「ママもブルーも…優しい人だった」
ジョミーまで殺させはしない!
そう言ってキースを攻撃したのがトォニィ、瞳がキラリと光ったけれど。
容赦なくサイオンでキースの首を絞め上げながら、「苦しいか?」などと凄んでいるけれど。
「お前は、簡単には死なせない」と決め台詞よろしくやっているのだけれども、ちょっと考えて頂きたい。
いや、トォニィが考えるわけではなくて。
もちろんキースの方でもなくって、考えるのはそう、其処の「あなた」で…。
トォニィのママはカリナだからして、「優しい」はデフォ。
SD体制始まって以来の自然出産児、トォニィを産んだくらいなのだし、優しくて当然。それに看護師だってやっていたから、「優しい人」で間違いはない。
たまに「このクソガキャー!」とキレることが仮にあったとしたって、基本は優しいのが母親。
我が子に向かって「クソガキ」だろうが、「ボケ!」だろうが。
子供を小脇にガバッと抱えて、お仕置きにお尻パンパンだろうが。
母親はそういうものだから。
我が子可愛さで叱るものだし、時には手だって上げたりもする。
言うことを聞かないクソガキだったら、「このクソガキャー!」と。
そのクソガキがオンオン泣こうが、躾とばかりにお尻パンパン、それが母親。
思い切り叱って叱り倒したら、「いい子ね」と涙を拭いたりして。「もうしないのよ?」と頭を撫でてやったりもして、ギュッと愛情たっぷりのハグ。
ゆえに、カリナは優しいだろう。
トォニィがキースに言った通りに、「優しい人」で合っている。
幼かった日のトォニィがお尻を叩かれていても、「このクソガキャー!」とやられていても。
その件については、誰も入れられないツッコミ。
母親というのは優しいものだし、トォニィもそう感じて大きくなっただろうから。
ところが此処に問題が一つ、カリナとセットで挙がったブルー。
「ママもブルーも」とトォニィは言って、「優しい人」だと言い切ったわけで。
つまりは、ブルーもカリナとどっこい、そのくらいにトォニィにとっては「優しかった人」。
わざわざ仇を取りに行くくらい、「殺させはしない」と叫んだジョミーと並ぶくらいに、大切な人で「優しい人」。
それがトォニィにとってのブルーで、注意すべきは其処だったりする。
どうしてブルーが、カリナと肩を並べるくらいに「優しい人」になっているのか。
グランパなジョミーに負けない勢い、それほど大事に思われているか。
よく考えたら、誰もが気付く。
「いったい、何処でトォニィは、ブルーに可愛がって貰いましたっけ?」と。
誰もが突っ込む、「ブルーは優しい人かもですけど、トォニィに優しくしてましたっけ?」と。
もちろん、接点だったら幾つか。
キースの脱走騒ぎの時には、身体を張ってトォニィをキャッチしたのがブルー。
お次はナスカがメギドの炎に襲われた時で、最初にシールドしたのがブルー。そのシールドを強化したのがトォニィたちで、共に戦った戦友ではある。
最後は「この子たちを連れて行くのか?」と、「ぼくが時間を作る」と、ブルーが単身、メギドに向かって飛び去った時。
その三つだけで、他には全く無いのがブルーとの接点なるもの。
たったの三つで、それ以上でも以下でもないのが、トォニィにとってのブルーの筈で。
三つだけしか無かった接点、どう転がったら「優しい人」が出来上がるのか。
母親のカリナと並ぶくらいに、グランパなジョミーと同等に扱われるような人物に。
どう考えても、「無いでしょ?」なのに。
ブルーはトォニィを育てていないし、ジョミーよろしく懐かれてもいない。
本当だったら、此処でトォニィが言うべき台詞は…。
「ママは優しい人だった」なわけで、ブルーの名前は出て来ない筈。
「優しい人」という括りでは。
なんとしてでも、名前を出そうと言うのだったら、「強い人」とか、そういった感じ。
ミュウの未来を守って散ったし、その言い方なら、多分、変ではないだろう。
それとも「大いなる愛」でミュウを守って散ったからして、「優しい人」で押し通すか。
もうゴリゴリと押し通すならば、それでなんとか通りはする。
ミュウを守った優しい人だと、さながら聖母のような人だ、と。
聖母だったら、実の母親ともガチで勝負が出来るから。
ガチンコ勝負で負けはしないし、場合によっては母親に勝つ。
けれど、本当にそれでいいのか、その論法で正解なのか。
「ママもブルーも…優しい人だった」というトォニィの言葉、それを正しく読み解くには。
カリナとガチでやっても負けない、「優しい人」というブルー。
トォニィの大切なグランパのジョミー、彼ともタイマンを張れるほど大切に思われるブルー。
「ミュウの未来を守った」聖母だったら、カリナと並んで立てるのか。
トォニィを産んだ実の母親、「このクソガキャー!」とお尻パンパン、そんなカリナとブルーが同等の地位に就けるのか。
「優しい人だった」と仇を討ちにゆくほど。
ジョミーを同じに殺させはしないと、キースの首をジワジワと締めにかかるほど。
(…ブルーは優しい人だったんだ…!)
なのに優しいブルーもママも、とキースの首を締めているトォニィ。
こいつが殺してしまったんだと、ママも、ブルーも、と。
未だに「ブルー」を連呼なわけで、ママと並んでブルーの名前。
まるで接点は無い筈なのに。
せいぜい三回、それだけしか会っていないのに…、と考えた「あなた」は間違っている。
大切なことをサラッと忘れて、ケロリと忘れてしまったオチ。
あれから八年以上経ったし、それも仕方がないけれど。
毎日の萌えにリアルの生活、色々なことがあるのだからして、忘れても仕方ないけれど。
DVDをお持ちだったら、最終話を観て頂きたい。
それの終盤、お絵描きをするトォニィを。
ソルジャーを継いだらしいトォニィ、彼が回想しているシーン。
まだ幼かった頃のトォニィ、呼び掛ける「優しい母親」のカリナ。
「トォニィ、トォニィ…」
「ん?」
トォニィは其処で振り返るわけで、「何やってるの?」とカリナの声。
「まあ…。上手に描けたわね」
「パパ、ママ、ぼく…」と、順に絵を指してゆくトォニィ。
「グランパ!」
そう得意そうに差し出した絵には、ジョミーが大きく描かれていて…。
ジョミーの左側、後ろに「有り得ない」人物。
どう見ても「笑顔」で寝ているのがブルー、恐らくは青の間のベッド。そこ以外には、ブルーのベッドは無いのだから。
でもって、ブルーは「笑顔」で寝ていて、トォニィにとっては…。
(本当に優しかったんだ…!)
ママもブルーも、と絶賛キースの首締め中のトォニィ、本当に優しかったのがブルー。
まだ幼かったトォニィを連れて、ジョミーが青の間に出掛けた時に。
「ブルー、この子が分かりますか?」と。
昏々と眠り続けるブルーに、「母親のお腹から生まれた子供ですよ」と。
そうやってジョミーが抱いていたトォニィ、ようやく「おむつ」が外れたばかり。
「こんなに大きくなったんですよ」と、ジョミーはトォニィを差し出したわけで。
「見えますか?」と両腕で抱いて近付けたブルーの胸元、悲劇は其処で起こってしまった。
なんと言っても、子供だから。
先日「おむつ」が取れたばかりの、本物の幼児だったから。
ジョバーッとやってしまった「お漏らし」、それもブルーの胸元で。
慌てたジョミーが引き戻す前に、もうジョバジョバと。
ブルーの顔にもかかる勢い、上掛けだって、華々しく濡れてしまったわけで…。
(あの時、ブルーは…!)
ママと同じに優しく許してくれたんだ、とトォニィは忘れていなかった。
幼かった日の大失態を、その時に感じたブルーの思念を。
ほんの微かなものだったけれど、「泣かないで」と。
「子供なんだし、仕方ないよ」と、「ぼくは怒っていないから」と。
ジョミーはオロオロしていたけれども、ブルーの思念に気付いてさえもいなかったけれど…。
(ぼくは確かに聞いたんだ…!)
深い眠りの底にいたブルー、その人が紡いだ優しい声を。
まるで母親のカリナさながら、それは優しく心に届いた思念波を。
ブルーの思念は「いい子だね」と微笑んでいた。
「このクソガキャー!」と怒鳴る代わりに、「泣かないで」と。
それを確かに耳にしたから、感じたのだから、忘れない。
「ブルーは優しい人だった」と。
顔にかかるほど激しい「お漏らし」、上掛けどころか、ブルーの服まで濡れたのに。
あの後、係が着替えさせるのを、泣きじゃくりながら見ていたのに。
(…あんなに優しかったブルーを…)
こいつが殺した、とギリギリと締めるキースの首。
ママもブルーも優しかったと、大切な人たちを殺した男、と。
ジョミーまで同じ目に遭わせはしないと、その前にぼくが殺してやる、と。
カリナもブルーも、誰よりも優しかったから。
幼かった自分が「お漏らし」したって、二人とも怒りはしなかったから…。
優しかった人・了
※いや、トォニィに「優しい人だった」と、言われるようなブルーでしたっけ、と。
こっちの方が自然だよな、と浮かんで来たのが「お漏らし」事件。青の間に行ったならね!
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