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出したい必殺技

(うーん…)
 どうにも上手くいかないんだよね、とジョミーがついた大きな溜息。
 今はソルジャー候補だけれど。
 ミュウの母船なシャングリラに来て、そういう立場になったのだけれど…。
 日課になったサイオンの訓練、それの成果が思わしくない。標的を順に破壊は出来ても、纏めてサクッと消すのが無理。
(…集中力が足りないだなんて言われても…)
 頑張ってるつもりなんだけどな、と眺める右手。訓練の後で、自分の部屋でキュッと握って。
 こういう感じ、と訓練の度に繰り出すサイオン。力を溜めて、思いっ切り。
 なのに結果がついて来なくて、一個ずつしか消せない標的。
 やったら出来る筈なのに。やれば出来ると思うのに。
(…ブルーの攻撃、凄かったしね?)
 今もハッキリ覚えている。
 成人検査を邪魔しに出て来て、派手に飛び回っていたソルジャー・ブルー。
 テラズ・ナンバー・ファイブを相手に右へ左へ、上へ下へと。「離れるなよ!」と一声叫んで。
 でもって最後は「でやあぁぁぁーーーっ!!!」と一発…。
(食らわせちゃって、テラズ・ナンバー・ファイブが吹っ飛んで…)
 あれがブルーの実力なのだし、後継者の自分も出来ると思う。あんな具合に。
 ここぞとキメてやりたい時には、それはカッコ良く。
(絶対、出来ると思うんだけどな…)
 でも出来ないし、という悲しい現実。いったい自分の何処が駄目なのか、悲しいキモチ。
 ソルジャー・ブルーはキメたのに。
 もう一撃でぶっ飛ばしたのがテラズ・ナンバー・ファイブで、まさに必殺技だったのに。


 あの技みたいに、ぼくだって…、と描いたイメージ。頭の中で。
 「でやあぁぁぁーーーっ!!!」と一発、それで纏めて消し飛ぶ標的。…訓練用の。
 いけそうな気がするけれど、と思った所で気が付いた。
(えっと…?)
 ブルーがかました、あの必殺技。
 あれと同じに繰り出すのならば、「でやあぁぁぁーーーっ!!!」と叫ぶのだろうか。ブルーはそういう掛け声だったし、あの掛け声が必須だろうか?
(まさかね…?)
 それはなんだか違うんじゃあ…、と子供でも分かる。
 幼い頃から幾つも観て来たヒーローもの。どのヒーローも必殺技を持っているのがお約束で…。
(でもって、技を繰り出す時には…)
 技の名前を叫んだりもする、こう、色々と。ヒーローらしく。
 だからブルーが出した技にだって、本当は名前があるのだろう。テラズ・ナンバー・ファイブに言うのが嫌だっただけで、カッコイイ名が。
(…テラズ・ナンバー・ファイブって、形からしてイケていないし…)
 そんな相手に、必殺技の名前を叫んでキメるだけ無駄。
 「でやあぁぁぁーーーっ!!!」で充分、それでもお釣りが来るくらい。
 きっとそうだ、と考えたから…。


「ブルー! ソルジャー・ブルー…!!」
 ちょっといいですか、と駆け込んで行ったブルーの居室。いわゆる青の間。
 スロープを一息に走って上って、息を弾ませて立ったブルーの枕元。
「なんだい、ジョミー?」
 何か用でも、とブルーが瞬かせた瞳。「訓練は上手くいっているかい?」とも。
「その訓練です! どうしても上手くいかなくて…」
 集中力の問題らしいんです、と愚痴を零したら、「それで?」と見上げて来たブルー。
「…ぼくにそのコツを教えろとでも?」
 コツは自分で掴まないと、とブルーは言ったけれども、コツはこの際、どうでもいい。訊きたいことは他にあるのだし、それを訊いたらコツだって掴めそうだから。
「えっとですね…。コツは自分で掴みますから、一つ教えて貰えませんか?」
「…何を知りたいと?」
 ぼくたちミュウについてだろうか、とブルーのピントはズレていた。ミュウの長だけに。
「そうじゃなくって、あなたの技です!」
 必殺技を教えて下さい、と切り込んだ核心、キョトンと見開かれたブルーの瞳。
「…ひっさつわざ…?」
 それはどういう、と訊き返されたから、「必殺技です!」と繰り返した。
「テラズ・ナンバー・ファイブ相手に出してたでしょう! 必殺技を!」
 アレの名前を教えて下さい、とガバッと下げた自分の頭。それを教えて貰いに来ました、と。


 頭まで下げて頼んだのだし、教えて貰えると思ったのに。…答えが聞ける筈だったのに。
 ブルーがパチクリと瞬かせた瞳、そして返って来た言葉。
「必殺技って…。ぼくのかい?」
「ええ、そうです! あの時は「でやあぁぁぁーーーっ!!!」って言ってましたけど…」
 本当は何かあるんですよね、と重ねて訊いた。引き下がる気など無いのだから。
 必殺技の名前を訊き出せたならば、自分もかますだけだから。…訓練用の標的へと。
「なるほどね…。必殺技を繰り出すとなれば、集中力が増すというわけか…」
「そうです、そうです! だからですね…」
 あの技の名前を教えて下さい、とズイと迫った。「頑張りますから」と。
 そうしたら…。
「…「でやあぁぁぁーーーっ!!!」では、何か不足だとでも?」
 誤魔化されてしまった必殺技の名。なんともケチなソルジャー・ブルー。
「ぼくには教えられないとでも!? 一子相伝とか言うじゃありませんか!」
 今どき死語かもしれませんけど、と持ち出した「一子相伝」なる言葉。SD体制に入る前には、宇宙に存在した習慣。子供の中から一人選んで、その子にだけ伝える秘法や技術。
「…そう来たか…。だったら、ぼくに明かせと言うのか、必殺技を?」
 ブルー・クラッシュとか、ブルー・アタックだとか、そんな感じで、と見上げるブルー。
「…ブルー・クラッシュ…。それからブルー・アタックですか?」
 必殺技を二つも持っているんですか、と今度はこっちが驚いた。まさか二つもあったとは、と。
「そういうわけでもないんだが…。その時の気分次第かな、うん」
 どっちにするかは気分で決める、とブルーの答えは奮っていた。必殺技を繰り出す時には、先に力を溜めるもの。やるぞ、と自分に気合を入れて「必殺ゥ~~~!」と高めてゆく力。
 それがMAXになった瞬間、叩き出すのが必殺技。渾身の力で、技の名前も叩き付けて。
 「ブルー・クラッシュ!」とやるか、「ブルー・アタック!」といくか。
 どちらにするかは気分次第で、その場のノリだ、と。


(…そうだったんだ…)
 ノリも大切だったのか、と青の間を後にしたジョミー。ずいぶん勉強になったよね、と。
 必殺技を繰り出す時には、「必殺ゥ~~~!」と力を溜めてゆくもの。気合を入れて。
 溜めた力がMAXになったら、其処で繰り出す必殺技。カッコ良く技の名前を叫んで、その場のノリと勢いで。
(ブルー・クラッシュに、ブルー・アタック…)
 どちらも「ブルー」とついているから、其処を「ジョミー」に変えればいい。一子相伝、習ったばかりの必殺技の名、それを生かして。
 とにかく練習、と部屋に戻って構えた両手。こんな感じでどうだろう、と鏡を見ながら。
「必殺ゥ~~~!」
 口にしただけでも、身体に力が漲る感じ。これならいける、と高まる期待。
 部屋でやったら大変だけれど、明日の訓練では上手くやれるに違いない。必殺技で、一撃で。
(ジョミー・クラッシュか、ジョミー・アタック…)
 そっちも練習、と勢いをつけて叫んでみた。部屋は完全防音だから。
「ジョミー・クラーッシュ!!」
 うん、いい感じ、と大満足。ついでに叫んだ「ジョミー・アターック!」だって。
 言葉からして最強な響き、きっと明日から上手くいく。一子相伝の必殺技だし、出来る筈。
 ジョミー・クラッシュにジョミー・アタック、そう叫ぶだけで。
 必殺技を繰り出す前には、「必殺ゥ~~~!」と力を溜めてゆくだけで。


 かくして翌日、ジョミーは初の満点を取った。長老たちも文句を言えない出来栄えで。
 「必殺ゥ~~~!」と取ったキメのポーズで、「ジョミー・アターック!」と。
 その次の日にはジョミー・クラッシュ、もう安定の破壊力。一瞬の内に砕ける標的、先日までの集中力不足が嘘だったように。
(ぼくだって、やれば出来るんだよ…!)
 これで立派なソルジャー候補、とガッツポーズのジョミーは知らない。
 「よくやった」と褒めてくれる長老たち、彼らが知っている真相を。「嘘も方便じゃ」などと、ヒソヒソ語っていることを。
「ブルーもやるねえ、あんな大嘘、よくも言ったよ」
 あたしだって初耳なんだけどね、とブラウも呆れる必殺技。そんな技など存在しない、と。
「それで結果が出ているのだから、問題は無いと思うがねえ…」
 いいじゃないかね、とヒルマンが浮かべている苦笑。アタックだろうが、クラッシュだろうが、結果が出せればオールオッケー、と。
「ダテに三百年以上、生きてはおらんのう…」
 ワシなら直ぐには思い付かんわ、とゼルも頭を振っていた。エラだって「ええ…」と。


 つまりはまるっとブルーの大嘘、必殺技など最初から存在しなかった。
 けれどもフルに回転した頭脳、「これは使える」と。
 ヒーローものの観すぎなジョミーは、必殺技さえ教えておいたら頑張るから。ガッツリとコツを掴んだつもりで、集中力を高めてぶつけるから。
(ブルー・クラッシュねえ…)
 あれはそういう名前だったのか、とブルーの顔にも苦笑い。「知らなかった」と。
 テラズ・ナンバー・ファイブにかました一撃、あれは「でやあぁぁぁーーーっ!!!」と叫んでいただけのことで、必殺技ではなかったから。
 必殺技が欲しいと思ったことさえ…。
(ぼくは一度も無いんだけどね…?)
 なのに生まれてしまったようだ、と青の間から眺めるジョミーの訓練。思念を使って。
 今日も炸裂する、ジョミー・クラッシュにジョミー・アタック。「必殺ゥ~~~!」とポーズをキメて、思いっ切り。
(…ジョミーの次のソルジャーがいたら…)
 そっちにも伝わりそうなんだが、というブルーの予感は的中した。
 遥か後の時代、赤いナスカで生まれたトォニィ、彼がやっぱり必殺技をかますことになる。
 「必殺ゥ~~~!」と、大好きなグランパ仕込みの決めポーズで。
 技を繰り出す時は「トォニィ・クラーッシュ!」と、それに「トォニィ・アターック!」と。
 人類とミュウが和解した後の平和な時代に、カナリヤの子たちにせがまれて。
 「ねえねえ、ソルジャー、あれをやって」と、「あれを見せて!」と、おねだりされて…。

 

          出したい必殺技・了

※いや、せっかくだから必殺技があってもいいのに、と思っただけ。こう、カッコ良く。
 そういやブルーが派手にやってたよね、と思い出したらこうなったオチ…。





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