(ジョミー、すまない…。君を選んで…)
心からすまなく思って…いる…。
「ブルー! ソルジャー・ブルー!!」
アルテメシアの遥か上空、落下してゆくブルーの身体。
もちろんジョミーは追ったけれども…。
(追い付けない…!)
ブルーの落下速度を追い掛けたら死ぬ。
絶対に死ねる、そういう予感。
なにしろ力に目覚めたばかりで、ジョミーにはコントロールが出来ない。
自由落下で追うにしたって、追い付く頃には…。
(ぼくの力じゃ止まれないんだ…!)
もう間違いなく二人揃って地上に激突、そういうコース。
分かっているから自然と踏んでしまったブレーキ、いや、自動車ではないけれど。
自転車やバイクでもないのだけれども、人間にだってブレーキはある。
サイオンは心のパワーだから。
精神の力で操るのだから、ヤバイと思えばかかるブレーキ、それも無意識に。
「ソルジャー・ブルー!!!」
追わなきゃいけない、それは分かっているけれど。
自分が行かねば誰が行くのか、それも重々、承知なのだけれど。
(追い付けない…!)
ガッツリと踏んでしまったブレーキ、速度は全然出なかった。
追い付くどころか、ぐんぐん間が開いてしまって…。
(……嘘……)
見失った、と愕然とした時には、既に手遅れ。
先に落ちて行ったブルーの姿はまるで見えなくて、ジョミーの方はゆっくり降下中で。
(もしかして、場所もズレちゃってるとか…?)
どうやら、そういう雰囲気っぽい。
ブルーが「周りをよく見たまえ」と言った時には、見下ろした星は平和そのもの。
雲海が広がる平穏な星で、「ちょっと地球みたい」と思ったくらい。
ところが今では、遥か下の方で…。
(なんかドンパチやってるし…)
自分を追って来ていた爆撃機が大量にいる感じ。
次第に近付いてくるそれは、どう見ても…。
(ヤバすぎだって…!)
集中攻撃を受けているのはシャングリラだった。
ミュウの母船で、ソルジャー・ブルーに任されたばかりのミュウたちが乗っているわけで。
(あそこに帰れって!?)
でもって事態を収拾なわけ、と泣きそうだけれど、どうにもならない。
戻ってゆくしかなさそうだから。
其処に戻って、まずは止めねばならないドンパチ。
それが済んだら、「すみませんでした」とお詫び行脚しか無さそうだから。
(ぼくに、どうしろと…!)
落ちて行ったブルーに訊きたいけれども、肝心のブルーは見失った後。
(降りる場所、ズレていないよね…?)
ズレていたなら針の筵で、もう間違いなくミュウの連中に…。
(殺されるかも…)
もしもブルーが戻らないまま、ノコノコ帰って行ったなら。
行方不明のままだったなら。
それだけは嫌だ、と叫びたい気持ちで、泣きたい気持ち。
もう確実に殺される、とパニックになったジョミー、心のタガが吹っ飛んだ。
「誰か助けて」と、「死にたくないし!」という絶叫と共に。
途端に弾けた強力なサイオン、タイプ・ブルーだけに半端ないから。
「高熱源体、上空より急速接近中!」
「新手か!?」
「いえ、攻撃機より更に上からです!」
大慌てなのがシャングリラの中で、キャプテン・ハーレイが叫ぶ羽目になった。
「操舵士、面舵いっぱーい!」と。
シャングリラを攻撃していた爆撃機だって、上へとミサイルを放ったけれども…。
(誰か、助けてーーーっ!!!)
大爆発したジョミーのサイオン、一瞬の内に蒸発したのが爆撃機の群れ。
シャングリラはポツンと取り残されて、何が起こったかと呆然としたのがミュウたちで。
「あっ、あれは!」
「ジョミー…?」
フワフワと宙に浮いているジョミー、ブルーの姿は無かったけれど。
「すぐにジョミーを収容! その後、救助艇とのランデブーポイントに向かう!」
そう命令したキャプテン・ハーレイ。
ジョミーがいるなら、きっとブルーもその辺にいると思ったから。
他のミュウたちも、信じて疑わなかったから。
けれど、その頃…。
ブルーが落ちて行った真下の辺り。
高層ビルが立ち並んでいるエネルゲイアで、子供が空を見上げていた。
ビルの一つのベランダに立って、夜空の星を観察中で。
(いい子の所には、ピーターパンが迎えに来るんだよ)
だから、いつでもネバーランドへ行けるように準備しておくこと。
それが子供のポリシーだった。
名前はセキ・レイ・シロエと言う。
夢見る年頃で無垢な十歳、ピーターパンが飛んで来ないかと見ていたら…。
(何か光った?)
青い光が、と見詰めた雲。あの中で青く光ったよ、と。
雲の中では、意識を失くしたブルーが落下中だった。
誰も止めに来てくれないわけだし、速度は上がる一方だったけれど。
そのまま落ちたら地面に当たって即死だけれども、なんと言ってもタイプ・ブルー。
おまけに三百年以上も生きただけあって、生存本能も桁外れだった。
「このままでは死ぬ」と判断した身体、意識はなくてもかかったブレーキ。
その瞬間に光ったサイオン、青い光が身体を包んで…。
落下速度は一気に低下で、後はフワフワ落ちてゆくだけ。
地面に落ちても死なないように。
骨の一本も折れないようにと、それはゆっくりと。
例えて言うなら…。
「親方、空から女の子が!」
この名台詞を知らない人がいたら、「ラピュタ」を調べて頂きたい。
ツイッターの「バルス祭り」で有名なアニメ、まず一発で出るだろうから。
それの冒頭、空から降って来る女の子。
飛行石とやらの力で夜空から降りて来るのだけれども、そういう感じ。
ブルーの落下は、まさにラピュタの名シーンだった。
あまつさえ、彼がそうやって落ちて行った先は…。
「ママ、パパ、空からピーターパンが!」
落ちて来ちゃった、とベランダで大騒ぎしているシロエ。
空を見ていたら、ピーターパンが落ちて来たから。
紫のマントのピーターパンが、フワフワと。
「ピーターパンだ!」と、ベランダからちょっと手を伸ばしてみたら…。
上手い具合に、受け止められたピーターパン。
サイオンでフワフワ落下中だから、小さな子供の力でも。
そんなわけで、シロエはブルーを拾って…。
「なんだと、ソルジャー・ブルーを見失ったぁ!?」
死んで詫びろや、という状態のシャングリラ。
ジョミーのサイオンに救われたことなど、誰もがまるっと忘れていた。
「テメエのせいだ」と、長老からヒラまでがジョミーを囲んでフルボッコ。
ソルジャーは何処に行かれたのかと、この始末をどうつけるのかと。
「す、すみません…!」
泣きの涙で土下座したって、「すみませんで済んだら、警察は要らんわ」状態な周り。
もうこのままでは殺される、とジョミーが命の危機を感じていたら…。
『すまない、みんな迷惑をかけた』
ぼくなら無事だ、と聞こえた思念波。
それは間違いなくソルジャー・ブルーで、彼の思念波が言う所では…。
「車でこっちに向かっておるじゃと!?」
「シロエというのは誰なのです?」
「さ、さあ…?」
私にも分からん、と言いつつ、キャプテン・ハーレイが指示した航路。
ソルジャー・ブルーはシロエという子と一緒らしいから。
シロエの父親が運転する車、それで郊外へ向かっているという話だから。
「ピーターパン、ぼくたち何処へ行くの?」
「ネバーランドだよ」
「パパとママも一緒に行けるんだね?」
「うん。お父さんたちが、ぼくを助けてくれたからね」
ネバーランド行きの船に乗れるよ、とシロエに説明しているソルジャー・ブルー。
車を運転しているシロエの父は…。
「こうなるとは思いませんでしたよ。サイオニック研究所には辞表を出して来ましたが…」
「いいじゃないの、あなた。シロエのためよ」
ミュウの船でも、何処でも行きましょ、とシロエの母は肝っ玉母ちゃんだった。
かくして、エネルゲイアから思い切り離れた郊外、ソルジャー・ブルーは船に戻った。
ミュウの子供と、その養父母とを引き連れて。
ソルジャー・ブルーを拾ったミュウの子供は、船の中では小さな英雄扱いで…。
「聞いたよ、ソルジャー・ブルーを助けたんだって?」
「小さいのに凄いミュウなんだねえ!」
あのジョミーとは全然違うよ、とシロエの人気は急上昇。
だから人類なシロエの両親も、船のミュウたちは大歓迎で好待遇。
一方、ブルーを見失って船に戻ったジョミーは…。
「何をぐずぐずしとるんじゃ! それでも次のソルジャー候補か!」
ちっとはシロエを見習わんかい、とシゴキな毎日、仲間たちからは陰口の日々。
「ヘタレなジョミーが歩いてるぞ」と、「あいつ、ソルジャーも守れないでさ…」と。
ジョミーとしては、ソルジャー候補の名前をシロエに譲りたいけれど…。
(なんでシロエは、タイプ・ブルーじゃないんだよーーーっ!!!)
ぼくの人生、この先メチャクチャになりそうだけど、と泣けど叫べど、どうにもならない。
シロエにバトンを渡したくても、サイオン・タイプが違うから。
いくら人生、針の筵でも、ソルジャー候補をやって行くしか道は無いから。
(誰か、助けてーーー!!!)
お願い、と今日も泣き叫ぶジョミー。
どうしてこうなっちゃったんだろうと、ぼくの所にもピーターパンが来ればいいのに、と。
けれど人生、そう簡単には、「親方、空から女の子が!」とはいかないもの。
だからジョミーは頑張るしかない、船の英雄はシロエでも。
ソルジャー・ブルーを救った小さな英雄、彼が絶大な人気を誇っていようとも…。
空からの帰還・了
※2016年1月24日の記録的な寒波。鹿児島で13センチを記録した大雪、その最中。
「鹿児島で雨と灰以外が降って来るなんて、空から女の子が降って来るより確率が低い」。
そうツイートしたのが鹿児島市民で、「面白すぎる」と吹き出したのが管理人。
気付けばこういう話になっていたオチ、まさか寒波がネタになるとは…。
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