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パクりたい頭脳

(早く大きくならないと…)
 とにかく早く、と急ぐトォニィ。子供のままではジョミーの役に立てないから。
 ナスカでそれを痛感した。「まだ駄目なんだ」と、「このままじゃ駄目だ」と、子供なことを。
 ソルジャー・ブルーが防ごうとしたメギドの劫火。
 ジョミーも飛び出して行ったけれども、トォニィもまた飛び出した。他のナスカの子供たちと。
 それなのに救い損ねたナスカ。足りなかった力。
(あの時、ブルーが…)
 こう言ったのを覚えている。「こんな小さな身体で、あんな力を使ったんだ。無理もない」と。
 つまり、小さすぎた自分たち。ブルーや、大好きなグランパよりも。
(もっと大きく育っていたら…)
 力だって強くなっていた筈。ブルーやジョミーに匹敵するほど、もしかしたら、それ以上にも。せっかく急いで成長したのに、全部で七人もいたというのに…。
(子供だったから…)
 守れなかったんだ、と悔しくなる赤いナスカのこと。自分が生まれ育った星。
 ミュウの仲間も大勢死んだし、ジョミーは人が変わったかのよう。アルテメシアに向かうと皆に告げた後には、笑顔も封印してしまって。
 ジョミーが決意を固めたのなら、今度こそ自分も役に立ちたい。大きくなって、それに似合いの強いサイオンを手に入れて。
(今日も育った…)
 昨日よりも、と眺めた「合わなくなった」制服。
 「ナスカの子たちは特別だから」と、大好きなグランパが命じて作らせた。他の仲間とは、全く違う制服を。色も、もちろんデザインだって。
 日に日に大きくなってゆくから、すぐにサイズが合わなくなる。自分のも、他の子供たちのも。
(じきに大人になるんだから…)
 もう少しだよ、と思うけれども、そこでハッタと気付いたこと。身体はともかく、脳味噌の方はどうだろう。ちゃんと育っているのだろうか?


(えっと…)
 サイオンはぐんぐん強くなるから、育っているのは間違いない。そう、脳味噌は。
 ただ、問題はその中身。実年齢はまだ三歳なわけで、ツェーレンなんかは一歳にもなっていない現実。見た目は立派に少年少女で、大人になる日も近そうだけれど…。
(…養育部門の言葉で言ったら、幼稚園児の団体で…)
 まだそれだよね、と愕然とした。
 シャングリラの中に幼稚園は無いのだけれども、赤いナスカにも無かったけれど。色々な知識を教えるためにと、ヒルマンがナスカに降りて来ていて…。
(君たちは幼稚園児だね、って…)
 穏やかな笑顔で何度も言った。まだまだ子供で、「学校」に行くなら六歳だ、とも。
 人類の世界にはある「学校」。
 シャングリラでも、昔は真似ていたという。自然出産で生まれた子供ではなくて、救出して来たミュウの子供たち。彼らを養育する時に。
(六歳になるまでは幼稚園児で、勉強も無くて…)
 集団生活を学んでいただけらしい。ナスカで育った自分も同じで、興味のあることだけを教えて貰った。「この字は、なんて読むの?」だとか。「この絵の動物の名前は何?」とか。
(…あれっきり、勉強していないんじゃあ?)
 もしかしなくても、そうなんじゃあ…、と遅まきながら悟った現状。
 他のミュウたちは弱すぎるから、と頭から馬鹿にしていたお蔭で、ヒルマンの所にも一度も顔を出してはいない。「あんな爺さん、何の役にも立たないんだから」と。
 けれど、ヒルマンの頭の中身。「教授」と渾名がつくほどなのだし、博識なのは間違いない。
(…ヤバイ…)
 あの爺さんと比べたら自分の知識は無いも同然、他のミュウとでも雲泥の差。なにしろ、誰もが教育を受けて来たのだから。このシャングリラで、出来る限りの教育を。


 とってもマズイ、と思った頭。自分の知識。
(力ばっかり強くったって…)
 ぼくは子供だ、と眺めた自分の部屋の中。其処はまるっきり子供な雰囲気、ベッドの上には他の子供たちもお気に入りの携帯ゲーム機だって。
(うーん…)
 ゲームくらいは大人の仲間もやっているけれど、自分は大人と言えるだろうか。なんと言っても中身は三歳、人類の世界の成人検査の年には十一歳も足りない。
(それに学校、行っていないし…)
 だけど今更行けないし、というのがツライ。
 船の仲間たちも、「教授」なヒルマンも、「あんな奴ら」と散々小馬鹿にしまくった後。デカイばかりで何の役にも立ちやしない、と。
 それをやった後で、どの面さげて「教えて下さい」と言えるだろう?
 上から目線で「爺さんかよ」と、嘲り笑ったヒルマンに。養育部門のスタッフたちに、あるいは密かに頭がいいと噂のヤエに。
(…絶対、無理だ…)
 頼んでも却下されそうな上に、こちらにだってプライドがある。「アンタたちより、遥かに船の役に立つんだ」と自負する強いサイオン。とても頭は下げられない。
 そうは言っても放置のままだと、このまま身体だけ大人になって…。
(ドキュンだっけ?)
 前に誰かが叩いた陰口。こちらの方をチラリと眺めて、思念波でコソコソ囁き合って。
 確か「DQN」とかいうブツ。そう書いて「ドキュン」と読むらしい。
(思いっ切り馬鹿で、救いようのないド阿呆で…)
 その「DQN」だと言われた理由がやっと分かった。今のままだと間違いなくドキュン一直線。身体ばかりが大きく育って、自分もアルテラも、タージオンたちも、みんな纏めて…。
(ドキュンの集団…)
 それになるんだ、と覚えた恐怖。その日は遠くないんじゃあ、とも。


 なりたくはないドキュンなるもの。「DQN」と皆に指される後ろ指。
(でも、学校には行けないし…)
 どうすれば、と頭を抱えた所で閃いた。「そうだ、頭だ!」と。
 大好きなグランパが着けているもの、ソルジャー・ブルーが遺した補聴器。
 何故、聴力は普通の筈のジョミーがあんな補聴器を、と不思議に思っていたのだけれども、謎はある時、綺麗に解けた。補聴器だけれど、記憶装置を兼ねているのがアレらしい。
(アレを借りたら、ソルジャー・ブルーの記憶が全部…)
 ぼくのものに、と見えた光明。
 三世紀以上も生きていたのがソルジャー・ブルーで、知識の量は半端ない筈。そいつをまるっとコピーしたなら、ドキュンどころかもう最高の…。
(凄い頭が手に入るんだ…!)
 自分がそれをゲット出来たら、後は簡単。
 ミュウは思念波で一瞬の内に知識を伝達できる生き物、アルテラたちにも伝えればいい。自分が優位に立ちたかったら、伝達量、ちょっと控えめにして。
(ぼくがリーダーなんだから…)
 やっぱり一番賢くないと、と子供ながらに考えた。「全部教えたらマズイよね?」と。
 ソルジャー・ブルーの膨大な知識をパクるのだったら、その使い方も分かるだろう。仲間を導く立場に立つなら、どれが重要な知識なのかも。
(とにかく、ブルーの記憶をコピーで…)
 後は出たトコ勝負でいいや、と立てた作戦。今夜ジョミーが眠りに就いたら実行だ、と。
 眠る時には補聴器を外すだろうし、その間にチョイと借りればいい。でもって中身を自分の頭に叩き込んだらオールオッケー、と。


 そして訪れた決行の時。虎視眈々と自分の部屋から狙う間に、眠ったジョミー。思った通りに、あの補聴器を外してくれた。ベッドサイドのテーブルに置いて。
(よし、今だ…!)
 貰ったあ! と瞬間移動で補聴器ゲットで、すぐに装着した頭。「善は急げ」と。
 たちまち流れ込むジョミーの記憶と、それよりも前のブルーの分と。なんとも美味しい、直ぐに賢くなれるモノ。一人前の大人の考え、それから知識。
 けれど…。
(…これ、ぼくだ…!)
 ブルーがぼくを助けた時だ、と出くわした記憶。時系列に沿って遡るから。
 話には聞いていたのだけれども、ブルーは思念も紡げないくらいに弱った身体で、ナキネズミの力を借りて助けを求めていた。「子供が一人、仮死状態だ」と。
 ブルーだって、とても苦しいのに。死にそうなほどに弱っているのに、仮死状態の子供優先。
 そうだったのか、と思う間もなく、その前の記憶が降って来た。
 キース・アニアンがブン投げた子供、仮死状態になっていた自分。それが床へと叩き付けられる前にキャッチしようと、身体を張ったソルジャー・ブルー。もう本当に、文字通りに。
(体力なんか無かったくせに…)
 それなのにぼくを助けたんだ、と見開いた瞳。「なんて人だ」と、「優しすぎる」と。
 身体ごと飛び出して行かなくたって、サイオンで止めれば良かったのに。そうすればブルーも、ダメージ低めだったのに。
 けれど「子供が危ない」と思った途端に、動いていたのがブルーの身体。後先考えたりせずに。
 「これがソルジャーの務め」とばかりに、何も考えないままで。
(…ソルジャー・ブルー…)
 ちゃんと御礼を言えば良かった、と瞳から溢れた滂沱の涙。
 記憶装置の中身を抜こうとしたのもすっかり忘れて、ただ優しかった人を思って。
 そうしたら…。


「トォニィ。…学問に王道なんかは無い」
 此処までだな、と聞こえたジョミーの声。頭から奪い去られた補聴器、グランパの手で。
「グランパ…!」
「お前の考えくらいは分かる。だが、ブルーがお前を救った時の記憶は…」
 いつかお前の役に立つから、と補聴器を自分で着けるジョミーは、何もかも全てお見通し。何が目当てて盗み出したか、何を計画していたのかも。
「グランパ、ぼくは…!」
 ちゃんと賢くなりたくて…、と食い下がったら、「王道は無いと言っただろう」と返った返事。
「知識が欲しいなら、まず学ぶことだ。お前だけでもいい、勉強しろ」
 ぼくが暇を見て教えてやろう、と大好きなグランパからの言葉で、それに異存は無かったから。
「じゃあ、お願い…。ぼくは本当に、まだ子供だから…」
 教えて、と頼んだ「勉強」のことで、トォニィは後悔することになる。
 人類軍に容赦しないジョミーは、身内にも容赦しなかったから。もう鬼のように出される宿題、課題にレポートてんこ盛り。「他の子たちにも教えてやれ」と。
 来る日も来る日も激しくしごかれ、鬼軍曹で鬼コーチ。「さっさと覚えろ!」と飛ぶ罵声。
 それでもグランパのことは好きだし、歯を食いしばって頑張りまくるトォニィだけれど。
(…ブルーは優しい人だったよね…)
 もしもブルーが先生だったら、もっと優しく教えるよね、と見てしまう夢。もういない人に。
 ソルジャー・ブルーが教えてくれたら、きっと優しい先生だよ、と。
 そんな具合だから、後にキースを殺しに殴り込んだ時、ナチュラルに口にしていた言葉。
 「ブルーは優しい人だった」と。
 グランパのことも大好きだけれど、ブルーは優しかったから。
 もしも生き延びてくれていたなら、鬼のグランパより、ずっと優しい先生になった筈だから。
 宿題を忘れても殴りもしないで、ただ微笑んで。
 「次からは気を付けようね」と。
 今日は此処から勉強だよ、と宿題のことは責めもしないで、笑顔で教科書を広げてくれて…。

 

         パクりたい頭脳・了

※原作トォニィだと、フィシスの知識をパクって成長するんですけど、アニテラだと謎。
 いったい誰の教育なんだ、と思ったトコから降って来たネタ。鬼教師、ジョミー。







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