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青い地球よりも

 十五年。
 そう言われても、まるで実感が無い。
 そんなに長く眠っていたというのか、ぼくは…?


 けれど確かに、そうなのだろう。
 星の瞬きのように一瞬だった、ぼくにとっての十五年。
 目を閉じて眠って、そして目覚めたら、世界はまるで違っていた。
 そもそも、ぼくを「起こした」人間、その存在が既に、このシャングリラの中では異物。


(皮肉なものだな…)
 ぼくを眠りから引き戻した者、「此処」では「異物」だった人間。
 その人間は、ミュウを「異分子」と呼んだ。
 彼にとっては、ミュウこそが異物なのだから。
(どちらが異物か、それは歴史が決めるのだろうが…)
 結果が出るのを、ぼくは見届けることは出来ない。
 ぼくの目覚めには必然があって、役目を果たさなくてはならない。
 残り僅かな命を使って、シャングリラを、仲間を守らなくては。


 出来るものなら、この肉眼で地球を見たかった。
 眠りに落ちるよりも前から、ずっとそういう夢を見ていた。
 けして叶わないと分かってはいても、望まずにいられなかったけれども…。


(今のぼくには、地球よりも、ずっと…)
 この目で見てみたい「未来」が出来た。
 「地球の男」、キース・アニアンが人質に取っていた、小さなトォニィ。
 自然出産で生まれたと聞いた、ミュウの未来を継ぐだろう子供。
 あのトォニィが育ってゆくのを、彼と同じに生まれた子たちが育つ姿を見たい。
 長い年月、夢に見て来た、青く輝く地球よりも、ミュウの未来を側で見たいと願ってしまう。
 そんなこと、出来はしないのに。
 本当に残り少ない命を「捨てて」彼らを守らない限り、トォニィたちも消えてしまうのに。


 まさか、人生の終わり近くに、夢が出来るとは思わなかった。
 焦がれ続けた青い地球より、この目で見たい「もの」が生まれるとは。
 そう、文字通りに、彼らは「生まれた」。
 SD体制が始まって以来、初めての自然出産児として。
 人工子宮ではなく、母の胎内で育ち、赤い星、ナスカで生を享けて。
 青い地球より、眩しく輝く「新しい命」。
 ミュウの未来を紡いでくれる、思いもしなかった子供たち。
 彼らを、ずっと見ていたいけれど、その夢は、けして叶いはしない。
 この夢を「命」ごと捨ててゆくこと、それが目覚めた「ぼく」の務めだから。


(…十五年か…)
 眠ってしまっていたのが、とても惜しいけれども、夢が出来たからいいだろう。
 叶わない夢でも、新しい夢を心に持つことが出来たから。


(ありがとう、ジョミー…)
 あの子供たちを、この世に生み出してくれて。
 思いがけないミュウの未来を、新しい夢を、このぼくにくれて。
 「ありがとう」と、君に言える時間が、それがあればいいと思うけれども…。
(…そればかりは、地球の男次第か…)
 彼がナスカに戻って来るまでに、ぼくの命が燃え尽きる前に、ほんの少しの時間が欲しい。
 新しい夢が叶わないのは、充分に承知しているから。
 地球よりも、ずっと見たい「未来」は、この目で見届けられないから。


(せめて、ジョミーに…)
 「ありがとう」と言える時間があったらいい、と、願うことくらい許されるだろう。
 その願いが叶わずに終わったとしても、悔いなどは無い。
 あの子供たちを守れるのならば、それだけでいいと思ってしまう。
 ぼくには、新しい夢が出来たから。
 青い地球よりも「見たくなったもの」を、命と引き換えに守れるから。
 だから…。


 ジョミー、君たちは、未来を生きていって欲しい。
 それにトォニィ、他の子たちも、どうか元気で。
 君たちが生きて未来を紡いでゆくのを、ぼくは心から祈り続ける。
 ぼく自身の夢は叶わなくても、それでいいから。
 君たちが地球へ、未来へと歩んでゆくのが、ぼくの「新しい夢」なのだから…。




           青い地球よりも・了


※ブルー追悼作品、「来年は書かずに済むことを希望」と昨年、言ったわけですが。
 コロナ禍も、第7波とか言われる割には、さほど騒がれなくなったのですが…。
 アニテラでブルーが眠り続けたのと同じ年数、15年が経ったのが今年なのです。
 「節目の年だし、書いておくかな」というわけで、2022年7月28日記念作品。
 作中のブルーの夢は叶いませんでしたけど、最後の願いが叶ったのは、皆様ご存じの通り。









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