「百八十度回頭」
トォニィがそう命じた声に、問い返したツェーレン。「地球を後にするの?」と。
それに応えてトォニィは言った、「そうだ」と。
「もう、ぼくらに出来ることは何もない」と。
フィシスも話した、カナリヤの子たちに。「ここ、何処なの?」と尋ねた子供に。
「あなたたちを連れてゆく箱舟の中」と。
「何処へ?」と問われて、「清らかな大地へ」と。
そしてシャングリラは旅立って行った、地球を離れて遠い宇宙へ。
…人の未来へ。
残されたものは揺れ動く地球で、其処に人影は見えないけれど。
何一つ見えはしないのだけれど、去って行った船が見落としたもの。
トォニィもフィシスも、他の誰もが、気付かないままで行ってしまったもの。
「箱の最後には…」
希望が残っているものなのに、とジョミーが呟くパンドラの箱。
禍をもたらすパンドラの箱は開いたけれども、箱の底には希望があると。
「そうだな…。あんな地球でもな」
しかし、気付けと言う方が無理だ、とキースが零した深い溜息。
人は目に見えるものが全てで、見えないものは信じないから。
壊れ、滅びゆこうとしている地球の姿が全てだから。
地球の地の底、最期まで共に戦ったからこそ分かること。
この星も、人も、これからだと。
どんなに無残に壊れようとも、人も大地も、また立ち上がると。
今直ぐには、とても立てなくても。
立ち上がる術さえ見付からなくても、人は必ず歩き出すから。
二本の足が使えなくとも、先へと進む力があるから。
人だけが持ち得る、パンドラの箱に残った希望。
それは未来を夢見る力。
明けない夜など無いということ、夜の先には光があること。それこそが希望。
今は見えなくても、希望は誰もが持っているもの。
自分自身が気付かなくても、箱の中を覗くことが無くても。
いつか希望は顔を出すもの、人が未来を目指したならば。
災いの箱が開いた後でも、また立たねばと思う時が来たなら。
だからシャングリラも、いつか戻って来るだろう。
母なる地球へ、人を生み出した水の星へと。
清らかな大地が其処に無くとも、その上にそれは戻る筈だと。
人が希望を持っていたなら、母なる地球を忘れなければ、いつか未来は訪れるから。
パンドラの箱は開いたけれども、人の未来はきっと来るから。
今は揺れ動く地球の大地に、裂けてしまった地面の上に。
惨く引き裂かれた星の上にも、希望は残っているのだから。
「キース、どのくらいかかると思う?」
人は強いと思うけれども、というジョミーの問い。
「彼らの心次第だろう。…立ち上がるのも、未来を築き始めるのも」
だが、見えるような気がするな…、と語り合う間にも地球は揺れるのだけれど。
崩れゆこうとするのだけれど。
パンドラの箱の底には必ず、希望があるもの。
人も、大地も、また立ち上がる。
そして其処には、緑の丘が、人々の笑顔が蘇る筈。
人だけが持ち得る、未来への思い。
誰の心にも在る希望の光が、人の未来を掴み取るから。
今は闇しか見えないとしても、明けない夜など、何処にもありはしないのだから…。
地球の緑の丘・了
※4月14日の熊本地震と、4月16日の地震と。
「地球へ…」のラストに重ねて応援、熊本も九州も、一日も早く立ち直りますように。
只今、16日の午後4時です。これ以上酷くならないように、と祈りながらUP。