気弱な暗殺者
(御用があったら呼んで下さい、か…)
呼ばれなくとも駆け付けるくせに、とキースは扉の方へ目を遣る。
たった今、其処から出て行った者は、もう見えない。
ジルベスター・セブン以来の忠実な側近、キース・アニアンに仕え続けるジョナ・マツカ。
「今夜は、もういい」と言われた通り、自分の部屋へ下がったのだろう。
国家騎士団総司令のために設けられた個室、それがある区画の部下のための部屋へ。
(…皮肉なものだな…)
一番の部下がミュウだとはな、とキースは視線を机に戻した。
マツカが淹れて行ったコーヒー、そのカップが湯気を立てている。
「コーヒーを淹れることしか出来ない、能無し野郎」と、マツカは皆に揶揄されていた。
実際、そうとしか見えないのだから、仕方ない。
マツカが「キースの命を受けてしていること」は、ただ、コーヒーを淹れることだけ。
「コーヒーを頼む」と言われた時だけ、「はい」と返事して動くのだから。
(それ以外の用は、他の者たちがしているからな…)
マツカは彼らへの伝達係を務めるだけで、実務は何もこなしていない。
国家騎士団員だとはいえ、そのための教育は何一つ受けていないのだから。
(宇宙海軍の一兵卒では、やれと言われても、出来ない方が当然なのだが…)
他の部下たちは、そうは思っていない。
キース自ら選んだ側近、しかも宇宙海軍からの転属という破格の昇進がマツカの経歴。
「もっと役に立つ筈なのに、何故」と、冷ややかにマツカを眺めている。
「閣下の見込み違いだったか」と、「能無し野郎」の烙印を押して。
(気付けという方が無理な話で…)
マツカの正体を知らないのだし、と分かってはいても、苦笑が漏れる。
「お前たちより、よほど役に立つ部下なのだが」と。
「私の命を何度救ったか、お前たちは何も知らないだけだ」と。
マツカがミュウでなかったならば、不可能だった救出劇は数知れない。
ジルベスター・セブンからの脱出に始まり、今も功績は増え続けている。
「キース・アニアン」の暗殺計画が、次から次へと立てられるせいで。
移動経路に爆弾が仕掛けられたり、いきなり銃撃されたりもした。
それらをマツカは全て防いで、キースの命を守り続ける。
他の部下たちは何も知らずに、「閣下はとても強運だから」と、いつも称賛しているけれど。
加えて自分たちの働き、機敏に動いて「閣下をお守りしているのだ」と誇りに思って。
勘違いされている、ジョナ・マツカ。
コーヒーを淹れることしか出来ない、「能無し野郎」。
(美味いコーヒーを淹れているのも、また事実だが…)
他の奴らではこうはいかん、とキースはコーヒーのカップを傾ける。
「これも才能の一つではある」と、絶妙な苦味を味わいながら。
マツカに命を救われた後に、何度、彼が淹れたコーヒーを飲んだだろうか。
「どうぞ」と差し出される湯気の立つカップ、その度に何処かホッとする自分を知っている。
けして顔には出さないけれども、「また生き延びた」と心に湧き上がるものは…。
(……感謝の気持ちと言うのだろうな)
マツカに伝えたことは無いが、と頬が微かに緩む。
「私にだって、感情はある」と。
「サムにしか向けていないようでも、確かにあるのだ」と。
その有能な「マツカ」のお蔭で、命を拾って、美味いコーヒーも飲める。
マツカがミュウであるからこそで、彼が人類なら、こうはいかない。
「キース・アニアン」は、とうの昔に殺されているか、失脚していたことだろう。
暗殺計画を防ぐことが出来ずに、犠牲になって。
あるいは命は助かったものの、任務を続けることが出来ない身体にされて。
(そうはならずに、この先も生きていけそうだが…)
問題はミュウの侵攻だな、と思考をそちらに向けた瞬間、ハタと気付いた。
人類の宿敵、今も進軍中のミュウ。
彼らと相対している自分は、対ミュウ戦略の筆頭と目されているけれど…。
(そもそも私が、ミュウの巣から生きて逃げ延びられたのは…)
マツカが助けに来たからこそで、そのマツカは、元は暗殺者だった。
暗殺者の顔をしてはいなくて、気の弱い「ただのミュウ」だったけれど。
ソレイド軍事基地に隠れて、ひっそりと生きていたミュウの青年。
(私が、あそこに行かなかったら…)
マツカは自分が「ミュウ」だとも知らず、虐げられて今もソレイドにいただろう。
何の役にも立たない上に、気が弱く、身体も弱い「軍人」などに価値は無い。
きっと役職なども貰えず、下手をしたなら…。
(掃除係にされていたかもしれないな…)
実にありそうな結末だ、と司令官だったグレイブの姿を思い浮かべる。
「奴なら、そうする」と、「使えない者など、左遷だろう」と。
あのままソレイドに残っていたなら、掃除係になりそうなマツカ。
ところが、彼がソレイドで仕出かしたことは、立派な暗殺計画そのもの。
未遂に終わって、暗殺対象だった「キース」に抜擢されて、今は暗殺を防ぐのが役目。
有能な部下になっているけれど、元々、マツカは「暗殺者」なのだ。
自分の命を守るためにと、「キース・アニアン」を殺そうとした。
それはあまりにも無謀に過ぎて、失敗に終わったマツカの企て。
殺されかけたキースの方でも、「愚かな」と、せせら笑ったくらいに無謀。
優位に立って、「後ろに立つな」と銃で脅して、いい気になっていたのだけれど…。
(…あの時、マツカが、もっと追い詰められていたなら…)
サイオン・バーストを起こすくらいの状態だったら、結果は違っていただろう。
今の今まで、全く思いもしなかったけれど、マツカの潜在能力は高い。
(……私を、メギドの制御室から助け出した時……)
マツカは確かに、瞬間移動をしてのけた。
そんな力は、タイプ・ブルーにしか無い筈なのに。
更に言うなら、マツカは「必死になっていた」だけで、暴走状態ではなかったのに。
(…サイオン・バーストの寸前だったら、他のミュウでも有り得るのかもしれないが…)
そうでもないのに、マツカは凄まじい能力を見せた。
彼が「暗殺者」の顔だった時に、同じ力を発揮していたら…。
(……私の命は、其処で終わっていたな……)
間違いなく殺されていたことだろう、と背筋がゾクリと冷たくなる。
「私は運が良かっただけか」と、今頃になって思い知らされた。
運良く「たまたま」助かっただけで、「死んでいたかもしれないのだ」と。
もしも、あそこで「キース・アニアン」がマツカに殺されていたら…。
(…その後の歴史は、今とは全く違ったものに…)
なったことだろう、と恐ろしくなる。
ジルベスター・セブンは焼かれることなく、ミュウは生き延びたに違いない。
そしてあそこを拠点に据えて、地球への侵攻を始めただろう。
そうなった時も、キースの暗殺に成功したマツカは、あのソレイドで…。
(いつミュウどもが攻めて来るのか、日々、怯えながら…)
掃除係をやっているのだ、と容易に想像がつく。
自分がミュウだと知らないのだから、「ぼくは生き延びられるだろうか」とビクビクして。
マツカが「キース」を殺したとしても、誰も「マツカ」の仕業などとは思わない。
ジルベスター・セブンの調査にやって来たキースは、突然死として片付けられたことだろう。
心臓発作を起こして死んで、マツカがそれを発見した、と上層部に報告されるだけ。
(…いくらグランド・マザーであっても、こればかりはな…)
どうすることも出来はしなくて、代わりの者を派遣するより他はない。
「キースにしか、ミュウの相手は出来ない」と承知していても、死人に任務の遂行は不可能。
他の誰かを選ぶしかなく、選ばれた者には、キースと同じ働きなど出来ない上に…。
(マツカの助けも、ありはしなくて…)
あえなく戦死を遂げてしまって、ミュウは直ちに反撃に出る。
自分たちの拠点を知られた以上は、先手必勝。
ジルベスター・セブンが焼かれていないのであれば、戦力は充分、持っている筈。
なんと言っても、九人ものタイプ・ブルーがいるのが、ミュウたちの船。
伝説のタイプ・ブルー・オリジンまでが健在、これでは人類に勝ち目など無い。
(…おまけに、拠点が無傷なのだし…)
あの厄介なタイプ・ブルーが、もっと増える可能性もある。
自然出産の効率がいくら悪くても、生まれて来る子がタイプ・ブルーであったなら…。
(効率以前の問題だ…)
生まれた子供は全て戦力、並みのミュウとは比較にならない力の持ち主。
一人増えただけでも、艦隊一つを破壊することが出来るだろう。
艦隊どころか、星さえ落とせるかもしれない。
そんなミュウたちが押し寄せて来ても、「キース」の代わりはいないのだから…。
(…人類は降伏する以外には…)
道が無いな、とキースは溜息をつく。
「あの実験は私で終わりになっていたし」と、「次の者など用意していない」と。
そして人類が負け戦を戦い続ける間に、ソレイドも陥落することだろう。
マツカは「ミュウ」が何者なのかも知らずに、怯えながら基地の掃除を続けて…。
(ミュウどもの船が攻めて来た時、かつて自分を苛めた誰かが…)
砲撃を受けて吹っ飛ぶ所を、命を捨てて守りそうだ、と心から思う。
「だからこそ今、マツカは此処にいるのだ」と、「そういう心の持ち主だから」と。
ソレイドを落としたミュウたちの方は、そんなマツカに気付くだろうか。
人類を庇って死んでいったミュウ、悲しいまでに優しい者に。
自分がミュウだったことも知らずに、人類の中で生きていたミュウが存在したことに。
(…それにマツカは、ジルベスター・セブンを「キース」から救った…)
真の英雄だったのだがな、と思うけれども、歴史はそちらへ進まなかった。
マツカは「キース」を殺し損ねて、「キース」に仕え続けているから。
ミュウの英雄だったと気付かれる日も、讃えられる時も来ないのだから…。
気弱な暗殺者・了
※キースがソレイドにやって来た時、マツカに返り討ちにされていたら、と思ったわけで。
アニテラのマツカなら、能力的にも有り得た筈。歴史は確実に変わってましたね…。
呼ばれなくとも駆け付けるくせに、とキースは扉の方へ目を遣る。
たった今、其処から出て行った者は、もう見えない。
ジルベスター・セブン以来の忠実な側近、キース・アニアンに仕え続けるジョナ・マツカ。
「今夜は、もういい」と言われた通り、自分の部屋へ下がったのだろう。
国家騎士団総司令のために設けられた個室、それがある区画の部下のための部屋へ。
(…皮肉なものだな…)
一番の部下がミュウだとはな、とキースは視線を机に戻した。
マツカが淹れて行ったコーヒー、そのカップが湯気を立てている。
「コーヒーを淹れることしか出来ない、能無し野郎」と、マツカは皆に揶揄されていた。
実際、そうとしか見えないのだから、仕方ない。
マツカが「キースの命を受けてしていること」は、ただ、コーヒーを淹れることだけ。
「コーヒーを頼む」と言われた時だけ、「はい」と返事して動くのだから。
(それ以外の用は、他の者たちがしているからな…)
マツカは彼らへの伝達係を務めるだけで、実務は何もこなしていない。
国家騎士団員だとはいえ、そのための教育は何一つ受けていないのだから。
(宇宙海軍の一兵卒では、やれと言われても、出来ない方が当然なのだが…)
他の部下たちは、そうは思っていない。
キース自ら選んだ側近、しかも宇宙海軍からの転属という破格の昇進がマツカの経歴。
「もっと役に立つ筈なのに、何故」と、冷ややかにマツカを眺めている。
「閣下の見込み違いだったか」と、「能無し野郎」の烙印を押して。
(気付けという方が無理な話で…)
マツカの正体を知らないのだし、と分かってはいても、苦笑が漏れる。
「お前たちより、よほど役に立つ部下なのだが」と。
「私の命を何度救ったか、お前たちは何も知らないだけだ」と。
マツカがミュウでなかったならば、不可能だった救出劇は数知れない。
ジルベスター・セブンからの脱出に始まり、今も功績は増え続けている。
「キース・アニアン」の暗殺計画が、次から次へと立てられるせいで。
移動経路に爆弾が仕掛けられたり、いきなり銃撃されたりもした。
それらをマツカは全て防いで、キースの命を守り続ける。
他の部下たちは何も知らずに、「閣下はとても強運だから」と、いつも称賛しているけれど。
加えて自分たちの働き、機敏に動いて「閣下をお守りしているのだ」と誇りに思って。
勘違いされている、ジョナ・マツカ。
コーヒーを淹れることしか出来ない、「能無し野郎」。
(美味いコーヒーを淹れているのも、また事実だが…)
他の奴らではこうはいかん、とキースはコーヒーのカップを傾ける。
「これも才能の一つではある」と、絶妙な苦味を味わいながら。
マツカに命を救われた後に、何度、彼が淹れたコーヒーを飲んだだろうか。
「どうぞ」と差し出される湯気の立つカップ、その度に何処かホッとする自分を知っている。
けして顔には出さないけれども、「また生き延びた」と心に湧き上がるものは…。
(……感謝の気持ちと言うのだろうな)
マツカに伝えたことは無いが、と頬が微かに緩む。
「私にだって、感情はある」と。
「サムにしか向けていないようでも、確かにあるのだ」と。
その有能な「マツカ」のお蔭で、命を拾って、美味いコーヒーも飲める。
マツカがミュウであるからこそで、彼が人類なら、こうはいかない。
「キース・アニアン」は、とうの昔に殺されているか、失脚していたことだろう。
暗殺計画を防ぐことが出来ずに、犠牲になって。
あるいは命は助かったものの、任務を続けることが出来ない身体にされて。
(そうはならずに、この先も生きていけそうだが…)
問題はミュウの侵攻だな、と思考をそちらに向けた瞬間、ハタと気付いた。
人類の宿敵、今も進軍中のミュウ。
彼らと相対している自分は、対ミュウ戦略の筆頭と目されているけれど…。
(そもそも私が、ミュウの巣から生きて逃げ延びられたのは…)
マツカが助けに来たからこそで、そのマツカは、元は暗殺者だった。
暗殺者の顔をしてはいなくて、気の弱い「ただのミュウ」だったけれど。
ソレイド軍事基地に隠れて、ひっそりと生きていたミュウの青年。
(私が、あそこに行かなかったら…)
マツカは自分が「ミュウ」だとも知らず、虐げられて今もソレイドにいただろう。
何の役にも立たない上に、気が弱く、身体も弱い「軍人」などに価値は無い。
きっと役職なども貰えず、下手をしたなら…。
(掃除係にされていたかもしれないな…)
実にありそうな結末だ、と司令官だったグレイブの姿を思い浮かべる。
「奴なら、そうする」と、「使えない者など、左遷だろう」と。
あのままソレイドに残っていたなら、掃除係になりそうなマツカ。
ところが、彼がソレイドで仕出かしたことは、立派な暗殺計画そのもの。
未遂に終わって、暗殺対象だった「キース」に抜擢されて、今は暗殺を防ぐのが役目。
有能な部下になっているけれど、元々、マツカは「暗殺者」なのだ。
自分の命を守るためにと、「キース・アニアン」を殺そうとした。
それはあまりにも無謀に過ぎて、失敗に終わったマツカの企て。
殺されかけたキースの方でも、「愚かな」と、せせら笑ったくらいに無謀。
優位に立って、「後ろに立つな」と銃で脅して、いい気になっていたのだけれど…。
(…あの時、マツカが、もっと追い詰められていたなら…)
サイオン・バーストを起こすくらいの状態だったら、結果は違っていただろう。
今の今まで、全く思いもしなかったけれど、マツカの潜在能力は高い。
(……私を、メギドの制御室から助け出した時……)
マツカは確かに、瞬間移動をしてのけた。
そんな力は、タイプ・ブルーにしか無い筈なのに。
更に言うなら、マツカは「必死になっていた」だけで、暴走状態ではなかったのに。
(…サイオン・バーストの寸前だったら、他のミュウでも有り得るのかもしれないが…)
そうでもないのに、マツカは凄まじい能力を見せた。
彼が「暗殺者」の顔だった時に、同じ力を発揮していたら…。
(……私の命は、其処で終わっていたな……)
間違いなく殺されていたことだろう、と背筋がゾクリと冷たくなる。
「私は運が良かっただけか」と、今頃になって思い知らされた。
運良く「たまたま」助かっただけで、「死んでいたかもしれないのだ」と。
もしも、あそこで「キース・アニアン」がマツカに殺されていたら…。
(…その後の歴史は、今とは全く違ったものに…)
なったことだろう、と恐ろしくなる。
ジルベスター・セブンは焼かれることなく、ミュウは生き延びたに違いない。
そしてあそこを拠点に据えて、地球への侵攻を始めただろう。
そうなった時も、キースの暗殺に成功したマツカは、あのソレイドで…。
(いつミュウどもが攻めて来るのか、日々、怯えながら…)
掃除係をやっているのだ、と容易に想像がつく。
自分がミュウだと知らないのだから、「ぼくは生き延びられるだろうか」とビクビクして。
マツカが「キース」を殺したとしても、誰も「マツカ」の仕業などとは思わない。
ジルベスター・セブンの調査にやって来たキースは、突然死として片付けられたことだろう。
心臓発作を起こして死んで、マツカがそれを発見した、と上層部に報告されるだけ。
(…いくらグランド・マザーであっても、こればかりはな…)
どうすることも出来はしなくて、代わりの者を派遣するより他はない。
「キースにしか、ミュウの相手は出来ない」と承知していても、死人に任務の遂行は不可能。
他の誰かを選ぶしかなく、選ばれた者には、キースと同じ働きなど出来ない上に…。
(マツカの助けも、ありはしなくて…)
あえなく戦死を遂げてしまって、ミュウは直ちに反撃に出る。
自分たちの拠点を知られた以上は、先手必勝。
ジルベスター・セブンが焼かれていないのであれば、戦力は充分、持っている筈。
なんと言っても、九人ものタイプ・ブルーがいるのが、ミュウたちの船。
伝説のタイプ・ブルー・オリジンまでが健在、これでは人類に勝ち目など無い。
(…おまけに、拠点が無傷なのだし…)
あの厄介なタイプ・ブルーが、もっと増える可能性もある。
自然出産の効率がいくら悪くても、生まれて来る子がタイプ・ブルーであったなら…。
(効率以前の問題だ…)
生まれた子供は全て戦力、並みのミュウとは比較にならない力の持ち主。
一人増えただけでも、艦隊一つを破壊することが出来るだろう。
艦隊どころか、星さえ落とせるかもしれない。
そんなミュウたちが押し寄せて来ても、「キース」の代わりはいないのだから…。
(…人類は降伏する以外には…)
道が無いな、とキースは溜息をつく。
「あの実験は私で終わりになっていたし」と、「次の者など用意していない」と。
そして人類が負け戦を戦い続ける間に、ソレイドも陥落することだろう。
マツカは「ミュウ」が何者なのかも知らずに、怯えながら基地の掃除を続けて…。
(ミュウどもの船が攻めて来た時、かつて自分を苛めた誰かが…)
砲撃を受けて吹っ飛ぶ所を、命を捨てて守りそうだ、と心から思う。
「だからこそ今、マツカは此処にいるのだ」と、「そういう心の持ち主だから」と。
ソレイドを落としたミュウたちの方は、そんなマツカに気付くだろうか。
人類を庇って死んでいったミュウ、悲しいまでに優しい者に。
自分がミュウだったことも知らずに、人類の中で生きていたミュウが存在したことに。
(…それにマツカは、ジルベスター・セブンを「キース」から救った…)
真の英雄だったのだがな、と思うけれども、歴史はそちらへ進まなかった。
マツカは「キース」を殺し損ねて、「キース」に仕え続けているから。
ミュウの英雄だったと気付かれる日も、讃えられる時も来ないのだから…。
気弱な暗殺者・了
※キースがソレイドにやって来た時、マツカに返り討ちにされていたら、と思ったわけで。
アニテラのマツカなら、能力的にも有り得た筈。歴史は確実に変わってましたね…。
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