「ブルー…。地球へ行って来ましたよ…」
あなたの選んだジョミーが、立派に皆を導いて…。
青の間で祈るフィシスだけれども、その心はかなり複雑だった。
ハッピーエンドの未来どころか、辿り着いた地球は青くもなかった有様。
挙句にジョミーも、長老たちも皆、死んでしまって、地球は燃え上がってズタボロで…。
(…あんな筈ではなかったのに…)
もっと幸せな未来があると信じて行ったのに、と涙を零して祈っていたら。
「マザー?」
「…女神様?」
あのね、と現れたカナリヤの子供たち。「お祈りの邪魔して、ごめんなさい」と。
「いいのよ、何か用事でしょう?」
「えっとね…。これ、女神様の?」
落ちていたから、と差し出された物は古ぼけたランプ。金色でエキゾチックな形の。
「私のじゃないわ。でも、何処に…?」
「公園。…それに、みんな知らないって」
「誰も見たことないって言ってた、此処では。だから…」
女神様と一緒に来たんでしょ、と子供たちはランプを残していった。
「きっと地球から来たランプだよ」と、「地震で落ちて来たんだと思う」と。
(これが地球から…?)
置いてゆかれても困るのだけど、と手に取ったランプ。
けれども、地球から来たと言うなら、皆の形見でもあるわけだから…。
(忘れないように、持っているべきかしら…?)
地球に行って来た思い出に、と眺めたランプは、少し汚れているようで。
サイオンの目で見ても分かるほどだし、綺麗にせねば、と袖で汚れを拭っていたら…。
「お呼びですか、ご主人様?」
ボワンと昇った白い煙と、いきなり出て来た妙な衣装の人間と。
曰く、ランプの精だとか。
長い年月、地球の地の底に埋まっていたらしい魔法のランプ。やっと出られたということで…。
「願い事を三つ…?」
「はい、どのようなことでも叶えますが」
ランプの精がそう言うのだから、思わず知らず尋ねてしまった。
「人生、丸ごとやり直せますか?」と。
「丸ごと…ですか?」
「そうです。…あまりに酷すぎたので…」
せめて地球だけでも青かったなら、と零れた涙。「ブルーのためにもやり直したい」と。
「なるほど…。出来ないことはないですが…」
人生、別物になりますよ、と刺された釘。それでもやり直したいですか、と。
「もちろんです。…ブルーが夢見た青い地球があると言うのなら…」
そのためなら私は耐えてみせます、とフィシスの覚悟は天晴れだった。
どんな人生になっても受け入れましょう、と。
「分かりました。…それが一つ目の願いですね?」
「ええ」
「では、どうぞ。青い地球のある人生です」
やり直して下さい、とボワンと煙が昇って、ハッと気付いたら…。
「また占いかい?」
懐かしい声が聞こえたけれども、何かおかしい。
(…ブルーの声…?)
こういう響きだったかしら、とタロットカードを繰る手を止めて、振り返ってみると。
「ソルジャー・ブルー!?」
あなたですか、と思い切り引っくり返った声。
其処にいたブルーは、ブルーだったけれど、まるでブルーではなかったから。
別人なのかと思うくらいに立派すぎるガタイ、儚いどころか立派に美丈夫。あまつさえ、髪まで銀色ではなくて、無理やり銀だと言えば言えるような…。
(……水色ですって!?)
この人は誰、と叫び出したい気分だけれども、目の前にいるのはソルジャー・ブルー。
もう間違いなくソルジャー・ブルーで、自分の方でも「ソルジャー・ブルー」と呼んでいて。
(…人生、別物って、こういうことなの!?)
ブルーまで、まるっと別物じゃないの、と苦情を言おうとしたのだけれど。
(……出て来ない……?)
ランプの精はいなかった。二つ目の願いで取り消したくても、いないのでは…。
仕方ないから、そのまま生きた。
ガタイのいいブルーはアッと言う間に死んでしまって、ナスカまで持ちはしなかった。
おまけに、これまた素敵にガタイがいいのがジョミーで、ガタイの良さにモノを言わせて…。
(ジョミーがカリナと結婚ですって!?)
そんな、と悲鳴を上げたけれども、本当に結婚したジョミー。
ついでに生まれた子供がトォニィ、グラン・パどころか、パパなのがジョミー。
そうこうする間に、やっぱり壊れてしまったナスカ。
ジョミーはと言えば、その時のショックでヒッキーになって、トォニィが仕切り始めた船。それでもなんとか辿り着いた地球は、青かったけれど…。
(…やっぱりこういう結末なんだわ…)
ジョミーは死んで、トォニィたちは青い地球を捨てて旅立って行った。シャングリラとは似ても似つかない、サザエの壺焼きみたいな船で。
(こんなのは望んでいないのだけれど…!)
青い地球なのに、どうして上手くいかないの、と座り込んでいたら、目の前にランプ。
(やり直さないと…)
まだ願い事は二つあるから、と袖で擦ると、ボワンと出て来たランプの精。「如何ですか?」と自信満々、やり遂げたつもりでいるようだから。
「何かが違うわ、違い過ぎるわ!」
何もかもよ、と絶叫したら、「そうですか…」と返った声。
「劇場版の世界は駄目でしたか…」
「…劇場版?」
「そうです、これもあなたの人生ですが…。もちろん、他の皆さんもです」
ソルジャー・ブルーも、ジョミーも、トォニィもです、と言い切られたから、ブチ切れた。
「いいえ、あんなのはブルーじゃないわ! ブルーを返して!」
「…それが二つ目の願い事ですか、青い地球つきで?」
「そうよ、人生は別物でいいから!」
綺麗だったブルーを返して頂戴、と叫んだ途端に、ボワンと煙。そして…。
「また占いかい?」
今度は違和感が無かった声。
「ソルジャー・ブルー?」と振り返ったら、儚げなブルー、ちゃんと銀髪の。ただ、瞳が…。
(…緑色なの?)
ちょっと違うわ、と思ったけれども、サイオンを使う時には赤くなるから、良しとした。それに何度も着替えてくれるし、とても素敵だと思っていたのに…。
(そんな…!)
さっきの人生と同じじゃないの、と愕然とさせられたブルーの寿命。
アッと言う間に逝ってしまった、全てを若いジョミーに託して。沢山の薔薇の花に囲まれて。
(酷すぎるわ…)
ナスカまで一緒にいてくれるのではなかったの、と涙を流しても戻らないブルー。
それにランプの精も来てくれないから、そのまま生きた。
酷い人生になるのでは、とガクブルしながら、今度はいったいどうなるのかと。
今度のジョミーは、カリナと結婚しなかったけれど、子供の姿のままだった。十四歳の姿を保ち続けて、そのままナスカに行ったのだけれど…。
(…やっぱりナスカは…)
燃えてしまって、ジョミーがショックで失くしてしまった視力と聴力、話す力も。
とはいえ、ヒッキーになりはしなくて、青い地球まで皆を指揮して頑張ったジョミー。
(…ブルーの命は短かったけれど…)
さっきよりかはマシかしら、と考えていたら、とんでもない結末が待っていた。激しい地震に、火山の噴火。揺れ動く地球は鎮まる気配も見せないままで…。
(私以外は、死んでしまったの…!?)
誰もいないわ、と呆然と座り込んでいるのに、その手に、次から次へと縋り付く人類。
「その手を下され」と、「女神様」と。
どうやら心が安らぐらしくて、それ自体はかまわないけれど…。
これも違う、と悲しんでいたら、いつの間にやら現れたランプ。
(やり直せるわ…!)
願い事は一つ残っているから、元の世界に戻ればいい。
地球は青くはなかったけれども、ブルーの寿命は長かったから。眠ったままでも、ナスカまで生きていてくれたから、と擦ったランプ。
…ボロボロになった袖で、「元に戻して」と。
ボワンと煙で、ランプの精が出て来て、困り顔で。
「原作の世界も駄目でしたか…」
「…原作ですって?」
「そうです、この世界が本来の世界なのですよ」
これを元にして、劇場版とアニテラというのがありましてね…、という説明。
魔法のランプがあった世界はアニテラの世界、其処へ戻せばいいのですか、と。
「あそこでいいわ! 今やった二つの人生よりかはマシよ!」
ブルーの寿命は長かったのだし、変なブルーでもなかったし、と「私を元の世界に戻して」と、三度目の願いを口にしたのに。
「…お待ち下さい」
世界は三つだけではありませんよ、とランプの精は親切だった。
青い地球が待っている世界もあれば、ブルーが死なない世界もある、と。
「それは本当なの?」
「ご主人様に嘘をついたりしませんよ。ただ…」
本家本元は三つなんです、と解説してくれたランプの精。それを元にして構築された二次創作とかいう世界があって、其処にだったら何でもある、と。
「だったら、ブルーが死なない世界がいいわ」
三つ目の願いで其処に行くわ、と意気込んだフィシスだったのだけれど。
「…ソルジャー・ブルーの恋人が男でも、耐えられますか?」
「恋人…?」
「そう、恋人です。ジョミーだったり、ハーレイだったり、それは色々と」
もちろん、中には、そうでないのもありますが…。
生憎と二次創作の中から私が選べば、それが三つ目の願いでして、と顔を曇らせたランプの精。選んだ時点で願いはおしまい、其処に連れては行けないのだ、と。
「…それじゃ、私はどうすればいいの…?」
「元の世界に戻すことなら出来ますよ。けれど、ハッピーエンドをお望みならば…」
一つ選んで御指定下さい、という声を残してランプの精は消えていた。
気付けばフィシスは、図書室のような部屋にいて…。
(…この本は…?)
ギッシリと詰まった、薄い背表紙ばかりの本。
一つ取り出したら、「R-18」という意味不明の文字、けれど表紙にブルーとジョミー。
(これも世界の一つなのね?)
どんなのかしら、と開いた本では、ブルーがジョミーの恋人だった。ジョミーにキスされ、それだけでは終わってくれなくて…。
(……………)
とんでもないわ、と唖然呆然、けれどブルーは死なないらしい。地球に着くまで。
(…ランプの精が言っていたのは…)
これだったんだわ、と思わず最後まで読んでいた本。いわゆるBL、ジョミブルという括りの同人誌の一冊、他にも色々あるようだから。
ブルーの恋人はジョミーだったり、ハーレイだったり、キースだったりするようだから。
(…端から読んだら、一冊くらいは…)
私の望み通りの世界が見付かるかしら、とフィシスは挑む決意を固めた。
ランプの精がドカンと山ほど出してくれた本、それを読破して、ハッピーエンドを探そうと。
(ブルーが死ななくて、青い地球があって…)
それでブルーにヘンテコな恋人がいない話がいいわ、と額にキリリと締めた鉢巻、どれか一つを選ぼうと。ハッピーエンドを見付け出そうと。
(頑張らなくちゃ…)
元の世界よりも素晴らしい世界がきっとある筈、とフィシスはページをめくってゆく。
R-18と書かれた文字にも負けないで。「ブルー総受け」にも、へこたれないで。
きっといつかは辿り着けると、ブルーのためにも見付けなければ、と。
青い地球がある結末を。
ブルーが死なずに地球を見られる、ハッピーエンドの素晴らしい世界。
それを見付けたら願い事だと、きっとある筈、と同人誌を山と積み上げながら…。
三つの世界・了
※フィシス、同人誌に挑むの巻。いや、劇場版は色々と違い過ぎた、と思っていたら…。
こういう話が浮かんで来たオチ、三つの願いがあれば色々出来るよね、と!
2月2日の貴腐人様に捧ぐ。