(…こんな日の何処が目出度いんだ…)
サッパリ分からん、と顔を顰めたキース。
今日の日付は十二月二十七日、今日を含めてあと五日ほどで今年も終わる。
たったそれだけ、それ以上でも以下でもない日。ずっと前から。
けれども、部屋に山と積まれたプレゼントの箱。
定番のリボンがかかった箱やら、凝ったラッピングやらと、それは賑やか。
これを寄越した連中の顔が見えるようだ、と零した溜息。
(国家騎士団、上級大佐…)
いつの間にやら、アイドルスター並みの人気を誇っていた自分。
全く自覚は無かったのに。
(冷徹無比な破壊兵器ではなかったのか…?)
それは軍部の中だけだったろうか、と情けない気持ち。
軍人だというのに、この大量のプレゼント。
朝からマツカやパスカルたちが台車で運び込んで来た。
「全部、大佐にお届け物です」と、「セキュリティーチェックは済んでいます」と。
つまり爆発しないということ、危険はまるで無いということ。
中身は菓子の類だろう箱も、こだわりの逸品が入っているらしい箱だって。
迷惑な、と思うけれども、届いたものは仕方ない。
今日は自分の誕生日だから、あちらこちらからドッサリと届く。
前からチラホラ来てはいたものの…。
(昇進して以来、拍車がかかった…)
画面に姿が映し出されただけで、黄色い悲鳴が上がると聞いた。
あれはセルジュからの報告だったか、「凄い人気ですよ」と。
そんなわけだから、今日は朝からプレゼントの山。
きっとまだまだ増えるのだろう、今日の間に。
(……まったく、何処が目出度いんだか……)
人工子宮から出されたというだけ、それが世に言う誕生日。
SD体制が始まる前だったならば、もう少し意味もあっただろうに。
(…そういえばミュウのガキどもがいたな…)
あの連中には誕生日があるか、と思うけれども、所詮は化け物。
生身で宇宙空間を飛んで来たミュウの長、ソルジャー・ブルーと変わりはしない。
第一、トォニィとかいう子供には危うく殺されかけたし…。
(ロクでもないな…)
誕生日なんぞ、と歪めた唇。
ついでに自分の誕生日の場合、人工子宮から取り出されるよりも酷いのだが、と。
マツカだけが知っている、E-1077に向かった任務。
あそこで処分して来たモノ。
その正体まではマツカも知るまい、自分そっくりの標本の群れを消して来たとは。
(私もアレと同じに育って…)
たまたま計算通りに上手く運んだというだけなのだが、と浮かべた自嘲の笑み。
どうやら自分は人ですらないと、無から作られた人形だから、と。
(あのガラスケースから出された日が、だ…)
十二月二十七日だっただけで、本当に人工子宮より酷い。
赤ん坊ではなくて、少年の姿で自分はこの世に出て来たのだから。
それを誕生日と言っていいのか、実際、とても怪しい所。
なのにドッサリ、プレゼントの山。
(…後でマツカに処分させるか…)
自分そっくりの標本の群れを処分するよりは、マシな方法があるだろう。
食べ物の類は希望者に配ってしまえばいいし、他の物だって。
(利益を出すなら…)
バザーでもすれば良かろうと思う。
国家騎士団の名も自分の名も伏せて、何処かでスペースでも借りて。
上がった利益は、バザー開催に奔走した者たちで分ければいいし、と考えた。
バザーでなくても、他にも方法は色々と…、と。
とにかく全部、処分なのだ、とプレゼントの山を苦々しい気持ちで眺めていたら。
「嫌ですねえ…。キース先輩」
誰のお蔭でプレゼントを貰えると思ってるんです、と声がした。
振り返ってみたら、立っていたシロエ。
E-1077にいた頃と同じに制服姿で、少年のままで。
「……シロエ?」
「そうですよ。ぼくが先輩のデータを色々調べましたから…」
キース先輩の誕生日だけが知られているんです。今日だってことが。
他の人たちは謎のままです、先輩よりも人気の高い人もね。
「…他の人だと? それに人気とは…」
何のことだ、と首を捻った。
一番人気は自分の筈だし、だからこそのプレゼントの山なのだから。
「分かりません? じゃあ、この人なら知ってますよね」
どうぞ、とシロエが部屋に呼び入れた人物。
印象的な赤い瞳のアルビノ、メギドと一緒に消え失せた筈のソルジャー・ブルー。
「お、お前は…! 何処から入った!?」
「何処からも何も…。ぼくやシロエに壁や扉が意味を成すとでも?」
スイと通り抜けるだけだから、とソルジャー・ブルーは不敵に笑った。
それに君よりも私の方が人気は上だ、と。
「何故、お前が!」
私より上になるというのだ、と解せないけれども、シロエも可笑しそうに笑っている。
「本当に何も知らないんですね」と、「キース先輩は幸せですね」と。
そんなシロエが「これ、知ってます?」と手にしている本。
表紙に「地球へ…」と書かれた一冊、シロエはパラパラとページをめくって。
「この本の中だと、ぼくたちは登場人物なんですよ」
お伽話の世界みたいに、一つの世界が入っていて…。
その世界の話を読んでいる人たちがいるんです。それこそ世界のあちこちにね。
ソルジャー・ブルーが一番人気で、その次は、さあ…。誰なんでしょう?
キース先輩もけっこう人気ですけど、さっきも言った通りにですね…。
誕生日ってヤツが分かっているのは、キース先輩だけなんです。
ぼくが調べていたからですよ、とシロエは本のページを指した。
「こういう挿絵になっています」と、お蔭で本を読んだら誰でも分かるんです、と。
「ば、馬鹿な…。私も本の登場人物だと?」
「この本がある世界の人たちにとっては…、ですけどね」
そうですよね、とシロエが視線を向けると、頷いたアルビノのソルジャー・ブルー。
「世界というのは一つではないよ。…この世界だけが全てではない」
私や君にとっては、この世界こそが本物だけどね…。
この世界がお伽話のように見える世界も、また存在する。
其処では、君の誕生日だけしか分からないことを、今も嘆いている人も多いのだから…。
大切にしたまえ、そのプレゼント。
それが言いたくてね、私も、シロエも。
処分させようなどと罰当たりなことを…、と言われてハタと気が付いた。
それも真実かもしれない。
自分の生まれが何であろうと、祝ってくれる人が大勢いるわけで…。
「そうだった…。バザー送りはやめておくか」
マツカたちと開けて、使い道を真面目に考えるか、とプレゼントの山をじっと見詰めて。
それでいいか、と向き直ったら…。
(…いない…?)
ソルジャー・ブルーも、それにシロエもいなかった。
別の世界へと消えたかのように。
(…夢だったのか…?)
それにしては妙に生々しい夢で、人としての道まで説かれたような気もするから。
プレゼントを処分するなど罰当たりな、と言われた声が耳に残っているから。
(…たまには、マツカたちを労うとするか…)
今日の仕事が終わった後には、皆でプレゼントを開けるとしよう。
食べ物だったら分けて宴で、他のプレゼントは…。
(クジ引きだな…)
誰に一番いいのが当たるか、きっと賑やかなことだろう。
(少し早いが…)
ニューイヤーのパーティーだと思っておくか、と決めたプレゼントの使い道。
夜までには、もっと増えるだろうから。
マツカたちが何度も運んで来るだろうから、今夜は宴。
シロエに、それにソルジャー・ブルーに、諭されたような気がするから。
標本と同じに処分したのでは、罰当たりな気がして来たから…。
誕生日の訪問者・了
※アニテラの登場人物で誕生日が分かっているのって、キースだけなんですよね…。
それもシロエが調べたせいだし、と12月27日の記念にちょこっと小ネタ。
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