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必然の目覚め
(……ああ……)
 もう持たないな、とブルーはベッドの上で思った。
 追われるようにアルテメシアを後にしてから、今日で何日経っただろうか。
 とうに寿命を迎えた身体は、ジョミーの強い願いのお蔭で、奇跡的に永らえて来た。
 けれど日に日に、眠っている時間が長くなりつつある。
 その傾向は以前からあったけれども、宇宙に出てから顕著になった。
 限界の時が近付いていて、ついに「その日」を迎えた気がする。
(…なのに、何故だか…)
 死ぬという感じが全くしない。
 この状態で起きていられなくなれば、普通は死んでしまうのだろうに。
(眠れば、死んでしまうから…)
 いつも懸命に意識を保って、気を失うまで耐え続けていた。
 もっとも、今のことではなくて、遥か昔に、実験体だった頃のこと。
 「眠っては駄目だ」と歯を食い縛って、限界まで起きて、また目覚めた。
 そうやって目を覚ました後には、次の実験という地獄が待っていたのだけれど。
(…それでも生きて、生き延びるんだ、と…)
 自分自身を励まし続けた遠い昔が、まざまざと脳裏に蘇って来る。
 けれども、今は「違う」と身体が訴えていた。
 今の眠気は「それとは違う」と、眠っても死にはしないのだ、と。
(ならば、何故…?)
 どうして眠りそうなのだろう、とブルーは心の奥底を探る。
 其処に沈んだ青いサイオン、そのサイオンは「尽きてはいない」。
 充分あるとは言えないものの、まだ人類と一戦交えられる程度の力は残っていた。
 もう一度「ジョミーを追い掛け、連れ戻したとしても」、余力は幾らかあるだろう。
(…それなのに、ぼくは…)
 どうして眠ってしまうのか、と自身に問うて、ハタと気付いた。
 「これは予知だ」と。
 予知の力は、フィシスに与えてしまったけれども、欠片が残っていたらしい。
 それが「眠れ」と、意識に働きかけて来る。
 「今は眠って、その時を待て」と。
 いつか「ブルー」が必要とされる時まで、眠って「力を残しておけ」と。


 そういうことか、と納得したら、「眠ってもいい」と思えて来た。
 ジョミーの今後が気に掛かっていて、今日まで気力を振り絞って起きて来たのだけれど…。
(…ぼくの力が、いつか必要になるのなら…)
 その局面が訪れるまでは、ジョミーに任せていいだろう。
 仲間たちを乗せた箱舟、このシャングリラも、ミュウという種族の未来のことも。
 ジョミーなら上手くやれるだろうし、そうでなければ「この先」は無い。
 ブルー亡き後、ジョミーが一人で立てないようでは、ミュウが生き残ることは出来ない。
(…ジョミー…。君なら、出来る)
 ぼくが眠ってしまっても、きっと立派にやってゆける、と思うからこそ、言うべきではない。
 今度眠ったら、「時が来るまで」起きないだろう、ということを彼に告げてはならない。
 いつも通りに「ぼくは眠るよ」と、微笑んで「それで終わり」にすべき。
 次に目覚める時が来たなら、もうジョミーとは…。
(言葉も交わせず、会うこともなくて…)
 それきりになるかもしれないけれども、そうなったとしても後悔は無い。
 眠って、次に起きた時には、戦いが待っているだろうから。
 ミュウの未来を、このシャングリラを守り抜くために、戦い、そして散ってゆく。
 残されたサイオンを全て使って、やって来た敵と刺し違えてでも滅ぼして。
(……それでいい……)
 時が来るまで、ぼくは眠ろう、と自分自身に言い聞かせる。
 ジョミーには何も言わずにおこうと、そうすることが最善なのだ、と。


 その夜、ブルーは、青の間を訪ねて来たジョミーから一日の報告を受けて、幾つか助言をした。
 普段と変わらない時を過ごして、「ぼくは眠るよ。また明日」とジョミーを送り出した後…。
(…ジョミー。ぼくが起きなくなってしまっても、君は自分で道を見付けて…)
 仲間たちを導き、歩いてゆくんだ、と若きソルジャーに未来を託す。
 言葉にも思念にもしなかったけれど、心の中で強く思って、ジョミーの未来に幸多かれ、と。
(……ぼくは眠るよ、長く、長く……)
 どのくらい長い眠りになるのか、それは自分でも分からない。
 時期が読めるほどの予知能力は残っていなくて、いつ目覚めるのか分かりもしない。
 ただ、僅かに残された予知の力に、祈るように暗示をかけてゆく。
 「その時が来たら、ぼくを必ず起こすんだ」と。
 「ぼくが死ぬべき時に起こせ」と、「そのためにだけ、ぼくは眠る」と。
(……そう、これで……)
 これでいいんだ、とブルーの意識は眠りの底へ落ちてゆく。
 時が来るまで目覚めない眠り、死が待つだけの「目覚めの時」まで眠り続ける深い闇へと。


 そうして、どれほどの時が流れて、何があったのか、ブルーは知らない。
 けれどサイオンは「命じられた通りに」、ブルーを起こした。
(…私を目覚めさせる者。…お前は、誰だ)
 誰だ、とブルーは眠りの淵から浮かび上がって、自分を起こした「誰か」の姿を探し始める。
 サイオンは完全に目覚めてはおらず、その正体は掴めないけれど、強大な「敵」。
(……ぼくが戦い、倒すべき相手……)
 それが来たか、と戦士としての自覚が身体を動かしてゆく。
 起き上がることも辛いけれども、「戦わねば」と。
 この命を捨てるべき時がやって来たから、サイオンはブルーに知らせて、「起こした」。
 ならば「相手」が何であろうと…。
(…戦って、そして倒さなければ…)
 仲間たちの、ミュウの未来のために、とベッドから降りて歩き始める。
 よろめき、肩で息をしながら。
 ブルーを起こした「誰か」がいる場所、其処を目指して。
 そう、なんとしてでも戦わなければ。
(…そのためにだけ、ぼくは眠って、眠り続けて…)
 今日まで眠っていたのだから、とブルーは「敵」を探し出すために長い通路を歩いてゆく。
 自らの死へと向かう旅路を、ただ一人きりで、踏み締めるように。


(待っているがいい、ぼくを起こした者よ)
 ぼくは必ず、お前を倒す。
 命を捨てて倒しにゆくから、覚悟して待っているがいい。
 けして、お前を逃がしはしない。
 そのためだけに「待ち続けた」ぼくから、お前が逃れることは出来ない。
 お前は何も知らないだろうが、「ぼくの目覚めには、必然がある」。
 ぼくを眠りから起こした者には、死と滅びだけが待っているのだから…。



           必然の目覚め・了


※ブルー追悼、「まだ書くのか」と言われそうですけど、今年はアニテラのBlu-ray が出た年。
 ついでに仏教の場合、ブルー様の十七回忌になるのが今年であります。
 書かないわけにはいかないだろう、と16年目も書きました。
 とは言うものの、「思い付いたネタ」を書きたかったのも否定はしません、本当です。
 16年目にして閃いたんです、「ぼくの目覚めには、必然がある」という台詞の意味が…。
 何年、アニテラを追い続けるんだか、自分でも真面目に謎です、はい~。
 







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