「あの馬鹿に会ったら伝えてくれ。お前はよくやったよ、とな」
…あの馬鹿が生きていたらだが、と続く言葉は飲み込んだ。
これ以上、言うことは無いだろう。
グレイブ、お前もよくやったよ。自分を褒めるのも可笑しなことだが。
誰一人いなくなったブリッジ、もうすぐ此処も砕けて無くなる。
メギドと共に木端微塵に。
あるいは、燃え尽きないまま落ちてゆくのか。
こうしてメギドに突き刺さったままで。
(…そうか、死に場所まであいつと同じか)
フッと唇に浮かんだ笑み。
この死に場所を選んだ時には、そこまでは考えていなかった。
計算ずくではなかった死に場所、突っ込んだ場所がメギドだっただけ。
自分の命を捨てる場所にと、相応しい最期を遂げられると。
ミュウの長の死に様を知った時から思っていた。
いつか自分も彼のように、と。
この戦いが始まるよりも前、命を捨ててメギドを沈めたソルジャー・ブルー。
敵ながら天晴れな最期だったと、あのように死んでゆきたいものだと。
彼がソルジャー、「戦士」と名乗っていたのだったら、軍人の自分は尚のこと、と。
人類のために自分の命を捧げてこそだと、そういう戦いで散れたらいいと。
(…少しばかり相手が違ったようだが…)
人類ばかりか、ミュウのためにもなるらしい最期。
けれども後悔してはいないし、これでいいのだと誇らしい気持ちに包まれてもいる。
地球を砕こうとしていたメギドは自分と共に滅びるから。
自分は地球を、人類の未来を、ミュウの未来を守ったろうから。
英雄になろうと思ってはいない、軍人らしく在りたかっただけ。
ミュウの長でさえも、あれほどの覚悟を見せたのだから。
自分の命など要りはしないと、捨ててメギドを沈めたのだから。
(…私もお前に負けはしないさ)
ソルジャー・ブルー。
お前と同じに死ねるというのも、神の采配なのだろう。
メギドを死に場所に与えて下さった神に感謝せねばな、これで私もお前と並べる。
軍人らしく、誇り高くだ。
私は最期まで軍人だった、と今は亡きミュウの長へと思いを馳せたのだけれど。
伝説と謳われたタイプ・ブルー・オリジン、彼に負けない死を遂げられると思ったけれど。
「…グレイブ」
「ミシェル。…退艦しなかったのか」
まさか、と息を飲むしかなかった、其処にミシェルが立っていたから。
自分の右腕であったと同時に、ただ一人だけ愛した女性。
誰もいないと思っていた船、なのに残っていたミシェル。たった一人で。
「あなたのいない世界で一人生きろと?」
「…馬鹿な女だ、お前は」
口では皮肉にそう言ったけれど、馬鹿だとも愚かとも思ってはいない。
ミシェルはそういう女性だったな、と今更、思い知らされただけで。
「あなたに似ちゃったのよ」と微笑む姿に、苦笑するしかなかっただけで。
「…グレイブ」
「…ミシェル…」
すまんな、ミュウの長、ソルジャー・ブルー。
どうやら私は女連れのようだ、お前に負けてしまったよ。
お前は一人で沈めたのにな、同じメギドを。
だが、私にはこれが似合いかもしれん。
…軍人のくせに、ずっと私は女連れだった。
そうだ、後悔はしていない。
マードック大佐は女と一緒に死んでいったと言われようとも、悔しくはないさ。
そうだろう、ミシェル?
女心の分からない男と詰られるよりかは、これでいい。
二人で沈めるメギドも良かろう。
ミュウの長には負けてしまったが、同じメギドを沈めて死んでゆけるという人生は最高だ。
…グレイブ、お前はよくやったよ。
最期まで女連れでもな…。
メギドに死す・了
※初めてブルー以外でアニテラ書いたら、なんでグレイブになったんだか…。
いや、後悔はしていないけど!