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花屋と暴力団員

(…本当に楽しそうに撃ってくるな…)
 この馬鹿野郎、とブルーが睨んだキース。根性で張ったシールドの中で、メギドの制御室で。
 「反撃してみせろ!」などと、喋りまくりで撃ってくるのが地球の男で、もう本当に腹立たしい限り。こんな男が「地球の男」で、憧れの地球に行けるなど。地球に手の届く場所にいるなど。
(…こっちは地球も見られないんだ…!)
 此処で命が終わるのだから、とムカつくけれども、どうにもならない。元々、尽きていた寿命。それの残りでメギドを沈める、そういう運命。
(だが、それだけでは終わらない…!)
 地球の男も巻き込んでやる、と怒りMAX。勝ち逃げだけはさせるものか、と。
 そう計画しているというのに、「此処は危険です!」と飛び込んで来たのがキースの部下。
(逃がすか…!)
 貴様の命も此処で終わりだ、と思いっ切りバーストさせたサイオン。
 キースが言い放った台詞をそのまま、心で返して。「これで終わりだ!」と。噴き上げるように広がるサイオン、青い光の壁がキースを巻き込む。部下が駆け寄るより、一瞬早く。
(終わった…!)
 これでキースの命も終わり、と大満足で浮かべた笑み。
 右の瞳まで撃たれたけれども、悔いなどは無い。地球の男は仕留めたのだし、これでいい。
(ジョミー…。みんなを頼む…!)
 どうか地球まで行ってくれ、と暗転した視界。其処で命が終わったから。


 次に目を開けたら天国か地獄、どっちだろうか、とチラと思いはしたけれど。
 ミュウに生まれて散々な目に遭わされたのだし、選べるのならば天国の方、と考えたのが、多分最後の思考だけれど。
(…天国…なのか…?)
 それにしては騒々しいような、と繁華街らしき場所の路上で目が覚めた。真っ昼間に。
 ついでに自分を囲む人垣、ワイワイと声が聞こえてくる。補聴器なしでも実にうるさく、まるで天国らしくない。妙な天国もあったものだ、とパチクリと目を瞬かせて…。
(…ああ、天国…)
 右目が潰れていないのだったら、もう間違いなく天国の筈。やたらうるさくても、繁華街でも。自分の周りを取り巻く連中、それが野次馬にしか見えなくても。
 ぼんやりとそう考えていたら、「大丈夫ですか!?」と駆け寄って来た救急隊員。
(…見慣れない服だが…)
 これは救急隊員だよな、と眺める間に脈を取られた。他の隊員が身体をチェックし、無線で何か連絡している。「弾は掠っただけのようです」と。
(掠っただけ…?)
 ガッツリ当たった筈なんだが、と思っていたら強く縛られた腕。念のために止血するらしい。
 はて、と傾げてしまった首。右肩だったら撃たれたけれども、右腕は撃たれただろうか、と。
 それに天国に来て、救急隊員の出番があるとは知らなかった、とも思ったけれど。
「とにかく、病院に搬送しますから」
 災難でしたね、と担架に乗せられ、運び込まれた救急車。どう考えても何かが変で、天国らしくない展開。野次馬も、それに救急車も…、と見慣れぬ車で運ばれて行って…。


「…暴力団?」
 それはどういう、と丸くなった目。病院に着いて、手当ての後で。
 ベッドに寝かされているのだけれども、本格的におかしい世界。ソルジャーの服が見当たらないのは、天国なのだし頷ける。もうソルジャーではないわけだから。
(…しかし、この服は…)
 いったい何処から湧いたんだ、と思いたくなる「普通すぎる」服。シンプルなシャツやズボンは何処から来たのか、ベッドの脇に置かれたジャケットだって。
 ただでも不思議でたまらないのに、医師が口にした言葉が「暴力団」。まるで知らない、初耳な言葉。暴力団とは何のことだろう…?
「さっきの流れ弾ですよ。小競り合いがあったようでしてね…」
 最近、組が分裂しまして、と男性医師が教えてくれた。
 自分が撃たれて、倒れた辺りの繁華街。…其処の裏社会を仕切っている組、「組」という言葉が「暴力団」を指すらしい。
 要はその組が二つに分かれて、只今、派手に抗争中。たまたま通り掛かった所で、対立する組の幹部を狙って発砲した弾が…。
(…ぼくに当たったと?)
 なんだか色々ややこしいんだな、と思った天国。
 暴力団だの、銃を使っての抗争だのと、次元は多少違うけれども、生きていた頃と変わらない。人類とミュウで争っているか、天国の住人同士で揉めているかの違いだけだ、と考えたのに…。


 暫く経ったら、気付いた現実。此処は天国ではないらしい、と。
(…地球の、日本…)
 それもSD体制が始まるよりも遥かに前だ、と眺めた病院のカレンダー。とりあえず退院、そう決まったから出てゆく前に。
(そして、キースは留置場なんだな)
 事情を訊きに来た警察官の言葉からして、捕まったのがキース・アニアン。あの地球の男。
 暴力団の下っ端だという設定で。…組の幹部を狙って発砲、それが外れて民間人を撃ったという罪状で。
(…気の毒なことだ…)
 キースには後が無いらしい。暴力団の世界の掟は絶対、カタギを巻き込むのは許されない。
 民間人という役どころの自分、それを撃ったというだけで組の面汚し。出所した後には、追手がかかる。組長が放つ鶴の一声、「始末しておけ」と。
 カタギを撃つような馬鹿をしでかし、警察が組に踏み込んで来たわけだから。
 そんな輩は死ぬのが似合いで、山に埋められるか、何処かの港に沈められるか。二つに一つで、山か海かを選べたならば、もう上等。
(…ぼくが許しても、組長が許さないんだな…)
 キースの腕でも逃げられまいな、と簡単に分かる。逮捕されたら、もう銃は無い。出所する時も返して貰えず、何処かの街角でパアン! と撃たれて、それっきり。
 いくらキースがメンバーズでも、別の世界に飛ばされた上に、殺しのプロに追われたのでは…。
(丸腰では、死ぬしかないわけだから…)
 消されて山に埋められるのか、港に沈められるのか。気の毒だけれど、それも運命だろう。


 そう思って病院を後にしたブルー。「地球の男は、消されるのだな」と。
 けれど、キースが暴力団員になっていたのと同じに、ブルーにもあった此処での設定。日本なる国で、其処の何処かのローカル都市で。
 初老の夫妻が営む花屋の店員、それがブルーの今の生業。一度は死んでしまったせいか、身体は至って健康なもの。…虚弱な所は変わらなくても、耳は普通に聞こえるから。
 毎日せっせと花を世話して、フラワーアレンジメントも作る。馴染みのお婆ちゃんたちが買いにやって来る、仏壇に供える花だって。
「すみません、今日はまだ出来てなくて…!」
 今、作りますね、と今日も束ねる仏花。シルバーカーを押した馴染みの婆ちゃん、その家にある花筒にピッタリ合うように。婆ちゃんの好みの花を取り合わせて。
「悪いねえ、忙しいのにさ…。でも、今日は爺ちゃんの月命日だから」
 新しい花にしてあげたいんだよ、とニコニコしている婆ちゃんを見ていて思ったこと。
(…キースが組の連中に始末されたなら…)
 いったい誰が花を供えてくれるだろう?
 自分と同じで、誰も身寄りが無いキース。自分の場合は、子供のいない店主夫妻の養子にという話もある。目の前の婆ちゃんも、孫がいないから養子に来ないかと言うけれど…。
(…キースは刑務所を出たら終わりで…)
 撃ち殺されて、山に埋められるか、港に沈められるかの二択。死んだことさえ、誰も知らない。いつか死体が発見されても、警察官が其処に花でも置いてくれたら御の字で…。
(…仏壇も無ければ、仏花だって…)
 誰も供えはしないのだろう。身寄りが無い上、ただの暴力団員だから。


 一度気が付いたら、仏花を束ねる度に、キースが頭に浮かぶようになった。仏花など、供えては貰えないキース。出所した後は、殺されるしか道が無いというのに。
(…ぼくが巻き添えにしたばっかりに…)
 この平和な地球でそういう最期を…、と思うと気の毒でならないキース。
 元いたSD体制の世界、あそこで死ぬか生きるかだったら、まるで歯牙にもかけないけれど。
 キースが何処で野垂れ死のうと、知ったことではないのだけれども、この世界では…。
(……奴を見殺しにするというのは……)
 ちょっとキツイな、と思ってしまう。誰もがノホホンと生きている日本、殺人事件はあまり縁が無い。毎日のように起こるけれども、大抵の人の目から見たなら…。
(…自分とは遠い世界のことで…)
 せいぜい野次馬、それが殺人。…いずれキースは殺されるのに。もう確実に消されるのに。
 それはあまりに惨いのでは、と今日も束ねる仏花。いつかキースが消された時には、仏花くらい供えてやってもいいけれど…。
(死体が発見されない限りは…)
 知りようもないのがキースの死。何処かの山奥に埋められていても、冷たい海に沈んでいても。
 死んだことさえ知りもしないで、きっと自分はのんびりと…。
(こうやって花を束ねているんだ…)
 仏花を作って、馴染みの婆ちゃんたちの来店を待つ。そうでなければ、フラワーアレンジメント作りに精を出すとか、店の花たちの世話だとか。
 キースはとうに消されてしまって、山奥に埋まっているというのに。あるいは重石をつけられて海に放り込まれて、仏花さえ供えて貰えないのに。


 気の毒すぎる、と考える日が幾つも続いて、ある時、ついに決意した。
 いつかキースが出所したなら、自分が身元引受人になればいい、と。そして一緒に花屋で働く。元は暴力団員にしても、足を洗ってカタギになったら消されないとも聞いたから。
(…キースはカタギだ、と組が認めてくれるまでは…)
 自分が一緒に行動したなら、組の者でもキースを消せない。流れ弾で自分を巻き添えにしたら、待っているのは非情の掟。うっかりカタギに手出ししたなら、キースと同じに後が無いから。
(よし、その線で…)
 行こう、と決めた自分の生き方。キースを見殺しにしてしまったら、自分も最低な男になる。
 ミュウを残酷に殺し続けた人類とまるで変わりはしないし、それでは駄目だ、と。
 だから見舞いに作った小さなフラワーアレンジメント。この程度だったら刑務所でも、と。
 それを手にして出掛けた刑務所、「面会だ」と言われて出て来たキースは驚いたけれど。
「…お前が私を助けるだと…?」
 私はお前を撃ったんだが、とキースは言ったけれども、「流れ弾だろう?」と微笑んだ。
 元の世界でのことはどうあれ、此処では流れ弾だから。右腕を掠っただけなのだから。
「…待っているから、真面目に勤めて出て来て欲しい。また面会に来るよ」
 何か差し入れの希望はあるかい、と訊いたら、キースは男泣きに泣いた。「感謝する」と。
「此処を出たら最期だと思っていたが…。そうか、助けてくれるのか…」
「仕方ないだろう、こういう世界だ。元の世界なら、見殺しにするのが妥当だけれど」
 君は危険な男だしね、と笑みを浮かべた。「ミュウにとっては危険すぎる」と。
 けれど、此処ではメンバーズですらもない男。とても見殺しには出来ないよ、とも。


 そうやって何度も面会を重ね、差し入れをしたり、話したり。
 キースの出所が決まった時には、花屋の夫妻にきちんと話して、もう色々と根回しもした。二人一緒に暮らせるアパートを借りたり、キースの部屋を整えたりと。
 ついに出所の日がやって来て、刑務官が見送りに出て来てくれて…。
「いいか、二度と戻って来るんじゃないぞ」
「お世話になりました…!」
 キースが深々と頭を下げた途端に、スウッと後ろを通り過ぎた車。明らかに組の者だけれども。
「…大丈夫。ぼくの隣を離れないで」
 行くよ、と二人で歩き出した時、眩しい光に包まれた。いったい何が、と息を飲んだら…。
「よく頑張った。…ミュウの長よ。…それに人類を導く者よ」
 私は神だ、と轟くような声。
 全て見ていたと、お前たちになら世界の未来を託せると。
「「神だって…!?」」
 眩しすぎて何も見えないけれども、神は確かに其処に居た。「良き未来を」と。
「ミュウを、人類を導くがいい。世界は私の手の内にある」
 今の心を忘れるな、という声が消えたら、ブルーの目の前にシャングリラ。もう戻れないと後にした船、それが宇宙に浮かんでいた。


(…ぼくは帰って来られたんだ…)
 この先はキースと手を取り合って行くんだな、とブルーが戻って行った船。
 シャングリラの皆が驚く間に、キースからの通信が入って来た。それも国家主席の肩書きで。
(…どうなってるんだ?)
 あの若さでもう国家主席とは、と思うけれども、神の仕業に違いない。それに、キースが送って寄越したメッセージは…。
「グランド・マザーを停止させたそうです!」
 SD体制が終わりましたよ、と上がった歓声。キースにも神が力を貸したのだろう。
 メッセージは「地球に来てくれ」とも告げているものだから…。
「ジョミー、直ぐに行くと返信したまえ。…キースは嘘をついてはいない」
 話せば長いことになるけれどね…、と若き後継者の肩を叩いた。「地球へ行こう」と。
 ついに開けた地球までの道。
 此処からは長距離ワープになるから、その間にジョミーに話してやろう。
 暴力団のことも、キースが刑務所に入っていたことも。
 自分が花屋で暮らしたことも、店の馴染みの婆ちゃんたちに作った幾つもの仏花のことも…。

 

         花屋と暴力団員・了

※ブルーとキースの現代珍道中を書いてみたいな、と思ったことは確かですけど…。
 どう間違えたら、こんな話になるんだか。しかも完全パラレルでもなし、これって何?

 「地球へ…」の小箱と「ネタでもハッピー」、pixiv で危機に瀕した二つのシリーズ。
 残留か離脱か、混乱の中で、残留票を投じて下さった皆様に捧ぐ。返品オッケー。





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