忍者ブログ

拾った人生

(…おや?)
 どうなったんだ、とソルジャー・ブルーが見開いた瞳。
 ちゃんと両目で見えているから驚いた。右目はキースに撃たれて砕けてしまった筈で…。
(回復力が凄かったとか…?)
 自分の力に全く気付いていなかったとか、と覚えた感動。ジョミーの「生きて」という強い願いで生き延びたのだと、頭から信じていたのだけれど…。
(実は、実力…)
 それに半端ない回復力、と見回した身体。撃たれた痛みはまるっと消えたし、メギドの爆発に巻き込まれた割に無傷なのだし、これまた凄い。
(シールドを張ったつもりは無かったんだが…)
 生存本能というヤツなのか、と納得した。
 撃たれた傷を全部治せるほどだし、死んでたまるかと身体が勝手に頑張ったのに違いない。全く意識しなくても。「みんなを頼む」とジョミーに叫んで、意識がブラックアウトでも。
(…しかし、困った…)
 こんな所で生き残っても、と本気で困る。周りは漆黒の宇宙空間、ついでにメギドの残骸らしきモノだらけ。人類軍の船もとうにいないし、この状態では…。
(シャングリラが何処に行ったのかも…)
 思いっ切り謎で、知る方法も無い有様。
 せめて人類の船がいたなら、ちょっと入り込んでデータを失敬できるのに。シャングリラは多分ワープした筈、そのタイミングが分かりさえすれば…。
(手掛かりくらいにはなる筈で…)
 人類が見たって行き先不明のワープだけれども、同じミュウなら勘で何とか。
 あの辺りかも、と当たりをつけて追い掛けることも出来なくはない。ダテに長年、ソルジャーをやっていないから。ワープの指示を出したハーレイ、彼の発想なら大体分かる。
(…人類軍は何処に行ったんだ?)
 何処かに一隻、出遅れたのがウロウロしていないかと目を凝らしていたら…。


「自分を信じることから道は開ける」
 ポンと頭に浮かんだ言葉で、そう言えば昔、ジョミーに言った。アルテメシアから命からがら逃げ出した後で、酷く落ち込んでいた時に。
 シロエという名のミュウの少年を救い損ねた、とベッドの側で暗くなっていたから…。
(事の善し悪しは、全てが終わってみなければ…)
 分からないさ、と励ましてやったのが自分。
 つまりは今とて同じ状況、あるいはもっと凄いかも。死んだ筈なのに生きていた上、無傷だという素晴らしさ。自分の実力は思った以上で、それを信じれば今だって…。
(道は開けるというわけで…)
 とにかく前へ進むことだ、と考えた。
 全てが終わった筈だというのに、こうしてキッチリ生きているから。おまけに死んだと思う前よりも、遥かに健康な状態で。
(とはいえ、どっちが前なんだか…)
 こんな宇宙では上も下も、と途方に暮れてしまいそうな感じ。ナスカの方へ行けばいいのか、この星系を離れる方か。
 悩んでいたって答えは出ないし、「頑張れ、自分」と思うしかない。
 きっと闇雲に飛んでいたって、何処かで会う筈の人類の船。軍の船なら大いにラッキー、それのデータからキースの艦隊を追えばいい。そしてシャングリラのデータをゲット。
(運が良ければ、まだ追い掛けている真っ最中かもしれないし…)
 それに賭けた、と決めた方針。人類軍の船がいそうな方向だったら、ナスカとは逆。


(自分を信じることから道は開ける…)
 事の善し悪しは、全てが終わってみなければ分からないさ、と繰り返しながらジルベスター星系の外を目指していたら。
(えっ…?)
 いきなりグイと引っ張られた。凄い速さで飛んでいるのに、知ったことかと言わんばかりに。
 第一宇宙速度なんかはとっくに突破しているのだから、こんな所で引っ張られたら…。
(空間が…!)
 歪んでしまって亜空間ジャンプになってしまう、と逃げる間もなく引き摺り込まれた。どう考えてもそういう空間、ワープの時にはお約束だった緑の亜空間に。
(巻き込まれたか…!?)
 気付かない間に、ワープインしようとしていた人類の船か何かに。側を通過中の自分もセットで亜空間送りで、ナスカどころか、それはとんでもなく…。
(違う所に飛ばされるのか…!?)
 なんてことだ、と慌てたけれども、既に手遅れ。こうなったら腹を括るしかない。ワープアウトした先で、巻き込んだ船のデータにアクセス。
(現在位置を特定してから、キースの船がいそうな場所を…)
 探してみるしかないだろう。それに、考えようによってはラッキー。人類の船を探し出す手間が省けたのだから。
(ナスカから離れてしまった分だけ、回り道かもしれないが…)
 事の善し悪しは、全てが終わってみないと分からないもの。結果オーライということもある。
 自分に巻き添えを食らわせた船が、キースの艦隊に所属していた船だったとか。そこまで上手く運ばなくても、民間船ではなくて軍の船だとか。


 事の善し悪しは、全てが終わってみなければ分からないのだし、と流れに任せることにした。
 ワープアウトしたらチャンス到来、其処で人類の船に潜り込む。瞬間移動で入り込んだら、まずバレないから、目指すはブリッジ。
(…乗組員の意識を奪って、それからデータを…)
 頂戴しよう、と作戦計画、ワープアウトの瞬間が勝負。乗組員たちがホッと一息ついている所、其処が狙い目だろうから。きっと油断をしているから。
(よし…!)
 そろそろだ、と構えて待った。経験からして、ワープアウトが近い。これを抜けたら…。
(一気に勝負だ…!)
 キースのような生え抜きの軍人、それが相手でも頂くデータ。貰ってやる、と身構えたのに。
 これでもソルジャーと呼ばれた男、と自分に気合を入れたのに。
(…シャングリラ…!?)
 なんでまた、と仰天する羽目に陥った。
 人類の船に飛び込むつもりが、其処は青の間だったから。嫌というほど見慣れた景色で、間違えようもなかったから。
(それでは、ぼくを巻き込んだ船は…)
 身内だったか、と呆れた自分の馬鹿さ加減。
 いくらシャングリラがステルス・デバイスで姿を消していたって、まるで気付かなかったとは。
 ミュウの仲間を乗せている船、それが直ぐ側にいたというのに、知らずに通過しかけたとは。
(短距離ワープで逃げていたのか…)
 きっとそうだったのだろう。いきなり長距離ワープをするより、まずは短距離。其処で隠れて、人類軍の艦隊をやり過ごす。ほとぼりが冷めたら、改めてワープ。


 如何にもハーレイらしい手だな、と浮かべた笑み。ワープしたって、運が悪いと追われるから。長距離ワープで追跡されたら、咄嗟に取れない回避行動。
 その点、短距離ワープだったら小回りが利く。追って来ている、と気付いた時点で打つ手は幾らでもあるわけだから…。
(それで、何処までワープしたんだ?)
 ジルベスター星系からは相当離れたことだろう。かなりに運が良かった自分。本当に道が開けてしまった。何もしなくても戻れた青の間、皆に生還を告げに行かなければ、と考えたのに。
(…フィシス?)
 どうしてフィシスが此処にいるんだ、と目を丸くして、「今、戻った」と言おうとしたら。
「ソルジャー・シン…」
 そう呼ばれたから絶句した。フィシスは視力を持たないけれども、その分、サイオンの瞳で見るのに優れている筈。自分とジョミーを見間違うなど有り得ない、と愕然として…。
(…何故、フィシスが…)
 ぼくとジョミーを間違えるんだ、と思った所で気が付いた。自分の両手が触れている物、それは頭に着けた補聴器。フィシスに託した記憶装置を兼ねていた物で、それが頭にあるのなら…。
(…この身体は…)
 ジョミーなのか、と視線を下にやったら、ジョミーの衣装。自分のではなくて。
 そして、よくよく意識を研ぎ澄ましてみれば、ジョミーは只今、滂沱の涙。どうやらフィシスが渡した補聴器、その中に残った記憶を辿っていたらしく…。
(…自分を信じることから道は開ける…)
 その言葉をジョミーが再び聞いた瞬間、其処で空間が繋がったらしい。同じ言葉を思い返して、自分が飛んでいたものだから。…シャングリラからは遠く離れた所で。


(ぼくは、ワープをしたんじゃなくて…)
 巻き込まれたということでもなくて、ジョミーの意識に引っ張られただけ。とうに死んでいて、魂だけになっていたのを。
 本当だったら天国か何処か、そういう世界に行くべき所を、何か勘違いをしていた内に。
(…ジョミーの中に入ってしまったのか…)
 思念体と呼ぶには、ちょっと頼りない状態で。きっとジョミーにも、存在自体を分かって貰えそうにもない状況で。
(…とはいえ、これも考えようで…)
 ジョミーにまるで自覚が無くても、自分の方からアプローチするのが不可能でも…。
(…このままジョミーの中にいたなら、地球に行けるし…)
 人生、捨てたものではないな、と開き直ってみることにした。
 ジョミーの身体は健康だったし、居心地はとても良さそうだから。死にかけだった自分の身体に比べたらずっと、軽くてピンピンしているから。
(死んだ自覚がゼロというのが良かったんだな…)
 生きているのだと勘違いしたから、死後の世界に行かずに済んだ。その上、ジョミーが補聴器を着けて再生してくれた言葉、それを励みに宇宙を飛んでいたのがラッキー。
 上手い具合にジョミーとシンクロしたから、キッチリ戻れたシャングリラ。
 いくら自分は死んでいるにせよ、これは人生丸儲け。頑張らなくても地球に行けるし、楽隠居の日々でいいのだろう。ジョミーは自分が入り込んだことに、全く気付いていないのだから。
(これでは、アドバイスのしようもないし…)
 ジョミーの中にいるというだけ、たったそれだけ。ヤドカリと言うか、間借り人と言うか…。


 そんな所だ、と自分の立場を把握したのがソルジャー・ブルー。
 これから先はジョミーの身体に住ませて貰って、憧れの地球を目指す旅。ジョミーは自覚ゼロなわけだし、悠々自適の日々の始まり。
(事の善し悪しは、全てが終わってみなければ…)
 分からないさ、とは言い得て妙だ、と感動しまくり、儲けた命。死んだ自覚が無かったお蔭で、どうやら地球まで行けそうだから。
(ぼくにも運が向いて来た…)
 人生ツイてる、とスキップしそうなブルーの人生、本当は終わっているのだけれど。
 運が向くも何も無いのだけれども、終わり良ければ全てよし。
 たとえジョミーの身体でも。自分の身体は消えてしまって、ヤドカリな間借り人生でも。


 こうしてブルーが入り込んだから、青の間を出たジョミーがフィシスを従え、皆を鼓舞しに足を踏み入れた天体の間では…。
「俯くな、仲間たち!」
 そうブチ上げたジョミーの顔には、見事なまでにブルーの顔立ちが重なっていた。
 なにしろミュウは精神の生き物、微妙な違いを嗅ぎ分けたから。
 今まで見ていたジョミーと違うと、ソルジャー・ブルーだとピンと来たから。
「ソルジャー・ブルー?」
「…ソルジャー・ブルー…?」
 さざ波のように広がってゆく声、けれど「グラン・パ!」と叫んだトォニィ。
 途端に「間違えたかな」と思い直すのがミュウの仲間たちで、一瞬の内に消えた幻影。ブルーの代わりにジョミーがいるだけ、「アルテメシアへ向かう」と始まった未来に向けての大演説。
(…地球へ向かうか…)
 行ってくれるか、とブルーは充分、満足だった。
 自分の存在に一度は気付いてくれた仲間たち、彼らに綺麗にスルーされても。
 ジョミーの中には自分がいるのだと、もう気付いては貰えなくても。


(事の善し悪しは…)
 全てが終わってみなければ分からないさ、と拾った人生、後は地球まで楽隠居。
 自分を信じて道が開けて、ちゃんとシャングリラに戻れたから。
 ヤドカリな間借り人生にしても、人生、生きてなんぼだから。
 とっくに死んでいるけれど。
 それでもやっぱり生きているから、憧れの地球まで行けそうだから…。

 

        拾った人生・了

※原作だったら、ジョミーの中にいるブルー。きっと同じだと思ったのがアニテラなのに…。
 そんな描写は皆無だったオチ、だったらジョミーに重なったアレは何だったんだ、と。





拍手[0回]

PR
COMMENT
Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
 管理人のみ閲覧
 
Copyright ©  -- 気まぐれシャングリラ --  All Rights Reserved

Design by CriCri / Material by 妙の宴 / powered by NINJA TOOLS / 忍者ブログ / [PR]