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船と炎上

「やってられるかーっ!!!」
 こんな訓練、とブチ切れたジョミー。
 ソルジャー候補に据えられてからの「日課」で、言わば「お約束」。長老たちのシゴキにキレたら、即、ブチ切れ。講義の内容がウザかった時も。
 でもって、キレた瞬間に…。
『またジョミーかよ…』
『ったく、自覚もクソもねえよな…』
 本当にソルジャー候補なのかよ、とシャングリラ中で囁き交わされる思念。「今のを見たか?」だとか、「お前、聞いたか?」などと。
『ヒデエよなあ…。あいつの頭の中身は』
『何がサボリだよ、サボッてられる御身分か、ってえの!』
 未だに上手く遮蔽が出来ない、「ミュウとも思えぬ」ソルジャー候補。キレたはずみに、船中にバラ撒く自分の思考。「サボリたい」なら、まだマシな方で…。
『ママの料理の方が美味かった、だあ!? この船を馬鹿にしやがって!』
『シャングリラの食堂をコケにするのも、アレだけどよ…』
 マザコンじゃねえの、と誰かが漏らした思念。「何かってえと、ママ、ママ、なんだよ」と。
『あー、マザコン! そういや、船を飛び出して行った時にも…』
『家に帰せってぬかしたんだろ、ママの所に帰りたくってよ…』
 そうか、あいつはマザコン野郎なのか、と一気に纏まった雑多な思念。「ジョミーはマザコンに違いない」という方向で。
 そう決まったなら、なにしろミュウの船だけに…。
『アレも、コレも、こういうのもマザコン…』
『そう言えば、ああいう話もあって…。マザコンなら納得いくよな、うん!』
 船のあちこちで「マザコン談義」で、ブワッと膨れ上がるのが「ジョミーのマザコン疑惑について」語り合う思念。
 これが二十一世紀初頭の日本だったら、「炎上」と言われたことだろう。思念は派手に飛び火しまくり、大勢のミュウを巻き込みまくりで広がってゆく。
 今日は「ジョミーのマザコン」について。昨日だったら、「サボリ根性について」。


 そのシャングリラの心臓とも言える、コアブリッジ。
 公園の上に浮かんでいるようにも見えるブリッジ、それの中枢になる円形の部分。
 其処にドッシリ座ったキャプテン、彼に向かって報告が飛んだ。
「キャプテン! 今日も思念が異常に膨れ上がっています!」
「どうした、原因は何なのだ! またジョミーか!?」
「はい! ジョミーのマザコン疑惑について、凄いスピードとエネルギーで…」
 皆の思念が駆け巡っています、とブリッジクルーが言うものだから、ハーレイは「またか…」と頭を抱えた。「これでは、思念の無駄遣いだ」と。
(……まったく……)
 計器で計測できるくらいの「思念の膨張」。そのエネルギーは、半端ではない。モノが「つまらない」中身でなければ、どれほどのパワーを発揮することか。
(…防御セクションに回してやったら、ステルスモードの維持は楽勝で…)
 サイオン・シールドにしても、素晴らしい出力を保持することだろう。ジョミーの爆発騒ぎの時と同じに、バンカー爆弾でガンガン攻撃されたって…。
(このシャングリラは、ビクともしないぞ!)
 サイオン・キャノンも、斉射何連ブチかませることか。今の船だと、せいぜい三連。
 けれども、異常なまでに膨れ上がって「広がりまくる」思念を転用出来たなら…。
(斉射六連は軽くいけそうで…)
 なおかつ、ステルスモードも、サイオン・シールドも、フルパワーで運用可能と見た。それほどの皆の「思念の統一」、キャプテンの目で見れば、なんとも惜しい。
(…これが下らん思考でなければ…)
 使えるものを、と思ってみたって、「くだらない」思考だからこそ、纏まるパワー。
 命令したのでは、こうはいかない。ジョミーが爆発した時の騒ぎ、あれで充分に学習済み。
(防御セクションは集中を切らすな、と怒鳴ってもだな…!)
 返って来た答えは、「皆、動揺しています! とても思考が纏まりません!」という、実に情けないモノだった。
(爆撃されて、パニックだったら…)
 助かりたいと思う思考を纏めんかい! と怒るだけ無駄。ミュウは繊細な生き物だけに、タフには出来ていないもの。たとえ命の危機であっても、パニクったら終わり。


(……ったく、あの時はサッパリだったくせに……)
 どうして、こんな所で無駄にパワーを使うのだ、とキャプテン・ハーレイの苦悩は尽きない。たかがジョミーの「くだらない思考」、それをネタにして盛り上がれるのなら…。
(…ミュウの未来というヤツをだな…!)
 もっと、しっかり考えんかい! と今日も眉間に皺を寄せつつ、「少し外す」と立ち上がった。そろそろ青の間に行かねばならない。寝込んだままのソルジャー・ブルーに、報告をしに。
(…ソルジャー・ブルーが、今のようになってしまわれたのも…)
 ジョミーのせいというヤツで…、とハーレイは心で愚痴りながら船内を歩いてゆく。ジョミーは無駄なエネルギーばかり「使わせる」馬鹿で、どうにもならない、と。
(せめて、ソルジャー候補らしく、だ…)
 ブチ切れるのをやめて、大人しく訓練に励んでくれれば…、と青の間に足を踏み入れ、スロープを上がって、「ソルジャー」と声を掛けた。ベッドの上にいる人に。
「本日の報告に参りました。…特に変わりはございません」
「分かっている。だが、今日もジョミーは噂の的だな」
 ゆっくりと開いた、ソルジャー・ブルーの赤い瞳が瞬きをした。「また炎上か」と。
「…は? 何処も燃えてはおりませんが…?」
 事故の報告は入っておりません、と律儀に答えたキャプテン・ハーレイ。機関部はもちろん、厨房でさえも炎上騒ぎは起こってはいない。ほんの小さなボヤさえも。
「そういう火事の話ではない。ずっと昔の俗語のようなものだろうか」
「…俗語ですか?」
「ああ。元ネタはくだらない話だったり、失言だったり、原因の方は色々なのだが…」
 燎原の火のように、アッと言う間に広がりまくって、騒ぎになるのを「炎上」と呼んでいたのだそうだ、とソルジャー・ブルーは博識だった。
 今のジョミーを巡って、船内を騒がせまくる思考の渦。それはまさしく炎上だろう、と。
「炎上という言葉があったのですか…。確かに厄介ではあります」
 無駄にパワーを使うばかりで…、とハーレイは顔を顰めたのだけれど。
「その件なんだが…。ものは考えようとも言う。馬鹿と鋏は使いよう、だとも」
「はあ…?」
「後で、ゼルたちを集めてくれ。ぼくが直接、話をしよう」
 この件について…、とブルーは静かに瞳を閉じた。「続きは、其処で話すことにする」と。


 かくして、青の間に呼び集められた長老たち。その日のジョミーの訓練が終わって、夕食なんかも済ませた後に。
 キャプテンを先頭にして集まった五人、ブルーはベッドに上半身だけを起こして…。
「ジョミーの件で話がある。炎上騒ぎには、気付いているな?」
「そりゃまあ、ねえ…? あたしも、初めて聞く言葉だったけどさ」
 炎上とは上手く言ったもんだ、とブラウは感心しきりだった。他の面子も、ハーレイから既に聞いてはいる。「炎上」とは何を指しているのか。
「知っているなら、話は早い。…ゼル、君はあの件をどう思う?」
 船中を巻き込む炎上騒ぎについて…、とブルーの瞳が見据えた先。機関長のゼルは、メカにはめっぽう強い。このシャングリラを改造した時も、陣頭指揮を執っていた。
「…エネルギーの無駄遣いじゃな! あれだけの思考が出来るんじゃったら、もう少し…」
 マシな使い方が出来んものか、とゼルも「無駄遣い派」に属する一人。ハーレイが、そうであるように。
「やはり、君の意見もハーレイと同じか…。実は、ぼくもだ」
 あの「炎上」を上手く使えはしないだろうか、とブルーの口から飛び出した言葉。この先も炎上は続くだろうから、今の間に思考を転用する方法の検討を、と。
「ソルジャー!? あの、くだらない思考を使うと仰るか!」
 今日のテーマはマザコンですぞ、とゼルはワタワタしているけれども、ブルーの方はマジだった。無駄にエネルギーを使うよりかは、活用する方が前向きだ、などと大真面目な顔で。
「たとえ中身が何であろうと、強力な思考には違いない。…そうではないのか?」
「それはそうですが…。しかし、ソルジャー…!」
 マザコン疑惑のような炎上騒ぎを、どうお使いになると仰るので…、とハーレイも慌てるしかない状況。「マザコンで船が守れるのか?」と眉間の皺を深くして。
「使い道は色々あるだろう? 現に、君だって考えた筈だ。…今日も、ブリッジで」
 サイオン・シールドにサイオン・キャノン斉射六連ではなかったのか、とソルジャー・ブルーは全てをお見通しだった。炎上騒ぎのエネルギーで「何が可能か」を。
「…ふうむ…。確かに凄いエネルギーなんじゃが…」
 しかしじゃな…、とゼルは後ろ向き。「くだらない思考」で船を守るというのはどうか、と潔癖症なエラさながらに。
「そういう場合じゃないだろう? 我々の悲願は、何だったのだ?」
 地球に行くことではなかったのか、とブルーは何処までも鋭い瞳。ミュウの未来を手に入れるためには、手段は選んでいられない、とも。
「……そうかもしれん……。ならば、あの炎上のエネルギーをじゃな……」
 他の方向に向けられるように、ちと研究をしてみるわい、とゼルが引っ張った髭。ヒルマンと共に研究を重ね、シャングリラのために使ってみよう、と。
「それでいい。…よろしく頼む」
 たかが炎上でも無駄にするな、とソルジャー・ブルーが重々しく頷いたものだから…。


 ゼルやヒルマンたちは、頑張った。ジョミーの訓練を続ける傍ら、くだらない思考を「別の方へと」転用させる研究を。
 そうして、ついに完成したシステム。どんな「くだらない思考」だろうが、皆の思考が纏まりさえすれば、防御セクションだの、攻撃セクションだのに、そのエネルギーを向けるというもの。
「ソルジャー、なんとか出来上がりましたぞ!」
 ゼルが報告に飛び込んで来た時、またもジョミーがブチ切れた。「やってられるか!」と、それはゴージャスに。…他の長老たちは、訓練に行っていたものだから。
『またジョミーだぜ? 飯が不味いってよ』
『ママの料理が食べたいです、って? マザコン野郎が…!』
 あんなマザコンがソルジャー候補とは、世も末だよな、とブワッと膨れ上がってゆく思考。いつもの炎上騒ぎだけれども、即、ブリッジから青の間に入って来た通信。
「ソルジャー! サイオン・シールド、只今、出力最大です!」
 サイオン・キャノンも斉射六連いける勢いです、と興奮した声のキャプテン・ハーレイ。ここまでのパワーは未だかつて無いと、「今のシャングリラは無敵です!」とも。
「どうじゃ、ソルジャー? いい感じに出来たと思うんじゃが…」
「そのようだ。このシステムは、今後、大いに役に立ってくれることだろう」
 ミュウは弱いが、炎上したなら無敵になれる、とニンマリと笑んだソルジャー・ブルー。
 そしてシステムは、それから間もなく出番を迎えた。雲海に潜むシャングリラの位置を特定され、衛星兵器で超航空から攻撃を食らった時のこと。
「この非常時に、ジョミーは何をしておるんじゃ…!」
 サボリか、とゼルが詰った、ジョミーの不在。それはたちまち船中に知れて、「いないだなんて、クズ野郎が!」と一気に炎上。
 なまじ攻撃でパニックなだけに、怒りのエネルギーは凄まじかった。「あのボケが!」だとか、「死んで詫びやがれ!」だとか、シャングリラ中を巻き込んで。
 よってシステムはエネルギーMAX、完璧に張れてしまったシールド。サイオン・キャノンも斉射六連、衛星兵器は木っ端微塵に破壊されてしまい…。


「え、えっと…? ぼくがいない間に、何かあったわけ…?」
 オタオタと船に戻ったジョミーは、もはや誰からも期待されてはいなかった。ジョミーがいなくても船は守れたし、この勢いなら地球に行くのも夢ではないだけに。
『ジョミー。君は今まで通りでいい』
 炎上要員として頑張りたまえ、とのブルーの通達。思念で、船の全員に向けて。
『我々は弱い。だが、今、最強のエネルギー源を手に入れた!』
 ワープしよう、というブルーの命令。「今こそ、地球に旅立つ時だ」と力強く。
 シャングリラは「惑星上からの直接ワープ」でアルテメシアを離れ、宇宙へと出てもジョミーは炎上要員。皆の「くだらない思考」で叩かれる度に、シャングリラは「より強く」なってゆく。叩かれるジョミーも、フルボッコに遭う度、少しずつ強くなるものだから…。
 より増してゆく「炎上」エネルギー。ひたすらジョミーを叩くためにだけ、ジョミーが「強く」なればなるほど。炎上が激しくなってゆくほど、シャングリラは強さを増す一方で…。
「ソルジャー・ブルー! 間もなく地球です!」
 まさか炎上だけで、こんな所まで来られるとは…、と感無量なキャプテンや長老たち。
 其処へ現れた「地球」は青くなくて、誰もが失望、そして炎上。「なんてこった!」と、青くなかった地球を相手に、過去最大のエネルギーで。
「サイオン・キャノン、斉射千連! てーっ!!!」
 攻撃目標、ユグドラシル! というハーレイの号令、ユグドラシルは轟音と共に崩れていった。地下のグランド・マザーもろとも、呆気なく。
 ブルーはと言えば、青の間から「その光景」を生中継で眺めた後に…。
『百八十度回頭。…もう、この星に出来るようなことは、何も無い』
 無駄足だったような気がする…、と深い溜息をついて、ソルジャー・ブルーは地球への憧れを捨て去り、皆と宇宙へ旅立って行った。
 今や無敵のシャングリラで。「炎上」だけで地球まで辿り着いた船、SD体制までもブチ壊したという、それはとんでもない勢いの船で…。

 

           船と炎上・了

※ミュウが「精神の生き物」だったら、「炎上」した時のパワーも半端ないんだろう、と。
 それだけで船を守れそうだ、と考えたら無敵のシャングリラに。ブルー生存ED、幾つ目…?









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