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初詣にようこそ

「いらっしゃいませ!」
 そう言って頭を下げたい所を、グッと堪えたブルーやキースといった面々。
 アニテラ放映から九年目になる西暦2016年の元旦、いわゆる正月。
(((此処までの道が長かった…)))
 大変だった、と暮れの忙しさを振り返る一同、今日は誰もが正装で神様。正装と言っても…。
(ソルジャーの服とは大違いだよね…)
 何だったっけ、と首を捻るジョミーも、慣れない被り物が曲がっていないか気にするマツカも、誰もが漏れなく衣冠束帯。日本で言う所の神様の衣装、定番中の定番だった。
(下手に歩いたら脱げそうだけど…)
 そう考えるシロエの足元、靴とは違って沓というもの。ぴったりフィットの候補生が履く靴とは違う。もちろん、キースが馴染んだニーハイブーツとも。
 けれども、今日から「初詣」とやらの期間の間は、これが制服。神様なのだし、それっぽく。
(((日頃の御愛顧に感謝をこめて…)))
 初詣なのだ、と神社に鎮座している面々。誰もが主役で、立派な神社を一つ担当。
 なにしろ、今日まで「地球へ…」を忘れていないファンに御礼の精神だから。全員とっくの昔に神様、なれる資格はあるようだから。


 事の起こりは昨年の暮れで、人類もミュウも入り乱れての忘年会。
 いい感じに酒が入った所で、誰かが言い出した「今もファンの皆様に御礼」。放映終了から長く経つのに、今でも贔屓にしてくれる人。是非とも御礼をしたいものだ、と。
「御礼か…。それも悪くはないな」
 新春セールでもするか、と国家主席まで務めたキースが言ったけれども、何を売るかが難しい。日頃から売っていないわけだし、値引きの基準も謎な有様。
「バザーなんかはどうでしょう?」
 みんなで色々出すんですよ、というマツカの提案。けれど、これまた難しかった。朝も早くから並んだ輩が、根こそぎ持って行きそうだから。ファンとは違った、転売屋が。
「「「うーん…」」」
 どうすれば公平に御礼が出来るか、贔屓にしてくれる人をターゲットに出来るのか。それぞれに贔屓の人がいるわけで、ブルー命の人はキースに用が無いかもしれない。それどころか…。
(((…ブルーのファンだとキースが嫌いで、シロエのファンもキースが嫌いで…)))
 仇だしな、とキースに集中した視線。「この人、一番、嫌われてそうだ」と。
「失礼な! 私にだってファンはいるんだ!」
 ちゃんといるぞ、とキースは胸を張ったけれども、内心、不安でもあった。やっぱりブルーやシロエのファンには、ウケが悪いかもしれないと。
「その辺は人それぞれだろう。ぼくが嫌いな人だっている。…多分」
 遥か昔の劇場版でポスターを飾って以来の人気だけどね、と慰めてくれたミュウの元長。なにげに酒が回っているのか、かなりに自慢が入ったブルー。
 飲んで飲みまくって酔っ払いの団体、徹夜騒ぎで忘年会をやっている内に…。


 こうなったんだ、と誰もが神社に座っている結末。
 誰が言ったか、酔っ払いだけに一人も覚えていなかった。「初詣がいい」というアイデア。
 けれども酒が抜けた頃には、とてもナイスに思えたから。神社に座って初詣客を迎えるのなら、素敵に公平なイベントではある。
(((贔屓の神社に行けばいいわけで…)))
 嫌いな神社はスルーでオッケー。ついでに、モノが初詣。わざわざ新年から来てくれるファン、願い事を叶えて御礼も出来る。神様ならではのスペシャルな御礼。
 何故に全員神様と言うに、とうの昔に寿命を全うしていたから。
 アニテラの最終回で流れた特別エンディング。死の星だった地球が青く蘇って終わった以上は、それだけの歳月が流れ流れて、みんなとっくに人生を終えて神様なレベル。
 「これはいける」と皆で飛び付いた、2016年の初詣。
 とにかく神社に座っているだけ、初詣に来た人の願い事を叶えて日頃の御礼。
 同じやるなら徹底的に、と破魔矢やお守りも用意することになった。それぞれの得意分野を生かした、オリジナルのお守りだって。
 初詣をやるなら、おみくじも必須。神社もお守りも、おみくじの類も…。
(((各自で用意…)))
 これがなかなか大変だった、と思うけれども、そこは一応、神様だから。普通の人間がせっせと作ることを思えば、早かった。これだと決めたら、行け行けゴーゴー。
 そんなこんなで整った準備、2016年が明ける直前の二年参りでスタートで…。


 「いらっしゃいませ!」とやりたい所を、グッと堪えた神様な面々。
 衣冠束帯の神様スタイル、その格好で「いらっしゃいませ」だと、コスプレだから。有難味も何もパアになるから、其処は偉そうに構えておいた。
 ガランガランと鳴らされる鈴に、チャリンチャリンと投げ入れられるお賽銭。誰の所にも、初詣客がやって来た。御贔屓キャラが神様なのだし、これは行かねばと思うのが人情。
(((お願い事も様々…)))
 それはちょっと、と思うようなヤツもあるのだけれども、感謝をこめての初詣イベント。神様の力で何とかなるなら、叶えなくては神様失格。
 ファンの皆様が喜んで下さるのなら、と誰もが神様稼業への決意を新たにしていたら…。
「破魔矢下さい!」
 あちこちの神社で破魔矢におみくじ、それにお守りと注文が入った初詣。つまり…。
「お待たせしました、破魔矢ですね?」
 お値段が…、とシロエが叩く頭の電卓、破魔矢と学業のお守りを合わせて幾らだっけ、と。
 別の神社では、「長寿のお守り…。それとおみくじの三十四番、少しだけ待ってくれたまえ」とブルーがおみくじの棚に向かっていた。「三十四番、三十四番…」と。
 キースは立身出世のお守りと破魔矢とおみくじを注文されている最中、ジョミーの神社は無病息災のお守りの他にサッカーお守りも作っていたから、もう大忙し。


(((神様は、なんて忙しいんだ…)))
 誰もが忘れていた巫女さんの存在、それにバイトの人たちも。
 なんと言っても、誰もが初詣の経験が無くて、素人というヤツだったから。とにかく神社で破魔矢でお守り、それに願い事を叶えるイベント、と思い込んでいたものだから。
 神様自ら破魔矢の授与で、おみくじも渡せば、お守りも渡す。目の回るような忙しさだけれど、日頃の御愛顧に感謝のイベント。
「すみません、順番に並んで下さいね」
 やたらと腰の低い神様がマツカ、破魔矢とおみくじを渡していたら。
「御朱印もよろしくお願いします!」
 これ、と差し出された御朱印帳。そういえばそれもあったんだった、と思い出した次第。
(誰が言い出したんだっけ…?)
 覚えていない、と暮れの忙しさで飛んだ記憶はブン投げておいて、サラサラと書いた御朱印帳。神社のハンコをバンッ! と押したら出来上がり。
 「どうぞ」と御朱印帳を渡した相手は、大喜びで。
「ありがとうございます! 次はキースの方にもお参りしますね!」
「え?」
 初詣は一ヶ所だけではなかったのか、と驚いたマツカ。けれど、御朱印帳を抱き締めたファンの女性は、弾む足取りで去って行った。次はキースの神社で御朱印、と。
(ぼくとキースのファンなんでしょうか…?)
 そうですよね、とマツカは破魔矢とお守りとおみくじの授与に頭を切り替えたけれど…。


(((誰が御朱印を流行らせたんだ…!)))
 スタンプラリーとは違うのに、とジョミーが、キースが抱えた頭。ブルーもシロエも、他の大勢の神様だって。
 御朱印帳とスタンプラリーは違うのだから、コンプリートしたって御褒美は出ない。なのに御朱印を集めるファンが続出、破魔矢やお守りを販売、いやいや授与する合間に御朱印書き。
(((絶対、ファンとは違う筈…)))
 お賽銭も入れていなかっただろう、と神様だから分かる悲しい現実。お賽銭も入れない、願い事もしない、なのに御朱印希望の客たち。全員の分を集めたいだけ、御贔屓の神様以外でも。
(((お客様は神様…)))
 仕方がない、と御朱印を書いて見送った客も多かった。いったい誰のファンだろうか、と。
 けれども、そんな侘しい気持ちも一気に吹っ飛ぶ、ガランガランと鈴を鳴らす音。チャリンチャリンとお賽銭の音で、パンパンと柏手を打って貰ったら…。
(((今年も一年、どうぞよろしく!)))
 そんなキモチになるのが神様、今でも贔屓にしてくれるのがファンだから。お願い事の中身が何であろうと、わざわざ来てくれた初詣。破魔矢やお守りも買ってくれるし、神様としては…。
(((努力あるのみ!!!)))
 いい一年になりますように、と誰もが燃える自分の使命。願い事は是非とも叶えなければと、お守りの御利益もキッチリと、と。


(((初詣をやって、きっと正解…)))
 忙しくても、これぞ究極のファンサービス、と頑張りまくる神様たち。衣冠束帯で右へ左へ、新年早々、大忙しで。それでも初詣をやって良かったと、ファンの皆さんに御礼を、と。
 サムの神社もグレイブ神社も、何処も大忙しだった。トォニィ神社も、リオ神社だって。渋さが売りのゼル神社とかも、セルジュ神社も、満員御礼。
 もちろん女性の神様の方も。フィシス神社もミシェル神社も大忙しだし、良縁祈願のカリナ神社も大人気。女性の神様は衣冠束帯は着ていないけれど、裳だの領巾だの、そんな服装。
(((お正月の間、頑張らないと…)))
 ファンサービスを、と駆け回る神様、ファンの初詣は嬉しいから。
 今になっても来てくれるファンは、とても嬉しいものだから。
 御朱印だけのお客様でも、きっと誰かの熱烈なファン。いったい誰のファンなのだろう、と想像するのも楽しい気分になってきたから、お賽銭無しでも文句は言わない。
(((今年もいい年にしなくては…!)))
 それが神様の仕事で使命、と頑張る「地球へ…」な神様たち。何処もバイトを雇い忘れて、神様自ら出番だけれど。破魔矢やお守りをせっせと授与して、おみくじも自分で渡すのだけれど。
 神様が顔出しな初詣だから、まさに究極のファンサービス。
 御贔屓の神様に会える仕組みは、只今、人気沸騰中。そしてどんどん人が増えるけれど、神様は今日も頑張り続ける。「今年も一年どうぞよろしく」と、「いい一年を」と…。

 

         初詣にようこそ・了

※干支の引き継ぎをやったからには初詣、と思ったわけではないんですけど…。
 こういう神社があったら行きます、もちろん、御朱印コンプリートで!




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