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要らない誕生日

「バースデープレゼントだ。やるよ」
 お前、凄く欲しがってただろ。俺の名前、入ってるけど…。
 そう言ってサムが渡してくれたプレゼント。
 ドリームワールドの百周年記念パス。
 「俺たち、ずっと友達だぜ」と、「大人になって、また会えるといいな」と。
(ずっと友達…)
 それが本当ならいいんだけど、とジョミーがついた大きな溜息。
 帰り着いた家で、自分の部屋で。
 明日の今頃には、もういない部屋。二度と戻って来られない部屋。


 「成人検査でいい結果が出ることを祈っているわ」と、スウェナが贈ってくれたキス。
 「グッドラック」と。
 そしてサムからは、ずっと欲しかったドリームワールドの百周年記念パス。
(…二人とも、きっと正しい筈で…)
 何も間違ってはいないと思う。
 明日は目覚めの日で、十四歳の誕生日。
 その日になったら、大人の世界へ向けて旅立つと教えられた日。
 いつも通った学校の教室、一人、二人と減っていった生徒。
 持ち主が消えてしまった机。
 誰もおかしいと思いはしなくて、それが普通だと思っていて。
(…自分の番が来るのを、待ってる奴だって…)
 珍しくないし、サムもスウェナも、多分、待ち侘びているのだろう。
 彼らの机が空になる日を、目覚めの日が彼らに訪れるのを。


(グッドラックって言われても…)
 どう幸運を祈ると言うのか、明日になったら戻れないのに。
 今日まで両親と暮らして来た家、自分のものだと信じていた部屋。
 どちらにも、もう戻れはしない。
 考えるほどに寂しいばかりで、不幸だとしか思えない明日と、明日行われる成人検査と。
(…今朝はこんなじゃなかったのに…)
 ここまで酷くはなかったと思う、父の言葉が嬉しかったから。
 早めに帰るよ、と笑顔で仕事に出掛けた父。
 「目覚めの日の前祝いだ」と、「みんなでパーティーでもしよう」と。
 あの時は本当に嬉しかったから、「やった!」と叫んでしまったけれど。
 心が躍っていたのだけれども、そのパーティー。
(…お別れパーティー…)
 そうなるのだった、考えてみれば。
 両親と一緒の最後のパーティー、次にパーティーがあるとしたなら…。
(…何処になるわけ?)
 それすらも分からないのが今。
 きっと誰にも答えられない、次のパーティーの場所などは。


 サムには「性格に問題ありすぎ」と笑われてしまった、メンバーズ。
 それを目指してエリートコースに進んで行くなら、次のパーティーはそういう所。
 両親のような一般人になるのだったら、そうしたコースの何処かでパーティー。
 他にもコースはあると聞いたし、もう本当に分からない。
 明日の今頃、自分が何処にいるのかは。
 次のパーティーに出るとしたなら、その場所が何処になるのかは。
(…こんなので、ずっと友達だなんて…)
 サムの顔には「約束だぜ」と書いてあったのだけれど。
 本当にそうだと信じているから、プレゼントを渡してくれたのだけれど。
(…これだって…)
 あの時は嬉しかったけれども、今、眺めたら不安でしかない。
 ブレスレットの形をしている、ずっと欲しかった記念パス。
 サムの名前が入ったそれ。
(…これだと、腕に嵌められるから…)
 成人検査の時も着けて行けるし、そのまま持って旅立って行ける。大人の世界へ。
 もう間違いなく、そこまできちんと考えてくれてのプレゼント。
 目覚めの日には、荷物を持っては出られないから。
 そういう決まりになっているから。


(…他のものは全部…)
 駄目なんだった、と見回した部屋に、幾つも思い出。
 家族写真のフォトフレームやら、本やら、壁に飾ったポスター。
 アルバムだって持って行けない、この部屋に置いて出掛けるしかない。
(また見たいって気分になっても…)
 家に戻って見られはしないし、全てに別れを告げるしかなくて。
 そんな状況に追い込まれる日に、どうして「グッドラック」なのか。
 前祝いに「お別れパーティー」なのか。
(大人になっても、ずっと友達…)
 サムの言葉が本当だったら、両親もずっと両親だろうと思うのに。
 どうやらそれは違うらしくて、明日でお別れらしいから。
 なんとも不安で、寂しくて。
 考えるほどに怖くなるから、明日など要らない気持ちさえする。
 朝は「やった!」と叫んでしまった、パーティーさえも。
 お別れパーティーになるくらいならば、パーティーなどは無くていいから。
 普段通りの食事でいいから…。


(時間、止まってくれないかな…)
 明日の誕生日は来ないままで。
 いつまでも今日を繰り返せたらいい、平凡な日でかまわないから。
 パーティーも、あんなに欲しいと思った百周年記念パスも要らないから。
(明日の誕生日…)
 消えてなくなれ、と呪文を唱えたい気分。
 それで誕生日が消えるなら。明日という日が来なくなるなら。
 明日なんか、消えてしまえばいい。
 誕生日なんか、来なくてもいい。
(大人になっても、ずっとパパとママの子供でいられないなら…)
 そんな日なんか、消えてなくなってしまえばいい。
 ずっと今日だけを繰り返せばいい、時間が止まってしまえばいい。
 パーティーなんか、要らないから。
 御馳走も、ドリームワールドの百周年記念パスも、何も欲しいと思わないから…。

 

       要らない誕生日・了

※「成人検査の日に荷物は駄目」が基本設定になっちまった、と自分に溜息。
 ジョミーとシロエは対らしいんですよね、アニテラが作られるよりもずっと前から…!





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