知りすぎた秘密
(…な…に…?)
これは何なんだ、とシロエは信じられない光景に目を見開いた。
フロア001、進入禁止セクション。
マザー・イライザの監視を潜り抜けた末に、ようやく此処へと辿り着いた。
厳重な警備が施された部屋、其処で見付ける筈だった「モノ」は何処にも無い。
(…精密機械がズラリと並んだ、研究室っていうヤツで…)
組み立てる途中の細かいパーツや、未完成の機械があると考えていた。
その「機械」とは、まさに「こういう形」をした「モノ」で…。
(…とても精巧に出来た、アンドロイドで…)
ヒトの形を模したロボット、ヒトのように思考までする機械仕掛けの人形たち。
それがあるとばかり思っていたのに、まるで違った「モノ」たちがあった。
(アンドロイドを作るなら…)
此処にあるような、胎児を作りはしないだろう。
成長過程の半ばの幼児や、小さな子供も作りはしない。
(…そんな効率の悪いこと…)
けして科学者は「やりはしない」し、作るのならば、完成体を目指す筈。
成人のアンドロイドを作りたいのなら、最初から、その年恰好で。
もう少し若い者がいいなら、その年齢に見える姿に。
(…キース・アニアンを作るんだったら…)
このEー1077にいても「おかしくない」ものを何体か揃えていると思った。
成人検査を終えたばかりの年頃のモノと、次の段階に入ったモノ。
(十四歳のキースと十五歳のキース、それに十六歳の分のキースは…)
もう用済みになったろうから、此処にあっても「おかしくはない」。
「今のキース」に電子頭脳を載せ替え、もう思考しなくなった「キースたち」。
此処で見るのは、そうした「モノ」だと思い込んでいた。
マザー・イライザの申し子のキース、彼が取り澄ました機械人形である証拠。
(…それを見付けて、キースに現実を叩き付けて…)
プライドも機械仕掛けの心も、壊してやろうと目論んで、此処へやって来た。
精密な機械であればあるほど、一度狂うと、暴走の果てに自滅するのを知っているから。
それなのに、そんな「モノ」など無かった。
代わりにズラリと並んでいるのは、何処から見ても「生き物」でしかない。
とうの昔に「死んでいる」から、生きてはいないモノだけれども、これは「生物」。
その生を終えた生き物たちの死骸で、いわゆる「標本」というモノだろう。
(…キースと、ぼくが知らない女と…)
どうして、こんな標本が…、とシロエの背筋が冷えてゆく。
機械だと信じて疑わなかった「キース・アニアン」は、「ヒト」だった。
それも胎児から成長した「ヒト」、改造されたモノでさえない。
(…改造された人間だったら…)
まだ想像も出来るけれど…、と「サイボーグ」という単語を思い出す。
今の時代には存在しないけれども、臓器などを精巧な機械に置き換えている人間のこと。
置き換えた機械の性能に応じて、並みの人間では有り得ない能力を持つという。
(キースが「ソレ」なら、まだ分かるのに…)
アンドロイドではなく、サイボーグだと言うのだったら、まだしも理解の範疇ではある。
マザー・イライザが「素質のある者」を選んで、改造したのが「キース・アニアン」。
そのためのパーツが此処にあっても、さほど驚きはしなかったろう。
「なんだ、機械と置き換えていただけだったのか」と、拍子抜けさえしたかもしれない。
人間そっくりの機械などより、サイボーグの方が「作りやすい」から。
成長過程を慎重に見極めながら改造を重ね、年を取らせるのも簡単だから。
(…いろんな年齢の「キース」を作って、電子頭脳を載せ替えるより…)
手掛ける者たちもよほど楽だし、ずば抜けた能力も持たせやすい。
特に「頭脳」は、補助の電子頭脳を載せてやったら、いくらでも「ヒト」を超えられる。
元が人間の脳味噌だけに、コンピューターよりも基本の性能は高い。
其処に機械仕掛けの精巧な頭脳が加わったならば、どれだけの思考が可能なことか。
(…アンドロイドを、一から作り出すよりも…)
サイボーグの方が遥かに容易に、「優秀なキース」を作れるだろう。
だから、それなら「まだ良かった」。
改造するためのパーツが並んだ研究室なら、今頃は高笑いしていたと思う。
「アンドロイドでさえもなかったなんて」と。
「ただの改造人間じゃないか」と、キースの正体を掴んで、嘲笑って。
けれども、「これ」は何だろう。
いったいどういうことなのだろうか、胎児の「キース」が「ある」なんて。
様々な成長過程の「キース」たちの標本、それが並んでいる部屋なんて。
(…まさか、キースは…)
この部屋で「作り出された」のだろうか。
SD体制の時代においては、子供は全て人工子宮から生まれて来る。
今までに「かけ合わせた」精子と卵子の組み合わせの中から、優秀だった者を選んで…。
(クローンを作れば、それと同じに優秀に…)
育つ可能性はゼロではない。
環境に左右される部分もあるだろうから、此処で実験していたろうか。
「キース」も、それに「知らない女」も、クローンを「此処で」育て上げて。
育英都市で育つのではなく、Eー1077で研究者に育てられたなら…。
(そりゃ、優秀にもなるだろうさ)
生まれも違えば、育ちも全く違うんだから、と標本たちを眺め回した。
「そういうことか」と、納得して。
あの憎らしい「キース」に、成人検査の前の記憶が全く無いのも、頷ける。
「Eー1077で育った」事実を、他の人間に悟られないよう、機械が消去したのだろう。
都合の悪いことは消すのが、憎い機械の「やり方」だから。
(…なるほどね…)
まあ、これはこれで「いい収穫」だった、と唇に薄い笑みを浮かべる。
予想外の結果だったけれども、これで「キース」に打撃を与える切っ掛けが出来た。
(機械じゃないから、暴走させるのは無理だけど…)
その代わり、「心」があるわけだから、上手くゆけば「狂ってくれる」かもしれない。
狂うところまではいかないにしても、病ませることは可能だろう。
「自分の生まれ」を突き付けられて、その衝撃に打ちのめされることは有り得る。
(ぼくは普通じゃなかったんだ、と悩んで、夜も眠れなくなって…)
精神を病んでゆくというなら、これほど愉快なことはない。
電子頭脳の暴走よりも、ある意味、似合いかもしれない。
「機械の申し子」と言われた「キース」が、心を病んで「壊れる」のは。
誰よりも冷静沈着だった、マザー・イライザの「お気に入り」が自滅するというのは。
(…それじゃ、早速…)
仕上げに入ると致しますか、とシロエは持って来ていた自作の機械を接続することにした。
この標本たちを管理しているらしい、コントロールパネルのある装置に。
其処に繋いでハッキングすれば、情報は全て手に入る。
(それをキースに…)
見せてやるんだ、と使い慣れたキーを叩いてゆく。
パスワードを幾つか打ち込んでやれば、もう情報が流れ込んで来て…。
(ふふふ…)
キースもこれで終わりだよね、と薄く笑った。
自分はクローンなのだと知ったら、キースはどんな顔をするのだろうか。
真っ青になって震え始めるか、あるいは顔色一つ変えずに…。
(その場は静かに去って行くけど、自分の個室に戻ってから…)
絶叫しながら机を叩いて、マザー・イライザを呼び出し、喚き散らすのかもしれない。
「キース」を「作った」機械に呪いの言葉をぶつけて、ただ、当たり散らす。
他の者とは違った生まれの「自分」を、「何のために」わざわざ作ったのか、と。
「普通の人間でありたかった」と、「その方が遥かに良かったのに」と。
(…人間だったら、そう思うよね?)
たとえクローンで、研究者が育てたんだとしても…、と手に入れた情報をチェックする。
「キース」の生まれを詳しく知ろうと、どの情報を突き付けてやろうか、と。
(えーっと…?)
これが「キース」の遺伝子データで…、と辿っていた指が、其処で止まった。
指が先から氷のように冷たくなってゆく。
(……嘘だ……)
そんな馬鹿な、と頭を振ってから読み直してみても、見ているデータは変わらなかった。
瞳に映し出された真実、それは「キース」の生まれで、「正体」。
(…クローンではなくて、全部、一から…)
DNAから作られた「モノ」だったのか、と愕然とする。
「キース・アニアン」も「知らない女」も、どちらも無から生まれた「モノ」。
「ヒト」の中からは、優秀な者が生まれないから。
どれほど組み合わせを変えてみようと、「ヒト」には限界があるようだから、と。
そうやって機械が「作った」目的。
「キース」が作り出された本当の理由、それもデータの形で表示されていた。
(……導く者……)
人類を、SD体制の世界を導くための理想の指導者、それこそが「キース」なのだという。
長い年月、実験を重ね、ようやく生まれた「選ばれた者」。
いずれ「キース」は指導者となって、人類を導いてゆくことになる。
そのための資質を充分に備え、そのために「生きてゆく」ことこそが、「キース」の使命。
(……知りすぎた……)
なんてことだ、と目の前が暗くなってゆくよう。
これは最高の機密事項で、それこそ「誰も知らない」こと。
「キース」を作った研究者たちも、恐らく「消されてしまった」だろう。
つまりは、「これ」を知ってしまった「セキ・レイ・シロエ」も、きっと…。
(…パパ、ママ…!)
ぼくは帰れないかも、と故郷を、両親を思うけれども、もう遅い。
欺いたつもりの監視カメラも、警備システムも、役目を忠実に果たしている筈。
フロア001に入った者は誰かを、今も追い続けて、機密を「知られた」ことまでも…。
(…とっくの昔に感知していて、マザー・イライザに…)
もう報告が届いてるんだ、と足がガクガクと震え出す。
このステーションから、生きて出ることは出来ないだろう。
「知りすぎたシロエ」は機械に消されて、故郷に戻ることも出来ずに死んでゆく。
そうなるんだ、と奈落の底に落ちそうだけれど、同じ落ちるなら…。
(キース、お前も…!)
道連れにしてやるんだから、と拳を握って、倒れることは踏み止まった。
こうなった以上、「キース」をのうのうと生かしておきなどはしない。
同じ奈落に引き摺り落として、死なないまでも、狂わせてやろう。
(ぼくに出来るのは、もう、それだけしか…)
無いんだから、と無理やり笑みを作って、勝ち誇った顔で映像を撮り始める。
「見てますか? キース・アニアン」と。
「此処が何処だか分かります?」と、「フロア001、あなたのゆりかごですよ」と…。
知りすぎた秘密・了
※フロア001に入ったシロエですけど、それが自分の死を招くと知っていたのかな、と。
最初からヤケだったのならともかく、そうでないなら…、と考えた所から出来たお話です。
これは何なんだ、とシロエは信じられない光景に目を見開いた。
フロア001、進入禁止セクション。
マザー・イライザの監視を潜り抜けた末に、ようやく此処へと辿り着いた。
厳重な警備が施された部屋、其処で見付ける筈だった「モノ」は何処にも無い。
(…精密機械がズラリと並んだ、研究室っていうヤツで…)
組み立てる途中の細かいパーツや、未完成の機械があると考えていた。
その「機械」とは、まさに「こういう形」をした「モノ」で…。
(…とても精巧に出来た、アンドロイドで…)
ヒトの形を模したロボット、ヒトのように思考までする機械仕掛けの人形たち。
それがあるとばかり思っていたのに、まるで違った「モノ」たちがあった。
(アンドロイドを作るなら…)
此処にあるような、胎児を作りはしないだろう。
成長過程の半ばの幼児や、小さな子供も作りはしない。
(…そんな効率の悪いこと…)
けして科学者は「やりはしない」し、作るのならば、完成体を目指す筈。
成人のアンドロイドを作りたいのなら、最初から、その年恰好で。
もう少し若い者がいいなら、その年齢に見える姿に。
(…キース・アニアンを作るんだったら…)
このEー1077にいても「おかしくない」ものを何体か揃えていると思った。
成人検査を終えたばかりの年頃のモノと、次の段階に入ったモノ。
(十四歳のキースと十五歳のキース、それに十六歳の分のキースは…)
もう用済みになったろうから、此処にあっても「おかしくはない」。
「今のキース」に電子頭脳を載せ替え、もう思考しなくなった「キースたち」。
此処で見るのは、そうした「モノ」だと思い込んでいた。
マザー・イライザの申し子のキース、彼が取り澄ました機械人形である証拠。
(…それを見付けて、キースに現実を叩き付けて…)
プライドも機械仕掛けの心も、壊してやろうと目論んで、此処へやって来た。
精密な機械であればあるほど、一度狂うと、暴走の果てに自滅するのを知っているから。
それなのに、そんな「モノ」など無かった。
代わりにズラリと並んでいるのは、何処から見ても「生き物」でしかない。
とうの昔に「死んでいる」から、生きてはいないモノだけれども、これは「生物」。
その生を終えた生き物たちの死骸で、いわゆる「標本」というモノだろう。
(…キースと、ぼくが知らない女と…)
どうして、こんな標本が…、とシロエの背筋が冷えてゆく。
機械だと信じて疑わなかった「キース・アニアン」は、「ヒト」だった。
それも胎児から成長した「ヒト」、改造されたモノでさえない。
(…改造された人間だったら…)
まだ想像も出来るけれど…、と「サイボーグ」という単語を思い出す。
今の時代には存在しないけれども、臓器などを精巧な機械に置き換えている人間のこと。
置き換えた機械の性能に応じて、並みの人間では有り得ない能力を持つという。
(キースが「ソレ」なら、まだ分かるのに…)
アンドロイドではなく、サイボーグだと言うのだったら、まだしも理解の範疇ではある。
マザー・イライザが「素質のある者」を選んで、改造したのが「キース・アニアン」。
そのためのパーツが此処にあっても、さほど驚きはしなかったろう。
「なんだ、機械と置き換えていただけだったのか」と、拍子抜けさえしたかもしれない。
人間そっくりの機械などより、サイボーグの方が「作りやすい」から。
成長過程を慎重に見極めながら改造を重ね、年を取らせるのも簡単だから。
(…いろんな年齢の「キース」を作って、電子頭脳を載せ替えるより…)
手掛ける者たちもよほど楽だし、ずば抜けた能力も持たせやすい。
特に「頭脳」は、補助の電子頭脳を載せてやったら、いくらでも「ヒト」を超えられる。
元が人間の脳味噌だけに、コンピューターよりも基本の性能は高い。
其処に機械仕掛けの精巧な頭脳が加わったならば、どれだけの思考が可能なことか。
(…アンドロイドを、一から作り出すよりも…)
サイボーグの方が遥かに容易に、「優秀なキース」を作れるだろう。
だから、それなら「まだ良かった」。
改造するためのパーツが並んだ研究室なら、今頃は高笑いしていたと思う。
「アンドロイドでさえもなかったなんて」と。
「ただの改造人間じゃないか」と、キースの正体を掴んで、嘲笑って。
けれども、「これ」は何だろう。
いったいどういうことなのだろうか、胎児の「キース」が「ある」なんて。
様々な成長過程の「キース」たちの標本、それが並んでいる部屋なんて。
(…まさか、キースは…)
この部屋で「作り出された」のだろうか。
SD体制の時代においては、子供は全て人工子宮から生まれて来る。
今までに「かけ合わせた」精子と卵子の組み合わせの中から、優秀だった者を選んで…。
(クローンを作れば、それと同じに優秀に…)
育つ可能性はゼロではない。
環境に左右される部分もあるだろうから、此処で実験していたろうか。
「キース」も、それに「知らない女」も、クローンを「此処で」育て上げて。
育英都市で育つのではなく、Eー1077で研究者に育てられたなら…。
(そりゃ、優秀にもなるだろうさ)
生まれも違えば、育ちも全く違うんだから、と標本たちを眺め回した。
「そういうことか」と、納得して。
あの憎らしい「キース」に、成人検査の前の記憶が全く無いのも、頷ける。
「Eー1077で育った」事実を、他の人間に悟られないよう、機械が消去したのだろう。
都合の悪いことは消すのが、憎い機械の「やり方」だから。
(…なるほどね…)
まあ、これはこれで「いい収穫」だった、と唇に薄い笑みを浮かべる。
予想外の結果だったけれども、これで「キース」に打撃を与える切っ掛けが出来た。
(機械じゃないから、暴走させるのは無理だけど…)
その代わり、「心」があるわけだから、上手くゆけば「狂ってくれる」かもしれない。
狂うところまではいかないにしても、病ませることは可能だろう。
「自分の生まれ」を突き付けられて、その衝撃に打ちのめされることは有り得る。
(ぼくは普通じゃなかったんだ、と悩んで、夜も眠れなくなって…)
精神を病んでゆくというなら、これほど愉快なことはない。
電子頭脳の暴走よりも、ある意味、似合いかもしれない。
「機械の申し子」と言われた「キース」が、心を病んで「壊れる」のは。
誰よりも冷静沈着だった、マザー・イライザの「お気に入り」が自滅するというのは。
(…それじゃ、早速…)
仕上げに入ると致しますか、とシロエは持って来ていた自作の機械を接続することにした。
この標本たちを管理しているらしい、コントロールパネルのある装置に。
其処に繋いでハッキングすれば、情報は全て手に入る。
(それをキースに…)
見せてやるんだ、と使い慣れたキーを叩いてゆく。
パスワードを幾つか打ち込んでやれば、もう情報が流れ込んで来て…。
(ふふふ…)
キースもこれで終わりだよね、と薄く笑った。
自分はクローンなのだと知ったら、キースはどんな顔をするのだろうか。
真っ青になって震え始めるか、あるいは顔色一つ変えずに…。
(その場は静かに去って行くけど、自分の個室に戻ってから…)
絶叫しながら机を叩いて、マザー・イライザを呼び出し、喚き散らすのかもしれない。
「キース」を「作った」機械に呪いの言葉をぶつけて、ただ、当たり散らす。
他の者とは違った生まれの「自分」を、「何のために」わざわざ作ったのか、と。
「普通の人間でありたかった」と、「その方が遥かに良かったのに」と。
(…人間だったら、そう思うよね?)
たとえクローンで、研究者が育てたんだとしても…、と手に入れた情報をチェックする。
「キース」の生まれを詳しく知ろうと、どの情報を突き付けてやろうか、と。
(えーっと…?)
これが「キース」の遺伝子データで…、と辿っていた指が、其処で止まった。
指が先から氷のように冷たくなってゆく。
(……嘘だ……)
そんな馬鹿な、と頭を振ってから読み直してみても、見ているデータは変わらなかった。
瞳に映し出された真実、それは「キース」の生まれで、「正体」。
(…クローンではなくて、全部、一から…)
DNAから作られた「モノ」だったのか、と愕然とする。
「キース・アニアン」も「知らない女」も、どちらも無から生まれた「モノ」。
「ヒト」の中からは、優秀な者が生まれないから。
どれほど組み合わせを変えてみようと、「ヒト」には限界があるようだから、と。
そうやって機械が「作った」目的。
「キース」が作り出された本当の理由、それもデータの形で表示されていた。
(……導く者……)
人類を、SD体制の世界を導くための理想の指導者、それこそが「キース」なのだという。
長い年月、実験を重ね、ようやく生まれた「選ばれた者」。
いずれ「キース」は指導者となって、人類を導いてゆくことになる。
そのための資質を充分に備え、そのために「生きてゆく」ことこそが、「キース」の使命。
(……知りすぎた……)
なんてことだ、と目の前が暗くなってゆくよう。
これは最高の機密事項で、それこそ「誰も知らない」こと。
「キース」を作った研究者たちも、恐らく「消されてしまった」だろう。
つまりは、「これ」を知ってしまった「セキ・レイ・シロエ」も、きっと…。
(…パパ、ママ…!)
ぼくは帰れないかも、と故郷を、両親を思うけれども、もう遅い。
欺いたつもりの監視カメラも、警備システムも、役目を忠実に果たしている筈。
フロア001に入った者は誰かを、今も追い続けて、機密を「知られた」ことまでも…。
(…とっくの昔に感知していて、マザー・イライザに…)
もう報告が届いてるんだ、と足がガクガクと震え出す。
このステーションから、生きて出ることは出来ないだろう。
「知りすぎたシロエ」は機械に消されて、故郷に戻ることも出来ずに死んでゆく。
そうなるんだ、と奈落の底に落ちそうだけれど、同じ落ちるなら…。
(キース、お前も…!)
道連れにしてやるんだから、と拳を握って、倒れることは踏み止まった。
こうなった以上、「キース」をのうのうと生かしておきなどはしない。
同じ奈落に引き摺り落として、死なないまでも、狂わせてやろう。
(ぼくに出来るのは、もう、それだけしか…)
無いんだから、と無理やり笑みを作って、勝ち誇った顔で映像を撮り始める。
「見てますか? キース・アニアン」と。
「此処が何処だか分かります?」と、「フロア001、あなたのゆりかごですよ」と…。
知りすぎた秘密・了
※フロア001に入ったシロエですけど、それが自分の死を招くと知っていたのかな、と。
最初からヤケだったのならともかく、そうでないなら…、と考えた所から出来たお話です。
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