するなら誰にでも出来る、それがたまたまサムだっただけ。
 だから評価はされることなく、サムは呼ばれなかったのだろう。
 誰にでも出来ることだから。
 「救助に向かう」と決断すること、行動を起こすことが重要。
 自分はそれをやったけれども…。


 サムには無かった称賛の言葉。マザー・イライザからの労い。
 けれど、そのサムがいなかったならば、自分は生きて戻ってはいない。
 パージの衝撃でぶつけたバーニア、壊れてしまった宇宙空間を移動するための装置。
 あの時、サムが助けに来てくれなかったら、間違いなく死んでいただろう。
 ステーションには戻れないまま、酸素切れになって。
(サムが助けてくれたから…)
 こうして生きていられる自分。
 しかも、自分を助けに来たサム。彼もまた命懸けだった筈。
(あの宇宙服のバーニアは…)
 本来は一人用のもの。二人分の姿勢を制御できるとは限らない。移動の方も。
 なのに、迷わず飛んで来たサム。
 失敗したなら、サムも宇宙の藻屑になりかねなかったのに。
 危うい回転をし続けていた自分の巻き添えになってしまって、回り続けて、酸素切れで。
 一度勢いがついてしまったら、宇宙空間では止まれないから。
 サムだけ慌てて逃げ出そうにも、手遅れということもあるのだから。
(…基礎の基礎なんだ、そういう知識は…)
 無重力訓練の講義の最初に叩き込まれる。
 サムが知らない筈は無いのに、迷うことさえしなかった。
 死んでしまうかもしれないのに。…巻き添えになって、後悔しても遅いのに。


 まさに命の恩人だったサム。命懸けで助けてくれたサム。
 運よく二人で助かっただけで、下手をしたなら、彼もまた死んでいたろうに。
(ぼくだったら…)
 出来たろうか、と自分に問い掛けてみる。
 あの場面で立場が逆だったなら、と。
(…多分、直ぐには飛び出していない…)
 戻り損ねたら無い命。
 何処かに命綱を取り付け、それから宇宙へ飛び出したろう。
 ただし、それでは間に合わないかもしれないけれど。
 姿勢を制御できなくなったら、何のはずみで高速移動を始めてしまうか分からないから。
 パージされた区画に引き摺られてゆくゴミの一つに、ぶつかったならば終わりだから。
 弾き飛ばされてしまうだろう身体、アッと言う間に彼方へと消える。
 恐らくサムもそれに気付いた。
 だから即座に飛んで来た。…命綱など、つけることなく。
(何故、そこまで…)
 出来たのだろう、と思った時に不意に頭に浮かんだ言葉。
(……友達……)
 サムが教えてくれたと言っていい言葉、そして自分はサムの「友達」。


 それで来たのか、と思い至った。
 サムは自分の友達だから。
 きっと「友達」というものは、そう。
 命を預けたり、命懸けで一緒に行動したりと、強い絆を持つのだろう。
 自分が礼を言った時にも、サムは笑っていただけだから。
 「いやあ、しっかり食って、しっかり動く。それだけさ」と。
 本当に命を懸けてくれたのに、恩着せがましいことも言わずに。
 それが「友達」なのだろう。
 互いに信頼し合っているから、迷わずに懸けられる命。
 同じに預けられる命で、「友達」だからこそ出来る行動。
 なるほど、と納得出来たこと。
 サムだからだ、と。
(命綱を確保、と思うようなぼくは…)
 まだまだ友達と呼べないのだろう、真の意味では。
 サムは友達だと言ってくれても、あそこで迷わず行動出来はしなかったから。
(しかし、今なら…)
 迷わずに出来る、サムを助けに飛び出して行ける。
 やっと「友達」になれたのだろう、命懸けで来てくれたサムのお蔭で。
 そうするべきだ、とサムに教えて貰ったから。


(友達か…)
 なんという奥の深い言葉か、と改めて思い知らされた。
 命も惜しまず、共に行動出来る相手が友達。
 迷わず命を懸けることが出来て、命を預けられるのが真の友達。
(命綱を確保しているようでは…)
 駄目なのだな、と自分自身を叱咤した。
 そんな腰抜けでは、「友達」が逃げてゆくだろうから。


 サムのお蔭でやっと分かった、と深く頷いた「友達」という言葉だけれど。
 自分もサムの真の友達になれそうだ、と嬉しくなったのだけれど。
「はあ…? 命懸けって、お前…」
 ポカンと口を開いたサム。
 二人で食事をしていた席で。
「いや、だから…。あの時、サムが来てくれたのは、友達だからだろう?」
 命綱無しで、あんな頼りないバーニアだけで、と続けたら。
「そりゃまあ…。そうかもしれねえけどよ。俺って、考えなしだから…」
 先に身体が動いちまった、命綱なんか忘れちまっていたよ。
 こりゃあ成績下がりそうだな、と笑ったサム。
 基礎の基礎だってえのによ、と困ったように頭を掻いて。
 どおりでマザー・イライザに褒めて貰えなかったわけだと、こんなウッカリ者では、と。


 失敗したぜ、と笑い続けて、それからサムは笑顔で言った。
「あのさ…。そんな大袈裟なモンじゃねえんだよ、友達ってのは」
 命懸けだとか、預けるだとか…。
 そんなんじゃ命が幾つあっても足りやしねえぜ、とポンと叩かれた肩。
 「こうして一緒に飯とか食えれば充分なんだよ」と、「友達ってのは、そういうモンさ」と。
「…そうなのか?」
「そう、そう! だから、お前はしっかり考えてから動いてくれよ?」
 間違えたって命綱無しで来ちゃいけねえぜ、とサムは注意をしてくれたけれど。
 サムの命が危うい時でも、自分の安全を優先するよう、釘を刺されてしまったけれど。


(…でも、ぼくも行こう)
 もしも、そういう時が来たなら、命綱は無しで。
 命綱など考える前に、友達の命を最優先で。
 それが本当の友達なのだと、サムから教えられたから。
 サムは「違う」と言うだろうけれど、それが真実だろうから。
 命を預けられる相手が真の友達、命懸けで助けに行くのが真の友達。
 そういう友を持って初めて、一人前の人間だろうと思うから。
 そうありたいと今は思っているから、その時は自分も、命綱は無しで…。

 

          本当の友・了

※あの事故、サムが一緒に行かなかったら、キースは本当におしまいだった筈なんですが…。
 サムが行ったのもマザー・イライザのプログラムだったら、ブチ切れちゃってもいいですか?





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「いらっしゃいませ!」
 そう言って頭を下げたい所を、グッと堪えたブルーやキースといった面々。
 アニテラ放映から九年目になる西暦2016年の元旦、いわゆる正月。
(((此処までの道が長かった…)))
 大変だった、と暮れの忙しさを振り返る一同、今日は誰もが正装で神様。正装と言っても…。
(ソルジャーの服とは大違いだよね…)
 何だったっけ、と首を捻るジョミーも、慣れない被り物が曲がっていないか気にするマツカも、誰もが漏れなく衣冠束帯。日本で言う所の神様の衣装、定番中の定番だった。
(下手に歩いたら脱げそうだけど…)
 そう考えるシロエの足元、靴とは違って沓というもの。ぴったりフィットの候補生が履く靴とは違う。もちろん、キースが馴染んだニーハイブーツとも。
 けれども、今日から「初詣」とやらの期間の間は、これが制服。神様なのだし、それっぽく。
(((日頃の御愛顧に感謝をこめて…)))
 初詣なのだ、と神社に鎮座している面々。誰もが主役で、立派な神社を一つ担当。
 なにしろ、今日まで「地球へ…」を忘れていないファンに御礼の精神だから。全員とっくの昔に神様、なれる資格はあるようだから。


 事の起こりは昨年の暮れで、人類もミュウも入り乱れての忘年会。
 いい感じに酒が入った所で、誰かが言い出した「今もファンの皆様に御礼」。放映終了から長く経つのに、今でも贔屓にしてくれる人。是非とも御礼をしたいものだ、と。
「御礼か…。それも悪くはないな」
 新春セールでもするか、と国家主席まで務めたキースが言ったけれども、何を売るかが難しい。日頃から売っていないわけだし、値引きの基準も謎な有様。
「バザーなんかはどうでしょう?」
 みんなで色々出すんですよ、というマツカの提案。けれど、これまた難しかった。朝も早くから並んだ輩が、根こそぎ持って行きそうだから。ファンとは違った、転売屋が。
「「「うーん…」」」
 どうすれば公平に御礼が出来るか、贔屓にしてくれる人をターゲットに出来るのか。それぞれに贔屓の人がいるわけで、ブルー命の人はキースに用が無いかもしれない。それどころか…。
(((…ブルーのファンだとキースが嫌いで、シロエのファンもキースが嫌いで…)))
 仇だしな、とキースに集中した視線。「この人、一番、嫌われてそうだ」と。
「失礼な! 私にだってファンはいるんだ!」
 ちゃんといるぞ、とキースは胸を張ったけれども、内心、不安でもあった。やっぱりブルーやシロエのファンには、ウケが悪いかもしれないと。
「その辺は人それぞれだろう。ぼくが嫌いな人だっている。…多分」
 遥か昔の劇場版でポスターを飾って以来の人気だけどね、と慰めてくれたミュウの元長。なにげに酒が回っているのか、かなりに自慢が入ったブルー。
 飲んで飲みまくって酔っ払いの団体、徹夜騒ぎで忘年会をやっている内に…。


 こうなったんだ、と誰もが神社に座っている結末。
 誰が言ったか、酔っ払いだけに一人も覚えていなかった。「初詣がいい」というアイデア。
 けれども酒が抜けた頃には、とてもナイスに思えたから。神社に座って初詣客を迎えるのなら、素敵に公平なイベントではある。
(((贔屓の神社に行けばいいわけで…)))
 嫌いな神社はスルーでオッケー。ついでに、モノが初詣。わざわざ新年から来てくれるファン、願い事を叶えて御礼も出来る。神様ならではのスペシャルな御礼。
 何故に全員神様と言うに、とうの昔に寿命を全うしていたから。
 アニテラの最終回で流れた特別エンディング。死の星だった地球が青く蘇って終わった以上は、それだけの歳月が流れ流れて、みんなとっくに人生を終えて神様なレベル。
 「これはいける」と皆で飛び付いた、2016年の初詣。
 とにかく神社に座っているだけ、初詣に来た人の願い事を叶えて日頃の御礼。
 同じやるなら徹底的に、と破魔矢やお守りも用意することになった。それぞれの得意分野を生かした、オリジナルのお守りだって。
 初詣をやるなら、おみくじも必須。神社もお守りも、おみくじの類も…。
(((各自で用意…)))
 これがなかなか大変だった、と思うけれども、そこは一応、神様だから。普通の人間がせっせと作ることを思えば、早かった。これだと決めたら、行け行けゴーゴー。
 そんなこんなで整った準備、2016年が明ける直前の二年参りでスタートで…。


 「いらっしゃいませ!」とやりたい所を、グッと堪えた神様な面々。
 衣冠束帯の神様スタイル、その格好で「いらっしゃいませ」だと、コスプレだから。有難味も何もパアになるから、其処は偉そうに構えておいた。
 ガランガランと鳴らされる鈴に、チャリンチャリンと投げ入れられるお賽銭。誰の所にも、初詣客がやって来た。御贔屓キャラが神様なのだし、これは行かねばと思うのが人情。
(((お願い事も様々…)))
 それはちょっと、と思うようなヤツもあるのだけれども、感謝をこめての初詣イベント。神様の力で何とかなるなら、叶えなくては神様失格。
 ファンの皆様が喜んで下さるのなら、と誰もが神様稼業への決意を新たにしていたら…。
「破魔矢下さい!」
 あちこちの神社で破魔矢におみくじ、それにお守りと注文が入った初詣。つまり…。
「お待たせしました、破魔矢ですね?」
 お値段が…、とシロエが叩く頭の電卓、破魔矢と学業のお守りを合わせて幾らだっけ、と。
 別の神社では、「長寿のお守り…。それとおみくじの三十四番、少しだけ待ってくれたまえ」とブルーがおみくじの棚に向かっていた。「三十四番、三十四番…」と。
 キースは立身出世のお守りと破魔矢とおみくじを注文されている最中、ジョミーの神社は無病息災のお守りの他にサッカーお守りも作っていたから、もう大忙し。


(((神様は、なんて忙しいんだ…)))
 誰もが忘れていた巫女さんの存在、それにバイトの人たちも。
 なんと言っても、誰もが初詣の経験が無くて、素人というヤツだったから。とにかく神社で破魔矢でお守り、それに願い事を叶えるイベント、と思い込んでいたものだから。
 神様自ら破魔矢の授与で、おみくじも渡せば、お守りも渡す。目の回るような忙しさだけれど、日頃の御愛顧に感謝のイベント。
「すみません、順番に並んで下さいね」
 やたらと腰の低い神様がマツカ、破魔矢とおみくじを渡していたら。
「御朱印もよろしくお願いします!」
 これ、と差し出された御朱印帳。そういえばそれもあったんだった、と思い出した次第。
(誰が言い出したんだっけ…?)
 覚えていない、と暮れの忙しさで飛んだ記憶はブン投げておいて、サラサラと書いた御朱印帳。神社のハンコをバンッ! と押したら出来上がり。
 「どうぞ」と御朱印帳を渡した相手は、大喜びで。
「ありがとうございます! 次はキースの方にもお参りしますね!」
「え?」
 初詣は一ヶ所だけではなかったのか、と驚いたマツカ。けれど、御朱印帳を抱き締めたファンの女性は、弾む足取りで去って行った。次はキースの神社で御朱印、と。
(ぼくとキースのファンなんでしょうか…?)
 そうですよね、とマツカは破魔矢とお守りとおみくじの授与に頭を切り替えたけれど…。


(((誰が御朱印を流行らせたんだ…!)))
 スタンプラリーとは違うのに、とジョミーが、キースが抱えた頭。ブルーもシロエも、他の大勢の神様だって。
 御朱印帳とスタンプラリーは違うのだから、コンプリートしたって御褒美は出ない。なのに御朱印を集めるファンが続出、破魔矢やお守りを販売、いやいや授与する合間に御朱印書き。
(((絶対、ファンとは違う筈…)))
 お賽銭も入れていなかっただろう、と神様だから分かる悲しい現実。お賽銭も入れない、願い事もしない、なのに御朱印希望の客たち。全員の分を集めたいだけ、御贔屓の神様以外でも。
(((お客様は神様…)))
 仕方がない、と御朱印を書いて見送った客も多かった。いったい誰のファンだろうか、と。
 けれども、そんな侘しい気持ちも一気に吹っ飛ぶ、ガランガランと鈴を鳴らす音。チャリンチャリンとお賽銭の音で、パンパンと柏手を打って貰ったら…。
(((今年も一年、どうぞよろしく!)))
 そんなキモチになるのが神様、今でも贔屓にしてくれるのがファンだから。お願い事の中身が何であろうと、わざわざ来てくれた初詣。破魔矢やお守りも買ってくれるし、神様としては…。
(((努力あるのみ!!!)))
 いい一年になりますように、と誰もが燃える自分の使命。願い事は是非とも叶えなければと、お守りの御利益もキッチリと、と。


(((初詣をやって、きっと正解…)))
 忙しくても、これぞ究極のファンサービス、と頑張りまくる神様たち。衣冠束帯で右へ左へ、新年早々、大忙しで。それでも初詣をやって良かったと、ファンの皆さんに御礼を、と。
 サムの神社もグレイブ神社も、何処も大忙しだった。トォニィ神社も、リオ神社だって。渋さが売りのゼル神社とかも、セルジュ神社も、満員御礼。
 もちろん女性の神様の方も。フィシス神社もミシェル神社も大忙しだし、良縁祈願のカリナ神社も大人気。女性の神様は衣冠束帯は着ていないけれど、裳だの領巾だの、そんな服装。
(((お正月の間、頑張らないと…)))
 ファンサービスを、と駆け回る神様、ファンの初詣は嬉しいから。
 今になっても来てくれるファンは、とても嬉しいものだから。
 御朱印だけのお客様でも、きっと誰かの熱烈なファン。いったい誰のファンなのだろう、と想像するのも楽しい気分になってきたから、お賽銭無しでも文句は言わない。
(((今年もいい年にしなくては…!)))
 それが神様の仕事で使命、と頑張る「地球へ…」な神様たち。何処もバイトを雇い忘れて、神様自ら出番だけれど。破魔矢やお守りをせっせと授与して、おみくじも自分で渡すのだけれど。
 神様が顔出しな初詣だから、まさに究極のファンサービス。
 御贔屓の神様に会える仕組みは、只今、人気沸騰中。そしてどんどん人が増えるけれど、神様は今日も頑張り続ける。「今年も一年どうぞよろしく」と、「いい一年を」と…。

 

         初詣にようこそ・了

※干支の引き継ぎをやったからには初詣、と思ったわけではないんですけど…。
 こういう神社があったら行きます、もちろん、御朱印コンプリートで!




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