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やり直した人生

(ジョミー…。みんなを頼む!)
 それがブルーの最期の思念。メギドの制御室で起こしたサイオン・バーストの中で。
 キースは逃がしてしまったけれども、メギドは沈められる筈。「これでいい」と満足しながら、意識は闇へと落ちて行って…。
(…なに?)
 ぼくは、とキョトンと見詰めた両手。その手から消えていた白い手袋。
 素手だというのも驚きだけれど、自分の手にしては小さいような…、と見詰めていたら。
「助けて! 殺さないで!」
 そう聞こえた悲鳴、反応したのがソルジャーとして鍛えた精神。「誰か危ない」と、急いで助けなければと。女性の声だ、と顔を上げたら向こうで震えている看護師。「殺さないで」と。
(……成人検査?)
 それもぼくのだ、と気が付いた。どうしたわけだか、遡った時間。死ぬ前に見る走馬灯なのか、あるいはこれが現実なのか。
(…どっちにしても…)
 同じ轍を踏んではたまらないから、急いで逃げることにした。此処にいたなら、じきに警備員がやって来る。銃を手にして、撃ち殺そうと。「何もしない」と言っても問答無用で。
(その前に…!)
 飛ぶなら上だ、と一瞬でかました瞬間移動。サイオンは鈍っていなかった。いや、なまじ身体が若い分だけ、前よりも強いかもしれない。
 楽々と飛べた建物の屋上、監視カメラは無いようだから…。
(やたらとリアルな走馬灯だ…)
 こういう風に生きたかったという夢だろうか、と上半身に貼られたパッドを剥がしてポイ捨て。こんなパッドまで貼ったりするから、健康診断の一種だと思い込んだんだ、と。
(まさか記憶を消去だなんて…)
 誰が気付くか、と探った自分の記憶。成人検査の前の記憶は無かった。いくら夢でも、そうそう上手くはいかないのだろう。奪われた過去を取り戻すなんて。


 仕方ないな、と溜息をついて、屋上の隅っこに座り込んでいたら…。
「そっちにいないか!?」
「早く見付けて取り押さえろ!」
 ガヤガヤと声が聞こえて来たから、これはヤバイと逃げ出した。空を飛ぶより瞬間移動、と遥か離れた建物へと。
(…夢じゃなかったのか!?)
 どうやらこれは現実らしい、と見回した周り。とりあえず飛び込んだ建物の中は、普通の会社の類っぽいもの。サイオンでザッと見た感じでは。
(ぼくは時間を遡って…)
 アルタミラまで戻ったのか、と眺めた壁のカレンダー。どう見ても年号がそうだから。
 神の悪戯か、それとも奇跡か、過去の時空で生きている自分。メギドで死んだと思ったのに。
 ついでにすっかり若返っていて、十四歳だった頃の子供の身体。色素は記憶と一緒に失くして、アルビノになってしまったけれど。
(そういうことなら…)
 人生、此処からやり直しだ、と固めた決意。
 成人検査を受けてそのまま捕まるコースは免れたのだし、暫くは潜伏するべきだろう。何処かに隠れて様子見の日々、人類がどう動くのか。
(…その前に…)
 何か食べたい、と覚えた空腹。成人検査の待ち時間には絶食だったし、メギドで死んだと思った自分も体力を使い果たしていたし…。
(……会社だったら……)
 ある筈なんだ、とサイオンで探って見付けた食堂。幸い昼時、次から次へとトレイを並べているようだから…。
(一つ貰って、食べて返しておいても…)
 バレるわけがない、と失敬した社員食堂のランチ。トレイごと瞬間移動で運んで、潜んだ部屋で美味しく食べた。なかなかにいける味だったから…。


(この建物で暮らしていたなら、食べ物の心配は無さそうで…)
 二十四時間、誰かが働いているらしい大きな会社。空き部屋も倉庫も幾つもあるから、コッソリ住むには丁度いい。これだけの規模ならバスルームだって…。
(誰が使ったか、細かくチェックはしない筈…)
 此処に決めた、と定めた根城。そうと決まれば衣類も欲しいし、あれもこれも、と手に入れた。潜伏生活に必要な物を、瞬間移動で調達して。
(ぼくが隠れている部屋には…)
 誰も近付く気を起こさないよう、きっちりシールド。お蔭で夜はぐっすり眠れて、次の日の朝も目覚めスッキリ。数日経っても、まるでバレない居候。
(ぼくが逃げ出した件は、どうなったかな?)
 ちょっと調べに、と成人検査を受けた建物に忍び込んだら、まだ捜してはいたものの…。
「あのガキ、何処かで死んだんじゃないか?」
「そうかもなあ…。宇宙に飛び出しちまったんなら、死体も見付からないだろうし…」
 面倒だからそれでいいか、と報告書を書くつもりの職員たち。「ミュウらしき者」が成人検査に引っ掛かったものの、行方不明で恐らく死亡、と。
(…ふうん?)
 そうなると、この先の流れも変わる、と踏んだブルーの考え通り。
 何年も次のミュウは出なくて、成人検査をしている人類の方も至ってのんびり。お蔭でブルーも潜伏生活を平和に生きて、見た目がソルジャー・ブルーだった頃と同じ姿に育ったから…。
(此処で年齢を止めないと…)
 よし、と若さを保つことにした。これだけ育てば、いつでもソルジャー・ブルーになれる。服や小道具さえ揃ったら、と考えたものの、一向に来ない殺伐としていたアルタミラ時代。
(…三食昼寝付きで、おやつもオッケー…)
 いったいどんな天国なんだ、と自分でも溜息が漏れるほど。
 同じアルタミラでも、こうも違うかと。人体実験の欠片も無い上、本当に三食昼寝付き、と。


 そうやって何年も暮らし続けて、ようやく二人目のミュウが出た。若き日のゼルが引っ掛かってしまった成人検査。けれど「危険に見えた一人目」は死んでいるわけだから…。
(…人体実験の代わりに、経過観察…)
 しかも檻にも入れていないし、とブルーも驚くゼルの待遇。成人検査を受けた施設に留め置き、教育ステーションに進めないだけのゼルの毎日。これまた三食昼寝付きで。
 やがてヒルマンが、ハーレイが、エラがブラウがと検査に引っ掛かったけれども、ゼルと同じく経過観察。「ミュウと人類は何処が違うのか」と見ているだけの人類たち。
(…これだと、ぼくが疫病神だったみたいな感じで…)
 「死んだ」方へと行っていたなら、他のミュウたちに「アルタミラの地獄」は無かったらしい。それを思うと申し訳なくて、一日も早く「仲間たち」を地球へ連れて行きたいところ。
 自分が「下手をこいた」ばかりに、苦労をかけたゼルやハーレイたち。ジョミーの時代はアテにしないで、自分の代で地球に行き着いてこそ。
(まずはシャングリラをゲットしないと…)
 あの船だな、と既に狙いはつけてある。コンスティテューションという、聞き覚えのある名前を持った船。それが宙港に出入りしているから、いずれ頂戴する予定。
(面子が揃いさえしたら出発だ!)
 ゼルの弟のハンスが来たら、と待っている内に、ハンスも検査に引っ掛かったから決行の時。
 コンスティテューション号の入港を待ち、乗組員の意識を操作して色々な物資を積み込ませた。当分は補給要らずで生きてゆけるよう、たっぷりと。
 それが済んだら「ご苦労」と船から降りて貰って、お次は仲間を迎える番。
 ミュウの仲間たちが経過観察中の建物、其処へ瞬間移動で飛び込んで行って、思念で一瞬の内に伝えた行動。「脱出する!」と、「ぼくに続け」と。
 人類の方では「ミュウの集団脱走」などは想定外だし、「待て、止まれ!」などと右往左往する内に逃げられたというオシャレな展開。銃さえ向ける暇も無いまま。
 建物の外は普通の道路で、そんな所で発砲したら一般人を巻き込んでしまうわけだから…。


「早く、こっちだ!」
 急いで、と皆を引き連れて走って、大型バスに乗り込ませた。これまた用意してあったバスで、運転手の意識は支配済み。バスは何台もあるのだけれど。
 それを連ねての宙港入りで、そちらにも手を回しておいた。「ミュウが逃げた」という連絡など入らないよう、通信機器に細工をして。
 お蔭でバスは全て宙港のターミナルビルに横付け、皆、悠々と降りて船へと移動。乗り込んだら次は役の割り振り、「操縦は君に任せる」だとか。
 必要な知識は既にゲットで、思念波で相手にコピーするだけ。ハーレイが、ゼルが、ブラウがと順に持ち場に着いたら、その後は…。
「行こう、キャプテン!」
「はい! シャングリラ、発進!」
 船の名前まで立派に変わって、コンスティテューション改めシャングリラは離陸して行った。
 メギドの炎を食らいもしないで、悠然とアルタミラの空に向かって。
 脱出したら、お次は船の改造なのだけど…。
「あんた、やるねえ…。名前はなんて言うんだい?」
 ブラウが利いてくれたタメ口、そう言えば見た目は彼らと変わらない年だった。ウッカリ下手に訂正したなら「年寄り」確定、それは嫌だから「ブルー」と名乗って年齢のことは知らんぷり。
 「少し前に成人検査を受けたかもね」と誤魔化した。
 それでもやっぱり「ソルジャー・ブルー」で、船の改造も手順は頭に入っていたから、サクサク進んで白い鯨が見事に完成。
「ソルジャー、次はどうするんです?」
 この船だったら、もう何処へでも行けますが、とキャプテン・ハーレイが言うものだから…。
「手近な星を一つ落とそう。其処で地球の座標を手に入れる!」
 あの星がいい、と指示した雲海の星、アルテメシア。
 なにしろ長年馴染んだ星だし、テラズ・ナンバー・ファイブの手の内だって分かる。今なら若い身体だからして、ジョミーに負けてはいないから…。


 いきなり現れたミュウの母船に、アルテメシアの人類軍はアッサリ敗北した。
 ソルジャー・ブルーが知り尽くしていた彼らの戦法、頼みの綱の衛星兵器は破壊された後で手も足も出ない。爆撃機だって、シールドとステルス・デバイスのお蔭で役立たずだから。
「これが地球の座標か…」
 よろしく頼む、とキャプテンの肩を叩いたブルーは、テラズ・ナンバー・ファイブを壊した後。人類軍の情報は山ほど手に入ったから、もうこの先は負け知らずで行ける。
「ソルジャー、他にも船を貰って行きませんか?」
 艦隊を組んで行きましょう、というキャプテンの案に頷き、使えそうな船を頂いて…。
 それからの道は行け行けゴーゴー、なんと言ってもフィシスさえ生まれていない時代のこと。
 フィシスの遺伝子データを元にしてキースを作っているわけがないし、人類の指導者はヘタレな元老たちだけ。「ミュウの艦隊が来た」と聞いたら、もう我先に逃げ出すような。
 そんなわけだから、見る間に地球まで行けてしまって、グランド・マザーの方だって…。
(…ぼく一人でも、やれば出来るということか…)
 どうやら勝ってしまったようだ、とブルーが溜息で見下ろす瓦礫の山。
 グランド・マザーは倒したけれども、憧れの地球が無かったから。青い筈の地球が。
(……人生、やり直してみても……)
 最後の最後でズッコケるのか、と失望しか覚えない死の星な地球。
 けれども肉眼で見られたわけだし、「地球を見たかった」という悲願は叶ったのだから…。
(…これでフィシスさえ生まれていれば…)
 幻とはいえ青い地球にトリップ出来たのに、と心で愚痴るブルーを乗せてシャングリラは地球を離れて行った。
 「百八十度回頭!」というブルーの号令で。「もう、ぼくたちに出来ることは何も無い」と。
 グランド・マザーを失った地球は鳴動しているけれども、人的被害はゼロだから。人類はとうに逃げ出した後で、ミュウの方でも、降りたのはブルーだけだったから。
(…行こう、ぼくたちの…。人の未来へ)
 行くしかないんだ、とブルーは前を見詰め続ける。
 きっといつかは、地球だって青く蘇るから。
 自分が人生やり直したように、死の星の地球も、青い水の星に戻れる日が来るのだろうから…。

 

        やり直した人生・了

※タイムリープはジョミーで書いたし、ブルーだったらどうなるんだろう、と考えただけ。
 そしたらメギドも出なかったというオチ、やっぱり「ブルー最強」なわけ…?






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