(メリー・クリスマス…?)
今更、クリスマスも何も…、と首を捻ったアルビノの人物、実はかなりの有名人。
名前はソルジャー・ブルーという。今も「ソルジャー」とつくかどうかは、謎だけれども。
どうして今頃クリスマスカードが、と彼が悩むのも無理はなかった。とっくの昔に死んでいる上、心当たりがゼロの差出人。何故、彼から、と。
(サンタクロース…)
名前くらいは知っているものの、死後の世界にいそうにはない。きっと何かの間違いだろう、とカードをポイと投げたゴミ箱。間違いにしても、返す先など分からないから。
とりあえず、ゴミ箱はあるらしい。死後の世界にも。
ブルーがカードを捨てていた頃、同じく頭を抱える男が約一名。国家主席まで務めた人間、こちらも相当、名高い人物。
(メリー・クリスマスと言われても…)
死んでからかなり経つのだが、とクリスマスカードを眺めるキース。差出人はサンタクロースで、冗談だとしか思えない。
(地球が滅びてから、何年経つと思っているんだ…!)
サンタクロースも地球と一緒に滅びた筈だ、と唸るキースは全く知らない。死後の世界に時間なんぞは無いことを。縦、横、斜めと交わりまくりで、カオスになっていることを。
ついでに言うなら、キースが「滅びた」と言い切った地球。それはコッソリ蘇っていた、青い姿に。昔の話は忘れましたと言わんばかりに、それは美しく。
(…誰がこういう悪ふざけを…)
知らん、とキースもカードを捨てた。死後の世界でも、健在らしいゴミ箱へ。
二人の人物がクリスマスカードをポイ捨てした頃、やはり同じに悩める少年。僅か十四歳で夭折したシロエ、破格の若さ。
(…メリー・クリスマスって…)
ピーターパンなら良かったんだけど、とぼやくシロエは若い分だけ夢が大きい。サンタクロースよりもピーターパンの方が良かった、と思う彼にも届いたクリスマスカード。
(どうして、サンタクロースから…?)
ぼくは北国よりネバーランドが好みで、とガン見してみても、差出人はサンタクロース。
(サンタクロースの国って、思い切り寒くて、雪だらけで…)
殆ど北極だったんじゃあ…、と彼もポイ捨てしたカード。死後の世界でも、ゴミ箱はアリ。
これで三人が捨てたけれども、侮るなかれ。クリスマスカードを捨てた人間は、他にも山ほど。そして北極に近い北国、其処でサンタクロースがバンザイしていた。万歳三唱、空に向かって。
「これでプレゼントを届けられる!」と。
なにしろ、本当に困った事態だったから。
(せめてクリスマスには、とお願いされても、難しくてねえ…)
サンタクロースが音を上げたものは、同人誌。薄い本という隠語で呼ばれるブツで、それが欲しいと願う人間がいるわけで。
(本当に本物の子供だったら、神様も力を貸して下さるのに…)
身体は大人で、中身が子供の場合はちょっと、とサンタクロースはブツブツと。
夢はたっぷりあるようだけれど、その子供たち。8年も前に放映終了のアニメ、それを未だに追っているのは、永遠の子供な証拠だけれど。
(欲しがるものが半端に大人で…)
R指定のBL本などと言われても…、と禿げた頭が更にツルリと禿げそうなくらい、悩みまくっていた、この季節。
ハタと閃いた凄い名案、餅は餅屋と言うのだから。
(本家本元に丸投げすれば…)
完璧というものじゃないかね、と大きな身体を揺すって笑った。自分が配るのは嫌だけれども、部下を任命すればいい。臨時雇いのサンタクロースを、そのためにだけ。
かくして、クリスマスカードを山ほど、ホホイのホイ、と配りまくったサンタクロース。
その正体は、なんと召喚状だった。貰った人間がポイと捨てれば、サンタの国への入口が開く。ポンと開いたら、問答無用。アッと言う間に吸い込まれる仕組み、北の国へと御案内。
だから…。
「メリー・クリスマス!!!」
おいでませ、サンタワールドへ! と満面の笑みのサンタクロースに、ハグで歓迎されてしまった面々。8年ほど前に「地球へ…」というアニメにハマった人なら、「マジで!?」と目を剥く、それはゴージャスで、豪華なメンバー。
ソルジャー・ブルーに、ジョミー・マーキス・シン。キース・アニアンもいれば、シロエに、マツカにトォニィなどなど。登場人物は全員揃っていそうな勢い、北の国へと呼ばれた面々。
全員をハグしたサンタクロースは、真っ赤な衣装で、ご機嫌で。
「ようこそ、サンタクロースの国へ! 君たちを今日から、サンタクロースに任命しよう!」
メリー・クリスマス! と、一瞬にして、全員に着せられた真っ赤な衣装。頭の上には真っ赤な帽子で、これぞサンタのコスチュームで。
「おい、オッサン! 何の真似だよ!」
オレンジ色の髪と瞳の、血気盛んなトォニィが掴みかかろうとしたら。
「ホッホッホッ…。君たちは臨時雇いのサンタクロースで、ちゃんとトナカイの橇もあるから」
一人に一台用意したから、頑張ってプレゼントを配ってくれたまえ、とボワンと出て来た真っ白な袋。いわゆるサンタの袋が山ほど、中身は入れてあるようで。
「これを君たちが持ってくれれば、中身がプレゼントになるのだよ。萌えのパワーで」
「「「萌え?」」」
何のことだ、と驚く面々、サンタクロースの方はシラッと。
「薄い本が山ほど入っていてねえ…。貰う人間のニーズに合わせて、萌えも色々…」
配りに出掛けてみれば分かるよ、とニッコニコ。
袋を開けて自由に読んでみるも良し、見ないで配って歩くのも良し。クリスマスまでは、まだ充分に日にちがあるから、ご自由にどうぞ、と。
「これの中身が、本なんだって言われても…」
薄い本って何なんだろう、とサンタ姿のジョミーが悩む、パチパチと燃える暖炉の前。
「クリスマスまで好きに使っていいよ」と、サンタクロースが案内してくれた、とても居心地のいい館。部屋数は充分、こんな大きな広間まで。
「さあねえ…。三百年以上も生きたぼくの知識にも、入っていないね。…薄い本というのは」
萌えだって、とブルーが頭を振っている横で、キースが仏頂面で。
「無駄に長生きしたわけか。伝説のタイプ・ブルー・オリジンは」
「そういう君こそ、マザー・イライザの最高傑作…だったと思ったけどねえ?」
君の知識も大概だねえ、とやっているのを、横目で眺めるシロエやサム。
「…サム先輩。どうなんです、これ?」
「開けて読んだら、分かるんじゃねえかと思うけどなあ…」
でも…、と腰が引けているサム。自分の袋をチラ見しながら。
開けて読むのは自由だけれども、開けたら最後。…何故だか誰もが、そう思う袋。
なんだか不幸になりそうだから、と悩めるサンタクロースの集団。
自分たちが配る、本の中身は気になるけれど。本当にとても気になるけれども、そこで袋をバッと開いて、読んでみようという勇者。それが一人もいない集団、つまりはチキン。
「…どけーい、ヒヨッコども! …と、私も言いたい所なのだが…」
メギドに突っ込む勇気はあっても、この袋を開ける勇気はちょっと、とコケた鶏。チキンの中でも期待の鶏、マードック大佐も逃げる有様。そんな袋だから、もう誰一人として開けられなくて。
「そういえば…。どうして、女の人がいないんでしょう?」
不思議ですね、と見回すマツカ。どういうわけだか、女性が一人もいなかった。ただの一人も。
「それが余計に不安な所じゃ。きっと、ロクでもない中身なんじゃ!」
開けて読んだら、目が潰れるのに違いない、と大袈裟に震えるミュウの長老。彼の名はゼル。およそBLとは無縁っぽいのに、ゼルの本まであるらしい。萌えは色々、ニーズも色々。
必要な面子は漏れなく揃える、それがサンタクロースの戦略で…。
ありとあらゆる、萌えなキャラたち。受けだの攻めだの、総受けだのと、それは色々。薄い本が欲しい人の数だけ、萌えの数だけ、BL本が詰まった袋。カップリング乱舞、そういう感じ。
サンタの衣装を着込んだ面子は、一人残らず、自分を描いたBL本を背負って配る運命だった。サンタクロースに託された袋、それへと注ぎ込まれた萌えを。
「食料に困らないのは有難いが…」とキャプテンらしい台詞を吐くハーレイも、こんな時にも気配りのリオも、サンタに袋を任されている。薄い本がドッサリ入ったヤツを。
とはいえ、衣食住には困らないのがサンタワールド。
ちょっと気の早い、クリスマス料理が食べ放題。ホットワインも飲み放題だし、外は大雪でも、館の中には温かい暖炉。
袋の中身を気にしないのなら、至極快適。サンタワールドは、そういう所。
サンタクロースは気前が良かった、けしてケチりはしなかった。臨時雇いのサンタクロースでも、トナカイなんぞは初対面だという面子でも。
そう、トナカイ。たまに窓の向こうを通ってゆくから、面通しだけは済んでいるものの。
「トナカイの橇か…。そんな乗り物は未経験だが」
メンバーズの訓練メニューにも無かった、とキースが愚痴れば、「落ちても別に死なないし」とジョミーがマジレス、そういう暮らし。
かつての敵は今日の友達、サムが言わずとも「みんな友達」、ワイワイやっているけれど。
サンタクロースの服を纏って、クリスマスを待つ日々だけれども。
「あの袋…」
何が入っているんでしょうか、と口にしかけたマツカに、「シーッ!」と「黙れ」の嵐。覗きたいなら止めはしないが、中身は決して口にするなと。嫌な予感がするから、と。
「そ、そうですね…。サンタクロースは、とにかく配ればいいんですしね」
どうせ臨時雇いのサンタクロースなんですから、とマツカは疑問をブン投げた。窓の向こうの雪の中へと、エイッと、消えろと。
もうサックリと捨てたマツカが、担当しているサンタの袋。中を覗けば後悔は必至、ギッチリ詰まったマツカ受けの本。ひっそりとマツカ攻めなどもあった、相手はドMなキースだとかで。
他の面子の袋も同じで、凄すぎるラインナップだけれど。どんなニッチなカップリングも見事にカバーで、R指定のレベルも色々なのだけど…。
誰も袋を開けてみようとしなかった。体当たりが売りのマードック大佐も、命なんぞはメギドに捨てた、なミュウの元長も。
見るな触るな、口にするなとサンタの袋を避けまくる内に、ついに来た出番。サンタクロースが走るクリスマス・イブで、ボスな上司がやって来て。
「では、君たち。メリー・クリスマス!」
頑張って配って回りたまえ、と激励されたプレゼントの山。薄い本とやらが詰まった袋。
配り終わったら、君たちにもクリスマスプレゼント! とサンタクロースが約束したのは、夢のハッピーエンドというヤツ。
トナカイの橇が、運んで行ってくれる地球。青い地球での新しい人生、それが御褒美。
「そうだったのか…。地球に行けるのか」
頑張らないと、とブルーが担いで橇に乗り込む袋。それの中身は強烈だった。ブルー総受けからブルー攻めまで、ギッシリ詰まっている袋。本人は何も知らないけれども、エロすぎる中身。
「ふん、ようやっと行けるようになったか。有難いと思うんだな、ソルジャー・ブルー」
私も仕事を頑張らねば、とキースも乗り込むトナカイの橇。これまた凄い中身の袋を背負って、颯爽と。「アドスが一番、サンタクロースが様になるのが…」癪だな、などと言いながら。
元老アドスまでがサンタの衣装で、トナカイの橇でスタンバイ。彼が背負った袋の中にも、凄い本が溢れているらしい。アドスの相手はキースはもちろん、ブルーだったり、ジョミーだったり。
「何なんだろうね、この面子…」
まあ、楽しくはあったんだけどさ、とジョミーが別れを惜しむサム。それにシロエも。それぞれトナカイの橇に乗り込み、後は出発を待つばかり。誰もが凄い中身の袋を背負って、本人は中身を知らないままで。
「「「メリー・クリスマス!!」」」
サンタクロースのボスの合図で、一斉に飛び立つトナカイの橇。地球で会おう、を合言葉に。
シャンシャンと賑やかに鈴を鳴らして、サンタクロースな面々を乗せて。サンタワールドの雪景色を後に、クリスマス・イブの空に向かって。
そんなわけだから、「地球へ…」でBL萌えな人の枕元には、クリスマスの朝にプレゼント。
目覚めた時には、きっと一冊、薄い本。御贔屓のキャラが夜の間に、そっと届けてくれるから。
ただし、彼らは初めて開ける袋だから。初めて目にする本だから。
「見ては駄目だ」と思っていたのに、枕元で読むかもしれないけれど。どういう本が欲しかったのかと、ちょっと開いてビックリ仰天、腰を抜かすかもしれないけれど。
そうなった時は捕獲のチャンス。サンタクロースの服を纏った、御贔屓のキャラをゲットかも。萌えが詰まった薄い本もセットで、ウハウハと。
御贔屓のキャラの腰が抜けるような、それは強烈なBL本。そこまでのブツを妄想できたら、腰を抜かしたサンタクロースが手に入るという凄い幸運。試すだけの価値は、きっとある。
今からクリスマスまでに妄想、受けでも攻めでも、思いのままに。萌えの限りに。
妄想しまくって、御贔屓キャラに腰を抜かさせて、ゲットするのは自由だけれど。捕獲したならアレもコレもと、考えるのもいいけれど。
きっと彼らが捕まったならば、助けに来るのがサンタクロース。大ボスと呼ぶか、ラスボスと呼ぶか、彼らの上司がやって来る。約束が「青い地球」だから。彼らは地球にゆくのだから。
サンタクロースに勝てはしないから、妄想の方はほどほどに。
一度捕まえた御贔屓キャラに、「ああいう人か」と呆れられたくなかったら。
逃げられた上に赤っ恥というオチが嫌なら、彼らが腰を抜かさないよう控えめに。あるいは、腰を抜かした彼らは放置で、黙って本だけ貰っておこう。そっと薄目で拝んでおいて。
いい子の所に、プレゼントはきっと届くから。御贔屓キャラが一冊届けてくれるから。
クリスマス・イブの夜の間に、それはピッタリの一冊を。
どんなにニッチなカップリングでも、受けでも攻めでも、思いのままの薄い一冊を。
臨時雇いのサンタクロースが、素敵な仕事をしてくれるから。
シャンシャンと賑やかに鈴を鳴らして、トナカイの橇で来てくれるから…。
聖夜に一冊 ~薄い本を貴女に~ ・了
※どうしようもなく馬鹿だ自分、と思ってしまった酷いお話。BLなんか書けないのに。
サンタクロースと同じくお手上げ、本の中身はご自由にどうぞv