「発射ぁ!」
キースの叫びと共に放たれた、メギドの炎。地獄の劫火と称される、それ。
ジルベスター・エイトを貫いた火は、遥か彼方のモビー・ディックへと向かったけれど。ミュウたちを滅ぼす筈だったけれど、それはジルベスター・セブンでのこと。いわゆるナスカ。
巻き添えとばかりに大穴が開いた第八惑星、ジルベスター・エイト、其処が問題。
(………)
崩れゆく星でムクリと動いた生き物。人類が承知していないブツ。
SD体制が始まるよりも遠い昔に、ジルベスター・エイトはパラダイスだった。其処で生まれた幾つもの命、けれど不幸にも止まった進化。どういうわけだか。
爬虫類まで進んだ所で終わってしまって、最後にいたのはイグアナたち。
そのイグアナも、生きてゆけなくなった星。「もう駄目ぽ」と滅びてゆく中、神の気まぐれか、悪戯なのか、眠りに就いたヤツが一匹。
(…………)
長い長いこと眠ったイグアナ、そいつが叩き起こされた。メギドの炎で。
星に大穴が開くほどの衝撃、目覚めない方がどうかしている。その上メギドは、惑星改造用にと作られたヤツを、国家騎士団が兵器に転用したものだから…。
(……………)
普通のイグアナと多分、変わらなかった筈のイグアナ。
メギドの炎を浴びたお蔭で、「彼」は巨大化してしまった。それは素敵なビッグサイズに。
目を覚ましたら星はメチャメチャ、もはや住む場所も無さそうな感じ。
イグアナの頭でも理解できたこと、「アレが悪い」と。
宇宙空間に群がっている人類軍の船と、それからメギド。「アレが壊した」と、長らく暮らした我が家がパアになったのだ、と。
いくらイグアナでも、これで怒らないわけがない。「いてもうたるねん」と思うのが普通。
とっくに「ただのイグアナ」ではなくて、もはや大怪獣だから…。
『何か来ます!』
マツカがキースに送った思念波。
他の部下も、「前方より、高エネルギー体、高速接近中!」と言ったものだから、「来たか」と期待したのがキース。「伝説の獲物がやって来たな」と。
当然、キースが待っていたのはソルジャー・ブルー。伝説のタイプ・ブルー・オリジン。
ところがどっこい、宇宙空間に現れた「高エネルギーを纏ったもの」は…。
「パギャーーーッ!!!」
雄叫びを上げて、ジルベスター・エイトから飛び出して来た大怪獣。怒れるイグアナ。
「元イグアナ」で、今の姿はさながら「ゴジラ」といった所か。
彼は遠慮なく口から火を吐き、人類軍の船を焼き払った。レーザー砲で攻撃されても、大怪獣の皮は傷つきもしない。
「ウゼエ奴らだ」と言わんばかりに船を掴んで、千切っては投げ、千切っては投げ…。
「しょ、少佐! あれはいったい…!?」
大慌てなのがキースの部下たち、キースも実はビビッていた。ソルジャー・ブルーなら、来ても少しも驚かない。返り討ちだと思っていたのに、想定外のブツが来たわけだから。
けれど腐っても機械の申し子、「落ち着け!」と怒鳴って撃ち落とすつもり。メギドの次弾で、宇宙に出て来た大怪獣も。
きっと一撃で倒せる筈だ、と考えているキースは知らない。
大怪獣の正体は「ただのイグアナ」、それがメギドの炎で巨大化したなんて。第二波攻撃をブチかましたなら、火に油を注ぐような結果が待っているなんて。
大怪獣が暴れている頃、キースが期待をかけた人物、そちらも現れたのだけど。
ソルジャー・ブルーが懸命に宇宙を駆けて来たけれど、三世紀以上も生きた彼でも、目を疑った大怪獣。「いったい、何が?」と。
(…どう見ても巨大生物なんだが…)
それが人類軍を攻撃している、と把握した現状。多分、ミュウとは違った事情で、人類軍を敵と見做した生物。半端ない大きさで口から炎まで吐いて、蹴散らしている人類軍の艦隊。
(…ぼくはどうすれば?)
このまま行ったら自分の出番も無いのでは、と思う怪獣の暴れっぷり。再点火中らしきメギドに向かって進撃中だし、あの勢いならメギドも沈む。何発かガンガン殴ったならば。
(任せておくか…?)
アレに、とチラと考えたけれど、伝わってくる人類軍のパニックぶり。
お蔭で分かった、メギドとドッキングしている赤い船のこと。旗艦エンデュミオン、あの中にはキースが乗っている。大怪獣の怒りに任せて、メギドごと沈めてもいいのだけれど…。
(此処でキースが死んでしまったら…)
破壊力抜群の怪獣のことが、他の人類にも伝わるかどうか。なんとも使えそうな怪獣。
上手く自分が手なずけたならば、この先、きっと役に立つ。物凄い生物兵器として。
(…とりあえず、ぼくと目的は同じなんだから…)
ちょっと一緒に戦ってみるか、とメギドに向かって飛ぶことにした。予定通りに。
「聞け、地球を故郷とする全ての命よ」と、もはや誰も聞いてはいない思念を送りながら。青いサイオンの光の尾を曳き、まっしぐらに。
人類軍の方では「ミュウまで出て来た」と更なる騒ぎで、同士討ちまでしている始末。
それを「愚かな」と悲しみ、なおも飛んで行ったら…。
不意に反応した大怪獣。炎を吐くのを一旦やめて、「なんだ?」とブルーに向けられた目線。
だからダメ元で飛ばした思念。「敵じゃない」と。
「ぼくは志を同じくする者だ」と、「あそこのメギドを沈めたいだけだ」と。
そしたら返った「パギャーーーッ!」という声、何故だか通じてしまったらしい。怒りに燃える大怪獣に。人類軍もメギドも壊すつもりの破壊大王に。
『分かるのか? それなら、あそこの赤い船は避けて…』
メギドを壊せ、と思念を送れば、暴れ始めた大怪獣。墓標みたいな巨大なメギドを、ガンガンと足や尻尾で殴って。口から炎も吐きまくって。
そうこうする内に発射されたメギド、けれど照射率は激しく低下で、大怪獣にはエネルギー源と言ってもいいのが炎だから…。
(…そうか、こいつはメギドの炎で生まれた怪物なのか…!)
何処から来たのか分からないが、と理解したのがソルジャー・ブルー。怪獣とはいえ、思念波でこちらの意志が伝わるなら、やはり大いに役に立つ。
キースの船は爆発するメギドを離れて逃げて行ったし、怪獣の威力は人類軍に広まるだろう。
そうとなったら、此処は怪獣と仲良くなって…。
『ぼくと一緒に戦うか?』
お前の敵は逃げたようだが、と尋ねてやったら、大人しくなった大怪獣。暴れもしないし、火も吐きはしない。代わりにスリスリ寄って来た。まるで巨大な猫みたいに。
『そういうことなら…。シャングリラを追って旅をしようか』
シャングリラというのは、ぼくたちの船だ、と思念を送ると、頷くような気配が返った。一緒に行かせて貰います、という風に。…言葉は話さないけれど。
そんなこんなで、ソルジャー・ブルーが手なずけてしまった大怪獣。元はイグアナ。
アルテメシアを陥落させたジョミーたちとも無事に合流、ミュウはとんでもない生物兵器を手に入れた。メギドの炎も平気で食らう怪物を。どんな兵器も、まるで役立たない怪獣を。
「ブルー、次の星でもお願い出来ますか?」
今回、ちょっと手強そうなので、とジョミーが頼みに出掛けた青の間。
トォニィたちだけで攻めてゆくより、例のモスラを出したいんです、と。
「ああ、モスラ…。かまわないけれど、アレはモスラと言うよりは…」
ゴジラなんだと思うけどね、とブルーが入れた訂正。「ゴジラとモスラは、全く違う」と。
SD体制が始まるよりも遥かな昔に、人間たちが地球で作った怪獣映画。それがゴジラやモスラなるもの、大怪獣の姿はゴジラに酷似。
ゆえにブルーの目から見たなら「ゴジラ」だけれども、船では「モスラ」で通っている。
モスラは巨大な蛾の姿だから、全く似てはいないのに。誰が見たってゴジラだろうに。
「それは分かってるんですが…。モスラに思念を伝えられるのは、あなただけですし…」
モスラには「小美人」がセットですから、というのがジョミーの言い分。シャングリラの仲間もそれで納得、「小美人」はモスラと意思の疎通が出来た双子の妖精。
よってブルーは「モスラ」を使える「小美人」なわけで、何度も担ぎ出される有様。
「今度もよろしく」と、「次もモスラを使いたいので」と。
こうして人類軍を撃破しまくり、シャングリラはついに地球まで行った。問答無用で。
国家主席のキースの方でも、「交渉のテーブルを」などと言える立場ではなくて、悠々と降りたミュウたちの守護神、今は「モスラ」と崇められている大怪獣。
『ユグドラシルを壊して来い。…それと、その地下のグランド・マザーだ』
もう人類は全員、地球から逃げ出したから、とブルーが命じて、ゴジラは派手に暴れまくった。
「この星のせいで、俺の故郷がパアになった」と恨みをこめて。
「此処を第二の故郷にするねん」と、「住みやすい星にしてやるねん!」と。
ズシンズシンと破壊しまくり、口から炎を吐きまくり。
メギドの炎が生んだ怪獣、元はイグアナだった「モスラ」は夜を日に継いで暴れ続けて…。
「…ブルー、モスラが消えたんですが…!」
ついでに地球が青いんですよ、とジョミーが駆け込んで行った青の間。「外を見て下さい」と。
「…本当だ…。それじゃ、ゴジラは…」
神様の使いだったのだろうか、と首を捻ったブルーは、暫く後に「モスラ」に出会った。視察をしようと降りた地球の上で、それはのんびりと日向ぼっこをしているイグアナに。
とても懐かしい気配が漂う、普通サイズになった「モスラ」に。
『…もしかして、君は…』
あのゴジラかい、と訊いたブルーの足元、スリスリと寄って来たイグアナ。
大穴が開いたジルベスター・エイトの代わりに、地球を第二の故郷に選んだゴジラなイグアナ。
誰もがビックリ仰天だけれど、イグアナは宇宙を、地球を救った。
メギドの炎で怪獣になって、暴れた末に。ミュウと一緒に戦った末に。
青く蘇った地球の上には、元はゴジラでモスラなイグアナ。毎日のんびり日向ぼっこで、友達のブルーの手からおやつを貰ったりして。
二度と火なんか吐いたりしないで、自分が作った青い水の星、気持ちいい地球に大満足で…。
ミュウたちのゴジラ・了
※タイトルに使うのは「ゴジラ」か「モスラ」か、少し悩んだ管理人。どっちがいいんだ、と。
「シンゴジラがあったし、ゴジラの方で」と出した結論。それに姿もゴジラですしねv
pixiv にUPする時には「ゴジラ」避けました、シンゴジラと間違われそうだから…。