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友がいる理由

(…何故なんだろう?)
 どうして、あの人になるんだろうか、とシロエの頭から消えない疑問。
 講義を終えて、夕食を食べて個室に帰って、夜になっても。
 今日の昼間に目にした光景、それが鮮やかに焼き付いたままで。
(……いつも一緒にいるような……)
 今日と同じで、と昼食の時に「見掛けた」二人を思い浮かべる。
 少し離れたテーブルだったし、あちらは気付いていないだろうか。
 「セキ・レイ・シロエ」が「来ていた」ことも、「自分たちの方を見ていた」ことも。
(…キース・アニアン……)
 E-1077始まって以来の秀才、マザー・イライザの申し子とまで呼ばれるキース。
 「機械の申し子」という名前もあるほど。
 いずれキースは、メンバーズ・エリートになるのだろう。
 同期のメンバーズたちの中でも、トップの成績を誇る「エリート中のエリート」として。
(あいつの成績を、全部塗り替えない内は…)
 地球のトップになれやしない、と自分でも充分、分かっている。
 いつか自分が「頂点に立って」社会を変えてゆこうと言うなら、キースが最大の敵なことも。
 必ず勝たねばならないライバル。
 蹴落とさなければならない「キース」。
 そのライバルが、先にカフェテリアにいた。…「何か食べなきゃ」と入ったら。
 キースが「其処にいた」ことはいい。
 「先にいた」ことだって、かまいはしない。
 E-1077に、候補生のために設けられた「食事が出来る場所」は一ヶ所だけ。
 あのカフェテリアで「食べない」のならば、個室で食べることになるから。
 もちろんキースも食事のためにと、カフェテリアに来る日は珍しくない。
 「そのこと」自体は普通のことだし、「気に入りの席」をキースに盗られたわけでもない。
 けれども、気付いてしまったこと。
 「キースと一緒に」食べているのは、誰なのかと。


 考えてみれば、今日までに何度も目にした「それ」。
 カフェテリアでキースが食事中なら、一人きりで来ていない限りは…。
(……サム・ヒューストン……)
 彼の姿が、必ずキースの側にあるもの。
 向かいに座って食事していたり、「お前の分な!」とでも言うかのように…。
(…キースの分のトレイを持ってて、テーブルに置いて…)
 それから椅子を引いたりもする。
 キースと「一緒に」食事するために。
 食事でなくても、コーヒーを二人で飲んでいるとか。
 とうに食事は済んだ後なのか、「水だけが」置かれたテーブルに二人でいるだとか。
(…いつもキースと一緒なわけで…)
 カフェテリア以外の場所で出会っても、キースの側には「彼」がいるもの。
 初めてキースに「出くわした」時も、サム・ヒューストンの姿があった。
 そちらの方には用が無いから、「無視して」終わりだったけど。
 ただキースだけを瞳に映して、皮肉な言葉も吐いたのだけど。
(…あれが最初で、あれからも、ずっと…)
 キースの側に「誰か」いるなら、サム・ヒューストンでしか有り得ない。
 サムと同郷で幼馴染の、スウェナ・ダールトンの姿も見掛けることはあるけれど…。
(あっちは、明らかにオマケだよね?)
 サムのオマケだ、と考えなくても分かること。
 「スウェナ・ダールトンだけが」キースの「側にいる」のは、一度も見てはいないから。
 スウェナがいるなら、サムも必ず「其処にいる」もの。
 キースがいる場所が何処であろうと、誰かが側にいるとなったら、それはサムだけ。
 「オマケ」のスウェナは、きっと「どうでもいい」のだろう。
 サムと一緒に食事をしたり、通路を歩いたりするキースにとっては。
 早い話が、サムは「キースの友達」。
 あの「キース」などに「友達」だなんて、あまりにも「らしくない」けれど。
 友の一人もいさえしないのが、似合いのように思うのだけれど。


(そっちの方が、よっぽど似合いで…)
 キースらしいよ、と考えるほどに、引っ掛かってくる「サム」のこと。
 彼の噂は「知らない」と言ってもいいくらい。
 いつもキースの側にいるから、「また、あいつなんだ」と思っていた程度。
 サムの成績が優秀だったら、そんなことにはならないだろう。
 キースとしのぎを削るくらいに、優れたエリート候補生なら噂にもなる。
 けれど聞かない、サムの「評判」。
 優秀だとも、何かの科目でキースと並ぶ成績だとも。
(……サム・ヒューストン……)
 キースの側に「いつもいる」なら、彼はどういう人物なのか。
 「マザー・イライザの申し子」で「機械の申し子」のキースが、友だと認めている人物。
(…何かあるのに違いないってね…)
 迂闊だった、と舌打ちをする。
 初めてキースに「出会った」時に「サムもいた」せいで、勘が鈍っていたろうか。
 「サムはキースとセットなんだ」とでも、ごくごく自然に思い込んで。
 その手の「無自覚な錯覚」だったら、人間、誰しもありがちなこと。
 目にした何かを「真実」のように、疑問も抱かず信じることも。
(…成人検査も、それの一種で…)
 他の候補生たちは、何一つとして疑いもしない。
 システムに疑問を持ちさえしない。
 成人検査の「前」と「後」では、「自分の中身」が違うのに。
 子供時代の記憶を奪われ、「地球のシステム」に都合よく「書き換えられている」のに。
 それと同じで、「サムの存在」を、自分は錯覚したのだろう。
 「こういうものだ」と、「キースと一緒にいるサム」を風景の一部のように。
 キースがいるなら、その近くにはサムがいるのが普通なのだ、と。
 …どう考えてみても、「そちらの方が」変なのに。
 「キースなんかに」友達がいるということが。
 誰もいないなら分かるけれども、「親友としか思えない」サムが「側にいる」のが。


 今日まで気付きもしなかったけれど、サムは「特別」なのだろう。
 キースが「友だ」と認めるからには、とびきり優れた「何か」を持っている人間。
(…まるで気付かなかっただなんて…)
 ぼくとしたことが、と机の端末に向かい、データベースにアクセスしてゆく。
 「サム・ヒューストンに関する情報を出せ」と、パーソナルデータも何もかも、全部。
 プロテクトされてはいない情報。
 何もブロックされはしないで、サムのデータは全て出揃ったのだけれども…。
(……何なんだ、あいつ……?)
 どうしてキースの友達なんだ、と信じられない思いで見てゆく。
 出身地だとか、両親だとかは、特に気にはならない。
 そういったものは「誰にでもある」し、キースにだって「もちろん、ある」。
 サムはキースと同郷ではなくて、アルテメシアの出身だけれど。
(…それは、どうでもいいんだけどね…)
 ぼくと同じ星の出身だろうが…、と「アルテメシア」の名は頭から放り出す。
 アルテメシアが故郷であっても、サムが育った育英都市はアタラクシア。
 懐かしい故郷のエネルゲイアとは違う場所。
 だから、そのことは「どうでもいい」。
 今、気にすべきは「サムの成績」。
(……下から数えた方が早くて……)
 どう転がっても、メンバーズには「なれるわけもない」成績を取っているのがサム。
 それも、このステーションに「入って直ぐ」から。
 何処かで「取り残された」わけではなくて、サムは最初から「成績が悪い」。
 E-1077に入れたことさえ、「間違いなんじゃあ?」と思うくらいに。
 同じ日に成人検査を受けた「誰か」と、ミスがあって「入れ替わってしまった」のかも、と。
 同姓同名の誰かがいたとか、プログラムが少し狂っただとか。
 誰も「ミスだ」と気付かないまま、「一般人向け」のコースと「此処」とを取り違えたとか。
(その方が、うんと自然なくらいに…)
 酷すぎるだろう、と思うサムの成績。あの「キース」とは対照的に。


 それでも、きっと「何かがある」と調べる間に、見付けた宇宙船の事故の情報。
 スウェナ・ダールトンを乗せて来た船、それと軍艦との衝突事故。
(……通信回線が切断された状態で……)
 E-1077からの救助部隊は出動しなかった。
 代わりに「新入生」だったキースと、サムの二人が向かった救助。
(…このせいで、サムと知り合ったとか…?)
 サムの成績を調べてみれば、船外活動は「得意だった」と分かる。
 優秀とまでは言えないけれども、非常事態でも、「宇宙に出られる」レベルくらいには。
(二人だけで救助に向かったんなら…)
 命を預けて、預けられもして、絆が生まれもするだろう。
 いくらキースが「機械の申し子」と呼ばれるくらいに、感情などは「無さそう」でも。
 友の一人も「いはしない」方が、似合いに思える人間でも。
(……この時以来の知り合いなわけで……)
 それなら「親友」にもなるか、とデータを辿る間に、見付けたもの。
 E-1077に入った直後の、新入生のためのガイダンス。
(…嘘だろう!?)
 握手している「サム」と「キース」の画像。
 ならば、二人は「最初からの」友。
 どういうわけだか、どういう風の吹き回しなのか、二人は此処で出会った時から…。
(……友達だったと……?)
 しかも、その後の「サム」は劣等生なのに。
 キースなら、そんな者とは「付き合いそうにない」のに。
(…何故なんだろう…?)
 どうして「友達」なんだろうか、と尽きない疑問。
 キースには、「サム」は似合わないのに。
 マザー・イライザも他の友を持つよう、キースに勧めそうなのに。
 それともキースは、「サムを友達にしている」くらいに、人間味があると言うのだろうか?
 そのようには、まるで見えなくても。
 人情などとは縁さえもなくて、「機械の申し子」の名が相応しくても…。

 

          友がいる理由・了

※キースと「友達になるように」マザー・イライザが用意したのが、アニテラでの「サム」。
 そのサムの成績は「優秀ではない」だけに、シロエ視点だとどうなるだろう、と書いたお話。







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