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(…有り得ないから!)
 こんな船なんか、もう嫌だ、とジョミーはブチ切れそうだった。
 ミュウの長、ソルジャー・ブルーに「取っ捕まって」、連れて来られたシャングリラ。ミュウの母船で、巨大な白い鯨のよう。
 一度は「家に帰れた」ものの、そうした結果は「最悪の結末」。
 ユニバーサルの保安部隊に捕まり、拷問まがいの心理探査を受けさせられた。そしたら目覚めた自分のサイオン、ユニバーサルの建物を壊して、衛星軌道上まで逃げた挙句に…。
(…ソルジャー・ブルーが、追って来ちゃって…)
 押し付けられた「ミュウたちの未来」。それにソルジャー候補な立場。
 ブルーはといえば、「心からすまなく思っている」と落下していったものの…。
(ガッツリ生きてて、ぼくの未来を縛りまくりで…)
 もう毎日が地獄じゃないか、と喚きたくなる。こうして夜に部屋に戻って来る度に。
 鬼のように詰まった、訓練メニューや講義などなど。自由時間は「無い」に等しく、サボったりすれば「反省文」を書かされる日々。
 まるで全く潤いが無くて、心が殺伐としそうな感じ。「もっと、自由を!」と。
 それに自由になれた所で、待っているのは「ソルジャー」な道。
 今まで以上に「無さそうな」自由、遊ぶなら多分、今の内だと思うのだけれど…。
(ゲーセンも無いし、カラオケも無いし、どうしろと!)
 おまけに恋も出来やしない、と愚痴った所で気が付いた。
 「恋も無理だ」と、あまりにも絶望的な未来が見えた気がする。…こんな船では、きっと恋など出来ないだろう。「人数に限りがある」ものだから。
(…可愛い女の子は、とっくに相手が決まってて…)
 アタックするだけ無駄というもの。
 シャングリラは絵に描いたような「閉鎖社会」で、ミュウの箱舟。外から来るのは、救出されたミュウの子供だけ。まるで「出会い」が無い世界。
(……ぼくの人生、終わってるかも……)
 恋も出来ずに終わるんだよね、と「ジョミーの悩み」は、また一つ増えた。
 ソルジャー・ブルーに「拉致られなければ」、きっと教育ステーションなんかで「素敵な恋」が出来たのに。…可愛いカノジョとデートなんかも。


 恋も出来ない船だと分かれば、ますます募ってゆく不満。
 ついでにジョミーは「思春期」なだけに、サイオンの方も「暴走しがち」。ブチッと切れたら、訓練用の機械を破壊したりもする。修理がけっこう大変なヤツを。
 そんなわけだから、ソルジャー・ブルーの耳にも「荒れている」との情報が入る。
(……あの手の悩みは厄介なんだ……)
 ぼくには無かった悩みなんだが…、と思うブルーに「思春期」なんぞは、あるわけもない。その年の頃にはアルタミラで「檻」に閉じ込められての、悲惨な実験動物ライフ。
 とはいえ、後に船を奪ってトンズラしたから、思春期くらいは「充分に」分かる。
(…今のジョミーに必要なものは、恋ではないと思うんだが…)
 それに、この先も「恋」など縁が無いだろう、と思うけれども、どうすればいいか。ジョミーに滾々と諭した所で、きっと「分かっては貰えない」。
 ソルジャーたるもの、どう生きるべきか、その「ストイックな生き方」などは。
(……どうすればいい……?)
 ジョミーの「悩み」を、綺麗サッパリ吹き飛ばせるブツ。
 本当だったら、ここは「カノジョ」との出会いを用意すべきで、人生に張り合いだって出る筈。
 けれどジョミーは「未来のソルジャー」、恋をして貰っては「非常に困る」。
 シャングリラの頂点に立つのがソルジャー、平和な時代なら「妻」がいたっていいけれど…。
(今は乱世で、国が乱れているどころか…)
 国さえ「無い」のがミュウの世界で、その「王」のソルジャーに「妃」は不要。
 惚れた女性にメロメロだったら、国は「ただでも傾く」もの。それに離れてゆくのが人心、船の秩序を保てはしない。
(…ジョミーには、申し訳ないのだが…)
 諦めて貰うしかないのが「カノジョ」で、他のミュウたちが恋をしていても、ソルジャーだけは「恋」とは無縁。
 そうは思っても、どうしたら「諦めさせられる」のか。
 ただでも思春期真っ只中で、お年頃なのが「ジョミー」なのに。
 ちょいと下品な言葉だけれども、「さかりがつく」といった年頃。そういうジョミーに、説いてみたって無駄だろう。「恋は出来ない」、ソルジャーの立ち位置や心構えなどを。
(……何か、いい手は……)
 何か無いのか、と考えまくって、ソルジャー・ブルーが出した結論。「これしかない」と。
 ジョミーには可哀相だけれども、「恋の可能性」をブチ壊すこと。
 もう完膚なきまでに木っ端微塵に、「恋は御免だ」と裸足で逃げてゆくほどに。


 よし、とブルーが固めた方針。直ちに長老たちが呼ばれて、直々に命が下された。
 「このように頼む」と告げたブルーに、彼らは「ハハーッ!」と深く礼を取った。
 ソルジャー・ブルーの仰せとあれば、何であろうと「従う」のが四人の長老たちと、船を纏めるキャプテンと。
「では、ソルジャー…。もう今夜から始めた方が…?」
 善は急げと申しますから、というハーレイの言葉に、ブルーは「ああ」と頷いた。
「早ければ、早いほどいいだろう。…ジョミーには、いい薬だから」
「分かりました。それでは、一番手は、先ほど仰った通り…」
「ブラウに頼むしかないだろう。…ババを引かせて申し訳ないが…」
 すまない、と詫びるブルーに、ブラウは「なんの」とニッと笑った。
「船には娯楽が少ないしねえ…。楽しませて貰うさ、あたしの方もね」
 それじゃ、とブラウが先頭に立って、長老たちは青の間を出て行った。「さかりがついた」今のジョミーを、グウの音も出ないほどに「叩きのめす」ために。


 そうとは知らないジョミーの方では、ブツブツ言いながら入った風呂。
 パジャマに着替えて、「明日も訓練ばかりだなんて」と愚痴を零しつつ、ベッドに入ろうとしていた所で聞こえた音。いわゆる呼び鈴、「入っていいか」と外から押すヤツ。
(……こんな時間に、誰だろう?)
 リオなのかな、とジョミーは「どうぞ」と答えて、部屋のロックを解除した。でないと、外から扉は開かない。そういう構造。
 扉は直ぐにシュンと開いて、「よっ!」と入って来たのが、ブラウ。軽く右手を上げながら。
「悩んでるんだってねえ、青少年! この船で恋をしたいんだって?」
「え? え、ええっ!?」
 いったい何処からバレたんだろう、とジョミーは慌てたけれども、犯人ならば見当がつく。青の間の住人で現ソルジャーのブルー、彼に「覗かれた」に違いない。
(ぼくの部屋とか、心の中とか…)
 よくも勝手に覗きやがって、と怒鳴りたいけれど、考えようによっては「渡りに船」。
 「恋がしたい」とバレているなら、きっと「いい案」があるのだろう。長老のブラウが、訪ねて来た部屋。もしかしたら、ジョミーが「知らない」だけで…。
(もうすぐ救出作戦があって、凄い美少女が来るだとか…!?)
 その子と「最優先で」ご対面だとか、「他の若造たち」は近付けないで、「ジョミー様」だけが「お近づきになれる」仕組みだとか。
(…それって、いいかも…!)
 顔が好みの子ならば最高、ちょっとくらいなら「難あり」だってかまわない。可愛らしい子でも中身はツンデレ、落とすのに苦労しようとも。
(…何年がかりでも、きっと口説いて…!)
 ぼくの人生、潤いまくり、とジョミーは「締まらない顔」でニヘニヘ。
 もちろん「心の中身」はダダ漏れ、ブラウは端から「拾いまくり」で、こうのたまった。
「美少女の救出計画ってヤツは、まだなんだけどね…。その前にさ…」
 あんた、自信はあるのかい、という質問。「女の子とセックスしたことは?」と、直球で。
「…せ、セックス…!?」
 ジョミーの顔は、たちまち真っ赤で、もうワタワタと振り回した手。
 「そんな所までは」考えもしていなかった上に、「セックスの経験」もあるわけがない。育った場所は「育英都市」だし、それは健全で「純真無垢な子供のために」ある世界。
 セックスなんぞは「保健体育」の授業でサラッと流す程度で、それ以上の知識は得られない所。よってジョミーも「経験ゼロ」で、「まるで分かっていない」のが実情。
 ブラウは「ふうん…?」と腕組みしながら、面白そうに観察していたけれど…。


「やっぱり、経験ゼロみたいだねえ…。それじゃ話にならないじゃないか」
 アンタはソルジャー候補だからね、とブラウにヒタと見据えられたジョミー。「他の若造なら、いいんだけどさ」と、「ソルジャー候補が、それではマズイ」と。
「…えっと…。それって、どういう意味…?」
 ジョミーがキョトンと目を見開いたら、ブラウは「ありゃまあ…」と呆れた顔で。
「分かってないねえ、知らないのかい? セックスってヤツは難しいんだよ」
 特に「初めて」の女の子を相手にする時は…、とブラウが振っている頭。
 なんでも「痛い思い」をさせるのだそうで、男の方が「下手」だと最悪らしい。それで砕け散る恋もあるとか、「セックス」どころか「デート」もさせて貰えなくなって。
「…そ、そうだったわけ…?」
「そうなのさ。おまけに、この船は狭いからねえ…」
 噂は直ぐに流れるものさ、とブラウの言葉は容赦なかった。
 近い将来、ジョミーが「セックス」で墓穴を掘ったら、シャングリラ中に知れることになる。
 下手くそなことも、それで「カノジョ」に捨てられたことも、何もかもが全部。
「……そ、そんな……」
「だからマズイと言ってるんだよ。ただの若造なら、そうなっても別にいいんだけどさ…」
 ソルジャーの場合はそうはいかない、とブラウは正論を吐いた。
 現ソルジャーのブルーは、超絶美形な上にカリスマ。その後継者の「ジョミー」も当然、船中の尊敬を集めてこそ。
 「セックスのせいで」不名誉な噂などは論外、「ハーレムを築く」のならば、まだしも…。
(……下手くそだ、って噂が立ったら……)
 確かにマズイ、とジョミーにも分かる。そんなソルジャーは「誰だって嫌」なことだろう。
「…で、でも……。ぼくは、どうすれば……?」
「だから、あたしが来たんじゃないか。このブラウ様に任せておきな」
 手取り足取り、セックスの極意を教えてあげるからね、とブラウがドンと叩いた胸。「これでも昔は船中の男を、手玉に取っていたってもんさ」と。
「……ちょ、ちょっと……!」
「こらこら、そこで照れるんじゃない! ほら、遠慮せずに…!」
 触りまくっていいんだからね、とブラウがマントを脱ぎ始めたから、ジョミーは見事にカチンと凍った。いきなり「ブラウを相手に」セックス、それも実地で。
(……て、手取り足取り……)
 それって無理、と頭がボンとオーバーヒートで、仰向けに倒れた床の上。「もう駄目ぽ」と。
 つまりは意識を手放したわけで、ブラウは床に屈むと、ジョミーの顔を覗き込んで…。
『作戦、第一段階、終了。…次はよろしく』
 明日でいいだろ、と飛ばした思念。青の間と、それに長老たちとキャプテンとに。


 次の日、ジョミーは「タンコブが出来た」頭を、押さえながらも「訓練」に出た。サボれば皆がうるさいだろうし、下手をすればブラウが「喋りまくる」と思ったから。
(…セックスのお誘いだけで、ブッ倒れたって…)
 そんなのは嫌だ、と「ブラウとは」目を合わせないようにして、終わった一日。
 やっとの思いで引き揚げた部屋、「今夜もブラウが来るのかも…」とガクガクブルブル。多分、「ブラウ様」が「及第点をくれる」時まで、「セックスはさせて貰えない」。
 「セックスが出来ない」縛りがあるなら、女の子とも「下手に付き合えない」。
(…いい感じになっても、ぼくが「ごめん」って帰って行ったら…)
 もうそれだけで「恋」は終わりになるだろう。「下手くそな」セックスをするまでもなく。
 それが嫌なら、励むしかない。…「ブラウ様」を相手に、「セックスが上手くなる」日まで。
(……なんだか、メチャクチャ、キツイんだけど……!)
 なんだって、ブラウなんかと「練習」、それが必須になったのか。けれど「セックスが下手」なソルジャーだと確かにマズイし、自分を磨くしかない雰囲気。
(…ど、どうしよう……!?)
 ぼくはどうすれば…、とジョミーがパニクッていたら、鳴った呼び鈴。
 もう間違いなく「ブラウ様」だけれど、長老を「門前払い」は出来ない。入って貰って、今日は気分が優れないとか、そういった逃げを打つしか無いから…。
「……ど、どうぞ……」
 ジョミーが震えつつ解除したロック。そしたら、「すまん」と入って来たのがキャプテン。
「…ジョミー。単刀直入に訊くが、女性は嫌いだっただろうか?」
「…え?」
「今日、ブラウから聞いたのだが…。どうやら女性は苦手らしい、と」
 そういうことなら、恐らく私の出番だろう、とズズイと近付いて来たハーレイ。「男の方なら、これでも経験豊富なのだ」と笑みを湛えて。
「…きゃ、キャプテン……?」
「ジョミー、遠慮をすることはない。それとも、男を抱く方が好みだったのか…?」
 ならば、ソルジャーを紹介しよう、とハーレイは親切MAXだった。…キャプテンだけに。
 曰く、「セックスが下手なソルジャー」では話にならない。
 「男に抱かれたい」方だったら、毎晩、ハーレイが「来てくれる」けれども、逆の場合は…。


(……そ、ソルジャー・ブルーを相手に、みっちりと稽古……)
 そっちの方も「及第点が出るまで」ですかい! とジョミーは「床に倒れていった」。
 昨夜と全く同じ具合に、仰向けに。…タンコブの上に、更にタンコブを重ねる勢いで。
 こうしてジョミーに「つけられた」縄。
 このシャングリラで恋を楽しみたいなら、「セックスが上手い」ジョミーになること。もちろん相手が美少女だろうが、まさかの「男」というヤツだろうが。
(……どっちに転んでも、師匠が鬼だ……)
 ブラウ様とソルジャー・ブルーだなんて、と泣きの涙で、他の選択肢は「キャプテンの恋人」、それ一択のみ。…誰かと「恋」や「セックス」をしたいのならば。
(…あんまりだから……!)
 そのくらいなら「恋」はしなくてもいい、とジョミーは「恋」をブン投げ、ストイックに生きることにした。「下手なセックスで身を滅ぼすより、恋なんかしない方がいい」と。
 でもって、誰かが高みでニンマリ笑っていたのは、言うまでもない。
 「これでジョミーの代になっても、安泰だ」と。
 ソルジャーのカリスマは揺るぎはしないと、「後は任せた」と、青の間の奥で、赤い瞳で…。

 

            悩み多き少年・了

※原作ジョミーだと「少年のまま」ですけど、アニテラだと「青年になっていた」わけで…。
 その上、「ジョミーの子供が欲しい」とニナのモーションも。ストイックすぎる理由はコレ?







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(……全て、プログラムだったと言うのなら…)
 もしかしたら、とキースの脳裏を掠めた思い。
 首都惑星ノアに与えられた個室、其処で一人きりで過ごす夜更けに。
 側近のマツカはとうに下がらせ、冷めたコーヒーだけが残っているのだけれど。
 それを傾け、「ゆりかご」のことを考えていたら、ふと気付いたこと。
 フロア001、E-1077に在った、シークレットゾーン。
 シロエに「行け」と言われていたのに、在学中には「辿り着けなかった」。
 恐らくは、「来ていなかった」時期。
 「キース」が其処に立ち入るためには、一定の期間が要ったのだろう。
 何故なら、全ては「プログラムされたもの」だったから。
 フロア001で見た、強化ガラスで出来た水槽。
 その「ゆりかご」で育った「キース」の人生、水槽から出ても「育てられた」。
 マザー・イライザの計算通りに、ありとあらゆる事象や「人」まで「用意されて」。
(…三十億もの塩基対を…)
 無から合成して、繋いで、紡ぎ上げられたDNAという名の鎖。
 そうして「作り上げた」キースを、「十四歳まで」水槽の中で「育てた」機械。
 養父母や教師に「邪魔をされずに」、完璧な人間に成長するように。
 その水槽から出した後にも、機械は同じに「教育した」。
 入学して間もない頃に起こった、宇宙船の事故。
 スウェナ・ダールトンも「巻き込まれた」それは、マザー・イライザが起こしたもの。
 管制システムを乗っ取った上で、軍艦を許可なく発進させて。
 民間人が乗っている船にぶつけて、乗員たちを「キースに救わせる」ために。
(私が救助に失敗したなら、誰一人として助からなくて…)
 スウェナを乗せた船は、E-1077の区画ごと、パージされていただろう。
 初期型の船に搭載されたエンジンは、セーフティーシステムが脆い。
 事故を起こせば、反物質が漏れ出すことになるから。
 区画ごと船をパージしないと、対消滅でE-1077までが「消える」結末。
 そうならないよう、マザー・イライザは、乗員ごと船を「宇宙に」捨てたのだろう。
 キースとサムが「乗員を全員救助した」後、空の船をパージしたのと同じに。


 あの船に乗っていた、候補生たち。
 彼らの命さえも「キースを育てる」ための材料、機械は何も迷いはしない。
 そんな「事故」まで起こすほどだし、「キースを取り巻く友人」たちをも「選び出した」。
 ミュウの長、ジョミー・マーキス・シンと「接触のあった人物」を二人。
 アタラクシアで育った、サム・ヒューストンと、スウェナ・ダールトンを。
 彼らと「キース」が「出会う」ようにと、E-1077の候補生にして。
(…それに、シロエだ……)
 ミュウ因子を持った人間だから、と「選び出された」下級生。
 マザー・システムに反抗的だったシロエも、「キースのために」と選ばれた者。
 彼との出会いも、成績争いも、最後にシロエを「処分させた」ことも、全てプログラムの内。
(……シロエは、そのためだけに連れて来られて……)
 暗い宇宙に散ったのだけれど、その「シロエのこと」が引っ掛かった。
 キースが何処で作られたのか、「ゆりかご」の在り処を探り当てたのもシロエ。
 そのこともやはり、マザー・イライザの計算で、「プログラム」だったのだろう。
 シロエは答えを得たのだけれども、キースが「答え」に辿り着くには、早すぎた「時」。
 E-1077を卒業するまでに、何度挑んでも、フロア001には「行けない」まま。
 邪魔が入ったり、通路が封鎖されていたりもして。
(…そして、ようやく「時」が来たわけで…)
 廃校になったE-1077で「知ることになった」、自分の生まれ。
 シロエが「ゆりかご」と呼んでいた場所、水槽の中で「作られた」キース。
 マザー・イライザの理想の子として、「地球の子」として。
 他のサンプルとは違う「最高傑作」、そう位置付けられ、未来の指導者として。
(……私を作り上げるまでには……)
 水槽の中で、大量の知識を流し込んでいたに違いない。
 本来だったら、育英都市で「学ぶべきこと」や、他にも色々。
 どんな人間よりも「優れた頭脳」を持った人間、それが「完璧に」仕上がるように。
 他の誰にも負けない成績、まさしく「機械の申し子」として。
 マザー・イライザが誇る子として、誰よりも「優れた」者になるよう。


 そうやって「作り出された」キース。
 E-1077始まって以来の秀才、そう称えられて当たり前。
 機械が「完璧に」教育したなら、誰も「キース」に及びはしない。
 どれほど優れた人間だろうと、「マザー・イライザの申し子」に勝てるわけもない。
(…しかし、シロエは……)
 私に勝った、と今でも思い出せること。
 自作のバイクに乗ったシロエが、得意そうに告げに来ていた「あの日」。
 バイクの後ろに、ツインテールの少女を乗せて。
(…亜空間理論と、位相力学の成績は…)
 「抜かせて頂きました」と、シロエは「事もなげに」言った。
 それが最初で、シロエは「幾つ」塗り替えたことか。
 E-1077始まって以来の秀才、キース・アニアンが取った成績を。
 同じ講義や実習などで、シロエが「試験」を受ける度に。
(……機械が作った、私を抜くなど……)
 どう考えても、「並みの人間」には不可能なこと。
 いずれメンバーズに選抜される者であっても、「抜き去る」ことは困難だろう。
 ただの一教科だけのことでも。
 講義だろうが、実習だろうが、一つでも「抜く」のは難しい筈。
 よほどツイていたか、「まぐれ」で抜ければ、きっと上等。
(なのに、シロエは…)
 幾つもの科目で、「キース」を抜いた。
 シロエが「同じ試験」を受ければ、当然のように、キースが立てた「記録」を抜き去って。
 それをシロエが「やっていた」なら、シロエの頭脳は「恐るべきもの」。
 「機械に作られた」わけでもないのに、「教育されてもいなかった」のに、優秀だった頭脳。
 いったい、シロエの「実力」は、どのくらいあったのか。
 「ミュウ因子」を持っていなかったならば、彼は「何処まで」行けたのか。
 機械が作った「キース」に処分されることなく、教育を受け続けていったなら。
 「キースの成績」を端から塗り替え、E-1077をトップで卒業して行ったなら。


(……国家騎士団総司令……)
 今のキースが就いている地位、それはシロエのものだったろうか。
 キースよりも「優れた頭脳」を持つなら、そうなっていても不思議ではない。
 マザー・イライザが推したところで、「セキ・レイ・シロエ」の方が優れていたならば…。
(…グランド・マザーが選び出すのは、シロエの方になっただろうな…)
 たとえシロエが、「システムに反抗的」であろうと。
 SD体制を平気で批判し、辛辣な皮肉を吐いているのが常であろうと。
 シロエの素行がどうであっても、「優秀であれば」、キースよりも「上」。
 マザー・イライザが作った「理想の子」などは、きっとシロエの敵ではなかった。
 同じ任務を任せたならば、シロエの方が優れた成果を上げるのだから。
 メンバーズとしての戦いだろうが、後進を育て上げる立場の教官だろうが。
(…シロエは機械などに頼ることなく、育てられもせずに…)
 「キース」以上の成績を取って、E-1077で「暮らしていた」。
 彼の頭脳がどれほどだったか、今となっては、もう分からない。
 グランド・マザーに問うたところで、きっと答えを得られはしない。
 けれど、一つだけ確かなこと。
 シロエが「キース」の成績を幾つも「抜き去った」ことは、事実で真実。
 多分、シロエは「遥かに優秀」だったのだろう。
 機械が作った「理想の子」よりも、「無から作られた指導者」よりも。
(……そのシロエが、ミュウ因子を持っていたのなら……)
 ミュウというのは、人類よりも「優れた」人種になるのだろうか?
 SD体制から生まれる異分子、不純物だと言われていても。
 ミュウは「サイオンを持つ」ばかりではなくて、人類よりも優秀な種族なのかもしれない。
(……まさかな……)
 「キースをも抜いた」シロエの頭脳は、例外だったと思いたい。
 たまたま「シロエが持っていた」だけで、「ミュウ因子」とは、まるで無縁なのだと。
 そうでなければ、人類はきっと「おしまい」だから。
 ミュウが人類よりも優れているなら、彼らの存在は「進化の必然」。
 いずれ人類はミュウに敗れて、ミュウの時代になるのが「宇宙の摂理」だから…。

 

            優秀さの意味・了

※シロエが「抜いた」キースの成績。よく考えたら、「凄すぎる頭脳」の持ち主なわけで…。
 「機械の申し子」に勝てたシロエは、ミュウ因子の保持者。ミュウの方が頭脳優秀なのかも。








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(…ジョミー・マーキス・シン…)
 あの子供は半端ないかもしれない、とソルジャー・ブルーは溜息をついた。
 もうすぐ燃え尽きる、自分の命。残り少ない寿命では、辿り着けない地球。このシャングリラを地球へ向かわせたくても、地球の座標さえも分からない状態。
 どうすればいいのか悩み続けて、後を託せる者を探した。ただ懸命に、青の間から。サイオンを駆使して、アタラクシアを、エネルゲイアを探って。
 そうして見付けた「後継者」。
 ミュウの兆候は全く無くても、明らかにタイプ・ブルーの少年を。
 明るい金髪に緑の瞳の、ジョミー・マーキス・シン。彼こそが、ソルジャー・ブルーを継ぐ者。いつの日かミュウの力に目覚めて、そのサイオンで船を守って、地球まで行ってくれるだろう。
 ようやく掴んだ「ミュウたちの未来」。ミュウの未来を担う少年。
 けれど…。
(健康な身体なのはいい。…それはいいんだが…)
 虚弱体質の者が多くて、「何処がか欠けている」のがミュウという種族。ブルーのように聴力が弱いとか、ヒルマンのように義手だとか。
 その点、ジョミーは「人類のように」健康体。ミュウと人類の「理想的な混血」と言えるほど。
 ただ、あまりにもジョミーは「元気すぎた」。
 有り余るエネルギーを持て余すように、派手に繰り広げる喧嘩。破りまくるルール。
 三日に一度は、学校のカウンセリングルームに呼ばれて、何度も説教。それでも、全く反省などしない。学校の教師に叱られようが、家に帰って母にも小言を言われようが。
(……あのくらいの方が、いずれ人類と戦う時には……)
 大いに役に立つとは思う。ひ弱な指導者では話にならない。…そう、「自分」のような。
 それは分かっているのだけれども、ジョミーは、まさしく暴れ馬だった。
 今日も今日とて、カウンセリングルームに呼び出しを食らって、朝から説教三昧。罪状の方は、幼馴染のサムを相手に、取っ組み合いの喧嘩をしたこと。
(ジョミーは怪我をしてはいないが…)
 殴られたサムの方は鼻血で、顔にアザまで出来ていた。彼がミュウなら、今頃はきっと…。
(メディカルルームに入院だろうな…)
 そんな所だ、と頭が痛い。「あんなジョミーで、いいのだろうか」と。


 赤ん坊だったジョミーを見付けて、以来、見守って来たけれど。
 ジョミーも十三歳まで育って、あと一年もすれば目覚めの日。このシャングリラに後継者として迎え入れる日も近いというのに、今も「ヤンチャ」なのがジョミー。
(子供の間は、あれで良かったが…)
 十三歳にもなってコレなら、残り一年では「どうにもならない」。
 学校の教師も手を焼くほどだし、改善されはしないだろう。もっと酷くなることはあっても。
 そんなジョミーを船に迎えて、次期ソルジャーに育て上げること。それがソルジャー・ブルーの「最後の仕事」で、「やり遂げなくてはならないこと」。
(しかし、燃え尽きそうなぼくでは…)
 あの暴れ馬を調教できるか、正直な所、自信が無い。
 そうでなくても、教育係は長老たちの役目。ソルジャーの残り少ない寿命は、ソルジャーにしか教えられない「心構え」などを伝えるために使うべき。
 つまりは、同じくタイプ・ブルーな上に、暴れ馬すぎるジョミーを調教するために…。
(…ぼくのサイオンを使えはしなくて…)
 肉体の力に頼るしかなくて、出来るのは「説教」程度のこと。ジョミーを相手に喧嘩したなら、パンチを食らって「終わり」だから。…他の長老たちにしたって、同じ結末。
(ハーレイだったら、ジョミーを殴れもするのだろうが…)
 他の者では、ジョミーにはとても歯が立たない。
 抑止力になるのがハーレイだけなら、ジョミーは「暴れ馬」のまま。ハーレイは長老である前にキャプテン、何かと忙しい立場。お目付け役として目を配れはしなくて、目を離した隙に…。
(ジョミーが暴れて、ゼルやヒルマンを殴り飛ばして…)
 逃亡するのが目に見えるよう。
 「こんな講義なんか、聞いてられるか!」と逃げてゆくとか、訓練の場から逃げ出すだとか。
(相手が、ソルジャーのぼくでも同じで…)
 ジョミーのことだし、もう完全に「なめられる」。
 見た目は若くて青年だけれど、「中身はゼルたちよりもジジイ」と見抜いて、鼻で笑って。
 口を酸っぱくして説教したって、「やってられるか!」と飛び出して行って。


 きっとそうなる、と見えている「未来」。
 けれどジョミーを迎えなかったら、この船にも、ミュウにも「未来」などは無い。
 どんなにジョミーが暴れ馬だろうと、もう文字通りに「殴る、蹴る」といった具合であろうと、彼を「調教する」しかない。
 暴れまくろうとも、手綱をつけて。振り落とされないよう、しっかりと乗って。
(…これが本物の馬だったら…)
 暴れた時には、麻酔銃でも撃ち込んでやれば…、と思ってはみても、ジョミーは「人間」。馬のようにはいかないからして、本当に頭が痛い日々。
 「あんな後継者を、どうすれば」と。
 ミュウよりも遥かに野蛮な人類、彼らでさえも手を焼くのに。カウンセリングルームに呼び出ししたって、ジョミーは少しも懲りないのに。
(……あれが、ぼくの手に負えるだろうか……)
 ハーレイ以外の長老たちは、生傷が絶えない日々になるのでは…、と零れる溜息。ソルジャーの自分も、「年寄り」を前面に打ち出さない限りは、きっと生傷。
(…シャングリラで一番の生傷男は……)
 いったい誰になるのだろう。
 いくらジョミーでも、エラやブラウといった女性は、殴らない筈。その分、お鉢が回るのが男。「殴られた時は、殴り返せる」ハーレイ以外は、もれなく「生傷男」だろうか。
(…ノルディに頼んで、メディカルルームの生傷部門を充実させておかないと…)
 駄目だろうな、とソルジャー・ブルーの悩みは尽きない。
 シャングリラのミュウたちは、殴り合いなど「しない」のが基本。だから生傷の手当なんぞは、ノルディたちでも「慣れてはいない」。
 今の間に「殴られて鼻血」や「アザ」といった類の怪我の手当を、覚えておいて貰わねば。
 それしか出来ることは無いな、と深い溜息をついた所へ…。
「ヒルマン先生、ごめんなさい!」
 もうしません、と泣き叫ぶ声が聞こえて来た。正確には「サイオンで聞き取った」声。
(…また、ヒルマンのお仕置きか…)
 備品倉庫も大活躍だ、と苦笑したブルー。船の決まりを破った子供は、備品倉庫に入れられる。ヒルマンがガッチリ施錠してしまい、反省するまで放置プレイで。
 今日は小さな男の子が一人、放り込まれていた。「おやつは抜きで反省しなさい」と。


 もうワンワンと泣きじゃくる子供。「ごめんなさい!」と、「もうしません」と。
 けれど、聞く耳を持たないヒルマン。その子は「常習犯」だったから。
「もう何回目になるのだね? 分かるまで、其処に入っていなさい」
 おやつは皆で食べておこう、との言葉通りに、その子のおやつは「無くなった」。他の子たちに配られて。その間も、備品倉庫で一人、おんおん泣き続けて…。
 彼が「出られた」のは、夕方のこと。「先生、トイレ!」と、切羽詰まった声と思念と。それは嘘ではなかったからして、「早く行きなさい」と倉庫を開けたヒルマン。
(…倉庫にトイレは無いのだし…)
 ああなるだろう、とブルーはサイオンで覗き見しながら、クスッと笑ったのだけど。
(……待てよ?)
 使えるのでは、と閃いたアイデア。
 いつか迎える「暴れ馬」なジョミー、彼を調教するにはコレだ、と。


 次の日、ブルーは、もう早速に長老たちを招集した。無論、シャングリラのキャプテンも。
 「急ぎの用だ」と、会議室ではなくて、青の間に。
「…ソルジャー、急ぎとは何の用なんじゃ?」
「ジョミーの件で話がある。…ゼル、君ならば出来るだろうか?」
 お仕置き用の部屋が欲しいのだが、と切り出したブルー。あまりに斜め上な言葉に、長老たちは目を剥いた。
「お仕置き用じゃと? 何なのじゃ、それは?」
「そのままの意味だが…。いつもヒルマンがやっているだろう? 備品倉庫で」
 決まりを破った子供を入れている筈だ、と話したら。
「ああ、あれかね…。今更、部屋を作らなくても、備品倉庫で間に合っているが…?」
 ヒルマンがマジレス、ゼルも大きく頷いた。
「まったくじゃて。あんな悪ガキどものためにじゃ、このゼル様が何もしなくてもじゃな…」
「あたしもゼルに賛成だね。備品倉庫で充分じゃないか」
「私もです。子供たちは、備品倉庫と聞いただけで震え上がるのですから」
 効果はありませんけれど…、とブラウもエラも「備品倉庫で充分」との意見。ハーレイもまた、そうだった。「備品倉庫で充分です」と。
 けれど、ブルーの狙いは違う。欲しいのは「子供用」ではない。
「…子供用なら、備品倉庫でいいだろう。しかし、相手はタイプ・ブルーだ」
「「「は?」」」
 ご自分をお仕置きなさるので…、とヒルマンが口をポカンと開けた。他の長老たちだって。
 なにしろ船に「タイプ・ブルー」は一人しかいない。ソルジャー・ブルー、ただ一人だけ。
 お仕置き部屋が「タイプ・ブルーのため」のものなら、入るのはブルーしかいないけれども…。
「間違えるな。ぼくが自分で入ってどうする」
「で、では…。誰をお仕置きなさるのです?」
 キャプテンの問いに、ブルーは重々しく宣言した。「次のソルジャーになる者だ」と。
「ジョミーの話は、皆に伝えたと思ったが…? 彼のために部屋が必要になる」
「何故なんじゃ?」
 まるで話が見えんのじゃが…、と騒ぐゼルたちは、全く知りはしなかった。ジョミーがどれほどヤンチャなのかも、凶暴な暴れ馬なのかも。


 そんな彼らに、懇切丁寧に説明したブルー。次期ソルジャーの現状と、日頃の悪行を。
「このままで彼を船に迎え入れたら、この中からきっと、船で一番の生傷男が出るだろう」
 ハーレイは恐らく、無事だろうが…、とのブルーの解説。女性陣も、と。
 けれども、他の三人の中から、出ることになるだろう「シャングリラで一番の生傷男」。鼻血にアザにと怪我をしまくり、「ソルジャーのぼくも、無事では済まない」とも付け加えて。
「…そ、それは…。それは、なんとも恐ろしいことじゃ…」
 わしは命が惜しいわい、とゼルがガクブル、他の面々もガクガクブルブル。
 ゆえにブルーは、こう続けた。
「だから、お仕置き部屋が要る。タイプ・ブルーには、備品倉庫は意味が無い」
「そ、そうじゃな…。で、どうすればいいんじゃ?」
 どんなお仕置き部屋が要るんじゃ、というゼルの質問。ブルーはニヤリと笑って答えた。
「まずは、脱出不可能なこと。…それから、相手は子供ではないし…」
 晒し者としての自覚を持つよう、ガラス張りで、とのキツイ注文。
 相手は「暴れ馬」なジョミーだからして、「お仕置き中」の姿を皆に披露で、赤っ恥をかかせて促す反省。いくらジョミーが太々しくても、「晒し者」は堪えるだろうから。
 晒し者の刑をかますからには、必要ないのが「プライバシー」。
 お仕置き部屋には「トイレを兼ねた椅子」が一脚あれば充分、子供たちみたいに「トイレ!」と逃げ出せないように。
「な、なんと…。トイレまで、ガラス張りの部屋とは、ちと酷いような…」
 じゃが、そのくらいで丁度じゃろうか、と髭を引っ張るゼルに向かって、ブルーは続けた。
「心理探査用のシステムも頼む。ジョミーの不埒な考え方も、皆に晒しておかないと…」
「…プライバシーはゼロということじゃな?」
「その通りだ。…心理探査の結果は、モニターに映るようにしてくれ」
 其処までやっても、ジョミーには甘いかもしれない、とのブルーの読み。反対する者は、もはやいなかった。
 「シャングリラで一番の生傷男」になりたくなければ、暴れ馬なジョミーを「調教する」こと。
 必要とあらば、「お仕置き部屋」に突っ込んで。
 ガラス張りの部屋に押し込め、トイレに行くのも衆人環視。ついでに「野蛮すぎる」オツムも、中身を皆に晒しまくりで。…心理探査用のプローブを深く下ろして、モニター画面に中継で。


 こうして作られた「お仕置き部屋」。
 ジョミーが船で暴れた時には、容赦なく「放り込む」ための部屋。
 幸いなことに、それの出番は「来なかった」。
 ジョミーは船から逃げた挙句に、ユニバーサルの保安部隊に捕まり、大爆発した彼のサイオン。衛星軌道上まで飛び出し、ブルーが追い掛けてゆくことになった。
 お蔭でブルーは「シャングリラで一番の生傷男」になったけれども、なんとか生還。
 ジョミーは深く反省したから、「お仕置き部屋」までは使わなくても…。
「…ジョミー・マーキス・シン!」
 訓練をサボるようなら、行き先は分かっておるじゃろうな、と怒るゼルたち。もうそれだけで、ジョミーは黙った。「すみません…」と、それは大人しく。
 「お仕置き部屋」は出番が無いまま、埃を被っていったのだけれど…。
 それから十五年もの時が流れて、「お仕置き部屋」は華麗にデビューを遂げた。
 ジョミーが捕獲した「地球の男」を閉じ込めるために。
「…ゼル、いいものを作っておいてくれた。この部屋は、こいつにピッタリだ」
 大いに役立てさせて貰う、とジョミーはキースを其処に押し込め、こう命じた。
 「心理探査用プローブを下ろしてくれ」と。
 グランド・マザーの犬を捕えたからには、頭の中まで「覗き見て」なんぼ。それに使える設備はバッチリ、おまけに「逃げ出せない」牢獄。
 地球の男には、ピッタリだから。まさに「お誂え向き」の牢獄だから…。

 

            牢獄の由来・了

※キースが入れられていた、ガラス張りの牢獄。何故、あんな牢獄があったのかが謎。
 前に「座敷牢の男」で別の理由を書いてますけど、今回はコレで。ジョミー専用らしいです。








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(……E-1077……)
 教育のための最高学府、とシロエが挙げてみる「此処」の謳い文句。
 未来を担うエリートたちを育てる所、と「其処」の個室で。
 好成績で卒業したなら、開けるという「メンバーズ」への道。
 それに選ばれれば、「頂点に立つ」のも夢ではない。
 今は空席の「国家主席」の地位にまで「昇り詰める」ことさえ。
 そうすることが、今の目標。
 いつかメンバーズに、それを足掛かりに続ける昇進。国家主席になるために。
 歪んだ「機械の時代」を終わらせ、「子供が子供でいられる世界」を作るためにだけ。
(その時は、きっと…)
 奪われた「過去」も取り戻す。
 成人検査で消されてしまった、両親や、懐かしい故郷の記憶。
 それを機械に「返せ」と命じて、記憶が戻れば「機械を止める」。
 もう二度と、動き出さないように。…「人間」を統治できないように。
 けれど、その日は、まだずっと先で、そうなるまでには、歩むしかない茨の道。
 機械に従う「ふりをする」ことも、必要な時が来るだろう。
 此処で「逆らい続ける」ことは出来ても、この先は、きっと無理なのだろう。
 マザー・イライザならばともかく、地球に在るというグランド・マザー。
 SD体制の要の機械に、「逆らう」ことは得策ではない。
(……ぼくも、いずれは……)
 マザー牧場の子羊なんだ、と唇に浮かべる自嘲の笑み。
 自分では「違う」と分かっていたって、周りの者は気付きはしない。
 上官も、それに同僚たちも。
 「自分たちと同じに」敬礼している「シロエ」を見ては、「正しい」と思うことだろう。
 SD体制に、グランド・マザーに、とても忠実な「メンバーズ」。
 あれでこそ出世も出来るものだと、「我々も、あのように在らねば」と。


 なんとも皮肉で、忌まわしくなる「シロエ」の未来。
 誰よりも「機械」を嫌っているのに、「従うふり」をするなんて。
 いつの日か「機械に」牙を剥くまで、大人しい「羊」として過ごすなんて。
(……でも、そうするしか……)
 ぼくには道が無いんだから、と考える度に、「今は、まだマシ」なのだと思う。
 マザー・イライザに逆らい続けて、何かと言えば「コールされる」日々。
 コールの度に、「何かを失くして」しまおうとも。
 「心が軽くなった」と感じる代わりに、「思い出せない過去」が増えても。
 そう、此処でならば、「相手」はマザー・イライザだけ。
 今も憎んでいる、成人検査の時の機械と、どちらが「上」かは分からないけれど。
(……テラズ・ナンバー・ファイブ……)
 アレの方が「マザー・イライザ」よりも上か、あるいは下に位置しているのか。
 まだ「其処までは」習っていないし、想像の域を出ないけれども…。
(…きっと、あの機械は、グランド・マザーの……)
 直属なのに違いない。
 マザー・イライザは、「エリートを育成するための」此処を統治するだけ。
 けれども、テラズ・ナンバー・ファイブは違う。
 成人検査を受けた「子供」を振り分け、あちこちの教育ステーションに送り出す。
 E-1077の他にも、幾つも存在するステーション。
 「一般市民」を育てるものやら、「養父母」を育成する場所やら。
 つまり「子供の未来」を決めては、「送り出す」のがテラズ・ナンバー・ファイブ。
 どういう子供が「何の仕事に向いている」のか、その適性を見極めて。
 SD体制の時代においては、「進路は機械が決める」もの。
 「メンバーズになれる、優秀な子供」を、「一般人向け」のコースに送りはしない。
 その逆も、また「有り得ない」こと。
 ましてミスなど許されないから、テラズ・ナンバー・ファイブの権限は、きっと…。
(……マザー・イライザよりも、遥かに上で……)
 グランド・マザーから、「直接」指示も受けるのだろう。…「こうするように」と。


 マザー・イライザの役目は、「育てること」だけ。
 E-1077に「送られて来た子」を、未来のエリートにするべく、「立派に」。
 その段階に至る前には、テラズ・ナンバー・ファイブが「振り分ける」。
 「この子は、此処だ」と、行くべき教育ステーションを決めて。
 有無を言わさず記憶を「処理して」、其処へと向かう宇宙船に「乗せて」。
(…ぼくも、そうやって……)
 E-1077に「運ばれて来た」。
 成人検査が「いつ終わった」のかも、定かではない「記憶」を抱えて。
 大切なピーターパンの本だけを手にして、漆黒の宇宙を此処まで旅して。
(……いい成績を取っていたなら、ネバーランドよりも……)
 もっと素敵な「地球」に行けると、大好きだった父が教えてくれた。
 今は顔さえぼやけてしまって、思い出せない「優しかった」父が。
 「シロエなら、行けるかもしれないぞ」と、両腕で、高く抱き上げて。
 そうして、母が笑っていた。
 「親馬鹿なんだから」と、それは可笑しそうに。
 その母の顔も「思い出せなくて」、何もかも機械に奪い去られた。
 けれども、今も「忘れてはいない」。
 父から「地球」を教えられた日を、「地球に行きたいな」と夢を抱いた日を。
 ネバーランドよりも素敵な場所なら、いつか「この目で」見てみたい。
 いい成績を取り続けたならば、きっと地球への道が開ける。
(…そう思ったから、頑張って……)
 それまで以上に、重ねた努力。
 単に「頭がいい」だけの子では、「行けなくなる」かもしれないから。
 他の子たちとは違う能力、それを身につけなければ、と。
(エネルゲイアは、技術関係のエキスパートを育てる育英都市で……)
 とても「エリート」には繋がらない、と子供心にも分かっていた。
 エネルゲイアでは「頭が良くても」、宇宙全体では「通用しない」ことだってある。
 ならば、他の子たちより「抜きん出る」ことが、きっと大切だろうから。


 そう気付いてから、磨き続けた「自分の能力」。
 同じ機械を相手にするなら、皆よりも高い技術を、と。
 コンピューター相手の作業だったら、才能を問われる「ハッキング」など。
 何か機械を作るのだったら、「より精密で」高度なものを。
(ずっと頑張って、頑張り続けて…)
 地球に行く日を夢見ていたのに、気付けば「此処に」連れて来られていた。
 両親も、故郷の記憶も「消されて」、ピーターパンの本だけを持って。
(……何もかも、全部、機械が決めて……)
 シロエは「選び出された」けれど、「努力次第で」地球にも行けるのだけれど。
 それと引き換えに「失くした」過去。
 顔さえぼやけてしまった両親、もう鮮やかには思い出せない「故郷」の風や光などや。
 このステーションに来ていなかったら、「何かが」違ったかもしれない。
 機械が処理する「過去の記憶」が、今とは違う内容になって。
(…技術者だったら、今と大して変わりはなくても…)
 一般市民に選ばれていたら、どうなったのか。
 「シロエの能力」が「とても低くて」、養父母向けの教育ステーションへと送られていたら。
(…養父母は、子供を育てるんだし…)
 子供が「どういう風に」育つか、それを教わることだろう。
 自分の所に「届けられて来た」赤ん坊を育て、十四歳になるまで「面倒を見る」のだから。
(……子供を育ててゆくんだったら……)
 子供時代の記憶が「まるで」無ければ、話にならないかもしれない。
 教育ステーションで教えるよりかは、「幾らかは」記憶を消さずに残すのかもしれない。
 その方が、きっと便利だろう。
 彼らを「教える」教官たちだって、そのステーションを統べるコンピューターだって。
 「何も覚えていない」よりかは、「基礎になる記憶」。
 赤ん坊はともかく、幼い子供には、こう接するのが「望ましい」とか。
 もう少し育った子供だったら、「このように叱るべき」だとか。
 その可能性は、大いに有り得る。…全てを消すより、「目的別に消してゆく」方が。


(……だったら、ぼくは……)
 道を間違えたんだろうか、と冷えてゆく背筋。
 もしも「シロエ」が、どうしようもなく「成績の悪い子供」だったら、と。
 養父母にしか「なれない」能力、それしか「持っていなかった」なら。
 技術者の道を歩みはしたって、単なる「子供の父親」としての、職業が技術者だったなら。
(…ぼくは、何もかも忘れる代わりに……)
 もっと覚えていたのだろうか、両親と過ごした子供時代を?
 懐かしいエネルゲイアにしたって、いつか養父母として「妻」と一緒に赴いた時に…。
(子供の頃は、此処で遊んだとか、あっちに行ったら何があるとか…)
 ごくごく自然に思い出せるよう、記憶は「残っていた」かもしれない。
 エネルゲイアの出身ではない「妻」を、あちこち案内してやれるように。
 託された子供が育ち始めたら、「パパも昔は…」と、色々なことを話せるように。
(……そうだったなら……)
 ぼくは自分の首を「自分で」締めただろうか、と恐ろしくなる。
 いつか「機械を止める力」を、「グランド・マザーに従い続けて」得るよりも…。
(…何の能力も持たないシロエで…)
 ただの「養父」になっていたなら、全てが違っていたかもしれない。
 もう、その道は「歩めない」けれど。
 E-1077に来てしまった今は、何もかも、とうに「手遅れ」だけれど。
 「シロエ」は道を間違えたのか、と零れ落ちる涙。
 努力した結果が「これ」だとしなら、あまりにも惨い結末だから。
 機械に従う道をゆくより、両親の顔を、故郷を、「シロエ」は覚えていたかったから…。

 

          間違えた道・了

※原作に比べて「ゆるい」アニテラのSD体制。スウェナがジョミーの両親を覚えているとか。
 だったら、記憶の処理が「目的別」でも変じゃないよね、と。…ホントに有り得る。









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「キャプテン! ステルスモード、解除してましたっけ?」
 ブリッジクルーにそう尋ねられて、ハーレイは「いや」と即答した。
 ジルベスター・セブン、いわゆるナスカ。其処に降りようと決めて、入植中だけれども…。
「ステルスモードを解除するには、まだ早い。人類に発見されるわけにはいかない」
「そうですよね…。でも、今、入った通信で…」
 シャングリラが目視できると言っています、とクルーが告げた報告。
 曰く、ナスカとシャングリラを繋ぐ定期便のシャトル。それがナスカを発って間もなく、上空に白い鯨のような「シャングリラ」の姿が見え始めたという。
 衛星軌道上に浮かんだ船は「目視できない」筈なのに。
 シャングリラ自慢のステルス・デバイス、それが船体を隠しているから、「よほど接近しない」限りは、「そこにある」とは分からないのが、白く巨大なミュウたちの母船。
 そのシャングリラが「見える」となったら、ただ事ではない。考えられる理由は、一つだけしか無かった。ステルス・デバイスが「ダウンした」ということ。
(……ナスカだったから良かったが……)
 航行中だと危なかった、とハーレイは直ちに指示を飛ばした。
「ステルス・デバイスを再起動しろ! 今すぐにだ!」
「はいっ!」
 早速、係が取り掛かった作業。けれど、たちまち、困った顔がハーレイの方に向けられた。
「…キャプテン、ダウンしていません。ステルス・デバイスは正常に作動しています」
「勘違いするな! そういうメッセージが出ているだけだ!」
 今は「壊れている」のだからな、とキャプテンの答えは冷静だった。なんと言っても、故障中の機械が相手なのだし、「正常です」などは当てにならない。信じる方が馬鹿というもの。
 「強制的に再起動だ」と係のクルーを睨んで、「分かりました」と返った声。
 クルーは「正常に作動中」のステルス・デバイスを「終了させる」と、再起動に移った。
《…ステルス・デバイス、再起動。…予備診断、実行中》
 ブリッジにそういう音声が流れ、間もなく「再起動、完了」とクルーも報告したというのに…。
「キャプテン、まだ船体が見えるそうです!」
「なんだと!?」
 それはマズイ、とハーレイは拳を握り締めた。
 ステルス・デバイスのオーバーホールは、「まだまだ先」だと思ったけれども、それどころではないらしい。「今すぐ」作業に取り掛からないと、シャングリラの船体は「丸見え」のまま。
 本来だったら会議を開いて、オーバーホールの時期を決定するのだけれど…。
「ステルス・デバイスのオーバーホールを開始せよ! 全責任は私が負う!」
 直ぐに始めろ、とハーレイはキャプテンの権限を行使した。
 こういった時に「使えない」なら、「キャプテン権限」なんぞは「お飾り」だろう、と。


 ステルス・デバイスをオーバーホールするとなったら、システムを完全に止めねばならない。
 その間、シャングリラは「完全に」目視できる状態。
 此処で人類軍の船が来たなら、ヤバイどころの騒ぎではないし、ハーレイはレーダーを担当するクルーに叫んだ。
「気を抜くな! オーバーホールが終了するまで、いつも以上にレーダーを睨め!」
「はい、キャプテン!」
 ルリがいないのがキツイですが…、と零しながらも、クルーが見詰めるサイオン・レーダー。
 これまたシャングリラが誇るシステム、人類たちが使う「それ」より高性能なもの。遥か先でのワープアウトサインも確認できれば、艦種識別もアッと言う間の優れものだけれど…。
「いいな、民間船であろうが、発見した時は報告しろ!」
 今はシャングリラが「丸見え」なのだ、とハーレイは警戒を強めてゆく。ステルス・デバイスが正常だったら、民間船に目視されても、「宇宙鯨を見た」で済む。
(…いつの間にやら、そういう話になっているからな…)
 スペースマンたちの間の伝説、それが「宇宙を彷徨う鯨」。宇宙鯨は、シャングリラのこと。
 「見れば願いが叶う」などというオマケまであるし、普段だったら民間船は「敵ではない」。
 けれども今は非常事態で、「宇宙鯨を見た」と通信されたら、この宙域を飛んでいる船が端から「宇宙鯨」を目撃することになる。…シャングリラは「姿を消せない」だけに。
 そうこうする内に、人類軍が通信を傍受することだろう。「宇宙鯨がいるらしい」と。
(…人類軍は、鯨の正体を知っているのだ…!)
 彼らが勝手に「モビー・ディック」と呼んでいるのがシャングリラ。
 それが「いる」場所を特定されたら、攻撃にやって来るのは必至。船もヤバイけれど、ナスカも危うい。せっかく入植したというのに、手放して逃げてゆくしかない。
 そうならないよう、民間船といえども、気を付けなければいけないのが「今」。
 もしも近くを飛ぶようだったら、シャングリラの移動も考えなければ…、とハーレイが頭の中で様々なことを考える所へ、レーダー担当のクルーの声が届いた。
「キャプテン! サイオン・レーダー、感無しです!」
「それがどうした! 報告は「感あり」だけでいい!」
 感無しは当たり前だろうが、とハーレイは半ば怒鳴ったけれども、クルーは「感無しです!」と繰り返した。
「レーダーが作動していません! シャトルがこちらに飛んで来るのに、反応無しです!」
「なんだって!?」
 レーダーまでもが「壊れた」のか、とハーレイは呆然とするばかりだった。このタイミングで、サイオン・レーダーさえも「使えない」とは、最悪としか言えない状態だから。


 船を隠すためのステルス・デバイスがダウン、その上、サイオン・レーダーまでをも失った船。
 此処で人類軍が来たら「終わりだ」と、キャプテンが顔面蒼白になった日。
 それは「始まり」に過ぎなかった。
 もしや、と撃たせたサイオン・キャノンも「撃てない」始末で、およそサイオンが絡んだ全てのシステム、それが悉く「駄目っぽい」。
 シャングリラは「ミュウの母船」として改造を重ねて来た船だけに、「サイオン頼みの船」だと言える。人類軍の船にさえ無い「シールド」なども、その一つ。
(……サイオン・シールドも使えないなどと……!)
 いったい何が起こったのだ、とハーレイは焦りまくりながらも、各部署に「修復を急がせろ」と伝令を飛ばし、自ら足を運びもした。「原因は、まだ分からないのか!?」などと。
 けれどサッパリ「好転しない」事態。
 シャングリラは、まるで「使い物にならない」船に成り果てたままで、二日、三日と経ってゆく中、ドクター・ノルディからの緊急通信がブリッジに入った。
「キャプテン! これが原因かと思われます!」
 「サイオンが使えなくなった」と訴える患者が押し掛けて来ています、とモニター画面に映ったノルディの顔は引き攣っていた。
 今朝から「そういう症状の患者」が、メディカル・ルームに次々にやって来ているのだとか。
「サイオンが使えないだって!? どんな症状だ!」
 ハーレイの問いに、ノルディは「そのままの意味です」と、沈痛な声で答えを返した。
「主な症状としては、思念波が使えないことが挙げられます。他の能力も皆無です」
 患者は「人類」と変わらないと思って頂ければ…、というのがノルディの診立て。
 朝から続々とメディカル・ルームを訪れる「ミュウ」は、サイオンを使えない「ただの人間」。その症状を「自覚した」のが今日だからして、それよりも少し前の頃から…。
「サイオンのレベルが、ダウンし始めていたと言うのか!?」
「恐らくは…。その状態では、無意識に発するサイオンを集めて使うシステムは…」
 端からダウンしていくでしょう、とのノルディの意見は「間違っていない」と、ハーレイの勘が告げている。…そういう理由なら、納得がいく。
(どう頑張って修復しようと、肝心のサイオンが無い状態では…)
 どのシステムも「使えない」だろう、とハーレイは天井を仰ぐだけだった。
 どうなったのかは謎だけれども、「サイオンが使えない」仲間が増えているなら、復旧の目途が立つわけもない。ステルス・デバイスにしても、シャングリラが誇る他の独自のシステムなども。


「…キャプテン。理由は掴めたようだが、この船はどうなる?」
 それにナスカも、仲間たちもだ…、とソルジャー・シンの顔も青かった。会議の席で。
 数日前からのシャングリラの不調、それを一人で「カバーし続けていた」のがソルジャー・シンことジョミーだけれども、今の状態はシャレにならない。
 シャングリラが「使えない」だけならまだしも、船の仲間たちが「使えない」なんて。
 ミュウの特徴の筈のサイオン、それが「使えない」なら、ミュウではなくて「ただの人間」。
「…分かりません、ソルジャー…。いずれ回復するのか、それも掴めてはおりません」
 ただ、原因の方でしたら…、とハーレイはノルディに促した。「報告を」と。
「はい。…ソルジャー、入植して直ぐに、流行った風邪を覚えておいででしょうか?」
「風邪…。そういえば、そういうことがあったな…」
 ぼくも罹った、とジョミーが頷く「風邪」というヤツ。
 それはジルベスター・セブンへの入植直後に、ナスカと船で大々的に流行りまくった。感染源は今も不明のままで、人類が廃棄した星に「生き残っていた」ウイルスでは、と言われている。
 ウイルスは宿主の身体を離れれば、「長くは生きられない」のが常識だけれど、何らかの条件が整ったせいで冬眠状態に入って「生きていた」のだろう、とも。
「あの風邪に罹った患者のデータは、全て残っておりますが…。最初に発症した者たちが…」
 今日、メディカル・ルームを訪れた患者と完全に一致しております、とノルディは厳しい顔つきだった。「サイオンが使えなくなった原因は、あの時の風邪だと思われます」と。
「そ、そんな…。あれからずいぶん経っているのに…」
 偶然だろう、とジョミーは目をパチクリとさせたけれども、ノルディは首を横へと振った。
「患者の血液などを分析しました。サイオンが使えない患者は、未知の抗体を持っております」
 あの時に風邪に罹った患者も、全員が持っているでしょう…、とノルディは深い溜息をついた。患者の治療をする内に「罹ってしまった」ノルディ自身も、その抗体を持っているとか。
「じゃ、じゃあ…。ぼくも、その内にサイオンが使えない状態に…?」
 確か一週間ほど経ってから風邪を貰ったっけ、とジョミーがよろけて、ハーレイや長老たちも、「まさか…」と自分の顔を指差した。
 シャングリラとナスカで蔓延した風邪、それに罹っていない人間は「一人しかいない」。
「…ソルジャー・ブルー…以外は、全員、ただの人間になってしまうんじゃな!?」
 わしらも罹ったんじゃから、とゼルがガクブル、他の面子も同様だった。
 「サイオンを失くした」ミュウなど、もはや「ミュウ」とは言えない。
 一時的な現象で済めばまだマシだけれど、「症状が回復しなかった」時は、「使えない」機能が満載の船で「ただの人間」が逃走生活を送ることになる。
 人類に向かって「今は普通の人間ですから!」と主張したって、絶対に通らないだけに。


 ノルディの不吉な予言通りに、間もなく「全員が失くした」サイオン。
 青の間で眠り続けるソルジャー・ブルー以外は、「ただの人間」ばかりの団体になってしまったミュウたち。ソルジャー・シンまでが「ただの人間」だけに。
「明日にもポックリ逝くかもしれんのう…」
 わしらは年が年じゃから…、と嘆きながらも、ゼルたちは「元はこういう船じゃったから」と、シャングリラに「普通のレーダーシステム」を搭載し直した。
 ステルス・デバイスやサイオン・シールドなどは「どうにもならない」けれども、レーダーなら「人類仕様」のがある。サイオン・キャノンは「諦めるしか」なくて、武装できなくても、逃げるだけなら「逃げ切れるじゃろう!」と、せめてレーダー。
 快適だった「ミュウ仕様の船」は、「ただのデカブツ」と化すことになった。
 今やシャングリラで「思念波を使える」のはナキネズミだけ、という悲惨な境遇。
 それでも、赤いナスカで生まれたSD体制始まって以来の、自然出産児の子供たちは…。
『グランパ、聞こえる?』
「ああ、聞こえてるよ。トォニィ」
 ぼくには「それ」は出来ないけどね、とジョミーも苦笑するしかない。ナキネズミと子供だけがサイオンを持っていたって、シャングリラは「ただのデカブツ」のままだけに。
 こんな船では地球にも行けない、と誰もが地味な「ただの人間ライフ」を送り続けていた、ある日のこと。「普通のレーダー」に映った船影、それは人類軍の船。
「ソルジャー、逃げましょう!」
 非常事態ですから、ナスカは捨てて…、と叫んだキャプテン。直ぐに逃げないと、殲滅される。この船にいる仲間だけでも…、とハーレイは決断したのだけれど…。
「「「え?」」」
 あれは、とシャングリラのブリッジにいた、全員が見た。
 「いてもうたるねん!」という誰かの「思念」の叫びと、ナスカから真っ直ぐ飛んで行った光。青く輝く鋭い光は、どう見てもタイプ・ブルーのものだった。
 それが「人類軍の船」を貫き、船は大爆発して宇宙の藻屑。中に乗っていた「キース」ごと。


 「いてもうたるねん!」をかました英雄、その正体は「ただの人間」だった筈の連中。
 普通のレーダーで機影を捉えて、「なんとかナスカを守りたい」と思った途端に、例の思念波が飛び出した。「いてもうたるねん!」と心を一つにして。
 それが切っ掛け、かつて「風邪に罹った」時の順番と同じに、回復し始めた皆のサイオン。
 あまつさえ、誰もが「最強のミュウ」へと進化していた。…どういうわけだか。
「……全員、タイプ・ブルーだったら、ぼくがいなくてもいいんじゃあ…?」
 ソルジャーなんかは、ジャンケンで決めればいいと思う、とジョミーが真顔になったほど。
 今のシャングリラとナスカにいるミュウ、彼らはもれなくタイプ・ブルーで、もはや人類などは「敵でさえない」。
 キースはとっくに「死んだ後」だし、その後に来たメギドも「敵ではなかった」。あっさり皆の力で防いで、沈めておしまい。「いてもうたるねん!」と。
 そんな具合だから、今日もシャングリラの公園では…。
「グランパ、地球に行くのはいつにするの?」
「さあ…? トォニィが早く見たいんだったら、明日でもいいかな」
 アルテメシアに行けば、地球の座標は分かると思う、とジョミーはのんびり、まったりだった。
 今では無敵艦隊とも呼べる、シャングリラと船の仲間たち。
 彼らが「ついに動き出した」時、SD体制とグランド・マザーは「ブッ壊れた」。
 未だ昏々と眠るソルジャー・ブルーを乗せたままの船は、向かう所、敵無しだったから。
 「風邪のウイルス」に敗れる形で、人類軍は全て、タイプ・ブルーの集団に白旗を掲げ、人類の聖地、「地球」を明け渡す他に道などは持っていなかったから…。

 

            使えない船・了

※いや、シャングリラって、ずいぶんと派手に「ミュウ仕様」に改造してあったよな、と。
 サイオン抜きだと「使えない」んじゃあ…、と思っただけ。やっぱり使えねえ…。






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