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カテゴリー「地球へ…」の記事一覧
(もしも、私がいなかったなら…)
 サムは幸せだっただろうか、とキースは夜更けに、ふと考えた。
 昼間にサムの見舞いに行ったけれども、サムは普段の通りだった。
 キースに「赤のおじちゃん!」と呼び掛け、両親の話をしてくれた。
 子供時代にサムを育てた養父母は、今もサムと一緒にいるらしい。
(…サムは、私と出会ったばかりに…)
 人生どころか、心まで狂う羽目に陥り、治る見込みは全く無い。
 「キース」に会わずに生きていたなら、今頃はどうしていただろう。
(そもそも、ジョミー・マーキス・シンが元凶なのだが…)
 あいつの友人だったせいで、と思いはしても、大元は「キース」自身だと言える。
 マザー・イライザが「キース」を作らなかったら、サムは「選ばれていない」。
(…私を育てるための人材などは、必要無いのだし…)
 ジョミー・マーキス・シンが存在しようが、サムの人生に影響は出ない。
(Eー1077にも、来ていたかどうか…)
 来ないかもな、とキースは深い溜息を零す。
 サムがエリート候補生に向いていたとは思えない。
(宇宙船の事故が起こった時に、私を助けてくれたことは事実でも…)
 他の面では劣等生で、卒業後の進路も一般人と変わりはしなかった。
 Eー1077の卒業生なら、同じパイロットにしても、違う航路に配属されていたろう。
 エリートならではの腕を買われて、磁気嵐が酷いなどの難所が多い所へ。
(…しかし…)
 サムは普通の航路に行かされたんだ、とキースにも分かる。
 相応しい腕を持っていないなら、一般人のコースに放り込まれて終わる。


 キースが知る限り、Eー1077の卒業生で「一般人」になった者は二人だけ。
 その二人とはサムとスウェナで、どちらも「キース」の友人だった。
(…マザー・イライザが選び出したか、指示を出したか…)
 どちらなのかは謎だけれども、「キース」のために選び出された。
(ミュウの長になった者と、幼馴染だったというだけで…)
 二人とも「選ばれる」ことになったとはいえ、それは「キース」が存在していたせい。
(…私が最初から作られていないとか、未完成だったとか…)
 そういった時は、サムもスウェナも「本来、行くべきだったコース」に行ったのだろう。
(恐らく、Eー1077ではなくて…)
 サムなら、普通のパイロットなどを育てるステーションだったかもしれない。
(パイロットよりも、もっと平凡な…)
 職種のステーションに送られ、卒業した後は「養父」だったろうか。
(あいつなら、向いていただろうな…)
 昼の間は仕事に出掛けて、それ以外の時間は「子供との暮らし」に充てる生活。
 サムが病院で語ってくれる世界を、サムが「自分の子供」と築いてゆく。
 成人検査で別れる日までを、慈しんで育てて。


(スウェナも、Eー1077に来ないのならば…)
 一般人向けのステーションで教育を受けて、似合いの「誰か」と出会っただろう。
 離婚したと聞く男にしたって、一般コースで出会っていたなら、今も一緒に暮らしていそう。
(…離婚した後、子供は他所にやったらしいが…)
 その子を手放して養母を辞めるなど、考え付きもしないに違いない。
(サムもスウェナも、私のせいで…)
 人生を台無しにされてしまったわけだ、とキースは唇をギュっと噛みそうになる。
 シロエも「キースのために選ばれた」ばかりに、宇宙に散った。
 「キース」が存在していなかったなら、彼も普通に生きられたと思う。
(ミュウの因子を持っていようが、マツカのように…)
 機械の監視を潜り抜けた例があるわけなのだし、「シロエ」ならば可能だったろう。
(頭がいい分、自分は普通ではないらしい、と気付くだろうし…)
 マツカ以上に上手くやれそう。
 優秀だから、と選び出されて、Eー1077に来ていたとしても、その後が変わる。
(他人とは違う部分を隠して、爪も牙も見事に隠し通して…)
 表面上は「大人しい候補生」として、保身に努める。
 「キース」を刺激するための素材でないなら、挑戦的に生きる必要は無い。
(こだわっていた、子供時代の記憶にしても…)
 機械がシロエに要求していた「消去」のレベルは、低かった可能性が高い。
 本当に「忘れてしまった」ような者では、後々、人生に支障が出て来るだろうから。


 サムとスウェナと、それからシロエ。
 この三人を考えるほどに、「キース・アニアン」の罪は大きい。
(私さえ、存在していなければ…)
 彼らは普通に生きられたのだ、と思えて来るから、自分自身を呪いたくなる。
 他の誰かを犠牲にしてまで育った命に、どれほどの価値があると言うのか。
 しかも「機械が無から作った生命体」など、果たして「命」と呼んでいいのか、それも怪しい。
(…機械が神の領域を侵して、私を作り出したのだしな…)
 無価値な上に、罪深い存在が「私」なのか、と悔しくなっても、どうすることも出来ない。
 いつか、罪を償える日が来るとしたなら、その時は多分…。
(…世界はミュウのものになっているのだろうな…)
 今は危険な異分子なのだが、と夜の窓の外を見るキースは、まだ本当のことを知らない。
 ミュウが「進化の必然」であるという事実も、システムが「ミュウを排除出来ない」ことも。
 だからこそ「罪」を噛み締めるけれど、キースの考えは間違っていない。
 機械が作った生命体でも、キースには心が宿っている。
 「自らの罪」を意識して生きていける以上は、罪は機械が背負うべきもの。
 真実が明らかになった時には、キースが背負わされた「重すぎる罪」は、消え去るだろう。
 今はまだ、その日は見えもしないけれども、人類とミュウの先の未来で…。



              罪深い命・了


※キースのせいで人生が狂った人間、アニテラだと三人もいるんですよね。
 原作の場合、スウェナはキースと直接の関わりはありません。犠牲者が一名プラス。






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(…命の恩人…?)
 サムが、とシロエは、瞳を大きく見開いた。
 Eー1077の夜の個室で、キースのデータを調べていたら、出て来た記録。
 …新入生を乗せた宇宙船の、衝突事故で…)
 被害の拡大を防ぐ目的で、ステーションの一部が切り離されたらしい。
 キースとサムは、二人きりで其処に居合わせた。
(新入生の船の人たちを助けに、キースとサムだけが出動して…)
 無事に全員を救い出した直後に、事故を起こした区画が分離されて、爆破処分された。
 サムは一足先に逃げていたけれど、キースは出遅れ、宇宙空間に飛ばされたという。
(そのままだったら、キースの命は…)
 無かったかもしれない。
 自力でステーションまで戻る手段を、キースは持っていなかった。
(下手に行ったら、サムも巻き添えになっていたのに…)
 サムは迷わず、キースを救いに飛び出して行った。
 首尾よく助けて戻ったらしいけれども、そんな記録は「見たことが無い」。
 第一、宇宙船が事故に遭った事実も、シロエは今日まで知らなかった。


 何度もデータを読み直す間に、事故の相手が「悪かった」ことに気付いた。
 宇宙海軍の船で、民間船よりも上位に立っている船。
(…何故、宇宙海軍の船が、ステーションなんかに…?)
 来るような用事は何も無い筈、と思えて来るから、事故の発端自体が「怪しい」。
(…事故を起こして、キースの手腕を確かめたとか…?)
 マザー・イライザだったら、やりかねない。
 キースが「失敗していた」場合は、新入生たちの命が奪われるけれど、問題ではない。
 たかが「新入生」の「候補生」くらい、代わりは幾らでも送られて来る。
(…キースは上手く対処したけど、その後が…)
 少しばかり読みが外れて、宇宙の藻屑と消える所を、サムが救ったということだろう。
 ところが「サム」は、将来有望な人材ではない。
 マザー・イライザも期待してはいなくて、キースの「おまけ」で「友人」に過ぎない。
 だから評価をされることなく、宇宙船の事故ごと「忘れ去られた」英雄。


(…サムは覚えているだろうけど、他の生徒は…)
 何も知らずに過ごしている上、宇宙船の事故も公の記録に残ってはいない。
 ステーションの一部を分離したほど、重大な事故を「表向きでは、知る者がいない」。
(宇宙船に乗った新入生の中には、スウェナも入っているんだけど…)
 彼女も、事故をどれほど覚えているのか。
 「キースの友人」に含まれる以上、忘れ果ててはいないにしても、曖昧かもしれない。
(…命の恩人だと思っていたなら、もっと態度が違ったような…)
 ステーションを出たのは、キースに失恋したせいにしてもね、とシロエは顎に手を当てた。
 「命の恩人」に惚れ込んだけれど、袖にされたなら、出て行くことも確かに有り得る。
 とはいえ、普段のスウェナの「キース」に対する姿勢は、どうだったか。
(…惚れていたせいで、ああだったのか、記憶が曖昧だったせいか…)
 分からないよね、と思うくらいに、「宇宙船の事故」は「伏せられている」。
 サムが「キースの命の恩人」なことも、少なくとも生徒は、誰一人として「知らない」。


 なんてことだろう、とシロエは「事故の記録」を呆然と眺める。
 これほどの事故を伏せるためには、マザー・イライザの「力」だけでは足りない。
(宇宙海軍の方にも、マザー・イライザのような機械がいるにしたって…)
 Eー1077で暮らしていた者の記憶を、どう処理するか。
 片っ端からコールしたって、上手くいかないことだろう。
 一人を呼び出して処理する間に、他の者たちの間に広がり、「記憶」の楔が打ち込まれる。
(コールされて忘れ去った筈の生徒が、また耳にして…)
 イタチごっこのような具合に、いつまで経っても「忘れ去られない」ことになりそう。
(生徒の他にも、大勢の人が暮らしているんだし…)
 一斉に記憶を操作しないと、綺麗サッパリ「記録ごと消す」ことは出来そうにない。
(…そういう係が、いない限りは…)
 事故の記録は消せやしない、と気付いたシロエの背筋が冷えて行く。
(…サムとキースと、スウェナ以外は…)
 何も覚えていない状態だったら、事故の記録は消せるけれども、そう出来るのなら…。


(…ぼくが此処に来た後にも、そんな類の何かが起こっていたのに…)
 覚えていないこともあるよね、とシロエは恐ろしくなった。
 機械を欺き、出し抜いたつもりになっていたって、マザー・イライザの手のひらの上。
 夜にベッドで眠る間に、「記憶操作を担う係」が、候補生やら職員やらの記憶を…。
(全部書き換えてしまっていたなら、ぼくは絶対、気が付かないし…)
 騙されたままになってしまうよ、と怖くなるから、今夜は「覚え書き」用のノートは…。
(…読み返したりしたら、眠れなくなって…)
 ついでに「消された記憶」を見つけ出すかも、と思うものだから、読まないでおこう。
 もっと冷静に振り返れる日に、改めて、一番古いノートから…。
(ぼくの知らない「何かの出来事」が書かれていないか、確かめなくちゃ…)
 怖いけれどね、と決意したけれども、どうだろう。
 そう「決心した」ことが「機械にバレていた」なら、きっと明日には…。
(覚えていなくて、今の考えを書き留めようとしていたら…)
 急に眠くなってしまって、出来ないのかも、と恐ろしくなって、「試す」のをやめる。
 機械に負けたことになっても、其処の所は「かまわない」。
 「今、この瞬間に、ぼくは機械に負けたんだ」と、自覚しながら眠り込むより、撤退を選ぶ。
 それは「自分の意志」で選んだ道になるから、勇気ある撤退なだけで、敗北ではない。
(…負けるよりかは…)
 撤退するさ、とシロエはベッドに入った。
 明日になったら「忘れていたって」、負け戦よりはマシに違いないから…。




            勇気ある撤退・了


※サムがキースを救った事故の記録は、本当に伏せられていそう。忘れ去られた真実。
 記憶を操作している場面は、別の所であったんですよね。其処から思い付いたお話です。





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「お前、週末、新入りに混じって、射撃訓練してたんだってな?」
 せっかくの休みに、何をやってるんだよ、とキースの耳に、聞こえて来た声。
 国家騎士団の者たちの会話で、食堂の中で話していた。
(…あいつか…)
 よく見る顔だ、とキースは「射撃訓練をしていた」らしい者を眺める。
 今のキースは上級大佐で、昇進する日も近いけれども、たまに食堂に入りもする。
 コーヒーを一杯、飲む間だけ、「観察」するのが目的だった。
 階級が上になって来るほど、下の者たちの様子が分かりにくくなるからだ。
(週末返上で射撃訓練とは、将来、有望だな)
 覚えておこう、と心のメモに書き留めた所で、当の本人が、こう答えた。
「そりゃまあ、キッチリ訓練していりゃ、上の覚えもめでたいし…」
 腕も上がって一石二鳥だ、と「将来有望な人材」は、親指を立てた。
「休みを潰してやる甲斐はあると思わないか?」
「うーん…。俺は、それほど出世したいわけじゃないしなあ…」
 休みを楽しむ方が合ってる、と言った者の方は、週末はドライブしていたようだ。
 勝手気ままにハンドルを切って、首都惑星ノアの景色を満喫して来た、と得意げに話す。
「車の少ないトコに行ったら、飛ばし放題、気持ちいいぜ!」
「国家騎士団で鍛えた腕を、無駄に活かしているんじゃあ…?」
「生き甲斐っていうのは、人それぞれだろ?」
 あいつなんかは、食いまくって過ごしているみたいだし、と別の誰かの名前が挙がった。
 「どうせ訓練で痩せちまうからな」を口癖にしていて、休みの度に食べ歩くらしい。
 彼が自分の足と舌で集めた「グルメ情報」は、他の者の役に立っている様子だ。
(…確かに生き甲斐は、それぞれらしい…)
 たった三人の分を聞いただけでも、三通りか、とキースは苦笑し、席を立った。
 今日の「観察」も、来た甲斐があった、と「いずれ引き抜くかもしれない者」を見ながら。


 自分専用の部屋に戻ると、キースは早速、側近のマツカに指示を下した。
 「週末も射撃訓練をしていた者」に関して、出来る限りの情報を集めて来るように、と。
「分かりました。セルジュたちにも伝えますか?」
「そうだな。彼らも何処かで目にする機会がありそうだ」
 見掛けた時は注視するよう伝えておけ、とキースは「マツカ」の働きぶりに満足する。
 マツカの場合は、「キースの側近として働く」ことが、生き甲斐だろう。
(やっていて楽しい役目なのかは、分からんがな…)
 私の機嫌を取ったところで、出世が出来るわけでもないし、と思いはしても、良い点はある。
 マツカの正体は「ミュウ」なのだから、キースの側近でなければ、殺されてしまうだけ。
(生きていてこそ、生き甲斐もあるというものだ…)
 生き抜くことが、生き甲斐な者が「マツカ」かもしれない。
 プラスして「キースの役に立つこと」で、だから懸命に仕え続ける。
(なかなかに面白い生き甲斐だな…)
 出世欲だの、食欲だのとは違うようだ、と興味深く思う間に、ハタと気付いた。
 「キース」が「生き甲斐」としているものは、一体、何なのか。
(……私の生き甲斐……?)
 何かあったか、と振り返ってみて、背筋が冷たくなってゆく。
 「これだ」と即答出来る答えが、「キース」の中には無いらしい。


(…順調に昇進を遂げて来ているが、さっき食堂で見た者のように…)
 上官の覚えがめでたくなるよう、行動していた記憶など無い。
 第一、思い付きさえしなくて、ただ、黙々と努力を重ねて、今があるだけ。
(…そういえば…)
 Eー1077を卒業した時には、同期の仲間が何人かいた。
 研修期間が過ぎると、別の所へ散っていったけれど、そうなる前は一緒だった。
 射撃訓練にしても、練習艇の操縦にしても、教官や上官に指導を受ける時は、彼らがいた。
(誰もが、高く評価して貰うために…)
 競い合った中で、「キース」は、彼らを全く意識しないで、自分の考えで動き続けた。
 「競い合う」のは成績だけで、他の所で競い合おうとしたことは一度も無い。
 けれど、同期の者は違って、教官や上官に「取り入るチャンス」を狙っていた。
(…資料を集める必要があれば、名乗り出てみたり…)
 練習艇の整備係を申し出たりして、「点数稼ぎ」を繰り返す日々。
(下らないことを、と切り捨てていたが…)
 彼らは「将来の出世」のために、道筋をつけていたのだろう。
 少しでも有利な配属先へ赴けるよう、せっせと「自分」を売り込んで。
(あれも一種の生き甲斐なわけで、野心があるからやっていたことで…)
 結果を出せたかどうかはともかく、彼らは「生き甲斐」を持っていた。
 「キース」が淡々と生きる間も、明確な目標を目の前に据えて。


 どうやら「キース」にとっての出世や昇進は、「生き甲斐」とは無縁で、結果しかない。
 これから昇進し続けてみても、「私は、この地位に就きたかった」と考えはしないことだろう。
 国家騎士団総司令だろうが、空席のままの国家主席に選ばれようが、「どうでもいい」。
(…その地位に就くのが目標ではあっても、私自身が「なりたい」気持ちは…)
 何処にあるのだ、と自分の中を何度探っても、何も見付かりはしなかった。
 今日までの人生の「目標」は全て、「マザー・イライザ」や「グランド・マザー」が…。
(…そうするように示唆して来るのを、こなし続けて来ただけで…)
 私の意志は含まれていない、とキースは、ゾクリとする。
(…ミュウのマツカを、側近に据えているように…)
 マザー・システムの意向に反することなら「している」とはいえ、「生き甲斐」とまでは…。
(言えはしないな…)
 生き甲斐ならば、もっとミュウに肩入れするさ、と思うからこそ、恐ろしい。
 「生き甲斐」を持たずに生きて来たなら、かつてシロエが言った通りに…。
(…お人形さんだ…)
 マザー・イライザと、グランド・マザーの「人形」でしかない、と目の前が暗くなるよう。
 そうなるように「作られた」からか、それとも、気付かない内に「そうなっていた」か。


(…私にも、私の考えがあって…)
 現に「マツカ」を生かしているから、「自分の意思が無い」わけではない。
 「生き甲斐」と呼べる「何か」を持っていないだけで、これから先に、出来るかもしれない。
(……そうなってくれれば良いのだが……)
 駄目だった時は「お人形さん」で終わるらしい、とキースは奈落の底に落ちてゆきそう。
(…もしも、サムが壊れてしまうことなく、無事でいたなら…)
 生き甲斐の一つもあっただろうか、と考えてしまう。
 多忙な日々の合間を見付けて、「ただのパイロット」になっているサムに会いに行くとか。
(…そうだったとしたら、それは立派な生き甲斐で…)
 どんなに忙しい任務だろうが、「サムに会う日」を目標に据えて張り切ったろう。
 「これが終われば、休暇なんだ」と、「サムに連絡を取って、会いに行けるぞ」と。
(…一般人のサムには言えない、機密事項を抱えていようが、黙っていれば済むことで…)
 サムに会ったら、任務で知ったことは話さず、思い出話に花を咲かせればいい。
 互いの近況なども話して、「またな」と別れて、「次の機会」を楽しみに生きる。
(……そうだな、サムさえ無事でいてくれたなら……)
 きっと「キース」にも「生き甲斐」があった、と思うけれども、サムは壊れてしまった後。
 人生が終わってしまわない内に、「生き甲斐」を見付けられなかったなら…。
(…お人形さんのままで、「キース」は消えてゆくのか…)
 あまりにも惨い、と辛くなるから、見付かって欲しい。
 立派な「生き甲斐」でなくていいから、「これだ」と思えるものを見付けて、追い続ける。
 「キース」の人生が終わる時まで、懸命に追って、生き続けて…。



            生きてゆく形・了


※キースは「何がしたくて生きている」のかな、と思った所から出来たお話。
 ステーション時代から、システムに懐疑的でも、それを形にはしなかったよね、と…。






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(…ピーターパンの本…)
 ぼくの大切な宝物、とシロエは両親に貰った本の表紙を撫でる。
 Eー1077の夜の個室で、そっとページをめくる間に、頭の中をよぎったもの。
(…どうして、この本だったんだろう?)
 ぼくを虜にした一冊は、と遠い記憶を振り返ってみる。
 ステーションまで持って来たほど、とても大事な本だけれども、何故、この本なのか。
(ぼくが一番、惹かれたからで…)
 両親が選んで与えてくれた本たちの中で、『ピーターパン』は抜きん出ていた。
 貰って一気に読み終えた後も、本の世界に夢中になった。
 繰り返し読んで、筋をすっかり覚えてしまっても、飽きることなど一度も無かった。
(最初に憧れたのは、ネバーランドよりも…)
 ピーターパンと一緒に飛んでゆく旅で、単純に「夜空を飛んでみたかった」。
 空を飛ぶのは、幼い子供が抱く夢の一つで、シロエも同じに憧れただけ。
(それに夜空を飛ぶというのが…)
 楽しそうだ、と心が躍ったことを覚えている。
 育英都市で育つ子供は、養父母が「きちんと」育てていたから、夜更かしはしない。
 年齢に合わせて「床に就く」時間が定められていた。
(もちろん、家の事情とかもあるから…)
 規則通りとゆきはしないし、多少の幅はあったけれども、深夜まで起きていてはいけない。
(ピーターパンが飛んで来るような時間は、とうにベッドで…)
 寝ているだけに、幼いシロエは「夜空」を飽きずに眺めてはいない。
(あの星を、もっと見ていたいから、ってパパに言っても…)
 返った答えは「寝る時間だよ」で、父にベッドへ連れて行かれた。
 夜空に輝く星の一つを、眠くなるまで仰いでいることは許されなかった。
(…夜の空を見ながら、飛んで行けたら…)
 素敵だろうな、と幼かったシロエは夢を描いた。
 「ピーターパンが来てくれたなら、ぼくも行けるよ」と、夜空の旅に出掛けたくなる。
 その日が来たら、きっと行こう、と考えたことが、始まりの一歩。


 『ピーターパン』の本との出会いは、そういったもので、恐らく、ありがちな憧れだろう。
 空を飛ぶことが出来ない「人間」だけに、子供でなくとも、惹き付けられそう。
(…うん、其処までは、みんな同じで…)
 少し育ったら、ネバーランドでの冒険などに胸を躍らせ、自分も入ってゆきたくなる。
 ピーターパンと一緒に走り回って、海賊退治をしたりするのが楽しそうだ、と。
(ぼくもそうだし、ピーターパンと活躍したくて…)
 ネバーランドへの夢を膨らませていった。
 「いつか行くんだ」と、迎えが来たなら、直ぐに旅立てるように心構えもした。
(…小さい間は、それで良かったんだけれどね…)
 何処も間違ってはいない思考で、「冒険したい」のは健全に育っている証拠でもある。
 将来に向けた夢が冒険で、「冒険」の中身が、成長につれて置き換わってゆく。
(ネバーランドに行きたいな、というのが、地球に変わって…)
 どうすれば「憧れの地球」に行けるか、考えながら「自分の進路」を思い描いて歩み始める。
(…行きたい道へは、学校の成績と、成人検査の結果次第で…)
 行けるか否かが決まるわけだし、誰しも努力を惜しみはしない。
 本当に「夢」を持っているなら、叶えられるように勉強をしたり、身体を鍛えたりもする。
(ぼくだって、そうで…)
 父から聞いた「ネバーランドよりも、素敵な地球」を目指した。
 きっと其処には楽園があって、素晴らしいのに違いない、と疑いさえもしなかった。
(…でも、本当は…)
 違うみたいだ、と今のシロエは気付いている。
 憧れていた「ネバーランド」も、今の世界では「悪い世界」になるのだろう。
(…大人社会に入ってゆくには、子供のままの心では駄目で…)
 そうならないよう、成人検査を受けさせ、子供時代を「捨てさせる」。
 養父母たちと暮らした記憶を、今の社会に都合がいいよう、機械が強引に書き換えて。


 ステーションにいる「候補生たち」は、皆、機械の理想の「大人」の候補。
 幼かった頃の記憶にしがみついたり、薄れる記憶を繋ぎ止めようと足掻いたりはしない。
(…此処でなくても、何処のステーションでも…)
 似たようなものなんだろう、と分かるからこそ、シロエは「どうして?」と疑問に思う。
 『ピーターパン』の本に捕まらなければ、シロエも「流れ」に乗ってゆけたろう。
(行きたい場所が、ネバーランドから地球に変わっていったら…)
 現実的な世界に惹かれ始めて、夜空を駆ける夢にしたって、変わってゆきそう。
 「ピーターパンの迎えを待つ」のではなくて、「宇宙船などを操って飛び立つ」方へと。
(冒険の旅も、海賊退治をするのなら…)
 宇宙海軍に入隊したなら、「本物の海賊退治」に出掛けてゆける。
 今の時代の「海賊」は「宇宙海賊」だから、宇宙海軍が常に警備に回っているらしい。
(…その程度の知識は、育英都市でも…)
 その気になったら「分かった」ことだし、普通の子供は、「そう」だったろう。
(大きくなったら、パイロットになろうとか、宇宙海軍に入りたいとか…)
 将来の「目標」が出来るけれども、シロエの場合は「違っていた」。
 目標だったのは「地球」で、其処へ着いたら「これをしたい」という夢は無かった。
 ただ、がむしゃらに努力しただけで、「地球」しか見えていなかった。
(…ぼくが大人になった姿なんか…)
 明確な像を結んでいなくて、漠然とした「夢」があっただけ。
 「大人になったら、地球へ行くんだ」と、「どういう大人」なのかも考えないで。


(…そうなっちゃったの、この本に惹かれ過ぎちゃったせいで…)
 ネバーランドに焦がれ続けて、その先に「地球」があったからだ、と自覚なら「ある」。
 惹かれた本が『ピーターパン』とは違う本なら、今の「シロエ」は出来上がっていない。
(…他の本には、まるで興味が無かったから…)
 一読したら「それでおしまい」、繰り返し読んでいた本は『ピーターパン』だけ。
 けれども、記憶に残る本の中には、冒険の旅も幾つもあった。
(小さな子供が旅を始めて、いろんな危機を乗り越えて行って…)
 立派な騎士になる物語もあれば、王様にまでなった話もあったと覚えてはいる。
 そうした本に惹かれていたなら、今の「シロエ」は、立派な「エリート候補生」だろう。
(メンバーズになれば、今の時代の「騎士様」」で…)
 国家騎士団という組織もあるから、名実ともに「騎士」になれるし、順風満帆。
 子供時代の記憶に縛られはしないで、真っ直ぐに前を見詰めて歩む人生。
(…もしかして、この本が、悪かったのかな…?)
 ぼくの大切な宝物だけれと、と『ピーターパン』の本を眺める。
 どう考えてみても「シロエの人生」を狂わせたものは、この本と言える。
(……今の時代に、そぐわないよ……)
 永遠の子供のピーターパンを描いた本は、と溜息が零れ落ちそう。
 「子供のままではいられない」のが今の社会で、機械は「子供の心を持った大人」を否定する。
 それなのに、何故、この本が今も残り続けて、シロエの許まで辿り着いたのか。
(…禁書にしたって、いいと思うのに…)
 むしろ、その方が相応しい、と思うけれども、本は残って、シロエは「出会った」。


(……運命なのかな……)
 ピーターパンの本が似合う世界を、取り戻すために、ぼくは生まれたのかな、という気がする。
 ならば、努力を続けるしかない。
 昔のように「子供が子供でいられる世界」を、もう一度、作り出すために。
 長い旅路になるだろうけれど、「運命の出会い」だったというなら、頑張ってゆこう。
(…ピーターパン…)
 やり遂げた時には、迎えに来てね、とシロエは「ネバーランド」を夢見て微笑む。
 其処は「地球よりも、素晴らしい」から。
 機械の支配に屈しないまま、今も何処かに「ある筈」だから…。



             違う本なら・了


※シロエが持っていた『ピーターパン』ですけど、SD体制の時代には不似合いな本。
 禁書になっていなかったのが今も不思議で、其処から生まれたお話です。







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(ソルジャー・ブルー…)
 今の状況を作り出したのは、奴だな、とキースは心の中で、一人、呟く。
 首都惑星ノアの自室で、とうに夜更けになっていた。
(…私の居場所も、あいつのせいで…)
 こんな所になっているんだ、とキースが見回す部屋は、軍人向けの場所ではない。
 最高機関「パルテノン」に属する「元老」だけが与えられる、特別な空間。
(これでも、簡素なものを、と頼んだ結果で…)
 そうでなければ「豪邸」に住む羽目になっているぞ、と嘆きたくなる。
 元老の地位は必要だけれど、余計な「家」など望んではいない。
(…思っていたより、かなり早くにパルテノン入りだが…)
 なんとも水の合わない場所だ、と思わざるを得ない。
 「初の軍人出身の元老」と騒がれるだけあって、軍人の世界とは大きく異なる。
(…いずれいつかは、来る筈の場所で…)
 グランド・マザーも「そのつもり」で、「キース・アニアン」を無から作り出した。
 SD体制を正しく導いてゆけるよう、マザー・イライザとの共同作業。
(…そして私は、計画通りに此処へ来たとはいえ…)
 計算違いはあったろうな、とキースは、コーヒーのカップを指で弾いた。
 このコーヒーを淹れた「マツカ」は、人類ではない。
 キースの側近として知られる彼は、ジルベスター・セブン以来の部下だけれども…。
(正体は、ミュウで…)
 もしも「マツカ」がいなかったなら、「キース」は生きて此処にはいない。
 ソルジャー・ブルーがメギドを破壊した時、道連れにされて死んでしまって全ておしまい。
(…そうならなかったのは、人類にとっては幸運だろうが…)
 あの「メギド」から、全て変わった、と今日までの道を振り返ってみる。
 メギドが正常に作動していれば、キースは、未だに「軍人」だろう。
 ミュウ殲滅の褒美で、何階級か特進を遂げて、最高位の国家騎士団総司令かもしれない。
 しかし、現実は違った。
 キースは「国家騎士団総司令」の任を務める途中で、パルテノン入りをしている。


 恐らく、これも「計算違い」の一つだろう。
 ジルベスター・セブンが崩壊した後、ミュウは急速に戦力を増した。
 アルテメシア陥落を手始めに、あちこちの星でマザー・システムを滅ぼしつつある。
(…あの時、ソルジャー・ブルーが、来ていなければ…)
 ジルベスター・セブンは「メギドの第二波」で燃えて、ミュウの母船も消えていた。
(タイプ・ブルーが何人いようが、そうなった筈だ…)
 第二波を防ぐ余力は無かっただろうな、と思う根拠は「タイプ・ブルー」たちにある。
 「メギドを防いだ」と、人類軍を驚かせたタイプ・ブルーは、大部分が幼い子供だった。
 幼児や乳児が急成長して、防いだと聞く。
(…元が幼い子供では…)
 体力的な限外があるし、第一波を止めるのが精一杯だったろう。
 第二波攻撃を加えられていれば、ミュウを殲滅出来ていたのに、そうはならなかった。
(…ソルジャー・ブルー…)
 自らの命を犠牲にしてまで、今の状況を作り出した男、と憎いけれども、その逆でもある。
(……どうして、其処まで出来たのだ……)
 死んでしまえば終わりではないか、と思う一方、羨ましいと思う自分が存在する。
(…セキ・レイ・シロエ…)
 彼の最期も少し似ていた、と今だから感じる。
 シロエも「命を懸けて守りたかった」ものがあったから、あの道を選んだ。
(ソルジャー・ブルーのように、誰かを守るものではなかったが…)
 自分の信念を貫き通して、「心」を守った。
 機械が支配している世界を嫌って、自らの願う場所を目指して飛び去って行った。
 命と引き換えの旅立ちだったけれども、彼に後悔は無かっただろう。


(……ミュウというのは……)
 そういう人種になるのだろうか、と考えてしまう。
 側近に据えた「マツカ」も、何処か「彼ら」に似ている所があった。
 人類のキースに仕えているのは、マツカにとっては「命懸け」でもある。
 正体が知れれば、彼の命は「その場で」消されて、逃げる暇さえ与えられはしない。
 なのに、マツカは逃げもしないで、側近の務めを続けている。
(…私が命の恩人だから、と…)
 ミュウの側へは行かないままで、危うい場所で生きているのも、ミュウだからかもしれない。
 多分、マツカが「命を懸けて守りたいもの」は、「キース」なのだろう。
 だからキースに仕え続けて、ミュウならではの力で「キース」を守り続ける。
(…ミュウがそういう人種だとすれば、人類の方は…)
 どうなのだろうか、と改めて考えてみるまでもない。
 パルテノン入りを果たすより前、何度も足を引っ張られた。
 「キース」が目障りな者たちに殺されかけたのは、数え切れないほどの回数。
(上層部が、その有様ではな…)
 一般市民の世界も、容易に想像出来る。
 「自らの命を犠牲にしてまで」、何かを守ろうとする者は、皆無なのに違いない。
(…情けない話だ…)
 養父母でさえも、自分の子供を「殺させる」のだしな、と頭に浮かぶ「ミュウの処分」。
 ミュウの兆候を見せた子供は、ユニバーサルに通報されて、殺されるのが常識。
 殺されなくても、研究対象として「捕獲」されるだけ。
(…親が自分の保身のために、いち早く…)
 赤ん坊でも届け出るのだ、と恐ろしくもある。
 ミュウの兆しを見せる前の子は、「我が子」として愛おしまれていたのだろうに。


 なんと違いが大きいのか、と考えてゆけばゆくほど、ミュウが羨ましくなって来る。
 彼らの生き方は「理解出来ない」と思う自分と、「羨ましい」と感じる自分。
(…指導者が死んでしまえば、組織は終わってしまうのに…)
 ソルジャー・ブルーは、その道を選んだ、と不思議ではあっても、今の状況が全て。
 彼が命を捨てなかったら、今も人類の世界は安泰だったろう。
(…私のパルテノン入りにしても、もっと先の事で…)
 ミュウは処分されるだけの異物だった、と痛切に思い知らされる。
 「ソルジャー・ブルーが、命を犠牲に守ったもの」が、いったい何を生み出したのか。
 彼が作り出した現状が指しているのは、間違いなく「ミュウの勝利に終わる」結末。
 いずれ彼らがSD体制を倒し、ミュウの時代がやって来るのだろう。
(…ミュウの因子を、出生前に遡って、抹消しない限り…)
 その日は来る、と分かっているから、「ソルジャー・ブルー」は「偉大だった」。
 敵ながら天晴れ、と思わされるわけで、本当に、彼が羨ましい。
 同じ指導者への道を歩んではいても、キースに「そういう未来」は、ありそうにない。
(私が命を懸けて守りたいほど、この世界には…)
 素晴らしいものなど無いのだしな、と人類の世界が嘆かわしい。
 出世のために他人を消したり、保身のために我が子を殺させたりしている者たちばかり。
(たまには、マシな者もいるようだが…)
 そんな輩はミュウの味方だ、とスウェナ・ダールトンを頭に描く。
 彼女は今や「ミュウの協力者」で、ジョミー・マーキス・シンとも接触しているくらい。
 つまりは「ミュウか、ミュウと近しい者」だけが、ヒトらしく生きているのだろう。


(…私には、その生き方は無理で…)
 許されてさえもいないのだが、と思いながらも、羨ましい。
 「命を懸けて守りたい」ものなど、「キース」には無いし、見付かりそうにも思えない。
(…理想の人類として作られたのだしな…)
 仕方ない、と溜息が零れるばかりなのだけれども、もしかしたなら、一つだけ…。
(……マツカ……)
 いつかミュウたちが攻めて来たなら、マツカも戦闘に巻き込まれる。
 指導者として立つ「キース」に対する、総攻撃が始まることだろう。
(…その時、マツカが側にいたなら…)
 彼を庇って散るのもいい、と思わないでもない。
 マツカの命が助かったならば、ミュウたちは「マツカから」、人類の話を聞くことが出来る。
(ろくな世界ではないのだが、それでもだ…)
 キースの部下たちと暮らした日々を語ってくれれば、人類の評価が「少しだけ」でも…。
(…上がってくれると嬉しいのだが…)
 私が「人類」にしてやれる、最後のことだ、と叶いそうにない「未来」を思う。
 その日が来た時、そう出来れば、と…。



           叶わない未来・了


※キースには「命を懸けて守りたいもの」があるのか、考えていたら生まれたお話。
 SD体制の世界を守るしかないのですけど、命懸けで守るには情けない世界ですしね…。





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