水が違う世界
(どうにも慣れんな…)
此処の水は私には合わん、とキースは一人、溜息を零す。
初の軍人出身の元老として、鳴り物入りで就任してから半月が過ぎた。
そろそろ慣れても良い頃だけれど、一向にその気配さえ無い。
(本当に、引いている水まで違うのではないのか?)
コーヒーまでが不味くて敵わん、と思わず顔を顰めてしまう。
今、机の上にあるカップの中身は、不味いコーヒーではないけども。
(こうして部屋で味わう分には…)
文句無しの味で、及第点ところか、最高の評価をつけられる。
ジルベスター・セブン以来の側近のマツカ、彼が淹れるコーヒーは常に味わい深い。
彼を連れて様々な場所に行ったけれども、何処で飲んでも、味は変わらなかった。
それだけ心を配って淹れて、いいタイミングで出して来るのだろう。
(…だからマツカのだけが美味いのか、水は変わっていないのか…)
まるで謎だな、と思いはしても、わざわざ調べる気にもなれない。
恐らく水源は全く同じで、このノアの、首都とも言える地域は、何処へ行っても同じこと。
首都惑星になるほどの星といえども、水源はさほど多くはない。
一つの地域に一カ所あったら、充分と言える世界なのだし、此処も一つの筈だった。
つまり、パルテノン入りを果たして転居した後も、その前も、居住空間に引かれた水は…。
(全く変わっていないのだろうな)
浄化システムも同じだろうさ、と分かっているのに、何故、コーヒーは不味いのか。
パルテノンで飲んでも、会議で出掛けた先で飲んでも、他の元老の家に招かれても…。
(本当に不味くて、どうにもならん)
他に無いから飲むしかないが、とマツカのコーヒーを口に含むと、また溜息をつきたくなる。
激務をこなして自分の個室に帰って来るまで、これが飲めない日が増えた。
国家騎士団総司令だった頃には、気が向いた時に飲めたのに。
「コーヒーを頼む」と命じさえすれば、マツカが淹れて持って来たのに。
(…此処では、マツカも異端だからな…)
マツカもセルジュもパスカルもだ、と溜息の種は全く尽きない。
なにしろ此処では「キース」までが異端、異色と呼ばれる存在だから。
人類を統べる最高機関が、元老院であり、パルテノン。
聖地、地球の地の底に座す巨大コンピューター、グランド・マザーの意を受けて動く。
その構成員である「元老」は皆、根っからの文官、政治家だった。
(…この私とは、根本からして違うのだ…)
生まれ以前の問題でな、とEー1077で見た光景を思い出す。
シロエが命懸けで暴いた、フロア001と「キース・アニアン」の生まれの秘密。
彼が「ゆりかご」と呼んだ場所では、何人もの「キース」が眠っていた。
標本にされて、二度と覚めない永遠の眠りに就いていた「彼ら」。
(…アレも、私も、全くの無から作り出されて…)
人類を統治するべく「キース」は生まれたけれども、どうして「軍人」だったのか。
Eー1077で「マザー・イライザが作る」必要は、何処にあったのか。
(他のステーションでは、作れないなどということは…)
無いということは、既に知っている。
あそこで目にした「ミュウの女」が気にかかったから、調べてみた。
「アレ」も同じにEー1077で作られたとは、どうしても考えられなくて。
(ミュウどもが、私が作られるよりも前の時代に…)
アルテメシアを出たという記録は全く無いし、存在さえも長く確認されてはいなかった。
ジョミー・マーキス・シンの成人検査に絡んで、雲海から母船が浮上してくるまで。
アルタミラでメギド兵器が使われて以来、彼らは息を潜めていた。
三百年もの長きに渡って、何も起こりはしなかった。
「伝説のタイプ・ブルー・オリジン」の名が残ってはいても、見た者はいない。
(…そういう時代に、奴が危険を冒してまで…)
Eー1077に潜入するとは考え難いし、そうする理由も思い付かない。
ならばどうして、「あの女」はミュウの船にいたのか。
自ら逃げ出す筈などは無くて、マザー・イライザが脱走を許すわけもない。
それらを考え合わせてみれば、答えは一つだけしか無かった。
(あの女は恐らく、アルテメシアで…)
作り出されて、ソルジャー・ブルーが見付けて攫って行ったのだろう。
そのせいで研究の場所が移され、Eー1077で続けてゆくことになった。
其処までは理解出来るのだけれど、今もって解けない謎がある。
どうして「Eー1077」が選ばれ、其処で「キース」を作ったのか。
「初の軍人出身の元老」。
キースのパルテノン入りを喜び、讃える者たちなら星の数ほどいる。
一般社会を構成する者や、軍人たちからすれば「希望の星」と言えるだろう。
「軍人でも、やれば頂点に立てる」と証明した上、異色の経歴で未来を切り開きそうだから。
けれども、パルテノンと言ったら、文官と政治家たちの世界で、まるで水が違う。
(…文字通りに、水が合わなくて…)
コーヒーまでが不味いのだ、と幾つ目だか知れない溜息が落ちる。
周りを見たなら、「キース」とは違う人種ばかりが目につき、職員までもが違っていた。
国家騎士団に所属していた頃には、其処で働く職員さえもが「軍人」ばかり。
恐らく、厨房や清掃係といった職種以外は、全員、軍人だったろう。
(…もしかしたら、清掃係までもが…)
かつての「マツカ」のように落ちこぼれてしまった、軍人という可能性もある。
軍人としては無能だけれども、清掃係くらいにはなる、と配属されて来た者たち。
厨房は流石に専門職だし、料理人を育てるステーションから来た者たちだったろうけれど。
(私は、そういう世界で育って…)
Eー1077もまた、「軍人を育てる」ステーションだった。
「エリートを育てる最高学府」には違いなくても、育成するのは政治家ではない。
だから「文官向け」の教育などは全く受けていないし、その逆がパルテノンの構成員たち。
(まるで全く違う世界で育てられ、生きて来たのだからな…)
彼らと「キース」が違いすぎるのは、当然のことと言えるだろう。
水が合わないのも無理はない。
「コーヒーが不味い」と思う理由も、その辺にある。
何処へ行っても落ち着かないから、コーヒーの味が不味くなる。
「此処は私の世界ではない」と、嫌でも認識させられる場所で、真の味など分かりはしない。
同じコーヒーが、国家騎士団で出て来たならば、驚くほどに美味くても。
「マツカの他にも、上手く淹れる者がいるようだな」と、感嘆するほどのコーヒーでも。
(…とことん、私には合わん…)
未だに慣れん、と溜息ばかりが零れるけれども、もう「この道」を行くしかない。
それがグランド・マザーの意向で、「キース・アニアン」の役目だから。
いずれ人類の指導者として、国家主席に就任することになるのだろう。
どうしようもない、自分の未来。
変えることは出来ない、「キース」の生まれ。
Eー1077で「作られた」時から、こうなる未来は決まっていた。
「そういうキース」を作り出すために、サムやスウェナや、シロエまでが選び出されていた。
(そしてシロエは、私のこの手で撃墜されて…)
宇宙に散っていったのだけれど、どうして「そうなった」のだろう。
(パルテノン入りが決まっているなら、私をわざわざ、あそこで作って…)
長い回り道をさせる必要など、本当に何処にあったのか。
政治家を育てるステーションで「キース」を作っていたなら、全ては変わる。
文官は軍事教育などは、受けていないと言っていいほど。
護身用の銃を使える程度で、護身術のような体術の訓練も「受けた」というだけのことらしい。
実際、彼らは皆、隙だらけで、Eー1077の候補生でさえ、彼らよりも腕が上だろう。
(その代わり、彼らは実に狡猾で…)
政治の世界には必須の駆け引きなどには、抜きん出た才能を発揮する。
散々やられた「キース・アニアン暗殺計画」にしても、その才能が生んだ歪みと言える。
(…私を最初から、そういう世界で育てていれば…)
今頃はとうに、国家主席の座に就いていたのだろうな、と自分でも思う。
ライバルを蹴落とし、あらゆる手段を張り巡らせて、誰もが驚く速さで昇進し続けて。
上手く運べば、今の自分が「少佐」で、ジルベスター・セブンに行った年には…。
(最年少の元老として、パルテノンで名を轟かせていて…)
国家主席に就任する日も、目前になっていたかもしれない。
「そのために」生まれて育った以上は、大いに才を発揮するのが「キース」の役目。
シロエが乗った練習艇を追い掛け、撃墜している暇などは無い。
目出度く卒業が決まったのなら、政治の世界に住む人間と接触すべき。
彼らを乗せた宇宙船が、偶然、ステーションに立ち寄るように仕組まれていて。
其処で「キース」が彼らと出会って、目に留まり、未来が開けるように。
「卒業したなら、私の許で働かないか」と、いきなり出て来る「引き抜き話」。
本来、歩むべき道を飛び越え、最初から「ノアで」勤務するとか。
元老の側近に抜擢されて、パルテノン勤務で始まるだとか。
(…グランド・マザーの采配ならば、どうとでも…)
なった筈だ、と分かっているのに、現実は「水の合わない世界」に放り込まれてしまった。
コーヒーまでもが不味くて、やっていられないほど、とことん水の合わない環境。
けれど、「慣れる」しかないだろう。
どういう意図で「こういう育て方をしたか」は、未だに分からないけれど。
グランド・マザーが何を考え、どう計算して、軍人として育てたのかは、謎だけれども。
(…まさか、軍人として育てておいて…)
いざという時、ミュウの長と刺し違えてでも彼らを止めろ、というつもりか、と可笑しくなる。
そんなことなど不可能なことは、もう身をもって知っているから。
もしもマツカがいなかったならば、とうの昔に、メギドで死んでいる身だから。
(…私が助かった本当の理由を、機械は今も知らないからな…)
刺し違えさせるつもりでいるなら、おめでたいことだ、とクックッと笑う。
ジョミー・マーキス・シンと戦ったならば、勝負は一瞬でつくだろう。
オレンジ色の瞳の子供にしたって、恐らく勝ち目は全く無い。
(…まったく、私を何のために…)
軍人に育て上げたのだろうな、と「美味いコーヒー」で喉を潤す。
今の「キース」の癒しといったら、これだけだから。
マツカが淹れるコーヒー以外は、此処では、どれも「不味い」のだから…。
水が違う世界・了
※パルテノン入りして間もない、キースの愚痴。コーヒーまで不味くなる気分らしいです。
けれど実際、軍人として育てる必要は何処にあったのでしょう。政治のプロでは駄目だと?
此処の水は私には合わん、とキースは一人、溜息を零す。
初の軍人出身の元老として、鳴り物入りで就任してから半月が過ぎた。
そろそろ慣れても良い頃だけれど、一向にその気配さえ無い。
(本当に、引いている水まで違うのではないのか?)
コーヒーまでが不味くて敵わん、と思わず顔を顰めてしまう。
今、机の上にあるカップの中身は、不味いコーヒーではないけども。
(こうして部屋で味わう分には…)
文句無しの味で、及第点ところか、最高の評価をつけられる。
ジルベスター・セブン以来の側近のマツカ、彼が淹れるコーヒーは常に味わい深い。
彼を連れて様々な場所に行ったけれども、何処で飲んでも、味は変わらなかった。
それだけ心を配って淹れて、いいタイミングで出して来るのだろう。
(…だからマツカのだけが美味いのか、水は変わっていないのか…)
まるで謎だな、と思いはしても、わざわざ調べる気にもなれない。
恐らく水源は全く同じで、このノアの、首都とも言える地域は、何処へ行っても同じこと。
首都惑星になるほどの星といえども、水源はさほど多くはない。
一つの地域に一カ所あったら、充分と言える世界なのだし、此処も一つの筈だった。
つまり、パルテノン入りを果たして転居した後も、その前も、居住空間に引かれた水は…。
(全く変わっていないのだろうな)
浄化システムも同じだろうさ、と分かっているのに、何故、コーヒーは不味いのか。
パルテノンで飲んでも、会議で出掛けた先で飲んでも、他の元老の家に招かれても…。
(本当に不味くて、どうにもならん)
他に無いから飲むしかないが、とマツカのコーヒーを口に含むと、また溜息をつきたくなる。
激務をこなして自分の個室に帰って来るまで、これが飲めない日が増えた。
国家騎士団総司令だった頃には、気が向いた時に飲めたのに。
「コーヒーを頼む」と命じさえすれば、マツカが淹れて持って来たのに。
(…此処では、マツカも異端だからな…)
マツカもセルジュもパスカルもだ、と溜息の種は全く尽きない。
なにしろ此処では「キース」までが異端、異色と呼ばれる存在だから。
人類を統べる最高機関が、元老院であり、パルテノン。
聖地、地球の地の底に座す巨大コンピューター、グランド・マザーの意を受けて動く。
その構成員である「元老」は皆、根っからの文官、政治家だった。
(…この私とは、根本からして違うのだ…)
生まれ以前の問題でな、とEー1077で見た光景を思い出す。
シロエが命懸けで暴いた、フロア001と「キース・アニアン」の生まれの秘密。
彼が「ゆりかご」と呼んだ場所では、何人もの「キース」が眠っていた。
標本にされて、二度と覚めない永遠の眠りに就いていた「彼ら」。
(…アレも、私も、全くの無から作り出されて…)
人類を統治するべく「キース」は生まれたけれども、どうして「軍人」だったのか。
Eー1077で「マザー・イライザが作る」必要は、何処にあったのか。
(他のステーションでは、作れないなどということは…)
無いということは、既に知っている。
あそこで目にした「ミュウの女」が気にかかったから、調べてみた。
「アレ」も同じにEー1077で作られたとは、どうしても考えられなくて。
(ミュウどもが、私が作られるよりも前の時代に…)
アルテメシアを出たという記録は全く無いし、存在さえも長く確認されてはいなかった。
ジョミー・マーキス・シンの成人検査に絡んで、雲海から母船が浮上してくるまで。
アルタミラでメギド兵器が使われて以来、彼らは息を潜めていた。
三百年もの長きに渡って、何も起こりはしなかった。
「伝説のタイプ・ブルー・オリジン」の名が残ってはいても、見た者はいない。
(…そういう時代に、奴が危険を冒してまで…)
Eー1077に潜入するとは考え難いし、そうする理由も思い付かない。
ならばどうして、「あの女」はミュウの船にいたのか。
自ら逃げ出す筈などは無くて、マザー・イライザが脱走を許すわけもない。
それらを考え合わせてみれば、答えは一つだけしか無かった。
(あの女は恐らく、アルテメシアで…)
作り出されて、ソルジャー・ブルーが見付けて攫って行ったのだろう。
そのせいで研究の場所が移され、Eー1077で続けてゆくことになった。
其処までは理解出来るのだけれど、今もって解けない謎がある。
どうして「Eー1077」が選ばれ、其処で「キース」を作ったのか。
「初の軍人出身の元老」。
キースのパルテノン入りを喜び、讃える者たちなら星の数ほどいる。
一般社会を構成する者や、軍人たちからすれば「希望の星」と言えるだろう。
「軍人でも、やれば頂点に立てる」と証明した上、異色の経歴で未来を切り開きそうだから。
けれども、パルテノンと言ったら、文官と政治家たちの世界で、まるで水が違う。
(…文字通りに、水が合わなくて…)
コーヒーまでが不味いのだ、と幾つ目だか知れない溜息が落ちる。
周りを見たなら、「キース」とは違う人種ばかりが目につき、職員までもが違っていた。
国家騎士団に所属していた頃には、其処で働く職員さえもが「軍人」ばかり。
恐らく、厨房や清掃係といった職種以外は、全員、軍人だったろう。
(…もしかしたら、清掃係までもが…)
かつての「マツカ」のように落ちこぼれてしまった、軍人という可能性もある。
軍人としては無能だけれども、清掃係くらいにはなる、と配属されて来た者たち。
厨房は流石に専門職だし、料理人を育てるステーションから来た者たちだったろうけれど。
(私は、そういう世界で育って…)
Eー1077もまた、「軍人を育てる」ステーションだった。
「エリートを育てる最高学府」には違いなくても、育成するのは政治家ではない。
だから「文官向け」の教育などは全く受けていないし、その逆がパルテノンの構成員たち。
(まるで全く違う世界で育てられ、生きて来たのだからな…)
彼らと「キース」が違いすぎるのは、当然のことと言えるだろう。
水が合わないのも無理はない。
「コーヒーが不味い」と思う理由も、その辺にある。
何処へ行っても落ち着かないから、コーヒーの味が不味くなる。
「此処は私の世界ではない」と、嫌でも認識させられる場所で、真の味など分かりはしない。
同じコーヒーが、国家騎士団で出て来たならば、驚くほどに美味くても。
「マツカの他にも、上手く淹れる者がいるようだな」と、感嘆するほどのコーヒーでも。
(…とことん、私には合わん…)
未だに慣れん、と溜息ばかりが零れるけれども、もう「この道」を行くしかない。
それがグランド・マザーの意向で、「キース・アニアン」の役目だから。
いずれ人類の指導者として、国家主席に就任することになるのだろう。
どうしようもない、自分の未来。
変えることは出来ない、「キース」の生まれ。
Eー1077で「作られた」時から、こうなる未来は決まっていた。
「そういうキース」を作り出すために、サムやスウェナや、シロエまでが選び出されていた。
(そしてシロエは、私のこの手で撃墜されて…)
宇宙に散っていったのだけれど、どうして「そうなった」のだろう。
(パルテノン入りが決まっているなら、私をわざわざ、あそこで作って…)
長い回り道をさせる必要など、本当に何処にあったのか。
政治家を育てるステーションで「キース」を作っていたなら、全ては変わる。
文官は軍事教育などは、受けていないと言っていいほど。
護身用の銃を使える程度で、護身術のような体術の訓練も「受けた」というだけのことらしい。
実際、彼らは皆、隙だらけで、Eー1077の候補生でさえ、彼らよりも腕が上だろう。
(その代わり、彼らは実に狡猾で…)
政治の世界には必須の駆け引きなどには、抜きん出た才能を発揮する。
散々やられた「キース・アニアン暗殺計画」にしても、その才能が生んだ歪みと言える。
(…私を最初から、そういう世界で育てていれば…)
今頃はとうに、国家主席の座に就いていたのだろうな、と自分でも思う。
ライバルを蹴落とし、あらゆる手段を張り巡らせて、誰もが驚く速さで昇進し続けて。
上手く運べば、今の自分が「少佐」で、ジルベスター・セブンに行った年には…。
(最年少の元老として、パルテノンで名を轟かせていて…)
国家主席に就任する日も、目前になっていたかもしれない。
「そのために」生まれて育った以上は、大いに才を発揮するのが「キース」の役目。
シロエが乗った練習艇を追い掛け、撃墜している暇などは無い。
目出度く卒業が決まったのなら、政治の世界に住む人間と接触すべき。
彼らを乗せた宇宙船が、偶然、ステーションに立ち寄るように仕組まれていて。
其処で「キース」が彼らと出会って、目に留まり、未来が開けるように。
「卒業したなら、私の許で働かないか」と、いきなり出て来る「引き抜き話」。
本来、歩むべき道を飛び越え、最初から「ノアで」勤務するとか。
元老の側近に抜擢されて、パルテノン勤務で始まるだとか。
(…グランド・マザーの采配ならば、どうとでも…)
なった筈だ、と分かっているのに、現実は「水の合わない世界」に放り込まれてしまった。
コーヒーまでもが不味くて、やっていられないほど、とことん水の合わない環境。
けれど、「慣れる」しかないだろう。
どういう意図で「こういう育て方をしたか」は、未だに分からないけれど。
グランド・マザーが何を考え、どう計算して、軍人として育てたのかは、謎だけれども。
(…まさか、軍人として育てておいて…)
いざという時、ミュウの長と刺し違えてでも彼らを止めろ、というつもりか、と可笑しくなる。
そんなことなど不可能なことは、もう身をもって知っているから。
もしもマツカがいなかったならば、とうの昔に、メギドで死んでいる身だから。
(…私が助かった本当の理由を、機械は今も知らないからな…)
刺し違えさせるつもりでいるなら、おめでたいことだ、とクックッと笑う。
ジョミー・マーキス・シンと戦ったならば、勝負は一瞬でつくだろう。
オレンジ色の瞳の子供にしたって、恐らく勝ち目は全く無い。
(…まったく、私を何のために…)
軍人に育て上げたのだろうな、と「美味いコーヒー」で喉を潤す。
今の「キース」の癒しといったら、これだけだから。
マツカが淹れるコーヒー以外は、此処では、どれも「不味い」のだから…。
水が違う世界・了
※パルテノン入りして間もない、キースの愚痴。コーヒーまで不味くなる気分らしいです。
けれど実際、軍人として育てる必要は何処にあったのでしょう。政治のプロでは駄目だと?
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