「捕まるな、ジョミー!」
記憶を手放すな、とジョミーの前に降って現れたイケメン。まるで見覚えがないものだから…。
「君は?」
そう尋ねたら「ブルー」と返った答え。「ソルジャー・ブルー」と。
一方、記憶を消そうとしていた、テラズ・ナンバー・ファイブというヤツ。そっちは怒り心頭な様子、「消えなさい」と喚いているけれど。
「お前は邪魔です、消えなさい!」
「離れるなよ!」
そう叫ぶなり攻撃を始めたのがブルー、ジョミーにはついていけない速度で。なんかスゲエ、と見ている間に…。
「あぁぁぁぁーっ!!!」
その声を最後にズッコケていったテラズ・ナンバー・ファイブ、姿が消えたと思ったら。
「…やりすぎた…。脱出するぞ、ジョミー!」
「え?」
なんだって、と訊き返したら…。
「想定外だ。ウッカリ気合を入れ過ぎたらしい。それじゃ!」
後はよろしく、とブルーも消滅、気付けば前に迫っていた壁。もうぶつかるという勢いで。よく考えたら、アンダーグラウンド・コースターに乗っていたわけだから、たまらない。
「うわぁぁぁーーーっ!!!」
さっき誰かも似たような声を上げていたよね、と思う間もなく突っ込んでいって…。
「う、うう…」
アレが成人検査なのか、と取り戻した意識。壊れてしまったコースターの乗り物。
どうにもヤバイ気配だからして、行くアテもなくトボトボと。あのブルーは夢の人だった、と。何度も夢で見ていた人間、けれども何が「やりすぎ」で「想定外」なのか。
よく分からない、と歩いている間に、ナキネズミを見付けてケースを触ろうとしたら…。
パリンと割れてしまったのがケースのガラスで、中から飛び出したナキネズミ。
(宇宙の珍獣…)
まあ、儲けたと思っておくか、と抱き締めていると、「ジョミー・マーキス・シン」という声。
振り返ったら物騒な男どもの集団、「君を不適格者として処分する」と。
いきなり処分と言われても困る、銃をこっちに向けられても。
「不適格者って…。処分って、なんだよ!!!」
殺す気かよ、と叫んだ所で、男たちの方の動きが変わった。「それは本当か!?」と、なんだか慌てている感じ。銃を向けたままで、あちこち連絡を取りまくった末に…。
「…すみませんでした。失礼しました」
そう詫びるなり銃は仕舞われ、妙に低姿勢な男たち。「上からの命令でしたんで」と。
「え? ええ…?」
どうなってるんだ、とキョロキョロしていたら、現れたのが一人の青年。
『お待たせしました、ジョミー。…リオと言います』
はじめまして、と挨拶された。ついでにリオは、物騒すぎた武装集団を一瞥すると、「行け」とばかりに顎をしゃくった。「さっさと消えろ」と、「仕事して来い」と。
「…仕事? それに君、言葉が…?」
喋れないのか、と訊いたら「はい」という返事。なんでもリオはミュウだとか。
『これは思念波です。…そして、この星は我々ミュウが制圧しました』
「制圧!?」
『はい。…お恥ずかしい話ですが…。ソルジャーが、ちょっとやり過ぎまして…』
久しぶり過ぎて力加減を間違えたそうです、と説明された。テラズ・ナンバー・ファイブを脅すつもりが、思い切り破壊したらしい。木っ端微塵に。
「破壊したぁ!?」
『そうなんです。…なので、このアルテメシアは今日からミュウの勢力下に…』
というわけですから、今日からよろしく、と小型艇で出掛けてゆくことになった。ミュウたちは計算を間違えたらしい。ソルジャー・ブルーの後継者として自分を迎え入れるつもりが…。
(…現役の間に倒しちゃったわけね…)
ソルジャー・ブルーがテラズ・ナンバー・ファイブとやらを、と零れた溜息。
こんな調子で大丈夫だろうか、自分の未来。ウッカリと敵を片付けるような、強烈すぎる人物の後継者などで。
ガクブルしながら連れて行かれた船、シャングリラ。さながら巨大な白い鯨で、大勢のミュウが乗っている母船。
よく分からない、と着いた格納庫では、横断幕が待っていた。「シャングリラにようこそ」と。
偉そうな面子が並んでいる上、進み出たのがガタイのいいオッサン。
「ようこそ、ジョミー・マーキス・シン。…私はこのシャングリラの船長、ハーレイ」
我々は、ソルジャー・ブルーが選んだ新しい仲間を、心から歓迎する。
そんな具合で、本当に歓迎されてしまった船。「凄いミュウなんだって!?」と。まるで自覚が無いというのに、「凄い」ということになっていた。
(…この星は、ミュウが制圧したって言ってたし…)
逆らったらマジでヤバイよね、と粛々として従った。ウッカリ者らしいソルジャー・ブルーに、後継者なのだと皆に紹介されても。サイオンとやらの猛特訓に駆り出されても。
そうこうする内に、なんとか身についた「凄い」という前評判だったサイオン。
これで立派に後継者だって出来たから、とソルジャー・ブルーが言い出したのが…。
「地球へ向かうですって!?」
本気ですか、と焦ったけれども、ソルジャー・ブルーも、船の仲間もマジだった。知らない間に出来ていたのが協力者。地球の座標を引き出す過程で、世話になったのが縁とやらで。
「…はじめまして、セキです。こちらは息子のシロエ、皆さんと同じミュウだとか…」
私は前はサイオニック研究所におりまして…、と出て来たオッサン、ミスター・セキ。やたらと恰幅のいい人だけれど、頭の方も切れるらしくて。
彼が言うには、地球に向かう前に落とすべき拠点がE-1077というヤツ。教育ステーションだけれども、並みの場所ではないらしい。エリート育成用だからして、落とせばお得。
「なるほどね…。若くて優秀な人材が山ほど手に入るのか」
それは是非とも頂かなくては、とブルーは乗り気で、ミスター・セキの一家も仲間に加えて船は宇宙へ飛び立った。目指すは地球。
母なる地球へと向かう前にと、まずはE-1077。
あっさりサックリ陥落したわけで、人材ゲットに入って行ったら、ミスター・セキと幼い息子がサクサク調べたメモリーバンク。
「隠し部屋があると?」
そんなものが…、と首を捻ったブルー。なんでまた、と。
けれども隠し部屋と聞いたら、お宝の匂いがプンプンするもの。「行ってきたまえ」と言われてしまって、シロエをお供に出掛けた先がフロア001だった。
「……これは……」
シャングリラの女神、フィシスそっくりの女性の標本がズラリズラズラ。それとセットで男性がズラリ、その中の一つは生きているようで。
「えっと…。これ、あと少しで此処から出せるみたいだよ」
三日ほどかな、とシロエがデータを眺めて言うから、急いで取って返した船。とにかくブルーの指示を仰ごうと。
そうしたら…。
(…フィシスって、実はミュウじゃなくって…)
機械が無から創ったんだ、と知ってしまった凄すぎる秘密。自分もシロエも、「黙っていろ」と緘口令を敷かれてしまった。ブルー直々に、「これは極秘だ」と。
その上、ブルーが「行ってくる」と出掛けたフロア001。
何をするのかと訝しんでいたら、三日後に「待たせた」とブルーが連れて来たのが、謎の少年。何処かで見たような顔だけれど、とガン見していると…。
「よろしく。…キース・アニアンだ」
君より数ヶ月くらい年下だと思う、と自己紹介をやった少年。はて、と眺めて…。
「あーーーっ!!!」
フロア001で見たアレじゃないか、と気が付いた。長かった黒髪をバッサリ切っていたから、印象が違って見えただけ。要はフィシスとセットだった彼で…。
「ジョミー、キースもミュウなんだ。…そういうことにしておいてくれ」
ちゃんとサイオンを持っているから、とブルーの解説。確かにキースはミュウだった。シロエと同じに思念波も使うし、文句なしにミュウ。
(…だけど、アレって…)
最初はミュウとは違ったんじゃあ…、と思うけれども、ブルーが正義。そういう船だし、疑問を持つだけ無駄というもの。この際、ミュウでいいだろう。
(…何か秘訣があるんだよね?)
ただの人間をミュウにする方法、と考えながらも受け入れた現実。機械が無から創ったらしい、未来の超絶エリート候補。それがキースで、ミュウは物凄い人材をゲットしたわけで…。
「…キースは実に使えるねえ…」
力技は君で、頭脳はキースで安心だね、と御満悦なのがソルジャー・ブルー。
おまけにミスター・セキとシロエもいるから、地球を目指して、行け行けゴーゴー。
「次はあそこだ」「その次はアレだ」と落としまくった人類の拠点、首都惑星ノアも戦わずして落ちる有様。無条件降伏と言うかもしれない。
幾多の船を従えて宇宙を行くシャングリラは、とっくに無敵艦隊だから。
「シャングリラが来る」と耳にしただけで、人類軍も国家騎士団も逃げてゆくから。
そんなこんなで辿り着いた地球、残念なことに青い星ではなかったオチで。
「…いったい何の冗談なんだい?」
こんなモノのために戦い続けて来ただなんて、とソルジャー・ブルーに言われても…。
「えっとですね…。ぼくもキースも、こんなモノのために…」
「…戦い続けて来たのだと思うが、違うだろうか?」
それも巻き込まれてしまったわけで、とキースが見事に纏めてくれた。流石はエリート、それも機械が無から創った「ド」のつく秀才、いや天才。
シロエもコクコク頷いているし、巻き込まれたのは誰もが同じ。
そうは言っても、せっかく此処まで来たのだし…。
「…グランド・マザーは始末しますか?」
やっときますか、とブルーに訊いたら、「やっておきたまえ」と鷹揚な返事。「地球は青い」と今日まで騙して来たのだからして、相応の報いを与えて来い、と。
キースが言うには、宇宙に広がるマザー・ネットワークの破壊も必要。そっちはシロエと二人で片を付けておくから、もう遠慮なくやって来い、ということだから…。
「ぼくの人生、よくもメチャクチャにしやがってーーーっ!!!」
気が付いたらミュウでソルジャー候補で、未だに候補のままなんだよーっ! と私怨を抱えて、殴り込みをかけた地球の地の底。
怒りのパワーは半端ないから、もう一撃でブチ壊したのがグランド・マザー。
(…あれ?)
もっと時間をかけてネチネチいたぶってやるつもりが…、と呆然となってしまった瓦礫の山。
グランド・マザーは壊れてしまって、もうこれ以上は壊せないから。ウンともスンとも言わないガラクタ、ただのスクラップになっていたから。
(…ついウッカリ…)
勢いだけでやってしまった、とタラリ冷汗、その瞬間に気が付いた。前に誰かが同じことをと、ぼくと同じについウッカリ、と。
(……ソルジャー・ブルー……)
あの人がテラズ・ナンバー・ファイブを相手についウッカリ、と気付いたオチ。
それでは自分も同じだったかと、「ついウッカリ」はミュウのお家芸だったのか、と。
(……ついウッカリで……)
ラスボスを倒すのがミュウの伝統、知らない間に自分も染まっていたらしい。ミュウたちの船で暮らす間に、「ついウッカリ」なソルジャー・ブルーの後継者として頑張る内に。
(…なんか、色々、情けなさすぎ…)
あんまりだよーーーっ!!! と怒鳴ったはずみに、爆発したのがサイオンで…。
「……本当にすみませんでした……」
地球には当分、誰も近付けそうにないです、と謝る羽目に陥った。
何も棲めない死の星だった地球は、今や火の星だったから。もうバキバキとあちこち地割れで、火山も噴火しまくりだから。
「…仕方ないだろう。もう、ぼくたちに出来ることは何も無い」
百八十度回頭、とブルーが命じて、シャングリラは地球を後にした。手の付けようもない状態になったけれども、運が良ければ…。
「落ち込むな、ジョミー。ぼくとシロエの計算では…」
いずれは昔のような青い地球に戻る可能性もゼロじゃない、と慰めてくれたのがキース。それに望みをかけることしか出来ないだろう。…今となっては。
(…ぼくが一番、酷かったわけ…?)
ついウッカリが、と泣けるけれども、「ついウッカリ」は、お家芸だから。
ブルーが「君には話しておこうかな」と思念でコッソリ、それを聞いたら、フィシスがミュウに変化したのも「ついウッカリ」だったらしいから。
(…フィシスの地球が見たい、と思って通い続けて、ガン見で…)
ついウッカリと「この子が欲しい」と考えたらミュウになっていた次第。
同じ手を使ってキースもミュウにしたというわけで、「ついウッカリ」は最強だった。
(…それで地球までブッ壊したわけね…)
ついウッカリと、このぼくが…、と嘆くしかない破壊力。まさかの地球をウッカリ破壊。
けれども地球には行って来たから、このまま行くしかないだろう。
宇宙はすっかりミュウのものだし、グランド・マザーもマザー・システムも、とっくの昔に…。
(ついウッカリと壊しましたよ…!)
ミュウの伝統でお家芸ですから、と開き直りのソルジャー候補。
そう、あまりにも早く地球に行ったから、未だにソルジャー候補のまま。ソルジャー・ブルーも健在なままで、シャングリラは今日も旅してゆく。
地球を後にして、ジョミーを乗せて。キースもシロエも、みんな纏めて乗っけたままで。
「ついウッカリ」なミュウの母船だから。
ついついウッカリ地球まで壊した、そんなジョミーが乗る船だから…。
勢いで地球へ・了
※テラズ・ナンバー・ファイブ戦のブルーは元気すぎたよな、と思い返していたアニテラ。
「1話の感想はそれに尽きる」と。…そしたらこういうネタになったオチ、勢いで地球へ。
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