忍者ブログ

(自らの命を犠牲にして、メギドを止めたのか…)
 ソルジャー・ブルー、とキースの心を占めるもの。そう、今も。
 メギドを失い、グレイブの艦隊に残存ミュウの掃討をするよう命じたけれど。
 その時からの思いで、今も消えない。
 自室に引き上げ、こうしてシャワーを浴びている今も。
 グレイブが指揮する艦隊とは別に、こちらの船はジルベスター・エイトから離脱中。
 ミュウどもが「ナスカ」と呼んでいた星、ジルベスター・セブンも遠ざかりつつあるけれど。
 ジルベスター・セブンは砕けて、跡形も無いのだけれど。
(…ソルジャー・ブルー…)
 もういない、伝説のタイプ・ブルー。…タイプ・ブルー・オリジンと呼ばれた男。
 自分が彼を撃ち殺したと言っていいのか、それとも成し遂げられなかったか。
(これで終わりだ、と…)
 撃ち込んだ弾は、彼のシールドを突き抜けて右の瞳を砕いた。
 あれで終わりだと思っていたのに、倒れなかったソルジャー・ブルー。
 代わりに起こしたサイオン・バースト、噴き上げるように広がり始めた青い光の壁。
 危うく、それに…。
(巻き込まれていたら、今頃、私は…)
 生きて此処にはいなかったろう。
 サイオンの光に一瞬にして焼き尽くされたか、あるいは意識を失ったのか。
 もしも、あそこに倒れていたなら、自分の命は無かった筈。
 メギドの制御室は、そういう所だから。
 発射される時に其処にいたなら、命が危ういエネルギー区画。
 それが常識、だからマツカは「行っては駄目です」と止めにかかったし、後を密かに…。
(つけて来ていたから、私を救い出せたんだ…)
 サイオンの光に巻き込まれる直前、走り込んで来た忠実なマツカ。
 彼が自分を抱えて「飛んだ」。
 瞬間移動で、制御室からエンデュミオンの艦内まで。


 そうして辛くも救われた命。
 自分の命がどれほど危ういものであったか、嫌と言うほど思い知らされた。
 残党狩りを命じた後に、「部屋に戻る」と戻って来たら。
 酷く疲れを覚えていたから、気分転換に浴びようと思った熱いシャワー。
 バスルームの扉を開けた途端に、其処の鏡に映った自分。
(セルジュたちにも見られたな…)
 煤まみれになった、あの顔を。
 けれど彼らは、「ソルジャー・ブルーと死闘を繰り広げた結果」なのだと思っているだろう。
 戦いの最中に起こった爆発、その時に浴びた煤なのだと。
(…それならば良かったのだがな…)
 生き残ったことを誇れもするし、死の淵からの生還の証と言えるのだから。
 メギドを失ったほどの爆発、それを食らっても「生き延びる術」を持っていたのだと。
(…だが、実際は…)
 マツカが助けに来なかったならば、失われていた自分の命。
 本当に命の瀬戸際だったと、顔についた煤が示していた。
 間一髪で救われただけで、そうでなければ失くした命。
 サイオンの光に焼かれて死んだか、あるいはメギドの発射で命を落としたか。
 どちらにしたって、生き残れていたわけがない。
 いったい自分は何をしたのか、どれほど愚かだったのか。
 それを突き付けられたのが鏡、其処に映った煤まみれの顔。
 「これがお前だ」と、「お前がやったことの結果がこれだ」と。
 マツカがいなければ死んでいたのだと、「なんと無様な姿なのだ」と。
 煤まみれの顔が映っているのは、生きて此処にいる証拠だけれど。
 その命は何処から拾って来たのか、ちゃんと自分で守ったのか。
 答えは「否」で、一人だったら失くした命。
 瞬間移動など出来はしないし、きっとメギドの制御室で。
 ソルジャー・ブルーと共に倒れて、それきりになっていたのだろう。
 「アニアン少佐は戻らなかった」と報告されて。


 元より、命が惜しくはない。
 軍人なのだし、惜しいと思ったことさえも無い。
 ただ、その「命」の失くし方。…何処で失くすか、どう失くすのかで違う価値。
 命を捨てた甲斐があるなら、軍人冥利に尽きるのだけれど。
 何の成果も上げることなく死んでいったら、それは無駄死に、犬死にでしかない。
 いくら「名誉の戦死」でも。
 作戦中の死で、二階級特進になったとしても。
(…まさに無駄死にというヤツだ…)
 あそこで死んでいたのなら。
 ソルジャー・ブルーに巻き添えにされて、命を失くしていたのなら。
 自分が死んでも、何の役にも立たないから。
 この艦隊の指揮官の自分、それを失くしてきっと混乱したろう「その後」。
 セルジュが代理を務めるとはいえ、彼も詳しくは知らない作戦。
 「目的はミュウの殲滅」だという程度しか。
 如何にセルジュが副官だとしても、伝えられない軍事機密も多いのだから。
(それなのに何故、私は、あの時…)
 ソルジャー・ブルーが来たと知った時、制御室へと行ったのか。
 彼を狩ろうと考えたのか。
 「仕留めてやるのが、狩る者の狩られる者に対する礼儀だ」などと格好をつけて。
 伝説の獲物が飛び込んで来たから、それを仕留めに行ってくる、と。
(保安部隊では、太刀打ち出来ない相手だが…)
 ただの兵士では歯が立たないのがソルジャー・ブルー。
 自分は身をもって知っているから、ミュウどもの船で負け戦を味わわされたから…。
(今度は勝ちたかったのか?)
 ミュウの船ではなく、自分の船が戦場だから。
 より正確に表現するなら、自分の船とドッキングしているメギドを舞台に戦うのだから。
 「今度こそ勝つ」と思っただろうか、それが出掛けた理由だろうか?
 ソルジャー・ブルーの覚悟のほども知りたかったし、見届けたくもあったから。
 「お前は、どれほどの犠牲を払える?」と。


 そうして出掛けて行ったメギドで、またも無様な負け戦。
 傍目には「勝ち戦」だけれど。
 セルジュたちも、きっとグランド・マザーも、そうだと思うだろうけれど。
(しかし、自分を誤魔化すことは…)
 けして出来ない、勝ち戦だなどと思えはしない。
 マツカが自分を救いに来たこと、それを誰にも漏らさなくても、自分自身は誤魔化せない。
 あそこでマツカが来なかったならば、失くした命。
 それも犬死に、何の役にも立ちはしない死。
 艦隊が無駄に混乱するだけ、指揮官が死んでしまっただけ。
 「名誉の戦死」で、「ソルジャー・ブルーと死闘を繰り広げた末の最期」でも。
 ソルジャー・ブルーと共に散っても、皆が自分を褒め称えても…。
(…私の死などは、それだけのことで…)
 実際の所は、狩るべき獲物に返り討ちにされただけのこと。
 ソルジャー・ブルーに巻き添えにされて、命を失くしてしまっただけ。
 彼を狩ろうと考えたから。
 「今度こそ、私が勝ってみせる」と、自分の誇りにこだわったから。
 いくら伝説のタイプ・ブルーでも、「今度はそうそうやられはしない」と。
 二度も負け戦でたまるものかと、「来たことを後悔させてやる」と。
 相手はミュウで、宇宙から排除されるべきもの。
 撃ち殺してやれば自分の勝ちだし、反撃されても「今度は勝つ」。
 メギドが発射されてしまえば、彼が来た意味は無くなるから。
 ソルジャー・ブルーは「狩られるために」飛び込んで来ただけのことになるから。
 飛んで火にいる夏の虫だし、彼を殺せば自分の勝ち。
(…まさか、サイオンをバーストさせるなど…)
 まるで思いはしなかった。
 サイオン・バーストを起こしたミュウを待つものは、「死」のみ。
 命を捨てる覚悟が無ければ、サイオンを全て放出するのは不可能だから。
 そんなミュウなど、見たことがない。
 聞いたことすら一度も無かった、死への引き金を自ら引いたミュウの話は。


 きっと最初から、ソルジャー・ブルーは命を捨てる気だったのだろう。
 生きて戻ろうとは微塵も思わず、ただ一人きりでやって来た。
(たまたま、私に遭遇したから…)
 何発も弾を撃ち込まれた末の死だったけれども、そうでなくても死んだのだろう。
 メギドもろとも、命を捨てて。
 持てるサイオンを全て出し尽くして、メギドそのものを道連れにして。
(…そしてあいつの思い通りになったというわけだ…)
 メギドは沈んで、ミュウどもの船はワープして逃げた。
 ソルジャー・ブルーは仲間を救った、自らの命を犠牲にして。
 あの船に乗っていた仲間を守って、宇宙に散ったソルジャー・ブルー。
 彼が守ったのはミュウの仲間と、その未来。
 逃げ延びたならば、巻き返しのチャンスもあるだろうから。
 場合によっては、ミュウの勝利もまるで無いとは言い切れないから。
(…あいつは無駄死にしなかった…)
 無駄死にどころか、万が一、ミュウが勝利した時は、どれほどの価値があることか。
 ソルジャー・ブルーが捨てた命に、仲間のために払った犠牲に。
 それに引き換え、自分はといえば…。
(…マツカが助けに来なかったなら…)
 犬死にだった、と情けない気分。
 またしても自分は負けたのだろう、ソルジャー・ブルーという男に。
 もう永遠に前に立ってはくれない男に、逝ってしまって「二度と戦えはしない」相手に。
 それを思うと、もう見たくもない自分の顔。煤まみれになっていた時の顔。
(…煤と一緒に、何もかも洗い流せたら…)
 ソルジャー・ブルーに負けたことまで、洗い流してしまえたら、と浴び続ける水。
 熱いシャワーを浴びるつもりで来たというのに、水しか浴びる気になれない。
 犬死にしかけた愚かな自分を、ソルジャー・ブルーに負けた自分を、流し去りたい気分だから。
 水ごと全てを洗い流せたら、きっと元通りの自分が戻って来るだろうから…。

 

          永遠の敗北・了

※なんだってキースは「ギリギリまで粘って」撃ち続けたのか、未だに疑問な管理人。
 とりあえず今はこんなトコです、考え方としては。結果だけを見ればブルーの勝ちだ、と。







拍手[0回]

PR

「ぼくは自由だ。自由なんだ…!」
 いつまでも、何処までも、この空を自由に飛び続けるんだ…!
 それがシロエの最期の言葉。
 彼を乗せていた練習艇は、キースに撃ち落とされたから。
 木っ端微塵に砕け散った船、広がっていった衝撃波。それに爆発に伴う光も。

「…なんだ、今のは?」
 爆発したぞ、と広がる光を遠くで目撃した者が一人。…いや、もっと。
「何なんでしょうね、この宙域だと…」
 E-1077が近いんじゃあ、と答えた男。他にも数人、頷いている男たち。
「へえ…。エリート様の育成場所かよ、そりゃ面白い」
 何かあったに違いねえや、と男は「行け」と顎をしゃくった。さっきの光が見えた方へと。
「お、お頭…?」
「いいから行けと言っているんだ、船長の俺に逆らったら…」
 海賊の掟は分かってるよなあ、と凄む男は海賊だった。SD体制の社会からはみ出した男。他の者たちもそれは同じで、船の名前はジョリー・ロジャー。言葉通りに「海賊旗」。
「わ、分かりました…!」
 慌てて航路設定する者、データの収集を始める者。
 彼らを尻目に、「行け」と命じた船長は不敵に笑っていた。「いい日だよなあ?」と。
「さっきは宇宙鯨も見たしよ、今日はいい日になりそうだ」
 今の光も俺にはプンプン匂うんだよ、と肝が据わった船長だったのだけれど…。


 目指した宙域、其処に散らばっていた船の残骸。
 撃ち落とした方はとうに去って行ったのを確認したから、海賊船が来たとはバレない。
「気を付けて探せよ、絶対に何かありそうだからな」
 俺たちの役に立ちそうなモノが、というのが船長の勘。滅多に外れはしないものだから、自信に溢れてやって来た。いったい何が見付かるだろう、と。
 けれど…。
「お頭、あそこに…!」
 何か光が見えますぜ、と報告した部下の声は、直ぐに震え始めた。「ひ、人だ…!」と、まるで恐ろしいものでも見たかのように。
 それはそうだろう、光が見えるのは真空の宇宙。人がいる筈がないのだから。
「落ち着け、馬鹿。…ふうむ、人だな」
 だったらアレがお宝だろう、と船長の肝は据わりすぎていた。
 漆黒の宇宙に散らばる残骸、その中でぼんやり黄色く発光しているモノ。多分、少年。
 「回収しろ」と命令された部下たちは震え上がったけれども、逆らったら自分が放り出される。船から宇宙空間へと。宇宙服など着せては貰えず、身体一つで。
 そうなれば死ぬしかないのだから、と部下たちは淡い光を纏った少年を宇宙から拾って来た。
 「拾いました」と青ざめた顔で、「どうやら生きているようです」と。


 海賊船が回収したのは、もちろんシロエ。
 船が撃墜された瞬間、無意識に張っていたシールド。命よりも大切に思っていた本は、シールドごと他所に飛ばされた。爆発の時の衝撃で。
 シロエ自身も、意識して張ったシールドではなかったものだから…。
 爆発の後をキースが確認しに来た時には、微弱だった光。キースは気付かずに行ってしまって、それから強くなった発光現象。「此処にいる」と仲間に知らせるかのように。
 何故なら、仲間が来ていたから。…ミュウの母船が近付いてくれば、サイオンは共鳴し始める。
 それで強くなったサイオンの光、いわばSOSなのだけれど。
 残念なことに、シャングリラはまだ遠かった。先に来たのが海賊船。
 よってシロエは拾われてしまい、ジョリー・ロジャー号の獲物というわけで…。


 肝がやたらと据わった船長、彼はシロエの手当てが済んだら自分の部屋へ運ばせた。
 気絶しているだけらしい少年。衰弱が酷いようだけれども、じきに回復するだろう。少年だけに数日もすれば…、とベッドの上の獲物を眺める内に…。
「…此処は?」
 何処、と少年の瞼が開いた。光はとうに消えているから、ただの子供にしか見えない。瞳の色は菫色。夢見るようにぼやけた焦点。
「さてなあ? その前に答えて貰おうか。…坊主、名前は?」
「え…?」
 途端に冴えたシロエの意識。ダテにエリート候補生ではなかったから。
 正気が戻れば、自分が置かれた状況も分かる。E-1077ではないらしいことも、そういえば追われていたらしいことも。
(…キースの船が…)
 ぼくが乗った船を撃ち落とした、と気付いたら後は身構えるだけ。「新手なのか!?」と。
 どういうわけだか助かったものの、今度は別の所に収監されたのか、と。
「落ち着けよ、おい。…俺はお前の敵じゃねえ」
 お仲間といった所だろうさ、と笑った船長。「俺たちは、はみ出し者だからなあ」と。
 マザー・システムなんぞは糞くらえだと、メンバーズどもも御免蒙るね、と。


 そんなわけだから、シロエも直ぐに理解した。「本当に敵じゃないんだ」と。
 海賊船でも、自分を助けてくれたのだったら、文句を言えるわけがない。大切なピーターパンの本は失くしたけれども、命は拾ったのだから。
 その上、撃墜された時の衝撃、それで戻って来た記憶。子供時代をどう過ごしたか。
(…パパ、ママ…)
 ぼくは海賊になったみたい、と夜な夜な部屋で苦笑する。「お前は此処だ」と貰った部屋。
 昼の間は海賊見習い、エネルゲイアとE-1077で教わった技術はついて来たから…。
「シロエ、こいつはどうなっている?」
 他の奴らじゃ手に負えねえ、と船長に名指しで頼まれる仕事。ハッキングなどといった作業。
「はいっ!」
 直ぐにやります、と交代したら、それは素晴らしいスピードだけに…。
「見ろよ、お宝だっただろう? 俺の勘には間違いねえんだ」
「で、でも…。あいつ、光ってたんですよ?」
 それに宇宙で生きてました、と腰が引けていた部下たちだって、時間が経てば慣れてくる。妙な出会いをしたというだけ、シロエは全く無害なのだし、強いて言うなら…。
「いい加減に覚えて下さいってば! この手のシステムというヤツはですね…!」
 こうやって、こう、と海賊相手にも怒鳴り散らすという気の強さ。
 ついでに喧嘩も負けていないし、小さいくせに腕が立つ。元がエリート候補生だから。
 そうとなったら、海賊たちにも可愛がられる。マスコットよろしく、「シロエ、シロエ」と。


 海賊船に乗ってしまったセキ・レイ・シロエ。
 なまじミュウだから、拾われた時から全く成長しないまま。他の仲間が年を重ねてもチビ。
「お前、どうやらアレだよなあ…。やっぱ、ミュウだな」
 仲間の所に帰るんだったら送ってやるが、と船長は言ってくれたのだけれど。
 「もう充分に役に立ってくれたし、ミュウどもの勢力も広がったからな」と下船の許可も貰ったけれども、一宿一飯どころではない恩の数々。
(それに、ミュウって言葉も知らなかったくせに…)
 助けてくれたのが船長。あの頃は「M」と口にしていた。「お前の正体、Mじゃないか?」と。
 お尋ね者では済まないのがM、人類からすれば端から抹殺すべきもの。
 それでも船長は「お宝だから」と自分を拾って、立派な海賊に育ててくれて…。
(…まだまだ恩は返せてないよね?)
 もっと頑張って恩返しを、とシロエが励んだ海賊稼業。
 あちこちの星がミュウの手に落ちても、首都惑星ノアが陥落しても。
(キース先輩…)
 いつかゆっくり、あなたと話したいんですけれど、と思い出すのは国家主席になった人。
 彼の正体を知ったお蔭で、狂いまくりになった人生。
 けれども自分は死んでいないし、両親や故郷の記憶も戻って、海賊船を降りた時には…。
(パパとママに会いに行くんだから…)
 あの懐かしいエネルゲイアへ、子供時代を過ごした家へ。
 「ネバーランドに行って来たよ」と、珍しいお土産を山のように持って。


(本当にネバーランドに来ちゃった…)
 自分は今も子供のままだし、乗っているのは海賊船。
 船長の名前はごくごく普通で、「フック船長」ではないけれど…。
(パパとママには、ネバーランドで通じるよね?)
 ぼくのことは覚えている筈だから、と楽しみな、いつか故郷へ帰る日。
 そうする前には、国家主席になったキースに会いに行こうか、さっき演説を聞いたから。
 たまたま仲間が点けたモニター、其処で流れていたものだから。
(ミュウが進化の必然ね…)
 それも是非とも先輩と話したいですね、と思ったシロエの夢は叶わなかった。
 キースは地球で死んでしまって、それきりになってしまったから。
 ついでにミュウの長のソルジャー、そちらも地球で斃れてしまって代替わりで…。
(…今更、ミュウの船に行っても…)
 なんだか色々と遅すぎる気が、としか思えないから、まだ暫くは海賊船の乗組員でいい。
 船長は「海賊も、もう時代遅れになっちまったな」と言っているから、じきに引退するだろう。船の仲間も引退だろうし、その時は…。
(ぼくも引退して、家に帰って…)
 パパやママと一緒に暮らすんだ、とワクワクするのが土産物リスト。
 両親の好物を色々揃えて、養育している女の子には何を持ってゆこうか?
 「初めまして」と「君のお兄ちゃんだよ」と、差し出すリボンがかかった箱。
 ぬいぐるみがいいか、人形だろうか、それとも美味しいお菓子だろうか。
 女の子の好みは分からないや、と今日も頭を悩ませる。
 もうじき会えるだろう妹、その子に何をあげようかと。海賊だったことは内緒か、土産話に披露してみるか。「海賊船に乗っていたんだよ」と。全く年を取らないままで。
 それもいいよねと、「ネバーランドに行って来たんだから、話せば喜ばれるかもね」と…。

 

         拾われた少年・了

※正統派(?)シロエ生存ED。多分、一番無理がないのが、こういうルート。
 ピーターパンの本が爆発の中でも残るんだったら、シロエ本人も生存可能な筈なのよ、と。






拍手[2回]

(全ての者が等しく地球の子ね…)
 そして仲間だと言われてもね、とシロエが浮かべた皮肉な笑み。
 E-1077に連れて来られて、もうどのくらい経ったろう?
 けれど未だに出来ない仲間。いない友達。
(欲しいとも思わないけどね?)
 ぼくの方から願い下げだよ、と思う「仲間を作る」こと。
 それに「友達」、どちらも要らない。
 手に入れたいとも思いはしないし、いつでも一人きりの自分。
 何処へ行っても、何をする時も。
 一人で暮らすよう定められた個室、それ以外の場所にいる時も。
(みんな、嫌いな奴ばかりだ…)
 初対面の時からそういう印象、だから誰とも繋がらない。
 チームを組むよう強制されたら、仕方ないから従うけれど。
 くだらないことで減点などはされたくないから、組んでおくチーム。
 けれども誰の指図も受けない、自分からだって指図はしない。
(どうせ、どいつも…)
 機械の言いなりになった人間、全ての者たちが等しく「地球の子」。
 生まれ故郷で育ててくれた両親よりも、マザー・イライザを選んだ者。
 それが「地球の子」、どうやら此処では。
 他の教育ステーションでも、基本は同じなのだろう。
 其処を治めるコンピューターを、親の代わりに慕う者たち。
 そういう人間が「地球の子」ならば、自分は「地球の子」でなくてもいい。
 どうせ地球には幻滅したから。
 地球に行くには、大切な過去を捨ててくるしか無いのだから。


 ネバーランドよりも素敵な場所だ、と父が教えてくれた「地球」。
 「シロエなら行けるかもしれないぞ」という父の言葉で、胸が躍った。
 きっと行こうと、いつか必ずと。
 そうすれば父も喜ぶだろうし、母も喜んでくれるだろうと。
(…なのに、地球って…)
 地球に行くための第一段階、エリートが行ける教育ステーションに入ること。
 自分の夢は叶ったけれども、あまりにも大きすぎた代償。
 夢の星の地球に行き着くためには、支払わねばならない「過去」という対価。
 子供時代を、育った故郷を、両親のことを忘れること。
 自分の過去を捨て去ること。
 それが地球への第一歩だった、何も知らずに憧れたけれど。
 其処へ行きたいと願ったけれども、支払わされてしまった対価。
(…パパ、ママ…)
 顔だって思い出せやしない、と唇をきつく噛みしめる。
 故郷の景色もぼやけてしまって、本物かどうか怪しいもの。
 その上、忘れてしまった住所。
 子供だった自分が住んでいた家、其処の住所が思い出せない。
 文字を初めて覚えた頃には、得意になって書いたのに。
 アルテメシアのエネルゲイアの、その先までもスラスラと。
 けれど今では書けない住所。
 手さえも覚えていてくれなかった、あんなに何度も書いていたのに。
 幼かった自分が繰り返し書いて、両親に見せては自慢したのに。


 過去を失くしたと気付かされた時、もう此処に来る船にいた。
 ピーターパンの本だけを持って、他の何人もの候補生たちと。
 此処に着いたら、行くように言われたガイダンス。
 その時に映し出された映像、この世界のシステムを解説するもの。
 養父母たちの姿も映っていたのに、「パパ」や「ママ」と口にする者もいたのに…。
(全ての者が等しく地球の子…)
 そう聞かされた途端、誰もが変わった。
 促されるままに手を取り合って、和やかに始まった自己紹介やら会話やら。
 誰一人として、もう両親を思い出そうとはしなかった。
 育ての親より仲間が大切、此処で友達を作ることが大切。
 アッと言う間に出来たグループ、そうでなければ二人組とか。
(でも、ぼくは…)
 入りそびれた「地球の子」たちの輪。
 何故だか「違う」と思ったから。
 自分は彼らと同じではないと、「地球の子」とやらにはなれそうもない、と。
 あの時、心が求めていたのは映像の中にいた養父母たち。
 彼らの姿は、何処もぼやけていなかったから。
 今はぼやけて思い出せない、自分を育てた両親の顔。
 父が、母の顔が、あの映像のように鮮やかに思い出せたなら、と願っただけ。
 どうして映像の養父母たちは「違う人」なのかと。
 彼らの代わりに「父」を、それに「母」の姿を、映して見せて欲しかった。
 そうしてくれたら、二度と忘れないのに。
 ほんの一瞬、映し出されただけにしたって、生涯、忘れはしないだろうに…。


 映像の中には「いなかった」両親、多分「映っていなかった」故郷。
 其処に焦がれて、焦がれ続けて、今も入れない「地球の子」たちの輪。
 入りたいとさえ思わないけれど、こちらから願い下げだけど。
(…あんな連中と一緒だったら…)
 きっと、こちらまで毒される。
 「朱に交われば赤くなる」という言葉通りに、自分自身も染まってしまう。
 機械の言いなりになって生きる姿に、過去の自分を捨ててしまった人間たちに染まってゆく。
 自分でもそうとは気付かない内に、じわじわと毒に侵されて。
 毒を少しずつ摂取したなら、毒が効かなくなるのと同じ。
 いつの間にやら「これは毒だ」と思わなくなって、気付かないままにすっかり「地球の子」。
 両親を、それに故郷を忘れて、マザー・イライザを母と慕って。
(…そんな風になるくらいなら…)
 独りぼっちで生きる人生、そちらの方がよっぽどマシ。
 友達が一人もいなくても。
 「仲間」と呼べる者もいなくても、チームメイトの中でさえ孤立していても。
 それが自分の生き方なのだし、寂しいと思うことはない。
 一人きりの日々に満足だけれど、ふとしたはずみに思うこと。
 自分は昔からそうだったのかと、故郷での自分はどうだったかと。
(エネルゲイアの学校だって…)
 此処と同じに、大勢の同級生たちがいた筈。
 彼らの中でも一人だったかと、自分は孤独だったのかと。
 友を作りはしなかったのかと、「友達」は誰もいなかったのかと。


(ぼくの友達…)
 両親さえも覚えていないし、友達の顔を覚えている筈もないけれど。
 きっとそうだと思うのだけれど、どうしたわけだか、次々と頭に浮かぶ顔。
 それに名前も、時には何処のクラスの子かも。
(…全ての者が等しく地球の子…)
 そのためだろうか、友達の記憶がまるで消されていないのは。
 何処かで彼らと出会った時には、もう一度手を取り合えるように。
 「また会えたな」と、「久しぶりだ」と。
 同じ故郷で育ったのだと、また友情を築けるように。
(…余計なお世話って言うんだよ…)
 こんな記憶がいったい何の役に立つんだ、と思うけれども、実際、役に立つらしい。
 此処での候補生の中にも、「幼馴染」と組んでいる者がいるようだから。
 「あいつと、あいつは同郷だってよ」などと噂も耳にするから。
 そういうケースを聞く度に覚える激しい苛立ち。
 「友達なんか」と、「そんなものが何の役に立つ?」と。
 けれど、此処ではそうなのだろう。
 大人の社会で生きてゆくには、「両親」よりも「友達」が大事。
 故郷には二度と戻れないから、両親と暮らせはしないから。
 もう手の届かない世界よりかは、これからも共に生きられる仲間。
 だから機械は「過去」を残した、両親の代わりに「友達」を。
 何もかも全て消しはしないで、「友達」だけは残しておいて。
 「友達」はいつか役に立つから。
 もう用済みの「両親」などより、遥かに意味があるものだから。


 それが機械の判断だけれど、だから故郷では「友達」を持っていたようだけれど…。
(こんな記憶なんか…)
 捨ててしまってかまわないから、両親を覚えていたかった。
 何を捨てるか選べるのならば、友達の方を捨てたと思う。
 同じ過去なら、要らないものは「友達」だから。
 それは無くても生きてゆけるから、現に自分はそうなのだから。
(地球の子なんかに、なれなくていいから…)
 なりたくもないから、要らない友達。
 どうせ友達を作らないなら、不要なのだろう「友達」の記憶。
 思い出すだけで腹が立つから、普段は記憶の海に沈める。
 瓶に詰め込んで、海の底深く沈めてしまって、知らないふり。
 けれども、たまに…。
(ぼくに友達はいたんだろうか、って…)
 考えるとこうして思い出すから、もう考えない方がいい。
 友達なんかは欲しくもないし、この先も、きっと作らないから。
 自分は一人で生きてゆくから、孤独に生きてゆきたいから。
(…ぼくには友達なんか、一人も…)
 いやしないんだ、と自分自身に言い聞かせる。
 ずっと昔からいはしなかったと、これから先もいないのだと。
 機械が「友達」を勧めるのならば、そんな「友」など要らないから。
 独りぼっちでかまわないから、忘れてしまいたい故郷の「友」。
 記憶の海の深淵の底に、瓶に詰めて沈めてしまいたい。
 二度と浮かんで来ないよう。
 二度と苛立たなくて済むよう、永遠に思い出せないように…。

 

        友達の記憶・了

※シロエが作らない「友達」。それに「仲間」も。欲しいと思うことも無いから。
 けれど故郷ではどうだったのか、と考えてみた話。友達の記憶は残るみたいですしね?






拍手[0回]

(またまた勝手に決めちゃって…)
 酷いよね、とジョミーは地味に怒っていた。
 ミュウの船へと連れて来られて、なるしかなかったソルジャー候補。
 なにしろ、自分が悪いのだから仕方ない。
 ミュウたちを導く立場のソルジャー、それを半殺しの目に遭わせたから。…自分のせいで。
 家に帰ろうと船から飛び出し、好き勝手にした結果がソレ。
(…だから、仕方がないんだけれど…)
 今も臥せっているソルジャー・ブルー。
 最強のサイオンを誇るという彼、彼と自分の二人だけしかいないらしいのがタイプ・ブルー。
 他のミュウだと戦えないから、ソルジャー・ブルーの強烈な推しでソルジャー候補なのだけど。
 そういう立場になったのだけれど、如何せん、「候補」。
(…他に候補はいないくせにさ…)
 候補だから、と仕切りまくるのが長老たち。
 今日も今日とて、「おはようございます」と現れたリオ。
 親切な兄貴分だけれども、彼も長老には絶対服従。毎朝、部屋に届けに来るのが…。
(……スケジュール表……)
 今日はこうか、と溜息しか出ない。
 サイオン訓練の時間が山ほど、他の時間もミュウの歴史に帝王学にと、てんこ盛り。
 身体は一つだけしかないのに、ギュウギュウ詰めのスケジュール。
(それに、こっちの都合なんかは…)
 まるで聞いてもくれないんだから、と不満たらたら、怒りMAX。
 ほんの少しだけ、自分の意見を聞いてくれたら…。
(ちょっとくらいは…)
 ぼくだって前向きな気持ち、と思ったりもする。
 「休憩時間は此処で欲しい」とか、「ここの予定を入れ替えたい」とか。


 たった一言、「これでいいか」と確かめて欲しい自分の意見。
 一方的に決めて来ないで、柔軟に。
(疲れて動きたくない日だってあるから…)
 そういう時には訓練は無しで、ひたすら座学にしてくれたならば嬉しい気分。
 疲れた身体で下手に頑張るより、効率だって良さそうな感じ。
(だけど、意見は…)
 ただの一度も聞いてくれずに、リオがスケジュール表を持って来るだけ。
 来る日も来る日も、「おはようございます」と爽やかに。
 「よく眠れましたか?」と、「今日のスケジュールはこれになります」と。
 なんとも辛くて、自由が無いのがソルジャー候補。
 部屋に帰ればオフだけれども、そのオフでさえも自分の意見は通らない。
 「今日は早めに上がりたいのに」と思っていたって、スケジュール表が先に立つから。
 この時間まで、と決められた時間、それが来ないと部屋には帰れないから。
(…これって、真面目に辛いんだけど…!)
 たまにはぼくの意見も聞いてよ、とフツフツと腹が立ってくる。
 長老たちが何処でスケジュールを決めているかは、まるで知らないのだけれど…。
(直訴したなら…)
 いけるかもね、と思わないでもないスケジュール。
 多分、自分がオフの間に集まって決めているだろうから、乗り込んで。
 「ぼくの意見は、こうなんだけど!」と主張して。


 それもいいかも、と考えた直訴。
 思い立ったが吉日と言うし、もう早速に怒鳴り込みたい気分。
(…今日のスケジュールをこなしたら…)
 直訴しよう、と決意を固めた。
 とはいえ、長老たちは何処に集まっているのだろう…?
(会議室かな…?)
 そういう部屋もあったよね、と知っているから、その日のオフを迎えた後。
 「ここまでにしよう」とヒルマンが講義を終えて、立ち去ってから…。
(…確か、こっちで…)
 頃合いや良し、とノックしてみた会議室の扉。
 けれどもシンと音もしないし、人の気配さえ無さそうな感じ。
(ぼくが来たから、黙ったとか…?)
 だったら勝手に入らせて貰う、と勢いよく開け放ってみた扉。
 ところが其処には誰もいなくて、灯りも点いていなかった。薄暗い部屋があるばかり。
(…此処じゃなかったわけ?)
 それなら長老たちの部屋か、と端から突撃していった。
 まずはキャプテンの部屋から始めて、ゼル機関長で、ブラウ航海長。お次がヒルマン、それでも誰もいないからして、エラの部屋まで行ったのに…。
(…何処にもいない…?)
 謎だ、と傾げてしまった首。
 途中でブリッジも覗いたけれども、長老たちはいなかったから。…キャプテンだって。


 いったい何処に、と心当たりを探しまくっても、長老たちは見付からない。
 もう闇雲に駆け回る内に、バッタリとリオに出くわした。
『どうしました、ジョミー?』
 リオの思念はとても優しくて、その瞬間に閃いたこと。
 いつもスケジュール表を届けに来るのはリオだし、もしかしたら、と。
「あのさ、リオ…。長老たちって、何処にいるわけ?」
 ぼくのスケジュールを何処かで決めてる筈なんだけど、と尋ねたら「ええ」と頷いたリオ。
『この時間なら、そうですね。…いつもの所においでですよ』
「それって何処!?」
『M3号ですが…』
「ありがとう、リオ! それって、何処から行けるのかな?」
 M3号という部屋に覚えが無いから、訊いてみた。リオは答えてくれたけれども…。
『ジョミー、何をしに行くんです? あの部屋は…』
「どうせ立ち入り禁止区域とか言うんだろう? ソルジャー候補は!」
 だけど行くんだ、と駆け出した。
 「待って下さい!」と止めるリオの思念を振り切って。
 もうキッパリと無視して走って、広いシャングリラの中を走り続けて…。
(……M3号……)
 此処か、と眺めた普通の扉。「なんだ、居住区と変わらないじゃん」と。


 ソルジャー候補は入れないらしい、M3号という長老たちが集う部屋。
 けれど扉はごくごく普通で、どちらかと言えば…。
(凄く親しみやすい感じで…)
 憩いの空間でもある居住区に激似、恐るるに足らずといった雰囲気。
 きっと長老たちだけが使う、プライベートな部屋なのだろう。休憩室とか、そんな具合に。
(此処でお茶とか飲みながら…)
 ぼくのスケジュールを決めているんだ、と思ったら何だかムカついてくる。こちらは毎日、そのスケジュールに追われまくって、意見も聞いては貰えないのに。
(だけど、此処まで来たんだしね?)
 直訴あるのみ、とノックもしないでバアン! と扉を開け放ったら…。
「なんじゃ、いきなり」
 無礼なヤツじゃな、と振り返ったゼル。…思った通りに飲み物を手にしているけれど…。
(…どうなってるわけ!?)
 此処って、バスルームだったわけ、と丸くなった目。
 何故ならゼルは、長老の衣装を纏う代わりにバスローブ一丁だったから。
「えーっと…」
 失礼しました、と慌てて返した踵。リオが止めたのも、バスルームならば無理はない。お風呂でスケジュールを決められるのは空しいけれども…。
(ズカズカ入っていい場所じゃないし…)
 直訴どころじゃないよね、きっと、と部屋から出ようとした瞬間に…。
「ちょいとお待ちよ、何の用だい?」
 話くらいは聞こうじゃないか、とブラウ機関長が現れた。これまたバスローブ一丁で。
 「せっかく来たなら、アンタも楽しんで行くといいよ」と。


 こうして招き入れられた部屋。長老たちが集うM3号。
「パンツはワシのを貸してやるでな。…ちとキツイかもしれんがのう」
 男性用の更衣室はあっちじゃ、とゼルに渡された水泳パンツ。…そう、どう見ても水着。
「これって…?」
 どうして水泳パンツなんですか、と質問したら、「サウナだからじゃ!」と返したゼル。
「此処はそういう部屋なんじゃ。M3号と言ったら、サウナパーティーじゃ!」
「……サウナパーティー?」
 何ですか、それ、と見開いた瞳。
 サウナだったら知っているけれど、サウナパーティーとは何だろう?
「知らないのかね? 元々は地球の北欧にあった習慣なのだよ」
 ヒルマンが解説してくれた。
 仲良くなるならサウナが一番、いわゆる裸の付き合いなるもの。
 サウナの中でじっくりゆっくり、温まりつつ楽しく歓談。合間に外で軽い食事や飲み物なども。
「…此処って、そういう部屋なんですか?」
「うむ。アルタミラからの生き残り組の憩いの場だな」
 ソルジャー・ブルーもお好きなのだ、とキャプテン・ハーレイが浮かべた笑み。
 「今は臥せっておられるから無理だが、お元気な時には此処がお気に入りだ」と。
「…ふうん…?」
 あんな超絶美形でもサウナに入るのか、と驚いたジョミー。
 偉そうなソルジャーの制服を脱いで、水泳パンツで寛ぐサウナ。外へ出たってバスローブ一丁、その格好で食事に飲み物なのか、と。


 ミュウの長なソルジャー・ブルーはもとより、キャプテンや長老といった面々。
 他のミュウとは違うんです、と一目で分かる偉い連中、彼らが催すサウナパーティー。
(…凄く意外だけど…)
 思ったよりも話の分かる人たちかも、と弾んだ心。
 会議室に集まるわけではなくて、サウナだから。裸の付き合いでのんびり歓談、スケジュールも其処で決めるのだから。
(これなら、ぼくの意見も聞いて貰えそう…)
 きっと話せば分かってくれる、とウキウキ着替えた水泳パンツ。長老たちはサウナの中に戻って行ったし、いざ自分も、と足を踏み入れた途端…。
(…え?)
 何これ、と疑ったサウナの暑さ。有り得ないほどに暑かったから。
「ようこそ、ジョミー・マーキス・シン」
 此処へどうぞ、とエラが案内してくれた席に座ったけれども、噴き出す汗。サウナは、こんなに暑かったろうか…?
(クラクラする…)
 っていうか死にそう、と思った所へ聞こえた声。
「流石はソルジャー候補じゃのう…。M3号の伝統も引き継げそうじゃ」
「そうだな、我々くらいしか楽しめないのがM3号だし…」
 アルタミラで実験動物をやっていた間に鍛えられすぎて、と交わされている恐ろしい会話。
 曰く、サウナは200℃が基本。
 中でも「通」のソルジャー・ブルーが入った時には…。


(…石ストーブに水をぶっかけて、蒸気…)
 それでもうもうと上がるのが湯気、暑さ倍増。
 ソルジャー・ブルーはそれが好みで、付き合える面子はキャプテンと長老の四人だけ。
(有り得ないから…!)
 あの人、何処が弱かったわけ、という心の声を最後に暗転した視界。
 次に目覚めたら部屋のベッドで、リオが看病してくれていて…。
『ですから、お止めしたんです。…M3号はとても無理です、と』
「…それ、早く言って…」
 まだ身体中が煮えてるみたい、と息も絶え絶えに訴えたら。
『…手遅れです、ジョミー。…長老たちは期待しておられますから』
 これからは毎日、サウナパーティーで裸の付き合いだと仰っておられました、という話。
 おまけにソルジャー・ブルーも乗り気で、回復したら入りに来るそうだから…。
(…サウナパーティーの通で、石ストーブに水…)
 そんな人に付き合わされたら死ねる、と思ったけれども、既に手遅れ。
 M3号に入ってしまった後だし、サウナパーティーも知ってしまったから…。
(……ぼくの人生……)
 明日からサウナでアルタミラ体験、とガクガクブルブル、憩いの空間、M3号。
 実験動物だった時代に無駄に鍛えられた、長老たちやらソルジャー・ブルー。
 その連中と一緒にサウナで、気分は実験動物だから。
 歴史で習っただけの世界を、明日からサウナでガンガン体験させられるから…。

 

         憩いのサウナ・了

※地味に原作から引っ張ったらしい、「M3号」と「200℃」だというサウナの温度。
 いや、アルタミラの生き残り組ってタフそうだから…。こんな世界もアリなのかも、と!






拍手[0回]

(二階級特進させて貰ったが…)
 メギドの件もお咎め無しなのだがな、とキースが歪めた唇。
 ジルベスター星系からノアに戻って来た夜、自分のためにある部屋で。
 事故調査に出掛けて、遭遇したミュウ。
 最初の一人は自覚すらも無しに、人類軍の中にいた。
 偶然パスした成人検査。
 自分が何者なのかも知らないままで、劣等生のふりをしていたマツカ。
 彼に殺されかかったけれども、スパイならばともかく、ただのミュウでは…。
(私を殺せるわけがない)
 無謀とも言えたマツカの攻撃。彼にとっては命が懸かっていたのだけれど。
 失敗した後には、震え、泣くことした出来なかったマツカ。
 彼の姿にサムが、シロエが重なって見えた。…どうしたわけだか。
 だから殺さず、ジルベスターまで連れて行ったら…。
(並みの人類より、役に立ったというのがな…)
 なんとも皮肉な話だけれども、ミュウのマツカに救われた。
 ただ一人きりでジルベスター・セブンまで、行方不明の自分を捜しにやって来た彼に。
 そればかりか、メギドでも救われた命。
 あの時マツカが、自分を追って来ていなければ…。
(ソルジャー・ブルーと心中させられていたぞ)
 まず間違いなく、巻き添えになっていただろう。捨て身でメギドを沈めたミュウの。
 ソルジャー・ブルーが破壊したメギド。
 本来だったら、あれほどの兵器を失った自分は降格処分か、左遷だろうに。
 それが当然だと思っているのに、咎められることは無くて特進。
 グランド・マザーは、どれほど自分を買っているのか。
(…有難く思うべきなのだろうが…)
 余計なことだ、と覚える苛立ち。
 この先もきっと、自分が歩いてゆくだろう道は…。


 グランド・マザーの手の中なのだ、と心の中で吐き捨てる。
 そうやって歩いてゆくのだろうと、それ以外に歩める道などは無いと。
(…マツカは連れて帰って来たが…)
 これからも側に置くのだがな、と決めている実に役立つマツカ。
 彼がミュウだとグランド・マザーに悟られたならば、ゲームは自分の負けになる。
 もしもマツカが処分されたら、あるいは連行されたなら。
(…そのくらいのゲームは許して欲しいものだな)
 他に自由は無いのだから、と零れる溜息。
 自分はグランド・マザーの手駒で、そのように動かされてゆくだけ。
 それに不満を覚えた所で、どうすることも出来ない自分。
 ならば行くしか無いのだろう。
 この道の先が何処であろうと、何が自分を待っていようと。
(…私はそういう訓練を受けた)
 だから従う、と考えはしても、最初から答えは決まっていても。
 どうにも落ち着かない心。
 メンバーズとして繰り返し訓練を受けたこの身でも、軍の規律を思い出しても。
(……ソルジャー・ブルー……)
 奴のせいだ、と分かってはいる。
 初めて自分を負かした男に、またしても負けを味わわされた。
 傍目には自分の勝ちだけれども、ソルジャー・ブルーは倒したけれど…。
(…自分の命を捨ててまで…)
 メギドを沈めて死んでいった男。
 きっと永遠に彼に勝てない、彼のように生きることは出来ない。
 指導者としての自分の立ち位置、それを捨ててまで戦い、そして散るなどは。
 自分の信念を貫き通して、命までさえ捨て去ることは。


 そういう教育は受けていない、と胸に湧き上がる悔しさと怒り。
 定められた道を進むことしか教えられずに生きて来た自分。
 E-1077でも、メンバーズになってからの日々でも。
 従うことが自分のやり方、生きる道だと無理やり納得させて来た心。
(…マツカを生かして…)
 機械の鼻をあかしてやった、と束の間、酔っていた勝利。
 ジルベスター・セブンから生還した後、功労者のマツカを国家騎士団に転属させて。
 マツカの正体が知れているなら、けして通りはしない許可。
(グランド・マザーでも、気付かないという所がな…)
 してやったり、と思っていたのに、それが自分の「自由」の限界。
 マツカが救いに駆け付けたメギド、あの時、命を拾ったばかりに…。
(…もう、この先は…)
 きっと前線には出てゆけない。
 ミュウが相手でも、二度と出来ない命のやり取り。
 それをしようと目論んでみても、他の者が派遣されるから。
 上級大佐になった自分は、指揮官としてしか生きてゆけない。
 前線に派遣するべき人材、それを選んでは配属するだけ。
 もしも自分が殺されるようなことがあるのなら…。
(…暗殺だけということか…)
 自分の昇進を妬む輩に毒を盛られるか、車や部屋ごと爆破されるか。
 そんな死に方しか出来はしなくて、生きてゆく甲斐もない命。
 指揮官だったら、いくらでも代わりはいるのだから。
 たとえ自分が斃れたとしても、次の誰かが任に就くだけ。
 まだ前線に立っていたなら、充分な働きが出来るだろうに。
 ミュウの母船を追って追い続けて、宇宙の藻屑にすることさえも。


 けれど出来ない、その生き方。
 グランド・マザーは指揮官の道を用意したから、其処を歩んでゆくしかない。
 だから苛立ち、心が騒ぐことになる。
 ソルジャー・ブルーを思い出したら、彼の死に様を思ったら。
(…伝説のタイプ・ブルー・オリジン…)
 どう考えても、ミュウの社会では頂点に立つ男だったろう、ソルジャー・ブルー。
 人類で言えば国家主席にも等しい存在、けして前線には出てゆかない筈。
 それが人類の社会なら。
 人類が定めた枠の中なら、グランド・マザーの采配ならば。
(しかし、あいつは…)
 それをものともしないで出て来た、自分の立場を考えないで。
 あるいは自ら捨てて来たのか、ミュウの連中にも「否」と言わせはせずに。
 ミュウどもがそれを許したのならば、羨ましいとも思う生き方。
 思いのままに生きていいなら、望む場所で死んでゆけるなら。
 あのような立ち位置に置かれていてさえ、己の心に忠実に生きて死ねるなら。
(…ミュウというのは、皆そうなのか?)
 マツカは弱いミュウだけれども、遠い昔に、ああいうミュウを知っていた。
 当時はミュウとは知りもしないで、E-1077を卒業してから知ったこと。
 セキ・レイ・シロエ。
 自分がこの手で殺した少年、シロエもまたミュウの一人だという。
 あのステーションにいた「Mのキャリア」は彼しかいない。
 軍の噂では、そのMは処分されているから。
 同時期に在籍していた候補生の一人が、Mのキャリアの船を撃墜したそうだから。
(…私とシロエ以外に、誰がいるんだ?)
 今は廃校になったE-1077、其処で起こったと流れる噂。
 Mのキャリアはシロエでしかなくて、その船を撃墜したのが自分。
 シロエは自分の意のままに生きて、意のままに死へと飛び立って行った。
 あの頼りない練習艇で。…武装してなどいなかった船で。


 セキ・レイ・シロエの鮮烈な生き様、それを彷彿とさせるミュウ。
 メギドに散ったソルジャー・ブルー。
 彼は自由に生きたというのに、死に場所を選び取ったのに。
 自分はといえば、もはや選べはしない死に場所。
(…暗殺されても、死に場所を選べはしないのだ…)
 自分の意志とはまるで関係無く、道半ばにして殺されるのが暗殺だから。
 この生き方を選ばされたなら、せめて全うしたいのに。
 志を遂げて散ってゆきたいのに、暗殺者どもは一顧だにしない。
 ある日、突然に訪れる終わり。
 それを望んではいないというのに、爆弾で、あるいは盛られた毒で。
(…あいつのようには、もう生きられない…)
 ソルジャー・ブルーが生きたようには、最期まで戦士であったようには。
 よくも名付けたものだと思う、「ソルジャー」というミュウの長の称号。
 言葉通りに、戦士として生きたソルジャー・ブルー。
 そうして宇宙に散ったけれども、まるでシロエのようだったけども。
(…私には、けして…)
 あの生き方は許されない、と分かっているから苛立つばかり。
 どうしてこういう道に来たかと、何故、この道を進むのかと。
 何ゆえに此処を歩いてゆくかと、逃れられる術を自分は知っている筈なのに、と。
(シロエのように生きたならばな…)
 機械の言いなりにならない人生、それを自分が選び取ったら訪れる終わり。
 シロエも、それにソルジャー・ブルーも、マザー・システムに逆らい続けて散ったから。
 其処を進めば彼らのように生きてゆける、と承知だけれども、選べないから苛立つしかない。
(…いつか終わりがやって来るまで…)
 死の方から自分を訪ねて来るまで、生きてゆくしかないのだろう。
 いくら死に場所を探し求めても、自分の意志では選べないから。
 そう生きる道を進むしかなくて、生きてゆく道はグランド・マザーの手の中だから…。

 

         出来ない生き方・了

※グランド・マザーの意志に従い続けるのがキース、けれど感情はあるわけで…。
 シロエやブルーの影響はきっとある筈なんだ、と思っているのが管理人。駄目っすか?






拍手[0回]

Copyright ©  -- 気まぐれシャングリラ --  All Rights Reserved

Design by CriCri / Material by 妙の宴 / powered by NINJA TOOLS / 忍者ブログ / [PR]