(…ぼくは若いと思うんだけど…)
一応、若い筈なんだけど、とジョミーの自信は揺らいでいた。
気付けば「祖父」になっていたから。
今の時代は死語な「グランパ」、そういう名前で呼ばれる自分。
それは素敵に若い者から。
トイレトレーニングの真っ最中のような子供から。
(…グランパって…)
グランパって何だよ、と叫びたいけれど、とうに叫んでしまった後。
その名前を聞いた瞬間に。
最初の自然出産児のトォニィ、彼に「グランパ!」と懐かれた時に。
(…ぼくのことだと思わなくって…)
グランパは何処か、と見回した次第。
肩に乗っているナキネズミかと、レインに渾名がついたのか、と。
けれど、真っ直ぐ見ていたトォニィ。
「グランパ!」と見上げてくる瞳。
何かが変だ、とトォニィの側にいたカリナに訊いた。「グランパって?」と。
そういう言葉は初耳だけれど、グランパとは何のことだろうか、と。
質問しつつも、ちょっぴり生まれていた期待。
自分が知らない言い方なだけで、「グランパ」は「イケメン」の意味だとか、と。
カリナやユウイは若い世代で、シャングリラで育った子供たち。
彼らの間だけで通じるスラング、そういったものもあるかもよ、と。
(癪だけど、ぼくより若いから…)
スラングだって充分、有り得る。
今の「グランパ」もそれの一つで、イケてる人には「グランパ!」かも、と。
胸を膨らませて待っていたのに、「それは…」と言い淀んでしまったカリナ。
やはりスラングに違いない。
自分たちだけの間の言葉がバレてしまった、とカリナは焦っているのだろう。
そう思ったから、「どういう意味?」と笑顔で尋ねた。
「ぼくのことなら気にしないで」と、「ぼくは怒ったりしないから」と。
若い世代だけの言葉があっても、細かいことは気にしない。
ゼルたちのような頑固な年寄り、何かと言ったら「若い者たちは…」と嘆く連中。
あんな風には出来ていないし、頭の出来も柔らかいから。
そう、怒る気はまるで無かった。
「グランパ」の意味が何であっても、若い世代の発想だから。
赤いナスカを開拓するには、柔軟な頭も要るのだから。
それでワクテカ、「どういう意味かな?」と待っていた答え。
「グランパ」の意味は「イケメン」だろうかと、あるいは「お兄ちゃん」かも、と。
胸がワクワク期待MAX、カリナの顔を見詰めていたら…。
「……おじいちゃん、です…」
「え?」
おじいちゃんって、とキョトンと見開いた瞳。
それは「年寄り」のことだろうかと、昔話やお伽話に「昔々…」と出て来るヤツ。
「ある所に、おじいさんと、おばあさんが…」と始まる、お約束。
グランパはソレで、もしや自分が「おじいちゃん」かと。
嘘だよね、と指差した自分の顔。
「おじいちゃん?」と。
そしたら、「ごめんなさい!」と、ガバッと頭を下げたのがカリナ。
「ソルジャー、本当にごめんなさい」と。
もうトォニィは覚えてしまって、グランパで定着しちゃったんです、と。
よりにもよって、「おじいちゃん」。
「グランパ」の意味はイケメンどころか、「ジジイ」と宣告されたのも同じ。
だから愕然としつつ叫んだ、「グランパって何だよ!」と。
怒らないとは言ったけれども、それとこれとは別次元。
どうして自分が「グランパ」なのか、「おじいちゃん」と呼ばれることになるのか。
其処の所を確認しないと、どうにも納得出来ない「グランパ」。
自分はまだまだ若い筈だし、「おじいちゃん」な年ではないのだから。
これがソルジャー・ブルーだったら、「おじいちゃん」でもいいのだけれど。
見かけはともかく中身が年寄り、誰が聞いても「おじいちゃん」だから。
(…絶対、何かの間違いだって…)
トォニィが覚え間違っただけ、と考えたのに。
そうだと自分に言い聞かせたのに、カリナの答えはこうだった。
「…訊かれたんです、トォニィに…。パパとママのパパは誰なの、って…」
「パパ?」
「はい。トォニィのパパはユウイで、ママは私になりますから…」
その私たちのパパとママは、と質問されたものですから、と謝ったカリナ。
つい出来心で、「ソルジャーなのよ」と教えました、と。
カリナが言うには、トォニィにとっては「いるのが当然」のパパとママ。
まだ幼くて、世の中の仕組みを知らないから。
もちろん出産も知りはしないし、管理出産などは理解の範疇外。
それで無邪気にカリナに質問、「ママたちのパパとママは誰なの?」と。
(…スルーしといてくれればいいのに…)
心の底からそう思うジョミー。
なにも真面目に答えなくてもと、あんな小さな子供に、と。
けれど、とっくに手遅れな今。
カリナは真剣に考えた末に、トォニィに教えてしまったから。
「私たちの生みの親って、ソルジャーよね?」と。
「命を作ろう」と決めた自然出産、それに賛成してくれたから。
とはいえ、「おじいちゃん」は流石にどうかと、一応、思いはしたらしい。
そう思ったならやめてくれればいいのに、つい出来心。
魔が差したとでも言うのだろか、教えたくなった「おじいちゃん」。
今の世の中、「おじいちゃん」はとうに死語だから。
何処を探しても「祖父」はいなくて、いたら「オンリーワン」だから。
(…オンリーワンでも…)
キツイんだけど、と抱え込みたくなる頭。
この年でもう「孫」がいるのかと、自分はトォニィの「祖父」なのか、と。
(グランパって言い方まで、探して来て貰っちゃって…)
その気遣いが余計にキツイ、と泣きたいキモチ。
「おじいちゃん」ではあんまりだろう、とカリナが教えた言葉が「グランパ」。
ヒルマンに頼んで、データベースで探して貰って。
「おじいちゃん」よりはソフトに、と。
ちょっとお洒落に「グランパ」の方がいいだろう、と。
お蔭でトォニィが覚えた「グランパ」、「次に会ったら呼ばなくちゃ」と。
「ぼくのおじいちゃんはソルジャーだけれど、ぼくのグランパなんだもの」と。
そして炸裂した「グランパ」呼び。
無垢な笑顔で、明るい声で。
「グランパ!」と。
ソルジャーはぼくの「おじいちゃん」だと、だから「グランパ」と呼ぶんだよ、と。
怒らない、と言ってしまったから、どうにもならない「グランパ」呼び。
今の御時世、確かに「祖父」など何処にもいないし、もう文字通りにオンリーワン。
カリナが「おじいちゃんよ」と教えた気持ちも、分からないではないけれど…。
(…この年で孫で、おまけに宇宙の何処を探しても…)
おじいちゃんは他にいないんだ、とドッと百ほど老け込んだ気分。
いやいや、二百か三百だろうか、それとも四百くらいだろうか。
(……ブルーでも、おじいちゃんじゃないのに……)
ぼくがグランパ、と尽きない「グランパ」なジョミーの嘆き。
いくらなんでも惨すぎるから。
本物のジジイのブルーがいるのに、若い自分がオンリーワン。
宇宙にたった一人の「グランパ」、「おじいちゃん」になってしまったから。
SD体制の時代が始まって以来、初めての「おじいちゃん」だから…。
最初のグランパ・了
※アニテラではスルーされてたのが、「グランパ」呼びの理由。「原作を読め」と。
「初めての孫」がトォニィだったら、ジョミーが初の「おじいちゃん」になるよね…。