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(ミュウは排除すべき生き物なのだ…)
 この宇宙からな、とキースが改めて思うこと。
 ミュウの版図は拡大の一途を辿るけれども、それを防ぐのが「キース」の務め。
 数々の暗殺計画にさえも屈することなく、此処まで歩み続けて来た。
 何もかも、全ては「人類」のために。そして「地球」のために。
(…ミュウの侵入を許したら…)
 宇宙の秩序は全て崩れる、と一人、傾けるコーヒーのカップ。
 少し冷めた「それ」を淹れて来たのは、ミュウなのだけれど。
(……マツカは、役に立つからな……)
 今の所は「人類のために」役立っている、と夜の自室で言い訳をする。
 とうの昔に「入り込んでいる」ミュウ、それが「マツカ」。
 人類どころか、国家騎士団の内部にまでも。
 国家騎士団総司令の側近、そういう立場に「いる」者がミュウ。
 けれど、あくまでマツカは「例外」。
 役に立つから側近なのだし、その辺にいるミュウとは違う。
 今日も実験する所を見て来た、開発中のAPD。アンチ・サイオン・デバイススーツ。
 それを着ければ、対サイオンの訓練を受けていない者でも…。
(ミュウを相手に戦えるわけで…)
 もうそれだけで、即戦力が増すことだろう。
 対サイオンの訓練で鍛え上げられるのは、素質を持ったエリートのみ。
 彼らの数は限られるだけに、とてもミュウには対抗できない。
 それを補うのがAPDスーツで、全軍きってのゴロツキだろうが、立派な兵士に変身する。
 今は開発中だけれども、見事、完成した暁には。
(あれの開発に欠かせないのがミュウどもだが…)
 捕獲され、処分される運命のミュウ。
 彼らを待つのは元から「死」だから、ただ死に場所が変わるだけ。
 処分用の施設で殺されてゆくか、開発中のAPDを着けた兵士に撃ち殺されるか。
 そういった「ミュウ」なら、いくら死んでも惜しくはない。
 彼らは排除すべき存在、端から殺していった所で、痛くも痒くもないのだから。


 宇宙の秩序を乱すのが「ミュウ」。
 SD体制の中から生まれる異分子、「人類」とは違う異質なモノ。
 彼らは悉く処分すべきで、排除すべきだと信じている。
 人の心を盗み見るような輩は生かしておけないから。
(…その点、マツカは何も問題ないからな…)
 きちんと躾けてあるのだから、と唇に浮かべた薄い笑み。
 マツカに心を読まれたことは、ただ一度だけ。
 ジルベスターへと向かう途中で、ソレイドの基地で出会った時。
(あれは私が、わざと読ませて…)
 ミュウかどうかを確かめたのだし、「読まれた」内には数えられない。
 承知していて「読ませる」ことと、意識しないで「読まれる」こととは、明らかに別。
 マツカを生かしておいた理由は、幾つもあると思うけれども…。
(要は、役に立つミュウだからで…)
 その辺のミュウとは全く違う、と自信を持って言うことが出来る。
 「自分」は、けして「裏切ってはいない」と。
 ミュウの排除を唱えながらも、ミュウを側近にしていることで。
(役に立つ者は、使わねばな…)
 使いこなせれば、それでいいのだ、と自分自身にも、ある自信。
 ミュウの「マツカ」を使いこなして「役に立てられる」のは、自分だから。
 もしも、あのままソレイド軍事基地にいたなら…。
(…グレイブにとっては、何の役にも立たない部下で…)
 きっと基地では、使い走りでしかなかっただろう。
 「ミュウの存在」さえ知らなかったマツカは、ただの劣等生の軍人。
 ろくに「使えはしない」部下だし、グレイブがノアへ転属になった段階で…。
(置いてゆかれて、それきりだな)
 次にソレイドに赴任した者の部下になるだけ。
 グレイブからの申し送りには、とても低い評価がつけられていて。
 引き継いだ者が「マツカ」を見たって、真価は見抜けなかったろう。
 「使えない奴だ」と思うばかりで、つまらない仕事しか与えはせずに。


 要は資質の問題なのだ、と可笑しくなる。
 「ミュウのマツカ」を上手く使うのも、価値に気付かず、「役立たない」と思うのも。
 巧みに使いこなせさえすれば、マツカは役立つ部下なのに。
 並みの軍人よりも優れた面さえ、幾つも持っているというのに。
(…暗殺者の弾を、素手で受け止めるなどは…)
 セルジュでさえも無理だからな、と宙港での出来事を考えてみる。
 あれはゴフェルの暴動鎮圧、その任務から戻った時だったか。
 船を降りるなり、整列していた兵士の中から、飛び出して来た暗殺者。
 まさか軍の中から、出てくるとは思わないものだから…。
(当然、武装していたわけで…)
 銃には実弾がこめられていた。
 本当だったら、あそこで「キース」の命は終わっていたのだろう。
 防弾服など着けていないし、避ける暇さえ無かっただけに。
 けれど、「マツカ」が役立った。
 他の者には、その動きさえも見切ることは出来ない「ミュウの能力」。
 誰にも知られず飛び出して行って、実弾を全て、手で受け止めた。
 「そうした」ことを、知る者さえも無いままで。
 同じように側にいたセルジュからは、「役立たずだ」と思われたままで。
(…あの能力は、人類には持ち得ないものだ…)
 ついでに「その辺のミュウ」も同じだ、とフンと鼻を鳴らす。
 SD体制の異分子だというだけの「ミュウ」など、たかが知れている。
 彼らは「人の心を読む」だけ、「サイオンを持っている」だけの者。
 その能力を「どう使うか」など、彼らの頭に入ってはいない。
 追い詰められれば、サイオンを爆発させるけれども…。
(意識して使いこなすことなど、出来ない奴らだ)
 それが出来るなら、とうに逃亡しているだろう。
 APDスーツの実験台として、あの場に引き出される前に。
 押し込められた「檻」から出された途端に、警備の兵を全て倒して。
 並みのミュウでも、それだけの力は、充分に持っているのだから。


 「使える」ミュウと、「使えない」ミュウ。
 その差は何処から生まれるものか、それを考えるつもりは無い。
 じきに滅ぼす種族のことなど、深く突き詰めても無意味なこと。
 「キース」は、「人類」を守りさえすればいいのだから。
(…私だから、マツカも使いこなせる…)
 本来は「処分される」筈のミュウ、その能力さえ「役立てている」。
 ミュウを滅ぼすことが使命の、「キース・アニアン」の側近として。
 マツカは大いに役に立つから、これから先も使ってゆかねば。
 宇宙から「ミュウ」がいなくなるまで、ミュウの艦隊を沈め、殲滅する日まで。
(…ミュウを宇宙に広げないためには…)
 いずれミュウ因子のチェックも必要になるだろう。
 ミュウが制圧した惑星から、このノアにも移民船が来ている。
 彼らと共存したくない者、そういう人類が逃げ出して来て。
(……だが、その中にミュウがいないとは……)
 言い切れないのが「現実」なのだし、いつか提案せねばならない。
 それを言える立場に立った時には、「すぐに実行するように」と。
 ミュウが宇宙にはびこらないよう、彼らを水際で食い止めるために。
(…入国審査を厳重にして…)
 宙港でサイオンの有無をチェックさせること。
 ミュウ因子が陽性反応の者は、その場で捕らえてしまえばいい。
 彼らがサイオンを爆発させても、対抗できる「警備兵」が完成したならば。
(育成するのは、とても無理だが…)
 APDスーツさえ出来上がったら、ただの警備兵でも可能になる。
 陽性反応を示した者たち、彼らを排除することが。
 いきなりサイオンが爆発しようと、それに対抗することが。
(自由に動けさえしたら…)
 撃ち殺すことは簡単だからな、とAPDへの期待が高まる。
 あれさえ出来たら、「それ」を進言すべき時。
 入国審査を厳重にしろと、「ミュウは水際で防ぐべきだ」と。


 そうして入国審査で始めて、徐々に範囲を広げてゆく。
 「既に入り込んでいる」かもしれない、「人類に混じったミュウ」を排除しに。
 彼らを端から処分するために、一人たりとも見落とさないために。
(…ノアの一般人はもちろん、軍の内部にも…)
 ミュウは「いる」かもしれないのだから、探し出しては処分してゆく。
 たとえ「軍人」であろうとも。
 国家騎士団員の中から、直属の部下から「ミュウ」が出ようとも。
(…だが、マツカだけは…)
 検査から除外しておかねばな、と「正当な理由」を考えてある。
 マツカが検査を受けさせられたら、「ミュウ」だと発覚してしまうから。
 そうなった時は、「貴重な部下」を失うから。
(…役に立つミュウは、使いこなせる者が使ってこそだ)
 そして用済みになった時には…、と進めた思考を其処で打ち切る。
 「まだ、その時は来ていないからな」と、強引に。
 その時が来れば「考えればいい」。
 とても役立つ、忠実な部下の「マツカ」のことは。
 ミュウは処分すべきだと考えていても、マツカは役に立つのだから。
 役に立つ者は、有能な者が十二分に使いこなしてこそ。
 次の任務ではどう使うべきか、その能力をどう生かすべきかと…。

 

          役に立つ部下・了

※キースがマツカを「生かしている」理由。本当は「役に立つから」だけではない筈で…。
 けれど普段に考える時は「こう」だろうな、というお話。あくまで「役に立つ」というだけ。









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「おい、セルジュ。…アニアン大佐のピアスなんだが」
 どう思う、とパスカルがセルジュに投げ掛けた問い。首都惑星ノアの、国家騎士団専用施設の一角で。下士官のための休憩室とでもいった所で。
「どう思うって…。アレには意味があるんだろう。忌々しいが…」
 右耳ピアスはゲイのアピールらしいからな、とセルジュは顔を顰めた。キースの副官を拝命したのに、側近の座を「マツカ」に持って行かれて久しい。ポッと出の、辺境星域出身の奴に。
 そうなったのも、全てキースの隠れた嗜好が原因らしい。実はアニアン大佐は「ゲイ」で、ジルベスター星域へ飛ぶ前に「マツカ」を見付けた模様。多分、下調べの最中に。
(アニアン大佐ほどの方なら、行く先々で使えそうな人材を調べておくというのも…)
 必須だろうと分かってはいる。任務の実行に適した人材、それを選んで使うというのも成功の秘訣。ましてや単身赴任となったら、「使いやすい部下」を選び出さないと…。
(ロクでもないのを与えられてしまって、思うように動けないことも…)
 起こり得るだけに、キースの事前調査は正しい。
 ただ問題は、其処に「マツカ」がいたことだった。キース好みの美青年と言うか、きっと直球ド真ん中。ひ弱な所がツボだったのか、ルックスも含めて何もかもが…。
(…モロに、アニアン大佐の好みで…)
 もう、行く前から目を付けた「マツカ」。ソレイド軍事基地に着いたら、「アレを貰おう」と。ソレイドの指揮官、マードック大佐は、マツカを冷遇していただけに。
(値打ちが分かっていない上官の下にいるなら、貰えて当然…)
 マードック大佐からすれば「使えない部下」が消えるわけだし、止める理由は何処にも無い。ゆえに「貰える」と踏んでいたのが、マツカを欲しいと考えたらしい、アニアン大佐。当時の階級は、少佐だけれど。
(マツカを、貰って帰るとなったら…)
 同じ趣味の輩に奪われないよう、「私のモノだ」とアピールが必要。
 だからキースは、ジルベスター星域へと出発する前、両耳に赤いピアスをつけた。右耳のピアスはゲイの証で、左耳だとノーマルだとか。
(要するに、大佐はバイというわけで…)
 男も女も、どっちもイケる。そういう主張の両耳ピアスで、セルジュには、これが嬉しくない。側近の座をマツカに奪い去られて、自分には「お呼びも掛からない」のが。


(…マツカの野郎…!)
 よくもアニアン大佐の側近なんかに…、と収まらないのがセルジュの怒り。ゲイの趣味などナッシングでも、惚れ込んでいるのが「アニアン大佐」。
 もしも「お声」が掛かったならば、喜んでお側で仕えるまで。…マツカの代わりに、アニアン大佐の夜のお相手を務めまくって。
(…これでも、勉強しているのにだな…!)
 大佐はマツカにしか興味が無くて…、と口惜しい限り。
 「初めて」はキースに捧げるつもりでいるのだからして、現場なんぞは踏んでいなくても、勉強の方は抜かりない。ゲイな「アダルトもの」を鑑賞、その手の雑誌にも目を通す日々。
 なんどき「お呼び」があったとしても、心の準備は出来ている。それに大佐を「悦ばせる」自信もあるというのに、肝心のキースは、そんなセルジュを「スルー」一択。
(……そうなるのも、仕方ないんだが……)
 俺に魅力があったとしたなら、教官時代にお声掛かりがあった筈、と突き付けられるイヤンな現実。キースが教官をやっていた頃、教え子のセルジュに惹かれるものがあったなら…。
(もう間違いなく、部屋に呼ばれて…)
 今のマツカが立っているポジション、それは「セルジュのもの」だったろう。キースの数ある教え子の中でも、一番に目をかけられて。卒業後には、部下にと望まれて。
(ジルベスターにも、もう直々に…)
 ついて行けたに決まっているから、「魅力が無いのだ」と落ち込むばかり。どんなに優れた仕事が出来ても、キースは其処しか評価をしない。セルジュという人材は、それでおしまい。
 これが「マツカ」なら、コーヒーを淹れるしか能の無いヘタレ野郎でも…。
(何処へ行くにも大佐のお供で、俺なんかよりも信頼されていて…!)
 ゲイは身を助けるというヤツだよな、と沸々と煮えくり返るハラワタ。「ゲイ」ではなくて「芸」だけれども、実際にマツカは、ソレで立身出世なだけに。
(クソッタレが…!)
 ジルベスター星域へと向かうキースに、「ピアスをつけさせた」ほどの人材がマツカ。それまでのキースは「ゲイのアピール」をしていなかったし、きっと必要なかったのだろう。
 「コレだ」と思う相手が無いなら、横から誰かが奪い去ろうと、キースは痛くも痒くもない。ところがマツカは「盗られると困る」。そうならないよう、ピアスでアピール。
 「私のモノに手を出した奴は、端から殺す」と言わんばかりに。


 其処までキースに愛される部下が、ヘタレなマツカ。もはやセルジュの天敵なわけで、キースのピアスも「見たくない」ほど。「アニアン大佐のピアス」すなわち、マツカへの「愛」に見えるくらいで、ムカつくことしかない毎日。
 そんなピアスの話題を振ってきたパスカル。「こいつも大概、無神経だ」と苛立つけれども、あまり露骨に知らないふりも出来ないから…。
「大佐のピアスが、どうだと言うんだ。お前、あのピアスを、外させることが出来るのか?」
 そういうことなら、話を聞いてやらないでもない、と睨み付けた。パスカルは、こう見えて頭が切れる。アニアン大佐の「ゲイのアピール」、あの忌々しいピアスを見ずに済むなら、パスカルの話も聞くだけの価値があるだろう。そう思ったのに…。
「いや、逆だ。…あのピアスには、とてつもない価値がありそうだからな」
「はあ? お前まで、マツカの肩を持つのか?」
 奴に惚れたか、とセルジュは呆れ果てたのだけれど、パスカルは「違う」と首を左右に振り、「俺にその趣味は無い」と言い切った。
「俺は、あくまでノーマルだ。価値があるのは、マツカではなくてピアスの方だ」
「ピアスだと?」
「ああ。…お前、あのピアスが何で出来ているかを知ってるか?」
 赤い石の素材を知っているか、という質問。大真面目な顔で、「赤い石だが」と。
「知らないが…。大佐は何も仰らないからな。…それが、どうかしたか?」
「やはりか…。俺たち軍人は、宝石とは縁がない人種だし…。だが…」
 俺は、興味を持った対象はトコトン調べるわけで、とパスカルは眼鏡を押し上げた。「赤い石についても調べたんだ」と、如何にも聞いて欲しそうに。
「赤い石か…。赤い石は高いものなのか?」
「俺が思った以上にな。あの色合いからして、赤サンゴの線が濃いんだが…」
「サンゴだと!?」
 聞くなり、セルジュは目を剥いた。サンゴと言ったらサンゴ礁だけれど、宝石サンゴとサンゴ礁とが「違う」ことくらい、とても有名な話ではある。ついでに今は「どちらも貴重」で、採集禁止が「お約束」。テラフォーミングされた星の上でも、海は少ない。
「分かったか? アレがサンゴなら、値打ちの方は天井知らずというヤツだ」
 俺たちの一生分の給料を出しても買えないだろう、というのが赤いサンゴのピアス。片方だけでも凄い値段で、一生分の給料くらいでは手も足も出ない、破格のブツ。


(……アニアン大佐……)
 そんなとんでもない金を何処から…、と愕然としたセルジュだけれども、其処までしたのが、キース・アニアンという人物。自分に似合うピアスはコレだ、と凄い値段の赤サンゴ。
「そ、そうだったのか…。大佐のピアスに、そんな値打ちが…」
「うむ。赤サンゴだった場合はそうなる。もう一つの線でも、半端ないんだが」
 そっちも凄い代物だった、とパスカルは思わせぶりな顔。赤い石について調べた結果は、それほどに強烈だったのだろうか。
「…赤い石というのは、高いのか? ルビーくらいしか思い付かないが…」
「そのルビーだ! そっちも、大佐のピアスほどになると凄くてだな…」
 まず色合いがポイントだぞ、とパスカルは指を一本立てた。「あの赤色は血の色だ」と。
「確かにそうだな。その辺が大佐らしいとは思う。…冷徹無比な破壊兵器と評判だから」
 血の色の赤が相応しいだろう、とセルジュも頷くしかないチョイス。癪だけれども、赤い血の色のピアスは「キース」に似合っていた。瞳の色はアイスブルーなのに、青い石よりも赤い石の方が、見ていてゾクリとするほどに。
「血の色のルビー、そいつが高い。俺も調べるまで知らなかったが、最高級品だそうだ」
 ピジョン・ブラッドという名前まである、とパスカルが披露した知識。ピジョン・ブラッドとは「鳩の血の色」、そういう色合いのルビーを指す言葉。
 これがルビーの色では最高、他の色合いとは比較にならない。値段からして桁違いなのが、血の色の赤をしたルビー。
「なるほど…。しかし、ルビーはサンゴよりも安いだろう? 鉱物だからな」
 何処の惑星でも採れるのでは…、とセルジュは訊いた。惑星の性質によるものとはいえ、海が無いと無理なサンゴとは違う。その分、希少価値も下がってくると思うのだが、と。
「甘いぞ、セルジュ。…鉱物の場合、産地が分かるらしくてな…」
「産地?」
「何処の惑星の何処で採れたか、分析可能だという話だ。そしてルビーという石は…」
 三カラットを超えるとレア物になる、とパスカルは言った。キースのピアスは三カラット超えはガチなサイズで、ピジョン・ブラッド。その上、産地が分析可能な代物だけに…。
「地球産のルビーだと、物凄いのか!?」
「物凄いどころの話じゃない。同じ大きさの赤サンゴなどは、まず足元にも及ばんぞ」
 参考価格すらも分からなかった、とパスカルがついた大きな溜息。地球産の血の赤のルビーなんぞは、オークションにさえも出て来ないほどのレア物だから、と。


「…オークションにも出ないだと!? ならば大佐は、アレを何処から…」
「分からん。だが、大佐なら、そういったルートも御存知だろうと思わんか?」
 目的のためなら手段を選ばない人だからな、とパスカルの読みは鋭かった。軍人は宝石と無縁だけれども、「キース・アニアン」がつけるとなったら、自分に似合いの宝石をチョイス。
 どれほど凄い値段だろうが、どんなに入手困難だろうが、そんなことなど些細なこと。なんとしてでも「ソレ」をゲットで、さりげなく身につけるだろう、と言われてみれば…。
「大佐なら、それも有り得るな…。すると支払いは、出世払いか?」
「恐らく、他には無いだろう。出世なさる自信はおありだろうし、売る方もだ…」
 大佐となったら、未払いになることは無い、と踏むだろうな、というのがパスカルの推理。たとえ「べらぼうな値段」であろうと、アニアン大佐が相手だったら「掛け売りオッケー」と、宝石商の方でも考える。一括払いは無理だとしても、出世払いでかまわない、とさえ。
「……アニアン大佐……。マツカのために、それだけの出費を……」
「間違えるな、セルジュ。あれは大佐のアピール用で、マツカの価値とは違うものだぞ」
「馬鹿野郎! マツカをお側に置くための物なら、其処は同じだ!」
 マツカの値打ちは、俺たちの一生分の給料よりも上だったのか…、とセルジュが受けた更なる衝撃。いくらキースのファッションとはいえ、「マツカのために」払った値段が半端ないだけに。
(……それが俺だと、そんな値打ちは全く無くて……)
 お呼びも掛からず、マツカばかりが可愛がられて…、と落ち込むセルジュに、パスカルは気の毒そうな表情で「仕方ないだろう」と言ってくれただけ。
「お前や俺は、アニアン大佐の好みのタイプじゃないんだからな。どうしようもない」
「くっそぉ…! マツカの野郎は、半端ない値打ち物なのに…!」
 赤い石の値段を超える価格を支払わないと、「ちょっと味見」も出来ないんだろう、とセルジュは愚痴ることしか出来ない。
 キースよりも立場が上の上官、それにパルテノンに集う元老たち。彼らが「マツカを貸せ」と言ったら、キースは薄い笑みを浮かべて値段を提示するのだろう。「これだけ支払って頂けるのなら、一晩、お貸し致しますが」と。
「…そうかもしれんな。それもあって、あの石のチョイスかもしれん」
「言わないでくれ…。自分で言ってて、落ち込んで来た…」
 なんでマツカに、そんな値打ちがあると言うんだ、とセルジュの嘆きは深かった。パスカルが余計な好奇心さえ出さなかったら、こんな情けない思いはせずに済んだのに。


 ドツボにはまったセルジュを他所に、他の面子は、パスカルからの話を聞いて「流石は大佐」と手放しで褒めた。ドえらい値段の赤い石のピアス。そいつを「出世払い」でポンと買えてしまう人が、自分たちの上官なんて、と大感激で。
「マツカの野郎の値打ちはともかく、太っ腹なトコが凄いよな!」
「ゲイのアピールをするためだけに、国家予算も真っ青な値段のピアスかよ…!」
 素晴らしい、と褒めて褒めまくるキースの部下たち。それまで以上にキースに心酔、もう何処までもついて行こうという勢い。
 ピアスの正体、それが「サムの血」とは知らないで。
 「ゲイのアピール」ならぬ「友情の証」、其処の所も気付かないままで。
 片方だけでも、国家予算を上回る値段の赤い石のピアス。そいつをサラッとつけこなす男、デキる男が上官だから。たとえゲイでも、デキる男は素晴らしい。
(((アニアン大佐…!)))
 今日もピアスがお似合いです、と最敬礼のキースの部下たち。
 仏頂面のセルジュを除いて、ピシッと、シャキッと。片耳だけでも国家予算を上回るピアス、それをつけている粋な男に。出世払いで買い物が出来る、デキる男のアニアン大佐に…。

 

          ピアスの値打ち・了

※キースのピアスは「サムの血」なんだと知られてないなら、どう思われていたんだろう、と。
 赤い石にも色々あるし、と考えていたら、このネタに。べらぼうに高いらしいです。









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(雨は降らないんだ…)
 それに曇りの日だって無い、と不意にシロエが思ったこと。
 ステーション、E-1077。
 其処の中庭に一人でいた時、目に入ったのが散水機。
 木や花などが植わっているから、決まった時間に撒かれる水。
 乾燥しすぎて、木や花が枯れてしまわないように。
 ごくごく見慣れた風景だけれど、今日は心に引っ掛かった「それ」。
 此処では「雨」は降らないのだ、と。
 宇宙に浮かんだステーションでは、雨などが降る筈もない。
 中庭はあっても空さえも無くて、上を見上げても空の欠片も見付かりはしない。
(…ただの天井…)
 明るさを調節するための照明、そういったものが上にあるだけ。
 雨の代わりに光を降らせて、人工の「昼」を作り出す。
 太陽が無いステーションには、朝も夜も無いものだから。
 放っておいたら漆黒の闇か、いつまでも明るいだけの世界になってしまう中庭。
 それでは心が落ち着かないから、作り出される人工の「昼」。
 銀河標準時間の朝が来たなら、明るくなってゆく照明。
 中庭の木たちを照らし出すために、花壇にも光を与えるために。
(…よく出来てるけど…)
 所詮は偽物、此処に「本物の朝」などは無い。
 太陽が昇って来ることは無いし、けして夜明けが訪れはしない。
 中庭を包むステーションの外は、いつだって「闇」があるばかり。
(朝なんか、来やしないから…)
 ネバーランドに繋がる道さえ、此処から開くことは無い。
 「二つ目の角を右に曲がって、後は朝まで、ずっと真っ直ぐ」。
 ピーターパンの本に書かれた行き方、それが通用しない場所。
 朝が無いなら、二つ目の角を右に曲がっても無駄だから。
 後は朝までずっと真っ直ぐ、そうやって目指す「朝」が無いから。


 そんな場所だと、分かってはいた。
 「ネバーランドにさえ行けない場所だ」と、「ピーターパンだって、来られやしない」と。
 朝も無ければ、ピーターパンやティンカーベルが飛ぶ「空」も無いから。
 故郷とはまるで違う場所だと、「本物の光も、風も無いんだ」と思ってはいた。
 けれど、改めて気付かされたこと。
 このステーションでは、「雨」も降らない。
 空から落ちる雫の代わりに、散水機が撒いてゆくだけの水。
 雨を降らせる雲が湧かないから、曇りの日だって「此処には無い」。
 じきにポツリと落ちる雨粒、それを思わせる湿った風が吹いてゆく日も。
(……雨の前には……)
 あった気がする、「降る」という予感。
 どうやって「それ」を感じただろうか、流れゆく雲を見たのだろうか。
 雨を降らせる雲は「あれだ」と、エネルゲイアの空を仰いで。
 見るからに雨を降らせそうな雲を、「雨雲なのだ」と分かる雲たちを。
(…雨雲は、白い雲と違って…)
 もっと灰色だったように思う。
 その灰色が濃くなるほどに、降って来る雨も強かった。
 雨雲が空に湧いた時には、吹く風も確かに違っていた。
(木がある場所なら、ザアッと風の音がして…)
 湿り気を帯びた風が吹き抜け、その後に雨が降り出したろうか。
 家まで慌てて走る途中に、容赦なく。
 傘を持ってはいないというのに、帰り着くまで待ってくれずに。
(…何度も濡れてしまったけれど…)
 此処よりはマシだ、と思う「雨」。
 急に降られて濡れてしまっても、故郷には「雨」があったから。
 木や花たちの命を育てて、乾いた地面を潤す雨。
 エネルゲイアには高層ビルが多かったけれど、土に触れられる場所だってあった。
 そういった所を濡らした雨。
 機械が水を撒くのではなくて、高い空から降り注いで。


 空も無ければ、雨も降らないステーション。
 故郷とは似ても似つかない場所、暗い宇宙に浮かぶ牢獄。
(…ぼくから、何もかも奪い去って…)
 こんな所に閉じ込めたんだ、と憎いだけの機械。
 水を撒いてゆく散水機を憎みはしないけれども、憎い機械は此処にだってある。
(マザー・イライザ…)
 E-1077を支配しているコンピューター。
 地球にあると聞く、グランド・マザーの手先の機械。
 エネルゲイアで「記憶を奪った」、テラズ・ナンバー・ファイブの仲間。
 成人検査を「やった」機械と、その後の「自分」を支配する機械。
 どちらの立場が上になるのか、まだ教わってはいないけれども…。
(…マザー・イライザより、テラズ・ナンバー・ファイブの方が…)
 きっと上位に位置するのだろう。
 小さなステーションとは違って、「惑星」を支配していただけに。
 故郷の星のアルテメシアを、あそこにあった二つの育英都市を。
(大勢の子供の記憶を奪って、教育ステーションに振り分けて…)
 いったい何人の子供を泣かせただろうか、あの忌まわしいテラズ・ナンバー・ファイブは。
 今も故郷にある筈の機械、「シロエの過去」を奪ったモノは。
(…他の候補生たちは、少しも気にしていないけど…)
 故郷や両親の記憶のことなど、何とも思っていないけれども。
 それがどうやら「普通」らしいけれど、きっと中には…。
(ぼくみたいな子も、何人かいて…)
 薄れた記憶に苦しみながら、今ももがいているかもしれない。
 E-1077とは違う何処かで、他の教育ステーションで。
(…あの機械さえ無かったら…)
 成人検査さえ無かったのなら、今だって何も忘れてはいない。
 両親の顔も、懐かしい故郷の風も光も、此処にいてさえ鮮やかに思い出せたろう。
 空さえも無くて、雨が降ることも無い所でも。
 いつでも「それ」を思い出せたら、ただ懐かしさだけがあっただろうに。


 けれども、思い出せない過去。
 何の手掛かりも得られないまま、この牢獄で苦しむだけ。
 消された過去には「鍵」も無いから、その「鍵」で過去への扉は開いてくれないから。
(…ママの顔だって、マザー・イライザに似てる筈なのに…)
 マザー・イライザを目にした時には、ただ噴き上がるだけの憎しみ。
 懐かしい母を真似る機械を、許す気などにはなれなくて。
 激しい憎しみが先に立つから、まるで手掛かりにはならない「姿」。
(…もっと違う形で、ママやパパの…)
 記憶を引き出す「鍵」があったら、と何度思ったことだろう。
 ピーターパンの本が鍵ではないかと、ページをめくり続ける日々。
 ページの何処かに「鍵」が隠れていはしないかと、文字も挿絵も、隅から隅まで眺め続けて。
(でも、鍵なんか…)
 ありやしない、と溜息をついて、中庭を後にしようとして。
 「雨さえ降らない場所」にクルリと背を向けかけて…。
(……雨……?)
 さっき考えていた、雨の兆候。
 降り出す前には雲が湧くとか、湿った風が吹いてゆくとか。
 それは間違いなく「過去」の記憶で、子供時代に「故郷で」得たもの。
 此処には「雨」は無いのだから。
 雨雲が湧き出す空さえも無くて、本物の風さえ吹き抜けはしない。
(…あれは本物の雨の記憶で…)
 エネルゲイアで「セキ・レイ・シロエ」が「見ていた」もの。
 その耳で聞いた風の音やら、肌で感じた湿り気やら。
(降り始める前に、帰らなくちゃ、って…)
 慌てた記憶も、きっと機械が与えた「偽物の記憶」などではない。
 これから先に生きてゆく場所で、「雨」の記憶は「要る」だろうから。
 E-1077に雨は降らなくても、惑星にゆけば雨は降るもの。
 地球であろうと、首都惑星のノアであろうと。


(だとしたら…)
 鍵になるのは「雨」だろうか、と急いで走って帰った個室。
 故郷で雨に打たれた記憶を辿って行ったら、思い出せるかもしれない「何か」。
(パパやママと一緒に出掛けた場所で…)
 急に降られて、雨宿りのために走っただとか。
 あるいは学校からの帰りに、ずぶ濡れになって家に辿り着いたら…。
(…ママがタオルを出してくれたとか、ホットミルクを作ってくれたとか…)
 もしかしたら、と高鳴る鼓動。
 いつも食堂で頼むことにしている、マヌカ多めのシナモンミルク。
 あれを「故郷で」飲んだ時の記憶、それが戻るかもしれないと。
 「まあ、大変!」と、タオルを手にして駆けて来る母の、心配そうな顔だって。
(…雨の記憶を引き出すんなら…)
 きっと、シャワーを浴びればいい。
 冷水のままでコックを捻って、服も着たままで。
 ただザアザアと打たれていたなら、「何か」を思い出すかもしれない。
 「こんな日だった」と、雨が降る日を。
 エネルゲイアに雨が降っていた日を、それに纏わる「消された」記憶を。
(……こうすれば……)
 きっと、とバスルームで捻ったシャワーのコック。
 制服のままで冷たい水に打たれて、故郷に思いを馳せるけれども…。
(…こんな所まで…)
 機械は徹底して消したのか、と水と一緒に流れ落ちる涙。
 雨の記憶で戻って来るのは、どれも「知識」か、「友達のこと」ばかりだったから。
 これから先も生きてゆくためには、「必要」なモノ。
 他の記憶は「どれも」ぼやけて、何も残っていなかった。
 懐かしい両親も、帰りたい家も、「雨」と繋がってはいなかった。
 きっと雨の日も、両親は其処にいたろうに。懐かしい家も、あっただろうに。
 思い出せないから、冷たい水を浴び続けながら泣くしかない。
 「ぼくは全てを失くしたんだ」と、「雨さえも、今じゃ知識でしかない」と…。

 

          雨が無い場所・了

※故郷の風も光も「忘れた」とシロエは言ってましたけど、それだと後々、困るのでは、と。
 基本になる記憶は「消去しない」筈で、それなら雨の記憶もありそう、というお話。









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「殺しちゃおっか」
 この船、乗っ取っちゃおう、とナスカの子たちが始めた相談。巨大なシャングリラの一角で。
 他のミュウたちから「化け物」呼ばわり、それが気に入らない子供たち。
 今や人類軍にも恐れられている戦闘機だって、「彼ら」しか乗りこなすことは出来ない。虚弱なミュウはGに耐えられなくて、どうにもこうにもならないだけに。
 それなのに、露骨に叩かれる陰口。もはや陰口とも言えないレベルで、「また育った」とか、「あの化け物が」だとか、視線まで向けてヒソヒソと。
 そういう日ばかり続くからして、「殺しちゃおっか」という話になった。このシャングリラに我が物顔で乗っている「使えない」ミュウたち。彼らを一掃、自分たちだけの船にしようと。
 トォニィが崇めるジョミーにしたって、その実態は「へなちょこジョミー」で、きっと敵ではないだろうから。
「ねえねえ、何処から制圧する?」
「ブリッジを狙えば一発だろうと思うけどさ…」
 今日も盛り上がる物騒な相談、ところがどっこい、聞いていた者が一人いた。
(……なんて恐ろしい相談を……!)
 後でソルジャーに御注進だ、と壁の向こうでガクガクブルブル。彼は、メンテナンス用の通路を使って移動中だった。いつもの定期点検のために。
 たまたま「ナスカの子たち」がいる部屋の側を通ったわけで、「殺しちゃおっか」という聞き捨てならない言葉で耳をそばだてた。「殺すって、誰をだ?」と。
 てっきり「人類」だと思っていたのに、「殺す」相手は船のミュウたち。それも皆殺しで、ソルジャー・シンまで殺すつもりの相談だから…。
(……立ち聞きがバレたら、俺の命も……)
 この場で消える、と腰が抜けそうになっているのを「こらえて」逃げた。ありったけのサイオンを使って気配を殺して、「三十六計逃げるに如かず」と一目散に。


 そうやって、無事に逃げおおせた彼。
 メンテナンスの仕事は他の仲間にバトンタッチで、大慌てで駆けて行った青の間。ソルジャーは長老たちと会議で、其処にいる筈だと聞かされたから。
「そ、ソルジャー! 大変です!」
 大変なことになっております、と彼は青の間に飛び込んで行った。入室許可を得るのも忘れて、それこそ転げ込むかのように。
「なんだ、どうした?」
 ジョミーは即座に振り向いたけれど、同時にエラが叱り飛ばした。
「無礼でしょう! 今は会議中で、許可の無い者は入室不可なのですよ!?」
「それどころではありません! もう、この船の一大事で!」
 放っておいたら、きっと取り返しがつきません、と「彼」は必死の形相。流石に「おかしい」と感じたものか、ハーレイが先を促した。
「何事だ? お前は機関部の者ではないが…」
 エンジントラブルでも発生したか、とキャプテンは冷静なのだけれども。
「いえ、エンジンなら、まだマシな方で…! ソルジャー、革命でございます!」
「「「革命?」」」
 なんのこっちゃ、とソルジャー・シンも、長老たちも、目が真ん丸。革命と言われてもピンと来ないし、第一、何を革命するのか。
「…革命だって? 人類の世界で起こったのか?」
 誰かが反旗を翻したか、と尋ねたジョミー。まあ、普通だったら、そうなるだろう。ただでも機械に押さえ付けられたSD体制、反乱軍だの、海賊だのもいたりするから。
「そ、それが、人類の世界ではなくて…! 革命の舞台はシャングリラです!」
「なんだって!?」
 何故、そうなる…、というジョミーの問いに、「彼」は震えながらも一部始終を話した。革命を企てているのは、ナスカの子たち。船のミュウもソルジャー・シンも殺して、乗っ取る気だ、と青ざめた顔で。
「壁の向こうで話しているのを聞いたんです! 殺しちゃおっか、と…!」
 あの連中は本気ですよ、と「彼」の震えは止まらない。ナスカの子たちは、本当に力が半端ないだけに、「シャングリラの乗っ取り」は充分、可能な展開なのだから。


「革命じゃと…?」
 若造どもが、とゼルが自慢の髭を引っ張ったけれど、彼の顔色も優れない。「殺しちゃおっか」がマジネタだったら、ゼルも間違いなく殺される。
「…どっちかと言えば、クーデターだと思うけどねえ?」
 ブラウがツッコミを入れてはみても、状況は何も変わりはしない。革命だろうが、クーデターだろうが、「皆殺し」になる結末は同じ。たとえ始まりは「テロ」だったとしても。
 ジョミーは震えまくっている「御注進に来た仲間」に、もう一度、ナスカの子たちの「相談」の件を確認してから、「思念で頼む」と注文をつけた。思念だったら、何もかもが瞬時に伝わるわけだし、長老たちにも「彼が聞いたこと」がキッチリ伝達される。
 けれども、思念で「聞いた」結果は、「殺しちゃおっか」で、皆殺しのフラグ。
「…どうやら本気で言ってるようだな…。ありがとう、君は下がっていい」
 後は、ぼくたちが対応する、とジョミーは「彼」に退室許可を出し、見送ってから、長老たちの方を振り返った。「どう思う?」と緑の瞳で見詰めて。
「どうもこうもないわい! 革命もクーデターも、論外じゃて!」
 あんなガキどもにやられてたまるか、とゼルが怒鳴っても、まるで無いのが説得力。ゼルはもちろん、長老たちが束になっても、ナスカの子たちには敵わない。シャングリラ中のミュウたちが一丸となって立ち向かおうとも、歯が立たないのが「ナスカの子たち」。
「ソルジャー、このままでは殲滅されてしまうのでは?」
 もう明日にでも、とハーレイが眉間の皺を深くする。なにしろ相手は子供なだけに、「思い立ったが吉日」とばかりに行動に移すことだろう。
「…分かっている。だが、この船にタイプ・ブルーは、彼らの他には、ぼくしかいない」
 分が悪すぎる、とジョミーの顔も沈痛だった。
 「ジョミー命」のトォニィが味方してくれたとしても、二対六。多勢に無勢で、勝算なんぞは無いに等しい。挑んでみたって、まず勝てはしない。
「で、では…。殺されるのを待つしかないのですか!?」
 エラが悲痛な叫びを上げたけれども、それ以外に道は無さそうな感じ。ナスカの子たちが、本気で革命だのテロだの、クーデターだのを起こした時には、「皆殺し」エンド。
 船の仲間は全員殺され、シャングリラは「彼ら」のものになる。ナスカの子たちだけの船で、言わば彼らのパラダイス。何処へなりとも、気の向くままに旅をして行って。


 エライことになった、と青の間に降りる重い沈黙。
 革命が起こるのは明日になるのか、今日にでも何処かでドカンと爆発があって、クーデターだかテロが始まり、アッと言う間に船中が制圧されるのか。
「くそっ…! この船を今日まで、誰が守って来たと思っているのだ、奴らは…!」
 私の指揮が無ければ、とっくに宇宙の藻屑だったかもしれないものを…、と怒るキャプテン。その隣では、ヒルマンも深い溜息をついていた。
「私は教育を間違えたようだ…。恩知らずな子たちに育てた覚えは無いのだが…」
「ちょいと、アンタが教えてない子も混じってるだろ?」
 ツェーレンなんかは赤ん坊だったじゃないか、とブラウが混ぜっ返したけれども、だからと言って解決策など何も無い。ナスカの子たちが「やろう」と決めたら、問答無用で殺されて終わり。
「……ぼくに、もう少し力があれば……」
 それにブルーが生きていれば…、とジョミーが「補聴器の中の記憶」を探ってみても、いいアイデアは何も無かった。ソルジャー・ブルーの時代は至って安泰、革命もクーデターも「まるで起こりはしなかった」だけに。
(……ソルジャー・ブルー……。ぼくは、どうしたら…?)
 このままでは船がおしまいです、と嘆くジョミーが、ふと思い出したこと。それはブルーの記憶ではなくて、アタラクシアで学校に通っていた頃のこと。
(宿題、反対、って…)
 皆で授業をボイコットした。教室を抜け出し、あちこちに散って。
(…先生が教室に来ても、誰もいなくて…)
 前のボードに「宿題、反対!」の文字が躍っていた筈。「宿題を出さないと約束するなら、皆で授業に戻ります」などと。
(…後でメチャクチャ叱られたけど…)
 もちろん宿題は「増量されて」しまったけれども、もしかしたら、あの手が有効かもしれない。
 シャングリラを制圧しようと企てる、ナスカの子たちを黙らせるには。
 二千人ものミュウの仲間を乗せた箱舟、シャングリラの「デカさ」は桁外れだけに…。
(…あの子たちだけで維持するなんて…)
 絶対に無理だ、と確信できる。「ソルジャーの称号」を賭けてみたって、少しも困らない勢いでもって。「絶対に、無理!」と。
 ゆえに早速、提案した。キャプテンと、四人の長老たちに。「この手でどうだ?」と。


「な、なんと…。ボイコットだと仰るか…!」
 このシャングリラ中でストライキじゃと、と目を剥いたゼル。他の面子も唖然としている。
「そうだ、ボイコットでストライキだ! それ以外に無い!」
 船の仲間たちの有難味を分かって貰うためには、とジョミーはブチ上げた。
 早い話が、シャングリラ中で「あらゆる業務」を皆が放棄し、ボイコットする。ストライキという言い方でもいい。
 ナスカの子たちも利用する施設、ありとあらゆる設備を「放り出す」のが、「皆の重み」をナスカの子たちに思い知らせる絶好のチャンスになるだろう、と。
「で、では…。具体的には、どのように?」
 キャプテンの問いに、ジョミーはニヤリと笑って答えた。
「そうだな…。手始めに、あの子たちの溜まり場を放置でいいだろう」
 一切、掃除をさせるんじゃない、と命じたジョミー。埃が溜まろうが、ゴミ箱からゴミが溢れ出そうが、「誰も、何もする必要は無い」と浮かべてみせた不敵な笑み。
 ナスカの子たちは、とある部屋を溜まり場にしているけれども、その部屋を「徹底的に放置しておけ」というのがソルジャーの指示。
「掃除をさせないということですか…」
 エラがポカンとして、ブラウは「ヒュウ!」と口笛を吹いた。
「それじゃアレかい、あそこのトイレも放置なのかい?」
「当然だ! それは基本中の基本だろう!」
 トイレットペーパーの補充にしたって必要ない、とジョミーは突き放した。ナスカの子たちは瞬間移動が得意技だし、「入ってから紙が無かった」としても…。
「ふうむ…。何処かのトイレから取り寄せればいい、と言うのだね?」
 ヒルマンが思わず漏らした笑い。「確かに、何とかなるだろう」と。
「ああ、紙くらいは何とでもなる。しかし、掃除の係はいない」
 そして彼らは「まだ子供だ」と、ジョミーは唇の端を吊り上げる。「お世辞にも、トイレを綺麗に使えるスキルを、持っているとは思えないな」と、見て来たかのように。
「う、うぬぬ…。そういえば、ハーレイ、あそこのトイレの掃除の回数は…」
 どうじゃったかな、とゼルが首を捻ると、キャプテンの方は即答だった。
「モノが子供用トイレなだけに、他のトイレよりも遥かに多い。一時間に一度の見回りだ」
 汚れていたら、即、掃除だな、と腕組みをするハーレイ。「それを放置か…」と頭を振って。


 ナスカの子たちの溜まり場の掃除をボイコット。それが手始め、部屋に備え付けの飲料や食べ物の補充も「やめる」。
 飢えた彼らが食堂に来ても、係の行動は「スルー」一択。他の仲間たちには「へい、お待ち!」とばかりに飲み物や食事を提供したって、革命分子だかテロリストだかには、何も出さない。
「なるほどねえ…。そいつは効くかもしれないねえ」
 こう、ジワジワと精神的に来そうじゃないか、とブラウが賛成、他の面々も異を唱えなかった。このシャングリラを纏めるキャプテンでさえも。
「ソルジャー、そのご意見に賛成させて頂きます。ところで、彼らの専用機は…」
 整備を如何致しましょうか、とハーレイが訊いて、ジョミーは「放置だ!」と言い放った。
「ヤエにキッチリ言っておけ。今日からストライキに入るようにと」
 彼ら無しでも、このぼくだけで戦える、とジョミーが握り締めた拳。シャングリラの仲間を皆殺しにされるくらいだったら、「彼らの分まで一人でやる!」と固い決意で。
「手厳しいのう…。存在意義まで否定してかかるというんじゃな?」
 じゃが、そのくらいで丁度いいかもしれん、とゼルも「専用機にはノータッチ」と決めた。ヤエが駄目なら「頼られそうな」面子がゼルだけれども、「一切、何もしてやらんわい!」と。
 他にも着々と進む相談、ナスカの子たちの個室の掃除も「放置」となった。彼らが毎日着ている制服、それも下着も「誰も洗濯してやらない」。
 洗濯するのは機械だとはいえ、係以外は持たないスキル。どういった衣類を何処に入れれば、きちんと洗い上がるのか。乾燥させる時間にしたって、「普通の制服」なら自動だけれど…。
「君たちも知っているだろう? トォニィたちの制服は、普通じゃない」
 特別製のアレを洗うには、専門の係がいないと駄目だ、とジョミーは容赦なかった。
 ナスカの子たちへの「ありとあらゆるサービス」、それの提供を「本日付でストップする」と、その場で決定、直ちに通達。「いいか、ストライキでボイコットだ!」と。


 かくして「放置プレイ」が決まった、ナスカの子たち。
 それの効果は、その日の内に早くも現れた。溜まり場でトイレに出掛けたコブの、「紙が入っていない!」という思念で。…タージオンが「紙だって!?」と、他のトイレから瞬間移動で取り寄せたりして、皆が「おかしいなあ…?」と首を傾げて。
 トイレ掃除の係が来ないから、どんどん悪くなってゆくトイレの雰囲気。それじゃ、と気分直しにジュースを飲もうとしたら、スカッと底を尽いたサーバー。
「「「うーん…」」」
 食堂でいいか、と出掛けた「彼ら」を待っていたのは、「無視」だった。まるで存在しないかのように、彼らをスルーで進む注文。他の連中の分ばかりが。
 そうこうする内に響いた警戒警報、専用機で発進しようとしたのに…。
「「「これじゃ、出られない…!」」」
 頼みの機体は全て燃料切れ、補給方法さえ「分からない」始末。普段は、係に任せていたから。その係はヤエと立ち話中で、知らんぷりして楽しげで…。
 ナスカの子たちがパニクる間に、「敵機、全機、撃墜しました!」と艦内放送。飛び出して行ったソルジャー・シンと、サイオン・キャノンで片が付いたらしく…。
「…ぶっちゃけ、あの子たちがいなくても、何とかなるってことよね」
 ヤエの眼鏡がキランと光って、格納庫の係が相槌を打った。
「そういうことだな。あいつらの場合は、俺たちがいないと困るようだけどよ…」
 あの制服を洗う係も持ち場を離れたらしいぜ、と声高な噂。今日から、ナスカの子たちの世話係は一人もいなくなったらしい、と。
「…と、トォニィ…。これって、私たちだけで何とかしろってことなの!?」
 そんなの無理よ、とアルテラが絶叫、他の子たちも真っ青だった。このシャングリラの仲間を全て殺してしまって、船を乗っ取ったとしても…。
(((世話係が一人も残っていなくて、全部、自分たちでやるしかなくて…)))
 この馬鹿デカイ船の奴隷ですかい! と思い知らされ、彼らは心を入れ替えた。船を乗っ取って「働く羽目になる」より、今の方が「かなり良さげ」だから。
 何もかも「自分たちでやる」より、「お世話係が満載の船」の方が何かとお得だから…。

 

            革命を防げ・了

※いや、「殺しちゃおっか」と簡単に言ってくれたのが、ナスカ・チルドレンですけど。
 あんな馬鹿デカイ船を、たった七人でどうするつもりだったんだよ、というツッコミです。









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(…思った以上に、数は多いというわけか…)
 ミュウ因子の保持者というモノは…、とキースが心でついた溜息。
 旗艦ゼウスの指揮官室で、ただ一人きりで。
 ミュウの艦隊を迎え撃つべく、ソル太陽系に展開させた人類軍の船。
 かつてない規模の艦隊だけれど、果たしてミュウに勝てるのかどうか。
 首都惑星のノアを放棄してまで、捨て身の戦法に出てはみたものの…。
(…人質まで使うことになるとはな…)
 ジュピター上空にある、ミュウの強制収容所。
 コルディッツの名で呼ばれる「それ」。
 ノアへの入国審査などで「発覚した」ミュウ因子の保持者たち。
 彼らを送る施設といえども、今は「それだけではない」、其処に収容された者。
(……ジャンもあそこに……)
 送ったからな、と忠実だった部下を思い浮かべる。
 パスカルよりも大柄なジャンは、優秀な国家騎士団員の一人でもあった。
 「国家騎士団総司令」に対する数々の暗殺計画、それに関わった人物の処理を任せたほどに。
 パスカルと組ませて、レベル10の心理探査の実施に当たらせたり、といった具合に。
 けれど、そのジャンは「もういない」。
 念のためにと、ソル太陽系に布陣する前に、下士官たちに行った検査。
 ミュウ因子を保持しているのか、否か。
 引っかかる者など、いない筈だと思っていたのに…。
(…ジャンと、マードック大佐の部下が数人と…)
 他にも何人もの「軍人たち」が、「ミュウ因子の保持者」と判明した。
 彼らの行先は、一つしかない。
 ミュウ因子を持っているというなら、「処分される」か、強制収容所に「送られる」か。
 ジュピター上空のコルディッツに行くか、その場で撃ち殺される以外に道はない。
 彼らを閉じ込めてある「コルディッツ」さえも、駒に使うことになるミュウとの戦い。
 ミュウの艦隊が地球を目指すのであれば、コルディッツをジュピターに落下させる。
 そういう脅しで、ミュウ因子の保持者は格好の人質。
 ソルジャー・シンが「どう出てくる」かは、ともかくとして。


 ミュウの艦隊を指揮するソルジャー。
 かつて出会った、ジョミー・マーキス・シン。
 ジルベスター・セブンで会った頃の彼は、「まだまだ甘い」人間だった。
(…甘すぎるとまで思ったものだが…)
 あれでは、とても人類軍とは戦えまい、と思ったほどに。
 捕えた「キース」に尋問はしても、「それ以上」は考え付かなかったらしい。
 拷問はおろか、人質に取って有効活用することさえも。
(…もっとも、たかがメンバーズの一人くらいを…)
 人質にしても、結果は知れていただろう。
 他に「いくらでも代わりはいる」から、メギドの炎は容赦なく彼らを滅ぼした筈。
 彼らが「キース」を盾に取っても、他の誰かが指揮官になって、「キースごと」。
(…マードック大佐にでも、可能だったろうな…)
 艦隊の指揮権を彼に任せて、「キースごと撃て」と命令したなら、実行された。
 グランド・マザーが「それ」を望むなら、メギドが直接、送られて来て。
 「代わりのメンバーズ」は着任しなくても、ソレイドの最高責任者として、指揮すればいい。
 目標はジルベスター・セブン、とだけ決めて。
 「キースごと」滅ぼすことになっても、モビー・ディックも、あの赤い星も撃って。
(…グランド・マザーが、どう出たのかは分からないがな…)
 ジルベスターの頃には、自分でも「全く知らなかった」生まれ。
 人類の指導者となるべく、「無から作られた」生命体。
 それが「キース」なら、グランド・マザーが「惜しんだ」可能性もある。
 代わりになれる者は「誰もいない」だけに、モビー・ディックごと撃てはしなくて。
(…ジョミーが、私を人質に取れば…)
 時間稼ぎは出来たのかもしれない。
 あるいは「無傷で」、ジルベスター星系を後にすることも。
 そういう選択肢もあったというのに、「甘かった」ジョミー。
 「対話」にこだわり、チャンスを逸した。
 挙句に、おめおめと「キース」を逃がしてしまって、ジルベスター・セブンを失ったほど。
 指導者としては、まだ本当に甘かったのに…。


 今のジョミーは「そうではない」。
 同じ人間なのかと思うくらいに、「ソルジャー・シン」は変貌を遂げた。
(…冷徹無比な破壊兵器か…)
 それは私の渾名だったが、と皮肉な笑みすら浮かべたくなる。
 今では「ジョミーが」そうだから。
 かつての「キース」を上回るほどの、誰もが恐れるミュウの指導者。
 降伏を告げた人類軍の救命艇さえ、容赦なく爆破してゆく男。
 いくら「キース」でも、それは「やらない」し、「やってはいない」。
(……ミュウが相手なら、そうするのだがな……)
 同じ人類が相手だった時は、降伏したなら、その命までは奪っていない。
 「冷徹無比な破壊兵器」でも、「守らなければならないこと」は存在する。
 軍規だの、他にも色々と。
 降伏した者まで殺していたなら、今、この地位に立ってはいない。
 けれど、相手がミュウであったら、話は違う。
 彼らは「処分すべき存在」、あのコルディッツに集めた輩を人質に使っているように。
 ミュウの艦隊が強引に進んで来るというなら、ジュピターに落として命を奪う。
 その作戦でゆくのだけれども、問題は「ジョミー・マーキス・シン」。
 彼が本当に「血も涙もない」指導者として立っているなら、人質などは…。
(…きっと、意味さえ無いのだろうな…)
 ソル太陽系を、地球を目指すためなら、同胞の命も無視してかかる。
 モビー・ディックを地球へ向かわせるために。
 「コルディッツを落下させる」と脅しをかけても、聞く耳さえも持たないままで。
 ただ真っすぐに「地球を目指して」、ミュウの艦隊は進んで来るだけ。
 彼らの目の前で、コルディッツがジュピターに落下しようと。
 収容されたミュウの命が、其処で潰えてゆこうとも。
(…さて、どう出る…?)
 分からないが…、と「まるで読めない」ジョミーの動き。
 「甘かった」頃のジョミーだったら、これで「効果がある」のだろうに。
 人質を前にして慌てふためき、ミュウの進軍は止まるだろうに。


 そうならないかもしれない「今」。
 ソルジャー・シンは進軍を続け、コルディッツは「無駄になる」ことも起こり得る。
 ただジュピターに落下するだけで、収容者たちが「死んでゆく」だけで。
 あそこに送られたジャンや、マードック大佐の部下たちの命が奪われるだけで。
(…そうなれば、ジャンは無駄死にか…)
 ミュウ因子さえ持っていなければ、今も活躍していたろうに。
 これから先のミュウとの戦い、其処でも大いに役立ったろうに。
 それを思うと「惜しい」し、「無駄死に」だとさえ考えてしまう。
 ジャンが「ミュウ因子の保持者」だったからには、「ミュウと同じ」なのに。
 戦い、倒すべき「敵」だというのに、彼を「無駄死に」だと思うなどとは…。
(……私も甘くなったものだな……)
 かつてのジョミーを笑えはしない、と冷めたコーヒーのカップを傾ける。
 「ミュウ因子の保持者だった部下」の命を惜しむとは…、と。
 コクリと飲んだコーヒーの味で、ハッタと思い出したこと。
 このコーヒーを淹れた「マツカ」はどうだったのか。
 ジルベスター以来の側近のマツカ、彼こそ生粋のミュウだと言える。
 ミュウ因子の保持者などとは違って、とうに覚醒しているミュウ。
 それを承知で側近に据えて、ミュウ因子の有無を調べる検査を実施した時も…。
(…マツカに受けさせれば、確実にミュウだと分かるのだから…)
 検査の前に「必要ない」と外しておいた。
 「キース」自身が受けていないように、「検査を受けなかった者たち」はいる。
 主に上級士官だけれども、下士官たちでも、検査実施時に特段の事情があった者たち。
 任務に忙殺されていた者や、他にも様々な理由などで。
 マツカの場合も、それに含まれる。
(…国家主席の身の回りの世話で忙しい、と…)
 理由をつけて、リストの中から外させた。
 そうして「マツカ」は、今も「此処にいる」。
 コルディッツには行かずに、旗艦ゼウスに国家主席の側近として。
 誰よりも「キース」の側近く仕え、誰にも「ミュウなのでは」などと疑われはせずに。


(……そのマツカをだ……)
 いつか「戦いが終わった時」には、どうするのか。
 ミュウとの戦いに有利だからと、「生かしている」筈の「ミュウのマツカ」を。
 人類がミュウに勝利したなら、ミュウは悉く滅ぼされるけれど…。
(…マツカを処分するというのは…)
 出来はしまいな、という気がする。
 「ミュウだ」と誰にも気付かれなければ、処分の必要は「ない」のだから。
 今と同じに側近のままで、マツカを「生かしておく」ことが出来る。
 その選択をするのだろうと、自分でもとうに分かっている。
(……ジャンは無駄死にになる、と思ってみたり……)
 マツカを「処分しないで」生かしておこうと考えていたり、「自分」は何処まで甘いのか。
 きっと今なら、「ジョミー」の方が「冷たい」のだろう。
 コルディッツをさえ見捨てかねない、冷徹なミュウの指導者の方が。
(…あいつよりも、私が甘いとはな…)
 いつの間に逆転したのやら…、と思いはしても、この生き方で後悔は無い。
 「マツカまで殺す」ようになったら、きっと「キース」は終わりだから。
 指導者としては「それで良くても」、「人として」は、きっと「おしまい」だから…。

 

            甘くなった自分・了

※アニテラのキースは、ミュウとの戦いに勝利した後は、マツカも処分だと言いましたけど。
 どう見てみたって「口だけ」なわけで、こういう話になったオチ。人間味があるキース。









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