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カテゴリー「地球へ…」の記事一覧

(二つ目の角を右に曲がって、後は朝まで…)
 ずうっと真っ直ぐ。
 真っ直ぐ、とシロエは心で繰り返すけれど。
(…まただ……)
 また行けやしない、と睨んだコンパス。
 円を描くための道具ではなくて、方位磁針の。
 それも初期型、磁石を使っただけのもの。
 教育ステーションに連れて来られて間もない頃に自分で作った。
 これが必要だと思ったから。
 コンパスが無いと、見失ってしまいそうだったから。


 真っ直ぐに歩いてゆきたいのに。
 ネバーランドに続いている道、それを自分は探しているのに。
 いつも真っ直ぐ行けはしなくて、気付けば他所へと向いている針。
 今日こそは、と決めて歩き出しても。
 どんなに真っ直ぐ行こうとしても。


(…パパ、ママ……)
 真っ直ぐに歩けないんだよ、と叫び出したくなるけれど。
 涙が零れて落ちそうだけれど、それをしたなら…。
(……また呼ばれる……)
 ステーションの中を歩く時には、けして外してはならない装置。
 手首に嵌まった、マザー・イライザと繋がるそれ。
 何処かで見ているマザー・イライザ、不安定な者を呼び出すために。
 ツーッと鳴ったら、イライザのコール。
 拒むことなど出来はしなくて、入るしかないイライザの居場所。
 大抵の者は恐れるけれども、それは自身の評価でのこと。
 コールを受ければ評価が下がると噂されるから、皆が怖がる。
 けれど、自分が其処を嫌うのは…。


 皆とは違う、と噛んだ唇。
 今日も呼び出されてしまったから。
 母の姿を真似る機械に、忌まわしいマザー・イライザに。
 大理石のホールに見える空間、中央の女神を思わせる像。
 初めて其処へ呼ばれた時には、マザー・イライザがそれだと思った。
 なのに現れた、懐かしい母に似ている誰か。
 マザー・イライザと名乗ったそれ。
(…あの時から、ずっと…)
 変わらない姿のマザー・イライザ。
 母を真似ては、自分の心を覗き見る機械。
 「お眠りなさい」と導かれる眠り、それに抗うことは出来ない。
 目覚めた時には、一瞬、心が軽いのだけれど。
 気が晴れたように思うのだけれど…。


 いつだったろうか、心が軽いと思う理由に気付かされた日は。
 心から何かが消えていった分、軽くなるのだと気が付いた日は。
(……今日だって……)
 きっと何かを失くしてしまった、それが何かは分からないけれど。
 何を失くしたか分かるのだったら、幾らか救いはあるのだけれど。
(…分からないよ、ママ…)
 パパ、と見詰める小さなコンパス。
 今日も真っ直ぐ行けはしなくて、ネバーランドがまた遠くなる。
 真っ直ぐ歩いてゆきたいのに。
 二つ目の角を右へ曲がって、後は朝までずうっと真っ直ぐ。
 たったそれだけで、ネバーランドに行けるのに。
 朝まで真っ直ぐ歩きたいのに。


 此処のせいだ、と悔しい思いで睨み付ける針。
 南と北とを指す筈の磁石、それは役立たないかもしれない。
 宇宙に浮かんだステーションだと、北も南も無いだろうから。
 人工的に作り出されている磁場、磁石はそれを指すだろうから。
(それに、真っ直ぐ…)
 行けやしない、と握ったコンパス。
 たとえコンパスが正しいとしても、ステーションの中で真っ直ぐに行けば…。
(……元の所に……)
 ぐるりと回って帰り着くだけ、ステーションは円を描いているから。
 どんなに真っ直ぐ歩いたとしても、円を描いて戻るだけだから。


 今日も行けずに、無駄に一周させられただけ。
 朝まで真っ直ぐ歩く代わりに、元の場所へと戻っただけ。
 ネバーランドに行けはしなくて、探し物さえ見付からなかった。
 コールされたせいで失くしてしまった、きっと大切だったろう何か。
 それが何かも思い出せない、けれど確かに何かを失くした。
 コールで心が晴れた分だけ、軽くなったと感じた分だけ。


(ママ、パパ…)
 教えて、と心で泣きながら歩く。
 顔に出したら、コールサインが鳴り響くから。
 マザー・イライザの部屋に呼ばれて、また大切な物を失くしてしまうから。
(…ママ、パパ…。教えて、ぼくに教えて…)
 何を失くしたのか、奪われたのか。
 機械が心から何を消したか、それが知りたくて歩くのに。
 二つ目の角を右に曲がって、後は朝までずうっと真っ直ぐ。
 そうやって歩き続けてゆくのに、ぐるりと回って元の所へ戻ってしまう。
 ネバーランドには辿り着けなくて、失くしてしまった何かも見付け出せなくて。


 真っ直ぐに歩いてゆけはしないと教えるコンパス。
 また真っ直ぐから外れていった、と磁石の針が知らせてくれる。
 悲しいけれども、微かに残った希望も示してくれるコンパス。
 いつか真っ直ぐ歩けた時には、ネバーランドに行けるだろうと。
 そんな奇跡が起こるなら。
 円を描いて歩くしかない此処で、真っ直ぐに行ける時が来たなら。


(…二つ目の角を右に曲がって…)
 後は朝までずうっと真っ直ぐ、とコンパスを握ってまた歩いてゆく。
 そうすれば記憶が戻って来るかと、コールで失くした大切な物を取り戻せるかと。
(…パパ、ママ……)
 教えて、と心に零れ落ちる涙。
 今日のぼくは何を失くしたろうかと、どうすればそれは戻って来るかと。
(後は朝まで…)
 ずうっと真っ直ぐ、と見詰め続けるコンパスの針。
 ステーションに来て直ぐ、これが要るからと作ったコンパス。
 誰が自分に教えてくれたか、それさえも今は思い出せない。このコンパスの作り方。


(…ママ、パパ…)
 何を失くしたか、ぼくに教えて。
 マザー・イライザが何をぼくから奪って行ったか、ぼくに教えて。
 後は朝まで、真っ直ぐ歩いてゆきたいのに。
 歩けないよ、と泣き濡れる心。
 コンパスの針を見ながら、真っ直ぐ。
 それが出来ないと、どう歩いても円を描いて戻ってしまうと。
(……後は朝まで……)
 ずうっと真っ直ぐ、と歩き続ける、コンパスを持って。
 その作り方を幼かった日に教えた父さえ、それさえも思い出せないままで…。

 

         後は真っ直ぐ・了

※シロエは機械いじりが得意だったよな、と思った所までは、多分間違っていなかった筈。
 お父さんは機械のプロだったよな、とも考えたのに…。なんか色々とスミマセン。





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「セキ・レイ・シロエ。…お捨てなさい」
 過去を忘れておしまいなさい、と追ってくる声。
 懸命に走って逃げているのに、遠ざかってはくれない声。
「ママ、パパ…!」
 助けて、と幼いシロエは走り続ける。
 けれど勝てない、子供の足では。
「助けてーっ!」
 嫌だ、と悲鳴を上げる間もなく巻き込まれた渦。
 一つ、二つと消えてゆく記憶、大切なものが消されてゆく。
 いくら暴れても泣き叫んでも、浮かび上がった記憶は次から次へと。
 指の間から零れ落ちる砂、手から溢れて流れ落ちる水。
 そんな風に端から奪われる記憶、それを捕まえたと思うよりも前に。
「ママ…!」
 誰を呼んだら助かるのだろう、その名を自分は知っていたのに。
 それさえも思い出せない自分は、こうして捕まり、失くしたくない過去を、大事な記憶を…。


 声にならない絶叫の内に、いつしか成長していた身体。
 幼い自分は消えてしまって、着ているエリート候補生の服。
(……ぼくは……)
 こんなものになどなりたくなかった、幼い姿のままで良かった。
 地球へ行けなくてもかまわないから。
 ネバーランドより素敵だという、青い星など要らないから。
 その星を夢見たままで良かった、子供は行けない場所が地球なら。
 両親や、家や、育った町と引き換えなければ、手に入らないような夢の星なら。
 どうして気付かなかったのだろうか、馬鹿な自分は。
 あの日、素直に家を出たのか、ピーターパンの本だけを詰めた鞄を提げて。
 「さよなら」と別れを告げた両親、二度と会えないとは思わなかった。
 いつか地球へと旅立つ時には、また会えるのだと信じていた。
 立派な大人になったなら。
 「ただいま」と育った家に帰って、自分の姿を見て貰える日が訪れたなら。
 なのに、自分は失くしてしまった。
 大切なものを、両親も家も、育った町で築いたものを。
 これが自分だと思う全てを、今の自分を作り上げたものを。


 こんな育った自分は要らない。
 エリート候補生の服も要らない。
 何一つ欲しいと思わないから、消した記憶を返して欲しい。
 だから「返せ」と叫んでいるのに、「嫌だ」ともがき続けているのに。
 「お捨てなさい」と前へと回り込んだ機械。
 忌まわしいテラズ・ナンバー・ファイブ。
「嫌だーっ!」
 放せ、と振り回した腕に何かが触れた。
 左の腕から注ぎ込まれた、優しくて穏やかで心地良いもの。
(……何……?)
 それが何かは分からないけれど、誰かが自分に力をくれた。
 戦うには少し足りないけれども、逃れようとする自分に導きを。
(…誰……?)
 誰だったろうか、自分を助ける力を持っていた人は。
 その名を思い出せない人は。
(……ぼくは……)
 まだ忘れてはいない筈だと思いたいのに、呼べない名前。
 割れそうに痛み続ける頭を撫でるかのように、額にヒヤリと冷たい優しさ。
(ママ…?)
 きっとママだ、と湧き上がった希望。
 大丈夫。…まだ母のことは覚えているから。
 顔は忘れてしまったけれども、柔らかかった手は忘れないから。


(…パパだったんだ…)
 額を冷やしてくれている手が、母ならば。
 それならば、さっき導く力を腕に注いでくれた人。
 あれは懐かしい父なのだろう。
 幼い自分を高く抱き上げ、くるくると回ってくれていた父。
 きっと父が来て、腕に力を注いでくれた。
 母がいて、それに父もいてくれて…。
(…ママ…。パパ……)
 いつしか消えていた頭痛。
 いなくなっていた、テラズ・ナンバー・ファイブ。
 もう大丈夫、母と父が助けに来てくれたから。
 怖い機械を追い払ってくれて、力も、優しい手もくれたから。
(…ママ、パパ…。ぼく、もう大丈夫だよ…)
 大丈夫、とスウッと眠りに落ちてゆく意識。
 母も父もいてくれるのだから。
 身体はすっかり楽になったし、額には母の柔らかい手もあるのだから…。


 そうして眠って、眠り続けて。
 ぽかりと瞳を開けた時には、其処は見知らぬ部屋だった。
(ママ、パパ…!?)
 何処、と慌てて飛び起きたベッド。
 明かりが落とされた暗い部屋。
 両親を探し求める瞳に、映ったピーターパンの本。
(ぼくの本…!)
 急いでそれをギュッと抱き締めた、大切な宝物だから。
 両親に貰った大切な本で、別れることなど出来はしないから。
(…良かった…)
 あった、と瞳を閉じて、微笑んで。
 本の感触を確かめた後で、開いた瞳。
 両親は何処へ行ったのだろう、と。
 けれど…。


 暗い部屋の中、母かと思った人影。
 父は身体が大きかったから、その細い影はきっと母だ、と。
(…ママ…)
 そう思ったのに、母は其処にはいてくれなくて。
 信じられない思いで見詰めた、まるで思いもよらない人間を。
(…キース……!)
 額から消えてしまった母の手。
 優しい母の手ではなかった、額に貼られた冷却シート。
 忌々しいそれを不快感のままに毟り取る。
 よくもと、よくも騙してくれたと。
 見ればテーブルに、シートの袋と注射器が入った医療キット。
 それでは腕から貰った力も…。
(…パパじゃなかった…)
 愕然とするしかなかった事実。
 最初から母も父もいなくて、助けに来てくれたと思った力と、柔らかな手は…。


「…お前が……」
 そんな、とキースを睨んだ。
 余計なことをと、お前が懐かしい母と父のふりをしたのかと。
「何故だ、何故…!」
 それでは本を抱き締めた姿、あれもキースは見ていたのだろう。
 腹立たしさを叩き付けた言葉に、「何をした?」と返して来たキース。
 「追われているのだろう?」と。
「…知ってて助けた?」
 それも余計だ、と振り払いたくなる母と父とを侮辱したキース。
 たかが注射と冷却シートで踏み躙ってくれた、母と父との優しい思い出。
 だから皮肉な笑みを浮かべた、「…いいんですか?」と。
「マザー・イライザに叱られますよ」
 消えろ、と怒りをぶつけているのに、立ち上がり、ベッドに近付いたキース。
 「何故、マザーに逆らう。何故、そこまでする」と。
 何処までも憎く、腹立たしい男。
 機械の申し子、キース・アニアン。
 その正体はもう、知っているけれど。


 マザー・イライザが創った人形。
 それが自分を救うだなんて、と噴き上げてくる八つ当たりじみた感情と怒り。
 おまけに見られた、ピーターパンの本を抱き締めるのを。
 大切な本と自分の絆までをも、目の前のキースが盗み見てくれた。
 人間ですらもないくせに。
 機械が作った人形のくせに。
 ぶつけられずにいられない怒り、やり場がないから憎まれ口を叩く。
「…あなたらしい殺風景な部屋ですね。息が詰まりそうだ」
 さあ、怒ってみろ。この前みたいに殴ってみろ。
 なのに、挑発に乗らないキース。
 「マザーに逆らうということは、地球に逆らうということだ」と。
 そんな正論、聞きたくもない。


「…ぼくの服は?」
 これ、あなたのでしょう。あなたの匂いがする。…嫌だ。
 キースが着せたのだろうシャツ。
 機械の申し子のためのシャツなど、おぞましいだけ。腹立たしいだけ。
 さあ、怒れ、キース。
 正義面して母と父とのふりをしたキース、お前は要らない。
 ぼくの前から消えるがいい。
 消えてしまえ、と引っ張ったシャツ。
(……ママ、パパ……)
 ごめん、と心で詫びた優しい人たち。
 ママやパパとキースを間違えるなんて、馬鹿だったよ、と。
(…ママとパパなら…)
 助けて貰ったら嬉しいけれども、機械は憎いだけだから。
 機械が作った人形のキース、それに助けられたらしい自分が、ただ不甲斐ないだけだから。
 もうキースにはけして見せない、自分の中身は。
 心を固く覆い隠して、ボロボロにされた身体を怒りと皮肉で厚く鎧って。


 怒るがいい、キース。
 お前の秘密は掴んだから。…お前は機械の申し子だから。
 母も父も、成人検査も知らないキース。
 お前などに心は見せないから。
 ピーターパンの本に書かれた、夢の国への道順は決して教えないから。
 誰だったろうか、自分を本当に救える人は。
 ネバーランドへと飛び立つ翼を背にくれる人は、いつか救いに来てくれる人は。
 そのことも、けして話はしない。
 母と父とのふりをしたキース、こんな男に二度と心は見せないのだから…。

 

         夢が覚めたら・了

※「目が覚めた時は可愛かったのに…」と放映当時は思ったシロエ。豹変したな、と。
 可愛さ転じて皮肉大王。どう転がったらそうなるんじゃい、と考えていたらこうなったオチ。





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「サム・ヒューストンさんの病状ですが…」
 急激に衰弱が進んでいます、と医師に告げられた言葉。
 「此処から動かすのは難しいですか」と尋ねたけれども、「責任は負いかねます」と。
(……サム……)
 思わず噛みそうになった唇。置いてゆくしかないのか、と。
 この星に、友を。…もうすぐ捨てる予定のノアに。
 顔には出さずに堪えたけれど。
 それは容易いことだったけれど。


 医師と別れて、キースが向かった病院の庭。
 サムはパズルで遊んでいた。
 子供に戻ってしまったサムの、お気に入りのパズル。
 こうなったサムと再会した日から、いつでも持っているパズル。
「やあ、サム」
 近付けば、サムは顔を上げ、笑顔になった。「赤のおじちゃん!」と。
 そう、サムから見た自分は「赤のおじちゃん」。
 「キース」とは呼んでくれたことが無い、ただの一度も。
 それでも、サムは友だと思っているから。
 サムの血を固めて作ったピアスと、今日までずっと一緒だったから。
 此処にいる「友」に合わせて微笑む。
 「いい子にしてたか、サム」と。
 今の友が喜ぶだろう言葉で。


 ノアから連れては出られないサム。
 置いてゆくしか道が無い友。
 この星がミュウの手に落ちたならば、もう会えないかもしれないのに。
(…これが最後になるのだろうか…)
 まさか、と振り捨てた弱気な自分。
 ノアが落ちても、サムならばきっと大丈夫だから。
 癪だけれども、サムを壊してしまったミュウたちの長。それがサムの幼馴染だから。
(…サムの身体さえ、持ち堪えたなら…)
 いつか会える日もあるだろう。
 その時、世界はどうなっているか謎だけれども。
 もしかしたら自分は囚われの身で、宇宙の全てはミュウのものかもしれないけれど。
 …それでも自分は進むしかない、そのように創り出されたから。
 マザー・イライザが無から自分を、そのように創り出したのだから。


 サムに話せるなら、全て話してしまいたい。
 自分の生まれも、背負わされた荷も。
 けれど今では、叶わない話。
 サムが壊れていなかったならば、笑い飛ばしてくれただろうに。
 「何やってんだよ」と、「お前らしくもないぜ」と。
(…そうだな、きっとサムなら言うんだ…)
 「お前はお前に決まってんだろ」と、「お前が何でも気にしねえよ」と。
 マザー・イライザが創り出そうが、皆とは違う生まれだろうが。
 何処も少しも変わりはしないと、「俺たち、ずっと友達じゃねえか」と。


 けれども、聞ける筈もない。
 サムの言葉を聞けはしなくて、隣にはサムという名の子供。
 それでもポツリと口にしてみた独り言。
 サムを見舞った時の習慣、けして答えが返りはしないと分かっていても。
 話せば心が軽くなるから、友に打ち明けた気がするから。
「…パルテノンが私に元老となるよう要請して来た」
 そして続ける、いつものように。
 サムが応えるわけもないのに、かつての友が隣にいるかのように。
 「腑抜けた老人たちも、ようやく強力な指導者の必要性に気付いたわけだ」と。
 途端に「凄いや!」と返った答え。
 ハッと息を飲んで友を見詰めた、元に戻ってくれたのかと。
 なのに違った、サムが「凄い」と眺めているのは万華鏡。
 「光がキラキラしながら飛び散ってゆくよ」と。
 返ってくる筈もなかった答え。…単なる偶然。


 フッと苦笑して、また続けた。
「…SD体制に依存した人類は、もうそれ無しでは生きてゆけなくなってしまった」
 自分から檻の中で暮らすことを選んだ者たちの、哀れなる末路だ。
 …それでも私は、この体制を守るしかない。
 そのために生まれたのだから。


 サムには届く筈がない、と紡いだ言葉。
 「そうだねえ…」とサムは返した。
 まるで分かってくれたかのように。
 そのままサムは零したけれど。
 「いつもいつも、パパは勉強しろって、うるさいんだ。…嫌んなっちゃうよ」と。
 やはり通じてはいなかった話。
 けれど、「そうだね」と言ってくれたサム。
 きっとサムなら言うだろう言葉、かつての友ならくれた言葉を。
 それだけでフッと消え失せた重荷。
 サムもそう言ってくれたのだから、と。「そのために生まれたんだよな」と、サムが。


 だから、サムへと向けていた笑顔。
 「サムはいつまでも子供のままなんだな」と、今のサムへと掛ける言葉を。
 「うん」とサムは笑顔で答えた、「ママのオムレツは美味しいよ」と。
 今日は不思議に噛み合う会話。
 傍で聞いたなら、少しもそうではないだろうけれど。
 自分は独り言を話して、サムも心のままに話して。
 それを会話と言いはしなくて、ただ隣り合っているだけのこと。
 別の世界の住人同士で、世界はけして交わりはしない。
(…だが、今日は…)
 サムと話している気がする。
 時の彼方から、かつての友がヒョイと覗いて。
 「どうしたんだよ」と、「元気出せよ」と。
 そんなことなど、有り得ないのに。
 起こる筈もないと、知っているのに。


(……不思議だな……)
 何度もサムを見舞ったけれども、今日まで一度も無かったこと。
 ほんの偶然の重なりとはいえ、「サムが応えた」と思うようなこと。
 夕陽が庭を照らし出す中、偶然でもいいと思えた出来事。
 サムは答えてくれたのだから、と。
 そうしたら…。
「あっ、小鳥!」
 木の枝に三羽、白い小鳥が並んで止まった。
 嬉しそうに見上げ、立ち上がったサム。小鳥の方へと歩き出して。
 そして数えた、三羽の鳥を。
「キース、スウェナ、ジョミー…」
 昔語りか、と自分も同じに白い小鳥を見上げたけれど。


「みんな、元気でチュかー!」
 そう叫んだサム。
 思わずアッと見開いた瞳、それは本当にサムだったから。
 遠い昔に、「元気でチューか?」と、サムは確かに言ったのだから。
 教育ステーションで共にいた頃、ナキネズミのぬいぐるみを握りながら。
 「元気でチューか?」と。
 自分も真似てサムを見舞った、ぬいぐるみを手に。
 「元気でチューか?」と、「難しいものだな。サムのようにはなかなか出来ない」と。
 あの時、笑ってくれたサム。
 「お前、最高!」と、「メチャメチャ癒されるぜ」と。
 そう、あのサムでしか有り得ない。
 「元気でチューか?」と言えるのは。
 たとえ小鳥が相手であっても、サムは確かにサムだったのだ、と。


(……サム……)
 お前なんだな、と座ったままで見ていた友。
 さっき確かに其処にいたな、と。
 それでは自分の言葉に答えていたのもサムだったろうか。
 「凄いや!」と、それに「そうだねえ…」と。それから、「うん」と。
 神は奇跡を起こしただろうか、サムに会わせてくれたのだろうか。
(……そんなことが……)
 ある筈がない、とはもう思わない。
 自分はサムを見たのだから。「元気でチューか?」と小鳥に呼び掛けたサムを。
 奇跡なのか、と驚く自分の隣で、戻って来たサムが手に取ったパズル。
 お気に入りのパズル。
 それを「あげる」と差し出したサム。
 「みんな友達」と。
 サムの笑顔と、貰ったパズル。


「……友達か……」
 呟いた言葉に、サムは応えなかったけれども。
 自分は答えを得たのだろう。
 時の彼方から来てくれたサム。
 ほんの僅かな時だったけども、サムは此処まで来てくれたから。「元気でチューか?」と。
 サムが友だと言ってくれるなら、「みんな友達」と今でも言ってくれるのならば。
(…キース、スウェナ、ジョミー…)
 置いて行っても大丈夫だぜ、とサムは教えてくれたのだろう。
 「ジョミーも俺の友達だから」と、「心配しないで置いて行けよ」と。
 お前はノアを離れていいぜと、ジョミーも俺の友達だから、と。
(……そうなんだな? サム……)
 ならば行こう、とパズルを手にして立ち上がった。
 旅立つ自分にサムが贈ってくれた餞、それが大切なパズルだから。
 それと一緒にノアを旅立とう、サムは「行けよ」と背中を押してくれたのだから。


 そのために自分は生まれて来た。
 人類を、SD体制を守るためだけに。
 「そうだねえ…」とサムも言ってくれたから。
 そのために生まれたことを、使命を、サムは否定はしなかったから。
 「元気でチューか?」と、時の彼方から戻って来て。
 お前ならきっと大丈夫だぜと、サムは言いに来てくれたのだから…。

 

        友がくれた言葉・了

※いや、これってそういうエピソードだよな、と思うわけですが。…深読みしすぎ?
 放映当時は「今回、ミュウ側はスルーですかい!」と呆然だった自分。人生、謎だわ…。





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(…シロエ。いったい誰に…何をされた?)
 覗き込んだベッドの上。苦痛のためか、汗の浮かんだシロエの顔。
 灯りが落とされたステーションの中庭、自分を呼び止めたのはシロエだけれど。
 「とうとう見付けましたよ、キース。…あなたの秘密をね」と。
 けれど、意識を失ったシロエ。
 続きを口にする前に。
 それにシロエが座っていた場所、外された通風孔の蓋。
 シロエは其処から出て来たのだろう、誰かに追われて。
 このステーションで追われることがあるなら、追っている者は…。
(…マザー・イライザ…)
 他には誰も思い付かない。マザー・イライザしかいない。


 だからシロエを連れて戻った。自分の部屋に。
 シロエが口にした「あなたの秘密」も、気掛かりでならないことだけれども。
 それよりも気に懸かるシロエのこと。
 いったい誰に何をされたか、どうして追われることになったか。
(…マザー・イライザに…)
 逆らいすぎただろうか、シロエは。
 優等生のくせに、システムに対して反抗的。要注意人物の指示さえ出ていたシロエ。
 彼ならば何かやるかもしれない、マザー・イライザの不興を買いそうなことを。
 こうして追われることになろうとも、自らの意志を貫き通して。
(…目を覚まさない内は、何も分からないか…)
 少しでも身体が楽になるよう、注射と、額に冷却シート。
 後は目覚めを待つよりは無い。
 シロエの意識が戻って来るまで。


 そうしてベッドの脇に座って、ふと目を留めたシロエの枕元。
 何の気なしに置いてやった本、シロエがしっかりと抱えていた本。
(…ピーターパン…?)
 そんなに大事な本なのだろうか、ずいぶんと古いこの本が。
 作られてから何年経っているのか、何度も繰り返し読まれたらしい古び方。
 いつから持っていたのだろうか、と眺めたけれど。
(…馬鹿な…!)
 有り得ない、と見詰めたシロエの持ち物。
 自分は覚えていないけれども、成人検査を受ける時には、荷物を持ってはいけない決まり。
 身に着けていた服や小物などなら、そのまま通過出来るのだけれど…。
(こんな本だと…)
 成人検査を通過出来るとも思えない。
 それともシロエは懸命に抱え、手放すまいとしたのだろうか。
 彼を此処まで連れてくる時、意識は無くとも、本を抱えたままだったように。


(…まさか…)
 本当にそうやって持って来たのか、と手に取った本。
 ステーションでこれほどの時を経て来た本だというなら、ライブラリーの蔵書だから。
 背表紙にそれを示す印が刻み込まれている筈だから。
(……無い……?)
 其処に見慣れた印は無かった。
 ライブラリーの本の現在位置をも知らせる筈の、その刻印は。
(…やはり、シロエの…)
 本だったのか、と驚いたそれ。
 興味が出て来た、古びた本。
 どうしてシロエは今も大切に持っているのか、ステーションまで持って来たのか。
 どういう中身の本なのだろうか、ピーターパンは。
(…だが、シロエのだ…)
 これは読むまい、と枕元へと戻してやった。
 シロエが大切にしている本なら、勝手に中を見てはいけない。
 幼い頃から持っていたなら、なおのこと。


 中を見ずとも、答えは得られる。
 ライブラリーのデータベースにアクセスしたなら、恐らくはきっと。
(…マザー・イライザに気付かれないよう…)
 注意せねば、と心を落ち着け、呼び出した画面。
 「ピーターパン」とタイトルを打ち込み、出て来たデータを読み進めたら…。
(…子供たちだけの世界で生きる少年…)
 永遠に年を取らない少年、それがピーターパンだった。
 なんと危険な本なのだろうか、この社会では大人になることを拒めはしない。
 そういう意思を表示したなら危険思想で、心理検査も免れないのではなかったか。
(……要注意人物……)
 それでは、シロエはこの本のために、禁を犯して追われたろうか。
 大人にならない永遠の少年、ピーターパンのように生きていたいと願ったろうか。
 シロエがその目を覚まさない内は、その胸の中は分からないけれど。
 心の中まで覗き見ることは、人間の身では出来ないけれど。


(…マザー・イライザなら…)
 人の心を覗けるのだった、だからシロエも見付かったろうか。
 ピーターパンのように生きてゆこうと、逆らい続けて、何かをして。
 「見付けましたよ」と言った秘密とやらを、ステーションの何処かで掘り起こして。
 そして追われて、それでも離さなかった本。
 幼い頃から大切に持って、成人検査も本を持ったままくぐり抜けて来て、そして今まで。
 何があろうとも離すものかと、懸命に本を抱え続けて。
(…そんなに大切な本だったのか…)
 開いて読まなくて良かったと思う、あの本はシロエの宝物だから。
 もしかしたら命さえも投げ出すくらいに、あの本と共にとシロエは願っているだろうから。
(……シロエが起きたら……)
 訊いてみようか、「その本はとても面白いのか?」と。
 シロエが暴いた秘密とやらも気になるけれども、それよりも、本。
 やっとシロエの心の欠片を掴んだように思えるから。
 システムに逆らい続ける理由を、垣間見たような気がするから。


 …訊いてみようか、シロエの意識が戻ったならば。
 彼に話す気があったとしたら。
 「その本はずっと持っているのか?」と、「いつから持っていたんだ?」と。
 自分の秘密も気になるけれども、シロエの心も気に懸かるから。
 機械を、システムを憎み続けるシロエの心。
 それが何故なのか、訊きたいから。
 システムへの疑問は自分も同じに持っているから、それをシロエと話してみたい。
 「その本はとても面白いのか?」と、「危険思想に見える本だが、楽しいのか?」と。
 シロエの意識が戻ったら。
 彼が自分と話してもいいと、そう考えてくれるのならば…。

 

        訊いてみたい本・了

※ピーターパンの本、キースが渡した筈なんですよね、逮捕しに来た警備員たちに。
 大切な本だと気付いたからこそだよな、と考えていたら、こんな結果に…。





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「やあ、サム。具合はどうだ? こうして君と会うのは何年ぶりかな」
 …もう十二年になるか、とキースが語りかけた友。
 今は病床にあるサム・ヒューストン。教育ステーションで出来た友人。
 あの頃は、いつも一緒だった。
 十二年ぶりに顔を合わせても、「ああ、サムだ」と直ぐに思えたほどに。
 けれども、サムは…。
「覚えているか、私のこと。…キース・アニアンだ」
 そう名乗ったのに、何も返らなかった反応。
 サムはこちらを見もしなかった。
 白いベッドに座ったままで、病院のものだろうパジャマのままで。
 機嫌よく歌を口ずさみながら、子供用のパズルを弄りながら。


(……地球……)
 サムが歌っている、「地球」と何度も繰り返す歌を。
 共にステーションにいた頃、いつかはと皆が夢を見ていた星の名前を。
 未だ、自分も目にしてはいない。
 メンバーズ・エリートに選ばれた今も、地球は未だに見られないまま。
 サムはもう、行けはしない地球。
 事故で失くしてしまった記憶。壊れてしまった、大人の心。
 幼い子供に戻ったサムは、もう二度と地球を目指せはしない。
 それは分かっていた筈なのに。
 病室に来る前に聞いた説明、残酷に過ぎる真実を医師に告げられたのに。
(…サム…)
 本当に分かっていないのだろうか、サムには何も。
 訊いてみたなら、何か答えが返りそうなサム。
 今はこちらを見ていないだけ。
 サムと視線を合わせたならば、瞳を覗いて尋ねたならば。


 ジルベスターへ旅に出ると話しても、まるで反応が無かったサム。
 其処で事故に遭い、今は病室にいるというのに。
「サム、ジルベスターで何があった?」
 …君は辺境星区の輸送船に乗っていたんだ、とサムの頬に触れ、瞳を覗き込んでみた。
 何か記憶が戻って来るかと。
 なのに微笑み、「おじちゃん、誰?」と訊き返したサム。
 彼の中には、もはや自分はいなかった。
 かつて「友達」と呼んでくれたサムは、「友達」のキースを忘れていた。
 サムの瞳に映る自分は、「知らないおじちゃん」。


 あまりにも悲しすぎた再会。
 十二年ぶりに会えた友。こういう姿になってしまうなど、誰が想像しただろう。
 ステーションを卒業する時、「また何処かで」とサムと別れた。
 メンバーズの道を進む自分と、パイロットの道をゆくサムと。
 互いの道は分かれたけれども、いつか会える日が来るのだろうと。
 きっと互いに顔を見るなり、気付いて名前を呼び合うだろうと。
(……サム……!)
 メンバーズとして、常に殺して来た感情。
 冷徹な破壊兵器と呼ばれたくらいに、誰にも見せない自分の心。
 それが波立つ、激しい怒りに。
 抑え切れない、深く悲しい憤りに。


 気付けば、サムの肩を掴んで揺さぶっていた。
「しっかりしろ、サム! 思い出せ、なんでもいい!」
 覚えていることを全部話せ、と感情のままに揺さぶった肩。
 サムの手を離れて転がったパズル、サムの心はパズルへと向いた。
 自分を押しのけ、「あっ、駄目、逃げちゃ!」と。
 床にしゃがんでパズルを掴むと、「捕まえた…」とホッとした笑顔。
 そのまま二人で床に座って、サムの話を聞き続けた。
 子供に戻ったサムにとっては、此処はアタラクシアなのだろう。
 サムの故郷のアタラクシア。
 嬉しそうにサムが話し続けるのは、両親や学校、幼馴染といった故郷のことばかり。
 マザーが消した記憶が戻って、それよりも後の全てが消えた。
 サムの中から、一つ残らず。
 友達だった自分の顔すら、サムは覚えていてくれなかった。


 「バイバイ、またねー!」と手を振ったサム。
 ベッドに座って、明るい笑顔で。
 多分、自分はサムに懐かれたのだろう。
 友達だったからではなくて、サムの話を一つずつ聞いては、頷いたから。
 医師や看護師たちとは違って、同じ視点に立っていたから。
(……サム……)
 友の変わりように、ざわめく心。
 湧き上がってくる怒りの感情。
 顔に出さないように抑えて、出て来た病棟。
 其処にいたスウェナ、聞かされた思いがけない名前。
(…セキ・レイ・シロエ…)
 彼の名前も十二年ぶりになるのだろうか。
 シロエが乗った練習艇。それをこの手で撃ち落としてから。


(…私宛のメッセージがあっただと…?)
 まさか、そんなことがある筈もない。
 あの状態でシロエが自分に、何かを遺せた筈もない。
 だから、スウェナが言っていたことはハッタリだろう。
 メッセージではなくて、せいぜい、遺品。
 「ピーターパン」とスウェナは口にしたから、シロエの本でも見付かったのか。
 遠い日に「これを」と、警備員たちに渡した本。
 匿っていた部屋から、運び去られてゆくシロエ。彼に持たせてやって欲しい、と。
(…爆発の中で、あの本が…?)
 残るとも思えないのだけれども、そのくらいしか思い付かない。
 シロエの遺品で、ピーターパンなら。


 今日は思い出ばかりの日だな、と零れた溜息。
 友達だったサムはいなくなってしまい、シロエも時の彼方に消えた。
 どちらにも、多分…。
(…ジョミー・マーキス・シン…)
 彼が関わっているのだろう。
 シロエが練習艇で逃亡した日も、彼のメッセージを聞いた。
 サムはM絡みの事故で全てを失くした、これから向かうジルベスターで。
 もはや憎しみしか感じないM。
 ミュウの長、ジョミー・マーキス・シン。
(それがサムの幼馴染だとは…)
 なんという酷い冗談だろうか、こんな話があっていいのか。
 けれども、動かし難い現実。
 シロエはともかく、サムの心を壊したのはM。
 サムが懐かしそうに話した、幼馴染がサムを壊した。
 ただ一人、友と思ったサムを。
 いつか会えたらと、「また何処かで」と、十二年前に別れたサムを。


(…サムが私を忘れていても…)
 やはり今でも、友だと思う。
 そうでなければ、あんなサムの側で話を聞いてはいないから。
 任務があると、直ぐに立ち去っていただろうから。
(…サムは一緒に来てくれたんだ…)
 今も忘れない、ステーションで起こった宇宙船の事故。
 サムだけがついて来てくれた。
 あの時、サムがいなかったならば、自分は此処にいられなかった。
 パージの時にぶつけた衝撃、それで壊れてしまったバーニア。
 宇宙の藻屑になる所だった、サムが助けに来なかったなら。
(…サムだけが…)
 ついて来てくれて、それからもずっと友達だった。
 一緒の食事や、他愛ない話。
 サムがいたから、きっと人らしく、自分は生きていられたのだろう。
 ステーションで過ごした四年間を。


 その友を、Mが壊してくれた。友の心を、サムの全てを。
(…Mの拠点へ、礼に行くなら…)
 もしも相棒を選んでいいなら、パイロットにサムを選びたかった。
 今となっては選べないけれど、サムはもう船を操ることなど出来ないけれど。


 そう、相棒を一人選んでいいなら、迷わずにサムを選んだだろう。
 Mの拠点へ出掛けるにしても、他の任務に就くのだとしても。
 自分が此処に生きていられるのは、サムが一緒に来てくれたから。
 危うく宇宙に消える所を、サムが救ってくれたから。
 そのサムと共に旅に出ようか、ジルベスターへ。
 これからはサムと生きてゆこうか、Mとの戦いが始まるとしても。
(…サムだけが友達だったんだ…)
 他には誰もいなかった。
 心から友と呼べる者など、ただの一人も。
 サムは壊れてしまったけれども、友達だから。
 選んでいいなら相棒にしたい、ただ一人だけの友達だから。


 そうして、耳に留めつけたピアス。
 サムの血を固めた、赤いピアスを両耳に。
(…行こうか、サム。…ジルベスターへ)
 「おう!」と声が聞こえた気がした、耳に馴染んだ懐かしい声が。
 病院で会ったサムがそのまま、立派な大人に戻った声が。
 何処までもサムと共にゆこうか、Mの拠点へ、そのまた先へ。
 いつかは共にパルテノンへも、サムが歌った遠い地球へも。
 選びたいのは、サムだけだから。
 相棒に一人選んでいいなら、迷わずにサムを選ぶのだから…。

 

         友の血と共に・了

※キースのピアスまで考察しちゃってどうするんだよ、と自分にツッコミ。
 書きたくなったら何でも書くけど、テメエ、専門はMの元長だったろうが、と!





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