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青い星を目指せ

(おや…?)
 なんだ、とブルーが感じた気配。シャングリラの青の間のベッドの上で。
 先日、ジョミーを衛星軌道上から連れ戻したばかり。ユニバーサルの保安部隊に捕まり、サイオンを大爆発させて逃げ出したのを。
 お蔭でブルーも激しく消耗、ジョミーの指導どころではない。一日も早い回復を、とベッドの住人なのだけれども、其処は腐っても「ソルジャーと呼ばれた男」。
 ただダラダラと寝ていたのでは意味がない、とサイオンでの監視は怠らない。ユニバーサルやら、アルテメシアの全域やらといった具合に。
 今日のもソレの一環だけれど、妙にザワついているユニバーサル。
(………???)
 サイオンの目と耳を澄ませてみたら、「テラズ・ナンバーが…!」と騒いでいる職員たち。成人検査の実施予定がどうのと、「それよりも、マザー・システムが…!」だのと。
(…テラズ・ナンバー…?)
 ジョミーの成人検査の時にも、戦った相手がテラズ・ナンバー・ファイブ。
 ミュウの宿敵とも言える機械で、憎んでも憎み切れないコンピューターだけれども…。
(何かあったのか?)
 覗いてみるか、と探った気配。
 ドリームワールドの地下深くにあるのは知っているから、サイオンの目で。
 そうしたら…。
(システムダウン…?)
 憎い機械は沈黙していた。大勢の技術者たちが復旧作業を急いでいる。
 ということは、只今、ユニバーサルも、アルテメシア中の、ありとあらゆるシステムなども…。
(…ブロックされてはいないんだな!?)
 チャンス到来、長い年月、待っていた「コレ」。
 きっとジョミーの騒ぎのせいで、システムに異常が出たのだろう。今なら機密を覗き放題、青い地球だって「確認できる」。何処にあるのか、座標なども…、と早速に「覗く」ことにした。
 「成人検査中のジョミー」を抱えてバトルをやったほどだからして、「入り込む」くらいは朝飯前だけに。


 探しているのは「青い星」、地球。
(何処にあるんだ…?)
 地球は、と深く「潜って行った」ブルーの瞳に映った星。それは美しく青く、まさに水の星といった趣。母なる地球。
(これか…!)
 なんと美しい…、とフィシスが抱く地球の映像と重ねて、首を傾げた。「はて?」と。
 青い星には「白い輪」があった。
 ソル太陽系の土星の輪っかを思わせるヤツで、それよりは淡い感じの輪っか。星を斜めに取り巻く輪っかは、色からして「氷」かもしれないけれど…。
(……地球に、ああいう輪があるとは……)
 まるで知らない、と青い星に見入る。「どう見ても、これは地球なんだが」と。
 これだけ青くて海があるなら、地球の他には考えられない。白い輪っかは不思議だけれども、データが全てでもないだろう。
(フィシスの映像からは、省かれているだけで…)
 本物の地球には、きっと「輪っか」がついているのに違いない。白い輪っかが斜めに、一重。
 目指すは「此処だ」と、座標をゲット。
 これでシャングリラは明日にでも「発てる」。地球の座標と、ジョミー・マーキス・シンの存在さえあれば…、とグッと拳を握った所で、別のデータが目に留まった。
(…最高機密?)
 それにグランド・マザー絡みか…、と「覗いた」データに、ただ愕然とする。
(……これが地球だと……!?)
 嘘だろう、とブルーが見詰める「赤い星」。
 もう思いっ切り砂漠化していて、海らしき部分も濁り切った星が「見える」のだけれど、それが「人類の聖地」だというデータ。
 今も再生していないままの「地球」で、グランド・マザーは、その地下に「いる」。
(…あの毒キノコみたいなのが…)
 地球再生機構のユグドラシルか、と唖然呆然。
 「何処も青くない」地球なんて。
 青いどころか、汚染されたままで放り出されているような星が。


 とんでもない、とブルーが「知ってしまった」真実。
 三百年以上も焦がれ続けた青い水の星は、何処にも無かった。赤茶けた星があるだけで。
(…では、さっきのは…?)
 白い輪っかがあった「地球」は…、と更に「潜って」行ったら分かった。それは「ノア」だと。
 人類が最初に入植した星、今は首都惑星の名で呼ばれる「ノア」。
 元老たちが集うパルテノンも「其処」にあるという。
(だったら、目指すべきなのは…)
 ノアだろうか、とブルーは思った。
 なんと言っても「青い水の星」で、座標もガッツリ手に入れた。
 赤茶けた「本物の地球」の座標は「聖地」だけあって、ガードが固い。テラズ・ナンバーがダウン中でも、手に入れるのは「無理っぽい」。
(だが、ノアに行けば…)
 もう間違いなく、地球の座標は手に入るだろう。首都惑星を「ミュウが」落としさえすれば。
 ジョミーのパワーで「行け、行け、ゴーゴー」、ガンガンと攻めて行ったなら。
(…よし…!)
 決めた、と頷いた「今後の方針」。
 ジョミーの力が安定し次第、アルテメシアを離れて「ノア」へと向かう。
 ミュウが本気を出して行ったら、人類だってビビる筈。
(人類軍の船には、シールドさえも無いからな…)
 シャングリラで体当たりをかましてやったら、端から沈むことだろう。シャングリラには自慢のサイオン・シールドがある。
(バンカー爆弾には弱いと思っているんだろうが…)
 それはシールドが無効化されていたからだ、とニンマリと笑う。
 ジョミーを追ってゆく戦闘機から、注意をシャングリラに向けさせるための「作戦」がソレ。
 サイオン・シールドがMAXだったら、たとえ機雷原に頭から突っ込もうとも…。
(せいぜい、船尾損傷くらいで…)
 シャングリラが「沈む」ことなどは無い。
 つまり「捨て身で」進んでゆくなら、向かう所に敵無しな船がシャングリラだった。
 人類軍が誇る戦艦が幾つ来ようと、駆逐艦が群れを成していようと。


 その手で行こう、とブルーは考えたわけで、テラズ・ナンバー・ファイブが再起動する前に、いそいそと逃げて消え去った。元々、「其処にはいなかった」けれど。
 青の間のベッドで目をパチリと開け、直ちに招集した長老たち。それにキャプテン。
「…今、言った通りのことが現実だ。青い地球など、存在しない」
「なんですと!?」
 わしらは何処へ向かえばいいんじゃ、とゼルが慌てふためくのに、「落ち着け」と赤い瞳をゆっくり瞬かせる。「青い星なら、他にもある」と。
「このイメージだ。首都惑星ノア、と言えば分かるか?」
「ほほう…。まるで地球のような星じゃないかね」
 白い輪があるようだがね、とヒルマンもブルーと同じ感想。「地球よりも、ずっと地球らしい」などと、髭を引っ張りもして。
 エラもブラウも、ハーレイも「これは…」と見惚れたイメージ。
 赤茶けた「本物の地球」よりも、ずっと「地球らしい星」がノアだった。「イメージです!」とやっていいなら、ノアに軍配が上がることだろう。「母なる水の星」を謳うのならば。
「この星へ行こうって言うのかい?」
 悪くないねえ、とブラウ航海長は察しが早かった。「あたしは大いに賛成だよ」と。
「ノアですか…。考えたことも無かったですが、現実的ではありますね…」
 キャプテンのハーレイも肯定派。「まず、ノアへ、というのは正しいでしょう」と頷いて。
 ハーレイ曰く、ノアを落とせば、もはや地球に王手をかけたも同然。「人類の聖地」の現実がアレなら、人類の最後の砦は「ノア」。
 地球には「ラスボス」がいるだけのことで、ノアさえ落とせばグランド・マザーは裸同然。頼みの綱の守備隊などは、地球には「いない」だろうから。
「…ハーレイ、君もそう思うか…。守るべき人類が少ししか地球にいないなら…」
 大した戦力も無いことだろう、とブルーは長老たちを見回し、クックッと可笑しそうに笑った。「地球よりも地球らしい、ノアを頂くことにしよう」と。
「ふむ…。それで、出発はいつにするんじゃ?」
 ジョミーの騒ぎで大破したワープドライブは修理が済んでおるが、とゼルもやる気満々。ノアから攻めてゆくのだったら、長距離ワープでどのくらいか、と指を折ったりも。
「ジョミーの訓練が済み次第…ということでいいだろう」
 先を急ぐという旅でもない、とブルーも今や余裕だった。「もう見られない」と涙した地球、その地球は「何処にも無かった」のだし、「この際、ノアで充分だから」などと考えて。


 旅立ちの日を待っている間に、やって来たのがサイオン・トレーサー。
 雲の中にいるシャングリラの位置を掴んで、衛星兵器で攻撃をかまして来たのだけれど…。
「ジョミーは何処だ!?」
 この非常時に、と焦るキャプテン、けれどブルーは冷静だった。
「落ち着きたまえ。…ミュウの子供の救出中だ。少し待ってやって、その後は…」
 予定通りにノアへ向かう、とブルーがブチ上げ、シャングリラは大気圏外航行装備を整え、出発を待った。ワープドライブも既に起動済み。
「キャプテン! 遅くなってごめん!」
 気絶しているシロエを抱えて、瞬間移動で飛んで来たジョミー。彼はまだ「ノア」も「地球の本当の姿」も知らないからして、「え? え、え?」とキョロキョロしている。
 「何処か行くわけ?」と舵輪を握ったシドを眺めたり、いつもより暗いブリッジの明かりに戸惑ったり、といった感じで。
「本船はこれより、ノアに向かう!」
 ハーレイの言葉に、ジョミーはポカンとするばかり。「ノア…?」と、話が見えていないだけに、困り顔をして、「それって、何処?」とシロエを抱えたままで。
「ぼくは、ノアって学校で少し習っただけで…。首都惑星…のノアじゃないよね?」
 いくらなんでも…、とジョミーは目が丸いけれど、目指すは、その「ノア」。
「キャプテン。…ワープしよう」
 もう、この星に用はない! とブルーの声が響いて、ハーレイがブリッジに飛ばした号令。
「シャングリラ、発進!!」
 たちまちワープドライブが出力全開、シャングリラはアルテメシアから「消えた」。
 重力圏からの亜空間ジャンプという荒業を繰り出し、星を覆う雲海に大穴を開けて。…何処へ向かってワープしたのか、トレースしようもない完璧さで。


「ちょ、ブルー…! ノアって、本気で、あのノアですか…!?」
 首都惑星を落とそうだなんて、無茶っすから! とビビるジョミーに、ブルーは「君なら、出来ると思ったが…?」と赤い瞳を向けた。そう、青の間のベッドから。
「それに、パワー溢れるシロエもいる。…あの子は強い」
 タイプ・イエローの攻撃力は、場合によってはタイプ・ブルーに匹敵する、との指摘は間違っていない。「過激なる爆撃手」とも言われるパワーの持ち主、それがタイプ・イエロー。
「じゃ、じゃあ…。ぼくとシロエでノアを落とすってことに…?」
「もちろん、ぼくも加勢する。それに、その前にシャングリラがある」
 守備隊は体当たり攻撃で潰す! とブルーの瞳はマジだった。「地球の真実」を知った時から、そのつもりで練って来た作戦。
 ノアまで一気に長距離ワープで急襲したなら、ノアの人類には、最終兵器、メギドを持ち出す暇などは無い。第一、ノアにメギドを向けられはしない。
「…そ、それじゃ一気に決戦ですか!?」
「文句があるなら、サイオン訓練でもして来たまえ。…シロエと二人で」
 ワープアウトしたら、其処が決戦の場だ、とブルーが言葉にした通り。シャングリラは長距離ワープを繰り返しながら、ひたすらにノアを目指して飛んでいるだけに。
「……分かりました。シロエと、やれるトコまでやります」
 頑張ります、と答えたジョミーに、ブルーが返した。
「やれる所までではいけない。…やり遂げて貰う」
 でないと、ミュウに未来など無い、とソルジャー・ブルーは何処までも本気。
 ついでに船を指揮するキャプテンや長老たちも本気モードで、緑色を帯びた亜空間を抜け、ワープアウトするなり、ハーレイはこう言い放った。
「サイオン・キャノン、斉射、三連! てーっ!!!」
 もういきなりに、超航空からブチかましたソレ。
 ノアに展開する国家騎士団が誇る軍事基地、其処で起こった大爆発と、次々に起きる誘爆と。
 主力をアッと言う間に失い、それでも飛んで来た「人類軍の船」を待っていたのは、巨大な白い鯨だった。その図体にモノを言わせての、体当たりに次ぐ体当たり。
「サイオン・シールド、出力をキープ! そのまま突っ込めーっ!」
 端から叩き潰してしまえ、とキャプテンが船を指揮している中、青い光が飛び出して行った。パルテノンなどを制圧するべく、シロエをしっかり抱えたジョミーが。


「人類に告ぐ! 降伏する者は、殺しはしない!」
 だが、逆らったら容赦しない、とジョミーとシロエは暴れまくりで、それに乗じてブルーが思念波を飛ばして演説。「我々は、無駄に殺すつもりはない」と、カリスマオーラ全開で。
「…ミュウは人類の敵ではない。ただ、手を取り合おうと言っている」
 共に戦うなら殺しはしない、とのミュウの長の約束。
 敗色が濃い人類軍は、もうバタバタと降伏した。パルテノンに集う元老たちも同じで、制圧された首都惑星、ノア。
 「地球よりも、ずっと地球らしい星」をゲットしたミュウは、地球に向かった。
 後はラスボスのグランド・マザーを倒せばいいだけ、その方法はもう分かっている。
「ジョミー。…滅びの呪文は覚えているな?」
「はい、ブルー!」
 遊び心が溢れてますよね…、とジョミーが手にする「飛行石」とかいう青い石。
 そいつを二人が手を取り合って握り、「バルス!」と唱えればグランド・マザーは「滅びる」。
 SD体制なんかは無かった昔に、地球で作られた『天空の城ラピュタ』というアニメ。
 グランド・マザーを作った人類は、それに因んだ仕掛けを残してくれていた。進化の必然である筈のミュウが「ノアに、いきなり攻めて来たなら」渡すように、と遊び心溢れるアイテムを。
 預かっていたのは、パルテノンの元老たちに仕える部下の一人で、六百年近くも「口伝で」一人だけに伝えられていた「滅びのアイテム」。
 その飛行石を手にしたジョミーは、シロエをお供に地球の地の底へ降りてゆき…。
「いくぞ、シロエ!」
「はいっ!」
 ジョミーとシロエは「飛行石」を二人で握って叫んだ。グランド・マザーの目の前で。
「「バルス!」」
 飛行石を持って「現れたミュウ」には、何も出来ない仕組みだったか、グランド・マザーは呆気なく滅びた。マザー・ネットワークも、「滅びの呪文」で木っ端微塵に。
「やりましたよ、ブルー! ぼくたちの勝ちです!」
「ああ。…しかし、地球は当分、青くなってはくれそうもないし…」
 いつかは青くなるんだろうが…、とブルーは頭を振り振り、「百八十度回頭!」と声にした。
 グランド・マザー崩壊のあおりで燃え崩れる地球。「もう、出来ることは何も無い」と。
 後は青いノアで楽隠居。「地球よりも、ずっと地球らしい星」で、イメージだけなら青い水の星そのものな、白い輪っかがくっついたノアで…。

 

             青い星を目指せ・了

※アニテラ放映開始から10周年。そういえばノアも青かった、と気付いたトコから、この話に。
 赤茶けた地球にこだわらなくても、「青い星」なノアでいいような…気が…。







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