「答えを聞こう。人類は我を必要や、否や」
とてつもない高みから降って来た問い。グランド・マザーからキースへの。
これはマズイ、と動いたジョミー。これにキースがどう答えるかで、ミュウの未来が決まってしまうから。
「キース、ぼくらは理解し合える!」
そのことは君が一番分かっているだろう、と言ったのに。
「…お前は人類の真の愚かさを知らない」などと言い出したキース。ますますもってヤバイ方へと行きそうな雰囲気、ミュウの未来を守らなければ。
「そんなことはない!」
ぼくは人間に育てられた、とキースの説得にかかろうとした時。
(…???)
なんだ、と思わず失った声。キースの方もポカンとしている、明後日の方を向いたまま。
「「「ハイ・ホー、ハイ・ホー…」」」
景気よさげな歌が聞こえて来て、ツルハシを担いで行進して来る七人の小人。
これで固まらない方がどうかしている、ソルジャーだろうが、国家主席だろうが。此処は地球の地の底深く、グランド・マザーが認めた者しか入れない筈の空間だから。
なのに…。
「「「ハイ・ホー、ハイ・ホー、仕事が好き~」」」
そう歌いながらやって来る小人たち。
どうしたわけだか、グランド・マザーも沈黙中で、歌声だけが高く響き渡って。
ハイ・ホー、ハイ・ホー、と直ぐ側まで来た小人たちが訊いた。「白雪姫?」と。
「「白雪姫?」」
キースとジョミーの声がハモッたけれども、七人の小人が見上げるのはキース。国家主席をガン見したまま、七人の小人はもう一度尋ねた。「白雪姫?」と、キースに向かって。
「し、白雪姫…。私がか?」
「雪のように白い肌に、黒い髪だけど?」
「赤い頬と唇は、年のせいかイマイチだけど…」
「白雪姫?」というのが質問、つまりキースは白雪姫か、という質問。白雪姫といえば七人の小人で、そのくらいのことはジョミーも知っているから。
声も出ないらしいキースは放って、小人たちに向かって問い返した。
「もしもキースが白雪姫なら、どうなるんだ?」
「あんた、王子様?」
斜めなことを訊かれたけれども、此処で負けたら駄目な気がした。だから…。
「ぼくが王子なら、いったいなんだと!?」
「あー、それだったら…」
助けないとねえ、と答えた小人たち。白雪姫を悪いお妃から守らないとと、ハッピーエンドにしなければ、と。
「悪いお妃は何処にいるんだ!?」
「「「あそこ」」」
七人の小人たちが指差したものは、グランド・マザーというヤツだった。よりにもよってアレが悪いお妃、キースが白雪姫ならば。ついでにジョミーが王子ならば。
これはどういう展開なんだ、と流石のジョミーも詰まったけれど。
七人の小人たちが言うには、「悪いお妃」が此処に来てから六百年近く。小人たちは来る日も来る日も白雪姫を探しているという。ハイ・ホー、ハイ・ホーとダイヤモンドを掘りながら。
(ダイヤモンド…? 売りに行く先も無さそうなのに…)
もう本当に意味が不明だ、とジョミーは思ったけれども、あるいはチャンスかもしれない。小人たちは白雪姫を「悪いお妃」から守るそうだから。
駄目で元々、当たって砕けろ。人生、出たトコ勝負だとばかり、七人の小人に訊いてみた。
「君たちは、悪いお妃を倒せるのか?」
「「「白雪姫を守るためなら!!」」」
あっさりサックリ、倒すという返事。こんな小人がどうやって、と謎は山積み、そうは言っても渡りに船。この際、キースが白雪姫でもいいだろう。グランド・マザーを倒せるのなら。
そう思ったから、キースを彼らに紹介した。「正真正銘、白雪姫だ」と。
「ぼくが保証する。雪のように白い肌に黒い髪だから、キースは白雪姫なんだ」
「待て、ジョミー!」
私の立場はどうなるんだ、と空気が読めないキースが言うから、「シーッ!」と唇に人差し指。
「今は白雪姫でいいだろう! ぼくが王子ということで」
「そ、そうか…。そうだな、私が白雪姫…らしい」
キースが「白雪姫」と名乗った途端に、躍り上がった小人たち。やっと白雪姫が来た、と。
「「「ハイ・ホー、ハイ・ホー、仕事が好きーっ!!」」」
ツルハシを担いだ小人たちのパワーは凄かった。ハイ・ホー、ハイ・ホー、と歌いまくりながら行進してゆき、グランド・マザーをガッツンガッツン。
六百年近くもダイヤモンドを掘り続けたツルハシ、それでガンガン叩きまくって、ハイ・ホー、ハイ・ホー。
「「「ハイ・ホー、ハイ・ホー」」」
仕事が好きーっ! と歌う彼らは、まさに無敵の戦士そのもの。聳える巨大なグランド・マザーもなんのその。足元の方からガッツンガッツン、せっせ、せっせと壊してゆく。
「どうなっているんだ…」
グランド・マザーを破壊出来る筈などがない、と白雪姫なキースが呟くけれども、これが現実。七人の小人に、グランド・マザーの攻撃は通用しなかった。
ならば、とグランド・マザーが放った剣の攻撃、それも届きはしなかった。あまつさえ…。
「白雪姫と王子は守らないと!」
「ハッピーエンドな結末のために!」
其処に立っていれば安全だから、と自称・王子と白雪姫にもシールドのサービスつきだった。至れり尽くせりの七人の小人、ハイ・ホー、ハイ・ホーと壊しまくって…。
気付けば「悪いお妃」なグランド・マザーは、ただの瓦礫の山だった。何が何だか分からないけれど、どうやら全ては終わったらしい。
「グラン・パ!」
トォニィが突然降って現れて、その光景に唖然としてから。
「グラン・パ、ぼくと一緒に帰ろう。こんな所、もういいだろう!」
「あ、ああ…。うん、帰ろうか」
キースは一人で帰れるだろうし、とトォニィと一緒に行こうとしたら。
「「「王子様!!」」」
行っちゃ駄目! と七人の小人に掴まれたマント、「白雪姫を置いて行っちゃ駄目」と。
「し、白雪姫って…?」
もしかしなくても、と慌てたけれども、言い出しっぺは自分だったから。
(…キースとハッピーエンドになるわけ?)
そんな殺生な、と青ざめたって、後悔先に立たず。覆水盆に返らずとも言って、ジョミーに退路は無さそうだった。ついでに白雪姫なキースも。
というわけで…。
「「「ハイ・ホー、ハイ・ホー、仕事が好きーっ!」」」
七人の小人たちの歌声が響く毎日、ガッツガッツとツルハシを振るう彼らの仕事が、ようやく理解出来て来た。彼らは地球を作り直そうと、毎日せっせと仕事中で…。
「ジョミー・マーキス・シン。…お前のせいだぞ」
お蔭で私はこんな所で白雪姫だ、とキースがぼやくけれども、ジョミーも囚われの王子だから。お互い、此処から出られないから、おあいこと言うか、どっちもどっち。
シャングリラはとっくに地球を離れて去って行ったし、キースの部下たちも去って行ったし…。
その代わりと言っては何だけれども、いつの間にやら増えていた面子。
「キース先輩が白雪姫だったとは、ぼくも思いもしませんでしたよ」
そんな情報、フロア001にも無かったですねえ…、と呆れるセキ・レイ・シロエ。彼の隣ではソルジャー・ブルーが頭を振り振り、「ジョミーが王子ねえ…」と。
「知らなかったよ、君が生まれた時から見ていた筈なんだけどね」
何処の国の王子様だったんだい、と呆れ返っているミュウの元長。ぐるり見回せば、サムも来ているし、マツカもいるしで、どうやら此処は…。
((お伽の国…))
ハッピーエンドの国だったのか、と悟るしかないジョミーとキース。
きっとその内に、もっと面子が増えるのだろう。シャングリラで去ったトォニィだとか、キースの部下のセルジュたちとか。
そしてその内、地球はすっかり青く蘇って、本当に本物のハッピーエンドが来るのだろう。
ハイ・ホー、ハイ・ホー、と小人たちは今日も歌い続ける、ツルハシを担いでハイ・ホーと。
白雪姫と王子のためにと、ハッピーエンドの結末を、と。
「なんでキースが白雪姫に…」
「やかましい! それで命を拾ったろうが!」
お前が私を白雪姫にしたんだろうが、とジョミーとキースの腐れ縁。小人たちは白雪姫と王子様だと今も信じて疑わないから。違うと言ったら後が無いから、今も王子と白雪姫。
いつか本物のハッピーエンドが来るまでは。
ハイ・ホー、ハイ・ホー、と七人の小人がツルハシで掘って、青い地球が戻って来るまでは…。
白雪姫と王子・了
※ラストは地の底だったよなあ、と思っただけ。気付けば頭に響いていた「ハイ・ホー」。
丁度いい具合にキースが白雪姫な黒髪、王子もいるからと思ったオチ。馬鹿だ、自分。
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