端末の向こうに
(メンバーズ・エリートね…)
とりあえず、今の目標はそれ、とシロエは机をトンと叩いた。
Eー1077の講義の数はとても多くて、内容も高度で難解なものばかり。
日々の授業の復習は必須、予習の方も欠かせない。
(本日分のお仕事終了、っと…)
使っていた端末の画面を消して、椅子に腰掛けたままで伸びをする。
キーボードを叩き続けていたから、少々、身体が固くなっているのは否めない。
(後は寝る前に、軽くストレッチ…)
身体のメンテも大切だしね、と大きく頷き、寝るまでの時間に何をするかを考え始めた。
つい先日から作り始めた、新しいバイクの組み立てを少し進めてもいい。
同じく手をつけたばかりで得意分野の、新作の小型コンピューターも…。
(まだまだ先は長いしね…)
どっちの作業をやるべきだろうか、と時間配分をザッと頭の中で図にしてみた。
今日、寝るまでに出来そうな方はどちらなのか、と。
(うーん…)
どっちも出来そうではあるんだけれど、と顎に手を当て、暗くなった端末の画面を眺める。
この向こうには、明日の授業や、そのまた次の授業に繋がる世界があって…。
(…明日も明後日も、そのまた次も…)
機械に追われて仕事だよね、と溜息が零れそうになる。
講義をするのは人間だけれど、受講するべき科目を決めて来るのは機械。
成績をつけて評価するのも、人間の仕事に見えるけれども…。
(最終的には、マザー・イライザ…)
あのコンピューターが決めて来るんだ、と嫌というほど分かっている。
SD体制の世界においては、人間は全て、駒でしかない。
機械が何もかも決めて動かし、人生さえもが機械に左右されてゆく。
なんと言っても、生まれた時から…。
(機械が管理する、人工子宮の中で育って…)
外に出られるほど大きくなったら、機械が選んだ養父母の許へ送り出される。
子供の方にも、養父母の方にも、選択権などは全く無い。
全ては機械の意向のままで、機械にとって最良の場所を決定しているだけなのだから。
そういう世界で生きている以上、機械の支配からは逃れられない。
此処での受講科目にしたって、ヘマをしたなら、たちまち変更されておしまい。
(メンバーズ・エリートを目指す、精鋭のために設けられたコースは…)
ごく少数の優秀な者しか、最終的には受講出来なくなると聞く。
一度、コースを外れてしまえば、元のコースに戻りたくても、機会は殆ど無いのだ、とも。
(エリート用の授業を聴講させて貰って、試験を受けて…)
編入する以外に「戻る」方法は無くて、そのための試験は滅多に合格出来ないらしい。
死に物狂いで勉強したって、その間にも、エリートコースの授業は進んでゆくのだから。
(試験の時点で、彼らに負けない成績を叩き出せないと…)
編入試験には合格出来ずに、負け犬のままで終わってしまう。
それが嫌なら、どんなに機械を嫌っていようと、指示される通りに授業を受けて…。
(言われるままに予習復習、自主学習も怠りなく、ってね)
ああ、嫌だ、と口に出してみて、「嫌だ、嫌だ」と重ねてぼやく。
いつまでこういう日々を続けたら、ステーションから出てゆけるのか。
(全部で四年もあるんだものね…)
まだ候補生の制服も着られない自分は、卒業までの年数も長い。
制服を着られる年になっても、そこから二年は勉強しないと、卒業の時期は来てくれない。
(それまでの間、必死に勉強し続けて…)
機械に素直に従い続けて、「授業を受けさせて貰わなければ」、その先の道も開けない。
まずは「メンバーズ・エリート」に選ばれ、支配している機械の傘下に入らなければ。
(その先もずっと、機械の指示に従い続けて…)
相当な年数と経験を積まない限りは、最終の目標には辿り着けない。
「子供が子供でいられる世界」を、この手で取り戻すという「やらねばならない」大仕事。
多分、「シロエにしか出来ない」ことで、ピーターパンにも期待されていることだろう。
だから必ずメンバーズになって、国家主席の座に昇り詰めて…。
(機械に、「止まれ」と命令するんだ)
SD体制の世界を牛耳る、地球にある巨大コンピューターを停止させれば、それでいい。
グランド・マザーが「停止する」ことは、SD体制の終わりを意味する。
機械による「人間の統治」も終わって、何もかもが皆、「人間」の手に戻って来る。
成人検査で記憶を消されることもなくなり、人生を機械に決められることもなくなって。
(…頑張らないといけないってことは、分かるんだけど…)
本当に先が長すぎるよ、と愚痴を言っても、道を縮めることは出来ない。
どんなに優秀な者であろうと、教育ステーションでの期間中には…。
(飛び越して先に進むというのは、駄目らしいしね…)
それが出来るのは卒業した後、と授業で習った。
メンバーズに選ばれ、軍人としての道を歩み始めたら、成果を上げれば出世してゆける。
本来だったら「その年齢では無理」と言われる階級にだって、いくらでもなれる。
(二階級特進を繰り返していけば、アッと言う間に…)
大佐になれて、トントン拍子に国家騎士団元帥の座にも就けるだろう。
(そこまで行ったら、国家主席になれるように、と…)
未だ一人もいないと噂の、「軍人出身の元老」に選ばれるように努力する。
政治的手腕などを認められたら、道は必ず開けるから。
(頑張らないと…)
メンバーズになって、此処を卒業して…、と算段していて、ふと思い出した。
その「メンバーズ」が選ばれるのは卒業の前で、選ばれてからも暫くはステーションにいる。
Eー1077の生徒のままだけれども、選ばれた以上、その権限は…。
(教授たちを超えて、マザー・イライザじゃなくて、グランド・マザーの直轄で…)
生徒でありながら「メンバーズとして」、決定権などを持つらしい。
教授が「右だ」と指示していても、彼らが「左だ」と言ったら「左」。
全ての者がそれに従い、右ではなくて左へと動く。
(…そういう権限を持つわけだから…)
彼らは当然、ステーションに在籍していても…。
(地球を統治する機械に従う、外の世界のメンバーズたちと…)
連絡が取れて、直接、話も出来るのだという。
もちろん実際に会うのではなくて、通信画面を通しての会話になるけれど。
(とはいえ、いわゆるホットラインで…)
メンバーズの誰かを名指しで呼び出し、あれこれ相談出来たりもする。
今の局面をどうするべきか、自分の判断を話した上で、アドバイスを仰いだりもして。
(…つまりEー1077は、監獄みたいに孤立しているように見えても…)
外の世界と繋がっていて、条件が揃えば、生徒と外とを繋ぐ回路が開けるのだろう。
メンバーズに選出された者なら、外の世界で活躍しているメンバーズたちと話が出来る。
(ということは、メンバーズとして選び出される前だって…)
ある程度までの教育課程を終えたら、「外」と繋がれるのかもしれない。
メンバーズと連絡を取るのは無理でも、現役の軍人たちなどと。
(机の上の講義と、教授がついてくる実習だけでは…)
学べないものも多いことだろう。
そうした場合に、「外の世界」の者の知識や、体験談などは大いに役立つ。
彼らの話を聞ける機会が、まるで無いとは言い切れない。
(…多分、そういう人の話を聞くための…)
時間が何処かで設けられていて、必要とあらば、ホットラインが開設される可能性もある。
「相談するなら、この人に」と機械が決めて、割り振るのかもしれないけれど。
(それでも、外と繋がるのなら…)
外の知識を「仕入れる」ことが出来るのならば、此処がEー1077ではなくて…。
(技術者を育てるステーションだったら、もしかして、パパと…)
繋がる機会があったろうか、と消えたままの端末の暗い画面の向こうを見詰めた。
この端末は、Eー1077の中だけで「完結している」システムだけれど、機能は高い。
(ぼくがメンバーズに選ばれた時は、これを通して…)
外の世界にいるメンバーズと、「会話する」日も来るだろう。
選ばれる前にも、外の世界の軍人たちと連絡を取るなら、この端末を通すことになる。
(ぼくが技術者向けのステーションにいて、パパと同じ道に進んでいたら…)
教育課程を順調に進めて、外の世界の研究者の見解を聞きたくなることもあるかもしれない。
その研究の第一人者が「セキ博士」になるというのだったら、優秀な生徒だったなら…。
(セキ博士に質問したいんですが、って申告したら…)
ステーションを支配している機械は、許可するしかない。
「シロエが聞きたい質問の答え」を持っているのは、「セキ博士しかいない」から。
他の研究者では答えられなくて、「シロエの疑問」を解くことは出来ない。
それでは「シロエの研究」は先へ進まないから、「セキ博士」がシロエの何であろうと…。
(繋ぐしか道は無い、ってね…?)
そうなるよね、と気付いて愕然とした。
自分は「間違えた」のだろうか、と。
技術者の道を歩んでいたなら、父とも「繋がれた」だろうか。
メンバーズになっても、いつか出張などの機会があったら、会えそうだけれど…。
(技術者だったら、もっと早くにパパと繋がる道が開けて…)
面識があれば何かと便利だ、と機械は「父の記憶」を多めに残していたかもしれない。
「セキ博士」と繋がり、意見交換をする立場になったら、その方が話が円滑に運ぶ。
(はじめまして、じゃないんだし…)
父の記憶が消されていないのだったら、「久しぶりだな、シロエ」と笑んでくれるだろう。
そして「研究の方はどうだ?」と尋ねて、「パパの研究所に来るか?」と誘ってくれもして。
(機械の方でも、そのつもりで準備しているだろうし…)
セキ・レイ・シロエは研究者として、故郷に戻っていたろうか。
ステーションを卒業したなら、父の研究所に配属されて。
「住まいも近い方がいいだろうから」と、懐かしい家の近くに新しく家を貰って。
(…もしかして、そういう道だって、あった…?)
ぼくは間違えちゃったのかな、と思うけれども、今の自分が歩んでいる道は…。
(やっぱり機械が決めた道だし、技術者になるっていう道は…)
機械が「駄目だ」と判断したのに違いない。
けれども、機械が「選ぶ」基準は…。
(…あくまで子供の資質と、成績…)
ならばやっぱり、自分は「間違えてしまった」ろうか。
父の研究所に入れそうな道を、自分自身の手で「潰して」。
技術者に選ばれる可能性の芽を、知らずにプツリと摘んでしまって。
(そうだった…?)
「パパ、もしかして、そうだったの?」と尋ねたくても、父と繋がることは出来ない。
違う道へ来てしまったから。
此処から「繋がれる」外の世界は、メンバーズと軍人の世界だから…。
端末の向こうに・了
※学生のシロエが「セキ博士」に質問してもいい、技術者を育てる教育ステーション。
そういうのもあったかもしれません。原作キースは、学生でも地球の代理人になれたので…。
とりあえず、今の目標はそれ、とシロエは机をトンと叩いた。
Eー1077の講義の数はとても多くて、内容も高度で難解なものばかり。
日々の授業の復習は必須、予習の方も欠かせない。
(本日分のお仕事終了、っと…)
使っていた端末の画面を消して、椅子に腰掛けたままで伸びをする。
キーボードを叩き続けていたから、少々、身体が固くなっているのは否めない。
(後は寝る前に、軽くストレッチ…)
身体のメンテも大切だしね、と大きく頷き、寝るまでの時間に何をするかを考え始めた。
つい先日から作り始めた、新しいバイクの組み立てを少し進めてもいい。
同じく手をつけたばかりで得意分野の、新作の小型コンピューターも…。
(まだまだ先は長いしね…)
どっちの作業をやるべきだろうか、と時間配分をザッと頭の中で図にしてみた。
今日、寝るまでに出来そうな方はどちらなのか、と。
(うーん…)
どっちも出来そうではあるんだけれど、と顎に手を当て、暗くなった端末の画面を眺める。
この向こうには、明日の授業や、そのまた次の授業に繋がる世界があって…。
(…明日も明後日も、そのまた次も…)
機械に追われて仕事だよね、と溜息が零れそうになる。
講義をするのは人間だけれど、受講するべき科目を決めて来るのは機械。
成績をつけて評価するのも、人間の仕事に見えるけれども…。
(最終的には、マザー・イライザ…)
あのコンピューターが決めて来るんだ、と嫌というほど分かっている。
SD体制の世界においては、人間は全て、駒でしかない。
機械が何もかも決めて動かし、人生さえもが機械に左右されてゆく。
なんと言っても、生まれた時から…。
(機械が管理する、人工子宮の中で育って…)
外に出られるほど大きくなったら、機械が選んだ養父母の許へ送り出される。
子供の方にも、養父母の方にも、選択権などは全く無い。
全ては機械の意向のままで、機械にとって最良の場所を決定しているだけなのだから。
そういう世界で生きている以上、機械の支配からは逃れられない。
此処での受講科目にしたって、ヘマをしたなら、たちまち変更されておしまい。
(メンバーズ・エリートを目指す、精鋭のために設けられたコースは…)
ごく少数の優秀な者しか、最終的には受講出来なくなると聞く。
一度、コースを外れてしまえば、元のコースに戻りたくても、機会は殆ど無いのだ、とも。
(エリート用の授業を聴講させて貰って、試験を受けて…)
編入する以外に「戻る」方法は無くて、そのための試験は滅多に合格出来ないらしい。
死に物狂いで勉強したって、その間にも、エリートコースの授業は進んでゆくのだから。
(試験の時点で、彼らに負けない成績を叩き出せないと…)
編入試験には合格出来ずに、負け犬のままで終わってしまう。
それが嫌なら、どんなに機械を嫌っていようと、指示される通りに授業を受けて…。
(言われるままに予習復習、自主学習も怠りなく、ってね)
ああ、嫌だ、と口に出してみて、「嫌だ、嫌だ」と重ねてぼやく。
いつまでこういう日々を続けたら、ステーションから出てゆけるのか。
(全部で四年もあるんだものね…)
まだ候補生の制服も着られない自分は、卒業までの年数も長い。
制服を着られる年になっても、そこから二年は勉強しないと、卒業の時期は来てくれない。
(それまでの間、必死に勉強し続けて…)
機械に素直に従い続けて、「授業を受けさせて貰わなければ」、その先の道も開けない。
まずは「メンバーズ・エリート」に選ばれ、支配している機械の傘下に入らなければ。
(その先もずっと、機械の指示に従い続けて…)
相当な年数と経験を積まない限りは、最終の目標には辿り着けない。
「子供が子供でいられる世界」を、この手で取り戻すという「やらねばならない」大仕事。
多分、「シロエにしか出来ない」ことで、ピーターパンにも期待されていることだろう。
だから必ずメンバーズになって、国家主席の座に昇り詰めて…。
(機械に、「止まれ」と命令するんだ)
SD体制の世界を牛耳る、地球にある巨大コンピューターを停止させれば、それでいい。
グランド・マザーが「停止する」ことは、SD体制の終わりを意味する。
機械による「人間の統治」も終わって、何もかもが皆、「人間」の手に戻って来る。
成人検査で記憶を消されることもなくなり、人生を機械に決められることもなくなって。
(…頑張らないといけないってことは、分かるんだけど…)
本当に先が長すぎるよ、と愚痴を言っても、道を縮めることは出来ない。
どんなに優秀な者であろうと、教育ステーションでの期間中には…。
(飛び越して先に進むというのは、駄目らしいしね…)
それが出来るのは卒業した後、と授業で習った。
メンバーズに選ばれ、軍人としての道を歩み始めたら、成果を上げれば出世してゆける。
本来だったら「その年齢では無理」と言われる階級にだって、いくらでもなれる。
(二階級特進を繰り返していけば、アッと言う間に…)
大佐になれて、トントン拍子に国家騎士団元帥の座にも就けるだろう。
(そこまで行ったら、国家主席になれるように、と…)
未だ一人もいないと噂の、「軍人出身の元老」に選ばれるように努力する。
政治的手腕などを認められたら、道は必ず開けるから。
(頑張らないと…)
メンバーズになって、此処を卒業して…、と算段していて、ふと思い出した。
その「メンバーズ」が選ばれるのは卒業の前で、選ばれてからも暫くはステーションにいる。
Eー1077の生徒のままだけれども、選ばれた以上、その権限は…。
(教授たちを超えて、マザー・イライザじゃなくて、グランド・マザーの直轄で…)
生徒でありながら「メンバーズとして」、決定権などを持つらしい。
教授が「右だ」と指示していても、彼らが「左だ」と言ったら「左」。
全ての者がそれに従い、右ではなくて左へと動く。
(…そういう権限を持つわけだから…)
彼らは当然、ステーションに在籍していても…。
(地球を統治する機械に従う、外の世界のメンバーズたちと…)
連絡が取れて、直接、話も出来るのだという。
もちろん実際に会うのではなくて、通信画面を通しての会話になるけれど。
(とはいえ、いわゆるホットラインで…)
メンバーズの誰かを名指しで呼び出し、あれこれ相談出来たりもする。
今の局面をどうするべきか、自分の判断を話した上で、アドバイスを仰いだりもして。
(…つまりEー1077は、監獄みたいに孤立しているように見えても…)
外の世界と繋がっていて、条件が揃えば、生徒と外とを繋ぐ回路が開けるのだろう。
メンバーズに選出された者なら、外の世界で活躍しているメンバーズたちと話が出来る。
(ということは、メンバーズとして選び出される前だって…)
ある程度までの教育課程を終えたら、「外」と繋がれるのかもしれない。
メンバーズと連絡を取るのは無理でも、現役の軍人たちなどと。
(机の上の講義と、教授がついてくる実習だけでは…)
学べないものも多いことだろう。
そうした場合に、「外の世界」の者の知識や、体験談などは大いに役立つ。
彼らの話を聞ける機会が、まるで無いとは言い切れない。
(…多分、そういう人の話を聞くための…)
時間が何処かで設けられていて、必要とあらば、ホットラインが開設される可能性もある。
「相談するなら、この人に」と機械が決めて、割り振るのかもしれないけれど。
(それでも、外と繋がるのなら…)
外の知識を「仕入れる」ことが出来るのならば、此処がEー1077ではなくて…。
(技術者を育てるステーションだったら、もしかして、パパと…)
繋がる機会があったろうか、と消えたままの端末の暗い画面の向こうを見詰めた。
この端末は、Eー1077の中だけで「完結している」システムだけれど、機能は高い。
(ぼくがメンバーズに選ばれた時は、これを通して…)
外の世界にいるメンバーズと、「会話する」日も来るだろう。
選ばれる前にも、外の世界の軍人たちと連絡を取るなら、この端末を通すことになる。
(ぼくが技術者向けのステーションにいて、パパと同じ道に進んでいたら…)
教育課程を順調に進めて、外の世界の研究者の見解を聞きたくなることもあるかもしれない。
その研究の第一人者が「セキ博士」になるというのだったら、優秀な生徒だったなら…。
(セキ博士に質問したいんですが、って申告したら…)
ステーションを支配している機械は、許可するしかない。
「シロエが聞きたい質問の答え」を持っているのは、「セキ博士しかいない」から。
他の研究者では答えられなくて、「シロエの疑問」を解くことは出来ない。
それでは「シロエの研究」は先へ進まないから、「セキ博士」がシロエの何であろうと…。
(繋ぐしか道は無い、ってね…?)
そうなるよね、と気付いて愕然とした。
自分は「間違えた」のだろうか、と。
技術者の道を歩んでいたなら、父とも「繋がれた」だろうか。
メンバーズになっても、いつか出張などの機会があったら、会えそうだけれど…。
(技術者だったら、もっと早くにパパと繋がる道が開けて…)
面識があれば何かと便利だ、と機械は「父の記憶」を多めに残していたかもしれない。
「セキ博士」と繋がり、意見交換をする立場になったら、その方が話が円滑に運ぶ。
(はじめまして、じゃないんだし…)
父の記憶が消されていないのだったら、「久しぶりだな、シロエ」と笑んでくれるだろう。
そして「研究の方はどうだ?」と尋ねて、「パパの研究所に来るか?」と誘ってくれもして。
(機械の方でも、そのつもりで準備しているだろうし…)
セキ・レイ・シロエは研究者として、故郷に戻っていたろうか。
ステーションを卒業したなら、父の研究所に配属されて。
「住まいも近い方がいいだろうから」と、懐かしい家の近くに新しく家を貰って。
(…もしかして、そういう道だって、あった…?)
ぼくは間違えちゃったのかな、と思うけれども、今の自分が歩んでいる道は…。
(やっぱり機械が決めた道だし、技術者になるっていう道は…)
機械が「駄目だ」と判断したのに違いない。
けれども、機械が「選ぶ」基準は…。
(…あくまで子供の資質と、成績…)
ならばやっぱり、自分は「間違えてしまった」ろうか。
父の研究所に入れそうな道を、自分自身の手で「潰して」。
技術者に選ばれる可能性の芽を、知らずにプツリと摘んでしまって。
(そうだった…?)
「パパ、もしかして、そうだったの?」と尋ねたくても、父と繋がることは出来ない。
違う道へ来てしまったから。
此処から「繋がれる」外の世界は、メンバーズと軍人の世界だから…。
端末の向こうに・了
※学生のシロエが「セキ博士」に質問してもいい、技術者を育てる教育ステーション。
そういうのもあったかもしれません。原作キースは、学生でも地球の代理人になれたので…。
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