(なんだかさあ…)
凄いんだよね、とジョミーが毎回、思うこと。
ミュウの母船なシャングリラとやらに連れて来られて、今や無理やりソルジャー候補。
でもって、顔を出さねばならないブリッジ、其処に入って見回す度に。
とある人物が座っている席、それが目の端を掠める度に。
(……短すぎない?)
あのスカート丈、と眺めてしまうヤエの制服。
丸い眼鏡がトレードマークのヤエだけれども、そんなモノより気になるスカート。
ミュウの船では誰もが制服、男性も女性も制服しかお目にかからない。私服は多分、フィシスとアルフレートくらいだろう。似た服装を他に見掛けないから。
キャプテンもソルジャーも長老たちも、きっとそれなりに制服な筈。
それは納得したものの…。
(なんでヤエだけ…)
生足なんだろ、と思ってしまう、短すぎるスカートから覗く足。
他の女性は全員、タイツを着用だった。女性の服には詳しくないから、スパッツだとかレギンスなのかもしれないけれど。
とはいえ、タイツだろうがスパッツだろうが、レギンスだろうが、足は隠れる。まるっと隠れて見えないのが肌、透視でもしない限りは無理。
(…透視も出来ない仕様かもね?)
試したことは無かったけれども、なにしろミュウの船だから。
その気になったら透視が出来る人材多数で、服だって透視しかねない。スケベな男が船に紛れていたら、だけれど。
だから素材にも気を配りそうなミュウたちの制服、特に女性は。
間違っても下着を見られないよう、細心の注意を払っていそうな船なのに…。
配慮たっぷりな女性の制服、それに真っ向から挑むのがヤエ。
いつ見ても短すぎるスカート、きっと屈んだらパンツが見えるに違いない。屈まなくても何かのはずみで見えそうなパンツ、どう考えてもスレスレだから。
(…立ってるトコ、滅多に見ないけど…)
自信満々で立っているヤエ、そのスカートは非常に短い。何処から見たってスレスレなライン、あとほんの少し短かったらパンツが覗くスカート丈。
あまりにも微妙なラインだからして、当然、ブリッジで座っていたら…。
(…目のやり場ってヤツに困るんだよね…)
ウッカリ正面に回り込んだら、その時にヤエが踏ん張っていたら。…そう、両方の足を。
彼女は非常に男前な性格、何かと言ったら踏ん張る両足。おしとやかに足を揃えて斜めに座ればいいと思うのに、足をドカンと開いたままで。
彼女の前にはモニター画面もあるのだけれども、それは彼女の足を隠しはしないから…。
(……パンツ、丸見え……)
初めて現場に出くわした時は、目を剥いた。「あれは、パンツと言うんじゃあ?」と。
それは潔く見えていたパンツ、ヤエの両足の間にバンッ! と。
「このパンツ様に文句があるか」と、そうでなければ「このパンツ様が目に入らぬか」。
そういう感じで堂々とパンツ、ヤエは隠しもしなかった。
少年とはいえ、男の自分が前を通ってゆくというのに。足を広げて座っていたなら、スカートの下の「おパンツ様」が丸見えなのに。
なんて人だ、と度肝を抜かれたパンツな一撃、パンチではなくてパンツな一発。
マトモに食らって受けた衝撃、「どうしてパンツ」と、「なんで生足?」と。
ヤエがタイツを履いていたなら、パンツは見えはしないから。
スパッツだろうがレギンスだろうが、女性用の制服に足を隠すモノはあるのだから。
けれど、凄すぎた「おパンツ様」。
うっかりチラリなら、まだ分かるけれど、御開帳とも言っていいほどの「足を開いて」丸見えなパンツ。普通だったら有り得ない。
だから、一瞬、目を剥いたけれど、「勘違い」だと考えた。
育英都市とは縁が薄いものの、フィギュアスケーターという職業の女性。そういうプロの女性が華麗にリンクを滑る映像、そっちの方なら何度も見ていた。「あんな世界もあるんだな」と。
彼女たちの衣装は実に大胆、肌の露出が凄いけれども…。
(あれって、見た目だけっていうヤツなんだよね…)
厳しい規則があると言うのか、それともスケートリンクの気温が低いからだろうか。
露出が凄いと見せかけておいて、実の所は肌色の衣装だったりする。手足をまるっと覆う肌色、場合によってはスケート靴まで。
ヤエの足だって、それだと思った。
おパンツ様から覗く両足、生足に見えてホントはタイツ、と。
なのに…。
タイツだよね、と眺めた足は、思いっ切りの生足だった。
アタラクシアの家で母が履いていたような、ストッキングさえ無い有様。肌色の部分はキッパリ生肌、そういう言葉があるのなら。
足が綺麗に生足だったら、パンツも当然、本音でパンツ。…きっと。
フィギュアスケーターの女性の服なら、パンツも衣装の一部なのに。タイツとセットで。
(…あれって、パンツ…)
真面目にパンツ、と思わず見てしまったわけで、お蔭でしっかり理解した。見せパンツですらも無いことを。凝ったフリルがついているとか、レースとかではなかったから。
男前の極みな飾り無しのパンツ、実用本位としか言えないパンツ。
(……テニスの人なら、見えても可愛いパンツだから……)
ファッション用語には疎いけれども、テニス選手の女性が履くのは「見えてもオッケー」という仕様。やたらゴージャスにフリルだったり、オシャレだったり。
けれどもヤエのパンツはと言えば、そんな気配さえ無いわけだから…。
本物のパンツ、と唖然呆然、其処へ「なにか?」と射るような視線。
おパンツ様の持ち主のヤエが、眼鏡の向こうからガン見していた。目を丸くしたままで、ヤエのパンツを見ていた自分を。
「アンタ、文句があるわけ?」と。
「私のパンツに文句があるなら、アンタが消えたらいいじゃないの」と。
それは恐ろしかったのが視線、「すみませんでした!」とばかりにダッシュで逃げた。
「パンツを拝んでごめんなさい」と、「本当に、ぼくが悪かったです」と。
きっとヤエには、あのスタイルがデフォだから。
ブリッジで足を踏ん張った時は、燦然と輝く「おパンツ様」。
その光景に文句があるなら此処に来るなと、「私の前に立つんじゃねえ!」と。
もう本当に怖かったから、それ以来、ヤエの前を通る時にはガクガクブルブル。
間違ってもパンツを見ませんようにと、ヤエが両足を踏ん張っていたら、そっちを向くなと。
(…あれから長く経つんだけれど…)
ブリッジクルーは、誰も気にしていないらしい。ヤエの股間の「おパンツ様」の方はもちろん、激しく短いスカート丈も。
ヤエがキリッと立っていようが、足を踏ん張って座っていようが、挙動不審な人間はゼロ。
早い話が「普通の光景」、おパンツ様でも気に留めないのがブリッジクルー。
いつ目にしたって、ヤエの両足は生足なのに。
足をガバッと開いて踏ん張っていたら、おパンツ様が丸見えなのに。
(キムも、ハロルドも…)
やたらと口うるさそうなゼルも、厳格そうなキャプテンだって、スルーしているヤエの生足。
ついでに「おパンツ様」もスルーで、「足を閉じろ」と注意もしない。
(…あそこまで行ったら、凄すぎて…)
チラリズムも何も無いんだけどね、と思うけれども、気になるヤエの「おパンツ様」。
その原因のスカート丈だって、どうにも気になるものだから…。
「えーっと…。ブルー…?」
ちょっと訊いてもいいでしょうか、と思い切って訊いてみることにした。
青の間のベッドに横たわる人に、シャングリラのトップなソルジャー・ブルーに。
「…なんだい?」
サイオン訓練のことだろうか、と赤い瞳が瞬きするから、「すみません…」と謝った。
生憎、そんな高尚な質問ではなくて、モノが「おパンツ様」だから。ヤエのスカート丈だから。
「えっとですね…。前から気になっていたんですけど…」
どうしてヤエのスカートだけが、と単刀直入、「短いのには理由があるんですか?」と。
あるのだったら教えて欲しい、と赤い瞳を見詰めたら…。
「…ヤエのスカートねえ…」
ずいぶんと古い話になるが、とブルーは昔語りを始めた。
「これはヤエが若かった頃の話で」と、「今も姿は若いけどね」と。
まだヤエの年齢が外見と一致していた若き日、シャングリラは今より弛んでいた。
制服はきちんとあったけれども、改造が流行っていた時代。若人の間で、それは色々と。
「…長いスカートが流行る時やら、短い時やら、もうコロコロと変わってねえ…」
男の方だとそれほど目立たなかったけれどね、とブルーが瞬きしているからには、男性だって、多分、改造したのだろう。…何らかの形で、制服を。
けれども、分かりやすいのが女性。スカート丈がグンと伸びたり、縮んだりと。
その状態にキレたのが「風紀の鬼」と呼ばれたエラ女史、ついでにゼル。
二人が船中に出した通達、「制服の改造はまかりならぬ」という代物。
そしてギリギリの丈に縮めたスカート丈。今の女性の制服がソレで、強制されたタイツの着用。
丁度、短くするのが流行っていた時期だったから。
「こんなに短くしてやったのだし、文句を言うな」という姿勢。
パンツが見えては困るのだったら、タイツを履いてカバーすべし、と。
「…それでタイツが出来たんですか…」
スカートも短くなったんですね、と頷いたけれど、それならヤエの生足は…?
いったい何故、と思うまでもなく、ブルーは疑問の答えをくれた。
「ヤエは当時から男前でねえ…。今もだけれど…。だから…」
短いスカート丈も上等、履いてやろう、と颯爽と生足でデビューした次第。
他の女性たちが「タイツを履いても、見えそうよね…」と、恥じらったりもしたスカート丈を、まるで全く気にも留めずに。
「こういうスカート丈の服だし、パンツは見えて当然だから」と。
そしてブリッジでもドカンと座った、いつもの自分のポジションに。
お上品に足を揃えるどころか、大股開きで、男前に。
「…じゃ、じゃあ…。あのヤエの服は…」
本当に生足で、本物のパンツだったんですか、と震える声で確認したら、「そうだ」と重々しい返事。「ヤエはそういうスタンスだから」と、「ヤエのカラーだと思いたまえ」と。
かくして謎は解けたけれども、余計に意識するパンツ。それに生足。
(……男前なのは分かるけど……)
アレはやっぱりどうかと思う、と溜息を漏らすジョミーの考え、それは間違ってはいなかった。
惜しげもなく晒されたヤエの生足、燦然と輝く「おパンツ様」。
うっかりチラリならマシだけれども、いつでも全開、色気も何も無いものだから…。
後に人類との本格的な戦闘の最中、ヤエは格納庫で泣くことになる。
トォニィが乗る機体の調整、それをしていた時のこと。
「あいつら、青春してんじゃん…」とヤエが眺める先に、トォニィ。それにアルテラ。
トォニィにちょっかいをかけに来たアルテラ、追い払おうとするトォニィ。
何処から見たって似合いの二人で、ヤエにだって分かる「いい雰囲気」。
だからガックリ項垂れて泣いた、もう目の幅の涙を流して。
「…私だって、若さを保って八十二年…。何がいけないの、何が…」
何が、と泣きの涙のヤエには、未だに分かっていなかった。
短すぎるスカートから覗く生足、それに「おパンツ様」のせいだと。
男前は大いに結構だけれど、肝心の男はそれでドン引き、けして近付いては来ないことなど。
何かのはずみにチラリとは、まるで違うから。
「おパンツ様」では、色気も見事に飛んでしまって、目のやり場に困るだけなのだから…。
ヤエのスカート・了
※シャングリラの女性たちが着ている制服。どういうわけだか、タイツ無しのヤエ。
当時から不思議に思ってましたが、ネタになる日が来るとは予想もしませんでした…。
東北応援な大河ドラマが「八重の桜」だから、熊本応援に「ヤエのスカート」。
馬鹿ネタですけど。
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